僕のヒーローアカデミア 原罪   作:神代シン

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第六十二話「破壊を選んだ者の未来」

破壊の中心

衝撃が、地面を揺らした。

 

爆風が吹き抜ける。

 

黒い鞭のように伸びた黒鞭が、瓦礫の向こう側にある建物へ絡みつき、緑谷出久の身体を引き戻した。

 

直後。

 

出久がいた場所を、死柄木弔の腕が薙いだ。

 

「っ!」

 

間一髪。

 

地面が砕ける。

 

破片が飛散し、粉塵が舞い上がる。

 

出久は空中で身体を回転させ、別の建物の壁面を蹴った。浮遊で落下を制御しながら、黒鞭を伸ばす。

 

しかし、死柄木は追ってくる。

 

腕を振るう。

 

その指先が、地面へ触れた。

 

「来る!」

 

出久の危険察知が警鐘を鳴らす。

 

次の瞬間、地面が崩壊した。

 

一枚の床が壊れるのではない。

 

そこから広がるように、周囲の建造物までが崩れていく。

 

「全員、接地面から離れろ!」

 

ロックロックの声が飛ぶ。

 

彼は崩れ始めた道路の一部へ手を触れた。

 

「施錠!」

 

個性によって固定された瓦礫の一部が、その場で動きを止める。

 

しかし、それで崩壊そのものを止められるわけではない。

 

固定した部分を残して、周囲の地面が崩れていく。

 

「固定できる範囲には限界がある! 全員、こいつを足場にするな! 崩れるぞ!」

 

「了解!」

 

マニュアルが水を操り、道路に広がる粉塵を押し流す。

 

水流は崩壊を止めない。

 

だが、視界を確保し、避難経路を確保するには十分だった。

 

「バブルガール! 避難誘導の補助を!」

 

「任せて!」

 

バブルガールが大量の泡を生み出す。

 

泡は落下する小さな破片を包み込み、飛散の勢いを弱めていく。

 

大きな瓦礫を止めるほどの力はない。

 

だが、その小さな差が、逃げ遅れた人々の安全を左右する。

 

「こちら、避難班! 西側通路の確保完了! ただし、建物の一部が崩落しています!」

 

「センチピーダー、応援に向かって!」

 

「了解しました!」

 

長い身体を持つセンチピーダーが、瓦礫の隙間を縫うように進む。

 

その身体を伸ばし、崩れかけた梁の下に取り残された人々を救い出す。

 

戦場の中心では、三人の戦闘が続いている。

 

その周囲では、無数のヒーローたちが別の戦いを繰り広げていた。

 

「……相変わらず、邪魔が多いな」

 

死柄木が呟く。

 

その視線は、出久だけではなく、周辺で動くヒーローたちにも向けられていた。

 

「お前たちは、まだそんなことを続けるのか」

 

「続けるよ」

 

出久は地面へ降り立った。

 

「君を止めることも。避難している人たちを守ることも」

 

「それで、俺を救うこともか?」

 

死柄木の指が動く。

 

出久の危険察知が反応した。

 

「違う!」

 

出久は黒鞭を放った。

 

死柄木の腕へ絡みつく。

 

同時に身体を横へ流し、迫る攻撃を避けた。

 

「君の未来を、僕が勝手に決めるつもりはない!」

 

「なら、何をしに来た!」

 

死柄木が黒鞭を引きちぎるように腕を振る。

 

出久の身体が引っ張られた。

 

そこへ爆発が割り込んだ。

 

「こっちを見ろ!」

 

爆豪勝己。

 

至近距離で放たれた爆発が、死柄木の身体を横へ弾く。

 

「ぐっ……!」

 

「デク! 立ち止まるな!」

 

「分かってる!」

 

出久は空中で姿勢を立て直す。

 

爆豪は死柄木の着地点へ先回りしていた。

 

「お前の相手は俺だ!」

 

「邪魔だと言っている」

 

死柄木が腕を振るう。

 

爆豪は爆発を連続させ、軌道を変えた。

 

直線的に突っ込むのではない。

 

爆発の反動を利用して、死柄木の死角へ潜り込む。

 

「遅ぇ!」

 

爆発。

 

死柄木の身体が揺れる。

 

しかし、倒れない。

 

そのまま腕を伸ばす。

 

爆豪は回避する。

 

避けた先へ、もう一度攻撃が来た。

 

「チッ!」

 

爆豪は両手から爆発を放つ。

 

地面を蹴るのではなく、爆風そのものを足場にして飛び上がった。

 

死柄木の腕が空を切る。

 

その瞬間、出久の黒鞭が死柄木の背後から伸びた。

 

「今だ!」

 

黒鞭が身体へ絡みつく。

 

出久が引く。

 

爆豪が前方から追撃する。

 

二人の連携によって、死柄木の動きが一瞬だけ止まった。

 

だが。

 

「……だから何だ」

 

死柄木が笑った。

 

「止めたつもりか?」

 

腕の筋肉が膨張する。

 

黒鞭が軋んだ。

 

「出久!」

 

「分かってる!」

 

出久は黒鞭を解除した。

 

次の瞬間、死柄木の腕が振り抜かれる。

 

爆豪は上昇。

 

