僕のヒーローアカデミア 原罪   作:神代シン

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第三十七話 生まれる前に、死んだ子ども

 

 最初に聞こえたのは、泣き声だった。

 

 赤ん坊の泣き声ではない。

 

 もっと幼く、もっと弱々しく、そして、ひどく聞き覚えのある声。

 

「……お父さん」

 

 血に濡れた少年が、床に倒れたまま呼んでいた。

 

「お父さん、僕を殺して」

 

 扉の向こう側。

 

 そこには、緑谷出久がいた。

 

 いや、正確には――緑谷出久だった少年がいた。

 

 年齢は、おそらく六歳か七歳。

 

 緑色の髪。丸い頬。そばかす。痛みを堪えるように歪んだ顔。

 

 胸には、何かに貫かれたような傷があった。

 

 その傷から流れた血が、白い床に黒い染みを作っている。

 

 少年の傍らには、御影出久が立っていた。

 

 今の出久よりも少し年上に見える兄。

 

 その顔には、血の気がなかった。

 

 目の前で弟が死にかけているのに、手を伸ばすことすらできない。

 

 いや。

 

 伸ばしていた。

 

 何度も。

 

 何度も。

 

 それでも、手は少年に届かなかった。

 

 透明な壁があるわけではない。

 

 空間が歪んでいるわけでもない。

 

 ただ、御影出久が弟に触れようとするたびに、世界そのものが二人の間に割り込んでいた。

 

『接触を拒否します』

 

『第一個体と第二個体の直接接触は、再構成に影響します』

 

『記録された死亡状態を維持してください』

 

 無機質な音声が、何度も繰り返される。

 

 そのたびに、御影出久の指先が消えかけた。

 

「やめろ……」

 

 現在の出久は、扉の前で呟いた。

 

「やめろよ……!」

 

 声を荒らげても、扉の向こうの世界には届かない。

 

 血を流す少年が、こちらを見た。

 

 目が合った。

 

 その瞬間、出久は理解した。

 

 あの少年は、自分のことを見ている。

 

 現在の自分を。

 

 扉の外に立っている、自分を。

 

「……ああ」

 

 少年は、なぜか安心したように笑った。

 

「来てくれたんだ」

 

 出久の心臓が、嫌な音を立てた。

 

「君は……誰だ?」

 

 尋ねた声は、自分でも驚くほど震えていた。

 

 少年は答えようとした。

 

 けれど、その前に口から血が溢れた。

 

 御影出久が叫ぶ。

 

「喋るな! もういい、喋らなくていいから!」

 

「でも……」

 

「いいんだ!」

 

「僕が言わなきゃ……また、忘れられる」

 

 少年は、痛みを堪えて顔を上げた。

 

「僕は、緑谷出久」

 

 その名前を聞いた瞬間。

 

 現在の出久の背後で、麗日お茶子が息を呑んだ。

 

「……そんな」

 

 お茶子は扉に駆け寄った。

 

「出久くん……? ねえ、出久くん!」

 

 血に濡れた少年は、彼女の声にも反応した。

 

「お茶子さん」

 

 彼の顔に、かすかな笑みが浮かんだ。

 

「よかった。覚えていてくれたんだ」

 

 お茶子は、その場に立ち尽くした。

 

 知らない。

 

 知らないはずだった。

 

 この少年と過ごした記憶なんてない。

 

 手を繋いだことも、笑い合ったことも、名前を呼び合ったことも。

 

 何一つ、覚えていない。

 

 それなのに。

 

 彼女の胸の奥では、何かが泣いていた。

 

 ずっと昔に置き去りにした子どもが、ようやく見つけてもらえたときのように。

 

「……ごめん」

 

 お茶子の唇から、言葉が零れた。

 

「ごめんね……」

 

 なぜ謝っているのか、自分でもわからない。

 

 ただ、謝らなければならないと思った。

 

 あの子が死にかけていることに。

 

 あの子を知らないことに。

 

 そして、知らないはずなのに、あの子が死ぬことを恐れている自分自身に。

 

 扉の向こうで、御影出久が振り返った。

 

 彼の目が、お茶子を捉える。

 

 そこにあったのは、憎しみではなかった。

 

 責める気持ちでもなかった。

 

 ただ、どうしようもない疲労と、もう何度も繰り返してきた者だけが持つ、諦めに似た悲しみだった。

 

「……お茶子ちゃん」

 

 御影は静かに言った。

 

「今度は、何も思い出さなくていい」

 

「嫌や」

 

 お茶子は即座に答えた。

 

「嫌や……! 何も知らんまま、また誰かが死ぬなんて、そんなの……!」

 

「君は悪くない」

 

「そんなこと、今は聞いてない!」

 

 お茶子の声が震えた。

 

「悪いとか、悪くないとか、誰が決めるん!? 誰がそんなこと決めてええって言ったん!?」

 

