一九九五年度『闇の魔術に対する防衛術』教授、ペルセオン・セイア(旧姓リドル) 作:T・M・レボリューション・リドル
クリスマス休暇である。
ホグワーツ魔法魔術学校の生徒たちにとって、冬休みとは一年の中でも特に待ち遠しい時間だった。山のような宿題さえなければ、なお素晴らしい。雪の積もった校庭、暖かな談話室、クリスマスのご馳走。それらを惜しみながらも、生徒たちはそれぞれの帰省先へと向かっていく。
ハリー・ポッターもまたその一人だった。もっとも、彼の帰省先はダーズリー家ではない。
グリモールド・プレイス十二番地。ブラック家の本邸にして、不死鳥の騎士団の本部。そして、今や彼らにとっては立派な避難所でもある場所だった。
「……ああ、やっと着いた!」
ロンが玄関へ足を踏み入れるなり大きく伸びをした。
「まったく、ホグワーツの外に出るだけでこんなに気が楽になるなんてな」
「アンブリッジがいないだけでも天国よ」
ハーマイオニーが心底うんざりしたように答えた。
「おやおや、ハーマイオニー」「随分と物騒なことを言うじゃないか」
フレッドとジョージが、左右から顔を覗き込む。
「俺たちとしては大賛成だけどね」「何なら、あのピンク色のヒキガエルを永久にホグワーツから追い出す方法を──」
「フレッド!」
奥からモリー・ウィーズリーの声が飛んできた。
「まだ何もしてないよママ!」「そうだ、まだ!」
「『まだ』ってどういうことなの!」
いつも通りの騒がしさだった。ハリーは思わず笑った。この家は陰気だ。古い壁紙は剥がれ、廊下には不気味な装飾品が並び、時折ヴァルブルガ・ブラックの肖像画が金切り声を上げる。
だが、それでも。ここには、帰ってきたと思える温かさがあった。
「おかえりなさい、ハリー!」
ジニーが隣から微笑んだ。
「……うん」
ハリーも笑い返す。
そして、一行は居間へ向かった。扉を開ける。暖炉には火が灯り、部屋には紅茶の香りが漂っていた。
シリウス・ブラックがソファに座り、新聞を広げている。その向かいでは、リーマス・ルーピンが本を読んでいた。
そしてもう一人。黒い三つ揃えに白いシャツ。上着は脱いで椅子の背に掛けられ、深紅の瞳をした黒髪の青年が、実にくつろいだ様子で紅茶を飲んでいた。
「ん?」
青年が顔を上げた。そして静かに微笑む。
「やあ皆、お帰り」
「「「先生!?」」」
ハリー、ロン、ハーマイオニーの声が見事に重なった。ペルセオンはきょとんと瞬きをした。
「……そんなに驚くことか?」
「驚きますよ!」
ハリーが叫んだ。
「何で先生がここにいるんですか!?」
「何でって……俺の親戚の家だから?」
沈黙。ややあってロンが口を開いた。
「…………は?」
ハーマイオニーが瞬きをした。
「……親戚?」
「そう」
ペルセオンは、何でもないことのように頷いた。
「シリウス。俺の叔父さんなんだよね」
今度こそ、完全な沈黙が訪れた。暖炉の薪が、小さく爆ぜる。シリウスは新聞を下ろした。そして、にやりと笑った。
「そういうことだ」
「……ちょっと待って」
ロンが額を押さえた。
「……先生が、シリウスの甥?」
「そう」
「……シリウスが、先生の叔父?」
「そうなる」
「……つまり、先生もブラック家の人間?」
「母方はな」
ペルセオンは紅茶を一口飲んだ。
「……まあ、俺はセイア姓だけど」
ハーマイオニーは、ゆっくりとシリウスを見た。
「……シリウス」
「何だ?」
「……あなた、お姉さんがいたの?」
「ああ」
シリウスは頷いた。
「十歳上の姉貴がな」
「……初耳なんだけど!」
ロンが叫んだ。
「俺だって、甥がいると知ったのは最近だ!」
シリウスも叫び返した。その言葉にフレッドとジョージの目が、同時に輝いた。
「……おや」「……おやおや」
二人は顔を見合わせた。
