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私を睨みながら去っていく倉木くんの姿を見送って、私は胸が抉られるような鋭い痛みを覚えた。
私が悪いのだ。わかっている。どんなに謝っても小学生の頃の行いを許してもらえるなんて思っていない。謝ることすら自己満足でしかないのだ。
「痛いな……」
私がしたことなのだ。だからどんなに倉木くんが傷ついていても償えない。
幼かった私の過ち。今更どの面下げてと思われるかもしれない。だけど、私は倉木くんが本当はとても優しいことを知っている。だからもっと明るい倉木くんを取り戻せるなら、私は尽力を惜しまない。
私は、小学生の頃、倉木くんのことが好きだった。だけど、どうやって好意を伝えたらいいのかわからなかった。私を見てほしくて、倉木くんをいじめるようになった。今思い返せばなんて最低だったんだろう。私のいた小学校では恋愛は悪だった。男の子と仲良くするだけでいじめられるようなそんな環境だった。
だけど、私は倉木くんと接点を持ちたくて、いじめてしまった。優しい倉木くんに漬け込んで、私はとんでもないことをしてしまったのだ。許されるなんて思っていない。だから、私は罪を償わなきゃいけない。
倉木くんが困っていたら助けよう。それが私にできるせめてもの贖罪だ。
◇
久しぶりに小学生の頃の夢を見た。院瀬見を含む数名の女の子に、殴られたり蹴られたりした夢だ。小学生の頃は女子の方が体が大きい。俺が小柄だったというものあり、抵抗することはできなかった。
気付けば俺は過呼吸を起こしていた。あの頃の夢を見るたびに、いつもこうなる。息を吐きだして、呼吸を整える。過呼吸が落ち着いて、俺は学校に登校する。
気配を消して教室に入ると、院瀬見がこちらに向かってくる。
「おはよう、倉木くん!」
眩い笑顔で挨拶をしてくる院瀬見を俺は無視する。というか、院瀬見が俺に声をかけたことで、クラスメイトの注目が俺に集まっているんだが。
「倉木くん、今日はよく眠れた?」
「昔の夢を見て最悪の寝覚めだったよ。院瀬見たちにいじめられていた夢だ」
「あー、それは嫌な夢だったね。じゃあ嫌なことは忘れよう。はい」
「なにこれ」
「倉木くんにお弁当作ってきたんだ。こう見えて私料理得意なんだよ。だからよかったら食べて」
そう言って院瀬見にお弁当を押し付けられる。食材に罪はない。俺は素直に受け取った。
「じゃあまた後でね」
そう言って院瀬見は俺の前から離れる。院瀬見の作ったお弁当。もしかしたら、毒でも盛られているんじゃないだろうか。俺は不安な気持ちを抱きながら、お弁当を鞄に仕舞う。
すると、背後からいきなり肩を組まれる。
「おいおい、どんな手品を使ったんだよ。あの院瀬見さんの手作り弁当をもらえるなんて」
いきなり絡まれて俺の心臓は縮み上がる。
「倉木だっけか。よろしくな。俺は前田まえだ亮りょうだ」
「何か用ですか」
「なんで敬語なんだよ。おもしろいやつだな」
前田はそう言うと、にかっと笑った。
「どうやって院瀬見さんと仲良くなったんだよ。羨ましいぞ。男子の間じゃ早くも学年トップの美少女って評価だ」
「見た目はよくても心は汚いと思うが」
「そんなことはないだろ。現にお前に弁当を作ってきてくれたじゃないか」
「それは何か企んでるんだよ」
「疑り深いなぁ。まあおもしろいやつなのはわかった。仲良くしようぜ」
そう言って肩を叩かれる。そうか。院瀬見は男子の間で人気が高いのか。俺が院瀬見の罪滅ぼしに付き合わされてると知ったら、どんな顔をするのだろうか。いっそのことあいつの所業をぶちまけてやろうか。いや、それはよくない。人を貶めるようなことをするのは最低だ。俺は院瀬見たちと同じようなことをするつもりはない。
「前田くんも院瀬見のことが好きなのか」
「可愛いって思うな。まあでも、俺には高値の華かな」
「意外に弁えているんだな。チャラそうなのに」
「言うじゃねえか。まあ実際チャラいけどよ」
まさかこんなにも早く話せる相手ができるとは思わなかった。中学じゃ誰も俺に話しかけてこなかったから。まあ挙動不審の陰キャなんて誰も話したくはないだろうけど。
「好きになっちまわねえか? 手作り弁当まで作ってきてくれる美少女だぜ?」
「俺は好きにはならないよ。それだけはあり得ない」
「お前の理想ってもしかしてめっちゃ高いのか?」
「そういうわけじゃないけどね」
俺は院瀬見の過去を吹聴して回る趣味はない。それに院瀬見のことを話したら俺のことも話さなきゃいけなくなる。それは結構きつい。
「まあ好きにならないって言うならそれでいいんじゃねえか。俺は信用してないけど」
「俺にだって選ぶ権利ぐらいある」
「陰キャって理想高いよなぁ。やっぱりアニメ好きだからか?」
「アニメは関係ない」
確かに俺はアニメに救われているところはあったが、それでも現実との区別ぐらいついている。
院瀬見を見ると、友人たちと談笑している。院瀬見の席の周りに人が集まっている。やっぱり人気者なんだ。
「なんであんなやつが」
俺は思わずそう呟く。仮面を被っているだけで本性はひどいのに。みんな騙されているんだ。俺はそう思いながら、視線を逸らした。