 御影は答えなかった。

 

 その沈黙が、何よりも残酷だった。

 

 彼は知っているのだ。

 

 何が起きたのか。

 

 この世界で、誰が何をしたのか。

 

 そして、なぜこの少年が死にかけているのか。

 

 出久は扉に手をついた。

 

「開けろ」

 

 白い扉は動かなかった。

 

「開けろよ……!」

 

 もう一度、叩く。

 

 拳が痛んだ。

 

「この子を助けるんだ! 開けろ!」

 

『観測対象の介入を確認』

 

『現在の緑谷出久による接触は、過去記録との競合を引き起こします』

 

『接触を許可できません』

 

「ふざけるな!」

 

 出久は叫んだ。

 

「過去記録!? 競合!? そんなもののために、この子が死んでいい理由なんかないだろ!」

 

『当該個体の死亡は、既に成立しています』

 

「成立してない!」

 

『当該個体の出生記録は存在しません』

 

「だから何だ!」

 

『当該個体の戸籍は存在しません』

 

「だから何だって言ってるんだ!」

 

『当該個体の母親は、当該個体の存在を認識していません』

 

 出久の動きが止まった。

 

 音声は、淡々と続いた。

 

『当該個体の父親は、当該個体を救うことができませんでした』

 

『当該個体の兄は、当該個体を救うことができませんでした』

 

『当該個体の死亡は、世界構造上、必要な処理でした』

 

「……違う」

 

 出久は、首を振った。

 

「違う。違う、違う……!」

 

 声が掠れた。

 

「そんなの、誰かが決めたことだろ……!」

 

 扉の向こう。

 

 少年は、血の気の失せた唇で笑った。

 

「そうだよ」

 

 出久は顔を上げた。

 

「……え?」

 

「誰かが決めたんだ」

 

 少年は言った。

 

「僕が、生まれなければいいって」

 

 その言葉と同時に、白い空間の壁に文字が浮かんだ。

 

 それは、出生記録だった。

 

 病院名。

 

 分娩室番号。

 

 母親の氏名。

 

 父親の氏名。

 

 出産予定時刻。

 

 そして、記録された時刻。

 

 二時十三分。

 

 出久の父、緑谷久志が、十三年間、世界から止められていた時刻。

 

 その下に、ひとつの記録が表示された。

 

 ――出生前死亡。

 

 出久は、息をすることを忘れた。

 

 出生前。

 

 生まれる前に、死んだ。

 

 そんなことが、あるはずがない。

 

 人は生まれる前に死ぬことがある。

 

 医学的な意味なら、それは現実にも起こり得る。

 

 けれど、この記録は違った。

 

 死亡日時は、出生日時よりも前。

 

 しかも、その死因欄には、医学用語ではない言葉が書かれていた。

 

 原因:存在の拒否。

 

 死亡確定者:緑谷出久。

 

 現在の出久は、ゆっくりと自分の手を見た。

 

 何も持っていない。

 

 血もついていない。

 

 それなのに、手のひらがひどく冷たかった。

 

「……僕が?」

 

 誰も答えなかった。

 

「僕が、この子を殺したのか?」

 

 扉の向こうで、少年は目を閉じた。

 

 御影出久が、顔を歪めた。

 

 そして、ようやく口を開いた。

 

「……違う」

 

 その声は、あまりにも弱かった。

 

「出久。君が直接、この子を殺したわけじゃない」

 

「じゃあ、何なんだよ!」

 

「君が……」

 

 御影は、苦しそうに言った。

 

「君が生きるために、この子が生まれない世界を選んだんだ」

 

 世界が、静まり返った。

 

 お茶子が口元を押さえた。

 

 現在の出久は、何も言えなかった。

 

 御影出久は、弟から目を逸らさなかった。

 

「君は、知らなかった。知らないまま選んだ。君が生きていられる世界を。君が幸せになれる世界を。君が誰かを救える世界を」

 

「……やめろ」

 

「その世界では、あの子は生まれない」

 

「やめろよ」

 

「そして、君は――」

 

「やめろって言ってるだろ!」

 

 出久の叫びが、白い空間を震わせた。

 

 その瞬間。

 

 扉の向こうに、もう一つの影が現れた。

 

 緑谷久志だった。

 

 若い父親。

 

 まだ髪に白いものもなく、顔に刻まれた疲労もない。

 

 彼は血に濡れた少年を見ていた。

 

 そして、少年の前に膝をついた。

 

「……ごめんな」

 

 若い久志は、震える手で少年の頬に触れた。

 

 今度は、触れられた。

 

 世界は、拒まなかった。

 

 少年は驚いたように目を見開いた。

 

「お父さん……?」

 

「ごめんな」

 

 久志は、もう一度言った。

 

「お前を、守れなかった」

 

