最高のヒーローになる幼馴染と戦場に響く歌声   作:適合者

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唐突に降って湧いたネタ。先人の作品とは差別化していくつもり


はじまりの物語

「ねえ出久……ヒーローって何だと思う?」

 

「え……そりゃあオールマイトみたいに市民を守って敵(ヴィラン)を倒して皆を安心させる存在……じゃないの?」

 

「うん……模範解答だね。私もこの質問をされたらそう返す事が自然だと思う」  

 

「自然って……姫香ちゃんは違うの?」

 

「私が答える事は正解じゃないと思うけどそれでも聞きたい?」

 

「そりゃあ聞きたいよ。どう答えるの?」

 

「前へ踏み出せる人かな。誰かが前を歩けば後ろの人はその人を目印に出来る。人の歴史はそうやって作られたと思ってるから私にとってのヒーローは誰よりも前へ踏み出せる人。この世の中だとオールマイトが最たる象徴だから特定の個人を聞かれたら私はそう答えるよ。でも……なんでだろうね? 私……ううん。何でもない」

 

「姫香ちゃんはきっと強い人何だろうね」

 

「強いって……何だろうね?」

 

 私の名前は【歌川 姫香】……この個性社会で生まれた転生者だ。私には前世の記憶がある。ここが僕のヒーローアカデミア(ヒロアカ)の世界だと気付いたのはいつだっただろう……? だけど私には前世の記憶はあれどこの世界の知識は教養の範囲でしか持ち得ない。何せ私は前世でこの作品(ヒロアカ)をほぼ読んでいない。だから大雑把な概要とかは知ってもその細部は分からない。つまりはほぼ無知だということ。そして……

 

「ハッ! 歌って踊る程度しかできねぇ雑魚個性とクソナードがまたつるんでらぁ!」

 

「爆豪……喧嘩なら買うよ? 表へ出る?」

 

「俺に勝てる気でいるのか? めでてぇなぁオィ!」

 

「喧(・)嘩(・)な(・)ら(・)コ(・)レ(・)で(・)充(・)分(・)」

 

 私も爆豪の殺気に対して全力の戦意を出して対抗する。だけどこうなれば必ず……

 

「駄目だよかっちゃん! 姫香ちゃん! 喧嘩に個性を使ったら駄目なんだよ!」

 

「っるせぇぞ! テメェからブチのめすぞデク!」

 

「ハンデが欲しいならあげるよ爆豪……出久に免じて素手で相手してあげる」

 

「上等だ! ヒメ如き素手で充分何だよ!」

 

 コレが私と出久……そして爆豪の日常だ。そして……

 

「女だろうが容赦しねぇぞヒメぇ!」

 

 私と爆豪は馴染みの河川敷で対峙する。私と爆豪は殴り合ってきた。それこそ4歳の頃から殴り合っている。出久程じゃなくても爆豪の腕の振り方は大体身体で覚えている……だから! 

 

「開幕の大振り……データ通り!」

 

「デクみてぇな言い方しやがって……生意気なんだよぉ!」

 

「その割には間合いが近すぎるよ爆豪!」

 

 大振りを躱して爆豪の腹に蹴りを入れる。深くは入らない……それでも大体初撃は入る。

 

「テメェは……いつもいつも……ちょこまかと……」

 

「爆発しない爆豪は怖くない……恐れる理由にはならない!」

 

 少しだけ顔が上がる爆豪の顔面をぶん殴る。でも私と彼の性別差や筋肉量は戦闘時間が長引けば長引く程に現れる。如何に知識や見切りが上手くても私には持久力が足りない。

 

「蹴りの速度が落ちてきたなぁヒメ……そろそろバテたか?」

 

「バテきる前に爆豪を沈めれば……良い!」

 

「それができないから這いつくばんだよ!」

 

「ごほっ……」

 

