――違うよ、お母さん。
兄さんを最初に殺したのは、僕だよ。
その声が響いた瞬間、緑谷出久は、世界から音が消えるのを感じた。
時計の針が止まっている。
蛍光灯が消えている。
父の緑谷久志は、何かを言おうとして唇を震わせたまま動かない。
そして、母の緑谷引子は。
暗闇の中で、泣いていた。
「……出久」
母が呼んだ。
いつもの声だった。
幼い頃、熱を出した自分を心配してくれたときと同じ声。
初めて個性がないと知った日に、抱き締めてくれたときと同じ声。
ヒーローになりたいと告げた自分に、涙を浮かべながら笑ってくれたときと同じ声。
その声を聞くだけで、出久は何度も救われてきた。
だからこそ。
今、母が口にした言葉を、理解したくなかった。
「母さんが……兄さんを二度殺したって、どういうこと?」
引子は答えなかった。
ただ、暗闇の向こうにいる幼い少年を見つめていた。
墓から出てきた、もう一人の緑谷出久。
その少年は、母を見上げていた。
責めるでもなく。
恨むでもなく。
ただ、答えを待っていた。
まるで、何年も前から、ずっとこの瞬間を待っていたかのように。
「……お母さん」
少年が言った。
「僕のこと、覚えてる?」
引子の肩が震えた。
「……覚えてるわ」
「ほんとう?」
「ええ」
「僕の名前も?」
「……ええ」
「僕が、何歳だったかも?」
「ええ」
「僕が、何を好きだったかも?」
引子は、目を閉じた。
「……ええ」
少年は、笑った。
嬉しそうに。
けれど、その笑顔はすぐに崩れた。
「じゃあ、どうして」
少年の声が、震えた。
「どうして、僕をいないことにしたの?」
引子は、口元を押さえた。
嗚咽が漏れる。
「どうして、お兄ちゃんがいないって言ったの?」
少年は、母に近づいた。
「どうして、お父さんにも、先生にも、みんなにも……僕のことを忘れさせたの?」
出久は、息を呑んだ。
忘れさせた。
その言葉は、これまでの記録と繋がっていた。
世界は、御影出久の存在を認めなかった。
父は、兄の記録を消した。
お茶子は、兄の死を観測した。
そして、自分は兄を殺したと記録されていた。
だが。
今、母が語らなければならないのは、それらよりも前の出来事なのだ。
世界が兄を消すより前。
父が兄を選ぶより前。
お茶子が兄の死を観測するより前。
そのもっと前。
最初の夜。
最初の死。
最初の、家族の裏切り。
「……母さん」
出久は、声を絞り出した。
「僕に教えて」
引子が顔を上げた。
「兄さんに、何をしたの?」
長い沈黙があった。
やがて、母は答えた。
「……あなたを産むために」
その一言で、出久の胸が冷たくなった。
「私は、あなたのお兄ちゃんを殺したの」
◇
最初の記憶は、雨の音だった。
十三年前。
まだ、出久が生まれる前。
緑谷家の寝室で、引子は眠れずにいた。
お腹は、少しずつ大きくなっていた。
出産予定日は、もうすぐだった。
久志は隣で眠っている。
窓の外では、雨が降っていた。
引子は、お腹に手を置いた。
「……もうすぐ会えるね」
小さく呟く。
お腹の中の子どもは、まだ名前が決まっていなかった。
男の子か、女の子か。
どんな顔をしているのか。
どんな声で泣くのか。
どんな人生を歩むのか。
わからないことばかりだった。
それでも、引子は幸せだった。
この子が生まれたら、たくさん抱き締めよう。
たくさん名前を呼ぼう。
たくさん、ご飯を作ろう。
転んだら手当てをして。
泣いたら抱き締めて。
いつか大きくなったら、一緒に買い物へ行こう。
そんな、ごく普通の未来を夢見ていた。
そのときだった。
お腹の中から、二度。
小さな振動が伝わった。
引子は、微笑んだ。
「……元気ね」
けれど。
次の瞬間、もう一度。
今度は、明らかに違う場所から、振動が伝わった。
引子の笑顔が止まった。
お腹に手を当てる。
待つ。
何も起きない。
気のせいだろうか。
疲れているのかもしれない。
そう思ったとき。
耳元で、声がした。
『お母さん』
引子は、飛び起きた。
部屋を見回す。
誰もいない。
久志も眠っている。
窓も閉まっている。
それなのに。
『お母さん』
今度は、お腹の中から聞こえた。
幼い男の子の声だった。
『起きて』
引子は、両手でお腹を押さえた。
「……誰?」
返事は、すぐにあった。
『僕だよ』
「……あなた?」
『うん』
引子は、息を止めた。
胎児が声を発する。
そんなことがあるはずがない。
しかし、その声は確かに聞こえていた。
『お母さん』
男の子は、優しく呼んだ。
『僕の話を聞いて』
「……何を、言ってるの?」