出久は浮遊。

 

その二人の間を、死柄木の攻撃が通過した。

 

地面が割れる。

 

建物の外壁が崩れる。

 

それでも、死柄木は止まらなかった。

 

それぞれの戦場

「ロックロックさん! 右側の建物が!」

 

「見えてる!」

 

ロックロックは倒壊しかけた支柱へ触れた。

 

「施錠!」

 

支柱が固定される。

 

だが、その瞬間に別の梁が落下した。

 

「ちっ!」

 

ロックロックは身体を伏せる。

 

彼の個性は、固定したものをその場に留めることができる。

 

だが、固定していないものまで止められるわけではない。

 

そして、すべてを固定することもできない。

 

「マニュアル!」

 

「了解!」

 

水流が走る。

 

落下する瓦礫を押し返すのではなく、軌道をわずかに逸らす。

 

そのわずかな変化が、ロックロックの作業時間を生んだ。

 

「そこだ!」

 

ロックロックが別の瓦礫へ触れる。

 

固定。

 

「よし! 救助班、今のうちに通れ!」

 

「了解!」

 

センチピーダーが瓦礫の隙間へ身体を伸ばす。

 

「こちらに人がいます! 意識あり!」

 

「バブルガール!」

 

「泡で保護します!」

 

泡が負傷者の周囲を包み込む。

 

落下してくる細かな破片から人々を守りながら、避難経路へと運ばれていく。

 

その作業を見ていたスピナーが、歯を食いしばった。

 

「……また、ヒーローか」

 

彼の身体には、いくつもの腕がある。

 

その腕の一部には、刃のような武器が備わっていた。

 

巨大化した身体は、まだ十分な戦闘能力を残している。

 

拘束されていた部分は、先ほどの衝撃で一部が緩んでいた。

 

ロックロックが振り返る。

 

「動くな!」

 

「動くなと言われて、動かなかったら終わりだろうが!」

 

スピナーが腕を振るう。

 

ロックロックの足元へ、刃が迫る。

 

「くっ!」

 

ロックロックは跳び退いた。

 

マニュアルが水流を放つ。

 

スピナーの動きが一瞬だけ鈍る。

 

しかし、完全には止まらない。

 

「俺は……!」

 

スピナーが腕を広げる。

 

「俺は、まだ死柄木の仲間だ!」

 

その腕が、ヒーローたちへ向けられる。

 

だが。

 

刃は、ヒーローたちに届かなかった。

 

スピナーは横へ身体をひねった。

 

その先には、崩れかけた壁があった。

 

壁の向こう側には、避難の途中で取り残された人々がいる。

 

「なっ……!」

 

スピナーは全身の腕を広げる。

 

崩れてくる壁を受け止めた。

 

「ぐっ……!」

 

巨体が沈む。

 

足元の地面が砕ける。

 

だが、壁は止まった。

 

「おい、スピナー!」

 

ロックロックが声を上げる。

 

「何のつもりだ!」

 

「知らねぇよ!」

 

スピナーは歯を食いしばったまま叫んだ。

 

「俺が決めたんだ! 俺が、ここを支えるって決めた!」

 

「なら、動くな! 固定する!」

 

ロックロックが走る。

 

スピナーの身体そのものではなく、彼の足元の崩れかけた床を固定した。

 

「マニュアル!」

 

「もうやっている!」

 

水流が周囲の粉塵を払い、崩れた瓦礫の隙間を広げる。

 

センチピーダーが避難民のもとへ伸びていく。

 

バブルガールの泡が人々を包み込む。

 

「今です!」

 

「こっちだ! 急げ!」

 

スピナーは壁を支え続けた。

 

やがて、最後の一人が避難経路へと運び出される。

 

スピナーの腕から力が抜けた。

 

崩れた壁が、ゆっくりと横へ滑り落ちる。

 

「……はぁ……はぁ……」

 

彼は膝をついた。

 

ロックロックが警戒を解かないまま近づく。

 

「お前、何を考えている」

 

「何も考えてねぇよ」

 

「そんなわけがあるか」

 

「俺は……あいつの仲間だ」

 

スピナーは、戦場の中心へ視線を向けた。

 

死柄木がいる。

 

出久がいる。

 

爆豪がいる。

 

「それは変わってねぇ」

 

「なら、どうして助けた」

 

「俺が助けると決めたからだ」

 

スピナーは顔を上げた。

 

「お前らに認められたいわけじゃねぇ。許してほしいわけでもねぇ」

 

「……」

 

「俺がやったことは、俺の責任だ。だから、今ここで俺が何をするかも、俺が決める」

 

ロックロックはすぐには答えなかった。

 

「お前が自分で決めたっていうなら、こっちも自分で決める」

 

「何だと?」

 

「お前を信用したわけじゃない。だが、今の行動を無視するつもりもない」

 

ロックロックは周囲を見渡した。

 

「救助が終わるまで、そこにいろ。逃げようとしたら拘束する」

 

「勝手にしろ」

 

スピナーは再び、戦場の中心を見た。

 

彼はまだ、死柄木の仲間だった。

 

だが、そのことと、今の自分の行動は別の話になり始めていた。

 

一人で背負うな

戦場の中心。

 