 少年の目から、涙が零れた。

 

「……僕、生まれてもよかった?」

 

 久志は答えられなかった。

 

 答えられないまま、少年を抱き締めた。

 

 その腕の中で、少年は泣いた。

 

「僕……生まれたかった」

 

 小さな声だった。

 

「お兄ちゃんと、遊びたかった」

 

 御影出久が、顔を伏せた。

 

「お父さんに、名前を呼んでほしかった」

 

 久志の肩が震えた。

 

「お母さんに、会いたかった」

 

 お茶子は、目を見開いた。

 

「みんなと、ご飯を食べたかった」

 

 少年は、泣きながら言った。

 

「僕も……僕も、家族になりたかった」

 

 久志は、少年を抱き締めたまま、何度も謝った。

 

「ごめんな。ごめんな……」

 

 けれど、謝罪は少年の傷を塞がなかった。

 

 世界は、少年の死を確定したままだった。

 

 そして、少年自身もまた、自分が死ななければならない理由を知っていた。

 

「……でも」

 

 少年は、父親の胸に顔を埋めたまま、言った。

 

「僕が生まれたら、お兄ちゃんが死んじゃうんだよね?」

 

 久志の腕が、止まった。

 

 御影出久が目を閉じた。

 

 現在の出久は、拳を握り締めた。

 

 少年は、誰も責めなかった。

 

 父親を。

 

 兄を。

 

 母親を。

 

 世界を。

 

 ただ、自分がいなくなることで、誰かが生きられるのなら。

 

 それでいいのだと。

 

 そう信じようとしていた。

 

「だから……」

 

 少年は、泣きながら笑った。

 

「僕は、いなくなるね」

 

 その笑顔を見た瞬間、出久は理解した。

 

 これは、自分が知っている顔だった。

 

 誰かを助けるためなら、自分のことなど後回しにする。

 

 自分が傷つけば、誰かが助かると思ってしまう。

 

 誰かが泣かずに済むなら、自分が泣けばいいと考えてしまう。

 

 そういう人間の顔だった。

 

 自分自身の顔だった。

 

 だからこそ、出久は許せなかった。

 

 その考え方を。

 

 その優しさを。

 

 そして、その優しさが誰かを殺してしまう世界を。

 

「……違う」

 

 出久は、扉に額を押しつけた。

 

「違うんだ……」

 

 自分の声が、遠く聞こえた。

 

「僕は……そんな世界を選びたくない」

 

 少年が、こちらを見た。

 

 血に濡れた顔で。

 

 涙を浮かべた目で。

 

 まるで、ずっと待っていた答えを聞いたかのように。

 

「……じゃあ」

 

 少年は、かすかに尋ねた。

 

「僕は、生まれてもいいの?」

 

 出久は、答えようとした。

 

 答えなければならなかった。

 

 けれど、その瞬間。

 

 白い空間のすべての扉が、一斉に開いた。

 

 無数の世界が、こちらを覗いていた。

 

 その中の一つ一つに、緑谷出久がいた。

 

 笑っている出久。

 

 泣いている出久。

 

 ヒーローになった出久。

 

 誰も救えなかった出久。

 

 兄と肩を並べる出久。

 

 兄の墓前に立つ出久。

 

 そして――

 

 生まれることを拒まれた、出久。

 

 全員が、同じ問いを抱いていた。

 

 自分が生まれなければ、誰かは生きられたのだろうか。

 

 その問いに答えられる者は、誰もいなかった。

 

 けれど、一つだけ。

 

 すべての世界に共通していることがあった。

 

 どの世界でも。

 

 どの時間でも。

 

 どの緑谷出久も。

 

 誰かを救おうとしていた。

 

 そして、そのたびに。

 

 誰かが、いなくなっていた。

 

     ◇

 

 扉の向こうで、少年の身体が透け始めた。

 

 最初は、指先だった。

 

 血に濡れた小さな手が、白い光に溶けていく。

 

 次に、腕。

 

 それから、胸の傷を中心に、身体全体が少しずつ透明になっていった。

 

「……ああ、そっか」

 

 少年は、自分の手を見つめた。

 

「もう、時間なんだ」

 

「待って!」

 

 出久が叫んだ。

 

「待ってくれ! まだ話が終わってない! 君の名前も、君が何をされたのかも、僕は何も知らないんだ!」

 

「僕の名前は、緑谷出久だよ」

 

「それは……!」

 

「うん。君と同じ」

 

 少年は笑った。

 

「だから、僕には別の名前がなかったんだ」

 

 その言葉に、御影出久が顔を上げた。

 

 彼は、何かを思い出したようだった。

 

 忘れていたことを。

 

 あるいは、忘れたことにしていたことを。

 

「……違う」

 

 御影が呟いた。

 

「そうじゃない。名前がなかったんじゃないんだ」

 

