僕のヒーローアカデミア 原罪   作:神代シン

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第九話「お前を殺した男」

1 呼び出したのは、殺された側だった

「……本当に、呼ぶんですね?」

 

支援施設の相談員は、手元の申請書を見つめたまま尋ねた。

 

向かいに座る仁は、椅子の上で落ち着かなさそうに身体を揺らしていた。

 

「いや、だから呼べって言ってるじゃないですか!」

 

「いえ、確認です。先日お会いになった際には、ホークスさんに話しかけないでほしいとおっしゃっていたので」

 

「言いましたね!」

 

「今回、面会を申し込むというのは――」

 

「そう! 俺が申し込むんです! 俺が! 俺の意思で! 誰かに無理やりやらされてるんじゃない! いや、誰かにやらされてるほうが楽な気もするけど、そんなこと言ったら自分の意思が迷子になるだろ!」

 

一息でまくしたてた仁は、ぜいぜいと息をついた。

 

相談員は、黙って水の入ったコップを差し出した。

 

「ありがとうございます! ……ああ、すみません、俺、いつもこんな感じで」

 

「大丈夫ですよ」

 

「いや、大丈夫じゃないんですよ。俺の人生、だいたいこんな感じで大丈夫じゃないんです!」

 

口では騒いでいても、仁の指先は書類の端を強く握っていた。

 

面会申請書。

 

相手の名前を書く欄には、すでに記入してある。

 

鷹見啓悟。

 

ヒーロー名、ホークス。

 

その下には、面会の目的を書く欄があった。

 

仁は、そこを何度も書き直していた。

 

「事情確認」

 

違う。

 

「過去の出来事について話すため」

 

間違ってはいない。

 

「個人的な話し合い」

 

まるで友人同士の約束みたいで、嫌だった。

 

結局、そこには何も書けなかった。

 

相談員は、無理に促さなかった。

 

「面会の目的を、今ここで完璧に説明する必要はありません。ただ、いくつか条件を決めておくといいと思います。話したくないことがあれば、話さなくていい。途中でやめたくなったら、いつでもやめられます」

 

「……はい」

 

「相手が何を話しても、同意する必要はありません。理解できても、納得する必要はありません。逆に、話を聞いても分からないことが残るかもしれません」

 

「……分かってます」

 

仁は、そう答えた。

 

だが、分かっていることと、実際にできることは違う。

 

そんなことは、嫌というほど知っていた。

 

「あと、面会の場所についても、希望があれば調整します。人の出入りが少なく、途中で退室できる部屋を用意できます。扉は閉めない形にもできます」

 

「……扉、開けといてください」

 

「分かりました」

 

「あと、護衛とか、警察の人とか、いっぱい周りに立たせないでください。俺、犯罪者だからって、檻に入れられてる気分になるのは嫌なんで」

 

「必要以上に威圧的な配置にはしません。ただ、双方の安全を守るための職員は、少し離れた場所に待機することになります」

 

「それでいいです」

 

仁はうなずいた。

 

「それから……」

 

言葉が止まった。

 

相談員は待った。

 

仁は、自分の手を見た。

 

「……あいつが、何を言っても」

 

「はい」

 

「俺が、何を言っても」

 

「はい」

 

「……俺が途中で怒鳴っても、帰っても、いいんですよね?」

 

「もちろんです」

 

仁は顔を上げた。

 

「俺が、あいつの話を最後まで聞けなかったとしても?」

 

「それも、あなたが決めていいことです」

 

その言葉を聞いても、仁の表情は晴れなかった。

 

むしろ、困ったように眉を寄せた。

 

「……やめるのも、俺が決めるんだ」

 

「はい」

 

「最後まで聞くかどうかも?」

 

「はい」

 

「……ああ、そうか」

 

仁は笑った。

 

今度は、少しだけ本当の笑顔に近かった。

 

「そうだよな。そうじゃなきゃ、おかしいよな」

 

死んだとき、自分は何も選べなかった。

 

自分が何を望むかを、最後まで貫けたのかさえ、分からない。

 

誰が正しかったのか。

 

何が必要だったのか。

 

自分の死が、ほかの誰かにとってどんな意味を持つのか。

 

すべて、ほかの人間が決めてしまう。

 

それでも。

 

今の自分が誰と話すか。

 

何を聞くか。

 

何を受け入れないか。

 

その程度のことくらいは、自分で決めてもいいはずだった。

 

仁は、申請書の最後の欄に目を落とした。

 

「……面会の目的、書けました?」

 

相談員が尋ねた。

 

仁はしばらく考えたあと、ゆっくりとペンを動かした。

 

そこに書いたのは、短い一文だった。

 

「俺を殺したとき、何を考えていたのか聞くため」

 

書き終えると、仁はペンを置いた。

 

「……これでいいです」

 

相談員は、その一文を読んだ。

 

それから、静かにうなずいた。

 

「分かりました。ご本人の意思として、先方にお伝えします」

 

「お願いします」

 

仁は立ち上がった。

 

扉へ向かいかけて、足を止める。

 

「……あの」

 

「はい?」

 

「もし、あいつが来なかったら」

 

相談員は、すぐには答えなかった。

 

「その場合も、こちらから理由を確認することはできます。ただ、面会するかどうかは、相手にも選ぶ権利があります」

 

仁は、口元をゆがめた。

 

「……ですよね」

 

来ないかもしれない。

 

来たくないのかもしれない。

 

自分と話すことに意味がないと判断するかもしれない。

 

ホークスには、ホークスの事情がある。

 

それを分かってやる義務など、本当はない。

 

仁自身、相手の選択を尊重しようと思って面会を求めているわけではなかった。

 

知りたいのだ。

 

聞かなければ、自分のなかで、あの男の姿が勝手に膨らんでいく。

 

英雄としての顔。

 

裏切り者としての顔。

 

自分を殺したときの顔。

 

どれも本当で、どれも全部ではないのかもしれない。

 

「……来なかったら、来なかったで」

 

仁は呟いた。

 

「そのときは、そのときです」

 

自分に言い聞かせるように。

 

「俺が聞きたいって思ったことまで、なかったことにはしないんで」

 

彼は部屋を出た。

 

相談員の手元には、署名された申請書が残された。

 

殺された男が、自分を殺した男を呼び出す。

 

それは、和解の申し込みではなかった。

 

過去をなかったことにするための招待状でもなかった。

 

ただ一つの質問を、自分自身の口でぶつけるためのものだった。

 

2 英雄が受け取った手紙

ホークスが連絡を受けたのは、その日の午後だった。

 

「分倍河原さんから、面会の申し込みがありました」

 

担当者の言葉を聞いても、ホークスはすぐには返事ができなかった。

 

一瞬、耳が聞き間違えたのかと思った。

 

「……仁さんが?」

 

「はい。ご本人からの申し込みです。過去の出来事について、あなたに確認したいことがあるとのことです」

 

過去の出来事。

 

随分と柔らかい表現だった。

 

その言葉のなかに、どれほどの痛みが含まれているのだろう。

 

ホークスは、机に置いた手を見つめた。

 

「……分かりました」

 

返事をするまでに、少し時間がかかった。

 

「面会の条件は?」

 

