1 許すつもりはない
「……いやあ、今日も実に平和だ!」
分倍河原仁は、食堂のトレーを両手で持ちながら宣言した。
「温かいスープ! 焼きたてのパン! そして、何より、この俺! 食堂の平和を守る男、トゥワイス! ……いや、守っているのは食堂の職員さんたちですけどね! 俺は手伝っているだけですけどね!」
「分倍河原さん、話している暇があったら、お皿を運んでください」
「はいっ!」
仁は、勢いよく返事をした。
そして、隣のテーブルに食器を運んでいく。
ここ数日、彼は食堂の手伝いをするようになっていた。
最初は、ただの気まぐれだった。
忙しそうな職員を見て、何となく声をかけただけ。
しかし、何度か手伝ううちに、決まった仕事ができた。
食器を運ぶ。
テーブルを拭く。
水を補充する。
食事を終えた利用者に、空いた席を案内する。
どれも、特別な仕事ではない。
誰かに称賛されるようなことでもない。
けれど、仁は、その時間を気に入っていた。
誰かが「ありがとう」と言ってくれる。
自分が運んだ食事を、誰かが受け取ってくれる。
少し失敗して、注意されることもある。
それでも、次の仕事が回ってくる。
自分がそこにいることを、わざわざ証明しなくてもいい時間だった。
「……よし、完璧!」
仁は最後の皿を置き、満足そうに胸を張った。
「どうですか! この見事な配膳技術! 俺、実は食堂経営の才能があるんじゃないですかね?」
「分倍河原さん、スープを一つ、別のテーブルに置いていますよ」
「……あっ」
見ると、確かに一つ、席を間違えていた。
「いやいやいや! これは戦略的な配置です! 食堂全体の流れを考えた、俺なりの高度な判断でして!」
「戻してください」
「はい……」
仁は、スープを持って戻った。
自分で言って、自分で怒られる。
その繰り返しだ。
けれど、悪くない。
以前の自分なら、誰かに注意されるたび、自分が役に立っているのかどうか気になったかもしれない。
失敗した自分は、ここにいていいのだろうか。
次も失敗したら、いらない人間だと思われるのではないか。
そんなふうに、不安になったかもしれない。
今でも、まったく不安がなくなったわけではない。
誰かに必要とされたいという気持ちは、消えていない。
仲間からの返事が来ないことを考えると、胸の奥がざわつく。
自分がいない間に、みんながどんな人生を歩んでいたのか、考えてしまう。
そして、そのたびに、ホークスの顔が浮かぶ。
あの男は、自分を殺した。
自分の信頼を利用した。
自分が仲間を助けようとしていたとき、その命を奪った。
謝罪も聞いた。
理由も聞いた。
しかし、許してはいない。
それは、変わらない。
「……よし」
仁は、自分の胸を軽く叩いた。
「許してない。まだ許してないぞ、俺!」
突然の独り言に、近くにいた職員が顔を上げた。
「何かありましたか?」
「いえ! 何もありません! 俺は今日も元気です!」
仁は笑顔を作った。
職員は少し心配そうにしながらも、仕事へ戻った。
仁は、その背中を見送った。
そして、思った。
――俺は、ホークスを許すつもりはない。
それでいい。
許さないという答えは、間違いではない。
誰かに謝罪されたからといって、怒りを手放さなければならないわけではない。
相手が反省しているからといって、自分まで相手を理解しなければならないわけでもない。
自分が傷ついたことを、なかったことにする必要もない。
けれど。
許さないという答えと、これからどう生きるのかという問いは、別だった。
「……俺は、俺の人生を生きる」
仁は、小さく呟いた。
それから、再びトレーを持ち上げた。
「はい、次の方! お待たせしました! 今日のスープは俺が運んだので、通常の二割増しで温かいです! ……いや、温度は変わりませんけどね!」
食堂に笑い声が広がった。
仁は、そのなかで笑っていた。
ホークスへの憎しみが消えたわけではない。
ただ、その憎しみだけが、自分の人生ではなくなりつつあった。
2 返事のない伝言
その日の午後、仁は相談窓口を訪れた。
仲間たちに送った伝言について、何か進展があったのか確認するためだった。
「こんにちは!」
「こんにちは、分倍河原さん」
相談員が記録を開いた。
「以前の伝言についてですが、照会は続いています。現時点で、お返事は届いていません」
「……そうですか」
仁はうなずいた。
返事がない。
その事実は、やはり寂しかった。
自分は、生きている。
ここにいる。
会いたいと思っている。
それを伝えた。
しかし、相手がそれをどう受け止めたのかは、分からない。
届いていないのかもしれない。
届いていても、返事をする気になれないのかもしれない。
返事をする方法が分からないのかもしれない。
あるいは、会いたくないと思っているのかもしれない。
どれも、可能性としてはある。