出久は死柄木と距離を取っていた。

 

呼吸が荒い。

 

全身に負荷が蓄積している。

 

それでも、彼の視線は死柄木から離れない。

 

「まだ来るのか」

 

死柄木が問う。

 

「来るよ」

 

「俺が何を選んだか、聞いただろう」

 

「聞いた」

 

「俺は破壊を選んだ。お前がどう理解しようと、変わらない」

 

「分かってる」

 

出久は拳を握った。

 

「君が破壊を選んだことを、僕が勝手に別の意味に変えるつもりはない」

 

「なら、何故止める」

 

「君の選択によって、今も誰かが傷ついているからだ!」

 

出久の声が響く。

 

「君の未来を僕が決めることはできない。でも、君が誰かの未来を奪うことを、見過ごすこともできない!」

 

死柄木は目を細めた。

 

「結局、同じだ」

 

「何が?」

 

「お前は俺を止める。俺は壊す。お前は自分の正義を押しつける」

 

「違う!」

 

出久は踏み込んだ。

 

「僕の正義が正しいかどうかを、君に認めさせるつもりはない!」

 

「……何?」

 

「君が僕を理解しなくてもいい。僕の考えを受け入れなくてもいい。でも、僕は君を止める!」

 

出久の拳が迫る。

 

死柄木が腕を上げる。

 

衝突。

 

空気が震えた。

 

出久の拳は止められた。

 

だが、そこへ黒鞭が絡む。

 

死柄木の腕を横へ引き、出久は身体を低くした。

 

「っ!」

 

死柄木の膝が出久の身体を襲う。

 

出久は浮遊で衝撃を逃がした。

 

しかし、完全には避けきれない。

 

身体が後方へ弾かれる。

 

「デク!」

 

爆豪が爆発を放った。

 

死柄木の横腹へ直撃する。

 

「邪魔をするな!」

 

死柄木が振り返る。

 

その動きを見た爆豪は、すぐさま軌道を変えた。

 

「邪魔してんだよ!」

 

爆発。

 

さらに連続爆発。

 

死柄木の視界を塞ぎ、出久が立て直すための時間を作る。

 

出久は地面へ足をついた。

 

「勝っちゃん!」

 

「何だ!」

 

「もう少しだけ、隙を作って!」

 

「注文が多いんだよ!」

 

爆豪は死柄木へ突っ込んだ。

 

両手の爆発を制御する。

 

大きな爆発で押し込むのではなく、小さな爆発を連続させて相手の体勢を崩す。

 

死柄木は腕で防ぐ。

 

その防御の隙間へ、爆豪の攻撃が滑り込む。

 

「APショット!」

 

圧縮された爆発が一点へ集中した。

 

死柄木の身体が揺れる。

 

その瞬間、出久が飛び込んだ。

 

「デトロイト・スマッシュ!」

 

拳が死柄木の胸部へ迫る。

 

だが、死柄木は攻撃を受け止めた。

 

そのまま出久の腕をつかむ。

 

「捕まえた」

 

危険察知。

 

出久の全身が警鐘を鳴らす。

 

死柄木のもう片方の手が、出久へ伸びる。

 

その指先が触れれば、ただでは済まない。

 

出久は黒鞭を地面へ伸ばした。

 

身体を引き離す。

 

しかし、死柄木の手が追いすがる。

 

「逃がすか!」

 

出久は腕を引き抜こうとする。

 

間に合わない。

 

その時だった。

 

爆発が、死柄木の手首を横から撃ち抜いた。

 

「誰が逃がすかよ!」

 

爆豪の姿が、死柄木の背後へ回り込んでいた。

 

爆発の反動を利用した急旋回。

 

地面すれすれから跳ね上がり、死柄木の死角へ入り込んでいる。

 

「デク!」

 

「ありがとう、勝っちゃん!」

 

出久が離脱する。

 

その身体を、黒鞭が支えた。

 

爆豪は着地と同時に、出久へ怒鳴る。

 

「お前、何でも一人でやろうとすんな!」

 

「そんなつもりは!」

 

「嘘つけ!」

 

爆豪は死柄木から目を離さずに続けた。

 

「お前はいつも、自分がやらなきゃならねぇって顔をする!」

 

「……」

 

「自分で背負うって決めたら、周りが何も言わずに従うと思ってんのか!」

 

出久は言い返せなかった。

 

爆豪の言葉には、怒りがある。

 

だが、その怒りは出久の信念を否定するためのものではなかった。

 

「俺は俺の意志でここにいる」

 

爆豪は言った。

 

「お前の理想に付き合ってるんじゃねぇ。俺が止めたいから止める。俺が守りたいから守る」

 

「勝っちゃん……」

 

「だから、お前も勝手に俺たちの分まで背負うな!」

 

死柄木が笑った。

 

「仲間ごっこか」

 

爆豪の視線が鋭くなる。

 

「何だと?」

 

「お前たちは、誰かを救うと言いながら、結局は自分たちの満足のために動いている」

 

「……」

 

「緑谷を救うのも同じだ。お前たちが彼を必要としているだけだろう」

 

出久の表情が変わる。

 

その言葉は、否定しきれない部分を持っていた。

 

ヒーローたちは誰かを救う。

 

