GALAXIES BEAST〜陽出ズル國の巫女〜 作:SimonRIO
その晩、神社の一室に呼びつけたイイジマをもてなす体としながらも、俺を通して計画に関わる全ての事情を打ち明けた。
イイジマの容貌はニット帽に古臭いジャケットで少し肉付きのある身体ではあったものの、それでも分かる者には一目で歴戦の猛者だと感じられるオーラみたいなものがあった。
「なるほど……道理で姫巫女様の機体が、俺の機体に勝てた訳か。いやまぁ、それ以上に驚いたのは……」
「やっぱり、失望しましたか?私が、ロマノフ社とアルツェイト国に神輿として担がれている事実に」
「そうだな。こんなに綺麗な幼い娘を信仰対象にするやり方は気に食わんが、あの連中が組んだのなら合点も納得もいく話だ」
そう言いながらグイと神社名物の地酒を飲み干すイイジマの様子は、明らかに人間としてはマトモな感性のそれだ。
こうなったら、仕方ない……。
「えっと、そこに関わる話なのですが……実は、ゴホン。性別や見た目こそ変わってしまいましたが……これでも実は、「俺」は元アルツェイトの斥候兵なのです。」
「何!?じゃあ、アングラーがアルツェイトに奇襲したという噂話は――」
「ええ、本当の出来事です。そこで撃墜されて死んだかと思えば、いつの間にか今の立場をやらされる羽目になったのが私です」
俺は思いっきり愚痴を吐き出すように言いつつ、同じく地酒の入った小さな杯をグイとあおった。
「こりゃあ、ヒノモト国民が知ったら大変だな……ぶふっ」
「何笑ってんですか。全く……とにかく貴方は今後、ロマノフ社の極秘開発プロジェクト「カムイの儀式」の試験部隊の一員として、私と行動を共にしてもらいます。一応言っておきますが、これは本社の決定ですので、私に貴方をどうこうする権限はありません」
「要は、次世代機をもってしてヒノモト全土の掌握、果てにはシンティア皇国との戦いも見据えた計画という訳だろう?」
「ええ、正式に量産されるまで表向きは私の神社における神輿としての扱いにはなると思いますが……それでも、あの正義を謳う輩は貴方も嫌いでしょう?」
そう俺が同意を求めるようにイイジマへ問いかけると、彼は深く頷きながらも逆にこっちの表情を伺うように覗き込んでくる。
「ああ、確かにな。だが、一応は聞いておきたい。姫巫女様、お前はアルツェイトの兵としてそれを望むのか?きっと、この計画で生まれた物は奴らもこぞって使いたがるだろう?その時、お前は「境界となる一線」をどう決めるつもりだ?」
――確かに、彼の言いたい事はご最もだ。
だが、俺はこうなった時点で既に自分の答えを心の中で決めてあった。
「恐らく、そうなるでしょうね……ですが、もう私はヒノモトの一神社の巫女となった身。たとえ計画がどうなったとしても、今更この姿で祖国に帰ろうとは思っていません。アルツェイトが敵に回るなら、私は民を護る為に全てを尽くすつもりです」
「なるほど、それが姫巫女様の答えか……よし、良いだろう。お前にそこまでの強い覚悟があるなら、俺も喜んで協力させてもらうとしよう」
「ありがとうございます、イイジマさん。これからは共によろしくお願いしますね」
そう言って、俺は彼とヒノモトから見える月に向かって乾杯した。
◇◇◇
「――でさ、そこでレイラ隊長に何て言われたと思う?「尻尾でも振れるようになってから出直してこい」ってさ!いくら模擬戦とはいえ、普通ケモナー相手に人間の操縦で中々勝てないってのにさ!!」
「ハハハハ!そりゃ最高だ!けど、今じゃ姫巫女様も立派なケモナーだろ!こんなモフモフで立派な尻尾、他じゃ滅多に見ないぞ!」
「ちょっ……敏感なんだから触らないでくださいって〜!イイジマさんのエ・ッ・チ☆」
「おぅ……すまん、中身が野郎だと思うと一瞬で萎えた。いや、完全に女として見ているつもりはないんだがな?」
――それから数時間後。
中々寝床に戻らないアキを心配して様子を見に来たモルドスキー医学員の前には、それはもう酷く酔っ払った2人の姿があった。
特にアキの方は酷く、着ている巫女服は乱れたようにはだけて、もはや胸を隠しているのはサラシ1枚だけという有様だ。
「何ですか、こりゃあ……お二人とも、呑むと人が変わるタイプなんですかねぇ?」
そう呟いているうちにアキは仰向けになり、そのままスヤスヤと眠ってしまった。
そんな彼女を見たイイジマは彼女の巫女服を着付け直し、千鳥足になりつつ場を後にしようと立ち上がる。
「さて、俺は帰るが……モルドスキー、後は任せても良いな?」
「イイジマ大尉、この度は我々の計画に協力頂けて、本当にありがとうございます。同時に再び貴方を巻き込んでしまった事を、酷く申し訳ないとも感じております」
「それはお互い様だろう。お前も、かつてミルディアから亡命してきた身だ。だがロマノフ社の連中とは、獅子身中の虫になる気でいるつもりか?」
「それは、分かりませんねぇ……いざとなったら、戦争を止める為に命はかける気ではありますけれども」
「戦火は世界中で拡大する一方……全く、嫌な時代になったものだ」
そう言葉を交わした2人の間には、企業と傭兵という立場はあれど確かな友情のようなものがあった。