僕のヒーローアカデミア 原罪   作:神代シン

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第六十七話「憤怒の継承者」

一、怒りを運ぶ者

「――壊せ」

 

その声は、崩れた街の向こうから聞こえた。

 

出久は反射的に顔を上げる。

 

死柄木弔の腕が、地面へ向かって伸びていた。

 

「来る!」

 

危険察知が激しく反応する。

 

出久は浮遊を発動し、地面から離れた。

 

爆豪も両手から爆発を放つ。

 

二人の足元が崩れる。

 

道路の表面が剥がれ、亀裂が広がり、建物の基礎が音を立てて傾いていく。

 

「また範囲が広がった!」

 

出久は空中から周囲を確認した。

 

死柄木の破壊は、二人のいる場所だけを狙っているわけではない。道路、建物、残された構造物。あらゆるものを巻き込んで、戦場全体を崩そうとしている。

 

その中心に、死柄木がいた。

 

「どこまで壊せば気が済むんだ!」

 

爆豪が叫ぶ。

 

「気が済む?」

 

死柄木は笑った。

 

「そんなものがあると思うのか」

 

「何だと?」

 

「壊したところで、何かが戻るわけじゃない。誰かが謝るわけでもない。俺が失ったものが、そこに戻ってくるわけでもない」

 

死柄木は腕を広げた。

 

「それでも、壊す」

 

出久は息を呑んだ。

 

死柄木にとって破壊は、何かを取り戻すための手段ではなくなっている。

 

失ったものを取り返すという希望すら、彼は拒み始めている。

 

「ならば、怒りを残す」

 

死柄木の声が響く。

 

「俺が壊す。俺が消えた後も、俺が何を憎んでいたのかを誰かが知る」

 

その言葉に、スピナーが反応した。

 

「……死柄木」

 

彼は崩れた建物の近くに立っていた。

 

複数の腕で瓦礫を支え、避難路を確保している。

 

その身体にはまだ拘束が残っていたが、動くことはできる。

 

「俺に言っているのか」

 

死柄木はスピナーを見た。

 

「お前は、俺の言葉を運んできた」

 

「……ああ」

 

「俺の怒りを広めた。俺の考えを伝えた。俺が世界を壊すと言った時、お前はその言葉を否定しなかった」

 

「そうだ」

 

スピナーは目を逸らさなかった。

 

「俺は、お前の言葉を信じていた」

 

「ならば、覚えていろ」

 

死柄木の腕が動く。

 

「俺が何を憎んだのかを。何を壊そうとしているのかを。俺の怒りを忘れるな」

 

スピナーの拳が強く握られる。

 

「忘れるつもりはない」

 

「ならば――」

 

「だが、あんたの怒りをそのまま俺の未来にするつもりもない」

 

死柄木の目が、わずかに細くなった。

 

その瞬間、出久が動いた。

 

「勝っちゃん!」

 

「分かってる!」

 

爆豪が地面を蹴る。

 

出久は浮遊で高度を上げ、黒鞭を伸ばした。

 

「黒鞭!」

 

複数の黒鞭が死柄木の腕へ絡む。

 

そのまま出久は身体を回転させ、死柄木の重心を崩そうとした。

 

爆豪が右側から接近する。

 

「こっちを見ろ!」

 

爆発。

 

死柄木の腕が弾かれる。

 

出久は黒鞭を解除し、空中で体勢を変えた。

 

「今だ!」

 

拳を構える。

 

「スマッシュ!」

 

死柄木の胸元へ衝撃が走る。

 

しかし、死柄木は後退しながらも地面へ指を伸ばしていた。

 

「しまっ――!」

 

出久の危険察知が鳴る。

 

爆豪が爆発で出久を押し上げた。

 

その直後、地面が崩れた。

 

「くそっ!」

 

爆豪が着地する。

 

死柄木は、まるで何事もなかったかのように立っていた。

 

「戦いながら話を聞く余裕があるのか」

 

「余裕なんかないよ!」

 

出久は黒鞭を構える。

 

「でも、聞かないまま終わらせたくない!」

 

「ならば、聞け」

 

死柄木は低く言った。

 

「俺の怒りは、俺だけのものではない」

 

二、死柄木が残そうとしたもの

死柄木の腕が、ゆっくりと持ち上がった。

 

「俺が何に怒っているのか。なぜ世界を憎むのか。それを知った者はいる」

 

その視線がスピナーへ向く。

 

「お前も、その一人だ」

 

スピナーは答えなかった。

 

「お前は、俺の言葉を広めた。俺の怒りを自分の中に見つけた。自分が拒絶された理由を、この世界に見た」

 

死柄木の声に、わずかな熱がこもる。

 

「お前だけじゃない。俺のもとへ来た者たちは、それぞれに何かを奪われていた。誰かに認められなかった者。何も持っていなかった者。自分の居場所を見つけられなかった者」

 