「扉は開けておくこと。過度に威圧的な警備配置は避けること。本人の意思で、いつでも面会を中断できること。ほかにも細かな希望がありますが、すべて調整可能です」

 

「そうですか」

 

ホークスは、うなずいた。

 

「その条件でお願いします」

 

担当者が、少しだけ表情を変えた。

 

「よろしいのですか?」

 

「……ええ」

 

「ご自身も、かなり負担があるのではないかと思いますが」

 

「俺の負担は、今回の条件とは関係ありませんよ」

 

ホークスは静かに答えた。

 

「彼が望んだ形で話せるようにしてください。俺が楽な形に変える必要はありません」

 

担当者は、それ以上尋ねなかった。

 

ホークスは、連絡を終えてからもしばらく動かなかった。

 

仁が、自分を呼んだ。

 

その事実が、すぐには理解できなかった。

 

もちろん、会いたかった。

 

一度でいいから、話したいと思っていた。

 

生きていてよかったと伝えたい。

 

あの日について、何を考えていたのかを説明したい。

 

謝りたい。

 

謝罪を受け入れてもらえなくてもいい。

 

それでも、自分が何をしたのかを、直接伝えたい。

 

だが、仁は自分に「話しかけるな」と告げていた。

 

その言葉を受け入れた以上、自分から近づくことはしないつもりだった。

 

だから、面会の申し込みは、想定していなかった。

 

「……何を話せばいいんだろうな」

 

口に出してから、ホークスは苦笑した。

 

違う。

 

何を話したいかではない。

 

仁は、何を聞きたいのか。

 

そして、自分は、何を隠さずに答えなければならないのか。

 

そこから考えなければいけない。

 

机の引き出しを開ける。

 

奥には、報告書が入っていた。

 

当時の戦闘記録。

 

現場の状況。

 

敵連合の動き。

 

トゥワイスの個性の危険性についての分析。

 

自分が行った判断についての記録。

 

どれも、仕事として必要なものだった。

 

そして、どれも、説明するためには便利な資料だった。

 

ホークスは、一枚ずつ目を通した。

 

トゥワイスの分身が増え続けた場合の被害予測。

 

戦場での機動力。

 

他の敵との連携。

 

止めなければ、被害が急速に拡大する可能性。

 

これらの記録は嘘ではない。

 

あの時点で、彼を止める必要性はあった。

 

それを今でも、ホークスは否定できなかった。

 

だが、資料の最後まで読んだとき、彼は一つの事実に気づいた。

 

そこに記されているのは、トゥワイスという脅威の分析であって、分倍河原仁という人間についての答えではない。

 

報告書は、敵の戦力を測る。

 

危険を予測する。

 

優先順位を決める。

 

そのために作られるものだ。

 

だから、そのなかでは、仁の恐怖も、彼が仲間に抱いていた気持ちも、誰かを必要とした過去も、戦う理由も、必要な情報として扱われない。

 

それが仕事の記録として間違いだとは限らない。

 

だが、今、仁に話すために、報告書だけを持っていくわけにはいかなかった。

 

「……数字を並べて、はい説明しました、じゃ駄目だよな」

 

ホークスは、書類を閉じた。

 

彼の前に立つのは、敵の能力を評価するための対象ではない。

 

自分が殺した人間だ。

 

それを忘れたまま説明を始めれば、今度もまた、仁の気持ちを資料の外へ追いやることになる。

 

ホークスは、立ち上がった。

 

翼が、かすかに揺れる。

 

「……逃げずに行こう」

 

彼は、誰にも聞こえない声で言った。

 

必要性を説明することから逃げない。

 

判断の責任を、ほかの誰かに押しつけない。

 

自分のしたことを、英雄という肩書で覆い隠さない。

 

そして、仁が自分を許さないことからも逃げない。

 

面会を申し込んだのは、仁だった。

 

だから、今度は自分が、彼の言葉を待つ番だった。

 

3 扉は開けたまま

面会室は、思っていたよりも小さかった。

 

白い壁。

 

四角いテーブル。

 

椅子が二脚。

 

壁際には水の入ったボトルが置かれている。

 

窓は高い位置にあり、外の景色はほとんど見えない。

 

扉は、少し開けられていた。

 

廊下の向こうには、職員が一人、離れて立っている。

 

ホークスは、部屋に入ってすぐ、その配置を確認した。

 

逃げ道を塞いでいない。

 

威圧するための人員もいない。

 

面会をやめたければ、すぐに出ていける。

 

仁が指定した条件は、きちんと守られていた。

 

ホークスは、椅子の片方に座った。

 

いつも着ているヒーローの衣装ではなかった。

 

それでも、背中には翼がある。

 

それを隠すことはできない。

 

隠す必要もない。

 

自分が何者であるかを曖昧にするために、ここへ来たのではないからだ。

 

数分が過ぎた。

 

廊下から足音が聞こえる。

 

一度、止まる。

 

また歩き出す。

 

そして、扉の前で止まった。

 

仁が、顔を出した。

 

「……いるな」

 

「はい」

 

「……逃げてないな」

 

「逃げていません」

 

仁は、しばらくホークスを見ていた。

 

その視線が、顔から翼へ移る。

 

背中にある赤い翼。

 

かつて自分を追い詰め、自分の命を奪った力。

 

仁は、顔をしかめた。

 

「……やっぱり、いるんだよな。お前」

 

ホークスは答えなかった。

 

仁は部屋に入り、向かい側の椅子に座った。

 

背もたれに寄りかからず、テーブルにも手を置かず、いつでも立ち上がれる姿勢だった。

 

「……先に言っとくけど」

 

仁が言った。

 

「俺、今日、仲直りしに来たんじゃないからな」

 

「分かっています」

 

「いや、分かってる顔すんなよ!」

 

突然、仁が声を上げた。

 

「お前、そういうところあるだろ! こっちが何か言うと、何でも分かりましたって顔して、ちゃんと受け止めてますって感じ出すだろ! 俺のこと、何でも分かったつもりになるなよ!」

 

ホークスは、少しだけ目を伏せた。

 

「……すみません。今のも、俺が勝手に決めつけたように聞こえたなら――」

 

「そうじゃない!」

 

仁は、テーブルを叩きかけて、手を止めた。

 

自分が何に怒っているのか。

 

何を言いたいのか。

 

それを、うまく言葉にできなかった。

 

「……くそっ。違うんだよ。いや、違わないんだけど! 違わないけど、何て言えばいいんだよ!」

 

仁は頭を抱えた。

 

「俺は、まだ、お前が何を考えてたのか知らねえんだよ。だから聞きに来たんだ。お前のこと、全部分かったわけじゃない。分かりたくないこともある。聞いたからって、納得できるとも思ってない!」

 

彼は顔を上げた。

 

「……ただ、聞きたいんだよ」

 

ホークスは、口を挟まなかった。

 

「俺が死んだとき、お前は何を考えてた?」

 

仁の声が、低くなった。

 

「俺を殺すとき、お前は何を考えてたんだ?」

 

ホークスは、すぐには答えられなかった。

 

簡単な質問だった。

 

そして、最も難しい質問でもあった。

 

何を考えていたか。

 

危険を止めなければならない。

 

仲間を守らなければならない。

 

被害が拡大する前に、決着をつけなければならない。

 

その場で考えていたことを列挙するなら、いくつでも挙げられる。

 