だが、救われる側の意思を無視してしまえば、救済という言葉は簡単に支配へ変わる。

 

それは出久自身が、死柄木との対話を通して考え続けてきたことだった。

 

「そうかもしれない」

 

出久は答えた。

 

「僕たちが勝手に誰かを必要として、勝手に期待していることもあると思う」

 

「ならば――」

 

「でも、それで終わりじゃない」

 

出久は爆豪の横に立つ。

 

「僕を心配することも、僕を助けることも、僕の意思を無視していることとは限らない」

 

死柄木の目が動いた。

 

「何を言っている」

 

「僕は、一人で戦いたいわけじゃない」

 

出久は言った。

 

「僕が戦うと決めたことと、みんなに助けてもらうことは、矛盾しないんだ」

 

英雄たちの選択

「聞いたか、全員!」

 

ロックロックの声が通信に響く。

 

「緑谷が一人で戦う必要はない。周辺部隊は予定通り動け!」

 

「了解!」

 

「こちらマニュアル! 東側の避難路を確保した!」

 

「バブルガール、救助対象の移送を完了!」

 

「センチピーダー、崩落区域の確認に入ります!」

 

出久は通信を聞いていた。

 

自分のために戦場が動いている。

 

それは、彼の戦いを奪うことではなかった。

 

誰かが自分の判断で、出久を支えようとしている。

 

その事実が、胸の奥に重く響いた。

 

「緑谷!」

 

ロックロックが呼びかける。

 

「お前の戦いを邪魔するつもりはない!」

 

「はい!」

 

「だが、こっちにもこっちの仕事がある!」

 

ロックロックは、崩れた道路の一部を固定した。

 

「お前が戦いやすいように、足場を残す!」

 

マニュアルが水を操り、粉塵を散らす。

 

「視界を確保する! 攻撃を続けろ!」

 

バブルガールは泡を放ち、飛散物を包み込む。

 

「周囲の人たちは私たちが守ります!」

 

センチピーダーは崩落区域を走り抜ける。

 

「戦闘区域からの避難は、こちらで引き受けます!」

 

ヒーローたちの声が、次々と通信に届く。

 

出久は一瞬だけ目を閉じた。

 

そして、開いた。

 

「ありがとうございます!」

 

その言葉は、戦場の中へ届いた。

 

「でも、僕は死柄木を止めます!」

 

「それでいい!」

 

ロックロックが返した。

 

「止めるために戦え! 周りのことは、俺たちにも任せろ!」

 

死柄木は、その光景を見つめていた。

 

「……何をしている」

 

その声は低い。

 

「お前たちは、緑谷を戦わせたいのか?」

 

「違う」

 

ロックロックが答える。

 

「緑谷に戦わせたいんじゃない。俺たちが戦いたいから戦っている」

 

「同じことだ」

 

「違うな」

 

ロックロックは笑わなかった。

 

「お前には分からないかもしれない。俺たちが何を選んでここにいるのか」

 

「理解する必要もない」

 

「そうだ。理解しなくてもいい」

 

ロックロックは手を構えた。

 

「だが、俺たちが決めたことを、お前に否定される筋合いもない」

 

死柄木は、その言葉を聞いていた。

 

そして、ゆっくりと両手を広げる。

 

「ならば、全員まとめて壊してやる」

 

地面が震えた。

 

連携

死柄木が地面へ手をついた。

 

危険察知が、出久の頭の中で激しく鳴り響く。

 

「全員、離れろ!」

 

出久が叫ぶ。

 

だが、今回の崩壊はこれまでとは違っていた。

 

単純に地面へ広がるだけではない。

 

周囲にある建造物、道路、瓦礫。

 

それらを利用して、崩壊の範囲が複雑に広がろうとしていた。

 

「くっ!」

 

出久は浮遊を使った。

 

身体を空中へ逃がす。

 

黒鞭を伸ばし、近くの建物へ絡める。

 

爆豪も爆発で上昇した。

 

しかし、地上には避難班がいる。

 

このままでは、彼らも巻き込まれる。

 

「マニュアル!」

 

「分かっている!」

 

水流が地面を走る。

 

マニュアルは崩れた瓦礫の周辺へ水を広げ、粉塵を押し流す。

 

しかし、崩壊の進行を止めることはできない。

 

「ロックロック!」

 

「施錠!」

 

ロックロックが避難路の支柱を固定する。

 

一瞬だけ、崩れかけた構造物が持ちこたえる。

 

「その間に通せ!」

 

「避難班、急いで!」

 

センチピーダーが身体を伸ばす。

 

負傷者を一人ずつ運ぶだけではない。

 

自分の身体を避難路の手すり代わりにして、人々が瓦礫を越えられるようにする。

 

バブルガールは、落下物を泡で包み込む。

 

「危ない!」

 

泡が弾ける。

 

大きな破片がひとつ、避難民の頭上へ落ちた。

 

その時。

 

「どけぇ!」

 

巨大な腕が、破片を受け止めた。

 

スピナーだった。

 

拘束が完全に解けたわけではない。

 

それでも、彼は自分の腕を伸ばし、崩れた壁を押し返していた。

 

「スピナー!」

 

ロックロックが声を上げる。

 