「これは面白いことを聞いたな、ジョージ?」「実に興味深いぜ、フレッド」
ペルセオンは嫌な予感を覚えた。
「……お前たち、変なこと考えてないだろうな?」
「いやいや」「何も?」
二人は、実に爽やかな笑顔を浮かべた。
「ただ、先生が僕らの親戚筋に当たる可能性があると思ってね」「ブラック家とウィーズリー家って、遠縁だろ?」
ロンがはっと顔を上げた。
「あ……そういえば」
シリウスがいよいよ腹を抱えて笑い始めた。
「はははは! そうだな! 確かにそうだ!」
「……ちょっと待って」
ハーマイオニーは額を押さえた。
「……ブラック家とウィーズリー家って親戚なの?」
「アーサーの母親がブラック家の人だよ」
リーマスが穏やかに答えた。
「純血の家系は、辿っていけば大抵どこかで繋がっているものだから」
ペルセオンは天井を仰いだ。
「……北米とはえらい違いだな?」
「今更だろ」
しばらくして。
生徒たちは荷物を置き、居間へ戻ってきた。モリーが用意した紅茶と焼き菓子が並べられ、部屋はすっかり賑やかになっていた。
ペルセオンはソファの端に腰掛けている。その隣にはビル。向かいにはハリーたち。そして、シリウスは相変わらず楽しそうだった。
「……それで」
意を決して、と言わんばかりにハリーが尋ねた。
「先生、いつからここに?」
「昨日の夜から」
「……昨日?」
「おう」
ペルセオンは頷いた。
「ホグワーツでの仕事が一段落したからな。クリスマス休暇くらい、のんびりしようと思って」
「……アメリカには帰らないんですか?」
ハーマイオニーが尋ねた。
「帰る予定だったんだけど……」
ペルセオンは、少しだけ苦笑した。
「アルキオーネが忙しいらしくて」
「……アルキオーネ?」
ジニーが首を傾げた。
「俺の妻」
ペルセオンは、左手の指輪を軽く持ち上げた。その瞬間──
「「「奥さん!?」」」
再び声が重なった。ペルセオンは目を瞬かせた。
ロンが、信じられないものを見るような顔をした。
「……先生、結婚してるんですか!?」
「してるよ」
「……いつ!?」
「五年前」
「……五年前!?」
ハーマイオニーが、思わず口を挟んだ。
「……先生、まだ二十五歳ですよね?」
「そうだぞ。若いんだぞ」
「……二十歳で結婚したんですか?」
「そうなる」
ペルセオンは、何でもないことのように頷いた。ジニーの目が輝いた。
「……どんな人なんですか?」
「綺麗な人だよ。世界一」
ビルが吹き出した。
「……君、本当にそれしか言わないね」
「事実だからな。結婚は良いぞビル」
「はいはい」
フレッドが身を乗り出した。
「先生」
「何かな?」
「……奥さんとは、どっちから告白したんだ?」
ペルセオンは少し考えた。
「……アルキオーネだな」
「おお!」
ジョージが笑った。
「先生は捕まった側なのか!」
「まあ、そうなる。蛇はしつこいらしくてな」
ペルセオンは苦笑した。
「気づいたら逃げ道がなくなってた」
シリウスはクスクスと愉快げに笑った。
「……ところで」
ハリーがふと思い出したように尋ねた。
「……他の騎士団の人たちは?」
「今マッドアイとキングズリー、それからトンクスは出払ってるから、今家にいるのはシリウス、リーマス、モリーおばさま、ビルと俺くらいかな? あと、クリーチャーもそうか」
「クリーチャーだって?」
ロンが顔を顰めた。
「……あいつ、まだいるのか?」
「いるよ。さっきも廊下で会った」
「……何か言われませんでした?」
ハリーが尋ねる。
「言われたよ」
「……何て?」
ペルセオンは、少しだけ考えた。
「……『血筋だけは申し分ないが、どこの馬の骨とも知れぬ魔女と結婚した不届き者』だったかな」
「ぶっ!」
ロンが驚愕のあまり紅茶を吹き出しかけた。フレッドとジョージも顔を顰める。
「クリーチャー!!!」
シリウスが怒鳴った。
「エリスの子だぞ!!」