だが、仁が知りたいのは、作戦上の判断だけではないのだろう。

 

自分が、自分を信じた男の命を奪う瞬間。

 

ホークスは、何を選んだのか。

 

何を優先したのか。

 

仁という人間を、どこまで考えていたのか。

 

「……危険を止めなければいけないと思っていました」

 

ホークスは、答えた。

 

「あなたの個性が、戦場全体に広がる可能性があった。分身が増え続ければ、こちらの戦力を上回り、多くの人が傷つく。そうなる前に止めなければいけないと考えていました」

 

仁は黙っていた。

 

ホークスは続けた。

 

「俺は、あなたに戦うのをやめてほしかった。仲間のために動いていることは分かっていました。でも、あなたが仲間を助けようとすればするほど、戦況は悪化する可能性があった」

 

「……それで?」

 

仁の声は、冷たかった。

 

「それで、俺を殺したのか?」

 

「……はい」

 

ホークスは、目をそらさなかった。

 

「俺は、あなたを止めることを選びました。そして、その結果、あなたを殺しました」

 

部屋のなかが静かになった。

 

仁は、しばらくホークスを見つめていた。

 

「……そっか」

 

小さく、そう言った。

 

「……そうかよ」

 

目の前の男は、言い逃れをしなかった。

 

少なくとも、今のところは。

 

仁は、膝の上で拳を握った。

 

「……じゃあ、聞くぞ」

 

「はい」

 

「お前は、俺が死んでも仕方ないと思ってたのか?」

 

ホークスの呼吸が、わずかに止まった。

 

「……あの場では、あなたを止めるために、そういう結果もあり得ると考えていました」

 

「そういう結果?」

 

仁は笑った。

 

「俺が死ぬことを、そういう結果って言うのか?」

 

「……」

 

「いや、分かるよ。戦闘だもんな。危険な状況だったんだもんな。人が死ぬこともある。分かる、分かるよ! 俺だって、それくらい分かるんだよ!」

 

仁の声が、少しずつ大きくなる。

 

「でもさあ! 俺は、そこで死んだんだぞ! お前が考えてた可能性の一つじゃなくて、俺にとっては、それで終わりだったんだよ!」

 

ホークスは、動かなかった。

 

「俺は、生きて帰りたかったんだ!」

 

仁の叫びが、壁にぶつかった。

 

「俺だって、帰りたかったんだよ! みんなのところに! トガちゃんのところに! スピナーのところに! 死柄木のところに! コンプレスのところに!」

 

声が、ひっくり返った。

 

「……俺は、あいつらを見捨てたくなかった」

 

仁は、唇を噛んだ。

 

「俺が行かなきゃ、あいつらが危ないと思ったんだ。俺が助けなきゃ、どうにもならないと思ったんだ。俺が、何とかしなきゃって……」

 

言葉が途切れた。

 

仁は、目を閉じた。

 

「……俺は、俺なりに必死だったんだよ」

 

それは、言い訳ではなかった。

 

自分の行為が正しかったと証明するための言葉でもなかった。

 

仁は、自分が何をしたのかを知らないわけではない。

 

自分の個性が、戦場にとってどれほど危険だったのか。

 

誰かを守ろうとした行動が、別の誰かを危険にさらしていたこと。

 

彼自身、すべてを正しかったとは言えない。

 

だが、だからといって、自分の願いが最初から存在しなかったことになるわけではない。

 

彼は、生きたかった。

 

仲間を助けたかった。

 

その願いを抱えて、戦っていた。

 

そして、その途中で、殺された。

 

ホークスは静かに言った。

 

「……分かっています」

 

仁の目が、鋭く動いた。

 

「また、それかよ」

 

「……」

 

「分かってるって、何だよ。お前、俺がどんな気持ちだったか分かんのかよ。俺が何を怖がってたか、何を守りたかったか、何を思ってたか、分かるって言うのか?」

 

ホークスは、答えを急がなかった。

 

「……全部は分かりません」

 

仁の顔が、ほんの少しだけ変わった。

 

「俺は、あなたの考えをすべて知っているわけではありません。俺が分かったつもりになれば、あなたの気持ちを、俺に都合のいい形に変えてしまうかもしれない」

 

ホークスは、まっすぐ仁を見た。

 

「でも、あなたが仲間を見捨てたくなかったことは、覚えています。あなたが、自分のことより仲間を優先しようとしていたことも」

 

「……それが、何だよ」

 

「それが、あなたを殺していい理由になるとは思いません」

 

仁は、言葉を失った。

 

ホークスは続けた。

 

「俺は、あなたの個性が危険だったことを説明できます。あなたを止めなければ、さらに多くの人が傷つく可能性があったことも説明できます。俺が、あのとき何を考えて、何を恐れていたのかも説明できます」

 

彼は、一度、息を吸った。

 

「でも、どれだけ説明しても、あなたの死を、ただの必要な結果に変えることはできません」

 

仁は、拳を握ったまま動かなかった。

 

「……それで?」

 

「それで、俺が何を選んだのかを、あなたに隠さず話したいと思っています」

 

「……隠さず?」

 

「はい」

 

ホークスは答えた。

 

「俺は、あなたを止める必要があると判断しました。そして、止めるために戦い、あなたを殺した。その責任は、俺にあります」

 

仁は、鼻で笑った。

 

「……何だよ。急に立派なこと言いやがって」

 

「立派なことではありません」

 

「じゃあ何だよ」

 

「……事実です」

 

その言葉に、仁の表情がわずかに歪んだ。

 

事実。

 

そうだ。

 

事実なのだ。

 

ホークスは、自分を殺した。

 

そして、その理由がある。

 

その二つは、同時に存在している。

 

片方が本当だからといって、もう片方が消えることはない。

 

仁は、そのことを理解した。

 

理解してしまった。

 

だからこそ、余計に苦しかった。

 

4 お前の正義に、俺の人生を片づけさせるな

「……一つ、聞いていいか」

 

仁が言った。

 

「どうぞ」

 

「俺が、お前のことを友達だと思ってたのは……お前にとって、何だったんだ?」

 

ホークスの表情が止まった。

 

この質問が来ることを、どこかで予想していた。

 

いや、予想していたというより、恐れていたのだ。

 

「……任務だったんだろ?」

 

仁は、先に言った。

 

「俺たちに近づいて、情報を集めて。俺たちの仲間になったふりをして。俺が、お前のことを信用してたのも、全部、任務の役に立ったんだろ?」

 

「……はい」

 

ホークスは、答えた。

 

「あなたに近づいた目的は、情報を得るためでした。俺は、敵連合の動きを把握する必要がありました。そのために、あなたとの関係を利用しました」

 

「……ははっ」

 

仁は笑った。

 

「そうだよな。そうだよ。そりゃそうだよな。俺なんか、騙されて当然だよなあ!」

 

笑い声は、すぐに途切れた。

 

「……でもさ」

 

仁は、目の前の男を見た。

 

「お前、笑ってたよな」

 

ホークスは、何も言わなかった。

 

「俺が変なこと言ったら、笑ってた。くだらない話をしても、笑ってた。俺が、みんなの話をしたときも……」

 

仁は顔を伏せた。

 

「……お前は、笑ってたんだよ」

 

そこにあった記憶を、否定できなかった。

 