「こいつの下を通れ!」

 

「お前、まだ戦う気か!」

 

「当たり前だ!」

 

スピナーは死柄木を見た。

 

「俺はあいつの仲間だ!」

 

「なら、どうして――」

 

「俺が決めた!」

 

スピナーの声が響く。

 

「何度言わせるんだ! 俺が何をするかは、俺が決める!」

 

彼の腕が、崩落する壁を支え続ける。

 

避難民が通り抜けていく。

 

その間にも、戦場の中心では出久と爆豪が死柄木へ向かっていた。

 

「勝っちゃん!」

 

「分かってる!」

 

爆豪が急加速する。

 

死柄木は腕を広げた。

 

爆発を受け止める。

 

そのまま爆豪の腕をつかもうとした。

 

爆豪は身体をひねる。

 

両掌の爆発を左右へ分散し、死柄木の腕から離脱する。

 

「ちっ、しぶとい!」

 

死柄木の背後へ回る。

 

爆発。

 

出久が正面から飛び込む。

 

「黒鞭!」

 

複数の黒鞭が死柄木の脚と腕へ絡む。

 

死柄木は力任せに引きちぎろうとする。

 

出久は引かない。

 

黒鞭の一部を建物へ絡め、身体全体を使って固定した。

 

「今だ、勝っちゃん!」

 

「言われなくても!」

 

爆豪の掌が光る。

 

連続爆発で加速。

 

そのまま、死柄木の側面へ回り込む。

 

「喰らえ!」

 

爆発が直撃した。

 

死柄木の身体が横へ飛ぶ。

 

しかし、倒れない。

 

地面へ手をつこうとする。

 

その手が触れる前に、出久が黒鞭を引いた。

 

死柄木の身体が宙へ浮く。

 

「させない!」

 

「小賢しい!」

 

死柄木の腕が伸びる。

 

その指先が黒鞭をつかむ。

 

出久は即座に解除した。

 

しかし、死柄木はすでに次の攻撃へ移っていた。

 

もう片方の腕が、出久へ迫る。

 

爆豪が割って入る。

 

「デク!」

 

爆発。

 

死柄木の攻撃が逸れる。

 

その隙に出久が身体を回転させる。

 

「スマッシュ!」

 

死柄木の顎を狙った一撃。

 

直撃。

 

だが、死柄木は首をわずかにそらしただけだった。

 

出久の拳をつかむ。

 

「まだだ」

 

死柄木が言った。

 

「お前たちは、俺を止められない」

 

「それは、これから決める!」

 

出久は拳を引き抜こうとする。

 

死柄木が笑う。

 

「お前は、俺を理解しようとしている」

 

「そうだ!」

 

「だが、理解したところで、何が変わる?」

 

「何も変わらないかもしれない!」

 

出久は答えた。

 

「君の考えが変わるとは限らない。僕が君を許せるようになるとも限らない。君が僕を認める必要もない!」

 

「ならば!」

 

「それでも、僕は君を止める!」

 

出久の声に、迷いはなかった。

 

「僕は君が何を選んだのかを聞いた。だから、今度は僕が何を選ぶのかを示す!」

 

出久の全身に力が入る。

 

黒鞭が死柄木の腕へ絡みつき、身体を引き寄せる。

 

その力を使って、死柄木の体勢を崩す。

 

爆豪が側面から突っ込んだ。

 

「二人で十分だと思ってんじゃねぇぞ!」

 

爆発が連続する。

 

死柄木の腕が押し返される。

 

出久はその一瞬を見逃さなかった。

 

受け取ること

だが、死柄木の身体が大きく揺れた瞬間。

 

彼は地面へ腕を伸ばした。

 

「しまっ――!」

 

危険察知が鳴る。

 

死柄木の指先が、地面へ触れた。

 

崩壊が始まる。

 

その範囲は、出久たちの足元だけではない。

 

先ほどまで避難を続けていた区域にも及ぼうとしていた。

 

「全員、退避!」

 

ロックロックが叫ぶ。

 

マニュアルが水流を放つ。

 

センチピーダーが避難民を運ぶ。

 

バブルガールが泡を広げる。

 

だが、崩壊の速度は速い。

 

出久は黒鞭を伸ばした。

 

複数の人間へ絡め、まとめて引き寄せる。

 

しかし、全員を同時に救うには距離が足りない。

 

「くっ……!」

 

浮遊で上昇する。

 

黒鞭で人々を引き上げる。

 

その間にも、崩壊は迫ってくる。

 

出久は歯を食いしばった。

 

もう少し。

 

あと少し。

 

自分が全部引き上げればいい。

 

自分が間に合えばいい。

 

そう思った瞬間。

 

「緑谷!」

 

ロックロックの声が響いた。

 

「こっちは任せろ!」

 

ロックロックは、崩れかけた建物の一部を固定していた。

 

固定した瓦礫を足場にして、避難班が人々を引き上げる。

 

「バブルガール!」

 

「はい!」

 

泡が広がる。

 

落下する破片を包み込み、避難路を確保する。

 

「マニュアル!」

 

「水流を変える!」

 

マニュアルは水の流れを変化させ、避難区域へ流れ込む粉塵を押し戻した。

 

「センチピーダー!」

 