 爆豪の拳が私の腹部に入る。個性を使わなくても爆豪の膂力は私を悶絶させるには充分。1撃でも入れば戦況は一転する。

 

「姫香ちゃん……もう良い! 降参するんだ!」

 

 出久君の忠告は正しい。爆豪から1撃でも貰うわけにはいかないのに意識が混濁する。

 

「へばったな……っらぁ!」

 

 追撃の蹴りが私の溝尾へと入る。駄目だ……意識が……

 

「わかってただろ? テメェが……俺を倒すなんざ不可能……何だよ……」

 

「それでも……」

 

 その続きを呟く事なく私は意識を手放す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁデクよぉ……そんなに個性が欲しいなら……来世にワンチャンでダイブしてみな」

 

「それは強要だよ爆豪……その言動は敵(ヴィラン)でも目指すつもり?」

 

「なわけねぇだろ! 俺が目指すのはトップヒーローだ! 高額納税者に俺は名を連ねんだよ!」

 

「自殺教唆って識ってる? 自分の言動を振り返る事を進めるよ」

 

「……殺す!」

 

 激情に駆られた爆豪が私へと迫るがまだ距離はある。間(・)に(・)合(・)う(・)か。

 

「Balwisyall nescell gungnir tron〜」

 

「纏(・)っ(・)た(・)な? コレで手加減しなくて良いから気が楽だぜ!」

 

「姫香ちゃん! かっちゃんを煽らないで!」

 

 学校でギアを使うのは気が引けるけど個性を使わずに爆豪を制圧できない……いや、ギアを纏っても勝ち目が低すぎる。

 

「ヒメの個性はハマれば強い個性だがギャンブル性と詠う為のタイムラグが必要だもんなぁ!」

 

「だから距離を空けないと詠えない。攻略法を描いているのはお互い様でしょ!」

 

 掌からの起爆に耐えて爆豪の腹部へカウンターを入れる……けどいつもの喧嘩で既に打撃が入る前に歯を食いしばって意識を保ってる。だから私も追撃の踵落としを爆豪の頭上から叩き込む。

 

「てんめぇ……」

 

「正面から殴り合えば私は爆豪には勝てないよ。でも喧嘩は力だけでは成立しないでしょ?」

 

「クソナードが……」

 

「意識が混濁してるところ悪いけど私と出久は帰るよ。それと出久のノートをボロボロにしたのは器物損壊……何処まで敵(ヴィラン)を目指すつもり? まぁ行こうよ出久君……」

 

 私は出久を連れてクラスを離れた。だけど……

 

「かっちゃんに謝りたい? 謝って貰うのは出久君だよね?」

 

「かっちゃんはきっと引っ込みがつかなくだっただけで……」

 

 私は出久の瞳を見て呼吸を整える。脅されて……とかではなさそうなのは安心か。それでも……

 

「爆豪を追うつもりなら身の安全には気をつけてよ出久。最近勝己の言動は荒れてるのはわかってるでしょ?」

 

「姫香ちゃん……本当は姫香ちゃんも強がらなくても良いんだよ? かっちゃんを呼ぶ時……多分無理して強い言葉を選んでるよね? 僕の為なら……僕は大丈夫だから……」

 

「私は爆豪の敵(ヴィラン)みたいな思想が嫌いなだけ。才能がある事は私だって認めてる。だからって爆豪に屈すれば私は私の信念に背きそうだから……それだけだよ。それと出久……今日はちょっと寄り道するから」

 

「気をつけてよ」

 

 そうして私達はそれぞれの目的の為に学校で別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 私は出久と別れて……嫌な噂を聞いた。

 

「なんかヤバい敵(ヴィラン)が出たらしいぜ」

「それも逃亡中でその方向すらも分からないときたもんだ」

「相手の身体を乗っ取るみたいな噂もあるぞ?」

 

「身体を……乗っ取る……?」

 

 私は警戒しながら道を進む。本来は人通りが多いとはいえ1つ路地に外れたら寂れた雰囲気の別世界。悪いことをする人間が隠れるにはうってつけかな。こう言ってた場所に潜んでいる奴は大体禄でもない奴等だけど……アイツ……今年受験なのにそんな禄でもない連中とつるんで何をするつもり? 