 少年が兄を見る。

 

「兄さん?」

 

「僕たちが……僕たちが、お前の名前を決めなかったんだ」

 

 その言葉に、若い久志が目を見開いた。

 

 お茶子が息を呑んだ。

 

 現在の出久は、扉から顔を離した。

 

「……どういうこと?」

 

 御影は、自分の両手を見た。

 

 その手は、かつて何かを抱き締めたことを覚えている。

 

 何かを守ろうとしたことを覚えている。

 

 そして、何かを手放したことも。

 

「僕は、ずっと……弟を守ることばかり考えていた」

 

 御影は言った。

 

「出久が生きられる世界を作る。出久が傷つかない未来を選ぶ。出久が幸せになれるようにする。そればかり考えていた」

 

 彼は、血に濡れた少年を見た。

 

「でも、お前も弟だった」

 

 少年の瞳が揺れた。

 

「お前だって、僕たちの家族だった」

 

「……うん」

 

「なのに、僕はお前に何をしてやれた?」

 

 御影の声が震えた。

 

「何もしていない。名前さえ呼んでやれなかった。お前が生まれたいと言ったとき、僕は何も答えられなかった」

 

「兄さん……」

 

「お前が生まれたら、出久が死ぬ。そう言われたとき、僕は……」

 

 御影は、唇を噛んだ。

 

「僕は、出久を選んだ」

 

 誰も、彼を責めなかった。

 

 責められなかった。

 

 それが、どれほど残酷な選択だったのかを、彼らは知っていたからだ。

 

 兄を生かしたかった。

 

 弟を生かしたかった。

 

 どちらも大切だった。

 

 どちらも、死んでほしくなかった。

 

 それでも、選ばなければならなかった。

 

 そう思い込まされていた。

 

「……ごめん」

 

 御影は、少年に向かって頭を下げた。

 

「お前を弟として迎えることさえ、できなかった」

 

 少年は、しばらく黙っていた。

 

 そして、困ったように笑った。

 

「……兄さんは、謝ってばっかりだね」

 

 御影が顔を上げる。

 

「僕、兄さんに謝ってほしかったわけじゃないよ」

 

「……え?」

 

「僕はただ……」

 

 少年は、透明になり始めた指を握ろうとした。

 

 もう、指は動かなかった。

 

「一回でいいから、兄さんに名前を呼んでほしかったんだ」

 

 御影の顔が、歪んだ。

 

「僕のことを、ちゃんと弟だって思ってほしかった」

 

「……お前は」

 

「うん?」

 

「お前は、僕の弟だ」

 

 御影は、泣きながら言った。

 

「名前がなくても。記録がなくても。生まれたことになっていなくても。僕がお前を忘れてしまったとしても……お前は、僕の弟だ」

 

 少年は目を見開いた。

 

 それから。

 

 泣いた。

 

 声を上げて。

 

 子どもらしく。

 

 ずっと我慢していたものを、ようやく吐き出すように。

 

「……うん」

 

 少年は泣きながら頷いた。

 

「うん……!」

 

 御影は手を伸ばした。

 

 今度は、世界が拒まなかった。

 

 透明になった少年の頬に、兄の指先が触れた。

 

 ほんの一瞬。

 

 それだけで、御影の身体が大きく揺らいだ。

 

 彼の胸元に、黒い亀裂が走った。

 

『警告』

 

『第一個体と未登録個体の接触を確認』

 

『存在記録に重大な矛盾が発生』

 

『再構成処理を開始します』

 

 無機質な声が響いた。

 

 白い壁に、無数の文字が走る。

 

『第一個体、御影出久』

 

『第二個体、緑谷出久』

 

『第四個体、緑谷出久』

 

『未登録個体、緑谷出久』

 

『個体の重複を検出』

 

『識別不能』

 

『統合処理を開始――』

 

「させるか!」

 

 現在の出久が叫んだ。

 

 彼は扉に両手をつき、力任せに押した。

 

 開かない。

 

 ならばと、肩をぶつける。

 

 痛みが走った。

 

 それでも、構わなかった。

 

「この子を消すな!」

 

『当該個体は、世界構造上の矛盾です』

 

「矛盾でいい!」

 

『当該個体の存在は、複数の個体の生存条件と競合しています』

 

「それでもだ!」

 

『当該個体を維持した場合、既存の記録が崩壊する可能性があります』

 

「崩れたら、直せばいい!」

 

『修復不能の可能性があります』

 

「それでも、消すな!」

 

 出久は拳を振り上げた。

 

 扉を殴った。

 

 一度。

 

 二度。

 

 三度。

 

 拳の皮膚が裂けた。

 

 痛みが走る。

 

 だが、扉は動かない。

 

 そのときだった。

 

「……出久くん」

 

 お茶子が、彼の腕を掴んだ。

 