そして、その答えを決めるのは、自分ではない。
「……分かりました」
仁は、できるだけ明るい声で答えた。
「引き続き、お願いします」
「もちろんです」
仁は頭を下げ、部屋を出た。
廊下を歩きながら、胸の奥が少しずつ重くなるのを感じた。
返事がない。
それだけのことなのに、いろいろな考えが浮かぶ。
もう、自分のことを必要としていないのだろうか。
自分が戻ってきたことを、迷惑だと思っているのだろうか。
自分がいた時間は、彼らにとって、もう過去のことなのだろうか。
「……いやいやいやいや!」
仁は、突然、足を止めた。
「何を勝手に決めつけてんだ、俺!」
廊下にいた人が振り返る。
仁は、慌てて手を振った。
「すみません! 今、自分自身と会議をしておりまして! 議題は、勝手に最悪の結論を出すな、ということで!」
相手は不思議そうな顔をして通り過ぎた。
仁は、ふっと息を吐いた。
まだ、何も分かっていない。
返事がないことは、拒絶の証明ではない。
かといって、希望の証明でもない。
ただ、返事がないということだ。
その事実を、それ以上でも、それ以下でもないものとして受け止める。
簡単なことではなかった。
けれど、相手の気持ちを勝手に決めないことは、相手を大切に思うことの一部なのかもしれない。
自分が会いたいからといって、相手も会いたいとは限らない。
自分が寂しいからといって、相手がその寂しさを埋めなければならないわけではない。
だから、待つ。
ただ、何もせずに人生を止めるわけではない。
自分にできることを続けながら、待つ。
仁は、ゆっくりと歩き出した。
そのとき、スマートフォンが震えた。
施設から貸与されている連絡端末だった。
仁は、慌てて画面を見た。
――照会先から追加の情報が届きました。
心臓が跳ねる。
「……うおっ!」
声が出た。
慌てて、メッセージを開く。
だが、そこに書かれていたのは、期待していた返事ではなかった。
伝言を届けるための確認が、引き続き進められているという連絡。
具体的な所在は、まだ分からない。
本人の意思も、まだ確認できていない。
それだけだった。
仁は、しばらく画面を見つめていた。
「……そっか」
胸の奥に生まれかけた期待が、静かに落ち着いていく。
残念ではあった。
がっかりもした。
それでも、以前のように、すぐに自分の人生すべてを否定したくなることはなかった。
返事がない。
それだけだ。
自分が誰にも必要とされていないという証明ではない。
自分の過去が無意味だったという証明でもない。
「……よし」
仁は、スマートフォンをポケットへしまった。
「今日も生きるか!」
そして、食堂へ戻っていった。
待つことと、生きること。
その二つは、両立できるのだ。
3 ヒーローは、休んでいるだけで不安になる
一方、ホークスは自宅で、医療担当者から送られてきた説明を読んでいた。
活動再開に向けた注意事項。
休養中に避けるべき負荷。
今後の診察予定。
翼の状態を確認するための記録。
どれも、必要な情報だった。
ホークスは、一通り読み終えたあと、スマートフォンを机の上に置いた。
「……よし。今日はもう仕事の資料を見ない」
宣言してみる。
そして、三秒後。
スマートフォンに手を伸ばしかけた。
「……駄目だ!」
自分で自分の手を止める。
「今、何をしようとした? 仕事の連絡を確認しようとしたな? 医療担当者の指示を守ると決めたのに、もう破ろうとしたな? ……駄目だろ、俺!」
ホークスは、スマートフォンを引き出しにしまった。
引き出しを閉じる。
鍵をかける必要はない。
それでも、何となく、もう一度開けたくなる。
「……いや、そこまでしなくてもいいだろ」
自分で苦笑した。
休む。
ただそれだけのことが、こんなにも難しいとは思っていなかった。
仕事をしていれば、自分が何をすべきか分かる。
何を優先するのか。
何を確認するのか。
誰に連絡するのか。
次に、何をすればいいのか。
その答えは、いくらでも見つかる。
だが、休んでいるときは違う。
何もしなくていい時間に、何をすればいいのか分からない。
自分が、誰かの役に立っていない時間に、どう過ごせばいいのか分からない。
それは、仕事のやり方を知らないという意味ではなかった。
自分の人生を、役割以外の何かで説明することに、慣れていなかったのだ。
ホークスは、ソファに座った。
少し考えてから、棚に置かれた本を一冊取った。
以前、誰かに勧められた小説だった。
いつか読もうと思って、そのままになっていた。
表紙を開く。
数ページ読む。
登場人物が話している。
何かを望み、何かに悩み、誰かと衝突し、誰かを必要としている。
その様子を追っているうちに、ホークスは、少しだけ笑った。
「……この人、俺より素直だな」
本のなかの登場人物は、困ったときに、困ったと言っていた。
