僕のヒーローアカデミア 原罪   作:神代シン

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第七十三話「謝罪を受け取る義務はない」

一、謝罪の席

雄英高校の臨時相談施設。

 

以前は来客用の会議室だった場所が、現在は被災者や関係者のための相談会場として使われていた。

 

部屋の正面には、根津校長と関係機関の担当者たちが座っている。

 

相澤消太とプレゼント・マイクも同席していた。

 

出久は、記録係として会場の端に座っている。

 

飯田、八百万、麗日、耳郎、拳藤たちは、受付や案内を担当していた。

 

爆豪は物資搬入の手伝いを終え、壁際で腕を組んでいる。

 

「本日の議題は、被害を受けた方々への説明と、謝罪、そして今後の償いについてです」

 

根津が話を始める。

 

「まず、私たちは、謝罪をすること自体を目的にしてはいけません。謝罪は、責任を認めるための一つの行動です。しかし、謝罪したことによって責任が消えるわけではありません」

 

参加者の一人が手を挙げた。

 

「つまり、謝れば終わりということではないんですね」

 

「もちろんです」

 

根津は頷いた。

 

「謝罪と、その後に行うべき支援や補償は別のものです。謝罪をしたからといって、被害を受けた方々がそれを受け入れなければならないわけでもありません」

 

相澤が続ける。

 

「謝罪を受け取るかどうかは、傷つけられた側が決めることだ。謝罪した側が、許されたかどうかを急かしていいわけじゃない」

 

プレゼント・マイクが腕を組む。

 

「『謝ったんだから、もういいだろ』なんて話にはならねぇ。そもそも謝罪は、相手に許してもらうための取引じゃない」

 

会場の一人が、静かに口を開いた。

 

「では、許されなかった場合、謝罪した側はどうするんですか」

 

根津はその人を見た。

 

「それでも、必要な責任を果たし続けます」

 

「相手が何も言ってくれなくても?」

 

「はい」

 

「ありがとうと言ってくれなくても?」

 

「はい」

 

「許さないと言われても?」

 

根津は、今度は少しだけ言葉を置いてから答えた。

 

「それでもです」

 

会場が静かになる。

 

「許されることを償いの条件にしてしまえば、償いを受ける側に、許すかどうかを決める負担まで背負わせることになります」

 

出久は、その言葉を書き留めた。

 

許すこと。

 

許さないこと。

 

それは被害を受けた側の選択だ。

 

責任を負う側が、自分の都合で求めていいものではない。

 

二、謝罪を拒んだ人

最初に話をしたのは、以前の決戦で家族を失った男性だった。

 

彼は、手元の書類を何度も見直してから口を開いた。

 

「私は、敵連合の人間に家族を殺されました」

 

会場の空気が張り詰める。

 

「今回の説明で、彼らにも生い立ちや事情があったことは聞きました。社会に問題があったかもしれないことも理解しました」

 

男性は、出久たちの方を見た。

 

「でも、私は彼らを許すつもりはありません」

 

誰も口を挟まない。

 

「彼らがどんな人生を送ってきたのか。それを知りたいとも思いません。私は、家族を失ったんです」

 

男性は、書類を握りしめた。

 

「謝罪されても、家族は戻らない。どんな言葉を聞いても、私の生活は元には戻らない」

 

「はい」

 

根津が静かに答える。

 

「ですから、あなたに謝罪を受け入れていただくことを求めるつもりはありません」

 

「では、何をしてくれるんですか」

 

「必要な支援を具体的に確認し、責任を負うべき関係者や機関に対応を求めます。生活面の支援、今後の手続き、情報の提供についても、担当者を明確にします」

 

男性は、根津を見た。

 

「それで家族が戻るわけではありません」

 

「その通りです」

 

根津は否定しなかった。

 

「私たちにも、失われた命を元に戻すことはできません。その事実を、支援や謝罪の言葉で覆い隠すつもりもありません」

 

男性はしばらく黙っていた。

 

「私は、謝罪を受け取るつもりはありません」

 

「分かりました」

 

「それでも、必要な支援は受けます。生活を続けなければいけないので」

 

「当然です。支援を受けることと、謝罪を受け入れることは別です」

 

男性は短く頭を下げ、席を立った。

 

出久は、その背中を見送った。

 

彼は許さなかった。

 

けれど、支援を受けることは選んだ。

 

それは矛盾ではない。

 

自分の生活を取り戻すために、必要なものを受け取る。

 

それだけのことだった。

 

「緑谷君」

 