「まあまあ」
ペルセオンは笑った。
「別に気にしてないよ」
「俺が気にする!」
「それにアルキオーネに直接言ったら、たぶんクリーチャーの方が大変なことになるし」
ビルが、ゆっくりと顔を上げた。
「……君の奥さん、そんなに怖いのかい?」
「怖くないさ」
ペルセオンは即答した。
「優しい人だよ……ただ、怒らせると凄いだけで」
シリウスは、笑いを堪えるように口元を押さえた。
「……お前、本当に尻に敷かれてるな」
「叔父上」
「やめろ!」
夕方。居間の暖炉には、ますます大きな火が灯されていた。モリーが台所で夕食の準備を始め、フレッドとジョージは何やら怪しげな相談をしている。ロンとジニーはチェス盤を取り出し、ハーマイオニーは本を開いた。ハリーは、ソファの端でペルセオンと並んで座っていた。
「……先生」
「ん?」
「……あの」
ハリーは少しだけ言い淀んだ。
「……本当に、ここにいていいんですか?」
ペルセオンは瞬きをした。
「……何で? もしかして迷惑だったか?」
「あ、いやそういうわけじゃ……だって、先生はホグワーツの教師だし」
「うん」
「……ここ、不死鳥の騎士団の本部だし」
「そうだな」
「……その」
ハリーは、少しだけ声を落とした。
「……危なくないですか?」
ペルセオンはしばらくハリーを見つめた。そして。
「……ハリー」
「はい」
「俺、現役の闇祓いなんだけど」
ハリーは瞬きをした。
「……あ」
「忘れてたな?」
「……ちょっと」
「ひどいなあ」
そして、少しだけ真剣な顔になった。
「……ここには、守りたい人たちがいるんだ」
ハリーはペルセオンを見た。深紅の瞳が、柔らかく細められている。
「……シリウスも、リーマスも、ビルも……君たちも」
ハリーは、息を呑んだ。ペルセオンは微笑んだ。
「……だから、ここにいるんだよ。俺は」
しばらく沈黙が続いた。
暖炉の薪が小さく爆ぜる。やがて。
「……ありがとうございます」
ハリーは小さく呟いた。ペルセオンはハリーの軽く肩を叩いた。
「どういたしまして……さて」
ペルセオンが立ち上がり、キッチンへ向かう。
「そろそろ、モリーおばさまを手伝ってこようかな」
「……先生、料理できるんですか?」
ハリーが尋ねる。ペルセオンはにっこり笑った。
「そこそこね」
その言葉に、台所からモリーの声が飛んできた。
「ペルセオン! 野菜を切ってくれるかしら!」
「はーい!」
ペルセオンは実に素直に返事をした。そして、台所へ向かった。ハリーはその背中を見送る。
何だか不思議な気分だった。
ホグワーツでは頼れる防衛術の教師。闇祓いとして、誰よりも強い魔法使い。それなのに──ここではシリウスの甥で。ビルの親友で。モリーに野菜を切るよう頼まれる、ただの青年だった。ハリーは思わず笑った。
──先生にも、こういう場所があるんだ。
そう思うと、何故だか少し嬉しかった。
そうしてグリモールド・プレイス十二番地のクリスマス休暇は、いつになく賑やかに始まったのだった。
□
ロンドン郊外。ハリーたちがアーサー・ウィーズリーの見舞いのため、聖マンゴ魔法疾患傷害病院へ向かっていた頃。
ペルセオンはシリウスを伴って、とある古い邸宅の前に立っていた。
ロンドンの喧騒から離れた閑静な住宅地。その外れに広がる林の奥、マグルの目には何も映らない一角に、古い石造りの邸宅がひっそりと佇んでいる。
屋根には薄く雪が積もり、冬枯れの蔦が外壁を這っていた。庭園はすっかり荒れ果て、かつて噴水だったらしい石造りの水盤には、枯葉と雪が溜まっている。だが、邸宅そのものは不思議なほど傷んでいなかった。魔法によって守られているのだ。
「……ここがお前たちが暮らしてたところか」
シリウスは、古びた鉄門を見上げながら呟いた。
「ブラック家の別邸か」