寂しいときには、寂しいと口にしていた。
誰かに会いたいときには、会いたいと伝えていた。
もちろん、それで全部が解決するわけではない。
相手に拒絶されることもある。
誤解が生まれることもある。
それでも、登場人物たちは、自分の気持ちを言葉にしようとしていた。
ホークスは、しばらく本を読んだ。
そのあと、カップに温かい飲み物を入れた。
窓辺に座り、ゆっくり飲む。
それだけの時間だった。
何かを達成したわけではない。
誰かを救ったわけでもない。
それでも、少しだけ、心が落ち着いた。
「……こういう時間も、悪くないな」
そのとき、スマートフォンが鳴った。
ホークスは、反射的に顔を上げた。
仕事の緊急連絡かもしれない。
そう考えた瞬間、身体に力が入った。
しかし、画面に表示されたのは、事務所のスタッフからの短いメッセージだった。
今日は予定どおり、すべての業務をチームで処理できています。
ホークスさんは、指示どおり休養を続けてください。
こちらは大丈夫です。
ホークスは、その文章を何度も読み返した。
こちらは大丈夫です。
自分がいなくても、仕事は進んでいる。
自分が休んでいる間も、誰かが仕事を引き受けてくれている。
そして、彼らは、自分に休んでいてほしいと言っている。
ホークスは、ゆっくりと息を吐いた。
「……ありがとうございます」
画面に向かって呟いた。
その言葉を、今度は、きちんと自分から返した。
連絡ありがとう。
引き継ぎ、助かっています。
指示どおり、今日は休みます。
何かあれば、担当者を通じて連絡してください。
送信する。
スマートフォンを机の上に置く。
今度は、引き出しに閉じ込めなかった。
ただ、手を離した。
休むことを、自分で選んだ。
誰かに必要とされているかどうかを確かめるためではなく。
自分が、休む必要があるから。
それもまた、自分の責任だった。
4 謝罪した男と、許さない男
数日後。
仁は、支援施設の外で、ホークスと顔を合わせた。
ホークスは、施設の職員との打ち合わせを終え、帰るところだった。
以前よりも、歩く速度が少しゆっくりになっている。
翼も、まだ本調子ではないらしい。
仁は、遠くから彼を見つけた。
「……あ」
ホークスも気づいた。
二人は、しばらく、その場に立っていた。
最初に口を開いたのは、仁だった。
「……よう」
「……こんにちは、分倍河原さん」
「……その呼び方、まだ慣れねえな」
「……では、トゥワイスさんと?」
仁は、少しだけ顔をしかめた。
「……どっちでもいいって言っただろ。今は、どっちも俺なんだから」
ホークスは、うなずいた。
「……そうでしたね」
沈黙が落ちる。
以前なら、この沈黙は、すぐに怒りへ変わったかもしれない。
何か言え。
何か説明しろ。
何か、自分が納得できる答えを出せ。
そんな気持ちが、仁の胸を満たしていたかもしれない。
しかし、今は、少しだけ違っていた。
自分は、ホークスを許していない。
そのことを、何度も確かめる必要はない。
許していないままでも、挨拶をすることはできる。
許していないままでも、短い会話を交わすことはできる。
それで、自分の怒りが消えるわけではない。
「……体調、どうなんだ?」
仁が尋ねた。
ホークスは、少し驚いたようだった。
「……少しずつ、回復しています。まだ、飛行や現場復帰には制限がありますが」
「……ふうん」
仁は、うなずいた。
「……ちゃんと休んでんのか?」
「はい。医師や事務所の指示に従っています」
「……本当だな?」
ホークスは、苦笑した。
「……ええ。以前よりは、ちゃんと」
仁は、少しだけ目を細めた。
「……以前よりは、か」
「……正直に言うと、休むのはまだ苦手です」
ホークスは、隠さずに答えた。
「仕事が残っていると、どうしても手を出したくなる。でも、今は、ほかの人に任せることも覚えようとしています」
仁は、しばらく彼を見ていた。
「……そうかよ」
それだけ言って、視線を外した。
自分を殺した男が、休むことを覚えようとしている。
そのことに、どんな感情を抱けばいいのか、仁には分からなかった。
ホークスが無理をして倒れればいいとは思わない。
かといって、彼が健やかに生活していることを、素直に喜べるわけでもない。
彼が、自分を殺したことを後悔しているのは分かる。
それでも、その後悔が、何を意味するのかは、まだ決められない。
仁は、息を吐いた。
「……なあ、ホークス」
「はい」
「俺、お前のこと、まだ許してねえからな」
ホークスは、静かにうなずいた。
「……はい」
「謝罪は聞いた。お前が何を考えてたのかも、少しは聞いた。でも、俺は、まだ納得してねえ」
「……分かっています」
仁は、眉をひそめた。
「……また、分かってるって言うのかよ」
ホークスは、少しだけ考えてから答えた。
