IS〈インフィニット・ストラトス〉蒼穹の亡霊 作:右左右左右
午前八時四十分。
IS学園の職員室では、織斑千冬が一枚の書類に目を通していた。
新しい生徒の受け入れに関する資料だった。
氏名、雨宮朔。
性別、男。
編入予定、六月下旬。
希望する学級ではなく、学園側が受け入れ先として検討している学級の欄には、一年一組と記されている。
「……やはり、一組ですか」
千冬は書類から顔を上げた。
向かいに立っていた轡木十蔵が頷く。
「ああ。織斑一夏と同じ学級にする」
「理由を聞いても?」
「教員の対応を分散させるより、君の目が届く場所に置く方がいい。それに、男の操縦者が二人いるなら、互いの存在を隠し続ける意味も薄い」
「……監督しやすいのは確かですね」
「もっとも、それだけが理由ではない」
十蔵は窓の外へ目を向けた。
「雨宮朔は、普通の学校生活から長く離れているらしい。事情を知っている者が近くにいた方が、本人も多少は落ち着くだろう」
「一夏に、その役割を期待しているのですか」
「無理に世話をさせるつもりはない。ただ、あの子なら放っておかんだろう」
千冬は小さく息を吐いた。
「……その点は否定できません」
自分の弟の性格は、よく分かっている。
困っている人間を見れば、首を突っ込まずにはいられない。
相手が男か女かなど、本人はほとんど気にしないだろう。
だが、それが必ずしも良い方向に働くとは限らない。
「朔の機体については?」
「引き続き調査する。コアの出所が不明な以上、学園内で自由に展開させるわけにはいかん」
「本人は了承しているのですか」
「待機状態を維持することには同意している。ただ、機体を引き渡すことまでは認めていない」
「当然でしょうね。事情が分からないまま、自分の専用機を渡せと言われても困るでしょう」
十蔵は頷いた。
「機体の管理については、本人と協議を続ける。編入後も、許可のない展開は認めない方針だ」
「承知しました」
千冬は次の頁を開いた。
「それで、編入日は?」
「来週の月曜日を予定している。学園長の承認は得た。残る手続きも、その日までに整える」
「ずいぶん早いですね」
「安全確保を優先する以上、長く外に置いておく理由はない」
十蔵の声は静かだった。
「昨日まで隠れていた存在が、いつまでも隠れていられるとは限らんからな」
千冬は書類を閉じた。
「……分かりました。一組で受け入れる準備を進めます」
「頼む」
「ただし、実技訓練への参加は認めません。医師の許可が出るまでは、授業内容も調整します」
「その判断は君に任せる」
千冬は頷いた。
「一夏には、いつ伝えますか」
「編入の前日だな。まず本人にだけ話しておこう」
「クラスの生徒には?」
「当日、正式に説明する。いずれ外部にも知られるだろうが、それまでは情報の扱いを限定する」
千冬は書類を机へ置いた。
二人目の男性操縦者。
その存在が、一年一組の日常をどこまで変えるのか。
まだ分からなかった。
◇
午前十時十六分。
朔の端末に、IS学園から正式な連絡が届いた。
――編入受け入れについて。
――必要な手続きが整い次第、来週月曜日よりIS学園の生徒として受け入れる予定です。
――所属学級は一年一組とします。
――入寮および学園への移動に関する詳細は、別途通知します。
朔は最後まで読み、画面を見つめた。
「……一組、か」
《織斑一夏が在籍する学級です》
「知ってる」
既に調べてある。
一年一組。
担任は織斑千冬。
織斑一夏の姉であり、元IS世界大会優勝者。
学園の中でも、特に厳しい教員として知られている。
「……よりによって、あの人のクラスか」
《織斑千冬について、追加情報を表示しますか?》
「いや、いい」
朔は端末を伏せた。
必要な情報は確認した。
それ以上調べたところで、実際に会ったときの印象が変わるとは限らない。