根津が声をかける。

 

「記録はできたかな」

 

「はい」

 

「今の話について、どう思った?」

 

出久は少し考えた。

 

「謝罪を受け取らないという選択も、その人の意思なんだと思いました」

 

「そうだね」

 

「僕たちは、謝罪を受け入れてもらえなかったことを、償いが失敗したという理由にしてはいけないんですね」

 

根津は頷いた。

 

「許されることを目的にすると、相手に許すことを迫ってしまうからね」

 

三、謝る側の事情

会場の後半では、ヒーロー側の過去の対応について、担当者が説明を行うことになっていた。

 

議題に上がったのは、決戦前後の避難誘導である。

 

複数の区域で情報共有に遅れが生じ、避難開始が遅れた可能性がある。

 

その結果、一部の住民が危険区域に取り残され、負傷者が発生した。

 

「当時、私たちは現場の情報を正確に把握できていませんでした」

 

担当者が説明を始めた。

 

「複数の管制部署から情報が別々に届き、それをまとめるまでに時間がかかりました」

 

会場の一人が質問する。

 

「それは仕方のないことだったんですか」

 

「……」

 

担当者は少し黙った。

 

「当時の状況では、対応が難しい部分もありました」

 

「難しかったことは分かります」

 

質問者は、静かに答えた。

 

「でも、私たちが避難できなかったことも事実ですよね」

 

「はい」

 

「その結果、私の父は負傷しました」

 

担当者は頭を下げた。

 

「申し訳ありませんでした」

 

「その謝罪は受け取ります」

 

質問者は一度頷いた。

 

「ただし、許すという意味ではありません」

 

担当者が顔を上げる。

 

「今後、同じことが起きないようにしてほしいんです。私の父が負傷したことを、仕方なかったという言葉で終わらせないでください」

 

「はい。避難情報の共有方法と、指揮系統の見直しを進めます」

 

「いつまでに?」

 

担当者は資料を確認した。

 

「第一段階の改善案を、来月までにまとめます。その後、関係機関と調整し、実施状況を公開します」

 

「その進捗も教えてください」

 

「分かりました」

 

質問者は、担当者を見たまま続けた。

 

「私は、あなたたちを許したわけではありません。でも、これから何をするのかは見ています」

 

担当者は、深く頭を下げた。

 

出久は、そのやり取りを見つめていた。

 

謝罪を受け取ることと、許すことは違う。

 

そして、許さないまま、相手に責任を果たすよう求めることもできる。

 

どちらも、その人自身の選択だった。

 

四、謝罪の言葉で埋められないもの

会議が終わり、出久は避難者の相談窓口へ向かった。

 

そこでは麗日と八百万が、物資の配布と支援内容の確認を手伝っている。

 

「緑谷君!」

 

麗日が声をかけた。

 

「こっちの相談は一段落したよ」

 

「お疲れ様」

 

「でも、ちょっと難しい相談があって」

 

麗日は、一枚の相談票を見せた。

 

「住居を失った方なんだけど、今の仮設住宅から出た後の生活が決まっていないんだって」

 

八百万が説明する。

 

「短期的な避難先は確保されていますが、その後の住居については、まだ調整が必要です」

 

「仕事も失ったみたい」

 

麗日が言った。

 

「家族もいるし、生活費も必要。謝罪だけじゃ、どうにもならないよね」

 

出久は相談票を見た。

 

「うん。住居と仕事の支援を、別々に確認しよう」

 

「でも、どちらも窓口が違うみたいで」

 

「それなら、担当者同士をつなぐ必要がある」

 

八百万は資料をまとめた。

 

「私たちで勝手に決めることはできませんが、必要な部署へ確実に伝えることはできます」

 

その時、相談に来ていた男性が口を開いた。

 

「すみません」

 

三人が振り向く。

 

「私は、別に謝罪してほしいわけじゃないんです」

 

「はい」

 

出久が答える。

 

「ただ、これからどうすればいいか知りたいだけです」

 

男性は、手に持った書類を見た。

 

「仕事を失いました。住む場所も、今は借りているだけです。子供もいます。明日から何をすればいいのか、それが分からないんです」

 

「今、必要な支援を一緒に確認しましょう」

 

出久が言う。

 

「住居、就労、生活費、必要ならお子さんの通学についても確認します」

 

「お願いします」

 

「ただ、今ここですぐに全部を約束できるわけではありません」

 

「分かっています」

 

男性は頷いた。

 

「できないことをできると言われるより、今できることを教えてほしいです」

 