 

「よぉ爆豪……最近来てくれなくて寂しいじゃないか」

 

 そんな時に私は爆豪の姿を見つけた。

 

「久しぶりっすね」

 

 少し後を付けるとアレは……柄の悪い事で有名だった先輩……? 先輩達に爆豪も少しバツの悪そうな顔で返すが、すぐにいつもの好戦的な表情になる。

 

「はぁ〜……あんたらみたいな雑魚の先輩に呼び出されてうぜぇんですよ。どうせ気に食わないナードをボコせとかそういう依頼っすよね」

 

「話が早いねぇ爆豪! ならちょうどいい……お前の幼馴染の無個性だが、せっかくならアイツを財布にしないか?」

 

「アァ〜? そんな話オレは乗るつもりねぇんだよ! オレは誰の指図も受けねぇ。そして目障りな連中にチョロチョロ動かれるのは好きじゃねぇ。だから決めたよ……あんたらを消すぜ先輩方!」

 

 爆豪が戦闘を始めた。仲間割れ……いや、交渉内容の決裂が妥当な辺りか。

 

「喧嘩でしょ……爆豪が問題起こすとせっかくうちの中学が貰った雄英への推薦枠が潰れかねないからね。手を貸してあげるから何がしたいか教えなさい爆豪!」

 

「ざけんなナードが! コイツ等の殲滅。カツアゲすんだとよ」

 

「じゃあこっちか……Granzizel bilfen gungnir zizzl〜」

 

 裂槍のギアを構えて私は不良と対峙する。その視線は私を舐め回すようなげびた視線だ。

 

「へへっ……可愛い娘ちゃんは俺達と楽しい事しようぜぇ?」

 

「生憎敵(ヴィラン)とは関わりたくないのでご遠慮します」

 

 私達は取り囲む15人を手持ちの槍と爆発で叩きのめす。お互いの動きがわかるのは皮肉にも同じ。そんな中で私達は互いに目が合う。

 

「爆豪……悪いことは言わない。敵(ヴィラン)のように振る舞う言動は改めるべきだよ。こういう面倒事に巻き込まれて行くし、いずれは自分の手に負えない奴が来るかもしれない。だから……」

 

「デクならそういうだろうな。だが俺は誰かに命令されるつもりも借りを作る理由も無い」

 

「はいはい」

 

 私は槍で先輩の間合いの外から突きや薙ぎ払いを、爆豪は起爆の爆風で先輩達を自身の射程に入れずお互いの背中を守り合う。

 

「やっぱ爆豪は個性も戦い方も上手いよね。なんで敵(ヴィラン)の思想に感化されるのか分からないよ!」

 

「何度言えばわかるンだヒメぇ! 俺はヒーローになるってんだよ!」

 

「なら粗暴な言動を改める事を勧めるよ!」

 

 コレは連携ではなく共闘……それでもお互いの手の内を識ってるからこそ成り立つのが幼馴染の縁だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして私と爆豪は学校から土手を抜けて路地外まで来て通り抜けたような時だった。

 

『〜〜〜!!』

 

「何の音だ?」

 

「さっさと抜けるよ。面倒事に関わって痛い目に逢いたいなら別だけど?」

 

「……っ!」

 

「爆豪なんのつも……っ!」

 

 私が爆豪に突き飛ばされて抗議しようとしたら爆豪を何かが襲っていた。コレは……ヘドロ? 

