放課後、俺たちは勉強会をするべく、図書室に向かった。図書室には誰もおらず、図書委員だけが受付に座っていた。俺たちは適当に空いている席に座ると、教科書を広げた。
「それじゃみっちりやろうか」
院瀬見がそう言って俺たちを見回す。勉強が苦手な人が集まっているから、院瀬見の負担は大きい。そんなわけで勉強会が始まったのだが……
「うん、そこはこうすれば解けるよ」
院瀬見が俺の隣から離れない。まるでマンツーマンでみっちり指導する家庭教師のようだ。そんな様子を見て、平沼と古田島がにやにやしている。俺としてはいたたまれない。
「院瀬見、なんか怒ってる?」
「怒ってるわけないじゃん。私はどうせ付き合うのはありえない女の子なんでしょ」
どうやらさっきの俺の発言を根に持っているようだ。仮にも女子相手に付き合うのはあり得ないなんて言うんじゃなかった。
だが、院瀬見は丁寧に教えてくれていた。その説明はわかりやすく、勉強が苦手な俺でも問題が解ける。
「そうそう。その調子。倉木くん、やればできるじゃん!」
そう言って褒めてくれるのでモチベーションも上がる。不思議といつもは辛い勉強が苦じゃない。
「なあ穂香。あたしらにも教えてよ」
「はいはい、仕方ないなぁ」
平沼たちに助けを求められ、院瀬見が二人に解説する。その様子を見て、俺は院瀬見のスペックを思い知らされた。
院瀬見は人気者になるために生まれてきたような人間だ。その人間の過去の過ちをいつまでもねちねち責めるのは悪趣味だ。
院瀬見には楽しい学校生活を送ってほしい。できれば俺のことなんか気にしないで。
「院瀬見って努力できる人間なんだな」
「そうかな。そうかも。私、努力するのは好きだから」
「尊敬するよ。俺、頑張ってる人は好きだから」
「好き⁉ いや、うん。ありがとう」
一瞬、院瀬見が目を見開くが咳払いをして落ち着いた。俺は自分が頑張れない人間だから、頑張っている人間を応戦してしまう。高校野球をよく見るのだが、強いチームと弱いチームが戦っていたらどっちも応援しちゃうんだよな。強いチームはここまで努力してきたから強いわけで、弱いチームも一生懸命に頑張っている。だから、俺はいつも高校野球を見るのだ。
「そういえば、倉木くんって部活とか入らないの?」
「部活は苦手意識があって」
中学の時、絶対に部活に入らなくてはならない校則があって、しぶしぶ文芸部に入部した。だけど、文芸部にいたのは不良たちで俺はパシリに使われていた。文芸部は活動が楽だからと、不良のたまり場になってたんだよな。それを知らずに入部して、三年間酷い目にあった。
思えば、小学生の時いじめられて、完全にいじめられっ子根性が身についてしまったのかもしれない。
「でもさ、部活おもしろそうじゃん?」
平沼がそう発言してくる。
「なんだったらさ、私らで新しい部活立ち上げない?」
古田島が手を叩いてそう提案する。
「いいじゃん。菜穂子、たまにはいいこと言うな」
平沼が同調し、にかっと笑う。
確かにこの四人の部活なら楽しそうだ。とはいえ、趣味も違う四人に共通する部活ってなんだろうか。
「でも、やっぱり楽しい部活がいいよな」
「うんうん。できれば遊べるやつがいい」
平沼と古田島の意見は難題だ。遊べるやつというと限られるような気がする。
「じゃあテーブルゲームとかはどうかな?」
俺がそう提案すると、三人は顔を見合わせた。
「「いいじゃん」」
平沼と古田島が賛同し、目を輝かせる。
「倉木もいいこと言うな」
生れて初めて意見を肯定された気がする。いや、カラオケの時もそうだったか。この二人は本当に俺を尊重してくれる。
「いいと思う。部活をしてれば内申点も上がるしね」
どうやら院瀬見も異論はないようだ。
「じゃあ決まりだな。部長は倉木に任せよう」
「俺⁉」
「だってあたしらテーブルゲームとかしたことないし」
そんなこと言われても俺に部長が務まるとは思えない。断ろうと思って口を開きかけたら、院瀬見が俺をじっと見ているのに気付いた。
「やってみない? 倉木くん」
「でも……」
「私が副部長になって支えるから」
院瀬見の目は真剣だ。確かに、部長を経験すれば、俺の今後に大いに役に立つだろう。だけど、いじめられていたような俺が、みんなを上手くまとめることができるだろうか。
「私、いいきっかけだと思う。倉木くんが自信をつける」
本来であれば、部長は院瀬見が相応しいだろう。だが、院瀬見は一歩引いて俺を支えると言ってくれている。応援すると言ってくれているのだ。
俺も覚悟を決める必要があるな。
「わかった。やるよ」
「それでこそ男だな」
平沼に背中を叩かれる。この豪快な性格は、やりやすいからありがたい。
休憩中にそんな話をしながら勉強を続ける。明日は小テストがあるらしいので、その対策を院瀬見に教えてもらいながら頑張った。
なんとかなりそうな気がしてくる。院瀬見はいい先生だ。
勉強に集中していたら、最終下校のチャイムが鳴り響いた。
「倉木くん」
帰り際にふと名前を呼ばれて振り返る。
「お願いがあるんだけど」
院瀬見は神妙な面持ちで俺を見つめた。