ホークスは、あの時間を思い出していた。

 

仁は、よく喋った。

 

思いつくままに話し、途中で矛盾し、突然別の話題へ移った。

 

自分を大きく見せようとすることもあれば、自分の失敗を笑い飛ばすこともあった。

 

仲間の話をするときには、声の調子が変わった。

 

冗談を言い、調子よく笑いながら、その中心にはいつも、誰かと一緒にいたいという気持ちがあった。

 

ホークスは、そのことに気づいていた。

 

気づいていながら、利用した。

 

「……笑っていました」

 

ホークスは答えた。

 

仁の目が、ゆっくりと上がる。

 

「……は?」

 

「あなたと話していて、実際に面白いと思うことがありました。あなたが仲間を大事にしていることも、本当だと思いました。俺自身、あなたと話していて楽しいと感じた時間はありました」

 

仁は、じっと彼を見ていた。

 

「……じゃあ、友達だったのか?」

 

ホークスは、答えに詰まった。

 

友達。

 

その言葉を、簡単に使うことはできなかった。

 

自分は、仁の信頼を利用した。

 

目的を隠して近づき、仲間のように振る舞った。

 

彼が自分に抱いた友情と、自分が彼に向けていた感情を、同じものとして語る資格があるのだろうか。

 

「……俺は、あなたが俺を友達だと思ってくれていたことを利用しました」

 

ホークスは言った。

 

「だから、俺から、あの時間も友情だったと主張することはできません」

 

仁の表情が、硬くなった。

 

「……何だよ、それ」

 

「……」

 

「お前が笑ってたのは本当なんだろ? 面白いと思ったことも、本当なんだろ?」

 

「はい」

 

「じゃあ、それも嘘だったって言うのか?」

 

「……違います」

 

ホークスは、初めて、はっきりと答えた。

 

「俺が笑ったことまで、嘘だったと決めつける必要はないと思っています。ただ、その気持ちが本物だったとしても、俺があなたを騙した事実は消えません」

 

仁は黙った。

 

「あなたが俺を友達だと思っていた。その信頼を、俺は作戦のために利用した。俺があなたに対して何かを感じていたとしても、それを理由に、あなたが受けた裏切りを軽くすることはできません」

 

ホークスは、目をそらさなかった。

 

「……俺が楽しかったから、あなたも許してくれ、なんて言うつもりはありません」

 

仁は、長いこと黙っていた。

 

やがて、小さく息を吐いた。

 

「……そうか」

 

ひどく疲れた声だった。

 

「……そうなんだな」

 

仁は、視線をテーブルに落とした。

 

自分が信じた男には、確かに目的があった。

 

自分を騙した。

 

それは、事実だ。

 

しかし、自分が感じた時間のすべてが、偽物だったと決めつけることもできない。

 

そう言われたところで、嬉しいわけではなかった。

 

むしろ、どちらかに決まってくれたほうが、楽だった。

 

全部が嘘なら、すべてを憎めばいい。

 

全部が本当なら、自分は騙されたわけではないと思い込める。

 

だが現実は、そんなに都合よくできていなかった。

 

嘘と本当が、同じ時間のなかにあった。

 

ホークスは、自分を利用した。

 

それでも、二人が笑った瞬間まで、誰かが後から消し去れるわけではない。

 

それが何を意味するのか。

 

仁は、まだ決められなかった。

 

「……なあ、ホークス」

 

「はい」

 

「お前、自分のことを正義の味方だと思ってるか?」

 

ホークスは、少しだけ考えた。

 

「……俺は、ヒーローとして人を守るために働いてきました」

 

「質問に答えろよ」

 

仁が言った。

 

「自分のこと、正義の味方だと思ってるのか?」

 

今度は、ホークスも逃げなかった。

 

「……以前は、そう思っていたのかもしれません」

 

「今は?」

 

「今も、人を守るために働きたいと思っています。でも、それと、自分が何をしても正しいということは違います」

 

仁は、乾いた笑いを漏らした。

 

「……いいこと言うじゃねえか」

 

そして、その笑いが消えた。

 

「でもよ」

 

声が低くなる。

 

「お前の正義のために、俺は死んだんだ」

 

ホークスは黙っていた。

 

「お前が正しいと思ってたことのために、俺は死んだんだよ」

 

仁は、ゆっくりと言葉を重ねた。

 

「お前が俺を危険だと判断した。俺を止めなきゃいけないと判断した。ほかの人を守らなきゃいけないと判断した。……それは、お前が決めたことだよな?」

 

「……はい」

 

「なら、その結果も、お前が引き受けろよ」

 

ホークスの指先が、わずかに動いた。

 

「俺を殺さなきゃいけなかった理由があったのは、分かった。お前が、俺を危険だと思ったのも分かった。俺の個性が、ほかの人にとって脅威だったのも、否定しない」

 

仁は、ホークスを見据えた。

 

「でも、それで、お前が俺を殺したことが、正しいことになるわけじゃねえだろ」

 

「……はい」

 

「俺が敵だったからって、俺が悪い奴だったからって、俺がやろうとしたことが間違ってたからって……」

 

仁は、言葉を探した。

 

「……俺の人生まで、お前の正義で片づけるなよ」

 

その声は、怒鳴り声ではなかった。

 

だからこそ、重かった。

 

仁は、正義という言葉そのものを否定しているのではない。

 

人を守ろうとすることが、間違いだと言いたいわけでもない。

 

ただ、自分が危険だったという事実によって、自分という人間のすべてを説明されたくなかった。

 

自分が誰を大切に思ったのか。

 

何を恐れていたのか。

 

なぜ戦ったのか。

 

何を失ったのか。

 

それらすべてが、敵という一語で整理されてしまう。

 

そんなことを、認めたくなかった。

 

ホークスは、静かにうなずいた。

 

「……あなたの言う通りです」

 

仁は睨んだ。

 

「また、分かったつもりかよ」

 

「……いいえ」

 

ホークスは、首を横に振った。

 

「あなたの言う通りだと、俺は思います。でも、それであなたの気持ちが全部分かったとは思っていません」

 

彼は、続けた。

 

「俺は、あなたを危険だと判断しました。その判断によって、あなたを殺しました。判断には理由がありました。でも、理由があったことと、結果について責任を負わなくていいことは、別です」

 

ホークスは、自分の手を膝の上で握った。

 

「……俺は、あなたの命を奪いました。それを、正義という言葉で片づけるつもりはありません」

 

仁は、初めて、何も言わなかった。

 

怒りが消えたわけではない。

 

ホークスの言葉を受け入れたわけでもない。

 

ただ、その言葉には、少なくとも今のところ、仁を説得して自分を正しく見せようとする色がなかった。

 

それだけだった。

 

それだけでも、何かが少し変わったような気がした。

 

だが、それは和解ではなかった。

 

まだ、何も終わっていない。

 

5 必要だった、という言葉

しばらくして、仁は水を飲んだ。

 

コップを持つ手が震えていた。

 

彼はそれを隠すように、両手でコップを包んだ。

 

「……じゃあさ」

 

声が少しかすれていた。

 

「お前は、あのとき、本当に俺を殺すしかなかったのか?」

 

ホークスは、すぐには答えなかった。

 

その沈黙に、仁の目が細くなる。

 

