一九九五年度『闇の魔術に対する防衛術』教授、ペルセオン・セイア(旧姓リドル) 作:T・M・レボリューション・リドル
「久しぶりじゃの、ペルセオン」
「お久しぶりです、ダンブルドア」
重厚な樫の扉を潜ったペルセオン・セイアは、十年ぶりに対面した老魔法使いへ、にこやかに挨拶した。
アルバス・ダンブルドア。ホグワーツ校長にして、二十世紀で最も偉大な魔法使いと評される賢人。数々の称号と名誉を持ちながら、生徒を教え導く教職の座にある人。かつて、ゲラート・グリンデルバルドを打ち倒した英雄。
銀色の長い髪と髭。半月型の眼鏡の奥には、年齢を感じさせない鮮やかな青い瞳が輝いている。星と月の模様が刺繍された紫色のローブを纏い、いかにも好々爺といった風情で微笑んでいた。
「いやはや、立派になったものじゃ。最後に会ったときは君はまだ十五歳の若い子どもじゃった」
「十年経てば人は変わりますよ……あと、俺はまだ若いです」
「分かっておるよ」
ペルセオンの訂正に、ダンブルドアはゆるりと微笑む。ペルセオンの眼は、もう隠す理由もないと元の深紅に戻っていた。
「お掛け。長旅で疲れたじゃろう」
「では遠慮なく」
勧められたソファに座り、ペルセオンは深く息を吐き出した。飛行機での旅は悪くなかったが、ファッジとアンブリッジのせいで精神を削がれた気分だ。
校長室は、昔とほとんど変わっていなかった。
壁一面に飾られた歴代校長たちの肖像画。奇妙な銀色の器具が並ぶ棚。天井近くまで積み上げられた書物。そして、部屋の奥に置かれた金色の止まり木。そこには一羽の美しい深紅の鳥が留まっていた。
「……フォークスも元気そうですね」
ペルセオンがそう言うと、不死鳥は『お帰りなさい』と言うように小さく鳴いた。澄んだ声が校長室に響く。
「覚えておるようじゃな」
「なんだかんだ仲は良かったですからね」
ペルセオンが微笑む。と、翼を軽く広げたフォークスが止まり木を飛び立ち、そのまま当然のようにペルセオンの肩に舞い降りる。
「っと……人懐っこいですね。不死鳥だって自覚あるんですかこの子」
「君のことを気に入っておるのだろう。君がホグワーツを去った後、哀しそうに鳴いておったよ」
「……それはまた何とも」
嬉しいやらこそばゆいやら。ペルセオンが頰を掻き、フォークスの首元を優しく撫でれば、不死鳥は心地よさそうにその目を細めた。
その光景を、ダンブルドアは嬉しそうに眺めていた。
不死鳥は気高い生き物だ。それゆえに善悪の区別もつき、善き者に懐き、悪しき者から遠ざかる。己が善き者だと思えないダンブルドアは、この子がこうして自分の側にいるのはダンブルドア家の伝承が故だろうと思っていた。
けれどペルセオンに関しては、彼が真っ当だから傍にいると信じていた。父親と違い、その力を善きことのために振るっている。彼は父親のようにはならないと、ダンブルドアは知っている。
あまりに惨い。
呪いのように産み落とされて、父親からは愛されず、磔の呪文を喰らいながら育つような幼少期だったと昔々に聞かされた。あまりに痛々しく、諦めたように笑っていたから、ダンブルドアは言って聞かせた。
『決して君のせいではない。産まれが全てではない』と。
「さて、ダンブルドア」
「何かね」
「俺をホグワーツに呼んだ理由が、まさか教師として赴任させるためってだけではないのでしょう?」
ペルセオンの深紅の瞳が、鋭くダンブルドアを射る。
「防衛術の教師が足りないのは本当じゃよ」
「そこは疑ってませんよ。一年おきに教師が変わる呪われた職……実に物騒だ。で、貴方はそんな役職にわざわざMACUSAの闇祓いをお就けになった。裏を疑えと言っているようなものでしょうよ」
「………あれは戻った」
低い声で呟かれたその言葉が何を意味するのか、ペルセオンはよく理解していた。ソファに身を沈ませ、脚を組む。
