午前中の授業が終わって昼休み。平沼と古田島が俺の席の周りに集まってくる。
「一緒に食べよう」
気兼ねなくそう声をかけてくれるのはありがたい。今までぼっちめしの九年間だったから、凄く嬉しい。
「そういえば授業中もいちゃいちゃしてたな」
「し、してない」
院瀬見が顔を赤くして反論する。
「いや、あれは俺が教科書忘れて見せてもらってただけだよ」
「そんなのは見てたらわかるよ」
院瀬見はあくまで罪悪感で俺に優しくしてくれているだけなのだ。その罪悪感につけこんでいろいろさせる気は俺にはない。できれば俺は院瀬見と対等な友達になりたいと思っている。
「知ってるか? クラスの男子連中が穂香のこと狙ってたのに絶望した顔してるの」
「もう。雲雀はそんなことばっかり言ってないでご飯食べるよ」
「いやいや気にならないのか。穂香。自分に好意を寄せてくれている男子だぞ」
「そんなの気にならないって言ったら嘘になるけど。私にはそんな資格ないから」
「なんじゃそりゃ」
平沼はわけがわからないと言った感じで両手を広げる。
そうだよな。院瀬見は絶対にモテる。だって可愛いし、表面上は優しいから。だから俺なんかにかまってたら絶対に損をすると思うのだ。俺としては早く院瀬見を解放してやりたいのだが。なにせ、院瀬見が自分を責めている。その意識が変わらない限り、院瀬見が俺から離れることは難しいだろう。
「そりゃだって毎日手作り弁当を作ってくるぐらいだしなぁ。そんなの見せられたら諦めもつくって」
「そんなんじゃないから」
院瀬見が必死に弁明しているが傍から見たら色恋に見えるのは間違いない。色恋でもなければ異性にお弁当なんて作ってこない。まさかいじめの償いで作ってきているなんて誰も思わないだろう。
「さあ、食べよう。そんな話ばっかりしてないで」
院瀬見がそう話を締めくくり、俺たちは弁当の蓋を開ける。今日も相変わらず色鮮やかだ。栄養バランスが考えられているのが伝わってくる。本当にこんな弁当を食費を払っているとはいえ食べさせてもらえるのはラッキーとしか言えない。
「どう、かな?」
恐る恐ると言った感じで院瀬見が俺の様子をうかがう。
俺はおかずを口へ運ぶと頷く。
「今日もすっごく美味しいよ。院瀬見はいいお嫁さんになるな」
「そんなの……」
院瀬見は顔を真っ赤にすると俯いた。照れてるところも可愛いよな。俺が院瀬見と普通に出会ってたら彼女のことを好きになっていたかもしれない。それぐらい院瀬見は可愛いし、優しい。でも小学生時代についてしまった印象というのはなかなかぬぐえない。俺はまだ院瀬見に対してどこか一歩引いてしまっている。対等に接したいというのは俺のことでもある。お互いに一歩引いてしまっているから、対等に接することができない。これは俺の問題でもある。
俺の頭では院瀬見のことは許している。だが、体の記憶が院瀬見を許していないのかもしれない。院瀬見にされたことを今も夢に見ては目覚める。夜に寝つきが悪いのもそのせいだ。だけど、俺はあまり院瀬見を責めたくはない。
「倉木ってさ、彼女いたことあるの?」
不意に平沼が聞いてくる。
「あ、それ私も気になる」
古田島がそれに乗っかってくる。
「いたことあるように見える?」
「「見えない」」
「お察しの通りだよ」
「だよねー」
平沼がけらけら笑う。
「ってことはまだ童貞なのか」
「そこ弄るなよ」
「気にしてるのかー。高一で童貞卒業してないなんてまだ普通だって」
「別に気にしてないよ」
「なんだったらあたしが卒業させてやろうか」
平沼が目を細めてからかってくる。
「いらないよ。友達とはそういうことしたら友達じゃいられなくなるから」
「お、おう。意外に真面目なんだな」
「そんなこと言って、雲雀も初めてのくせに」
「う、うっさい!」
古田島に突っ込まれ、平沼が顔を赤くする。女子なのにこういう下ネタも話すんだな。院瀬見の顔を伺うと苦笑していた。どうやら院瀬見はこういう話は苦手のようだ。
「じゃあさ、この三人なら誰を選ぶよ」
平沼が身を乗り出して聞いてくる。三人の中ならと言われても、三人とも友達だし、そういう目で見たことがないのだが。
「まあ院瀬見以外のどっちかかな」
「おっと、これは想定外の答えが来た」
俺としては院瀬見は女の子として見れない。どうしてもいじめられた相手というのが先に来てしまう。そもそも院瀬見も俺なんかと付き合いたくはないだろう。そう思って院瀬見の様子を伺うとなぜだかショックを受けたような顔をしていた。
「いや、違うぞ。これはあくまで過程の話だから俺が院瀬見を嫌いだとかそういう話じゃないからな。あくまで恋人として付き合うならって話で」
「う、うん。わかってる」
院瀬見は落ち着きを取り戻したのか深呼吸をしていた。
「まあ選ばれて嬉しいけど、倉木と付き合うのはないなー」
「聞いてきといて振るのかよ」
「私もパス」
「だって倉木って彼氏としてはちょっと頼りなさそうだし」
「それは同意するが」
俺自身、女の子にいじめられていたような人間だから頼りないというのは頷ける。そんな雑談を交えながら、俺たちは昼食を楽しんだ。