「……何だよ。答えられないのか?」

 

「答えられます」

 

ホークスは言った。

 

「ただ、簡単に断言したくないんです」

 

「……どういう意味だよ」

 

「俺は、あの場で、あなたを止めなければならないと判断しました。あなたの個性が戦場に広がれば、取り返しのつかない被害が出る可能性があった。俺は、時間がないと思っていました」

 

「だから殺した?」

 

「はい。俺は、あなたを止めるために戦い、最終的にあなたの命を奪う結果になりました」

 

仁は、顔をしかめた。

 

「それ、さっき聞いた」

 

「……すみません」

 

「俺が聞いてるのは、そこじゃねえんだよ」

 

仁は、テーブルを指先で叩いた。

 

「お前は、ほかに方法がなかったって言い切れるのか? もう少し待つとか、俺を説得するとか、何か別の手段を探すとか。そういう可能性は、本当に全部なくなってたのか?」

 

ホークスは、仁を見た。

 

その質問に、都合のいい答えはなかった。

 

「……あの瞬間、俺は、ほかの方法では間に合わないと判断していました」

 

「判断してた、か」

 

「はい」

 

「……でも、本当に、なかったのか?」

 

ホークスは、息を吐いた。

 

「……俺には、今も、そこを絶対に間違いがなかったと証明することはできません」

 

仁は黙った。

 

ホークスは、言葉を選びながら続けた。

 

「俺は、あの場で必要だと判断しました。それは事実です。でも、俺が必要だと判断したことと、ほかに方法が存在しなかったと証明できることは、同じではありません」

 

「……」

 

「現場では、時間も状況も限られていました。俺は、被害を止めることを最優先にしました。その判断を、今になって簡単に間違いだったと言うつもりはありません。あの判断がなければ、別の被害が出ていた可能性もあります」

 

「……じゃあ、正しかったんだろ」

 

仁の声に、皮肉が混じった。

 

「結局、正しかったんだよ。ほかの人を守れたんだから。お前が選んだことのおかげで、助かった人もいたんだろ。じゃあ、よかったじゃねえか」

 

「……よかったとは思っていません」

 

ホークスは答えた。

 

「俺の判断によって助かった人がいたとしても、それで、あなたを殺したことがなかったことになるわけではありません」

 

「でも、必要だったんだろ?」

 

「必要だったと、俺は判断しました」

 

「同じだろ!」

 

仁が叫んだ。

 

「何が違うんだよ! お前は必要だと思ったから、俺を殺したんだろ! じゃあ、必要だったんじゃねえか!」

 

ホークスは、動かなかった。

 

「……そうです」

 

その答えに、仁は言葉を失った。

 

「俺は、必要だと判断したから、あなたを殺しました」

 

ホークスは、もう一度、はっきりと言った。

 

「そして、その判断をしたのは、俺です」

 

仁の眉が寄る。

 

「……何だよ」

 

「俺は、必要だったと説明することができます。でも、その説明を、あなたに受け入れさせる権利はありません」

 

ホークスは、目を伏せた。

 

「あなたが、俺の判断は間違っていたと思うことも。必要だったとは認めないことも。俺が別の方法を探すべきだったと考えることも。俺に対して、怒りを感じることも。……そのどれも、あなたが決めることです」

 

仁は、固まっていた。

 

ホークスは、続けた。

 

「俺は、自分の判断を説明することから逃げません。でも、それを聞いたあなたが、納得してくれることを前提にはしていません」

 

「……」

 

「あなたに納得してもらえなければ、俺の説明が無意味になるわけではありません。ただ、あなたが納得しなかったからといって、俺が責任を放棄できるわけでもありません」

 

仁は、ゆっくりと息を吐いた。

 

「……お前、ずるいな」

 

ホークスは、顔を上げた。

 

「……そう思いますか」

 

「思うね」

 

仁は、歯を見せて笑った。

 

けれど、その目は笑っていなかった。

 

「お前は、こうやって説明するんだな。必要だったって言う。でも、俺に納得しろとは言わない。俺が怒ってもいいって言う。俺が許さなくても、責任は取るって言う」

 

彼は、首を横に振った。

 

「……そんなこと言われたら、俺、何を言えばいいんだよ」

 

ホークスは答えなかった。

 

仁は続けた。

 

「俺は、お前を責めに来たんだぞ。お前が何を考えてたのか聞いて、納得できなかったら、ふざけんなって言ってやるつもりだったんだ。いや、今だって、ふざけんなって思ってるよ!」

 

仁は、テーブルを叩いた。

 

「お前が俺を殺したんだ! 俺は死んだんだ! 仲間を助けに行こうとして、俺は死んだんだよ!」

 

声が震えた。

 

「……なのに、お前がちゃんと答えるから、俺、何をすればいいか分かんねえじゃねえか」

 

ホークスは、ようやく理解した。

 

仁は、正しい説明を求めていたわけではない。

 

説明を聞けば、感情まで整理できると思っていたわけでもない。

 

彼は、答えが欲しかったのだろう。

 

自分の死に、意味を与えるための答え。

 

自分がなぜ殺されたのか。

 

何をすれば、死なずに済んだのか。

 

自分が間違っていたからなのか。

 

ホークスが正しかったからなのか。

 

そのどれかに決まれば、少しは気持ちを整理できると思っていたのかもしれない。

 

けれど、目の前にいる男は、ひとつの答えに押し込めようとはしなかった。

 

ホークスは、自分の判断を引き受ける。

 

それでも、その判断が仁にとって受け入れられるものになるわけではない。

 

そして、仁が受け入れられないことによって、ホークスの説明が消えるわけでもない。

 

正しさと怒りが、同じ場所に存在してしまう。

 

それが、現実だった。

 

「……仁さん」

 

ホークスが口を開いた。

 

「俺が、あなたの答えを決めることはできません」

 

仁は、顔を上げなかった。

 

「……分かってるよ」

 

「俺が説明できるのは、俺が何を考えたか、何を恐れ、何を選んだかまでです。その結果を、あなたがどう受け止めるかは、俺には決められません」

 

「……分かってるって言ってんだろ」

 

「……はい」

 

仁は、目を閉じた。

 

そして、しばらくしてから、小さくつぶやいた。

 

「……くそっ」

 

その言葉には、怒りもあった。

 

悔しさもあった。

 

どうしようもない、やりきれなさもあった。

 

そして、ほんの少しだけ。

 

自分の気持ちを、誰かに勝手に決められずに済んだことへの安堵も、混じっていた。

 

仁は、それを認めたくなかった。

 

認めれば、ホークスのことを少しでも理解したことになってしまう気がしたからだ。

 

だが、理解と許しは、同じではない。

 

それくらいは、仁にも分かっていた。

 

6 俺は、誰を助けたかったんだ

「……もう一つ、聞いていいか」

 

仁が言った。

 

「もちろんです」

 

「……お前、俺が生き返ったって聞いて、どう思った?」

 

ホークスは目を上げた。

 

予想していなかった質問ではない。

 

しかし、答えるためには、自分の感情をそのまま差し出さなければならなかった。

 

「……うれしいと思いました」

 

仁の表情が動いた。

 

ホークスは続けた。

 

「あなたが生きていると知ったとき、うれしかったです。あなたが、もう一度この世界で生きていられることを……よかったと思いました」

 