『僕には、兄さんがいるんだ』
引子の指が、止まった。
『兄さんは、僕より先に生まれるんだよ』
その瞬間。
引子のお腹が、強く痛んだ。
声が途切れた。
引子は、悲鳴を上げた。
久志が飛び起きる。
「引子!?」
「……お腹が……!」
久志は、すぐに電話を取った。
救急車を呼ぶ。
病院へ向かう。
医師たちは、引子の状態を確認した。
そして、首を傾げた。
「……おかしいですね」
担当医が言った。
「どうして……」
モニターには、二つの心拍が表示されていた。
一つは、正常。
もう一つは、極端に不安定。
それなのに。
超音波画像には、一人分の胎児しか映っていなかった。
「先生、これは……?」
久志が尋ねる。
医師は、何度も画像を確認した。
「……機器の不具合かもしれません」
そう言いながらも、彼の顔は青ざめていた。
モニターに映っていた二つ目の心拍が、突然、消えたからだ。
引子は、ベッドの上で震えていた。
お腹に手を置く。
もう、声は聞こえなかった。
ただ。
小さな手が、内側から触れているような感覚だけが残っていた。
◇
その夜、引子は夢を見た。
白い部屋だった。
窓も、扉もない。
壁も、床も、天井も、すべてが白い。
そこに、二人の子どもが立っていた。
一人は、緑色の髪をした男の子。
もう一人も、緑色の髪をした男の子。
顔は、そっくりだった。
けれど、二人の雰囲気は違っていた。
一人は、泣いていた。
もう一人は、笑っていた。
泣いている少年は、引子を見つめた。
「……お母さん」
その声を聞いた瞬間、引子は理解した。
この子が、兄だ。
まだ生まれていないのに。
まだ名前もないのに。
この子が、自分の子どもだとわかった。
「……あなたは?」
引子が尋ねると、少年は少し考えた。
「僕は、御影出久」
もう一人の少年が、顔を上げた。
「……僕は、緑谷出久」
二人は、同じ顔で笑った。
「僕たちは、兄弟なんだ」
引子は、二人に駆け寄ろうとした。
しかし、足が動かなかった。
床に、黒い文字が浮かび上がっていたからだ。
『第一子、御影出久』
『第二子、緑谷出久』
『同一個体の重複登録を確認』
『世界構造との不一致』
『修正が必要です』
文字が増えていく。
『第一子を削除する』
『第二子を削除する』
『新たな個体を生成する』
引子は、首を振った。
「……やめて」
文字は止まらない。
『選択してください』
『第一子を生かす』
『第二子を生かす』
『両者を削除する』
「やめて!」
引子は叫んだ。
「この子たちは、私の子どもよ!」
白い部屋が、揺れた。
泣いていた少年が、顔を上げた。
「……お母さん」
その目には、涙が浮かんでいた。
「僕たち、いっしょに生まれちゃいけないの?」
引子は、首を振った。
「そんなことない!」
「じゃあ……」
少年は、もう一人の子どもを見た。
「どうして、僕たちのどちらかが死ななきゃいけないの?」
引子は、答えられなかった。
答えられるはずがなかった。
だって、そんなこと。
母親が、答えを出していい問いではない。
子どもたちの命に、順位をつけていいはずがない。
そのとき。
笑っていた少年が、泣いている兄の手を握った。
「大丈夫だよ」
幼い緑谷出久が、笑った。
「僕が、何とかするから」
引子は、息を呑んだ。
「……出久?」
少年は、母を見た。
「お母さん」
その声は、優しかった。
「僕、兄さんを助けるよ」
そして。
彼は、兄の手を離した。
「だから、お母さんは……僕を選んで」
◇
目を覚ましたとき、引子は泣いていた。
隣で、久志が心配そうに見つめていた。
「……どうしたんだ?」
引子は、すぐには答えられなかった。
夢の内容が、あまりにも鮮明だった。
二人の子ども。
同じ顔。
同じ声。
そして、選択を迫る文字。
「……久志さん」
彼女は、夫の手を握った。
「私たちの子ども……」
言葉が、途切れた。
久志は、妻を抱き締めた。
「大丈夫だ。何も心配しなくていい」
その声を聞いて、引子は泣いた。
彼女は、まだ知らなかった。
夫もまた、同じ夢を見ていたことを。
そして、久志がその夢の中で、ある選択をしていたことを。
第一子を消す。
第二子を生かす。
久志は、その選択を拒んだ。
何度も拒んだ。
しかし、世界は、彼に問い続けた。
どちらを生かすのか。
どちらを殺すのか。
その問いから逃げ続けた結果、世界は別の答えを見つけた。
母親に選ばせる。
母親に、どちらかの子どもを諦めさせる。
それが、最初の仕組みだった。
そして、その仕組みを作ったのは。
世界ではなかった。
久志でもなかった。