それに、気になることはほかにもあった。
学園へ入ることが、ほぼ決まった。
だが、あの男にはまだ何も説明していない。
朔は少し考えてから、通信画面を開いた。
「……こっちから連絡するか」
《指示者への接続を開始しますか?》
「ああ」
短い呼び出し音。
数秒後、通信がつながった。
『何だ』
「学園への編入が決まりそうだ」
『把握している』
「……早いな」
『受け入れはいつだ』
「それを聞いて、どうするつもりだ?」
通信の向こうが静かになった。
『学園に入ったあとの行動について、確認しておく必要がある』
「だったら、先に俺の質問に答えてくれ」
『何だ』
「俺を学園に入れる理由だ」
『以前に説明したはずだ』
「納得できる説明は聞いてない」
朔は窓の外へ視線を向けた。
「最初は日本での調査。次は学園への連絡。そのあと、昔の試験記録が出てきた」
『……』
「なのに、何を聞いても答えられない。それで入学後も指示に従えって言われても、無理があるだろ」
しばらく沈黙が続いた。
『雨宮。お前が学園に入ることには意味がある』
「どんな?」
『今は話せない』
朔は小さく笑った。
「……結局、それか」
『勝手な行動は控えろ』
「こっちも好き勝手するつもりはない。でも、学園で起きたことを全部お前に報告する気もない」
『何?』
「俺のことをどう扱うかは、俺も考える」
通信の向こうから、すぐには返事が来なかった。
朔は続けた。
「機体の情報を勝手に渡すつもりはない。そこは今までどおりだ。でも、右腕の診察も入学の話も、俺自身に関係することだ」
『……学園を信用するな』
「最初から全部信用してるわけじゃない」
朔は静かに答えた。
「だから、お前のことも信用しきってないんだよ」
数秒後。
『……後悔するなよ』
通信が切れた。
朔は端末を机へ置いた。
《指示者との協議は、合意に至りませんでした》
「見れば分かる」
答えてから、朔は椅子の背にもたれた。
言いすぎたかもしれない。
だが、いつまでも相手の指示だけを待っているわけにはいかなかった。
自分がどこへ行き、何をするのか。
そのくらい、自分で理解していたかった。
◇
数日後。
IS学園の居住区画では、新しい部屋の準備が進められていた。
「寝具の搬入は終わりました」
「通信設備は?」
「点検済みです。ただ、持ち込み端末の接続については、入寮後に確認する必要があります」
女性職員たちが、手元の資料を確認する。
机。
ベッド。
収納棚。
学園で生活するための基本的な設備は、すでに整っていた。
ただし、今回は通常の編入生とは事情が違う。
男子生徒が一人増える。
それだけでも、居住区画の調整が必要だった。
さらに、本人は所属不明のISを所持している。
安全管理に関する注意事項も、通常の生徒とは異なる。
「……機体の保管はどうなりますか?」
一人の職員が尋ねた。
「今のところ、本人が待機状態で所持する方針よ。ただし、学園内での展開は禁止。検証が必要な場合は、別途許可を取ることになっているわ」
「なるほど」
「無理に取り上げるようなことはしないでね。管理方法については、本人と協議を続けるそうだから」
「分かりました」
職員は頷いた。
机の上には、新品の制服が置かれている。
織斑一夏の入学時に用意された男子用制服をもとに、採寸されたものだ。
「……男の子の制服を、もう一着用意することになるなんてね」
「そうね。少し前なら考えられなかったわ」
二人は顔を見合わせた。
世界で唯一だった男子生徒。
その存在が、二人になる。
まだ、生徒たちは何も知らない。
だが、その日が近づいていた。
◇
編入前日の夕方。
織斑一夏は、訓練を終えて校舎へ戻る途中だった。
「……今日も疲れたな」
汗を拭きながら廊下を歩く。
箒との近接戦闘訓練。
セシリアの射撃指導。
ラウラの容赦のない指摘。
