【完結】北の聖女と南の聖女に挟まれる一般TSチート始元者 作:深紫Sιn姉
「お前ら、私の大切な友達とモラトリアムを——いったい、なんだと思ってんの?」
静まり返った中庭に、私の低い声が響いた。
『蒼き水の炎』を浴びたコルド将軍も、ブレイズ団長も、ガタガタと震えている。
周囲を包囲していた数万の兵士たちも、武器を落として私を見上げるばかりだ。
全員まとめて、お仕置きしてやりたい。
——だけど。
(……くそっ! カッコつけて啖呵を切ったはいいけど、私のリソースの半分、まだお母さんに貸したままじゃん⁉︎)
私は内心で冷や汗を流し、唇を噛んだ。
五〇%の省エネ状態では、目の前の軍勢を追い返すくらいが関の山である。
数百年続くこのバカげた宗教戦争を根っこから終わらせるには、出力が足りない!
——まさに、その時だった。
「あらあら、お外はずいぶん賑やかねえ〜」
ピリピリと張り詰めた戦場のど真ん中。
そこを、エプロン姿のお母さんが、空のお重箱を片手にトコトコと歩いてきたのだ!
「……えっ、お母さん⁉︎ まだいたの⁉︎」
「やあね、寮のキッチンにお重箱の風呂敷を忘れてたのよ。あらルーツちゃん、なんだか目が赤いけど、喧嘩でもしたの?」
兵士の間を「はい、通りますよ〜」とすり抜けて、お母さんが私の前に立つ。
私は、天の助けとばかりに両手を合わせた。
「お母さん! 私が生まれた時に貸したアレ、今だけ返して! ほんの少しの間でいいから‼︎」
「あらあら、お小遣いの前借りみたいなものね? いいわよ、ほらどうぞ」
お母さんが、にっこりと微笑んだ。
そして私の前髪をかき分け、自分のおでこを、私のおでこにコツンと合わせた。
——ドクンッ‼︎
その刹那。
十六年間、お母さんを守り続けていた莫大な『始元の権能』が一〇〇%還流した!
身体の奥底から、無限の熱量が溢れ出す。
黒髪が夜風にふわりと舞い上がった。
周囲の重力そのものが、主の完全なる帰還に歓喜してひれ伏す!
「ふぅ……! これこれ、この感じ!」
私が軽く右手を振るう。
すると、砕け散っていた中庭の石畳も、広場で戦っていたヒルデさんやカイルくんたちの疲労も、一瞬で『無傷』へと巻き戻った!
足元に散らばる白い紙吹雪の上で、ミナちゃんがぱちくりと目を瞬かせる。
私は彼女に、ウインクを一つ飛ばした。
そして、隣で座り込んでいる二人の少女——ノルスとサアスの前へと歩み寄る。
「……ル、ルーツさん……」
「……ご、ごめんなさい、ルーツちゃん。私たち、聖女だったこと、隠してて……」
力を失い、子犬のように俯く二人。
私はしゃがみ込み、二人の小さな手を取って引き起こした。
そのまま、蒼銀の髪と黄金の髪の額に、自分の額を順番にコツンと合わせる。
「さっきは、ひどいこと言ってごめんね。『知らない』なんてウソ。昔の黒歴史を知られてたのが、本当は恥ずかしかっただけ、なんだ」
私は、二人の瞳をまっすぐ見つめて微笑んだ。
「二人が聖女様だろうと、関係ないよ。ノルスとサアスは、私と一つ屋根の下で暮らす、大切な友達だから」
ギュッと、二人の手を強く握りしめる。
「はい! もう解約されるサブスクじゃない。今からは、私の魂に『直結』するからね!」
——カァァァァァァッ‼︎
直接注ぎ込まれた純度一〇〇%の権能と愛を受け、二人の身体が眩い光に包まれた。
ノルスの澄んだ蒼い瞳が、宝石のように輝く。
サアスの焔らぐ紅い瞳が、太陽のように照る。
二人の背中に、絶対零度の『白銀の氷翼』と、すべてを照らす『黄金の炎翼』が広がった。
神話さながらに復活した二大聖女が、私の左右へと誇らしげに並び立つ——!