引子自身でもなかった。
もっと古い、誰かの願いだった。
――誰かが、最初に死ななければならなかった。
――誰かが、最初に自分を殺さなければならなかった。
――誰かが、誰かを選ばなければならなかった。
その願いが、世界の規則になっていた。
そして、規則は、引子の夢を通して、彼女に問いかけていた。
あなたは、どちらの子どもを母親として認めますか。
引子は、その問いに答えなかった。
答えられなかった。
しかし。
彼女は、夢の中で、もう一つのことを聞いていた。
泣いていた少年の声。
『お母さん』
『僕を、産んで』
その言葉を。
彼女は、決して忘れることができなかった。
◇
翌朝。
引子は、病院の相談室で、一人の女性と向かい合っていた。
女性は、黒い服を着ていた。
年齢は、引子より少し上に見える。
長い黒髪。
青白い肌。
そして、膝の上に置かれた一枚の写真。
写真には、幼い男の子が写っていた。
緑色の髪。
そばかす。
自分の子どもと、同じ顔。
「……あなたは?」
引子が尋ねると、女性は答えた。
「あなたの子どもを知っている者です」
「私の子ども……?」
「ええ」
女性は、写真を裏返した。
そこには、名前が書かれていた。
御影出久。
引子の呼吸が止まった。
「……どうして、その名前を?」
「あなたが産む子どもの名前だからです」
「……でも」
引子は、首を振った。
「この子は、まだ生まれていません」
「そうですね」
女性は頷いた。
「だから、今のうちに来たのです」
彼女は、引子を見つめた。
「あなたは、これから二人の子どもを産みます」
引子の指先が震えた。
「一人は、御影出久」
「……」
「もう一人は、緑谷出久」
女性は、淡々と続けた。
「二人とも、あなたの子どもです」
引子は、頷いた。
当然だった。
当然のはずだった。
けれど、次の言葉で、その当然が崩れた。
「そして、あなたは二人のうち一人を殺します」
「……何を言っているんですか?」
「あなたは、どちらか一人を選ばなければなりません」
女性は、写真を引子の前に置いた。
「御影出久を生かせば、緑谷出久が生まれない」
次に、もう一枚の写真を置いた。
「緑谷出久を生かせば、御影出久が生まれなかったことになる」
引子は、立ち上がった。
「帰ってください」
「あなたが選ばなければ、世界が選びます」
「帰って!」
女性は動かなかった。
「そして、世界が選んだ場合……あなたは、二人の子どもを失います」
引子は、女性の頬を叩いた。
乾いた音が、相談室に響いた。
女性は、抵抗しなかった。
ただ、叩かれた頬を押さえ、引子を見つめていた。
「……そうですね」
女性は、静かに言った。
「私も、あなたを許せません」
「……何ですって?」
「あなたは、母親だからです」
女性の目から、涙が零れた。
「母親なら、子どもを選ばないでください」
引子は、言葉を失った。
女性は、立ち上がった。
「どうか、間違えないで」
そして、扉に手をかけた。
「……一つだけ、教えてください」
引子は、震える声で尋ねた。
「あなたは、誰なんですか?」
女性は、振り返った。
その顔には、悲しみとも怒りともつかない表情が浮かんでいた。
「私は……」
彼女は、言いかけて、口を閉じた。
そして、答えた。
「あなたが、これから殺す子どもの母親です」
扉が閉じた。
引子は、その場に立ち尽くした。
手の中には、二枚の写真が残されていた。
どちらも、同じ顔。
どちらも、自分の子ども。
どちらも、まだ生まれていない。
それなのに。
片方は、生きるために、もう片方の死を必要としていた。
引子は、写真を胸に抱いた。
「……そんなの」
涙が落ちた。
「そんなの、できるわけないじゃない……」
◇
出産予定日の三日前。
引子は、再び夢を見た。
今度は、白い部屋ではなかった。
暗い部屋。
真ん中に、小さなベッドが二つ並んでいた。
一つには、緑色の髪をした男の子が眠っていた。
もう一つは、空だった。
引子は、眠っている少年に近づいた。
その子は、御影出久だった。
小さな胸が、規則正しく上下している。
生きている。
確かに、生きている。
引子は、少年の頬に触れた。
温かかった。
「……出久」
名前を呼ぶ。
少年が、目を開けた。
「……お母さん?」
引子は、泣きそうになった。
「そうよ」
「どうしたの?」
「……何でもないわ」
少年は、不思議そうに首を傾げた。
「お母さん、泣いてるの?」
「……泣いてないわ」
「嘘だ」
少年は笑った。
「お母さん、嘘をつくとき、いつも右手を握るんだよ」
引子は、自分の手を見た。