「……そうですね。俺が、あなたの気持ちをすべて分かっているとは思っていません。ただ、あなたが俺を許していないということは、聞いています」
仁は、黙った。
それは、言い方としては、違っていた。
ホークスは「分かっている」とは言わなかった。
「聞いている」と言った。
自分がすべてを理解しているわけではない。
ただ、相手がそう言ったことを、そのまま受け取っている。
その違いは、小さい。
けれど、仁には、少しだけ大切な違いに思えた。
「……じゃあ、聞いとけ」
仁は、ホークスを見た。
「俺は、これからも、お前を許すかどうか、考えることがあると思う」
ホークスは、うなずいた。
「……はい」
「でも、今すぐ決めるつもりはない。お前が謝ったからって、いつまでに答えを出すとか、そういうことも考えてない」
「……はい」
「俺が、いつか許すかもしれないし、一生許さないかもしれない。それは、まだ、俺にも分からない」
仁は、深く息を吸った。
「……だから、お前も、俺の答えを勝手に決めるな」
ホークスは、まっすぐに答えた。
「……決めません」
仁は、しばらく彼を見つめていた。
そして、ゆっくりとうなずいた。
「……よし」
ホークスは、少しだけ表情を和らげた。
しかし、仁は、すぐに付け加えた。
「……ただし!」
ホークスの表情が戻る。
「お前が俺を許してほしいと思うことまで、禁止するつもりはねえぞ」
ホークスは、わずかに目を見開いた。
仁は、少しだけ気まずそうに視線を外した。
「……いや、思うのは自由だろ。俺を許してほしいって思うこと自体は、お前の気持ちだ。俺が、それまで決める必要はない」
ホークスは、静かに聞いていた。
「でも、その気持ちを、俺に押しつけるな。許してほしいからって、俺が許さなきゃいけない理由にはならない。……そこは、間違えるなよ」
「……はい」
仁は、深く息を吐いた。
「……それだけだ」
ホークスは、しばらく黙っていた。
そして、低い声で答えた。
「……ありがとうございます」
仁は、すぐに顔をしかめた。
「礼を言うなって!」
「……すみません」
「謝るな!」
ホークスは、思わず笑った。
仁も、つられて笑いかけた。
しかし、途中で、二人とも笑いを止めた。
その笑いが、何を意味するのか。
かつての関係が戻ったということなのか。
少しだけ、緊張が解けたということなのか。
それとも、ただ、妙な会話がおかしかっただけなのか。
誰にも分からなかった。
そして、分からなくてもよかった。
その笑いを、許しの証拠にしなくていい。
関係修復の証拠にしなくていい。
ただ、その瞬間に、二人が少し笑った。
それだけのことだった。
仁は、先に口を開いた。
「……じゃあな」
「……はい。また」
仁は歩き出した。
ホークスは、追わなかった。
今度も、追わなかった。
しかし、以前とは違っていた。
ただ距離を置いているだけではない。
仁が、自分自身の答えを選ぶ時間を、尊重しようとしていた。
それは、ホークスが自分自身の限界を認めることと、どこか似ていた。
自分がすべてを決めなくてもいい。
自分がすべてを背負わなくてもいい。
相手の答えを、待つことができる。
そのことを、ホークスは少しずつ覚え始めていた。
5 許しを待つことは、何もしないことではない
ホークスは、その日の帰り道、街を歩いていた。
以前なら、すぐに空へ飛び立っていた距離だ。
しかし、医師からは、まだ長時間の飛行を控えるように言われている。
今日は、歩いて帰ることにした。
街のなかには、たくさんの人がいた。
仕事帰りの人々。
買い物袋を持った人。
学校帰りの学生。
家族と歩く人。
それぞれが、それぞれの生活を送っている。
ホークスは、歩きながら考えていた。
自分は、仁を許してほしいと思っている。
その気持ちを、完全に消すことはできない。
自分がしたことを、少しでも受け入れてほしい。
自分の話を聞いてほしい。
いつか、自分の存在が、彼にとって、ただ憎むべきものだけではなくなってほしい。
そんな願いは、確かにある。
しかし、その願いを叶えるために、仁の人生へ踏み込んではいけない。
仁には、仁の人生がある。
仲間を探す時間がある。
自分の居場所を見つける時間がある。
自分が何を望むのかを考える時間がある。
その時間を、ホークスが自分の罪悪感のために奪うことはできない。
「……待つ、か」
ホークスは、呟いた。
待つことは、簡単ではない。
自分から何かをすれば、結果が変わるかもしれない。
自分が動けば、状況を改善できるかもしれない。
そう考えると、手を出したくなる。
何かをしたい。
何かを変えたい。
自分の気持ちを、少しでも軽くしたい。
けれど、仁の答えは、ホークスが何かをすることで引き出すものではない。
仁が、自分で考え、自分で決めるものだ。
だから、ホークスにできるのは、待つことだけではない。
自分の責任を引き受けること。