「お茶子ちゃん……?」

 

「手」

 

 彼女は、血の滲んだ彼の拳を見つめていた。

 

「手、痛いよ」

 

「こんなの……!」

 

「うん。こんなの、どうでもいいって言うんやろ?」

 

 お茶子は、泣きそうな顔で笑った。

 

「でも、どうでもよくないよ」

 

「……っ」

 

「その子を助けたいのはわかる。うちだって、助けたい。助けられるなら、何だってしたい」

 

 彼女は、扉の向こうの少年を見た。

 

「でも、出久くんまで自分を傷つけて、それで誰かが助かる世界を作ろうとするなら……うちは、また同じことを繰り返すだけやと思う」

 

 出久は、何も言えなかった。

 

 お茶子の言葉は、正しかった。

 

 だからこそ、痛かった。

 

「……でも、何もしなかったら、この子は死ぬ」

 

「うん」

 

「何かを選ばなきゃいけないんだ」

 

「うん」

 

「だったら……!」

 

「違うよ」

 

 お茶子は、首を振った。

 

「選ぶのは、誰か一人を死なせることじゃない」

 

 彼女の手が、出久の拳を包んだ。

 

「どうしたら、みんなで生きられるかを考えることやろ?」

 

 その言葉を聞いた瞬間。

 

 出久の脳裏に、かつての記憶が蘇った。

 

 御影出久が、何度も何度も繰り返してきた選択。

 

 もう一人の緑谷出久が、世界を壊してまで繰り返してきた選択。

 

 十三年前、誰かを救うために存在そのものを捨てた少年。

 

 父親が、息子たちのどちらかを選ばなければならないと思い込んだ夜。

 

 そして、自分自身が、誰かのために命を差し出そうとした数え切れない瞬間。

 

 全員が、同じ場所に立っていた。

 

 誰かを助けるために。

 

 誰かを生かすために。

 

 誰かを守るために。

 

 その結果として、誰かを犠牲にすることを受け入れてしまった。

 

 それが正しいと、信じてしまった。

 

「……僕は」

 

 出久は、扉の向こうを見た。

 

「僕は、君に生まれてほしい」

 

 少年が、こちらを見た。

 

「君が生まれたら、誰かが死ぬかもしれない。世界が壊れるかもしれない。僕たちが今まで知っていたものが、全部なくなるかもしれない」

 

 出久は、ゆっくりと言葉を選んだ。

 

「それでも、僕は君が生まれてきてよかったって言える世界を作りたい」

 

 少年の目に、涙が溜まった。

 

「……本当に?」

 

「うん」

 

「僕が生まれても、兄さんは死なない?」

 

 出久は答えられなかった。

 

 保証など、できなかった。

 

 何も知らないのに、大丈夫だと断言することはできない。

 

 この世界には、知らなければならないことが多すぎた。

 

 そして、これまでの自分たちは、知らないまま何度も選んできた。

 

 だからこそ。

 

「……わからない」

 

 出久は、正直に言った。

 

「僕は、君が生まれても誰も死なないって約束できない」

 

 少年は、黙って聞いていた。

 

「でも、君が生まれる前から、君が死ななきゃいけないって決めつけることはしない」

 

 出久は、扉に手をついた。

 

「君が生まれたら、君の人生を一緒に考える。君が間違えたら、一緒に悩む。君が泣いたら、話を聞く。君が誰かを傷つけたら、そのことから逃げずに、一緒に向き合う」

 

 彼は、少年をまっすぐ見つめた。

 

「だから……生まれてきてくれ」

 

 少年の唇が震えた。

 

「……僕も?」

 

「うん」

 

「僕も、ここにいていいの?」

 

「いいんだよ」

 

 出久は、泣きながら笑った。

 

「君も、僕たちの家族になっていいんだ」

 

 その瞬間。

 

 少年の胸元に、かすかな光が灯った。

 

 消えかけていた輪郭が、ほんの少しだけ戻った。

 

 しかし。

 

『不許可』

 

 無機質な声が、即座に響いた。

 

『現在の緑谷出久による発言は、出生条件を満たしません』

 

 光が揺らいだ。

 

『当該個体の出生には、既存個体の死亡が必要です』

 

『条件は変更できません』

 

 少年の身体が、再び透け始めた。

 

「……あ」

 

 少年が、小さく声を漏らした。

 

 御影が叫ぶ。

 

「出久、離れろ!」

 

 次の瞬間、御影の身体が崩れた。

 

 黒い亀裂が全身へ広がり、彼の輪郭が砕け始める。

 

「兄さん!」

 

 少年が叫んだ。

 

「いやだ! 兄さん、いやだ!」

 

「大丈夫だ!」

 

 御影は、弟に向かって叫び返した。

 

「大丈夫だから!」

 

 けれど、彼自身が一番わかっていた。

 