確かに、右手を握り締めていた。
少年は、ベッドから身を起こした。
「……お母さん」
「何?」
「僕、弟がほしい」
引子の身体が、硬直した。
「……弟?」
「うん」
少年は、嬉しそうに笑った。
「僕、弟が生まれるんでしょ?」
引子は、答えられなかった。
「お父さんが言ってたんだ。もうすぐ、僕に弟ができるって」
少年は、空のベッドを見つめた。
「僕、弟と一緒に遊びたいんだ」
引子の目から、涙が零れた。
「……そう」
「うん!」
少年は、頷いた。
「僕、お兄ちゃんになるんだよ!」
その笑顔が、引子の胸を引き裂いた。
この子は、何も知らない。
自分が生まれたことで、弟が生まれられなくなるかもしれないことを。
弟が生まれたことで、自分が消されるかもしれないことを。
そして、母親が、その二つの未来を知ってしまったことを。
「……ねえ、お母さん」
少年が、引子の手を握った。
「僕、弟に何て名前をつけたらいいかな?」
引子は、泣きながら笑った。
「……出久」
「え?」
「弟の名前よ」
彼女は、少年を抱き締めた。
「緑谷出久」
少年は、嬉しそうに笑った。
「いい名前!」
そして、引子の胸に顔を埋めた。
「……僕、弟に会えるのが楽しみだな」
引子は、少年を抱き締め続けた。
いつまでも。
いつまでも。
この温もりを、忘れないように。
この声を、忘れないように。
この子が、自分の子どもであることを、絶対に忘れないように。
そのとき。
少年が、ぽつりと言った。
「……でも、お母さん」
「何?」
「僕、知ってるよ」
引子の身体が、凍りついた。
「……何を?」
少年は、顔を上げた。
その瞳には、幼い子どもとは思えないほどの悲しみがあった。
「僕が生まれたら、弟が生まれないんだよね?」
引子は、息を呑んだ。
「……誰に聞いたの?」
「誰にも」
少年は、首を振った。
「わかるんだ」
彼は、空のベッドを見つめた。
「僕と弟は、一緒に生まれちゃいけないんだって」
引子は、少年の肩を掴んだ。
「そんなことない!」
思わず叫んでいた。
「そんなこと、誰が言ったの!? そんなこと、絶対にないわ!」
少年は、驚いた顔をした。
そして。
優しく笑った。
「……ありがとう、お母さん」
引子は、少年を抱き締めた。
「あなたは生まれてくるのよ! あなたも、弟も! 二人とも、私の子どもなんだから!」
その言葉に、少年は頷いた。
「……うん」
彼は、引子の背中に腕を回した。
「僕も、そう思いたい」
その瞬間。
暗い部屋に、無機質な声が響いた。
『第一子、御影出久』
『出生成立まで、七十二時間』
『第二子、緑谷出久』
『出生成立条件、第一子の消去』
『母親による観測が必要です』
引子は、顔を上げた。
「……観測?」
声は、繰り返した。
『母親による観測が必要です』
『母親が第一子の死を認めた場合、第一子の死亡が成立します』
『母親が第一子の死を認めない場合、第二子の出生は成立しません』
引子は、首を振った。
「……そんなの」
少年は、引子の手を握った。
「……お母さん」
彼は、静かに言った。
「僕を、見ていて」
引子は、少年を見つめた。
「……え?」
「僕がいなくなっても、僕のことを見ていて」
少年は、涙を浮かべながら笑った。
「お母さんが僕を覚えていてくれたら、僕は、いなくならないから」
引子は、少年を抱き締めた。
「……出久」
「うん」
「……ごめんね」
「どうして謝るの?」
少年は、不思議そうに尋ねた。
引子は、答えられなかった。
ただ、抱き締める腕に力を込めた。
そして、心の中で誓った。
この子を、絶対に忘れない。
何があっても。
世界が、この子を消そうとしても。
自分だけは、この子の存在を覚えている。
その誓いが、どれほど残酷な意味を持つのか。
このときの引子は、まだ知らなかった。
◇
出産当日。
午前一時五十分。
緑谷家に、電話がかかってきた。
久志が受話器を取る。
「……はい、緑谷です」
返事はなかった。
ただ、微かな呼吸音が聞こえた。
「……もしもし?」
やがて、子どもの声がした。
『お父さん』
久志の顔が、青ざめた。
『僕を、殺して』
受話器を落としかけた。
「……誰だ?」
『僕を殺して』
「誰なんだ、お前は!?」
『お父さん』
その声は、泣いていた。
『僕が死なないと、弟が生まれないんだ』
久志は、受話器を握り締めた。
「……やめろ」
『お願い』
「やめろ!」
『お父さん、お願い』
久志は、電話を切った。
息が荒い。
手が震える。
彼は、寝室の扉を見つめた。
その向こうでは、引子が眠っている。