自分が何をしたのかを、都合よく忘れないこと。
自分がこれから何をするのかを考え続けること。
そして、仁が自分を許さなかったとしても、その答えを尊重すること。
それらを続けながら、仁自身が答えを出す時間を、奪わないこと。
それが、ホークスにとっての「待つ」ということだった。
彼は、横断歩道の前で立ち止まった。
赤信号。
歩行者の列。
信号が変わるのを待つ人々。
ホークスは、かつて、待つことが苦手だった。
時間があれば、動きたかった。
動けば、誰かを助けられるかもしれない。
動けば、問題を解決できるかもしれない。
動けば、自分が何をすべきか分かる。
しかし、今は、立ち止まることにも意味があるのだと、少しずつ理解し始めていた。
信号が青に変わる。
人々が歩き出す。
ホークスも、その流れのなかへ進んだ。
自分の足で。
今は、飛ばなくてもいい。
6 許せないことを、人生のすべてにしない
その夜、仁は、食堂の隅で、今日の仕事を終えた職員と話していた。
「……今日も、お疲れさまでした!」
「分倍河原さんこそ、お疲れさまでした。いつも手伝っていただいて、助かっています」
「いやあ、それほどでも!」
仁は胸を張った。
「俺の働きぶりは、いずれ伝説になりますよ! 伝説の配膳係! 食堂の歴史に名を刻む男! ……いや、伝説の配膳係って、何だよ!」
職員が笑った。
「その前に、明日の勤務時間を確認してくださいね」
「はい!」
仁は、手帳を取り出した。
そのとき、ポケットの中でスマートフォンが震えた。
仁は、反射的に画面を見た。
施設からの通知だった。
――伝言に関する照会状況が更新されました。
心臓が跳ねる。
「……おっ」
職員が振り返る。
「どうしました?」
仁は、すぐには答えられなかった。
通知を開く。
内容は短かった。
先方への伝言の送付について、追加の確認が必要となったこと。
本人確認が済んでいないため、返答を受け取れる段階には至っていないこと。
今後も、確認が進み次第、連絡すること。
それだけだった。
仁は、しばらく画面を見つめていた。
「……そっか」
また、返事ではなかった。
期待しかけた気持ちが、静かに落ち着いていく。
職員が、心配そうに尋ねた。
「……大丈夫ですか?」
仁は、少しだけ考えた。
以前なら、すぐに笑ってごまかしていたかもしれない。
「大丈夫です!」
そう言って、何もなかったように振る舞ったかもしれない。
しかし、今は、少し違った。
「……大丈夫、というわけじゃないです」
職員は、黙って聞いた。
「やっぱり、返事が来ないと、寂しいです。会いたいですし、何をしてるのか知りたいですし……。俺がいない間に、みんながどうなったのか、気になります」
仁は、画面を閉じた。
「……でも、返事が来るまで、俺の人生を止めるつもりはありません」
職員は、静かにうなずいた。
「……それは、大事なことですね」
「はい!」
仁は、いつものように元気よく答えた。
「俺は、食堂の配膳係として、これからも伝説を作り続けます!」
「ですから、まずは勤務時間を確認してください」
「はい……!」
笑いが起きた。
仁も笑った。
しかし、笑い終えたあと、彼はスマートフォンをポケットにしまった。
まだ、返事はない。
それでも、明日も食堂はある。
明日も、誰かが食事をする。
自分が運んだスープを、誰かが受け取る。
自分が手伝うことで、少しだけ楽になる人がいる。
それらは、仲間から返事が来るかどうかとは、別のことだった。
仁は、まだ寂しい。
まだ、帰る場所を探している。
まだ、ホークスを許していない。
けれど、それでも、自分の人生には、ほかのものもある。
誰かと笑うこと。
誰かに手を貸すこと。
自分が疲れたとき、休むこと。
そして、自分が何を望むのかを考えること。
それらを、一つずつ続けていけばいい。
仁は、椅子から立ち上がった。
「……よし。帰るか!」
今日も、一日が終わる。
明日も、また始まる。
その繰り返しのなかで、自分は、自分の人生を選び続ける。
7 許されないまま、生きていく
翌朝。
ホークスは、医療担当者の診察を受けていた。
「状態は、少しずつ改善しています。ただし、現場復帰については、まだ段階的に進める必要があります」
「……分かりました」
ホークスは、うなずいた。
「焦らず、回復を優先してください。以前と同じ活動量に戻すことだけを目標にする必要はありません」
「……はい」
医師は、カルテを閉じた。
「それから、何か不安なことがあれば、遠慮なく相談してください。身体の状態だけではなく、休養中の過ごし方についても構いません」
ホークスは、少しだけ笑った。
「……ありがとうございます」
診察を終え、部屋を出る。
廊下の窓から、光が差し込んでいた。
ホークスは、その光を見つめた。
自分は、これからもヒーローとして働きたい。
誰かを守りたい。