 

「爆豪!? 何が起こってるの!?」

 

「逃げ……ロ」

 

 爆豪は賢い人間だ。私の持つシンフォギアの特性を出久程じゃなくても理解している。こんな路地だと仮にギアを展開できてもまずイチイバルは使えない。吹き飛ばせても周囲の建物が崩落する危険がある為に論外だからだ。

 

「爆豪……助けるから耐えろ!」

 

 ヘドロに囚われた爆豪を引きずり出そうとするがその身体は重く動かない。

 

「残念だったなお嬢ちゃん……こいつはもう俺の新しい器なんだよ!」

 

「このヘドロ……敵(ヴィラン)なの!?」

 

 私はヘドロの悪意と質量による暴力で吹き飛ばされる。槍のガングニール……天羽々斬……イガリマ……シャルシュガナ……駄目だどれも状況を打開できない……

 

「…………ヒーローを呼んでくる! 耐えて!」

 

 私は爆豪にそれだけ告げてその場を逃げるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっちです! ヘドロの敵(ヴィラン)に幼馴染が襲われて!」

 

「わかった! 後は任せろ!」

 

 しかし私が路地に戻ってきた時には状況は私の想像よりも凄惨になっていた。路地裏は、抵抗したであろう爆破の個性が撒き散らした火炎と黒煙に包まれていた。その中心で、粘液の巨躯をうねらせるヘドロヴィラン。その体内に囚われた爆豪は今も尚、窒息の苦痛に顔を歪めていた。

 

「姫香ちゃん……かっちゃん……!」

 

 私がプロヒーローを連れて戻った時によく聞き慣れた声が聞こえた。

 

「デク……?」

 

 爆豪の掠れた悲鳴を切り裂き、1人の少年……私の幼馴染が飛び出していた。出久は無個性だ。圧倒的な個性を持つ爆豪ですら今にも飲まれそうなほどの暴力……それに出久が耐えられるとは世辞にも思えない。

 

「かっちゃん…………僕は!」

 

 プロヒーローすら足すくむ惨状の中、死の恐怖にガタガタと膝を震わせながらも、出久はまっすぐにヘドロヴィランへ突進していく。

 

「死ねぇ! クソガキがぁ!!」

 

 出久が振り回したリュックサックがヴィランの目を撃ち抜き、一瞬だけ爆豪の口元が解放された。

 

「急所……そうか! そうすれば!」

 

 何故私は気づかなかった? 人質になった爆豪が酸欠に苦しんでいるのに助ける方法が浮かばなかった? ヘドロでも元は人間……急所を撃てば動揺するのは当然じゃないか。なのに……

 

『なんで……!!』

 

「君が、助けを求める顔をしてたから!!」

 

 2人のやり取りが、私の脳腔を強烈に揺さぶった。

 

(——何を迷ってたんだ、私は……!!)

 

 力のない出久が、命を捨てる覚悟をしてまで踏み出した。それなのに、私は二次被害を理由に足を止めていた。猛烈な恥じ入る思いと、幼馴染2人を絶対に死なせたくないという衝動が、私の胸を焼き尽くす。

 

 

「ふざけるなあああ!!」

 

 激怒したヘドロヴィランが、爆豪を取り込んだまま、肥大化させた巨大な泥の腕を出久の頭上へ振り下ろす。二人まとめて押し潰そうとする絶望の一撃。通常装着の聖詠を歌っている時間すら、もう残されていない。 

 

(イチイバルじゃ二人を巻き込む……なら、泥だけを消し飛ばすには……!!)

 

「Balwisyall nescell gungnir tron〜」

 

 私はガングニールを纏う。そして拳に力を込めて爆豪の腹部を殴る。端から見ればただの暴力行為だが、爆豪の生命力ならあるいは……

 

「姫香ちゃん!? かっちゃんが!」

 

「わかってる……たからアイツと私を信じて!」

 

「ご……ほぉ……」

 

 悶絶するほどの拳を不意打ちで受けた敵(ヴィラン)は爆豪との接触が一瞬緩む。ヘドロを吐き出せ爆豪! 