「こちらです!」

 

センチピーダーが身体を伸ばし、最後の避難民を抱え上げる。

 

出久の黒鞭だけではない。

 

ヒーローたちが、それぞれの個性で人々を守っていた。

 

「……!」

 

出久は一瞬、彼らを見た。

 

自分ひとりでやらなくていい。

 

彼らは出久のために、自分の仕事を放棄したわけではない。

 

自分たちが守りたいものを、自分たちの意志で守っている。

 

そして、その中には出久も含まれていた。

 

「緑谷!」

 

爆豪の声が飛ぶ。

 

「前を見ろ!」

 

出久は死柄木へ視線を戻した。

 

死柄木は、崩壊する地面の上に立っていた。

 

まるで、その破壊の中心にいることを当然のように受け入れている。

 

「守られているな、緑谷」

 

死柄木が言った。

 

「……そうだね」

 

「お前が救うはずの人間に、今度はお前が救われるのか」

 

「そうだよ」

 

出久は答えた。

 

死柄木の表情がわずかに変化する。

 

「何だと?」

 

「僕だって、誰かに助けられることがある」

 

出久は拳を握る。

 

「僕だって、傷つくし、間違える。誰かに支えてもらわなければ、立っていられない時だってある」

 

「ヒーローが、そんなことを認めるのか」

 

「認めるよ」

 

出久は一歩踏み出した。

 

「僕は、誰かを救うために戦いたい。でも、それは僕自身が救われなくていい理由にはならない」

 

爆豪が出久の隣に並ぶ。

 

「ようやく言いやがったな」

 

「勝っちゃん?」

 

「最初からそうしろって話だ」

 

爆豪は掌を構えた。

 

「お前だけが助ける側だと思ってんじゃねぇ」

 

その言葉は、出久の胸へ強く響いた。

 

出久は小さく息を吐いた。

 

「うん」

 

彼は死柄木を見据える。

 

「君が誰かを救えなかったことを、僕はなかったことにできない。君が誰かを傷つけたことも、許したことにはならない」

 

「……」

 

「だけど、僕が誰かに助けられることを恥ずかしいとは思わない」

 

死柄木の腕が動いた。

 

「くだらない」

 

「そうかもしれない」

 

出久は構える。

 

「それでも、僕はそう思う」

 

破壊者の答え

死柄木は、ゆっくりと前へ歩いた。

 

瓦礫を踏みつける。

 

足元の破片が崩れる。

 

彼は周囲を見ていた。

 

出久と爆豪。

 

その後方にいるプロヒーローたち。

 

スピナー。

 

誰もが、それぞれの意志で動いている。

 

「……気に入らない」

 

死柄木が呟く。

 

「何が?」

 

出久が問う。

 

「お前たちは、どうしてそんな顔をしている」

 

死柄木の声には苛立ちがあった。

 

「どうして、まだ立っていられる」

 

「僕たちは、まだ諦めていないから」

 

「何をだ」

 

「守ることを」

 

「世界をか?」

 

「今ここにいる人たちを」

 

「同じだ」

 

死柄木は手を広げた。

 

「この世界そのものが、何もかもを生み出した。苦しみも、差別も、憎しみも、誰かを救えなかった後悔も。すべてが、この世界の中で繰り返される」

 

彼の身体から、殺気が膨れ上がる。

 

「ならば、壊すしかない」

 

「君がそう決めたことは分かった」

 

「理解したと言いたいのか」

 

「分かったと言っただけだ」

 

出久は言葉を選ぶ。

 

「君の考えを全部理解できたとは思わない。君の苦しみを、僕が同じように感じられるとも思わない」

 

「ならば、何故そこまでして俺に向き合う」

 

「向き合わなければ、止められないから」

 

「お前は俺を止めるために、俺を理解しようとしているのか」

 

「そうだ」

 

出久は正面から答えた。

 

「理解できれば、戦わなくて済むと思っていたわけじゃない。理解できたら、君が破壊をやめると期待していたわけでもない」

 

「……」

 

「でも、君がどんな人間なのかを知ろうとせずに、ただ倒すだけでいいとは思えなかった」

 

死柄木は黙っていた。

 

その沈黙を、出久は答えだとは思わない。

 

「それでも、僕は君を止める」

 

「結局、そこに戻るのか」

 

「戻るよ」

 

出久は拳を握る。

 

「君が選んだことを否定するためじゃない。君の意思を奪うためでもない。僕が、君の破壊を止めると決めたからだ」

 

死柄木の口元が歪む。

 

「ならば、最後までやれ」

 

その足が地面を踏む。

 

「俺は止まらない」

 

「分かってる!」

 

出久が動いた。

 

憤怒の継承

死柄木が突進する。

 

出久は真正面から迎え撃たない。

 

浮遊を使い、わずかに身体を浮かせる。

 

死柄木の腕が通過する。

 

その背後へ黒鞭を伸ばす。

 

死柄木は身体を反転させ、黒鞭を引きちぎろうとした。

 

だが、その瞬間。

 

爆豪が横から飛び込む。

 

「お前の相手は、まだ終わってねぇ!」

 

爆発。

 

死柄木の腕が弾かれる。

 