「父の骨、下僕の肉、敵の血……それらを使って、奴は舞い戻った」
「古来から伝わる肉体を取り戻す儀式の要素ですね。あれはそれを実践してやってのけた、と」
鼻を鳴らす。何とも立派ではないか?わざわざそんな大がかりなことをしてまで己の肉体を取り戻したと言うのに、未だ暗がりに身を潜めているだけなのだから。
「加えて、その場にハリー・ポッターと共にいたセドリック・ディゴリーは殺されたと。『余計なもの』として」
「優秀じゃった……すこぶる優秀じゃった。来年には首席に任命するつもりでおった……」
ダンブルドアは呻くように言葉を吐き出す。
セドリック・ディゴリーという魔法使いのことを、ペルセオンはよく知らない。
だが、ダンブルドアの反応からして、善良で、優秀だったのだろうと予測はできた。きっと、このまま輝かしい未来を手に出来るはずだった若者は、無残にも命の火を消してしまった。
他ならぬ、ペルセオンの父の策略で。
「俺は何をすればよろしいですか、ダンブルドア」
「………生徒たちを教え導いてほしい。奴が戻ってきたならば、また闇の時代が訪れよう。戦争に、なるじゃろう……子供たちに身を守るための術を教えてやってはくれんか」
それは懇願だった。アルバス・ダンブルドアという、最も偉大な魔法使いであっても、ヴォルデモートから全てを守り切ることなど出来はしない。
「特にハリーを……ハリー・ポッターを気にかけてあげてほしい。君は教師になる、特別扱いは出来ないじゃろう。だがそれでも……あの子の進む道は、あまりに険しい」
懺悔するように、ダンブルドアのライトブルーの瞳から雫が一滴、髭に流れた。
その姿を見て、ペルセオンは腹を括った。覚悟は元より出来ていた……何故なら自分は闇祓い。闇を祓う者。弱き者のために杖を取り、立ち上がることを善しとした者なのだから。
「必ずご期待にお応えします」
「………ありがとう」
それから、他愛もない話をして、与えられた部屋に案内される。そうして扉を閉めようとしたとき──
「ペルセオン」
穏やかな声がペルセオンの動きを止めた。顔を上げ、恩師の顔を見つめる。
「………君が戻ってきてくれて、嬉しく思う」
そう語るダンブルドアの目があまりに嬉しそうで。しかし、ほんの刹那の間だけここではない遠くを見つめたのを、ペルセオンは見た。
──きっと、その言葉は
闇の魔術に傾倒せず、真に偉大になった一応の父にこそ、掛けてあげたかった言葉ではないのか。
確証はない。それでもペルセオンは確信していた。なぜなら、かつてのトム・リドルにホグワーツの入学許可証を持っていったのは、目の前の魔法使いに他ならないのだから。
ダンブルドアは心の何処かで期待しているのかもしれない。恐れられ、忌避される闇の帝王が、かつての無関心を装いながらも魔法に目を輝かせていたトム・リドルに戻ってくれることを。
優しい人だと、ペルセオンは思った。本人がどう思っていようとも、目の前のアルバス・ダンブルドアという魔法使いは善き人であるのだ。
だって、ペルセオンはヴォルデモートのことをそこまで憐れめない。生まれ落ちた経緯が不幸であれ、その後の道を進んだのは当のトム・リドル本人だ。真っ当に偉大になる道がありながら、自らそれに背を向けて悪しきことを為した。
そうして、
「俺も、久しぶりに帰ってこれて良かったですよ」
「君は散々嫌がっていたとエドワード・グレイブス長官から聞いたが」
「あの人を殺してきます」
真顔になったペルセオンを見て、ダンブルドアは愉快そうにクスクスと笑った。
□
九月一日。ホグワーツ魔法魔術学校、大広間。
無事に新入生の組み分けも終わった大広間は、いつも通りの騒がしさに包まれていた。四つの寮の長卓には豪勢な料理が所狭しと並び、生徒たちは夏休みの思い出や新学期への期待を口々に語り合っている。