 

「おどろ……イタ……が、無駄……ダ」

 

 敵(ヴィラン)が止まらない。このままだと爆豪が取り込まれるか酸欠で殺されるかの2択……それが私達に与えられた本(・)来(・)の(・)選(・)択(・)肢(・)

 

「ねぇ出久……私達全員を生還させる為に命を賭けろと言われたら……どうする?」

 

「やる! やって全員生き残る! それがヒーローだから!」

 

「……そうだね。だから出久……後は任せた」

 

「姫香ちゃん……何を……」

 

 困惑する出久を横目に私は胸元に両手をあて、自らの生命の導火線に火をつける覚悟をする。

 

(ごめん、お母さん。……二人を死なせられるかぁぁぁ!!)

 

 これから口から紡ぐ詠は通常の聖詠ではない。

 

『Gatrandis babel ziggurat edenal〜』

 

 命そのものを燃料とし、己の魂を穿つ——『絶唱』のフレーズだった。

 

『Emustolronzen fine el baral zizzl〜』

 

「姫香ちゃんなにを!」

 

『Gatrandis babel ziggurat edenal〜』

 

 ゴメン出久……コレは教えて無いからね。でも後悔はしないよ? だって私は……貴方が勇気をくれたから決断出来た。そして……

 

『Emustolronzen fine el zizzl〜』

 

「ナン……ダ……その……歌……ハ……?」

 

「うあぁぁぁ!!」

 

 私の華奢な身体から爆発的に解き放たれたのは、火災の赤を瞬時に塗りつぶすほどに目も眩む黄色の光束。絶唱の波長とともに胸元から展開された神獣鏡が、圧殺の腕を振り下ろそうとしたヘドロヴィランを全霊の拳撃で穿つ。

 

「な……眩し……」

 

 ドォンっ!!! と、路地裏全体を震わせる光波の爆裂が路地を包む。フォニックゲインの奔流がヘドロの粘液だけを瞬時に蒸発・霧散し、その衝撃で体内に捕らわれていた爆豪が泥の中から完全に弾き飛ばされた。

 

「かっちゃん!」

 

「……がはっ……息が……っ!?」

 

 地面へ激しく転がり落ちる爆豪。一次救出には——成功した。だけど残酷な代償がすぐに身体に現れ始める。

 

「つ、……あ…………っ!!」

 

 歌い切った瞬間私の口から大量の赤い血が噴き出した。全身の細胞が内側から千切れるような激痛。凄まじい貧血と倦怠感が襲いかかり、私はそのまま地面へ崩れ落ちた。視界が血の気と眩暈で赤く染まり、指一本動かすことすら叶わないほどの反動が私の身体を蝕み始める。

 

「ヒメ……っ!?」

 

「姫香ちゃん! 酷い出血じゃないか! 早く逃げないと……」

 

「なんでテメェが……俺を……」

 

 地面に這いつくばった爆豪が、呼吸を荒らげながら目を見開く。目の前に倒れる姫香の姿。自分のために、血を吐いて命を削る歌を歌った惨状に、爆豪の胸に猛烈な衝撃と屈辱、そして恐怖が駆け巡った。

 

「……ヘドロ……敵(ヴィラン)は? た、助かった……? 姫香ちゃん、かっちゃん……!」

 

 血を流す姫香を抱きかかえようと、出久が駆け寄る。だが、安堵の時間はコンマ数秒すら許されなかった。

 

『——ギ、……ギギ…………よくも、よくもやってくれたなァァァクソガキどもがぁぁぁ!!!』

 

 不気味な粘気音が響き渡る。吹き飛ばされ、路地裏の壁や溝に飛び散っていたはずの泥が、生き物のように蠢き合い、一所に集結し始めた。光波で蒸発しきらなかった粘液が、怒りによって元以上の巨大な悪鬼の姿へと再構築されていく。

 

「な……っ!? 再生……してる……!?」

 