出久は黒鞭を解除し、身体を反転させた。

 

「勝っちゃん、右!」

 

「見えてる!」

 

爆豪が右へ移動する。

 

出久は左へ。

 

二方向から同時に攻める。

 

死柄木は両腕を広げ、二人の進路を遮った。

 

その瞬間、出久は身体を低くする。

 

黒鞭で地面をつかむ。

 

爆豪は爆発を連続させ、死柄木の頭上へ回り込んだ。

 

「喰らえ!」

 

爆発が降り注ぐ。

 

死柄木が腕で防ぐ。

 

その防御の隙間へ、出久が飛び込んだ。

 

「スマッシュ!」

 

拳が死柄木の胴体へ叩き込まれる。

 

衝撃が広がった。

 

しかし、死柄木は倒れない。

 

そのまま出久の腕をつかむ。

 

「捕まえた!」

 

「っ!」

 

死柄木は出久を引き寄せた。

 

その身体を地面へ叩きつけようとする。

 

出久は黒鞭を放つ。

 

自分の身体を引き戻すのではない。

 

死柄木の腕へ絡め、動きを制限する。

 

だが、力の差で押し込まれる。

 

「ぐっ……!」

 

爆豪が接近する。

 

「離せ!」

 

爆発。

 

死柄木の腕が揺れる。

 

出久はその一瞬を使い、身体を回転させて脱出した。

 

二人は距離を取る。

 

死柄木は、まだ立っている。

 

出久も爆豪も、疲労が積み重なっていた。

 

その時。

 

「死柄木!」

 

スピナーの声が響いた。

 

三人が視線を向ける。

 

スピナーはロックロックたちと向き合いながら、崩れた瓦礫の近くに立っていた。

 

その身体には傷があり、動きも万全ではない。

 

それでも、彼は立っていた。

 

「俺は、お前の仲間だ!」

 

死柄木は答えない。

 

「俺がここにいる理由は、今も変わらない!」

 

スピナーは拳を握る。

 

「お前が世界を壊そうとしていることも、俺は知っている!」

 

その言葉に、ロックロックが警戒を強める。

 

スピナーは続けた。

 

「だが、俺が誰を守るか、何をするかまで、お前に決めさせるつもりはない!」

 

死柄木の顔がわずかに動く。

 

「俺は、お前に拾われた。お前が俺を否定しなかったから、俺はここにいた」

 

「……」

 

「だが、だからといって、お前の命令を全部正しいと思う必要はなかったんだ」

 

スピナーは自分の腕を見た。

 

無数の腕。

 

かつては、自分の姿を嫌っていた。

 

自分の外見を理由に、世界から拒絶されてきた。

 

その怒りを、死柄木に見つけてもらった。

 

だからこそ、彼に従うことが自分の居場所を守ることだと思っていた。

 

「俺は、お前の仲間でいたい」

 

スピナーは言った。

 

「だが、お前が選んだ破壊のすべてを、俺が代わりに選んだことにはしない」

 

死柄木が目を細める。

 

「好きにしろ」

 

「そうする」

 

「俺は止まらない」

 

「分かってる」

 

スピナーは視線を逸らさなかった。

 

「だから、俺も俺の選択を続ける」

 

それは決別ではなかった。

 

同意でもなかった。

 

スピナーは、死柄木の仲間であることをやめてはいない。

 

ただ、死柄木の選択と自分の選択を、同じものとして扱わなくなったのだ。

 

「……くだらない」

 

死柄木が呟いた。

 

そして、出久たちへ向き直る。

 

「全員、同じことを言う」

 

「同じじゃないよ」

 

出久が答えた。

 

「僕たちは、それぞれ違う理由でここにいる」

 

「ならば、その違いごと壊してやる」

 

死柄木が踏み込んだ。

 

最終局面へ

衝撃が走る。

 

出久が前へ出る。

 

爆豪がその側面を支える。

 

死柄木の腕が振り抜かれる。

 

出久は浮遊で回避。

 

爆豪は爆発で軌道を変える。

 

黒鞭が伸びる。

 

爆発が走る。

 

死柄木はそれらを受け止め、押し返す。

 

「まだだ!」

 

出久が叫ぶ。

 

「まだ止まらない!」

 

「ならば、壊れるまで戦え!」

 

死柄木の攻撃が二人を襲う。

 

爆豪が前へ出る。

 

「壊れるのはてめぇの方だ!」

 

爆発。

 

死柄木の身体が揺れる。

 

その隙に、出久が拳を構えた。

 

二人の攻撃が重なる。

 

爆豪の爆発が死柄木の動きを制限し、出久の拳がその中心へ向かう。

 

だが、死柄木もまた、二人の連携を見ていた。

 

腕を交差させる。

 

衝撃を受け止める。

 

そのまま、二人を押し返した。

 

「くっ!」

 

出久が地面へ着地する。

 

爆豪も距離を取った。

 

死柄木は、ゆっくりと腕を下ろした。

 

その表情は崩れていない。

 

むしろ、どこか静かだった。

 

「緑谷」

 

「何?」

 

「お前は、俺の未来を決めないと言った」

 

「そうだ」

 

「ならば、俺が何をするかも止めるな」

 

出久は首を横に振る。

 