「まあな。正確には、母が祖父から譲られた邸だよ。俺が生まれる少し前から、ここで暮らしてたらしい」
「……らしい?」
「俺が物心つく前のことだからな。母から聞いた話だ」
ペルセオンは杖を取り出した。門柱に刻まれた古い紋章へ杖先を向け、低く呪文を唱える。すると、雪に埋もれていた紋章が淡い銀色に輝いた。
三つの星。その周囲を囲む蔦を模した装飾。ブラック家の本家紋章とは異なる、エリス個人の所有を示す印だった。
「あの人の魔法署名が残ってるのか」
ペルセオンは、少しだけ目を細めた。
「俺の魔力に反応してるらしいな」
次の瞬間、鉄門が音もなく開いた。シリウスはしばらくその光景を見つめていた。
「……エリスらしいな」
「何が?」
「自分の家にまで、面倒な仕掛けを残してるところが」
「あの人、慎重だったからなぁ」
「慎重?」
シリウスは鼻で笑った。
「俺が知ってるアイツは、慎重なくせに一度決めたら絶対に引かない女だったぞ」
「……それも、よく知ってる」
二人は顔を見合わせた。そして、小さく笑った。
玄関の扉を開けると、冷たい空気が流れ出てきた。長い間、人の出入りがなかったのだろう。室内には薄く埃が積もり、家具には白い布が掛けられている。大理石の床はくすみ、壁に並ぶ燭台もすっかり火を失っていた。
それでも荒らされた形跡はなかった。むしろ、誰かが帰ってくる日を待っているかのように、すべてが整然と残されていた。
「……随分と綺麗だな」
「保存の魔法が掛かってるんだろうさ」
ペルセオンはイチイにセストラルの尾の毛の杖を振った。
「まあ、そろそろ手入れは必要だな。放置してきた弊害かね」
杖先から柔らかな光が広がった。床に積もった埃が渦を巻き、窓の隙間から外へ流れ出ていく。家具を覆っていた布が一斉に持ち上がり、丁寧に畳まれて部屋の隅へ積み重なった。
シリウスも杖を振る。燭台に火が灯り、暖炉の中に薪が現れた。ぱちり、と音がして炎が燃え上がる。冷え切っていた広間に、少しずつ温もりが戻ってきた。
「お前、こういうの慣れているのか?」
「家事魔法のことか?」
「ああ」
「まあ、アメリカで一人暮らししてた時期もあったから」
「エリスは?」
シリウスが何気なく尋ねた。ペルセオンの杖が僅かに止まった。
「あの人は、家事魔法が得意だったよ」
そう答えた声は存外に穏やかだった。
「俺が子供の頃はよく一緒に掃除をしてた。魔法で全部片づけられるのに、わざわざ手で磨かせるんだ。まったく魔女の本分を忘れたのかって言いたいくらいだ」
シリウスは小さく笑った。
「エリスらしい」
「『魔法が使えなくても、自分の身の回りくらい整えられなきゃ駄目』って」
「言いかねないな」
シリウスは、懐かしそうに目を細めた。
「俺も昔、よく叱られたよ。靴を脱ぎ散らかすな、服を床に放るな、食器を片づけろって」
だが、シリウスはしばらく笑った後、ふと黙り込んだ。広間を見渡す。そこには、自分の知らない姉の暮らしがあった。エリスが選んだ家具。エリスが飾った花瓶。エリスが歩いた廊下。そして。エリスが育てた子供。
「……本当に」
シリウスは、小さく呟いた。
「……ここで暮らしてたんだな、エリス」
ペルセオンは、何も言わなかった。
しばらくして二人は一階の居間へ入った。大きな窓から冬の陽光が差し込み、壁には風景画が並んでいる。
深緑色のソファと、磨かれた木製のテーブル。暖炉の上には、小さな置時計が置かれていた。
「……あ」
シリウスが足を止めた。
暖炉の上。置時計の隣に、一枚の写真が飾られていた。若い魔女が椅子に腰掛けている。艶やかな黒髪。柔らかな微笑み。そしてその腕には、小さな赤ん坊が抱かれていた。
赤ん坊は母親の髪を掴もうとして手を伸ばしている。魔女は困ったように笑い、その小さな手を優しく握り返した。
「……姉貴」