彼は出久たちを見た。

 

「お前たちは、そいつらに何を与えた?」

 

出久はすぐには答えなかった。

 

「正義か? 居場所か? 救済か?」

 

死柄木は笑った。

 

「そんなものを与える前に、誰かがそいつらの人生を奪っていたんじゃないのか」

 

爆豪が前に出る。

 

「だから何だよ」

 

「何?」

 

「そいつらが苦しんでいたことを、俺たちが知らなかったことにするつもりか?」

 

爆豪は掌を構えた。

 

「知らなかったなら、これから知ればいい。見逃したなら、これから向き合えばいい。だが、だからって、てめぇが今やってることが正しくなるわけじゃねぇ!」

 

「正しさの話をしているのではない」

 

死柄木の腕が広がる。

 

「俺は、怒りを忘れさせないと言っている」

 

「怒りを忘れないことと、破壊を続けることは同じじゃない!」

 

出久が叫んだ。

 

「誰かが傷ついたことを忘れないために、別の誰かを傷つけ続けなければならないわけじゃない!」

 

死柄木が出久を見る。

 

「お前は、怒りを捨てろと言うのか」

 

「違う!」

 

「ならば、何を言う」

 

「怒りをどうするかは、その人が決めることだ!」

 

出久は一歩踏み込んだ。

 

「怒りを抱えたまま誰かを助けることだってできる。怒りを忘れずに、別の未来を選ぶことだってできる!」

 

「その未来が、必ずあると?」

 

「必ずあるとは言えない!」

 

出久の返答は、迷いを隠さなかった。

 

「でも、君が最初から壊す未来しか残していないと決めることもできない!」

 

死柄木は鼻で笑った。

 

「希望的観測だ」

 

「そうかもしれない!」

 

出久は拳を握る。

 

「でも、君が誰かの未来を壊すことを、僕は止める!」

 

死柄木の身体が動いた。

 

「ならば、止めてみろ」

 

地面が崩れた。

 

三、連鎖する攻防

「全員、足元に注意!」

 

ロックロックの声が通信に響く。

 

「中央の道路が崩れる! 固定できる場所を限定するぞ!」

 

「マニュアル、視界を確保します!」

 

水流が走る。

 

地面に広がった粉塵が押し流され、崩壊の進路が見えるようになった。

 

「バブルガール、上空!」

 

「はい!」

 

泡が広がる。

 

落下してくる小さな破片を包み込み、避難路への飛散を防いだ。

 

「センチピーダー、救助班を誘導!」

 

「了解しました!」

 

センチピーダーは長い身体を使って崩れた通路を越え、負傷者のもとへ向かった。

 

その間にも、戦場の中心では出久と爆豪が死柄木を追い詰めようとしていた。

 

「デク、右!」

 

「見えてる!」

 

危険察知。

 

出久は身体をひねる。

 

死柄木の腕が、頭上を通過した。

 

その腕へ黒鞭が絡む。

 

「黒鞭!」

 

出久は腕を引き、死柄木の体勢を崩す。

 

爆豪は、その隙を狙って接近した。

 

「爆破!」

 

連続する爆発が、死柄木の腕を押し返す。

 

死柄木は後退する。

 

しかし、もう片方の手が地面へ伸びた。

 

「またか!」

 

爆豪は攻撃の向きを変え、死柄木の手首へ爆発を集中させる。

 

指先が地面に触れる直前、腕が横へ弾かれた。

 

「やるな」

 

死柄木は呟いた。

 

「てめぇの感想なんざいらねぇ!」

 

爆豪がさらに加速する。

 

「APショット!」

 

圧縮された爆発が死柄木の防御を撃つ。

 

その瞬間、出久が低い位置から踏み込んだ。

 

「デトロイト・スマッシュ!」

 

拳が死柄木の腹部へ向かう。

 

だが、死柄木は腕を交差させて受け止めた。

 

そのまま出久の身体を押し返す。

 

出久は黒鞭を放ち、地面へ固定した。

 

引き戻される勢いを利用して、身体をひねる。

 

死柄木の腕をすり抜け、背後へ回った。

 

「今だ、勝っちゃん!」

 

「分かってる!」

 

爆豪は上昇し、爆発を放つ。

 

死柄木は腕を上げて防ぐ。

 

出久はその防御の下へ潜り込む。

 

黒鞭を脚へ絡め、動きを制限した。

 

二人の連携が決まる。

 

死柄木の身体が、固定された道路の方向へ押し戻された。

 

「ロックロックさん!」

 

『見えてる!』

 

ロックロックが道路の一部を固定する。

 

「施錠!」

 

足場が一瞬だけ安定する。

 

そこへマニュアルの水流が走る。

 

粉塵が払われ、出久たちの視界が開ける。

 

「よし!」

 

出久が拳を構える。

 

しかし、死柄木の顔が歪んだ。

 

「まだ俺を止められると思っているのか!」

 