そして、そのお腹の中には、二人の子どもがいる。
久志は、壁に背中を預けた。
「……私は」
声が漏れた。
「私は、どうすればいいんだ……」
答える者はいなかった。
時計の針が進む。
一時五十一分。
一時五十二分。
一時五十三分。
そして、一時五十四分。
電話が、再び鳴った。
久志は、出なかった。
鳴り続ける。
鳴り続ける。
やがて、留守番電話に切り替わった。
子どもの声が、部屋に響いた。
『お父さん』
『僕は、お父さんを恨まないよ』
久志は、目を閉じた。
『だって、お父さんは、僕たちを生かそうとしてくれたんだもん』
声は、少しだけ笑った。
『でもね』
その笑顔が、崩れた。
『僕、本当は、生きたいんだ』
久志は、口元を押さえた。
『弟と、一緒に生きたい』
『お母さんと、一緒に生きたい』
『お父さんと、一緒に生きたい』
声が震えた。
『……僕だって、家族がほしいよ』
留守番電話が、途切れた。
久志は、その場に崩れ落ちた。
泣いた。
声を殺して。
誰にも聞こえないように。
しかし、そのとき。
寝室の扉が開いた。
「……久志さん?」
引子が立っていた。
彼女は、夫を見つめた。
「……誰からの電話?」
久志は、答えなかった。
引子は、ゆっくりと近づいた。
そして、夫の手を握った。
「……大丈夫」
彼女は言った。
「大丈夫だから」
その言葉は、夫に向けたものだった。
そして、自分自身に向けたものでもあった。
彼女は、まだ信じていた。
二人とも生まれてくる。
二人とも生きられる。
母親である自分が、そう願い続ければ。
世界の規則だって、変えられるかもしれない。
だが。
午前二時。
引子の陣痛が始まった。
◇
午前二時十一分。
病院の分娩室。
引子は、ベッドの上で苦しんでいた。
久志は、その手を握っていた。
「……頑張れ、引子!」
医師たちが、慌ただしく動く。
モニターの音が、早くなる。
そして、午前二時十二分。
最初の子どもが生まれた。
泣き声が響いた。
御影出久。
第一子。
緑谷家の長男。
その子は、元気に泣いていた。
引子は、泣きながら笑った。
「……出久」
赤ん坊が、彼女の腕に乗せられる。
小さな手。
小さな足。
小さな胸。
確かに、生きている。
引子は、赤ん坊を抱き締めた。
「……生まれてきてくれて、ありがとう」
赤ん坊は、泣いていた。
その泣き声が、少しずつ弱くなっていく。
引子は、不安になった。
「……先生?」
医師が、赤ん坊を確認する。
心拍は、正常。
呼吸も、問題ない。
それなのに。
赤ん坊の身体から、温もりが消えていく。
「……どうして?」
引子は、赤ん坊を抱き締めた。
「……どうしてなの?」
モニターの音が止まった。
午前二時十三分。
第一子、御影出久。
死亡。
その瞬間、世界のどこかで、無機質な声が響いた。
『第一子の死亡を確認』
『母親による観測、成立』
『第二子の出生条件、達成』
引子は、赤ん坊を抱いたまま、叫んだ。
「……違う!」
医師たちが振り返る。
「この子は生きてる!」
彼女は、赤ん坊を抱き締めた。
「この子は、生きてるの!」
しかし、モニターは止まったままだった。
久志は、妻を抱き締めた。
「……引子」
「違う! この子は……!」
「引子……!」
彼女は、泣き叫んだ。
「……お願い、起きて!」
赤ん坊の頬に、キスをする。
「……出久、お願い!」
そのとき。
赤ん坊の指が、動いた。
ほんのわずかに。
引子は、息を呑んだ。
「……今、動いた!」
彼女は、医師を見た。
「先生! この子、動いたんです!」
医師が駆け寄る。
しかし、赤ん坊は動かなかった。
心拍も、呼吸も、確認できない。
それでも。
引子は、赤ん坊の指を握り締めていた。
「……この子は、生きてる」
彼女は、繰り返した。
「……この子は、生きてるの」
その瞬間。
赤ん坊が、目を開けた。
緑色の瞳。
そして、その瞳が、母を見つめた。
「……お母さん」
引子は、凍りついた。
赤ん坊が、笑った。
「……僕を、見ていて」
次の瞬間。
赤ん坊は、消えた。
引子の腕の中から。
世界から。
記録から。
そして、引子の記憶からも。
すべてが消えた。
ただ一つ。
温もりだけが、残った。
◇
午前二時十四分。
第二子が生まれた。
緑谷出久。
引子は、赤ん坊を抱いた。
小さな身体。
緑色の髪。
そばかす。
その子は、元気に泣いていた。
医師たちは安堵した。
久志は、涙を流した。
「……出久」
その名を呼ぶ。
赤ん坊は、泣き続ける。
引子は、赤ん坊を見つめていた。
愛おしい。
大切だ。