その気持ちは、今も変わっていない。
しかし、これまでのように、自分を壊してまで働くことが、正しいとは思わなくなっていた。
自分が休むことで、誰かが仕事を引き受けてくれる。
自分が助けを求めれば、誰かが支えてくれる。
自分が限界を認めても、自分が積み重ねてきた仕事のすべてが、無意味になるわけではない。
そうしたことを、少しずつ受け入れ始めていた。
そして、自分がしたことについても。
仁を殺した。
その事実は消えない。
謝罪したからといって、責任がなくなるわけではない。
仁が、自分を許さなかったからといって、責任から逃げていいわけでもない。
自分がこれから誰かを助けたとしても、それで仁を殺したことが帳消しになるわけではない。
自分がヒーローとして生きていくことと、仁に対する責任を引き受けること。
その二つは、どちらかを選べば、もう片方が消えるような関係ではなかった。
ホークスは、窓の外を見た。
自分は、仁に許してほしいと思っている。
その気持ちは、ある。
できることなら、いつか、彼と普通に話せる日が来てほしい。
自分の存在が、彼にとって、ただ憎しみを向ける相手だけではなくなってほしい。
しかし、その願いは、自分のものだ。
仁に、叶えてもらう義務はない。
仁が、自分を許さないと決めたとしても。
その決断が、何年も続いたとしても。
あるいは、一生、変わらなかったとしても。
自分は、それを受け入れなければならない。
許されないまま、生きていく。
それは、何もせず、ただ罰を受け続けるという意味ではない。
自分の行為について責任を負いながら、自分の人生も続けること。
自分の孤独を、誰かへの押しつけに変えないこと。
自分が助けを必要としているときには、そのことを認めること。
そして、自分が誰かを助けたいと思ったとき、その相手にも選ぶ権利があることを忘れないこと。
ホークスは、ゆっくりと息を吐いた。
「……やることは、まだまだあるな」
小さく笑う。
今度の「やること」は、以前とは少し違っていた。
目の前の仕事を、すべて自分で抱え込むことではない。
誰かのために、すべてを犠牲にすることでもない。
自分にできることを、できる範囲で続ける。
できないことは、誰かに相談する。
間違えたときには、その間違いを認める。
そして、許されなかったとしても、それを言い訳にせず、生きていく。
ホークスは、窓から離れた。
今日も、まだ休養は続く。
飛べない時間がある。
現場へ出られない日がある。
誰かに仕事を任せなければならないこともある。
それでも、自分はヒーローであることを、すべて失ったわけではない。
自分は、ただ一人の人間でもある。
その二つを、これからは、もう少し丁寧に両立させていきたいと思った。
8 最後の面会ではない
その日の夕方、仁は、施設の入り口でホークスを見かけた。
ホークスは、担当者との打ち合わせを終え、帰るところだった。
二人は、以前のように、少し離れた場所で目を合わせた。
仁が、先に声をかけた。
「……よう」
「……こんにちは」
ホークスは、軽く頭を下げた。
仁は、少しだけ迷ってから言った。
「……ちょっと、話していくか?」
ホークスは、驚いたように顔を上げた。
「……俺と、ですか?」
「ほかに誰がいるんだよ!」
仁は、すぐに言い返した。
「……いや、別に、深い話をするつもりはねえぞ。時間があるなら、少し話すだけだ」
ホークスは、少し考えた。
「……はい。時間はあります」
二人は、施設の敷地内にあるベンチへ向かった。
以前なら、ここで、すぐに過去の話を始めていたかもしれない。
なぜ自分を殺したのか。
何を考えていたのか。
どこまでが本当だったのか。
そうした質問を、仁は何度もホークスにぶつけてきた。
しかし、今日は違った。
仁は、ベンチに座り、少しだけ空を見上げた。
「……お前、今も、休んでるんだろ?」
「はい。医師の指示に従っています」
「……ちゃんと?」
「……ちゃんと、です」
仁は、少しだけ疑うような目で見た。
ホークスは、苦笑した。
「以前よりは、休めるようになりました。仕事も、チームに任せるようにしています」
「……そうかよ」
仁は、うなずいた。
「……まあ、よかったな」
その言葉を口にしてから、仁は少しだけ顔をしかめた。
「……いや、何がよかったってわけじゃねえけどな! お前が休んでるからって、俺が喜んでるわけでもないし!」
「……はい」
「……ただ、倒れるよりはいいだろ」
ホークスは、静かにうなずいた。
「……そうですね。俺も、そう思います」
しばらく、二人は黙っていた。
風が吹く。
木々の葉が揺れる。
遠くで、誰かが話している声が聞こえる。
仁は、ポケットから、小さく折りたたんだ紙を取り出した。
仲間に送った伝言の控えだった。
ホークスは、その紙を見た。
「……仲間を探しているんですね」