最後にはシャルロットまで加わり、結局、予定していた時間を大幅に過ぎてしまった。
「明日は少し楽だといいんだけど」
「織斑君」
背後から声をかけられた。
振り向くと、轡木十蔵が立っていた。
「あ、轡木さん。こんにちは」
「こんにちは。一夏君。今日も訓練だったのかい?」
「はい。ちょっと長引いちゃって」
「それは大変だったねえ」
十蔵は穏やかに笑った。
「ところで、少し時間はあるかい?」
「はい。大丈夫ですけど」
「じゃあ、ちょっと付き合っておくれ」
二人は廊下の端にある休憩スペースへ移動した。
十蔵は周囲に人がいないことを確かめてから、一夏へ向き直った。
「実はね、明日から新しい生徒が来るんだ」
「転校生ですか?」
「ああ。君と同じ一年一組に入る予定だよ」
「へえ。また転校生か」
一夏は特に驚かなかった。
この学園では、各国の代表候補生や事情を抱えた生徒が途中から編入することも珍しくない。
だが、十蔵の次の言葉で、その表情が変わった。
「ただし、今度は男の子なんだ」
「……え?」
一夏は聞き返した。
「男?」
「そうだよ」
「俺以外に、ですか?」
「うん」
十蔵は頷いた。
「雨宮朔君という少年だ」
一夏は数秒、言葉を失った。
「……えっと、つまり……」
「君と同じように、ISを動かせるんだ」
「本当ですか!?」
思わず声が大きくなった。
十蔵は人差し指を口元へ当てる。
「しっ。まだ、ほかの生徒には知らせていないんだ」
「あ、すみません」
一夏は声を落とした。
「でも、本当に?」
「本当だよ。私も実際に確認したからね」
「……そっか」
一夏は椅子へ座り直した。
自分以外に、ISを動かせる男がいる。
そんなことは、考えたこともなかった。
少なくとも、学園へ入ってからはずっと、自分だけが例外だった。
男子生徒は自分一人。
周囲は女子ばかり。
ISを動かせる男として、世界中から注目されている。
その状況が、明日から変わる。
「……どんな奴なんですか?」
一夏が尋ねた。
「そうだねえ。礼儀正しい子だったよ。ただ、少し難しい事情を抱えているようでね」
「難しい事情?」
「詳しいことは、まだ話せないんだ」
「そうですか」
「それと、右腕を怪我している。しばらくは無理な訓練ができないだろうね」
一夏は眉をひそめた。
「大丈夫なんですか?」
「医師の診察は受けているよ。今は回復を待っているところだ」
「……そっか」
十蔵は一夏の様子を見て、少し笑った。
「驚いたかい?」
「そりゃ、驚きますよ」
一夏は苦笑した。
「でも……ちょっと嬉しいかもしれません」
「ほう」
「だって、同じ男がもう一人いるんですよね」
「ああ」
「今まで、男同士で気軽に話す相手もいなかったし」
十蔵は穏やかに頷いた。
「そうだねえ」
「……あ、でも」
一夏は少し考えた。
「本人は大丈夫なんですか? 俺みたいに、無理やりここへ来ることになったんじゃ……」
十蔵は、その問いにすぐには答えなかった。
「いろいろ事情はあるんだろうね」
「……ですよね」
「だから、一夏君」
「はい」
「最初から何もかも聞き出そうとしなくていい。普通の同級生として接してやってくれるかい?」
一夏は一瞬だけ目を丸くした。
それから、笑った。
「そんなの、言われなくてもそうしますよ」
十蔵も微笑んだ。
「ありがとう」
休憩スペースの窓からは、夕暮れの海が見えていた。
明日。
もう一人の少年が、この学園にやってくる。
◇
同じ夜。
朔は滞在先の部屋で、荷物をまとめていた。
大きな鞄が一つ。
着替えと日用品。
必要な書類。
そして、持っていくかどうか迷った末に、最後に鞄へ入れた一枚の写真。
荷物は、それほど多くなかった。
《移動に必要な準備は、ほぼ完了しています》
「ああ」
《明日は午前中に、学園側が案内する海上モノレールで移動します》
「……いよいよか」