この子も、自分の子どもだ。
守りたい。
幸せになってほしい。
その気持ちは、本物だった。
けれど。
彼女の腕には、もう一つの温もりが残っていた。
先ほどまで、確かに抱いていた温もり。
誰かを抱いていた感触。
誰かの声。
誰かの名前。
思い出せない。
思い出せないのに。
胸が、痛かった。
「……私」
引子は、赤ん坊を抱いたまま呟いた。
「……誰かを、忘れてしまったの?」
久志は、答えなかった。
ただ、彼女を抱き締めた。
そのとき。
引子の耳元で、声がした。
『お母さん』
彼女は、息を呑んだ。
『僕のこと、忘れないで』
引子は、目を見開いた。
その声を、知っている。
知っているはずなのに。
誰の声なのか、思い出せない。
『お母さん』
『僕、まだ生きてるよ』
引子は、赤ん坊を抱き締めた。
「……誰なの?」
涙が落ちた。
「……あなたは、誰なの?」
返事はなかった。
ただ、耳元で、かすかな泣き声が聞こえた。
それは。
自分が産んだ、もう一人の子どもの泣き声だった。
◇
記憶が終わった。
出久は、白い廊下に立っていた。
母は、目の前で泣いていた。
父は、顔を伏せていた。
幼い少年は、母を見つめていた。
出久は、しばらく、何も言えなかった。
やがて。
ようやく声を出した。
「……母さん」
引子が顔を上げる。
「……兄さんは」
出久は、言葉を探した。
「兄さんは、生まれたんだね」
引子は、頷いた。
「……ええ」
「生まれて……生きていたんだね」
「……ええ」
「それなのに、母さんは……」
声が震えた。
「兄さんが死んだって、認めたの?」
引子は、首を振った。
「……私は、認めたくなかった」
彼女は、涙を拭った。
「でも、あの子は、私の腕の中で消えた」
その声は、震えていた。
「私が抱いていたのに。私が、あの子を産んだのに。私が、あの子の母親だったのに……」
引子は、胸元を押さえた。
「……私は、あの子がいなくなるのを止められなかった」
出久は、母を見つめた。
「……でも、母さんは覚えてたんだ」
引子は、頷いた。
「ええ」
彼女は、幼い少年を見た。
「私は、あの子を忘れなかった」
少年は、泣きながら笑った。
「……うん」
「世界が、あの子を消しても」
「……うん」
「記録が、あの子をいないことにしても」
「……うん」
「私は、あの子を覚えていた」
引子は、少年に手を伸ばした。
「……だって、あなたは、私の子どもだから」
少年は、その手を取った。
「……お母さん」
引子は、少年を抱き締めた。
「……ごめんね」
その瞬間。
少年の身体が、白い光に包まれた。
「……え?」
引子が顔を上げる。
少年の輪郭が、少しずつ薄くなっていく。
「……待って!」
彼女は、少年を抱き締める腕に力を込めた。
「嫌よ! もう、あなたを失いたくない!」
少年は、泣きながら笑った。
「……大丈夫だよ、お母さん」
「大丈夫じゃない!」
引子は叫んだ。
「あなたは、私の子どもなの! あなたは、ここにいるの! 私は、あなたを覚えてるの!」
「……うん」
「だから、消えないで!」
少年は、母の頬に触れた。
「……お母さん」
その声は、優しかった。
「僕は、消えたんじゃないよ」
引子は、息を呑んだ。
「……え?」
「僕は、ずっとここにいる」
少年は、自分の胸に手を置いた。
「お母さんが、僕を覚えていてくれる限り」
その瞬間。
少年の姿が消えた。
引子の腕の中から。
しかし、今度は。
温もりが、消えなかった。
彼女は、誰もいない空間を抱き締めていた。
そして、泣きながら、何度も名前を呼んだ。
「……御影出久」
「……御影出久」
「……私の、息子」
◇
出久は、母を見つめていた。
怒りがなかったわけではない。
悲しみがなかったわけでもない。
母が、兄を救えなかったこと。
母が、兄の死を観測したこと。
母が、兄を抱き締めながら、その存在を失ってしまったこと。
それらすべてが、胸の中で渦巻いていた。
それでも。
出久は、母を責めることができなかった。
母は、兄を殺したかったわけではない。
母は、兄を忘れたかったわけでもない。
母は、ただ。
二人とも生かしたかったのだ。
それができなかった。
だから、母は一人の子どもを失い、もう一人の子どもを抱き締めながら、失った子どもの温もりを忘れられなかった。
それが、母の罪だった。
そして。
その罪は、母だけのものではなかった。
「……母さん」
出久は、ゆっくりと口を開いた。
「僕は、母さんを許すとか、許さないとか……まだ、わからない」
引子が顔を上げた。
「……出久」
「僕は、兄さんのことを何も知らなかった」