「……ああ」
仁は、うなずいた。
「返事は、まだ来てない。でも、照会は続いてるらしい」
「……そうですか」
「……だから、待つ」
仁は、紙を見つめた。
「……俺は、あいつらに会いたい。もう一度、話したい。何があったのか、知りたい」
ホークスは、黙って聞いていた。
「……でも、会えるかどうかは、分からねえ。会えたとしても、以前と同じ関係に戻れるとは限らない」
仁は、顔を上げた。
「……それでも、探す」
その声には、以前よりも少しだけ、確かなものがあった。
「会いたいから、探す。それだけだ」
ホークスは、静かにうなずいた。
「……いいと思います」
仁は、すぐに眉をひそめた。
「……何だよ。お前に許可をもらう話じゃねえぞ」
「……すみません」
「謝るなって!」
ホークスは、苦笑した。
「……そうでしたね」
仁も、少しだけ笑った。
それから、ふと、ホークスを見た。
「……なあ」
「はい」
「俺が、お前を許すかどうか」
ホークスは、黙って待った。
仁は、言葉を選んでいた。
「……俺、まだ分からない」
ホークスは、うなずいた。
「……はい」
「今は、許す気になれない。お前が謝ったことは、聞いた。お前が、自分のしたことを認めてるのも、分かった。でも、俺は、まだ怒ってる」
「……はい」
「……それでも、いつか、自分がどうしたいのか、考えることはあると思う」
仁は、紙をポケットにしまった。
「……そのときは、俺が決める」
ホークスは、まっすぐに答えた。
「……はい」
仁は、しばらく彼を見ていた。
「……お前は、それでいいのか?」
ホークスは、少しだけ驚いたようだった。
「……はい?」
「俺が、いつまで経っても、お前を許さなかったら」
ホークスは、答えを急がなかった。
以前なら、すぐに「それでも構いません」と答えたかもしれない。
正しい答えを、すぐに出そうとしたかもしれない。
しかし、今は、その言葉だけでは足りない気がした。
「……正直に言えば、許してもらえたらうれしいと思います」
仁は、黙って聞いていた。
「俺がしたことを、あなたが受け入れられる日が来るなら……それは、うれしいです」
ホークスは、少しだけ視線を落とした。
「でも、それを、あなたに求めるつもりはありません。あなたが、俺を許さないと決めたなら、その答えを尊重します」
「……」
「俺は、自分がしたことを、なかったことにはできません。あなたに許してもらえなかったとしても、その責任を負うことはできます」
ホークスは、仁を見た。
「……あなたが、俺を許すかどうかを決めるまで、俺は、自分の人生を続けます。あなたに許してもらうことだけを目的に生きるのではなく、自分がしたことを忘れずに、これから何をするのかを考え続けます」
仁は、しばらく黙っていた。
その答えに、少しだけ驚いていた。
ホークスは、許してほしいと思っている。
それを、隠さなかった。
しかし、許してもらうことを、自分の人生の条件にしなかった。
許してもらえなければ、生きていけない。
許してもらえなければ、何もできない。
そんなふうには言わなかった。
それは、仁にとって、少しだけ意外なことだった。
「……そっか」
仁は、ゆっくりとうなずいた。
「……じゃあ、俺も」
言葉が止まる。
「……俺も、お前を許すかどうかだけで、自分の人生を決めないようにする」
ホークスは、顔を上げた。
「……」
「許すかどうかは、俺が決める。お前のためじゃない。俺が、自分で考えて決める」
仁は、まっすぐにホークスを見た。
「……俺は、お前を許さないままでも、生きていく」
ホークスは、静かにうなずいた。
「……はい」
「そして、俺がこれから誰と生きるのかも、俺が決める」
「……はい」
「お前が、俺に何をしてくれるかとは関係なく。お前が、俺を助けたいと思ってるかどうかとも関係なく」
仁は、少しだけ笑った。
「……俺は、俺の人生を生きる」
その言葉を聞いて、ホークスは、ようやく息を吐いた。
それは、許しの言葉ではなかった。
二人の関係が修復された証拠でもなかった。
けれど、仁が自分の人生を、自分の意思で選ぼうとしていることは伝わった。
ホークスは、それを、仁自身のものとして受け取った。
「……そうですね」
彼は答えた。
「あなたの人生は、あなたのものです」
仁は、うなずいた。
「……ああ」
二人は、しばらくベンチに座っていた。
何かを話さなければならないわけではない。
沈黙を埋めるために、無理に言葉を探す必要もない。
しばらくして、仁が立ち上がった。
「……じゃあ、俺は戻るわ」
「……はい」
仁は、数歩進んだ。
そして、振り返った。
「……ホークス」
「はい」
「……俺、まだ、お前を許してないからな」
ホークスは、うなずいた。
「……はい」
仁は、少しだけ笑った。
「……それだけは、覚えておけよ」
「……忘れません」
