放課後、俺は平沼たちと一緒に教室を出た。正直、友達と遊びに行くってどんな感じなんだろうと思わなくもない。
しかも、女子ばかりだ。これまで女子と言えば俺をいじめる存在でしかなかったから、優しくしてくれる女子が珍しい。ただ、そこに院瀬見が入っているのは複雑だけど。
「倉木さー、穂香とはどういう知り合いなん」
平沼が道すがら尋ねてくる。その瞬間、院瀬見の顔が強張る。
「なんで?」
「だって絶対二人もともと知り合いっしょ。穂香は倉木のこと昔っから知ってそうだったし」
「同じ小学校だったんだよ」
俺は素直に答える。もちろん、院瀬見が俺をいじめていたことは伏せておく。院瀬見としてもそのことをばらされるのは嫌だろうし、俺としてもそんな復讐はしたくない。
「そうなんだ。院瀬見って小学生のころから可愛かったん?」
「そうだね。クラスの人気者だったよ」
俺がそう答えると、院瀬見は僅かながらに頬を染める。
「昔のことはいいよ」
院瀬見としても昔のことを掘り返されるのは嫌だろう。今もし本当にあの頃のことを後悔していて、反省しているのだとしたらあまりいじめるのはよくない。
「平沼と古田島は?」
「うちら中学が一緒なのよ」
「そうなんだ」
見た目が派手なギャルって感じだから、苦手意識があったけど、話してみると案外話しやすい。俺にも偏見を持っていないようだし、本当に院瀬見は友達に恵まれている。
そんな話をしているうちにカラオケに到着する。人生初のカラオケだ。俺は恐る恐る足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ!」
明るい店員が大きな声で挨拶してくる。俺は一瞬たじろいだが、平沼たちが堂々としているのを見て気を引き締める。
「四人で。機種はお任せで」
平沼が率先してリードしてくれる。俺は学生証を提示し、案内されるのを待つ。
ドリンクバーのグラスを受け取り、部屋に案内される。今更だけど密室に女子と一緒にいるのは少し緊張するな。
部屋は薄暗く、モニターには宣伝が流れている。
「てか、倉木がどんな歌うたうのかマジで楽しみなんだけど」
平沼がにやにやしながら俺を見てくる。俺は緊張で心臓の音がうるさい。
「トップバッターはやっぱり倉木っしょ」
古田島がデンモクを俺に投げてよこす。カラオケデビューでいきなりトップバッターを任せられるのはやばい。俺は震える手で曲を入れて立ち上がる。
肩を縮こまらせ、震える声で歌い出す。
古田島が合いの手を入れてくれる。こうやって周りに盛り上げてもらえると、結構楽しい。緊張はするけど、楽しく歌えた気がする。
歌い終えて胸をなでおろすと、ギャル二人が拍手を送ってくれる。
「めっちゃ上手いじゃん。歌はオタクっぽかったけど」
「ね! 上手い上手い。意外な特技発見って感じ」
平沼と古田島に褒められ、俺は照れくさくなって頬を掻く。院瀬見はそんな俺を見て微笑んでいた。
「ねえ、穂香、倉木上手かったよね」
「うん。すっごくいい歌声だったよ」
「……サンキュー」
俺は院瀬見に素直にお礼を言う。この繋がりは院瀬見が俺にもたらしてくれたものだ。院瀬見がいなかったら、平沼も古田島も俺に見向きもしなかっただろう。だが、こうしてすぐに仲よくできるのはギャル二人のコミュニケーション能力が高いことを示している。
続いて平沼と古田島がそれぞれ歌い、院瀬見の番になる。院瀬見はデンモクを睨めっこしながら、難しい顔をしている。
「どうした?」
「えっと、なんでもない」
院瀬見はそう返事をすると、曲を入れた。イントロが流れ始めて院瀬見が立ち上がる。
院瀬見が歌い出すと、それまで騒いでいた平沼たちが静まり返る。そして、次の瞬間笑いを堪えだす。俺も二人に釣られて笑いを噛み殺す。だが、耐えきれず噴き出してしまう。
「ちょっとー!」
歌うのを中断して院瀬見が顔を真っ赤にして抗議してくる。院瀬見はとんでもない音痴だった。
「いや、院瀬見がこんなに音痴だとは思わなかったからつい」
「わかってるよ。私が音痴ってことぐらい。だからカラオケは苦手なの」
院瀬見は顔を真っ赤にして続きを歌う。俺は終始笑いを噛み殺しながら、院瀬見の歌を楽しんだ。
しばらく順番に歌い続けて、俺はドリンクを入れに外に出る。院瀬見が後ろからついてきた。
「よかった。倉木くんが笑ってくれて」
「なんだか不思議だよ。院瀬見がいるのに笑えたんだよな」
「やっぱり倉木くんは優しいよ。優しすぎるのがいけないの」
「俺はできたら許したいと思ってるよ。今院瀬見が変わろうとしているのはわかるから」
「ダメだよ。それはダメ。この程度で赦してもらえるようなことじゃなかったから。言ったでしょ。私のことを許しちゃダメだって」
「院瀬見……」
俺としてはもう十分よくしてくれたと思っている。平沼と古田島という二人とも接点ができたのは院瀬見のおかげだ。
「私はこれからも倉木くんのためならなんだってする。だから、倉木くんは一生私のことを許しちゃダメ」
そう言って院瀬見は先に部屋に戻った。残された俺は複雑な気持ちを抱いたまま立ち尽くした。