魔法の蝋燭が宙に浮かび、天井にはスコットランドの夜空が映し出されていた。
もっとも、今年の新学期は例年と少々事情が異なる。何しろ、昨年度の三大魔法学校対抗試合で起きた事件が、未だ尾を引いているのだから。
ヴォルデモートの復活。セドリック・ディゴリーの死。そして、ハリー・ポッターへの執拗な中傷記事。
大広間のあちこちで、眼鏡を掛けた黒髪の少年へ向けられる視線には、好奇心だけでなく、疑念や敵意さえ混じっていた。
「……いやぁ、懐かしいなぁ」
教職員席の端で、ペルセオン・セイアは呑気にローストビーフを切り分けていた。
サラリとした黒髪に、血を凝縮した宝石のような深紅の瞳。端正な顔立ちをした青年は、黒の三つ揃えのスーツの上に、ゴルディアスの結び目の金のブローチで留められた深い紺色のローブを羽織っている。胸元にはMACUSAの闇祓いを示す銀の紋章が輝いていた。
十年ぶりのホグワーツ。しかも今度は生徒ではなく教師として。なかなか感慨深いものがある。
「……それにしても、相変わらず料理の量が多いですね」
「成長期の生徒たちには必要なことですから」
隣から、厳格な声が返ってきた。ミネルバ・マクゴナガル。ホグワーツ副校長にして、グリフィンドール寮の寮監である。
ペルセオンは彼女へ顔を向け、にっこりと微笑んだ。
「お久しぶりです、マクゴナガル先生」
「ええ。本当に久しぶりですね、セイア先生」
「……先生、かぁ」
ペルセオンは少しだけ可笑しそうに笑った。
「何だか妙な気分ですね。昔は俺が叱られる側だったのに」
「今でも叱る必要があるなら叱りますよ」
「おや、怖い」
「あなたの場合、特に必要でしょうから」
「……そんなに問題児でしたっけ、俺」
マクゴナガルは眼鏡の奥からじろりと睨んだ。
「三年生の時、廊下を水浸しにしたことをお忘れですか?」
「そんなこともありましたね」
「四年生の時には、天文塔から箒で飛び降りましたね」
「飛び降りたんじゃなくて飛行実験です」
「五年生の時には、図書館の禁書区域へ無断で入りました」
「……それは、その」
「まだ続けましょうか?」
「勘弁してください」
ペルセオンは両手を上げた。マクゴナガルは深々とため息をつく。
「まったく。あの頃からあなたは、成績だけは申し分なかったというのに」
「褒められてます?」
「褒めていません」
「ですよねぇ」
ペルセオンは楽しそうに笑った。
その様子を、少し離れた席から一人の魔法使いが眺めていた。セブルス・スネイプ。黒い髪と黒い瞳、蝋のように青白い肌を持つ魔法薬学教授である。彼はペルセオンを一瞥すると、露骨に眉を顰めた。
「……随分と騒がしいことだ」
「おや、スネイプ先生」
ペルセオンはスネイプへと顔を向けた。
「お久しぶりです」
「……ああ」
スネイプは不機嫌そうに答えた。
「まさか、貴様が教師として戻ってくるとはな」
「俺も思ってませんでしたよ」
「……ホグワーツも人材不足が深刻なようだ」
「ひどいなぁ。これでもMACUSAでは優秀な闇祓いとして通ってるんですけど」
「それはアメリカの人材水準が疑われるな」
「相変わらず口が悪いですねぇ」
「貴様ほどではない」
ペルセオンはくつくつと笑った。学生時代から、スネイプとはあまり相性が良くなかった。もっとも、嫌っているわけではない。
むしろ、彼の魔法薬学に関する知識と技術は高く評価していた。
ただし、性格については別問題である。
「……ところで、スネイプ先生」
「何だ」
「今年も防衛術の教授職、取れなかったんです?」
スネイプの眉間に深い皺が刻まれた。
「……あ、すみません。聞いちゃいけない話題でした?」
「黙れ、セイア」
「はいはい」
ペルセオンは笑いながらローストビーフを口へ運び、マクゴナガルは呆れたように首を振った。
一方、グリフィンドールの長卓では。
「……あの人、誰だろう?」