朔は鞄の口を閉じた。
日本へ戻ってきたときは、まさかこんなことになるとは思っていなかった。
IS学園。
世界中から操縦者候補が集まる、特別な学校。
自分には縁のない場所だと思っていた。
少なくとも、学生として入ることになるとは。
「……学校か」
朔は小さく呟いた。
授業。
試験。
同級生。
当たり前のように続く毎日。
そんな生活を、最後に送ったのはいつだっただろう。
考えかけて、やめた。
今さら過去を数えても仕方がない。
机の上で、端末が短く振動した。
画面には、学園からの移動案内が表示されている。
集合場所。
本人確認の方法。
持ち込み機器に関する注意事項。
そして、入寮後の手続き。
朔は必要な内容を確認した。
「……機体についても、もう一度確認か」
《待機状態を維持したままの携行が認められています。ただし、学園内での無断展開は禁止されています》
「分かってる」
朔は右手を見た。
指先の痺れは、以前より少し落ち着いている。
だが、完全に消えたわけではない。
無理をする理由はなかった。
《機体の使用制限について、異議はありますか?》
「今はない」
朔は答えた。
「どうせ、まだまともに動かせないしな」
端末を置き、部屋の明かりを消す。
明日から、生活が変わる。
それが良い方向へ進むのかどうかは、まだ分からない。
◇
翌朝。
海上モノレールの車内から、東京湾が見えた。
海の向こうには、人工島に築かれたIS学園の施設が広がっている。
朔は窓際の席に座り、その景色を眺めていた。
車内には、ほかにも学園へ向かう人々が乗っている。
制服姿の女子生徒。
関係者と思われる大人たち。
誰もが、普段どおりの朝を過ごしていた。
朔だけが、少し落ち着かない。
《まもなく、目的地へ到着します》
「……分かってる」
小さな声で答え、端末の画面を閉じた。
窓の外では、海面に朝日が反射している。
その向こうに見える学園は、思った以上に大きかった。
高層の校舎。
訓練施設。
居住区画。
そして、島全体を囲むように配置された警備設備。
「……学校っていうより、要塞だな」
朔は呟いた。
周囲の生徒たちは、その景色を見ても特に反応しない。
毎日通っているのなら、当然だろう。
だが、朔にとっては違った。
これまで足を踏み入れた施設の中でも、特に厳重な場所の一つだ。
もっとも、内部の警備がどれほど整っていようと、絶対に安全な場所など存在しない。
それは、嫌というほど知っている。
モノレールが速度を落とした。
車内放送が流れる。
間もなく、IS学園側の駅に到着する。
朔は鞄を持ち、立ち上がった。
◇
学園側の駅では、すでに担当職員が待っていた。
「雨宮朔君ですね」
「はい」
「お待ちしていました。こちらへどうぞ」
本人確認を終えると、朔は案内に従って歩き始めた。
一般の通行区域から、許可を受けた来訪者だけが通れる区画へ進む。
途中、機体の携行状態について確認が行われた。
朔は指示に従い、待機状態を維持していることを伝える。
それ以上の操作は求められなかった。
「……これで大丈夫ですか?」
「はい。機体に関する詳しい確認は、後ほど担当者から説明があります」
「分かりました」
通路の先には、学園の校舎が見える。
そこへ向かう女子生徒たちが、遠くを歩いていた。
そのうちの何人かが、朔に気づいて足を止める。
「……え?」
「男の子?」
「織斑君じゃないよね?」
小さな声が聞こえた。
朔は聞こえないふりをして、歩き続けた。
ここに男がもう一人いる。
それだけで、十分に目立つらしい。
「……先が思いやられるな」
《周囲からの注目が増えています》
「言われなくても分かる」
小さく答え、端末をしまう。
そのとき、前方から声がした。
「雨宮君」
顔を上げる。
そこには、見覚えのある老人が立っていた。
「轡木さん」
