昔俺をいじめていた女の子が今さら俺に優しい   作:オリウス

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席替え

「えー今日は席替えをしようと思う」

 

 

 

 担任の先生がそう言って箱を用意する。

 

 

 

「入学してすぐだけど、いろんな人とコミュニケーションをとるほうが将来お前らの役に立つからな」

 

 

 

 なるほど一理ある。とはいえ、今の席の周りの人とはまったくしゃべらなかった。院瀬見をはじめ、平沼や古田島が集まっていたこともあり、声をかけづらかったのだろう。いや、そうでなくても俺みたいな陰キャに声をかけたいと思うやつはいないだろう。

 

 とりあえず、俺は順番にくじを引く。くじを開き、自分の数字を確認する。窓際の後ろの方の席だ。

 

 

 

「それじゃ移動しろ」

 

 

 

 先生に言われた通り、俺は自分の机を移動する。

 

 

 

「嘘」

 

 

 

 その声に俺は顔を上げる。隣の席には院瀬見がやってきていた。院瀬見は照れくさそうに目を逸らすと、口元に手を当てた。

 

 

 

「お隣さんだね。よろしく倉木くん」

 

「よろしく、院瀬見」

 

 

 

 平沼や古田島とは離れてしまった。とはいえ、隣が院瀬見というのは俺的には結構ラッキーだった。周りが知らない生徒ばかりだったらさすがに緊張するからね。

 

 院瀬見と隣の席になった俺はひとまず胸を撫で下ろす。

 

 席替えが終わり、授業が始まる。

 

 やってしまった。教科書を忘れてしまったらしい。俺が困っていると隣の席の院瀬見が異変に気付き、声をかけてくる。

 

 

 

「どうかした?」

 

「教科書を忘れちゃったみたいで」

 

「じゃあ見せてあげる」

 

 

 

 そう言って院瀬見は席をくっつけてくる。教科書を開きながら俺に見せてくれる。

 

 

 

「院瀬見って優しいのな」

 

「そんなことないよ」

 

「なのになんでいじめなんてしたんだろ」

 

「ごめんなさい」

 

「冗談だから」

 

 

 

 最近は俺もこうして院瀬見をいじったりできるようになってきた。院瀬見と和解してから、本当の友達のような感じで院瀬見とは会話ができている。

 

 

 

「倉木くんって自分の優しさには鈍感なのかな」

 

「俺が優しいとかないから」

 

「それはないよ。優しいから私のことだって許しちゃうんだもん」

 

「それは優しさじゃないと思うよ」

 

 

 

 俺は溜め息を吐く。別に俺が優しいから院瀬見のことを許したわけじゃない。人は失敗を擦る生き物だと思っているからだ。俺だって失敗のひとつやふたつぐらいしてしまう。周りの人間が聞いたらなんで許すんだと思うかもしれない。でも、俺に取って小学生時代のいじめは傷だけど絶対に許せないと言えるものでもなかった。

 

 小学生なんて子供だし、精神が未熟だ。そのなかで起きたことをいつまでもねちねち言うつもりはない。ましてや、院瀬見は罪悪感を持っているし。

 

 許せないのは俺が許さないだけだ。懺悔をしている人にまで俺はそこまで怒りを向けられない。

 

 というより、そもそも怒るという感情がどうやら俺には希薄のようだった。昔から何をされても怒ったりしなかった。怒るのは疲れるし、何も生み出さないと思っているからかもしれない。うちの両親が怒りっぽかったから、反面教師で俺は怒らなくなった。

 

 

 

「院瀬見は怒ったりする?」

 

「いきなりどうしたの」

 

「いや、院瀬見も怒るイメージあんまりないなと思って」

 

「うーん、どうだろ。私こう見えて結構短気だから。ちょっとしたことで怒ったりするよ」

 

「なるほど。感情が豊かなんだな」

 

「怒りっぽいことをこんな褒め言葉にできることってある?」

 

 

 

 院瀬見が目を丸くしている。だって喜怒哀楽がはっきりしている人は感情が豊かに違いないと思うのだが。

 

 

 

「倉木くんはあんまり怒んないよね。怒ってるところ見たことがない。内心では怒ってたのかもしれないけど」

 

「いや、怒ってないよ。嫌だとは思ってたけど」

 

「だよね、ごめんね」

 

 

 

 院瀬見は申し訳なさそうに目を伏せる。院瀬見はあと何回俺に謝るつもりなのだろう。

 

 今でも小学生時代のことは夢に見るけど、不思議と怒りは湧いてこない。いじめは許せない行為だ。だけど、被害者だからと言って、加害者を追い詰めるようなことはしたくない。関わらないようにするのが一番だろう。そう思っていたのにな。なぜだか俺は院瀬見と友達になってしまった。これには自分でもびっくりだ。

 

 

 

「院瀬見はなんで俺と仲良くなりたかったの」

 

「それ聞いちゃう?」

 

「いや、俺なんか目立つ生徒じゃなかったのにどうしてかなって」

 

「えっと、お花を大事にしてたから」

 

 

 

 言われて思い出す。確かに小学生時代、俺は園芸委員だった。花をめでていた自分を思い出す。

 

 

 

「その時の表情がすっごくいい顔をしていて、話してみたいって思ったの」

 

「その結果がいじめだったんだ」

 

「うう……ごめんなさい。なんか恥ずかしくって」

 

 

 

 要するにコミュニケーション能力が低かっただけだ。仲良くなる方法を知っていれば、あんな悲劇は起こらなかった。その辺も含めて子供だったということだろう。

 

 

 

「俺はさ、院瀬見に憧れてたんだよ」

 

「私に?」

 

「うん。だって院瀬見ってクラスの中心だったし、人気者でかっこうよかったから」

 

「好き放題やってたね、小学生時代の私」

 

「みんなついていってただろ。そういうカリスマがあった」

 

「大袈裟だよ」

 

 

 

 大袈裟じゃない。現に今も、院瀬見は人気者だ。だから、俺は安心したのかもしれない。院瀬見ほどの人気者でも醜い部分があるということに。

 

 

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