ロン・ウィーズリーが、教職員席を見ながら呟いた。その視線の先には、黒髪の青年がいる。見慣れない教師だった。しかも随分と若い。
「新しい先生じゃない?」
ハーマイオニー・グレンジャーが答えた。
「今年は闇の魔術に対する防衛術の先生が二人いるって噂よ」
「二人?」
ハリー・ポッターが顔を上げた。
「どうして?」
「さあ。でも、あの人はアメリカから来たらしいわ」
「アメリカ?」
ロンが目を丸くした。
「何でわざわざアメリカから?」
「国際交流とか、そういう理由じゃないかしら」
ハーマイオニーが肩を竦めたその時。
「あれ?」
ロンが首を傾げた。
「……あの人、どっかで見たことある気がする」
「知り合いなの?」
「いや……」
ロンは眉を寄せた。そして、しばらく考え込む。
「……あ!」
「どうしたのロン」
「思い出した!」
ロンは教職員席を指差した。
「あの人、ビルの友達だ!」
「……え? ビルの?」
「そう!」
ハリーが目を瞬かせ、ロンは興奮したように頷いた。
「昔、うちに何度か来たことがあるんだよ! 僕がまだ小さい頃だけど!」
「……へえ」
ハリーは改めて青年を見つめた。黒髪。深紅の瞳。どこか人を食ったような笑み。確かに、ビルと友人だと言われれば、何となく納得できる雰囲気があった。
しかしそれ以上に、ハリーにとって無視できない既視感があった。似ているのだ……二年生の時に目にした、トム・リドルに。
「……名前は?」
ハーマイオニーが尋ねる。
「ええと……」
ロンは必死に記憶を辿った。
「……ペル、何とか」
「ペル?」
「ペルセ……ペルセオン?」
その瞬間、教職員席の青年が、ふとこちらを向いた。
深紅の瞳が、グリフィンドールの長卓を捉える。そして。にっこりと笑った。
「……うわ」
ロンが小さく声を漏らした。
「……何?」
「いや……あの人、昔からあんな感じだったなって」
「どういう意味?」
「……ビルと一緒にいる時、いつも何かやらかしてた」
ハーマイオニーは眉を寄せた。
「……それ、大丈夫なの?」
「さあ……」
ロンは肩を竦めた。
「でも、ビルとはすっごく仲良かったよ」
その言葉に、ハリーはもう一度青年を見つめた。ペルセオン。不思議な名前だと思った。
そして何故だろう。あの深紅の瞳が、妙に気になった。
やがて食事が終わり、皿の上から料理が消えた。大広間のざわめきが少しずつ収まっていく。ダンブルドアが立ち上がったからだ。
「さて、皆。新学期を迎えるにあたり、幾つかお知らせがある」
生徒たちが教職員席へ視線を向ける。
「まず、新しい先生方を紹介しよう。今年度、闇の魔術に対する防衛術を担当してくださる、ドローレス・アンブリッジ先生じゃ」
教職員席の一角で、ピンク色の服を纏った小柄な魔女が立ち上がった。ぱちぱち、と控えめな拍手が起こる。
アンブリッジは満足そうに微笑み、軽く頭を下げた。おめでたい奴め、とペルセオンはせせら笑った。
「そして、もう一人」
ダンブルドアは視線を移した。
「遠くアメリカから来てくださった、ペルセオン・セイア先生じゃ」
ペルセオンは立ち上がった。紺のローブがさらりと揺れる。彼は穏やかに微笑み、生徒たちへ一礼した。
「初めまして。ペルセオン・セイアです。MACUSA、アメリカ合衆国魔法議会の魔法保安局に所属する闇祓いです」
その瞬間、大広間がざわめいた。
「闇祓い!?」
「本物の!?」
「アメリカの!?」
生徒たちの声が飛び交う。ペルセオンは楽しそうに笑った。
「今年は皆さんの実技を中心に担当します。どうぞよろしく」
そう言って、再び一礼する。拍手が起こった。今度は先ほどよりも大きい。特に、上級生たちの反応は顕著だった。
現役の闇祓いから直接指導を受けられる。それは、将来闇祓いを目指す生徒たちにとって、非常に魅力的な話だった。
「……エヘン、エヘン」