出久は、相談票を確認した。

 

「まずは住居の担当窓口へ連絡します。その後、就労の支援についても確認します」

 

男性は、少しだけ表情を和らげた。

 

「ありがとうございます」

 

「こちらこそ、話してくださってありがとうございます」

 

男性は、その場を後にした。

 

麗日は、彼の背中を見送ってから言った。

 

「私たちが、もっと頑張らないとね」

 

「うん。でも、頑張るだけじゃ駄目だと思う」

 

出久は答えた。

 

「ちゃんと仕組みを作らないと、同じ人が何度も同じ説明をしなくちゃいけなくなる」

 

八百万が頷く。

 

「個別の善意だけに頼らず、継続的な支援が必要ですわね」

 

五、許されないヒーロー

その日の夕方。

 

プロヒーローとサイドキックの一部が、過去の対応について意見を聞く会合に参加していた。

 

ロックロック、マニュアル、バブルガール、センチピーダーも出席している。

 

議題は、現場での判断と説明責任だった。

 

「今回の避難誘導では、現場の情報が十分に届かなかった」

 

ロックロックが説明する。

 

「その結果、俺たちが救助に向かうまで時間がかかった場所がある」

 

「現場のヒーローだけで解決できる問題ではありませんでした」

 

マニュアルが続ける。

 

「水道設備の状況や、避難経路の情報が正確に届いていなかった」

 

バブルガールは、記録を見ながら話す。

 

「私たちは、その場でできる対応をしました。でも、もっと早い段階で状況が分かっていたら、別の方法を用意できた可能性があります」

 

センチピーダーも頷く。

 

「救助に必要な人数や装備が足りなかった区域もありました。現場の配置を見直す必要があると思います」

 

その時、被害を受けた住民の一人が質問した。

 

「あなたたちは、当時できることをやったと言いたいんですか」

 

ロックロックは、すぐには答えなかった。

 

「できることはやった」

 

彼は正直に答えた。

 

「だが、できなかったこともあった。判断が遅れたこともあった。結果として被害を受けた人がいる」

 

「では、謝罪しますか」

 

「必要なら謝罪する」

 

ロックロックは続けた。

 

「ただし、謝罪したから終わりとは考えていない。現場の問題があったなら、それを記録して改善する」

 

住民は、彼を見た。

 

「私は、あなたたちを許せるかどうか分かりません」

 

「それでいい」

 

ロックロックは答えた。

 

「許してもらうために、ここに来たわけじゃない。何が起きたのかを確認して、次に同じことを起こさないためだ」

 

住民は、しばらく黙っていた。

 

「では、その改善を続けてください」

 

「ああ」

 

その返事は短かった。

 

だが、ロックロックはその言葉を軽く扱わなかった。

 

六、教師たちが謝る相手

雄英高校の会議室。

 

相澤とプレゼント・マイク、根津校長は、過去の教育体制やヒーロー社会との関係について検証を進めていた。

 

生徒たちは、その一部を見学している。

 

「雄英高校にも、検証すべき問題はあります」

 

根津が言った。

 

「教育機関として、どのような人材を育て、どのような問題を見落としてきたのか。社会に送り出す生徒たちに何を教えてきたのか。これも考えなければなりません」

 

相澤が資料をめくる。

 

「ヒーローを育てることと、社会の問題に向き合うことは、別々に教えられるものじゃない」

 

プレゼント・マイクが続ける。

 

「個性の使い方や戦い方を教えるだけじゃ足りない。ヒーローとして活動するなら、力を持たない人間の声を聞くことも必要だ」

 

「ですが、教師にも限界はあります」

 

八百万が言った。

 

「全ての社会問題を学校だけで解決することはできません」

 

「そうだ」

 

相澤は答えた。

 

「だから、学校の責任と社会の責任を分けて考える必要がある。だが、できないことを理由に、何も変えないわけにはいかない」

 

出久が手を挙げた。

 

「先生。もし、僕たちが過去に誰かを傷つけていたら、どうすればいいんでしょうか」

 

相澤は出久を見た。

 

「まず、事実を確認する」

 

「はい」

 

「自分の意図だけで判断するな。相手にどんな影響があったのかを確認する。必要なら謝罪する。だが、許されることを求めるな」

 

プレゼント・マイクが頷く。

 

「謝罪したら、それで終わりってわけじゃない。相手が怒っているなら、その怒りを受け止める必要もある。感謝されないからって、支援をやめる理由にもならねぇ」

 

