十一月も後半に入った。
ベルノの町を取り囲む山々は、すっかり秋の装いを失っていた。
広葉樹はほとんど葉を落とし、灰色の枝が空へ向かって伸びている。林床には茶色く乾いた落ち葉が積もり、時折吹き抜ける風に巻き上げられていた。
朝晩の冷え込みは厳しくなっていたが、まだ雪は降っていない。
冬になれば深い雪に覆われるこの地方も、今はまだ比較的歩きやすい季節だった。
もっとも、軍隊の訓練に限って言えば、それが楽な行軍を意味するわけではなかった。
ベルノ連隊では、十一月後半に毎年恒例の四十八時間行軍が実施されることになっていた。
第1から第4までの全歩兵中隊が参加する大規模な訓練である。
目的地は、ベルノ郊外の山間部に設けられた訓練用駐屯地。
ベルノの町から直線距離ではそれほど遠くない。
しかし、行軍経路は山間部を大きく迂回するように設定されていた。
丘陵地帯を越え、谷沿いを進み、いくつもの坂道を登り下りする。
目的地で一泊し、翌日には別の経路でベルノへ戻る。
重い装備を携行して長距離を移動し、疲労した状態で野営と帰還行軍を行うための訓練だった。
出発を前に、各中隊では装備の点検と行軍経路の説明が行われていた。
兵士たちは小銃、弾薬、食料、水筒、防寒具、野営装備を携行する。
機関銃分隊には、これに機関銃と予備銃身、弾薬箱などが加わる。
安全のため、銃の薬室と弾倉は空にしてある。
しかし、規定の実弾は別に携行していた。
実戦に近い重量の装備を持って歩くことも、訓練の目的の一つだった。
◇
行軍の前日。
夕食時の兵営食堂は、いつも以上に賑わっていた。
兵士たちの話題は、もっぱら明日の行軍についてだった。
どれくらい歩くのか。
山道は険しいのか。
野営地はどんな場所なのか。
毎年参加している古参兵たちは、翌日の準備や天候について話していた。
一方、新兵たちは、まだ経験したことのない長距離行軍に不安を感じている者が多かった。
食堂の隅では、佐々木健、中村拓也、加藤真由、吉田麻衣の四人が食卓を囲んでいた。
四人は別々の中隊に配属されていた。
佐々木は第2歩兵中隊。
中村は第1歩兵中隊。
加藤と吉田は第4歩兵中隊である。
訓練部隊が解散してからも、食事の時間にはこうして集まることが多かった。
四人の前には食べかけの料理が並んでいたが、誰もあまり食事には手をつけていなかった。
「……で、どうするんだよ」
中村が声を落として尋ねた。
佐々木は周囲を見渡した。
「決まってんだろ。この前の話だよ」
加藤が身を乗り出した。
「本当にやるの?」
「ああ。いい機会じゃねえか」
佐々木は少し笑った。
「明日の行軍だよ」
中村が頷いた。
「そういや、行き先の地図が貼ってあったな」
「ああ。ベルノから山の方へ大きく遠回りするらしいけどよ」
佐々木はスプーンを置いた。
「目的地そのものは、町からそんなに離れてねえんだよ」
「そうなの?」
加藤が尋ねた。
「地図じゃ、そうなってた」
佐々木は答えた。
「わざわざ山の中を遠回りして歩かせるんだとよ。馬鹿みてえな訓練だろ」
「ほんと、意味わかんない」
加藤は顔をしかめた。
「それに、向こうには兵舎もないんでしょ?」
「ああ。野営だってさ」
中村が答えた。
「最悪。こんな寒いのに外で寝ろって?」
加藤は露骨に嫌そうな顔をした。
佐々木は、そんな二人を見ながら声を落とした。
「だから、ちょうどいいんだよ」
吉田が顔を上げた。
「……どういうこと?」
「今回、歩兵中隊が全部参加するんだろ?」
「ああ」
中村が頷いた。
「七百人以上いるんだっけ?」
「そうだよ。こんだけの人数で行くんだ」
佐々木は少し得意そうな顔をした。
「俺たち四人くらい抜けたって、そう気にしねえだろ」
中村が笑った。
「確かにな。あれだけ人数がいたら、誰がどこにいるかなんてわかんねえよな」
「だろ?」
「中隊だって別々なんだし、いちいち確認してらんねえだろ」
佐々木は頷いた。
四人は行軍計画について説明を受けていた。
訓練用駐屯地の位置も、地図で確認している。
ただし、行軍中の兵士の所在確認がどのように行われるのか、その重大さまでは考えていなかった。
「でも……」
吉田が不安そうに口を開いた。
「本当に大丈夫なのかな」
「何がだよ」
「だって、見つかったら怒られるでしょ?」
佐々木は鼻で笑った。
「見つからなきゃいいんだよ」
「そうだけど……」
「それに、あの軍曹からも離れられるんだぜ」
佐々木は不機嫌そうに続けた。
「もう、ナゲフの顔なんか見たくもねえよ」
中村も頷いた。