 大丈夫ではない。

 

 自分が消えれば、また何かが失われる。

 

 この子を守ろうとすれば、今度は誰かが消える。

 

 それが、これまでの世界の仕組みだった。

 

 そして、その仕組みを壊そうとするたびに、世界は彼らを引き離してきた。

 

 御影は、少年を抱き締めた。

 

 世界が軋む。

 

 少年の身体が、再び実体を取り戻した。

 

 その代わりに、御影の身体が急速に透明になっていく。

 

「……兄さん!」

 

「ごめんな」

 

 御影は、弟の頭を撫でた。

 

「また、お前を一人にする」

 

「いやだ……!」

 

「ごめんな」

 

「いやだ! 兄さん、僕を置いていかないで!」

 

「……そうだな」

 

 御影は、泣きながら笑った。

 

「僕も、本当は……置いていきたくない」

 

 その言葉に、少年は声を上げて泣いた。

 

 現在の出久は、扉を殴った。

 

 お茶子も、両手で扉を押した。

 

 けれど、世界は二人を拒み続けた。

 

 そして、御影の身体が完全に消える寸前。

 

 彼は、現在の出久を見た。

 

 扉越しに。

 

 まるで、最後に弟へ何かを託すように。

 

「出久」

 

 現在の出久が顔を上げる。

 

「……兄さん!」

 

「お前は、僕とは違う答えを出してくれ」

 

 御影は、微笑んだ。

 

「僕は、弟を生かすために、もう一人の弟を諦めた」

 

 その身体が、さらに透ける。

 

「だから、お前は……」

 

 声が途切れた。

 

 それでも、御影は最後まで言葉を紡ごうとした。

 

「……誰かを生かすために、誰かを諦める世界を……」

 

 そこで、彼の姿が消えた。

 

 残されたのは、血に濡れた少年だけだった。

 

 そして、少年は。

 

 今度こそ、完全に一人になった。

 

     ◇

 

 世界の外側。

 

 存在しないはずの場所に、巨大な記録装置が浮かんでいた。

 

 その表面には、無数の名前が刻まれている。

 

 名前の大半は、緑谷出久だった。

 

 いくつもの緑谷出久。

 

 いくつもの御影出久。

 

 そして、名前すら与えられなかった個体。

 

 その中の一つが、赤く点滅していた。

 

『未登録個体』

 

『出生前死亡』

 

『観測者:緑谷出久』

 

『立会人:麗日お茶子』

 

『保護者:緑谷久志』

 

『兄:御影出久』

 

『出生条件:未達成』

 

 記録装置の奥で、何者かが目を覚ました。

 

 人間の形をしているようで、人間ではない。

 

 顔は見えない。

 

 身体の輪郭も、定まっていない。

 

 ただ、その存在の前に、三つの記録が浮かんでいた。

 

 一つ目。

 

 第一子、御影出久。

 

 二つ目。

 

 第二子、緑谷出久。

 

 三つ目。

 

 未登録個体、緑谷出久。

 

 その下に、新しい文字が刻まれた。

 

 出生前死亡の原因:第一子と第二子の生存競合。

 

 さらに、その下。

 

 死亡を成立させた観測者:緑谷出久。

 

 存在は、しばらく記録を見つめていた。

 

 やがて、低い声が響いた。

 

「……違う」

 

 その声は、先ほどのシステム音声とは異なっていた。

 

 感情があった。

 

 怒りとも、悲しみともつかない感情が。

 

「それは、結果だ」

 

 記録装置の表面に、亀裂が走る。

 

「原因ではない」

 

 存在は、三つの記録に手を伸ばした。

 

「誰が、最初に選んだ?」

 

 その問いに、記録装置は答えなかった。

 

 代わりに、別の記録が浮かび上がった。

 

 十三年前。

 

 時刻、二時十三分。

 

 ある病院の分娩室。

 

 母親の叫び声。

 

 医師の指示。

 

 そして、生まれたばかりの二人の子ども。

 

 一人は、泣いていた。

 

 もう一人は、泣かなかった。

 

 そのとき。

 

 分娩室の隅に、誰もいないはずの椅子があった。

 

 そこに座っていたのは、緑谷出久だった。

 

 現在の出久ではない。

 

 今よりも幼く、しかし、ひどく疲れた顔をした少年。

 

 彼は、生まれたばかりの子どもたちを見ていた。

 

 そして、医師にも、看護師にも聞こえない声で呟いた。

 

「……ごめん」

 

 少年は、泣いている子どもを見た。

 

 それから、泣いていない子どもを見た。

 

「僕が……」

 

 その先は、記録が途切れていた。

 

 存在は、ゆっくりと顔を上げた。

 

「……やはり、お前か」

 

 誰に向かって言ったのか。

 

 記録装置には、何も表示されなかった。

 