その瞬間、死柄木の腕が大きく膨張した。

 

黒鞭が軋む。

 

「出久!」

 

爆豪が叫ぶ。

 

「離す!」

 

出久は即座に黒鞭を解除した。

 

死柄木の腕が振り抜かれる。

 

爆風が出久と爆豪を襲った。

 

二人はそれぞれ違う方向へ飛ばされる。

 

爆豪は爆発で軌道を修正し、空中で体勢を整えた。

 

出久は黒鞭を建物へ伸ばし、身体を引き戻す。

 

「ぐっ……!」

 

着地した時には、すでに死柄木が動いていた。

 

「逃がさない」

 

死柄木が踏み込む。

 

その腕が出久へ迫る。

 

爆豪が割って入った。

 

「こいつの相手は俺だ!」

 

両掌から爆発。

 

死柄木の腕が弾かれる。

 

爆豪はさらに連続爆発を放ち、相手の攻撃を受け流しながら距離を取った。

 

「デク! 立て!」

 

「うん!」

 

二人は並び直した。

 

死柄木は、出久たちを見て笑った。

 

「お前たちは、似ているな」

 

「何がだ!」

 

爆豪が問い返す。

 

「自分の意志で戦うと言いながら、何かを残そうとしている」

 

死柄木はスピナーを見た。

 

「俺の怒りを否定するな」

 

スピナーは、その言葉に反応した。

 

四、スピナーが継承しないもの

「俺は、あんたの怒りを否定していない」

 

スピナーの声が響いた。

 

死柄木は振り返る。

 

スピナーは、ロックロックたちの近くにいた。

 

彼の身体は疲弊している。

 

幾つもの腕には拘束が残り、自由に動ける範囲も限られていた。

 

それでも、立っている。

 

「俺は、あんたが怒っていたことを覚えている」

 

スピナーは続けた。

 

「自分が何を憎んでいたのか。どうして世界を壊そうとしたのか。それを忘れるつもりはない」

 

「ならば、俺の怒りを引き継げ」

 

死柄木は言った。

 

「俺が始めた破壊を、最後まで続けろ」

 

スピナーは目を閉じた。

 

彼の脳裏に、かつての記憶が浮かぶ。

 

誰にも受け入れられず、社会に背を向けていた自分。

 

自分の姿を理由に拒絶され、他人の視線を恐れるようになった自分。

 

そんな自分を、死柄木は笑わなかった。

 

彼に居場所をくれた。

 

彼の言葉に、自分の中にあった怒りと似たものを見つけた。

 

だから、信じた。

 

だから、共に戦った。

 

「俺は、あんたを信じた」

 

スピナーが言う。

 

「その過去は否定しない」

 

死柄木は黙っていた。

 

「でも、俺はあんたの怒りを、そのまま引き継ぐつもりはない」

 

「……何故だ」

 

「俺の怒りは、俺のものだからだ」

 

スピナーは拳を握る。

 

「俺は、自分が何に傷ついたのか、自分で考える。誰かに拒絶されたことを忘れる必要はない。あんたに居場所をもらったことも、忘れない」

 

「ならば、なぜ俺と同じように戦わない」

 

「俺は、あんたと同じ人間じゃないからだ」

 

スピナーの答えは、はっきりしていた。

 

「俺はあんたの仲間になった。だが、あんたの分身になったわけじゃない」

 

死柄木の目が鋭くなる。

 

「俺が世界を壊すと言った時、お前は賛同した」

 

「そうだ」

 

「俺が敵を憎むと言った時、お前も憎んだ」

 

「そうだ」

 

「今さら、別のことを言うのか」

 

「今さらだからだ」

 

スピナーは、少しだけ苦しそうに笑った。

 

「俺は、自分で考えることを後回しにしていた。あんたの怒りに自分の怒りを重ねれば、何かを考えなくて済んだからだ」

 

「……」

 

「でも、それじゃ駄目だった」

 

スピナーは、自分の腕を見つめた。

 

「俺が何をされたのか。何を望んでいたのか。何を守りたいのか。それを、俺自身が決めなきゃならなかった」

 

死柄木は答えなかった。

 

スピナーは続ける。

 

「あんたの怒りを覚えていることと、あんたの望みを全部かなえることは違う」

 

その言葉が、戦場に響いた。

 

ロックロックは、スピナーを見ていた。

 

彼が何を選ぶかは、まだ分からない。

 

だが、今の言葉は、誰かに言わされているものではなかった。

 

「俺は、あんたが俺に居場所をくれたことを忘れない」

 

スピナーは死柄木へ向き直る。

 

「それでも、これから何を信じるかは俺が決める」

 

五、怒りの先にあるもの

死柄木は、しばらくスピナーを見ていた。

 

「お前は、俺がいなければ何もなかった」

 

「そうかもしれない」

 

「俺がお前を拾った」

 

「そうだ」

 