「おはよう。よく来たね」
十蔵は、いつもの穏やかな笑顔を浮かべていた。
「道中、何か問題はなかったかい?」
「大丈夫でした」
「それはよかった。荷物も、それだけかな?」
「はい」
「なら、まずは寮の案内を……と言いたいところだけれど」
十蔵は、少しだけ横へ目を向けた。
「先に、紹介しておきたい人がいるんだ」
朔が視線を動かす。
そこには、二人の人物が立っていた。
一人は、長い黒髪を後ろでまとめた女性。
背筋を伸ばし、厳しい眼差しでこちらを見ている。
もう一人は、制服姿の少年だった。
朔は、その顔に見覚えがあった。
写真や映像で、何度も見たことがある。
「……織斑一夏」
思わず名前が口をついた。
少年が目を丸くする。
「えっ、俺のこと知ってるのか?」
「……まあ、有名だから」
「ああ、そっか」
一夏は少し困ったように笑った。
その隣で、女性が一歩前へ出る。
「雨宮朔だな」
「はい」
「織斑千冬だ。一年一組の担任を務めている」
朔は姿勢を正した。
「よろしくお願いします」
「話は聞いている。右腕の状態についてもな」
「……はい」
「医師の許可が出るまでは、実技で無理をするな。学園内でのIS展開も、許可なく行うことは禁止だ」
「分かっています」
千冬は短く頷いた。
「ならばいい」
それだけ言うと、視線を十蔵へ向けた。
「轡木さん。あとは予定どおりで?」
「ああ。まずは寮へ案内しよう。その後、必要な手続きを済ませる」
「承知しました」
千冬は朔へ向き直った。
「授業への参加は、明日からになる。今日は学園の生活規則を確認しておけ」
「はい」
そこで、一夏が口を開いた。
「なあ、雨宮」
「……何?」
「とりあえず、よろしくな」
一夏は笑って、右手を差し出した。
朔は、その手を見た。
同じ男。
同じようにISを動かせる。
だが、歩いてきた道は、おそらくまったく違う。
この少年は、どんなことを考えているのだろう。
何を知っていて、何を知らないのだろう。
そんな疑問が、一瞬だけ頭をよぎった。
だが、今ここで考えることではない。
朔も右手を差し出そうとして、動きを止めた。
まだ、指先に痺れが残っている。
それに気づいたのか、一夏が慌てて手を引っ込めた。
「あ、ごめん! 腕、怪我してるんだったな」
「……いや、大丈夫」
「無理しなくていいって。握手なんて、いつでもできるし」
朔は少しだけ目を瞬いた。
それから、小さく笑った。
「……そうだな」
「俺、織斑一夏。改めてよろしく」
「雨宮朔。よろしく」
二人は、互いの顔を見た。
世界で唯一だった男性IS操縦者。
そして、今までその存在を知られていなかった、もう一人の男性操縦者。
彼らが初めて言葉を交わした場所は、戦場でも研究施設でもなかった。
六月の朝。
IS学園の校舎前だった。
◇
少し離れた場所で、十蔵は二人の様子を見ていた。
「……どうやら、心配はいらなさそうだね」
隣の千冬が、腕を組んだまま答える。
「一夏は、相手が誰でもああですから」
「それが、あの子のいいところだよ」
「……甘さにもなりますが」
「そうだね」
十蔵は穏やかに笑った。
だが、次の瞬間、その眼差しがわずかに鋭くなる。
「雨宮朔については、まだ分からないことが多い」
「ええ」
「本人の経歴も、機体の出所も不明だ。学園へ入れたからといって、問題が解決したわけではない」
「承知しています」
「しばらくは注意して見ていてくれ」
「そのつもりです」
十蔵は頷いた。
視線の先では、一夏が朔に何かを説明している。
朔は少し困った顔をしながらも、その話を聞いていた。
普通の生徒同士の、何でもない会話。
それがいつまで続くのか。
今は、誰にも分からない。
ただ一つだけ、確かなことがあった。
IS学園に、二人目の男子生徒がやってきた。
そして――。
世界で唯一だった例外は、もう唯一ではなくなった。