シリウスはゆっくりと写真へ近づいた。指先が、額縁に触れる。写真の中のエリスは、何度も赤ん坊の頬へ口づけていた。
「昔の二人か?」
「ああ。生後半年くらいか」
「随分と小さいな」
「赤ん坊だからね」
「それもそうだ」
シリウスは苦笑した。そして、写真を見つめた。エリスが笑っている。あんなに幸せそうに。
「──俺が最後にエリスに会った時は」
シリウスが、ぽつりと口を開いた。
「もう、随分と険しい顔をしてた」
ペルセオンは杖を振る手を止め、静かに聞いていた。
「家を出る少し前だったか。エリスは何かをずっと考え込んでた。俺が話しかけても、上の空でな」
「……そうか」
「でも俺がグリフィンドールに入った時は、喜んでくれたんだ。母は卒倒しかけていたが。エリスは『シリウスが自分で選んだのなら、それでいいでしょう』って」
「……うん」
「……あの時、姉貴がいなかったら……もっと早く、あの家を飛び出してたかもしれないな」
ペルセオンは、ゆっくりと頷いた。
「母さんはアンタのことをよく話してたよ」
シリウスが顔を上げた。
「俺のことを?」
「ああ。『手のかかる弟がいるの』って」
「……おい」
「『でも、とても優しい子なのよ』とも言ってた」
シリウスは何も言えなくなった。ペルセオンが言葉を続ける。
「『あの子は、きっと自分の道を見つけるわ』って」
沈黙が場を支配した。暖炉の炎が小さく揺れ、シリウスはゆっくりと顔を伏せた。
「……そうか」
それだけだったが、その声は少しだけ掠れていた。
二階へ上がると長い廊下が続いていた。左右には幾つもの扉が並び、壁には小さな絵画や装飾品が飾られている。二人は廊下の奥へ向かった。
「ここに何かあるのか?」
「母さんの部屋だ」
「……エリスの?」
ペルセオンは振り返った。
「せっかくだ。見ていってくれ」
「ああ」
シリウスはゆっくりと頷いた。ペルセオンか扉に手を掛ける。
鍵は掛かっていなかった。静かに扉が開く。
そこには、広々とした寝室があった。淡い青色の壁紙に大きな天蓋付きの寝台。窓辺には、白いカーテンが掛けられている。部屋の奥には書斎机と本棚が並んでいた。
不思議なほど整った部屋だった。まるで、昨日まで誰かが暮らしていたかのように。
「エリスらしいな……昔から、部屋だけは綺麗にしてた」「そうなのか?」
「ああ。俺とは大違いだ。レギュラスの奴も几帳面だったが」
シリウスの足が書斎机へ向く。机の上には、幾つかの書類と、一冊の黒い革張りの本が置かれていた。
表紙には金字の古代語で『憐れな魂は、いつか祓われん』と書かれている。
パラパラと捲って軽く目を通したペルセオンはくるりとシリウスに振り返った。
「ダンブルドアに会ってくる」
「急だな」
「筆記からして母さんのものだ。恐らくあれを殺すのに役立つかもしれない」
その言葉にシリウスは目を細め、ややあって頷いた。
「よし、なら守護霊を飛ばして連絡を──」
シリウスが杖を振ろうとした瞬間、二人の前に銀色の光が飛び込んできた。やがてそれは一匹の魔法生物──不死鳥を形作る。ダンブルドアの有体守護霊だ。
「ダンブルドア?」
「タイミングが良いな」
ペルセオンが苦笑し、不死鳥の守護霊に触れる。守護霊の姿が解け、部屋にダンブルドアの声が満ちた。
『シリウス、ペルセオン。すまないが至急グリモールド・プレイスに戻ってきてほしい。招かれざる客──いや、ある意味で必要になる客が来たのでの……』
なんだかダンブルドアの声が疲れてるぞ、と二人が顔を見合わせる中、守護霊の伝達が終わり、光が溶けて消えた。
「……とりあえず使えそうなものは回収してから行くか」
「そうしよう」
二人は本を仕舞い、邸から必要なものや使えそうなもの──ハリーたちの学術補助や騎士団の活動の益になりそうなもの──を粗方拡張呪文を掛けたバッグに放り込み、姿くらましで邸宅から立ち去った。