「「ええ……この身も魂も、すべてはルーツさん(ちゃん)と共に——‼︎」」
□■□■□
「よし、では最後の仕事といこうか」
私は、お母さんがキッチンから持ってきてくれた『実家の特大玉ねぎ』を左手に受け取ると、ふわりと夜空へ舞い上がった。
右には氷の聖女、左には炎の聖女。
空中でパチン、と指を鳴らす。
聖都の夜空と、遠く離れた『北の王都ノールガルド』および『南の最高公爵議会サザンクロス』の上空を——ダイレクトに直結させた!
大陸全土の夜空が、巨大なスクリーンのように私たちの姿を映し出す。
『『『な、なんだあれは⁉︎ 夜空に巨大な神様と、翼を生やした聖女様が浮かんで……⁉︎』』』
大陸中の人々がパニックに陥る中。
私は、赤ん坊の頭ほどもあるツヤツヤの『特大玉ねぎ』を天高く掲げ、奇跡を大いに無駄遣いして大陸全土に向けて叫んだ!
『——あー、テストテスト! 北の連中も、南の連中も、地下のおじいちゃんたちも、今から言うことを、全員よーく聞きなさい!』
私の声が、数千キロの大地を震わせる。
『いいかお前ら! 私が一〇〇〇年前と五〇〇年前に言ったのは、「ほどほどに早く寝て、ほどほどに美味しいものを食べて、みんなで仲良く暮らせ」って、それだけなんだよ!』
眼下で震えているコルド将軍とブレイズ団長を、ビシッと指差す。
『さっきの一粒目の涙は、省エネモードだったから、感情が浄化されるだけで済んだの! でも、今は一〇〇%のフルパワーだからね⁉︎』
私は、左手の『特大玉ねぎ』に、右手のチョップをスッと添えた。
『今すぐすべての武器を捨てて、南北で仲直りをしなさい! もし三秒以内に謝らないなら……この特大玉ねぎを真っ二つに切って、本気の「二粒目の涙」を流すからね⁉︎』
(……あれ? これ、傍から見たら完全に世界を脅す魔王のムーブでは?)
ピタリ、と。
大陸全土から、音が消えた。
直後、大人しくなっていたコルド将軍とブレイズ団長が、顔面蒼白の表情で絶叫した!
「ひ、ひいいいいいっ⁉︎ ま、待ってくだされ始元者様ァァァッ‼︎」
「一粒目ですら、我らの五〇〇年の狂信が焼かれたのですぞ⁉︎ 完全版の二粒目など浴びたら、記憶も魂もすべて浄化され、人類が全員バブちゃん(赤子)に初期化されてしまいますッッッ‼︎」
『『『もう泣いておられる! 神様が特大の玉ねぎを持って、人類をバブちゃんに初期化されるおつもりだァァァッ⁉︎』』』
次の瞬間だった。
——ズザァァァァァァァッ‼︎
聖都を包囲していた数万の兵士たち。
さらには、空の向こうで見守っていた北の国王と、南の公爵たちに至るまで——!
大陸全土、数千万の人類が、一糸乱れぬ動きで地面へと飛び込み、『世界規模・ジャンピングストレート土下座』をかましたのである‼︎
『『『ごめんなさい! 今日からほどほどに仲良くしますから、どうか玉ねぎだけは切らないでえぇぇぇぇぇっ⁉︎』』』
地下司令室でも、学園長と枢機卿たちが「おお、大陸全土で我らのフレンドリー挨拶運動が……ッ!」と感涙にむせびながら突っ伏している。
地上では、唯一立ったままのお母さんが、夜空を見上げてニコニコと手を振っていた。
「あらあら、お空の上で大活躍ねえ〜」
うんうん、素直に謝れるのが一番えらいよね!
「よろしい皆の衆! これにて一件落着とする」
私は満面の笑みで頷き、パチンと指を鳴らした。
——パァァァァァァァッ……!