 ただ、最下層に隠されていた一行が、静かに浮かび上がった。

 

 第一子は、二度殺された。

 

 その下に、もう一行。

 

 一度目の殺害は、出生前に成立している。

 

 そして、最後の一行。

 

 二度目の殺害を実行した者は、第一子自身である。

 

 存在は、目を閉じた。

 

「……そうか」

 

 その声には、ひどく深い疲労があった。

 

「お前は、弟を生かすために、自分を殺したのか」

 

 答えはない。

 

 だが、存在は知っていた。

 

 これは、まだ終わっていない。

 

 むしろ、始まったばかりなのだ。

 

     ◇

 

 白い空間。

 

 御影が消えたあと、少年は床に横たわっていた。

 

 胸の傷は、まだ塞がっていない。

 

 それでも、彼は生きていた。

 

 いや。

 

 生きているという記録だけが、かろうじて残っていた。

 

「……お兄ちゃん」

 

 少年は、誰もいない場所へ手を伸ばした。

 

 返事はない。

 

「……お父さん」

 

 若い久志の姿も、いつの間にか消えていた。

 

 残されたのは、少年と、扉の向こうにいる出久たちだけだった。

 

「……お茶子さん」

 

 少年は、こちらを見た。

 

「僕、もう一つだけ、お願いしてもいい?」

 

 お茶子は、涙を拭った。

 

「……うん」

 

「僕のこと……覚えていてくれる?」

 

 その言葉に、お茶子は顔を歪めた。

 

「……もちろんや」

 

「本当に?」

 

「うん。本当に」

 

「僕が消えても?」

 

「消させへん」

 

 お茶子は、扉に手をついた。

 

「絶対に、消させへん」

 

 少年は、少しだけ笑った。

 

「……ありがとう」

 

 その笑顔を見た出久は、胸が張り裂けそうになった。

 

 彼は知っていた。

 

 この少年は、もう何度も同じことを言ってきたのだ。

 

 誰かに覚えていてほしい。

 

 自分がいたことを、忘れないでほしい。

 

 自分が生まれたかったことを、なかったことにしないでほしい。

 

 それだけを願って。

 

 それでも、誰も彼の名前を呼べなかった。

 

 出久は、もう一度、少年に尋ねた。

 

「……君は、本当に緑谷出久なの?」

 

 少年は、頷いた。

 

「うん」

 

「僕と同じ名前を、誰かがつけたの?」

 

「……わからない」

 

「じゃあ、君自身が選んだの?」

 

 少年は、少し考えた。

 

「……ううん」

 

 彼は、首を振った。

 

「僕は、そう呼ばれていたんだ」

 

 出久の胸が、ざわついた。

 

「誰に?」

 

「……兄さんに」

 

「御影兄さんが?」

 

「ううん」

 

 少年は、ゆっくりと首を振った。

 

「御影兄さんじゃない」

 

 その瞬間。

 

 白い空間のすべての扉が、音もなく閉じた。

 

 少年の背後に、最後の扉が現れた。

 

 今までのものとは違う。

 

 白くも、黒くもない。

 

 ただ、古びた木製の扉だった。

 

 その表面には、子どもの手で書かれたような文字が刻まれている。

 

 おかあさんのへや。

 

 お茶子が息を止めた。

 

 出久は、扉を見つめた。

 

「……お母さん?」

 

 少年は、扉を見た。

 

 その目に、初めて恐怖が浮かんだ。

 

「……開けないで」

 

 出久が振り返る。

 

「え?」

 

「お願い」

 

 少年は、震える声で言った。

 

「そこだけは……開けないで」

 

 その声は、今までとは違っていた。

 

 生まれたいと願ったときも。

 

 兄に抱き締められたときも。

 

 父親に謝られたときも。

 

 少年は、こんな声を出さなかった。

 

 彼はずっと、誰かに嫌われないように、誰かを困らせないように、誰かが悲しまないように、笑っていた。

 

 けれど今。

 

 彼は、心の底から怯えていた。

 

「……あそこにいるのは、誰?」

 

 出久が尋ねた。

 

 少年は答えなかった。

 

 答えられなかった。

 

 その代わり、扉の向こうから声がした。

 

「出久?」

 

 優しい声だった。

 

 聞き覚えのある声だった。

 

 出久の記憶の中に、確かに存在する声。

 

 疲れて帰ってきた息子を迎えるときの声。

 

 泣いている息子を抱き締めるときの声。

 

 大丈夫だと、何度も言い聞かせるときの声。

 

 緑谷引子の声だった。

 

「そこにいるの?」

 

 扉の向こうで、母親が尋ねた。

 

「……お母さん?」

 

 出久は、呆然と呟いた。

 

 お茶子が彼の腕を掴む。

 

「出久くん……」

 

 だが、扉の向こうの声は続いた。

 