「俺がお前に意味を与えた」

 

「……違う」

 

スピナーは首を横に振った。

 

「俺は、あんたのもとで自分の居場所を見つけたと思った。だが、俺の人生の意味まで、あんたが決めたわけじゃない」

 

「生意気になったな」

 

「そうかもしれない」

 

スピナーは少しだけ笑った。

 

「でも、あんたが俺を否定しなかったことは、本当に嬉しかった」

 

死柄木の表情がわずかに動く。

 

「それは、嘘じゃない」

 

スピナーは続けた。

 

「だから、今のあんたを見ている。あんたが何をしようとしているのか、最後まで見届けたいと思っている」

 

「ならば、俺を止める側に立つのか」

 

「それも、俺が決める」

 

「……」

 

「俺は、まだあんたの仲間だと思っている。だが、今ここで何をするべきかも、自分で決める」

 

スピナーは、戦場の外側を見た。

 

避難を終えた人々がいる。

 

負傷者がいる。

 

戦場に立てず、遠くから状況を見守るしかない人々もいる。

 

彼らの存在を、誰かの理想のために消すことはできない。

 

「俺は、あんたの怒りを忘れない」

 

スピナーは静かに言った。

 

「だが、その怒りを誰かに押しつけることもしない」

 

死柄木の指が動いた。

 

「ならば、お前は何も継承しないというのか」

 

「違う」

 

スピナーは答える。

 

「俺は、あんたと出会ったことを持っていく。あんたを信じた自分の気持ちも持っていく」

 

彼は一歩踏み出した。

 

「だけど、破壊するかどうかは、俺が決める」

 

死柄木は黙っていた。

 

その沈黙の中に、怒りが残っている。

 

失望もあるのかもしれない。

 

しかし、彼が何を考えているのかを、スピナーが勝手に決めることはできなかった。

 

「……好きにしろ」

 

死柄木は言った。

 

「お前の選択だ」

 

「そうする」

 

スピナーは答えた。

 

その時、出久の危険察知が反応した。

 

「スピナー! 後ろ!」

 

スピナーが振り返る。

 

崩れかけた建物の一部が、彼のいる方向へ倒れてきていた。

 

「くっ!」

 

スピナーは複数の腕を広げる。

 

落下する梁を受け止めた。

 

ロックロックが駆け寄る。

 

「固定する! そのまま支えろ!」

 

「分かってる!」

 

「マニュアル!」

 

「水流を回す!」

 

水が走り、粉塵を押し流す。

 

バブルガールの泡が、落下する小さな破片を包む。

 

センチピーダーが、避難区域に残った人々を運び出す。

 

「こちらへ! 急いでください!」

 

「最後の一人です!」

 

「了解!」

 

ロックロックが梁へ触れる。

 

「施錠!」

 

梁が固定された。

 

スピナーはようやく腕を離した。

 

彼はその場に膝をついた。

 

「……はぁ」

 

「無理をするな!」

 

ロックロックが声を上げる。

 

「俺が決める!」

 

スピナーは言い返した。

 

それから、少しだけ息を吐く。

 

「……助かった」

 

ロックロックは彼を見た。

 

「今の礼は受け取っておく」

 

「勝手にしろ」

 

スピナーは立ち上がる。

 

まだ彼の答えは完成していない。

 

だが、今この瞬間の行動は、自分で決めたものだった。

 

六、出久と爆豪の連携

「勝っちゃん!」

 

出久が叫ぶ。

 

「死柄木が動く!」

 

「分かってる!」

 

死柄木の腕が、二人へ向かって振り抜かれた。

 

出久は浮遊で上昇。

 

爆豪は爆発で軌道を変える。

 

二人は左右へ分かれた。

 

死柄木は片方の腕を出久へ、もう片方を爆豪へ向ける。

 

「分断するつもりか!」

 

爆豪が叫ぶ。

 

「違う!」

 

出久は空中で黒鞭を伸ばした。

 

一本を建物へ固定する。

 

もう一本を爆豪の進路へ伸ばす。

 

そのまま、爆豪の身体を引き寄せた。

 

「何しやがる!」

 

「二人の距離を保つ!」

 

「自分で飛べる!」

 

「今はこっちの方が速い!」

 

爆豪は文句を言いながらも、爆発を放った。

 

黒鞭に引かれる勢いを利用し、死柄木の側面へ回り込む。

 

「爆破!」

 

死柄木の腕が弾かれる。

 

出久は逆側から接近する。

 

「黒鞭!」

 

死柄木の足へ絡ませる。

 

しかし、今度は引きちぎらせない。

 

黒鞭の一本を地面へ、別の一本をロックロックが固定した道路へつなぐ。

 

複数の支点で引き、死柄木の進路を狭める。

 

「勝っちゃん!」

 

「任せろ!」

 

爆豪は急上昇。

 

空中で回転し、両掌の爆発を一方向へ集中させた。

 