「それは違う」

 

「何故だ」

 

「君の未来を決めないことと、君が誰かを傷つけるのを見逃すことは違うからだ」

 

「俺の意志を尊重するのではなかったのか」

 

「尊重するよ」

 

出久は一歩前へ出た。

 

「君が何を選んだかを、僕の都合で別のものに変えたりしない」

 

「ならば――」

 

「でも、僕にも僕の意志がある」

 

出久は拳を構える。

 

「僕は君を止める。君がそれを望まなくても」

 

死柄木の手が動いた。

 

「結局、誰もが自分の正しさを押しつける」

 

「そうかもしれない」

 

出久は答えた。

 

「だから、僕は君に僕の答えを受け入れろとは言わない」

 

「……」

 

「ただ、僕の答えを行動で示す」

 

爆豪が隣に立った。

 

「そろそろ話は終わりだ」

 

「勝っちゃん」

 

「分かってる。お前が言いたいことはな」

 

爆豪は掌を開く。

 

「だが、口だけで終わらせるつもりはねぇ」

 

「うん」

 

二人は同時に踏み込んだ。

 

出久の黒鞭が死柄木の脚へ伸びる。

 

死柄木が腕を振るう。

 

その攻撃を爆豪が爆発で逸らす。

 

出久はその隙間へ入り、死柄木の重心を崩す。

 

爆豪は上空へ跳び、爆発を圧縮する。

 

「これで!」

 

爆発。

 

出久の拳が重なる。

 

死柄木の身体が大きく揺れた。

 

今までで最も強い衝撃。

 

瓦礫が舞い上がる。

 

粉塵が晴れる。

 

その向こうに、死柄木が立っていた。

 

膝はついていない。

 

それでも、彼の身体には確かな損傷が蓄積している。

 

出久もまた、呼吸を整えながら立っていた。

 

爆豪は肩で息をしている。

 

ロックロックたちは、周囲の安全を確保しながら三人の戦いを見守っていた。

 

スピナーもまた、死柄木を見ている。

 

誰も、終わったとは思っていなかった。

 

死柄木が口を開く。

 

「……お前たちは、まだ俺を止めるつもりか」

 

出久は答える。

 

「うん」

 

爆豪も続けた。

 

「当然だ」

 

死柄木は笑った。

 

「ならば、来い」

 

彼の身体から、再び破壊の気配が膨れ上がる。

 

「俺は、まだ何も終わらせていない」

 

出久は拳を握り直す。

 

彼は死柄木を理解し始めていた。

 

死柄木もまた、出久たちが何を選んでいるのかを、少しずつ理解しているのかもしれない。

 

だが、それで戦う理由が消えることはない。

 

理解は、同意ではない。

 

理解は、許しでもない。

 

そして、理解したからといって、相手の選択を奪っていいわけでもない。

 

出久は自分の意志で死柄木を止める。

 

爆豪は自分の意志で出久を支える。

 

プロヒーローたちは、自分たちの意志で二人を支える。

 

スピナーは、死柄木の仲間でありながら、自分自身の意志で動く。

 

誰もが違う答えを持っていた。

 

誰もが、まだ答えを出し切っていなかった。

 

「行くよ、勝っちゃん」

 

「命令すんな」

 

「ごめん」

 

「謝る暇があったら前を見ろ!」

 

「うん!」

 

二人が走る。

 

死柄木が迎え撃つ。

 

再び、爆発と衝撃が戦場を満たした。

 

その光景を見ながら、ロックロックが通信を開く。

 

「全救助班、聞こえるか」

 

「こちらマニュアル!」

 

「戦闘区域の避難は継続中です!」

 

「バブルガール、支援可能です!」

 

「センチピーダー、負傷者の移送を続けています!」

 

ロックロックは、戦場の中心を見た。

 

「緑谷を一人にするな。爆豪もだ」

 

「了解!」

 

「ただし、二人の戦いを邪魔するな。俺たちには俺たちの戦いがある」

 

「分かっています!」

 

彼らは動き出した。

 

出久にすべてを背負わせないために。

 

爆豪にすべてを任せないために。

 

そして、自分たち自身が守ると決めたものを守るために。

 

その姿は、出久の理想を否定してはいなかった。

 

むしろ、彼の理想を支えていた。

 

誰かを救う者もまた、誰かに救われていい。

 

その当たり前の事実を、彼らは行動で示そうとしていた。

 

戦場の中心で、出久の拳と死柄木の腕がぶつかる。

 

爆豪の爆発が、その衝撃を押し返す。

 

死柄木は笑う。

 

「まだだ!」

 

出久は叫ぶ。

 

「僕も、まだだ!」

 

破壊を選んだ者。

 

破壊を止めると選んだ者。

 

そして、その戦いを一人にしないと選んだ者たち。

 

それぞれの意志がぶつかり合う中、戦いは最終局面へと進んでいった。

 

しかし、勝敗はまだ決まらない。

 

死柄木は倒れていない。

 

出久も、爆豪も、立ち続けている。

 

そして、スピナーはまだ死柄木のもとを離れてはいなかった。

 

彼らの選択がどこへ行き着くのか。

 

その答えは、まだ誰にも分からない。




体調マシになってきたので再開です
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