昔俺をいじめていた女の子が今さら俺に優しい   作:オリウス

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お願い

「お願い?」

「うん。私を馬車馬のようにこき使ってくれないかな」

 

 一瞬、何を言われたのかわからなかった。だけど、これも院瀬見が過去の償いのつもりだということがわかった。

 

「そんなことはしないよ」

「なんで? 私じゃ頼りない?」

「院瀬見、前にも言ったけど、俺はもう許してるんだ。だから、俺から院瀬見に何かをさせるなんてことはないから」

「でもそれじゃ……」

 

 院瀬見はそう言うと俯く。

 

「自分に罰を与えるのは好きにしたらいいけどさ、俺に期待しないでよ」

「ごめん……」

 

 院瀬見は少しだけうなだれると歩き出した。

 

「というか、俺が頼りないから院瀬見には負担を強いることになっちゃうと思うけど」

「うん、それは遠慮なく頼ってね」

「でもこれは俺の成長できる機会でもあるから、頑張るつもり」

「倉木くん、変わったね」

 

 院瀬見に言われて考えてみる。小学生の時の俺は何かに挑戦しようなんて気概はなかった。いじめられていたというのもあるけど、自分の能力に諦めていたのだ。

 

「そうかもな。でも、高校に入って院瀬見と再会して、いろいろしてもらったから前向きになれたのかも」

「私が倉木くんのために行動するのは当然だよ」

「まるで彼女みたいだな」

 

 俺がふざけてそう言うと院瀬見はなぜだか顔を真っ赤にした。

 

「も、もう。私が倉木くんの彼女になれるわけないじゃん」

「そうだよな。俺なんかと付き合いたい女子なんているわけないよな」

「またそうやって卑屈になる」

「ごめんごめん。でも、変わるつもりだから俺。変わって彼女ができるようになりたい」

「そっか……」

 

 院瀬見はそう呟くと俯いた。

 いつか彼女を作って、院瀬見たたちに胸を張れるようになりたい。それが俺の今の目標だ。

 

「倉木くんは優しいから、彼女なんてすぐにできちゃうよ」

「優しいだけじゃモテないと思うぞ。女子って能力ある男子を求めるだろ」

「意外と現実主義なんだね。でもどうかな、優しい男の子は損をするって言うもんね」

 

 優しい男子はいい人認定されることが多いと聞く。そういった意味でももっと男らしさを磨く必要があるだろう。

 

「院瀬見から見て、俺がどうなったら彼氏にしたいって思う?」

「ひゃい⁉」

 

 院瀬見は突然素っ頓狂な声を上げると顔を赤くした。

 

「私は今のままで十分彼氏にしたいと思うけど」

「それはお世辞でしょ。気を使わないではっきり言ってくれていいんだぞ」

「お世辞じゃないんだけどな……」

 

 院瀬見は苦笑しながら頬を掻く。

 

「でも院瀬見はモテそうだもんな。平沼たちも言ってたけど、俺なんかにかまってたら彼氏できないぞ」

「私に恋愛する資格なんてないから」

「まだそんなこと言ってるのか。俺は友達として院瀬見にも笑っていてほしいんだよ」

「倉木くん……」

 

 確かに院瀬見は小学生の時俺をいじめていた。だけど今は友達だ。友達の幸せを願うのは普通のことじゃないだろうか。

 院瀬見は小学生の時のような眩しい笑顔を高校では見せていない。もしも過去のことが院瀬見をそうさせているのだとしたら、俺は彼女を解放してあげたい。

 だけど、今の俺に何ができるだろう。いくら俺が許していると言っても、院瀬見の心には響いていない。

 

「院瀬見はさ、どういう男子がタイプなんだ」

「倉木くんが恋バナに興味を持つなんて珍しいね」

「友達がいなかったからこういう話もしたことないんだ。だからちょっとわくわくしてる」

「私は、ちょっと大人しい感じの男の子が好みだよ」

「へえ以外。院瀬見のことだからもっとがつがつしているやつが好みなのかと思った」

「がつがつしている男の子は苦手かな。対等に話を聞いてくれる人が好みだよ」

 

 院瀬見は昔から男女問わず人気があった。いつもクラスの中心人物のひとりで、陽キャ男子と一緒にいた記憶がある。だけどああいうタイプはむしろ苦手だったとは。意外な答えだった。

 

「そういう倉木くんはどういう女の子がタイプなの」

「俺はそうだな。俺も大人しめの女の子が好みかな。お互いマイペースで進んでいける、そういう関係が理想」

「ふーん。そうなんだ。じゃあ雲雀や菜穂子みたいなのはタイプじゃないってことだね」

 

 なぜだか院瀬見の機嫌がよくなった。

 

「平沼と古田島と付き合ったら俺が尻に敷かれそうだし。ずっとエンジン全開で突っ走って生きそうじゃん」

「確かに」

 

 院瀬見はそう言うと口元に手を当てて笑った。

 

「倉木くんとこういう話をするなんて思わなかった」

「俺も院瀬見とこんなくだけた会話ができるとは思わなかったよ」

「最初からこうすればよかったんだね」

「どうだろう。小学生の時は俺も人見知りだったから」

 

 今みたいに普通に話しかけれていても、拒絶していた可能性も否めない。

 だが、院瀬見たちにいじめられていたあの時間は、確かに地獄だったが、俺にとっては懐かしさもある。

 小学校時代の思い出は悪夢だけど、院瀬見と友達になった今、冷静に過去を振り返ることができるようになった。

 いじめを肯定するつもりはない。だけど、いじめる側にも心の弱さがあるのだと理解した。

 院瀬見を見ていると尚更そう思う。

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