「ねえ、出久」

 

 優しい声。

 

 懐かしい声。

 

 そして、どうしようもなく恐ろしい声。

 

「今度は、ちゃんと殺してあげるからね」

 

 少年が、悲鳴を上げた。

 

「いやだあああああああっ!」

 

 同時に、扉の隙間から無数の黒い手が伸びた。

 

 少年の身体を掴む。

 

 腕を。

 

 足を。

 

 首を。

 

 出久が飛び出した。

 

「やめろおおおおおっ!」

 

 その瞬間。

 

 扉の向こう側から、もう一つの声が聞こえた。

 

 少年の声だった。

 

 けれど、目の前の少年の声ではない。

 

 もっと幼く。

 

 もっと弱々しく。

 

 そして、ひどく悲しそうな声。

 

「……お母さん」

 

 その声は、泣いていた。

 

「僕を産んでくれて、ありがとう」

 

 黒い手が、少年を扉の向こうへ引きずり込む。

 

「でも……」

 

 少年は、最後の力を振り絞って、出久を見た。

 

「僕を殺したのは、お母さんじゃない」

 

 出久の目が見開かれた。

 

「……え?」

 

 少年は、涙を流しながら笑った。

 

「僕を殺したのは……」

 

 扉が閉じる。

 

 その直前。

 

 少年の唇が、確かに動いた。

 

「――僕だよ」

 

 扉が閉まった。

 

 白い空間に、静寂が戻った。

 

 そして。

 

 出久の目の前に、一枚の紙が落ちてきた。

 

 出生届だった。

 

 父親の欄には、緑谷久志。

 

 母親の欄には、緑谷引子。

 

 子どもの欄には、緑谷出久。

 

 その下に、小さな文字で追記があった。

 

 備考:当該児童は、出生前に自らの死亡を選択した。

 

 出久は、紙を握り締めた。

 

 指が震えた。

 

 呼吸ができなかった。

 

 そして、紙の裏側に書かれていた最後の一文を読んだ。

 

 本児の死亡により、兄の生存が確定した。

 

 その下に。

 

 誰かの手書きで、こう記されていた。

 

 兄さんを生かしたかった。

 

 だから、僕は生まれないことにした。

 

 出久は、ゆっくりと顔を上げた。

 

 目の前に、閉ざされた扉がある。

 

 その向こうに、母親がいる。

 

 そして、あの少年を殺した本当の理由がある。

 

 けれど、出久にはもう一つ、気づいてしまったことがあった。

 

 あの少年は、自分が死んだ理由を知っていた。

 

 自分が生まれなければ、兄が生きられると信じていた。

 

 そして、最後まで誰も責めなかった。

 

 それなのに。

 

 あの少年は、最後にこう言ったのだ。

 

 自分を殺したのは、自分自身だと。

 

 それは、本当に彼自身の意思だったのだろうか。

 

 それとも。

 

 誰かに、自分で選んだと思い込まされていたのだろうか。

 

 出久の背後で、時計が動き始めた。

 

 秒針が進む。

 

 二時十三分。

 

 二時十四分。

 

 二時十五分。

 

 止まっていた時間が、再び動き始める。

 

 だが、今度は世界が再構成される気配はなかった。

 

 代わりに、白い壁に新たな記録が浮かび上がった。

 

 第零個体、再観測開始。

 

 対象:緑谷引子。

 

 次回観測対象:出生前死亡児。

 

 備考:対象個体は、現在も生存している可能性がある。

 

 出久は、息を呑んだ。

 

 死んだはずの子ども。

 

 生まれる前に、死んだはずの子ども。

 

 その子どもが、今も生きている可能性がある。

 

 ならば。

 

 ならば、まだ間に合うのかもしれない。

 

 出久は、閉ざされた扉に手を伸ばした。

 

 今度こそ、逃げない。

 

 誰かを生かすために、誰かを諦めることもしない。

 

 自分が正しいと信じた選択で、誰かの未来を奪うこともしない。

 

 たとえ、その先に何が待っていようとも。

 

「……待っていて」

 

 出久は、静かに言った。

 

「必ず、迎えに行くから」

 

 扉の向こうから、返事はなかった。

 

 ただ。

 

 ほんの一瞬だけ。

 

 木製の扉の向こうで、小さな子どもが笑ったような気がした。

 

 そして、扉の表面に刻まれた文字が、ゆっくりと変化した。

 

 おかあさんのへや。

 

 その文字が消える。

 

 新しい文字が、浮かび上がる。

 

 第一子の墓。

 

 出久は、息を止めた。

 

 その下に、もう一行。

 

 埋葬者:緑谷出久。

 

 ――第三十八話。

 

 「兄さんを殺したのは、誰だ」

 

 そして、物語はようやく、本当の始まりへと踏み込んでいく。

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