出久は、拳を握った。
「兄さんが、どんな気持ちで生きていたのか。何を望んでいたのか。何を怖がっていたのか」
彼は、目を閉じた。
「何も知らないまま、兄さんを救いたいって言ってた」
涙が落ちた。
「……それなのに、僕は、兄さんを救うためなら何でもするって考えてた」
出久は、母を見た。
「それって、母さんと同じだったのかもしれない」
引子は、首を振った。
「……違うわ」
「……ううん」
出久は、静かに言った。
「僕も、誰かを犠牲にする答えを選びかけてた」
彼は、墓の中から出てきた少年を見た。
「この子も、そうだったのかもしれない」
そして、父を見た。
「父さんも」
最後に、母を見た。
「母さんも」
出久は、深く息を吸った。
「みんな、誰かを守りたかったんだ」
声が震えた。
「でも、誰かを守るために、別の誰かの命を決めてしまった」
出久は、首を振った。
「……もう、そんなことを繰り返したくない」
その瞬間。
白い廊下の奥から、足音が聞こえた。
ゆっくりと。
一歩ずつ。
近づいてくる。
現れたのは、御影出久だった。
兄だった。
しかし、その姿は、これまで出久が見てきた兄とは違っていた。
身体は、透き通っていた。
胸元には、黒い文字が刻まれている。
『第一子』
『死亡成立』
『観測者:緑谷引子』
『記憶保持者:緑谷引子』
御影は、母を見つめた。
「……お母さん」
引子は、息を呑んだ。
「……出久?」
御影は、頷いた。
「うん」
引子は、彼に駆け寄ろうとした。
しかし、御影は、手を上げて制した。
「……待って」
引子の足が止まる。
「……どうして?」
御影は、悲しそうに笑った。
「僕、まだ、全部を思い出せていないんだ」
出久は、息を呑んだ。
「……兄さん?」
御影は、弟を見た。
「出久」
「……うん」
「僕が、お母さんに殺された日」
彼は、胸元の文字に触れた。
「それは、僕が死んだ日じゃない」
引子の顔が、青ざめた。
「……え?」
御影は、静かに続けた。
「僕が、お母さんを母親じゃないって思った日なんだ」
その瞬間。
廊下の壁に、無数の記録が浮かび上がった。
『第一子、御影出久』
『出生成立』
『生存確認』
『母親による観測、成立』
『第一子、死亡成立』
記録が、激しく点滅する。
その下に、新たな文字が浮かんだ。
『母子関係、切断』
出久は、目を見開いた。
「……母子関係?」
御影は、頷いた。
「僕が生きていた頃、お母さんは、僕のことを覚えていてくれた」
彼は、引子を見つめた。
「でも、僕が消えたあと……お母さんは、僕のことを覚えているだけになった」
その声は、静かだった。
「お母さんは、僕の母親だった」
彼は、一歩近づいた。
「でも、僕は、お母さんの子どもとして存在できなくなった」
引子の唇が震えた。
「……そんな」
「お母さんは、僕を愛してくれた」
御影は、涙を流した。
「だからこそ、僕は……」
彼は、言葉を詰まらせた。
「……お母さんを、母親じゃないって思わなきゃいけなかった」
出久は、兄を見つめた。
「……どういうこと?」
御影は、答えなかった。
代わりに、母を見た。
「……お母さん」
その声は、幼い子どものようだった。
「僕は、あなたに会いたかった」
引子の目から、涙が零れた。
「……私もよ」
「僕は、あなたに抱き締めてほしかった」
「……ええ」
「僕は、あなたに名前を呼んでほしかった」
「……ええ」
「僕は、あなたの子どもでいたかった」
引子は、泣き崩れた。
「……ごめんね」
御影は、首を振った。
「……違うよ」
彼は、母の前にしゃがみ込んだ。
「お母さんは、僕を殺したんじゃない」
引子が顔を上げる。
「……え?」
御影は、泣きながら笑った。
「お母さんは、僕が死んだことを認めたんだ」
その言葉は、あまりにも残酷だった。
殺したことと、死んだことを認めたこと。
それは、同じではない。
けれど、この世界では。
観測された死が、存在そのものを確定させる。
母が、子どもの死を認めた瞬間。
世界は、その死を成立させた。
母は、子どもを殺したわけではない。
それでも、母が認めなければ、子どもは死者にならなかった。
そして。
母が認めたからこそ、子どもは死者になった。
「……お母さん」
御影は、母の手を取った。
「僕は、あなたを恨んでいないよ」
引子は、首を振った。
「……そんなこと、言わないで」
「……うん」
「あなたは、私を恨んでいいの」
「……うん」
「あなたは、私を責めていいの」
「……うん」
「あなたは、私のことを……」
引子は、言葉を詰まらせた。