「……へえ」

 

仁は、乾いた声で言った。

 

「俺を殺したくせに?」

 

「……はい」

 

「俺が、もう一度生きてるのが、うれしい?」

 

「……はい」

 

仁は、しばらくホークスを見ていた。

 

そして、笑った。

 

「……何だよ、それ」

 

笑い声が、少しずつ大きくなる。

 

「何だよ、それ! いや、すごいな! 俺は死んだんだぞ! お前に殺されたんだぞ! なのに、お前は俺が生き返ったらうれしいんだ! ……あっはっは! そりゃあ、よかったなあ! 英雄様は、死んだ奴が戻ってきてくれてうれしいんだ!」

 

ホークスは、何も言わなかった。

 

仁は、笑い続けた。

 

「……でもさ」

 

急に、笑い声が止まる。

 

「それって、誰のためなんだ?」

 

ホークスは、答えられなかった。

 

仁は、静かに尋ねた。

 

「俺が生き返ったことがうれしいのは、俺が生きてるからか? 俺が、もう一度、自分の人生を生きられるからか?」

 

ホークスは、仁を見た。

 

「それとも、お前が、俺を殺したことを……少しでも、やり直せるかもしれないからか?」

 

その問いは、鋭かった。

 

ホークスは、自分の胸の奥に目を向けた。

 

自分が仁を救いたいと願っている理由。

 

生きていてほしいと願う理由。

 

もう一度、話したいと願う理由。

 

それらは、本当に仁のためだけだったのだろうか。

 

仁が戻ってきたとき、自分は安堵した。

 

喜んだ。

 

そして、同時に、救われるような気持ちになった。

 

もう一度、何かをやり直せるかもしれない。

 

自分が彼を殺したという事実は消えない。

 

だが、彼が生きているなら。

 

今度こそ、彼を助けられるかもしれない。

 

今度こそ、彼の力になれるかもしれない。

 

その願いは、仁のためのものだったのだろうか。

 

それとも、自分が抱えてきた罪悪感から逃れるためのものだったのだろうか。

 

「……分かりません」

 

ホークスは、正直に答えた。

 

仁が目を細める。

 

「……分かんねえのかよ」

 

「……はい」

 

ホークスは、うなずいた。

 

「あなたが戻ってきたことがうれしいのは、本当です。でも、俺の中に、自分の罪悪感をどうにかしたいという気持ちが混ざっていないとは、言い切れません」

 

仁は黙っていた。

 

「俺は、あなたを助けたいと思っています。あなたが仲間を探しているなら、力になりたいと思っています。あなたが困っているなら、支援を受けられるように手伝いたいと思っています」

 

ホークスは、一度、目を伏せた。

 

「……でも、それをあなたに受け入れてもらうことが、俺に必要なのかもしれないとも思いました」

 

仁は、ホークスを見た。

 

「俺があなたに助けられれば、あなたは、自分がもう一度あなたを助けられたと思えるかもしれない。俺があなたの謝罪を受け入れれば、あなたは、少しだけ自分を許せるかもしれない」

 

ホークスの声は、静かだった。

 

「……その可能性を、俺は考えていませんでした」

 

仁は、眉を寄せた。

 

「じゃあ、お前は、俺を助けたいって言いながら……自分も助かりたかったってことか?」

 

ホークスは、答えた。

 

「……そういう気持ちが、なかったとは言えません」

 

長い沈黙が落ちた。

 

ホークスは、仁の怒りを待った。

 

罵倒されても仕方がないと思った。

 

自分がどれほど醜いことを考えていたのか、言葉にされても仕方がないと思った。

 

だが、仁は、すぐには何も言わなかった。

 

やがて、彼は椅子の背にもたれた。

 

「……お前も、面倒くせえ奴だな」

 

「……そうですね」

 

「俺が言うのも何だけどな!」

 

仁は、苦笑した。

 

「いや、俺だって面倒くさいんだよ! 知ってるよ! 自分で自分のことが面倒くさいんだから、他人に言われるまでもないんだよ!」

 

一度、笑った。

 

その笑いはすぐに消えた。

 

「……でもさ」

 

仁は、真っ直ぐにホークスを見た。

 

「俺は、お前を助けるために生き返ったんじゃねえぞ」

 

ホークスは、うなずいた。

 

「……はい」

 

「お前が俺を救って、罪悪感から解放されるために、俺がいるわけでもねえ」

 

「……はい」

 

「俺が、今、何をしたいのか。誰に会いたいのか。どこへ行きたいのか。何を許せなくて、何を許せるのか。それは、俺が決めるんだ」

 

仁は、ゆっくりと言葉を重ねた。

 

「お前が俺を助けたいと思うのは、お前の自由だ。俺を救いたいと思うのも、悪いことじゃないのかもしれない」

 

そこで、仁の声が少しだけ鋭くなった。

 

「でも、俺が助けられたいと思ってるかどうかまで、お前が勝手に決めるな」

 

ホークスは、深くうなずいた。

 

「……分かりました」

 

仁は、今度は怒鳴らなかった。

 

「……分かったかどうかは、これから見せてもらうけどな」

 

「……はい」

 

「口だけなら、いくらでも言えるんだからよ」

 

「……その通りです」

 

仁は、ふっと息を吐いた。

 

「……ああ、くそっ。何で俺、こんな真面目な話してんだろうな。俺らしくねえ。いや、俺らしいのか? どっちだ? おい、俺! こういうときは、いつも通り、何かくだらないこと言って終わらせればいいんじゃないのか?」

 

自分に向かって、ぶつぶつと言い始めた。

 

だが、いつものように勢いだけで話を流すことはできなかった。

 

今日、ここで話しているのは、ただの世間話ではない。

 

自分の命を奪った男と、初めて真正面から向き合っているのだ。

 

自分が死んだとき、何が起きたのか。

 

自分を殺した男が、何を考えていたのか。

 

自分が生き返ったことを、彼はどう受け止めているのか。

 

そのすべてを聞いても、何一つ、簡単には片づけられなかった。

 

「……なあ、ホークス」

 

仁が呼んだ。

 

「はい」

 

「俺、今日は、もういい」

 

ホークスはうなずいた。

 

「……分かりました」

 

「まだ、聞きたいことはある。言いたいこともある。お前に、ふざけんなって言いたい気持ちも、ぶん殴ってやりたい気持ちも、まだある」

 

ホークスは、黙って聞いていた。

 

「でも、今は……これ以上、話したくない」

 

「……分かりました」

 

仁は立ち上がった。

 

椅子が、床をこすって音を立てた。

 

扉は開いている。

 

廊下には、相談員がいる。

 

仁は、すぐに出ていくこともできた。

 

けれど、扉の前で、もう一度振り返った。

 

「……ホークス」

 

「はい」

 

「今日の話、俺は、まだ納得してねえからな」

 

「……はい」

 

「お前が必要だと思ってたことも、危険だったってことも、聞いた。理解できる部分もあった」

 

仁は、そこで言葉を切った。

 

「……でも、だからって、俺がお前を許すと思うなよ」

 

ホークスは、まっすぐ答えた。

 

「……思っていません」

 

仁は、目を細めた。

 

「……そうかよ」

 

そして、扉から出ようとした。

 