根津が補足する。

 

「また、謝罪する側が、自分の気持ちを軽くするために相手へ話を聞かせてしまうこともあります。謝罪を受けるかどうか、話を聞くかどうかも、相手に選んでもらう必要があります」

 

「謝りたいから会ってほしい、というのも、相手にとって負担になることがあるんですね」

 

飯田が言った。

 

「そうだ」

 

相澤は答える。

 

「謝る側の都合を優先するな」

 

出久は、その言葉を書き留めた。

 

七、A組とB組の問い

会議が終わった後、生徒たちは教室に集まっていた。

 

「謝罪って、難しいね」

 

麗日が呟く。

 

「謝ること自体は簡単じゃないけど、謝った後にどうするかの方が難しいのかもしれない」

 

耳郎が答える。

 

「相手が許してくれないからって、そこで終わらせるわけにはいかないもんね」

 

「そもそも、許してもらうことを目的に謝るのが違うんだろうな」

 

轟が言った。

 

「相手に許してもらうために謝罪するなら、結局は自分のためになってしまう」

 

飯田は腕を組んだ。

 

「しかし、謝罪を拒まれた場合、何をすれば責任を果たせたことになるのか、簡単には判断できない」

 

「一度の行動で終わるものじゃないんじゃない?」

 

拳藤が言った。

 

「必要な支援を続けること。約束した改善を実行すること。相手の意思を無視しないこと。そういうことの積み重ねだと思う」

 

物間が少し考え込む。

 

「ですが、謝罪する側が何も言わずに支援だけ続けるというのも、責任を曖昧にする可能性がありますね」

 

「そうだな」

 

切島が頷く。

 

「自分が何をしたのか、ちゃんと認めることは必要だと思う」

 

八百万が資料を開いた。

 

「謝罪、責任の説明、具体的な支援、再発防止。それぞれを分けて考える必要があるのかもしれません」

 

「謝罪したら許してもらう、じゃなくて、謝罪しても許されないことがある。その上で、責任を果たす」

 

出久が言った。

 

麗日は頷いた。

 

「うん。被害を受けた人が、私たちの努力を認めなきゃいけないわけじゃない」

 

「それでも、必要なことをやる」

 

飯田が言う。

 

「それが、私たちの責任ですね」

 

物間は腕を組んだ。

 

「綺麗な話ではありませんね」

 

「そうだよ」

 

出久は答えた。

 

「綺麗な話だけで済ませられるなら、こんなに難しくないと思う」

 

八、もう一度、謝罪をするなら

数日後。

 

出久は、以前話をした女性のもとを訪れていた。

 

女性の弟は、治療を続けている。

 

以前と同じ生活に戻れるかどうかは、まだ分からない。

 

支援窓口では、治療後の生活支援や就労に関する相談が進められていた。

 

「こんにちは」

 

出久が頭を下げる。

 

「こんにちは」

 

女性も挨拶を返した。

 

「弟さんの状況はいかがですか」

 

「治療は続いています。前よりは落ち着いたみたいです」

 

「よかったです」

 

女性は少しだけ笑った。

 

「でも、まだ元通りではありません」

 

「はい」

 

「これからも支援が必要です」

 

「分かりました。担当窓口に確認します」

 

女性は、出久を見た。

 

「緑谷君。あなたたちは、何度も謝罪について話し合っているんでしょう」

 

「はい」

 

「謝罪を受け取らなくてもいい、許さなくてもいいって」

 

「そうです」

 

「それは、どうして?」

 

出久は少し考えた。

 

「謝罪を受け取るかどうかは、傷つけられた側が決めることだからです。責任を負う側が、許してもらうことを求めるのは違うと思います」

 

女性は頷いた。

 

「私も、そう思います」

 

彼女は、しばらく考えた後で続けた。

 

「前に、あなたに話を聞いてもらった時、少しだけ楽になりました」

 

「そうですか」

 

「でも、それで許したわけじゃありません」

 

「はい」

 

「私は、今でもあの時のことを思い出すと苦しいし、死柄木のことを許すつもりもない」

 

「それでいいと思います」

 

出久は答えた。

 

「あなたがどう思うかは、あなたが決めることです」

 

女性は出久を見た。

 

「あなたも、謝罪を受け取ってもらえないことがあるかもしれない」

 

「はい」

 

「それでも、やるんですか」

 

出久は頷いた。

 

「必要なことなら、続けます」

 

女性は小さく息を吐いた。

 