「徹甲弾!」

 

圧縮された爆発が死柄木の腕を直撃する。

 

死柄木の姿勢が崩れる。

 

出久はその隙に踏み込んだ。

 

「デトロイト・スマッシュ!」

 

拳が、死柄木の身体へ叩き込まれた。

 

大きな衝撃。

 

死柄木は数歩後退する。

 

しかし、まだ倒れない。

 

「いい連携だ」

 

死柄木が言った。

 

「だが、まだ足りない」

 

彼の手が地面へ伸びる。

 

出久は黒鞭を解除した。

 

爆豪が爆発で距離を取る。

 

崩壊が広がる。

 

「また足場を失うぞ!」

 

ロックロックが叫んだ。

 

「下がれ!」

 

出久と爆豪は同時に後退した。

 

マニュアルの水流が、崩れた地面の粉塵を押し流す。

 

バブルガールの泡が、落下する破片を包み込む。

 

センチピーダーが救助を続ける。

 

ロックロックは次の固定場所を探していた。

 

その一連の動きは、単純な支援ではない。

 

戦闘の一部になっている。

 

出久は、それを強く感じた。

 

「勝っちゃん」

 

「あ?」

 

「みんなの動きが、戦術に組み込まれている」

 

「当たり前だろ」

 

爆豪が笑った。

 

「俺たちだけで戦ってるわけじゃねぇ」

 

「うん」

 

出久は拳を握った。

 

「次は、もっと連携しよう」

 

「最初からそう言ってんだよ!」

 

七、継承とは何か

死柄木は、スピナーを見ていた。

 

「お前は、俺の怒りを継がないと言った」

 

スピナーは答える。

 

「ああ」

 

「ならば、お前は何を持っていく」

 

「俺自身が選んだことだ」

 

「曖昧だな」

 

「まだ全部決まっていないからな」

 

スピナーは、自分の腕を見た。

 

「俺は、自分の怒りをどうするか、まだ答えを見つけていない」

 

「ならば、俺の怒りを持てばいい」

 

「それは違う」

 

「何が違う」

 

「俺の怒りと、あんたの怒りは別だ」

 

スピナーは言った。

 

「似ている部分があるからといって、同じものになるわけじゃない」

 

死柄木は笑った。

 

「ならば、お前は何を残す」

 

「俺が何を残すかも、俺が決める」

 

「俺の怒りを忘れるのか」

 

「忘れない」

 

「俺が世界を壊そうとしたことも?」

 

「覚えている」

 

「俺が仲間を求めたことも?」

 

「覚えている」

 

スピナーの声は、少しだけ低くなる。

 

「俺たちが一緒にいたことも、覚えている」

 

その言葉に、死柄木は黙った。

 

スピナーは続ける。

 

「でも、誰かの怒りを引き継ぐために生きるつもりはない」

 

「……」

 

「俺は、あんたと出会ったことを自分の人生の一部にする。あんたから受け取ったものの中に、壊すこと以外の何かがあったのかもしれない。それを考える」

 

「そんなものはない」

 

死柄木は即座に言った。

 

「俺が残したいのは、破壊だ」

 

「なら、それもあんたの選択だ」

 

スピナーは答えた。

 

「俺の選択とは違う」

 

死柄木の顔が険しくなる。

 

「お前は、俺を否定するのか」

 

「否定することと、同じにならないことは違う」

 

スピナーは、静かに言った。

 

「俺はあんたを否定したいわけじゃない。だが、あんたと同じになるつもりもない」

 

出久は、その言葉を聞いていた。

 

死柄木が怒りを残そうとしているのなら、その怒りを受け取るかどうかはスピナーの自由だ。

 

同じように、出久が死柄木を救いたいと思うことも出久の自由だ。

 

しかし、それを死柄木に受け入れさせることはできない。

 

爆豪が死柄木を止めたいと思うことも、爆豪自身の意志だ。

 

誰もが、他人の代わりに選ぶことはできない。

 

「死柄木!」

 

出久が呼びかける。

 

「君が怒りを残したいと思うなら、その理由を聞きたい」

 

「何度言えば分かる」

 

死柄木は笑った。

 

「俺は、世界を壊すために怒っている」

 

「それだけなのか」

 

「それだけだ」

 

「本当に?」

 

死柄木の腕が動いた。

 

「しつこいぞ!」

 

彼は地面へ向けて腕を振るう。

 

出久と爆豪が同時に跳ぶ。

 

爆豪が上空から爆発を放つ。

 

死柄木の視線が上へ向く。

 

出久が黒鞭で足元を引く。

 

身体が傾いた。

 

「勝っちゃん!」

 

「分かってる!」

 

爆豪が急降下する。

 

そのまま死柄木の背後へ回り込んだ。

 

「爆破!」

 

死柄木の身体が揺れる。

 

出久は前へ出る。

 

「スマッシュ!」

 

拳が死柄木の腕にぶつかった。

 