音も、衝撃もなかった。
聖都を包囲していた無数の戦車も、冷たい鉄の剣や槍も、さらには地下に眠っていた百門の最終兵器『カナン・ノア』に至るまで。
それはさながら、創世の神話のごとく。
大陸中のすべての『兵器』が、一瞬にして、夜空へ還っていく『七色の虹の粒』へと分解され、星々の中へと溶けて消えていったのだ。
そして、軍勢が踏み荒らした大地と、地下の大空洞は——ふわふわふわっと。
見渡すかぎり果てしなく広がる、『純白の百合の花畑』と『世界最大の特大玉ねぎ畑』へと、美しく上書きされていくのであった。
正面広場でその光景を見上げていたヒルデさんとカイルくんも、目をパチクリとさせている。
「……あ、あら? もしかして、ぜんぶ終わってしまいましたの?」
「うん、みたいだね……。じゃあ僕、この花畑でお昼寝するから……おやすみ」
——こうして。
数百年間続いた南北の宗教戦争は、『始元者』のハッタリと玉ねぎ一つによって、文字通りあっという間に、完全終結したのである——!
□■□■□
——そして、翌朝。
「ふぁぁ……。平和な朝が一番だねえ」
私は再びお母さんに権能の半分を預け、いつもの『魔力七七の一般特待生ルーツ』へと戻り、教室の机で頬杖をついていた。
なお、本当は二粒目を泣いてもバブちゃんにはならない(……たぶん!)。
……え? お前さんは昨日のアレで、大陸中に顔バレしたんじゃないかって?
ご安心いただきたい!
私は最後に指を鳴らした時、ついでに大陸中の人々の認識へ『夜空の神様は、眩しすぎてお顔がよく見えなかった』という、ちょびっと都合のいいモザイク処理をかけておいたのだ。
——うーん、奇跡(マジ)って素晴らしい!
さらに今朝、学園長や南北の首脳陣が緊急会議を開き、『始元者様は、名もなき一般生徒としてのお戯れを望んでおられる。ゆえに、正体を探ろうとした者は即座に反逆罪!』と満場一致で決議したらしく、学園中がこれまで以上に徹底した『知らないフリ』で私を迎えてくれたのである。
——うーん、奇跡(権力)って素晴らしい!
なお、あのコルド将軍とブレイズ団長の二人の処分は、今日から購買部で黒いサングラスを着け、一生クレープとオニオンリングを焼く労働刑に決定したとかなんとか風の噂が……?
教室を見渡せば。
少し離れた席では、ヒルデさんとカイルくんが、マカロンを分け合ってうたた寝をしている。
そして私のすぐ前の席では、ミナちゃんが新しいノートを開き、誇らしげにペンを走らせていた。
タイトルは——『普通の学園生活・第八版』。
『第一条:友達と一緒に、大好きなイチゴ生クリームクレープを食べること』
そして私の両隣には、魂を『直結』して今まで以上に甘く密着してくるノルスとサアスが。
「ああ、これがモラトリアム……!」
——そう、今度こそは。
平穏な学園生活が始まったはずだったのだ——。
□■□■□
ガララッ! と教室の扉が開いた。
「失礼いたしますッ‼︎」
入ってきたのは、蓮の花のような微笑みを浮かべた、墨髪の少女だった。
「お会いしとうございました、我ら『虚無聖教(きょむせいきょう)』の開祖様……! あなた様が二〇〇〇年前の『最初の人生』にて、遠く東の竹林で仰せになられた『働いたら負けかなと思ってる。すべての欲を捨ててフトンで寝よ』という究極の真理……我ら東方一億の民は、今も一言一句違わず守り続けております……!」
「……えっ?」
私の脳裏に、一〇〇〇年前の北よりもさらに昔——一番最初の人生で、東の大地で緑茶をすすりながら適当にこいたニート発言の記憶が蘇った。
北の禁欲。
南の享楽。
そして東の——虚無!
「さあ開祖様、俗世の学園なぞ今すぐ解脱(退学)し、私めと永遠のフトンへ参りましょう!」
「なっ……⁉︎ ルーツさんは渡しません!」
「ちょっと! ルーツちゃんは独占禁止だよ!」
右からは北の聖女、左からは南の聖女、そして正面からは——『東の聖女』までが。
三方向からサンドウィッチ状態に挟まれる!
私は教室の天井を見上げ、遠い目をして呟いた。
いにしえの格言は、いつだって正しい。
二度あることは、三度ある。
——なら、人生『四周目』の今は?
「私の……モラトリアム……!」
—END—
ここまでの読了、本当にありがとうございました!
少しでも面白いと思っていただけたのなら幸いです
またきっと、いつかの物語で会えることを祈ります
——それでは、また