「なら、私の弟のことを、これからも確認してください。治療が終わった後のことも、お願いします」

 

「分かりました」

 

出久は頭を下げた。

 

「ありがとうございます」

 

女性は答えなかった。

 

ただ、彼の言葉を聞いていた。

 

それでよかった。

 

感謝を要求する必要も、許しを求める必要もない。

 

出久がやるべきことは、約束した確認を実行することだった。

 

九、謝罪の先にあるもの

その日の夕方。

 

根津校長は、関係者への報告会を開いていた。

 

「今回の意見交換で、明確になったことがあります」

 

根津は資料を表示する。

 

「謝罪を受け取るかどうかは、被害を受けた方々が決めることです。責任を負う側が、許しを求めることはできません」

 

会場には、相澤、プレゼント・マイク、プロヒーロー、サイドキック、A組とB組の生徒たちが集まっていた。

 

「そして、謝罪と償いを分けて考える必要があります」

 

根津は続ける。

 

「謝罪は、自分がしたことを認める行為です。償いは、その責任に向き合い、必要な支援や改善を続けることです」

 

「それは、相手が許すかどうかとは関係ないんですね」

 

八百万が確認する。

 

「はい」

 

根津は頷く。

 

「許されないからといって、責任を果たさなくてよいわけではありません。むしろ、許されないことを前提に、何を続けるべきか考える必要があります」

 

相澤が言った。

 

「被害者に、加害者の気持ちを軽くする役割を押しつけるな」

 

プレゼント・マイクも続ける。

 

「謝罪する側が、相手に『もういいですよ』と言ってほしいだけなら、そりゃ違う。許してもらえなくても、必要なことをやる。それが責任だ」

 

ロックロックが頷く。

 

「現場のヒーローも同じだ。俺たちが助けた人間が、俺たちに感謝してくれなくても構わない。必要な救助をするのは、仕事だからな」

 

マニュアルが言った。

 

「支援も同じです。必要だから行うのであって、感謝されるためではありません」

 

出久は、彼らの言葉を聞いていた。

 

そして、自分のノートに書き込む。

 

謝罪は、許しを要求するものではない。

 

償いは、許されることを条件にしてはいけない。

 

その二つの言葉を、何度も読み返した。

 

十、許されないまま歩く

会議が終わり、生徒たちは片づけを始めていた。

 

出久は資料を整理している。

 

爆豪が近づいてきた。

 

「デク」

 

「勝っちゃん」

 

「まだ書いてんのか」

 

「うん。今日の話をまとめておこうと思って」

 

「また一人で抱え込むなよ」

 

「大丈夫。みんなの意見もまとめているから」

 

爆豪はノートを覗いた。

 

「謝罪は許しを要求するものじゃない、か」

 

「うん」

 

「当たり前だろ」

 

「そうだね。でも、当たり前のことなのに、実際にやるのは難しいと思う」

 

爆豪は少し考えた。

 

「謝ったからって、相手が許すとは限らねぇ。そんなことも分からずに謝る奴はいねぇだろ」

 

「それでも、許してほしいと思ってしまうことはあるんじゃないかな」

 

「あるだろうな」

 

爆豪は答えた。

 

「だが、許してもらえなかったからって、やるべきことをやめる理由にはならねぇ」

 

出久は頷いた。

 

その時、相澤が二人の前を通りかかった。

 

「何を話している」

 

「謝罪についてです」

 

出久が答える。

 

「そうか」

 

相澤は短く頷いた。

 

「一つ覚えておけ」

 

二人は相澤を見る。

 

「謝罪する側が、自分の気持ちを整理するために相手を使うな」

 

「……はい」

 

「謝ることは大事だ。だが、相手が話したくないなら、それを尊重しろ。会いたくないなら、会わないという選択を尊重しろ」

 

相澤は続ける。

 

「謝罪を拒まれた後に何をするか。それも含めて責任だ」

 

プレゼント・マイクが、後ろから顔を出した。

 

「おーい! 説教はそこまで! 片づけがまだ残ってるぜ!」

 

「お前も手伝え」

 

相澤が即座に返す。

 

「もちろん! 俺の個性は片づけには向かねぇけどな!」

 

「言い訳するな」

 

会場に小さな笑いが起きた。

 

出久は、少しだけ表情を緩めた。

 

だが、笑いの後には、まだ多くの仕事が残っている。

 

謝罪の言葉だけでは埋められない空白。

 

許されなくても続けなければならない支援。

 

責任を明らかにするための検証。

 