衝撃が広がる。

 

死柄木が後退する。

 

だが、彼の顔から笑みは消えていなかった。

 

「答えを聞きたいなら、俺を止めてみろ」

 

「止める!」

 

出久は構え直す。

 

「その上で、何度でも聞く!」

 

八、怒りを受け取らない自由

戦場の一角。

 

ロックロックが、スピナーの拘束を確認していた。

 

「これ以上動くな。今の状態で無理をすれば、お前自身が動けなくなる」

 

「分かってる」

 

「本当に分かっているのか」

 

「うるさいな」

 

スピナーは、少しだけ顔を上げた。

 

「……なあ」

 

「何だ」

 

「お前たちは、どうして死柄木を止める?」

 

ロックロックは一瞬考えた。

 

「質問の意味が分からん」

 

「お前たちはヒーローだ。人を守るために戦っている。だが、死柄木を止めることは、ただ人を守ることだけじゃないんだろう」

 

ロックロックはスピナーを見た。

 

「そうだな」

 

「なら、何のためだ」

 

「お前たちが壊そうとしているものを、壊させないためだ」

 

「……」

 

「それに、俺たちは死柄木の被害を受けた人たちを見ている。助けを求めた人間を見ている。今も傷ついている人間がいる」

 

ロックロックは、遠くを見た。

 

「その人たちを放っておくわけにはいかない」

 

「それが正義か」

 

「知らん」

 

ロックロックは即答した。

 

「俺は、自分がやるべきだと思ったことをやっている。それが正義と呼ばれるかどうかは、後から誰かが決めることだ」

 

スピナーは少しだけ笑った。

 

「お前たちも、自分で決めているんだな」

 

「当たり前だ」

 

「……そうか」

 

その時、別の方向から轟音が響く。

 

死柄木の攻撃で、道路の一部が大きく崩れた。

 

ロックロックが身構える。

 

「また来るぞ!」

 

スピナーは反射的に腕を広げた。

 

落下してくる瓦礫を支える。

 

ロックロックが固定する。

 

マニュアルが水流を通す。

 

バブルガールの泡が落下物を包み込む。

 

センチピーダーが救助対象を運ぶ。

 

その動きの中で、スピナーは初めて、自分が死柄木の怒りを継承しなくても、何かを残せるのかもしれないと思った。

 

それはまだ、はっきりとした答えではない。

 

しかし、誰かの怒りをそのまま受け取らなくても、自分が行動する理由はある。

 

スピナーは梁を支え続けた。

 

「……俺は、あんたの言葉を忘れない」

 

彼は遠くの死柄木へ呟いた。

 

「でも、俺の道は俺が決める」

 

九、憤怒の継承者

出久と爆豪が、再び死柄木へ向かう。

 

出久は黒鞭を使い、空中から軌道を変えた。

 

爆豪は爆発で加速し、死柄木の正面を取る。

 

「こっちだ!」

 

爆発。

 

死柄木が腕を振るう。

 

爆豪は回避し、さらに加速する。

 

出久が背後へ回った。

 

「黒鞭!」

 

腕へ絡みつく。

 

死柄木は身体をひねる。

 

黒鞭が引き延ばされる。

 

「今だ!」

 

爆豪の掌が光る。

 

「APショット!」

 

圧縮された爆発が、死柄木の身体へ直撃する。

 

その隙に出久が踏み込む。

 

「デトロイト・スマッシュ!」

 

大きな衝撃。

 

死柄木の身体が後退した。

 

しかし、彼は踏みとどまった。

 

「まだだ」

 

その声は、静かだった。

 

「お前たちは、俺の怒りを理解したつもりでいる」

 

「理解したとは言ってない!」

 

出久が返す。

 

「ならば、なぜ継承について語る」

 

「君が誰に何を残そうとしているのか、知りたいからだ!」

 

「俺は、憎しみを残す」

 

死柄木が言った。

 

「世界がどれほど多くの人間を見捨ててきたのか。俺がどれほど何も持たなかったのか。忘れさせない」

 

出久は、その言葉を受け止めた。

 

「君が忘れさせたくないと思っていることは分かった」

 

「ならば、壊す」

 

「それは別の話だ!」

 

出久は踏み込む。

 

「君が伝えたいことを、君の破壊だけで表現する必要はない!」

 

死柄木の腕が出久を弾く。

 

爆豪が割って入る。

 

「話を聞けっつってんだろ!」

 

爆発。

 

死柄木の身体が横へ動く。

 

出久は着地し、すぐに黒鞭を伸ばした。

 

「僕は君の怒りを消したいわけじゃない!」

 

黒鞭が死柄木の腕へ絡む。

 

「でも、誰かに同じ怒りを持たせることが、君の望みを残すことになるとは限らない!」

 

「……」

 

「スピナーが君を信じたことは、本当だと思う!」

 

死柄木の目がスピナーへ動く。

 