一歩。

 

二歩。

 

その背中に、ホークスが声をかけた。

 

「……分倍河原さん」

 

仁の足が止まった。

 

ホークスは、すぐには続けられなかった。

 

ここで何を言うべきなのか。

 

今、謝罪すれば、仁はどう感じるだろう。

 

謝罪を聞きたくないのかもしれない。

 

謝罪などいらないと思っているのかもしれない。

 

あるいは、今こそ聞きたいのかもしれない。

 

ホークスには、分からなかった。

 

仁は、ゆっくり振り返った。

 

「……何だよ」

 

ホークスは、答えた。

 

「……今日は、ここまでにします」

 

仁は、一瞬、目を見開いた。

 

「……は?」

 

「あなたが、もう話したくないと言ったので」

 

ホークスは、続けた。

 

「俺が言いたいことを、今ここで全部言う必要はないと思いました。……あなたが聞きたいと思ったときに、改めて話します」

 

仁は、しばらく彼を見つめていた。

 

「……お前、また俺に決めさせるのかよ」

 

ホークスは、首を横に振った。

 

「……決めさせる、という言い方は違うかもしれません。あなたが決めることを、俺が奪わないようにしたいんです」

 

「……」

 

「でも、俺が何も言わないまま、逃げるつもりもありません」

 

ホークスは、静かに言った。

 

「あなたが話したいと思ったときには、俺はここに来ます。あなたが話したくないと思うなら、無理に話を続けようとはしません。……ただ、あなたを殺した事実から、逃げるつもりはありません」

 

仁は、何も言わなかった。

 

しばらくして、小さく息を吐いた。

 

「……そうかよ」

 

彼は、廊下へ出た。

 

今度もホークスは追わなかった。

 

扉は、開いたままだった。

 

7 分倍河原仁は、まだ生きている

相談室を出た仁は、しばらく廊下を歩いていた。

 

足取りは、一定ではなかった。

 

速くなったり、遅くなったり。

 

立ち止まりかけては、また歩き出したり。

 

頭のなかでは、何度も会話が繰り返されていた。

 

必要だったと、ホークスは言った。

 

自分を止めなければ、被害が広がる可能性があった。

 

その判断を、彼は今も間違いだったとは言わなかった。

 

だからといって、死んだ自分が悪かったという結論にもしていなかった。

 

「……何なんだよ、あいつ」

 

仁は、廊下の端で足を止めた。

 

「……何なんだよ、ほんとに」

 

ホークスが、悪人ならよかった。

 

自分を騙し、利用し、殺したことを何とも思っていない男なら。

 

仁は、迷わず怒れた。

 

相手の顔を見るたびに、憎めた。

 

自分が信じた時間を、最初から全部、嘘だったと切り捨てられた。

 

しかし、そうではなかった。

 

ホークスは自分のしたことを認めた。

 

殺したのは自分だと、はっきり言った。

 

必要性を説明しながらも、それを自分に受け入れさせようとはしなかった。

 

自分が怒ることを、間違いだとは言わなかった。

 

それが、何を意味するのか。

 

仁には、まだ分からなかった。

 

「……納得してねえぞ、俺は」

 

小さくつぶやいた。

 

誰に聞かせるでもなく、繰り返す。

 

「納得なんか、してねえからな」

 

それは、ホークスへの宣言であり、自分自身への宣言でもあった。

 

自分が少しでも理解したからといって、許さなければならないわけではない。

 

ホークスが責任を引き受けようとしているからといって、怒りをしまい込む必要もない。

 

謝罪されれば、受け入れなければいけないわけでもない。

 

自分のなかで、どんな感情が生まれても。

 

その感情を、今すぐ整理する必要はない。

 

それを教えてくれたのは、意外にも、自分を殺した男だった。

 

「……くそっ」

 

仁は、壁にもたれた。

 

少しだけ、疲れた。

 

死んだときには、何も考える余裕がなかった。

 

生き返ったときには、何が起きているのか理解できなかった。

 

街をさまよっていたときには、仲間を探すことだけで精いっぱいだった。

 

そして今、ようやく、自分の死について話をすることができた。

 

話したからといって、何かが解決したわけではない。

 

むしろ、分からないことが増えた。

 

自分は、ホークスを憎んでいる。

 

それは間違いない。

 

けれど、彼が笑っていた時間のすべてを、嘘だったと決めつけられるのか。

 

彼が自分を止めようとした理由を、すべて間違いだったと断言できるのか。

 

自分がしたことは、本当に何一つ、間違っていなかったのか。

 

考えれば考えるほど、答えは遠ざかっていく。

 

だが、その答えを見つけることだけが、自分の人生ではないはずだった。

 

「……俺は、俺だ」

 

仁は、自分の手を見た。

 

分倍河原仁。

 

トゥワイス。

 

失敗を重ねてきた人間。

 

仲間を求めてきた人間。

 

誰かを傷つけたことのある人間。

 

そして、仲間のために戦い、命を落とした人間。

 

ホークスの言葉によって、どれか一つに決められる必要はない。

 

世界が、自分を敵と呼んでも。

 

誰かが、自分を被害者と呼んでも。

 

あるいは、戻ってきた死者として、自分を特別な存在と扱っても。

 

自分がどう生きるかは、自分が決める。

 

「……よし」

 

仁は、壁から身体を離した。

 

「……よし、じゃねえよ! 何がよしだよ! 何も解決してないだろ! お前、何か分かった気になってるんじゃねえ! まだまだ話はこれからだろうが!」

 

廊下の向こうにいた職員が、驚いたように振り返った。

 

仁は、慌てて手を振った。

 

「あっ、すみません! 独り言です! いつものことです! いや、いつものことにしちゃ駄目なのか? ……ああ、もう!」

 

彼は、顔を覆った。

 

それから、ふっと笑った。

 

「……でも、まあ」

 

その声は、さっきよりも少しだけ穏やかだった。

 

「……明日も、あるんだよな」

 

生きている。

 

今は、それだけが確かなことだった。

 

自分が明日、誰を探すか。

 

誰に会うか。

 

どこへ行くか。

 

まだ決まっていない。

 

ホークスを許すかどうかも、決まっていない。

 

許す必要があるのかどうかさえ、分からない。

 

それでも、明日は来る。

 

その明日を、誰かの謝罪のためだけに使うつもりはなかった。

 

仁は歩き出した。

 

まずは、仲間を探す。

 

自分が帰りたい場所を探す。

 

そして、いつかもう一度、ホークスと話すときが来たなら。

 

そのときは、自分が聞きたいことを聞く。

 

言いたいことを言う。

 

怒りたいなら、怒る。

 

許したくないなら、許さない。

 

その答えを、ホークスのために用意する必要はない。

 

自分自身のために、決めればいい。

 

仁は、相談窓口へ向かう道を歩いていった。

 

まだ、帰る場所は見つからない。

 

けれど、自分の足で歩くことはできる。

 

それだけは、確かだった。

 

8 責任を引き受けることと、許されること

面会室には、ホークスが一人で残っていた。

 

扉は開いている。

 

廊下から、人々の足音が聞こえてくる。

 

しばらくして、担当者が様子を見に来た。

 

「……面会は、終了ということでよろしいですか?」

 

「はい」

 

ホークスは、うなずいた。

 