そして、これから同じ問題を起こさないための制度改革。

 

どれも、一度の会議で終わるものではない。

 

十一、謝罪を受け取らないという選択

夜。

 

出久は、一日の活動を終えて、仮設施設の外に出た。

 

そこには、救助活動に参加していたスピナーがいた。

 

彼は現在、関係機関の管理下で、今後の処遇についての調査を受けている。

 

今日も、支援活動に参加できる範囲で、瓦礫の片づけを手伝っていた。

 

「スピナー」

 

出久が声をかける。

 

「緑谷か」

 

「今日も手伝っていたんだね」

 

「ああ。俺ができることをやっただけだ」

 

スピナーは、自分の腕を見た。

 

「俺が何をしたか、忘れたわけじゃない」

 

「うん」

 

「俺の行為で傷ついた人間がいる。俺が何かを手伝ったからといって、その過去が消えるわけじゃない」

 

「そうだね」

 

「だが、今ここで何もしない理由にもならない」

 

出久は頷いた。

 

「僕もそう思う」

 

スピナーは、少しだけ空を見上げた。

 

「死柄木も、これから責任を問われることになるんだろうな」

 

「そうなると思う」

 

「俺は、あいつのことを仲間だと思っていた」

 

スピナーの声は静かだった。

 

「今でも、その気持ちを全部捨てたわけじゃない」

 

「……」

 

「でも、あいつのしたことを全部許すつもりもない」

 

出久は、その言葉を聞いていた。

 

「俺は、あいつを信じていた自分を否定しない。だが、あいつに許してほしいとも思わない」

 

「スピナーは、これからどうしたい?」

 

スピナーは少しだけ考えた。

 

「まずは、自分がやったことに向き合う」

 

「うん」

 

「それから、自分で何をするか決める」

 

スピナーは出久を見た。

 

「誰かに許してもらうために生きるつもりはない」

 

「……そうだね」

 

「だが、責任から逃げるつもりもない」

 

出久は、静かに頷いた。

 

「僕も、そうありたい」

 

スピナーは少しだけ笑った。

 

「お前も大変だな」

 

「うん。まだまだ考えることがあるよ」

 

「考えるだけで終わらせるなよ」

 

「分かってる」

 

二人は、少しだけ黙って立っていた。

 

その先にある未来は、まだ分からない。

 

死柄木も、スピナーも、出久も、爆豪も。

 

それぞれが自分の行動の結果と向き合っていくことになる。

 

十二、後始末編の次の課題

翌朝、根津校長は新しい資料を会議室に並べていた。

 

「次の議題は、制度の外側にいた人々についてです」

 

出久は、資料を受け取る。

 

そこには、敵連合の構成員だけではなく、これまで社会から見落とされてきた人々についての情報がまとめられていた。

 

個性の問題で周囲との関係を築けなかった人。

 

家庭や地域で支援を受けられなかった人。

 

ヒーロー制度の対象として十分に扱われなかった人。

 

危険な兆候があっても、支援につながらなかった人。

 

「彼らの声を聞く必要があります」

 

根津は言った。

 

「制度改革は、私たちが新しい正解を作って一方的に押しつける形で進めてはいけません」

 

相澤が頷く。

 

「善意で決めた制度が、別の誰かを苦しめることもある」

 

「だからこそ、被害者や当事者の方々に参加してもらい、何が必要なのかを一緒に考える必要があります」

 

根津は続けた。

 

「支援される人々を、ただ守られるだけの存在として扱ってはいけません。自分たちの生活について、自分たちで意見を出し、選択できるようにすることが重要です」

 

出久は資料を読み進めた。

 

これまで敵として戦ってきた人々だけではない。

 

社会から見落とされていた人々もいる。

 

ヒーローに助けを求めることができなかった人。

 

助けを求めても、届かなかった人。

 

自分の問題を言葉にできなかった人。

 

そして、誰かに代わりに決められることを望んでいない人。

 

「緑谷君」

 

根津が声をかける。

 

「君たちにも、当事者の方々と一緒に話し合ってもらいたい」

 

「僕たちが、ですか?」

 

「そう。君たちは、これからヒーローになろうとしている。だからこそ、制度を作る側の考えだけではなく、制度を使う側の意見を聞いてほしい」

 

出久は資料を閉じた。

 

「分かりました」

 

「ただし、君たちが新しい正解を決めるわけではないよ」

 

「はい」

 

出久は頷いた。

 

「一緒に考えます」

 

根津は微笑んだ。

 

「それが大切なんだ」

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