「彼が君の言葉を広めたことも、君の仲間でありたいと思ったことも、本当だった!」

 

出久は続ける。

 

「でも、だからといって、彼が君と同じ結末を選ばなければならないわけじゃない!」

 

死柄木の腕が、黒鞭を引きちぎろうとする。

 

出久は引き止めない。

 

黒鞭を解除し、爆豪の位置へ合わせて身体を移動させる。

 

爆豪は、その動きに合わせて爆発を放つ。

 

「ここだ!」

 

死柄木の身体が揺れる。

 

出久が降下する。

 

拳を構える。

 

しかし、攻撃の直前に止めた。

 

死柄木の背後に、崩れかけた建物があったからだ。

 

その建物の近くには、まだ救助班がいる。

 

「……!」

 

出久は攻撃の角度を変えた。

 

死柄木の胴体ではなく、腕を狙う。

 

「スマッシュ!」

 

攻撃が死柄木の腕へ直撃する。

 

死柄木の身体が横へ流れた。

 

その動きに合わせて、爆豪が進路を塞ぐ。

 

「逃がすか!」

 

爆発。

 

死柄木の身体が、建物から離れる方向へ押し戻された。

 

出久は、その判断を自分ひとりで行ったわけではない。

 

爆豪の動きがあった。

 

ロックロックたちが安全な区域を確保していた。

 

彼らの働きによって、攻撃の角度を選ぶ余裕が生まれていた。

 

誰かを守るために、別の誰かを犠牲にする必要はない。

 

少なくとも、そうならない方法を探すことはできる。

 

「デク!」

 

爆豪が叫ぶ。

 

「次だ!」

 

「うん!」

 

二人は、再び死柄木へ向かった。

 

十、継承されたもの

死柄木は、少しだけ後ろへ下がった。

 

その身体には、出久と爆豪の攻撃が確かに届いていた。

 

「……スピナー」

 

死柄木が呼ぶ。

 

スピナーは顔を上げた。

 

「何だ」

 

「お前は、俺の怒りを忘れないと言った」

 

「ああ」

 

「ならば、覚えていろ」

 

死柄木は、戦場を見渡した。

 

崩れた街。

 

傷ついた人々。

 

戦場に立っているヒーローたち。

 

そして、戦うことのできず、遠くで結果を待つしかない人々。

 

「この世界が、何をしたのかを」

 

スピナーは、静かに聞いていた。

 

「誰が何を失ったのかを。誰が何を望み、誰が何を奪われたのかを」

 

「……」

 

「俺の怒りを、なかったことにするな」

 

スピナーは頷いた。

 

「しない」

 

「俺が世界を壊そうとしたことも」

 

「忘れない」

 

「ならば――」

 

「でも、俺はあんたの怒りのためだけに生きるつもりはない」

 

スピナーははっきり言った。

 

「俺は、自分の人生を生きる」

 

死柄木は沈黙した。

 

スピナーは、自分の胸に手を置く。

 

「俺は、あんたに出会ったことを後悔していない。あの時、あんたを信じたことも否定しない」

 

彼は顔を上げた。

 

「でも、あんたの望みを全部引き継ぐことが、あんたを大切に思うことだとは思わない」

 

死柄木は答えなかった。

 

その代わり、腕をゆっくりと上げた。

 

「好きにしろ」

 

その声には、苛立ちがあった。

 

しかし、以前のように命令する声ではなかった。

 

スピナーは、その言葉を聞いて、初めて少しだけ肩の力を抜いた。

 

自分の答えを、誰かに認めてもらう必要はない。

 

死柄木が納得するかどうかは、死柄木の問題だ。

 

自分が何を選ぶかは、自分の問題だ。

 

「……ああ」

 

スピナーは答えた。

 

「そうする」

 

死柄木は出久へ向き直る。

 

「話は終わりだ」

 

「そうだね」

 

出久は拳を握る。

 

「でも、僕は君を止める」

 

「ならば来い」

 

死柄木の腕が広がる。

 

「俺は、まだ破壊をやめない」

 

爆豪が出久の横に並ぶ。

 

「上等だ」

 

出久は小さく頷いた。

 

「行こう、勝っちゃん」

 

「言われなくても!」

 

二人が同時に踏み込んだ。

 

爆発が響く。

 

黒鞭が伸びる。

 

死柄木の腕が、それを迎え撃つ。

 

戦場の向こうでは、ロックロックが再び足場を固定し、マニュアルが水流で粉塵を払い、バブルガールが泡を広げる。

 

センチピーダーは最後の負傷者を運び終え、周辺の支援へ戻っていた。

 

スピナーは、死柄木を見ていた。

 

彼の怒りを忘れない。

 

だが、その怒りを自分の未来にするつもりはない。

 

それが、スピナーの答えだった。

 

憤怒の継承者は、ひとりではない。

 

怒りをそのまま受け継ぐ者だけが、何かを残すわけではない。

 