「今日は、ここまでです」

 

「お疲れさまでした。何か、こちらで手配することはありますか?」

 

ホークスは考えた。

 

仁のために、何かをしたいという気持ちはある。

 

彼が仲間を探すための支援を整えること。

 

安心して過ごせる場所を確保すること。

 

生活に必要なものを用意すること。

 

どれも、彼の助けになるかもしれない。

 

だが、今日の面会で、仁が自分に何を求めているのか、すべて分かったわけではなかった。

 

「……彼が、自分で希望を伝えられるようにしておいてください」

 

ホークスは答えた。

 

「こちらから、俺が協力したいと押しつけるのではなく。必要な支援の選択肢を、本人が選べる形で」

 

担当者はうなずいた。

 

「分かりました」

 

「それから、今日の面会について、必要以上に周囲に話が広がらないようにお願いします。本人が望んでいないのに、誰かの感動的な話として扱われることがないように」

 

担当者は、少しだけ驚いた顔をした。

 

「……感動的な話、ですか」

 

「ええ」

 

ホークスは、乾いた笑いを浮かべた。

 

「死んだ人間が戻ってきて、昔、自分を殺した英雄と話をした。そこで英雄が自分の過ちを認めて、二人が少しだけ理解し合いました……なんて話にしたら、きっと記事としては受けるでしょうね」

 

担当者は、何も言わなかった。

 

「でも、そんな簡単な話じゃない」

 

ホークスは、椅子から立ち上がった。

 

「彼は、俺を許したわけじゃありません。俺の説明に納得したわけでもない。今日、話をした。それだけです」

 

彼は、扉のほうを見た。

 

「……それ以上の意味を、俺が勝手に与えたら駄目なんです」

 

担当者は、静かに頭を下げた。

 

「承知しました」

 

ホークスは、廊下へ出た。

 

窓の外には、夕方の光が差していた。

 

この面会を、成功だったと呼ぶことはできない。

 

仁は、怒っていた。

 

納得していなかった。

 

ホークスの説明は、彼の苦しみを消さなかった。

 

それどころか、仁は、理解できる部分があったことに苦しんでいた。

 

もしホークスが、自分のしたことをすべて正当化していたら。

 

必要だったのだから仕方がないと、言い切っていたら。

 

仁は、その言葉を拒絶し、怒りを向けることができただろう。

 

だが、ホークスは、必要だったと判断したことを認めながらも、それが仁の死を正当化するとは言わなかった。

 

自分の判断に理由があったことと、その判断によって命を奪った責任を引き受けること。

 

それらを、同じものとして扱わなかった。

 

仁の怒りを、間違った感情として片づけなかった。

 

それが、正しい対応だったのか。

 

ホークスには、まだ分からない。

 

ただ、少なくとも、彼がしてはいけないことは分かっていた。

 

仁の怒りが、少しでも弱まった瞬間を見つけて、そこに希望を見出すこと。

 

仁が自分の説明を理解したことを、許しの兆しだと解釈すること。

 

仁が面会を受け入れたことを、自分を信じ直してくれた証拠だと思うこと。

 

それらは、すべてホークスの都合だった。

 

仁が理解したからといって、許したとは限らない。

 

仁が話を聞いたからといって、もう一度信頼したとは限らない。

 

仁が生きているからといって、ホークスが失ったものを取り戻せるわけではない。

 

ホークスは、自分の翼に触れた。

 

かつては、その翼で誰かを救えると信じていた。

 

今も、その願い自体は失っていない。

 

けれど、救うという言葉を口にするとき。

 

そのなかに、自分が相手をどうしたいのかという願望が混ざっていないか。

 

相手に、何を求めているのか。

 

そのことを、考えなければいけない。

 

「……俺は、何をすればいいんだろうな」

 

ホークスは、窓の外を見つめた。

 

答えは、まだない。

 

だが、責任から逃げないことと、許しを求め続けることは、同じではない。

 

仁が自分を許さなかったとしても、ホークスは自分の判断について説明し続けなければならない。

 

仁が自分と二度と会いたくないと思ったとしても、その結果を受け入れなければならない。

 

自分が望んだ結末にならなかったからといって、仁を責めることはできない。

 

償いとは、相手が自分を許してくれるまで、何度も頭を下げることだけではない。

 

自分の行為によって生まれた結果から、逃げないこと。

 

相手が自分に何を望むのか、分からないままでも、その選択を尊重すること。

 

そして、相手の人生を、自分の贖罪のための舞台にしないこと。

 

ホークスは、歩き出した。

 

今日、仁は自分を呼んだ。

 

そして、自分は、彼の質問に答えた。

 

それでも、何も解決していない。

 

次に会うことがあるのか。

 

何を話すことになるのか。

 

仁が、どんな答えを出すのか。

 

分からない。

 

分からないまま、責任を引き受ける。

 

それが、今のホークスにできることだった。

 

彼は、背中の翼を広げなかった。

 

ただ、自分の足で歩いていった。

 

その夜。

 

仁は、施設から提供された小さな部屋で、ベッドの端に座っていた。

 

ポケットから、面会申請書の控えを取り出す。

 

自分が書いた一文を読み返す。

 

「俺を殺したとき、何を考えていたのか聞くため」

 

聞いた。

 

ホークスは答えた。

 

危険を止めるためだった。

 

多くの人を守るためだった。

 

その判断をしたのは、自分だった。

 

その結果、仁を殺した。

 

それを、正義という言葉で片づけるつもりはない。

 

仁は、申請書を折りたたんだ。

 

「……まだ、終わってねえからな」

 

彼は呟いた。

 

「これで終わりじゃねえぞ、ホークス」

 

それから、しばらく黙っていた。

 

やがて、目を閉じる。

 

ホークスの言葉を、もう一度思い出す。

 

自分が助けたいと思うことと、相手が助けられたいと思うことは、同じではない。

 

仁は、唇を噛んだ。

 

「……そんなの、分かってるよ」

 

分かっている。

 

分かっているはずだった。

 

それなのに、自分は、あの男が何を考えていたのか知りたかった。

 

理由を聞きたかった。

 

自分がどんな存在として扱われていたのか、確かめたかった。

 

それは、相手を許すためではない。

 

ただ、自分がどう生きていけばいいのかを考えるためだ。

 

ホークスを憎むことだけに、自分の人生を使いたいわけではない。

 

けれど、許すことを急ぐつもりもない。

 

憎しみを抱えたまま生きることと、憎しみだけで生きることは違う。

 

その違いを、これから見つけていけばいい。

 

「……俺は、俺の人生を生きる」

 

仁は、ベッドに横になった。

 

部屋の明かりを消す。

 

暗闇のなかで、自分の呼吸を聞いた。

 

帰る場所は、まだ見つからない。

 

仲間たちも、まだ見つからない。

 

ホークスへの答えも、まだ見つからない。

 

それでも。

 

自分が明日、何をするのかは、自分で決められる。

 

仁は目を閉じた。

 

眠れるかどうかは、分からなかった。

 

けれど、少なくとも今夜は、誰かの答えを、自分の答えにする必要はなかった。

 

自分を殺した男が、正しかったのか。

 

その問いに答えることと。

 

自分が、これからどう生きるのか。

 

その問いに答えることは、別なのだから。

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