GALAXIES BEAST〜陽出ズル國の巫女〜 作:SimonRIO
――ここ最近、ニュースで見るのはPNDが何処ともしれぬ国の軍事行動を視察しただの、果てには危険因子として処理しただのというプロパガンダ的なものばかりだ。
かくいうヒノモトもPNDの監視対象とはなっているものの、イイジマ曰く花鏡社とロマノフ社が国土内で権力争いをしている程度なのと、そもそもヒノモト国民のそれぞれが安易にビースト・ユニットを手に入れられる状況の為、半ば手が付けられないからだろうとの事だった。
しかし、あの建国記念祭での1件は流石に目に余ったらしく、ロマノフ社に少し監査の手が入ったとモルドスキー医学員から愚痴を聞かされたのを思い出す。
だが、それ以上に今は厄介なのが――なんとアングラーの部隊が、ヒノモト首都に向けて数度の侵攻を開始したのだ。
「見つけた!逃がしません!」
『ぐぁぁぁ!アングラーの未来に、栄光あれぇ!!』
お陰で現在、俺達は戦えるヒノモト国民や駆け付けたPNDの部隊と共同で防衛戦をしている真っ最中だ。
こっちもシールドブースターやヤコビという高機動装備を着けてはいるものの、やはり空中での動きはスピルナー対策で空戦に理解があるPNDの機体の方が良い動きだ。
『こちらイイジマ!西側の連中は殆ど片付けた!姫巫女様、そっちは大丈夫か!?』
「PNDの人達も手伝ってくれてるから、東方面も割りと大した事はありません!それにしても、まさか建国記念祭でアングラーの勢力が攻撃と勘違いして襲撃してくるなんて!」
『それもこれも、そちらが所有しているビースト・ユニットの装備がもたらした結果でしょう?全く、これだから俗世に塗れたヒノモトの者は……』
「『それは本気で申し訳ありません』」
やはり、あのイヅナの大型ビーム砲は国内で試験するには危険過ぎる代物だったかな……。
でもアングラーの声明には「砲弾をこちらに向けて撃ち込んできた」ともあるし、花火の玉を誤認した可能性もワンチャンありそうだ。
何にせよ、ここまで撃ち落とし花火が大きな騒ぎを引き起こすのは予想外過ぎた。
アングラーの連中も、こんなにも海に対する縄張り意識が強くなっている事を知っていれば、あんな空中サーカスなんて馬鹿な真似しなくても済んだのに!
『……敵機の反応なし。どうやら、アングラーの部隊は撤退したようですね。ヒノモトの皆さん、そして噂の姫巫女様もご協力ありがとうございました。ここまで徹底的に叩けば、しばらくは向こうも侵攻する意思が薄くなる事でしょう』
「こちらこそ、わざわざ遠方から出張って頂き本当に感謝しています」
『しかし、以前よりマシになったとはいえヒノモト国民の血の気の多さは問題です。貴方がたも、今後はより注意を払って頂きたいものです』
「はい……善処します」
結果として、またPNDの隊長からいらない説教をもらう羽目になってしまった。
本当、自分達が正義だと本気で思い込んでいる実力者を相手に、ヒノモトの巫女として話すのは酷く疲れるな。
◇◇◇
しかし、そんなギスギスした世の中でもロマノフ社は変わらず、神社の地下スペースに次なる試作機を俺が知らぬ間に運び込んでいた。
「それにしても、これまた変わった見た目のビースト・ユニットですね。こんな太っちょな姿……狐というよりコレ、狸なんじゃありませんか?」
「あくまでもケモナー以外でも扱えるナイト・ユニットのテスト機……らしいが、ここまで外見が異様なものは久しぶりだな」
何せ、その見た目は俺が良く知るナイト・ユニットの甲冑らしい造形ではなく、狐型ビースト・ユニットの体型に幅広の鎧を無理やり合わせたかのような……まるで、ケモナーよりも獣因子を強めた獣人のビーストマンに鎧を着せた感じだ。
正直、コレを初見でナイト・ユニットと見抜ける方が難しいチグハグな姿をしている。
「あ、ご覧になられました?コレがアルツェイト国がギア・シリーズのフレームの基本構造を参考にビースト・ユニット同様の変形を可能にした新型フレーム「エヴォルブ・フレーム」を採用したテスト機の改修モデル、「カナヤコ YH-3 タタラ」です!」
「つまり、アルツェイトはギア・シリーズのフレームをビースト・ユニットに組み込んだという訳ですか!?」
「ええ!これにより、ロマノフ社は長らく多くの機体を改修・追加装備を開発してきたノウハウの蓄積により、いよいよ「カムイの儀式」の第3段階をも迎える事が出来ました!」
すると、あまりの技術に驚く俺や饒舌に語りまくるモルドスキー医学員とは対照的に、イイジマは何処か不審そうに機体を眺めていた。
「モルドスキー、そんな大仰な代物……ロマノフ社は一体どうやって入手した?」
「えぇと、それは……」
「何か後ろめたい事情があるんだな?」
「実は、この機体……可変機構のテスト用に建造したものを、ロマノフ社の上層部がアルツェイト国に圧力をかけて半ば強引に徴用した代物なんです。幸い、向こうは既に開発も完了して軍部への採用も決まって量産体制にあった為、あまり大事にはなりませんでしたが……流石の私も、今回ばかりはヒヤヒヤしましたよ」
これには、俺もイイジマもドン引きして言葉が出なくなってしまった。
なるほど、ロマノフ社がアルツェイト国に目を付けた理由がコレか……きっと、ロマノフ社はここから独自に開発を進めた上で、そこから得られた新技術をアチコチに売り込むつもりかもしれない。
じゃあ、俺が今まで巫女としてヒノモトの為に頑張ってきたのは一体……そう悪い方へ考えそうになる頭を振って、俺はモルドスキー医学員に機体の説明を求める。
「それはさておき、このタタラの特徴はどうなっていますか?」
「簡潔に言えば、新型ビースト・ユニットというよりは、軍用機に変形可能になったナイト・ユニットと言ったイメージですねぇ。なので、人機形態と航行形態では操縦のクセが大きく変わるかと。それにヤオキツネ等にあった換装用のハードポイントもありませんが……姫巫女様、いけそうです?」
「軍用機なら多少は操縦経験があるから、とりあえずは大丈夫でしょうかね。問題は武装の方なんですが、このデータを見る限りだと試作のレーザー・ランスを兼ねた大型レーザーライフルだけしか確認出来ないのが気になりますね」
「そこについては空力特性や航続距離、積載能力を考慮したが故の苦渋の選択でした。ですが、まだ胸部スペースには僅かながら余裕があるので、後ほど内蔵型の小型スプレッドキャノンを増設致します。焼け石に水ではありますが……」
「いえ、そこまでして頂きありがとうございます。モルドスキー医学員は良く頑張ってくれていますよ」
そんな気休め程度の俺の言葉に、モルドスキー医学員は「そうですか」と少し落ち込んだ様子で地下スペースを去っていった。
彼にも彼なりの仕事に対するプライドはあるだろうに、それを踏みにじるような真似をしたロマノフ社は「カムイの儀式」計画を何に利用しようとしているのだろう?