小さな咳払いが響く。アンブリッジだった。
彼女は立ち上がり、にっこりと微笑む。蝦蟇の笑みである。
近くにいたフレッドとジョージの双子が吐く真似をしてハーマイオニーに咎められているのを、ハリーは視界の端に見た。
「少し、よろしいかしら?」
「もちろんじゃとも、アンブリッジ先生」
「ありがとうございます、校長先生」
アンブリッジは甘ったるい声で答えた。そして生徒たちへ向き直る。
「皆さん。まずは、新しい学年度を迎えられたことを心からお祝い申し上げます」
ペルセオンは椅子へ腰を下ろした。そして、隣のマクゴナガルへ小声で尋ねる。
「……長くなりそうです?」
「おそらく」
「……うわぁ」
ペルセオンは小さくため息をついた。アンブリッジの演説は続く。
教育の改革。伝統の尊重。魔法省と学校の協調。そして、過度な実践教育の危険性。
ペルセオンは最初こそ真面目に聞いていた。しかし、五分も経つ頃には完全に飽きていた。
「……マクゴナガル先生」
「静かになさい」
「まだ何も言ってませんよ」
「顔に書いてあります」
「……そんなに?」
「ええ」
ペルセオンは苦笑した。そして、アンブリッジへ視線を向ける。彼女は相変わらず、甘ったるい声で演説を続けていた。
『生徒たちの安全を第一に考え、無用な危険を避ける教育を』。その言葉にペルセオンの眉が僅かに動いた。無用な危険。確かにそれは避けるべきだ。
だが危険を避けることと、危険に対処する術を学ばないことは、まったく別の話である。ペルセオンは小さく息を吐いた。
「……やっぱり、揉めそうだなぁ」
ぽつりと呟く。その声を聞いたマクゴナガルは、深々とため息をついた。
「……セイア」
「はい?」
「くれぐれも、問題を起こさないように」
「……善処します」
「善処ではなく、約束してください」
「……努力します」
「ペルセオン」
「……はいはい」
ペルセオンは肩を竦めた。そして、にっこりと笑う。
「俺から喧嘩を売ることはしませんよ」
マクゴナガルは、その言葉を聞いて頭痛を覚えた。何しろその言い方では、向こうから喧嘩を売られた場合について、何一つ保証していないのだから。
やがて、長い演説が終わった。生徒たちは疲れたように息を吐き、教職員席でも何人かの教師が安堵した様子を見せていた。
それらをしばらく待って、ダンブルドアが再び立ち上がる。
「さて、それでは皆、寮へ戻ってゆっくり休むように!」
大広間にざわめきが戻った。生徒たちが次々と立ち上がり、寮ごとに列を作っていく。
「……さて」
ペルセオンも椅子から立ち上がった。ローブの裾を整え、軽く伸びをする。
「久しぶりのホグワーツ初日、無事終了っと」
「まだ始まったばかりですよ」
マクゴナガルが呆れたように言った。
「分かってますよ。明日から授業ですしね」
そして、ふと視線を大広間のグリフィンドールの長卓へ向ける。そこには黒髪に丸眼鏡の少年がいた。
ハリー・ポッター、ヴォルデモートの復活を目撃したとされる少年。周囲の生徒たちから向けられる視線を、どこか居心地悪そうに受け止めている。ペルセオンは静かに目を細めた。
十五歳。
自分が英国を離れた年齢と同じだ。あの頃の自分は、何を考えていただろう。何を恐れ、何を望んでいただろう。そして目の前の少年は、今、何を抱えているのだろう。
「……セイア?」
マクゴナガルの声に、ペルセオンは我に返った。
「……ああ、すみません」
「どうかしましたか?」
「いえ。少し、昔を思い出しただけです」
マクゴナガルは何も言わなかった。ただ、僅かに表情を和らげる。
「……そうですか」
「ええ……今年は、退屈しなさそうですね」
その言葉に、マクゴナガルは再び深いため息をついた。
どうやら今年のホグワーツは、例年以上に騒がしくなりそうだった……いや、ここ最近は毎年騒がしいのだけれど。