 出久の顔から、一瞬で血の気が引いた。流体ゆえの不気味な生命力。物理も光も弾き飛ばしたはずの敵が、牙を剥いて立ちふさがる。

 

「嘘、でしょ……? アレでも……無理なの……?」

 

 地面に伏せた私の目から、絶望の涙が溢れ出た。全身を裂くような激痛の中で命を投げ出す覚悟までしたというのに、敵(ヴィラン)は何事もなかったかのように再生していく。指一本動かせない自分の前で、敵は嘲笑うかのように肥大化していく。無力感が、ボロボロの心身をさらに打ちのめした。

 

「くそっ……動け……動けよ俺の体……っ!!」

 

 爆豪は歯が折れるほど噛み締め、拳を地面に叩きつけた。酸素欠乏のダメージと爆破の反動で力が力が入らない。出久に庇われ、ヒメに血を流させて救われた挙句、またしても目の前で死に直面している。

 

「ヒメに借りを返すどころか、立ち上がることすらできないのかよ俺は!」

 

 爆豪は己の不甲斐なさに、プライドはズタズタに引き裂かれていた。

 

「あああぁぁぁぁ!!!」

 

 ヘドロヴィランが咆哮し、巨大化した泥の拳を振り上げる。標的はもはや動くことの出きない私と爆豪。出久からは視線が外れてる。爆豪……上手く……避けろよ……

 

(嫌だ……! 姫香ちゃんも、かっちゃんも……死なせるもんか……!!)

 

 手立てなど何一つなかった。リュックも投げ尽くした。個性もない。それでも、出久は震える足で立ち上がり、倒れ込む姫香と爆豪の前に覆いかぶさるように立ちはだかった。

 

「デク……退け。テメェに出来る事なんざ……ねぇんだ……」

 

「逃げない! 姫香ちゃんもかっちゃんも命を賭けた! 僕だけが逃げるなんて……嫌だ!」

 

 広げた両腕。それが無個性の出久ができる唯一の抵抗だった。

 

「邪魔だァァァ! まとめて潰れろぉぉぉ!!!」

 

 迫り来る泥の濁流。死の影が3人を完全に呑み込もうとした、その時だった——。

 

「——前に緑谷少年(君)へ言ったはずだ! プロは常に命懸け、とね!!」

 

 世界で最も頼もしい声が聞こえて空気が爆ぜた。

 

「少年少女が立ち上がり抗う姿を見て私が動かない筈が無かろう?」

 

 3人に泥の手が届く直前。炎と恐怖を切り裂いて割り込んだのは、白血を吐きながらも立ち上がった「平和の象徴」だった。

 

「デトロイト・……スマッシュ!!!!」

 

 振り下ろされたオールマイトの拳圧が、爆風となって上昇気流を巻き起こす。再生したはずのヘドロヴィランの巨体が、分子レベルで引き千切られるように雲散霧消していった。天候すら変え、雨を降らせる圧倒的な一撃。

 

「は……あ……」

 

 降り注ぐ恵みの雨の中、ヘドロの脅威は完全に去った。だが、立ち尽くす出久、泥まみれで膝をつく爆豪、そして血の海に倒れる姫香の間に広がったのは、勝利の歓声ではなく、重く苦しい静寂だった。 

 

「たす……かった……? 姫香ちゃん……姫香ちゃん!」

 

「ヒメ……なんでテメェが死にそうな面してんだよ! 起きろ! 殺すぞ!」

 

(意識が……途切れそうだ……。でも……2人が救われたなら……私は……)

 

 雨音だけが響く路地裏で、幼馴染3人の運命は、取り返しのつかない爪痕を残して動き始めたのだった。

 

 




個性詳細は次回以降という事で

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姫香周りの恋愛関係

  • 姫香×出久の幼馴染ルート
  • 姫香×勝己の幼馴染ルート
  • 出久×姫香×お茶子のハーレムルート
  • 姫香は誰のヒロインにもならないアイドル!
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