「……お母さんじゃないって、思っていいの」
御影は、母を見つめた。
そして。
ゆっくりと首を振った。
「……それだけは、嫌だよ」
引子は、顔を覆った。
泣き声が、廊下に響いた。
御影は、母の手を握ったまま、静かに言った。
「僕は、あなたの子どもだから」
その瞬間。
時計の針が、わずかに動いた。
二時十三分。
そして。
二時十四分。
出久は、目を見開いた。
止まっていた時間が、動いた。
しかし、それは、ほんの一秒だった。
次の瞬間、時計は再び二時十三分へ戻った。
壁に、新しい文字が浮かび上がる。
『第一子、御影出久』
『母子関係、再接続』
『観測状態、異常』
『再構成を開始します』
白い廊下が、揺れた。
引子が、御影の手を握り締める。
「……出久!」
御影は、母を見た。
「……お母さん」
「……今度こそ、離さないわ」
引子は、泣きながら笑った。
「今度こそ、あなたを忘れない」
御影は、目を閉じた。
「……うん」
その身体が、少しずつ透き通っていく。
「……でも」
彼は、最後に、出久を見た。
「……出久」
「……兄さん!」
「僕を、助けようとしないで」
出久は、息を呑んだ。
「……何を言ってるんだよ!?」
御影は、悲しそうに笑った。
「僕を助けようとすると、君は、また誰かを犠牲にする」
「……そんなことしない!」
「……うん」
御影は、頷いた。
「君は、そう言うと思った」
そして。
「だから、僕は……」
彼は、母の手を離した。
「君に、僕を殺してほしい」
出久の世界が、止まった。
母の泣き声が響く。
父が、叫ぶ。
時計が、二時十三分を示している。
そして、兄は。
自分の弟に、もう一度、死を求めた。
出久は、震える声で答えた。
「……嫌だ」
御影は、目を閉じた。
「……出久」
「嫌だ!」
出久は、兄に駆け寄った。
「僕は、もう誰も殺さない!」
御影の身体が、光に包まれた。
「……僕は、君を殺したくない!」
出久は、手を伸ばした。
「だから、兄さんも……僕に殺されようとしないでよ!」
その言葉に、御影の表情が崩れた。
彼は、泣いた。
初めて見る、兄の涙だった。
「……ごめん」
御影は、呟いた。
「……ごめんね、出久」
そして。
光が、廊下を埋め尽くした。
◇
次に目を開けたとき、出久は、白い部屋に戻っていた。
お茶子が、隣にいた。
父も、母もいない。
幼い少年も、御影もいない。
ただ、床に、一枚の写真が落ちていた。
出久は、それを拾い上げた。
写真には、幼い御影出久が写っていた。
笑顔だった。
その隣には、幼い緑谷出久がいた。
二人は、手を繋いでいた。
そして、写真の裏には、文字が刻まれていた。
母親は、第一子の死を観測した。
父親は、第一子の死を選択した。
弟は、第一子の死を成立させた。
しかし、第一子は、まだ生きている。
出久は、息を呑んだ。
その下に、さらに文字があった。
第一子を殺した者は、まだ確定していない。
そして、最後の一行。
次の観測対象:緑谷引子。
出久は、写真を握り締めた。
「……母さん」
その瞬間。
白い部屋の壁に、扉が現れた。
扉の向こうから、母の声が聞こえる。
「……出久」
優しい声だった。
泣いている声だった。
そして、その声に重なるように。
もう一つの声が聞こえた。
幼い子どもの声。
『お母さん』
『僕を、産んでくれてありがとう』
出久は、扉に手をかけた。
その向こうに何があるのか。
もう、わかっていた。
そこには、母がいる。
そして。
母が、最初に殺した子どもがいる。
出久は、扉を開けた。
その先に広がっていたのは、分娩室ではなかった。
暗い部屋。
二つのベッド。
一つは、空。
もう一つには、母が横たわっていた。
母の腕の中には、赤ん坊がいた。
緑色の髪。
そばかす。
小さな身体。
その赤ん坊は、出久を見つめていた。
そして。
笑った。
「……お兄ちゃん」
赤ん坊が、言った。
「僕、もう一度、生まれてもいい?」
出久は、泣きそうになった。
答えようとした。
だが、その前に。
母が、ゆっくりと目を開けた。
そして、出久を見つめた。
「……出久」
母は、微笑んだ。
「この子を、殺して」
出久は、息を呑んだ。
母の腕の中で、赤ん坊が笑っている。
母は、泣いていた。
「……お願い」
彼女は、出久に手を伸ばした。
「今度こそ、この子を……」
その瞬間。
赤ん坊が、母の胸に顔を埋めた。
「……お母さん」
そして。
出久にだけ聞こえる声で、囁いた。
「――僕を殺したら、今度はお母さんが生まれなくなるよ」
世界が、暗転した。
第三十九話・了