仁は、今度こそ歩き出した。
ホークスは、その背中を見送った。
許しは、まだない。
和解も、まだない。
二人の関係が、どこへ向かうのかも分からない。
それでも、二人は、もう一度、自分自身の人生を選び始めていた。
その選択に、相手の許しを必要としない。
それが、今の二人にできる、ひとつの答えだった。
9 許しを結末にしない
仁は、施設の廊下を歩きながら、考えていた。
自分は、ホークスを許していない。
そのことは、今も変わらない。
あの男が、自分を殺した。
自分の信頼を利用した。
その事実は、どんな謝罪を受けても消えない。
しかし、だからといって、自分の人生をホークスへの憎しみだけで決める必要はない。
自分には、やりたいことがある。
仲間に会いたい。
どこにいるのか、知りたい。
もう一度、一緒に話したい。
それから、自分がこれから、どう生きたいのかを考えたい。
誰かに必要とされるためだけではなく。
誰かに許されるためだけでもなく。
自分が、何を望んでいるのかを、少しずつ確かめていくために。
仁は、部屋へ戻った。
机の上には、仲間に送った伝言の控えがある。
彼は、それを手に取った。
「……返事、来るといいな」
小さく呟く。
その願いは、まだ変わらない。
けれど、返事が来なかったとしても、自分がここで生きていることまで、否定されるわけではない。
会えなかったとしても、自分が彼らを大切に思っていた事実は消えない。
相手が自分を必要としていなかったとしても、自分が誰かを大切に思う気持ちまで、間違いになるわけではない。
仁は、紙を元に戻した。
「……よし」
立ち上がる。
夕食の時間が近づいている。
今日も、食堂の手伝いがある。
そのあと、少しだけ、本でも読もうか。
あるいは、施設の外を散歩しようか。
明日の予定を考える。
それだけのことが、今は少しだけ楽しかった。
ホークスは、自分の人生を続けていく。
仁は、仁の人生を続けていく。
二人の道が、いつか再び交わるかどうかは分からない。
交わったとしても、どんな言葉を交わすのか分からない。
許しが訪れるかもしれない。
訪れないかもしれない。
だが、そのことを、今すぐ決める必要はなかった。
許しは、すべての物語を終わらせるための条件ではない。
許せないことがあっても、人は生きていける。
許されないことがあっても、人は責任を引き受けながら生きていける。
その先に何があるのかは、まだ分からない。
けれど、二人には、まだ明日がある。
仁は、食堂へ向かった。
ホークスは、自宅で、静かに休息を取っていた。
一人は、仲間を探しながら。
もう一人は、自分の限界を受け入れながら。
それぞれの場所で、それぞれの人生を続けていた。
二人は、まだ互いを完全には理解していない。
仁は、ホークスを許していない。
ホークスも、その答えを急がせていない。
それでも、二人は、許しを結末の条件にしない関係へ、ほんの少しだけ進んでいた。
虚飾編・前編 トゥワイスとホークスの物語、完
許されないまま、生きていく。
それは、罪をなかったことにするという意味ではない。
自分がしたことの責任を認め、これから何をするのかを選び続けるということだ。
許せないまま、生きていく。
それは、憎しみにすべてを捧げるという意味ではない。
傷ついたことを否定せず、自分が何を望むのかを、自分の意思で決めるということだ。
トゥワイスは、ホークスを許さなかった。
少なくとも、今は。
ホークスは、トゥワイスから許しを得られなかった。
少なくとも、今は。
それでも、二人の人生は続いていく。
ホークスは、英雄として、誰かを守り続けるだろう。
ただし、誰かを守るために、自分を壊す必要はないと覚え始めた。
トゥワイスは、仲間を探し続けるだろう。
ただし、誰かに必要とされることだけが、自分の価値を決めるわけではないと覚え始めた。
二人は、似た孤独を抱えていた。
けれど、同じ罪を犯したわけではない。
同じ責任を負っているわけでもない。
だからこそ、互いを理解しきれないままでも、それぞれの人生を歩くことができる。
許しを、結末の条件にしない。
相手の答えを、自分の都合で決めない。
それが、二人の物語に残された、ひとつの可能性だった。
そして、世界には、まだ別の孤独がある。
自分の好きなものを、好きだと言えなかった少女。
他人と同じように生きようとして、自分自身を否定され続けた少女。
好きなものに近づきたいという願いが、いつしか、誰かを傷つける行為へと変わっていった少女。
その少女は、これから、自分の過去を語ることになる。
彼女が抱えていた苦しみは、決して偽物ではない。
だが、彼女が傷つけた人々の苦しみも、決して消えない。
その二つを、どちらもなかったことにしないために。
次の物語が、始まる。
虚飾編前編終幕。次話虚飾編後編開幕トガヒミコ、お茶子編開幕。