怒りの中にあった痛みを覚えている者もいる。

 

その痛みを別の誰かに与えないと決める者もいる。

 

そして、怒りを抱えたまま、別の道を選ぶ者もいる。

 

死柄木が何を残そうとしたのか。

 

スピナーが何を持っていくのか。

 

出久が何を止めようとするのか。

 

その答えは、まだ決着していない戦いの中にあった。

 

十一、戦いの先に残るもの

戦場の外側。

 

救助された人々が、仮設の保護区域へ集められていた。

 

負傷者の手当てが進められ、避難した人々は互いの無事を確かめている。

 

そこには、ヒーローたちと一緒に戦えなかった人々もいた。

 

個性を持たない者。

 

戦う力を持たない者。

 

動くことができなかった者。

 

誰かを助けたくても、助けられなかった者。

 

彼らの中には、死柄木の破壊によって大切なものを失った人もいる。

 

その声は、戦場の中心には届かない。

 

しかし、存在しないことにはならない。

 

ロックロックは、避難区域を確認していた。

 

「負傷者の数は?」

 

「確認中です。重傷者は医療班へ引き継いでいます」

 

「分かった。引き続き対応を頼む」

 

マニュアルが近づく。

 

「中央の戦闘はどうなっていますか」

 

「まだ続いている」

 

ロックロックは、遠くの爆発を見た。

 

「緑谷たちは戦っている。だが、あいつらだけで終わる話じゃない」

 

「……そうですね」

 

バブルガールが、保護区域の人々へ泡を配っていた。

 

小さな子供が、その泡へ手を伸ばす。

 

「これ、触ってもいいの?」

 

「もちろん。優しく触ってね」

 

子供は泡に指を当てた。

 

その様子を見たバブルガールは、少しだけ笑った。

 

戦場で勝つことだけが、ヒーローの仕事ではない。

 

目の前にいる人を守り、安心できる場所を作り、次に何をするべきかを考える。

 

それもまた、戦いの一部だった。

 

そして、その人々の声が、次の戦いに意味を与えることになる。

 

十二、憤怒の継承者は誰なのか

戦場の中心。

 

出久と爆豪が、再び死柄木の攻撃を受け止めていた。

 

黒鞭が伸びる。

 

爆発が走る。

 

死柄木の腕が振り抜かれる。

 

三者の衝突は激しさを増している。

 

しかし、出久はもう一人で全てを背負おうとはしていなかった。

 

爆豪は隣で戦っている。

 

プロヒーローたちは周囲を支えている。

 

スピナーは自分の意志で動いている。

 

それぞれが、違う理由を持っている。

 

それぞれが、違う未来を選ぼうとしている。

 

死柄木の怒りは、消えていない。

 

スピナーの過去も、消えていない。

 

出久が救いたいと思った気持ちも、消えていない。

 

爆豪が戦うと決めた意志も、消えていない。

 

だが、それらすべてが同じ結末を目指す必要はなかった。

 

死柄木が叫ぶ。

 

「俺の怒りを忘れるな!」

 

スピナーが答える。

 

「忘れない!」

 

出久が拳を握る。

 

「でも、同じ怒りを持つ必要はない!」

 

爆豪が爆発を放つ。

 

「誰かの怒りを言い訳にして、他人の未来を壊すんじゃねぇ!」

 

死柄木の身体が揺れた。

 

それでも、倒れない。

 

「ならば、俺を止めてみろ!」

 

出久が一歩踏み込む。

 

「止める!」

 

爆豪が並ぶ。

 

「俺もだ!」

 

スピナーは、二人の背中を見つめた。

 

彼はまだ、死柄木を仲間だと思っている。

 

だが、その思いを理由に、自分の未来まで死柄木に預けるつもりはない。

 

「俺も、自分で決める」

 

スピナーは呟いた。

 

その声は、誰かへ届けるためのものではなかった。

 

自分自身へ言い聞かせるための言葉だった。

 

憤怒とは、何かを壊すためだけの感情なのか。

 

憤怒を継承するとは、同じように憎み、同じように戦うことなのか。

 

それとも、怒りが生まれた理由を忘れずに、別の未来を選ぶことなのか。

 

その答えは、まだひとつに定まっていない。

 

死柄木の攻撃が、再び戦場を揺らす。

 

出久の黒鞭が伸びる。

 

爆豪の爆発が炸裂する。

 

ロックロックたちが足場を確保する。

 

スピナーは、自分の立つ場所を見極める。

 

決戦は、確実に決着へ近づいていた。

 

しかし、その結末は、勝った者だけのものにはならない。

 

死柄木の怒りを覚えている者。

 

彼の破壊によって傷ついた者。

 

彼を止めようと戦う者。

 

戦場に立つことすらできなかった者。

 

その誰もが、この戦いの一部だった。

 

そして、その声を消してしまうことは、誰にもできない。

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