「俺もこんな生活、もう嫌だわ」
「私だって嫌よ」
加藤が言った。
「訓練ばっかりだし、自由もないし。こんなの、いつまで続けるつもりなのよ」
そして、吉田へ顔を向けた。
「麻衣だって嫌でしょ?」
「……うん」
吉田は小さく頷いた。
「嫌だけど……」
「だったら、一緒じゃん」
加藤はそう言った。
吉田はしばらく黙っていた。
軍隊から逃げることが、簡単な話ではないことはわかっていた。
しかし、佐々木と中村は自信ありげだった。
加藤もすっかり乗り気になっている。
自分だけ反対しても、三人は考えを変えないような気がした。
「……まあ、そうだね」
吉田は曖昧に笑った。
「これだけ人数がいるなら、そんなにすぐには気づかれないかもしれないし」
「だろ?」
佐々木は満足そうに頷いた。
「そういうことだよ」
中村も笑った。
「じゃあ、決まりだな」
四人は顔を見合わせた。
誰も、自分たちが何をしようとしているのか、深く考えようとはしなかった。
軍隊を抜け出せば、今より自由になれる。
ひとまず、嫌な生活から離れられる。
そんな漠然とした期待だけが、四人の間に広がっていた。
食堂のほかの席では、兵士たちが翌日の行軍について賑やかに話している。
佐々木たちも、傍目には普通に食事をしている日本人新兵にしか見えなかった。
◇
翌朝。
ベルノ連隊の練兵場には、四個歩兵中隊の兵士たちが集結していた。
七百名を超える兵士が、完全装備で整列している。
灰色の軍服と背嚢が、練兵場を埋め尽くしていた。
朝の空気は冷たく、兵士たちの吐く息が白い。
周囲では下士官たちが忙しく動き回り、装備と人員の最終確認を行っていた。
第3歩兵中隊の石井分隊も、出発準備を終えようとしていた。
「……よし。これで何とかなりそうだな」
石井琉人軍曹は、分隊員たちの装備を確認しながら頷いた。
今日は四人の分隊員に加え、もう一人、現地出身の一等兵が同行していた。
同じ小隊の歩兵分隊から借り受けた応援要員である。
石井分隊は定員五名に対し、実員四名しかいない。
欠けているのは弾薬運搬員だった。
普段の射撃訓練では石井自身がリースと弾薬箱を運んでいたが、長距離行軍では負担が大きい。
そこで事前に小隊長へ相談し、今回の行軍に限って一名を回してもらったのである。
「今日はよろしく頼む」
石井が応援の一等兵に声をかけた。
「はっ。よろしくお願いします」
「弾薬箱はリースと分担してくれ。途中で負担が大きいようなら調整する」
「了解しました」
石井は頷き、機関銃を確認しているロイへ顔を向けた。
「ロイ、そっちはどうだ?」
「問題ありません。いつでも出発できます」
ロイ兵長はエルフの機関銃射手だった。
その隣では、サク二等兵が予備銃身や補助装備を確認していた。
「サク、準備はできたか?」
「できたっす!」
いつもの元気な返事だった。
黒髪に褐色の肌、百六十五センチほどの細身の身体。
背中に大きな背嚢を背負った姿は、いかにも重そうだった。
「……おまえ、随分と重そうだな」
石井が笑った。
「大丈夫っす!」
「本当か?」
「訓練部隊でも行軍はやったっす!」
リースが横から口を挟んだ。
「でも、今度は四十八時間だぞ」
「知ってるっす!」
「明日も歩くんだからな」
「頑張るっす!」
ロイが苦笑した。
「元気なのはいいが、最初から飛ばすなよ」
「了解っす!」
石井は満足そうに頷いた。
新兵が配属されてから半月ほど。
サクは機銃助手として少しずつ仕事を覚え、ロイとの連係も良くなってきていた。
何より、明るく素直だった。
ロイもリースもすっかり気に入り、よく面倒を見ている。
石井自身も、いい新兵が来たと安心していた。
「よし。全員、隊列につけ!」
「了解!」
「はいっす!」
五人は指定された位置へ向かった。
◇
やがて、出発の号令が響いた。
先頭の第1歩兵中隊が動き始める。
続いて第2歩兵中隊、第3歩兵中隊、第4歩兵中隊が、それぞれ定められた間隔を取りながら出発した。
長い隊列が練兵場を抜け、ベルノの市街地へと進んでいく。
まだ朝早い時間だったが、通りには店を開ける準備をしている商人や、荷馬車を引く住民たちの姿があった。
兵士たちの軍靴が石畳を踏む音が、町の建物に反響する。
大勢の兵士が一斉に移動する光景に、通りの脇で足を止め、隊列を眺める者もいた。
やがて市街地を抜けると、周囲には畑や牧草地が広がり始めた。
遠くにはエルディア湖の青い水面が見える。
その向こうに、低い山々が連なっていた。
舗装された道が終わり、踏み固められた土の道へ変わる。
緩やかな登り坂に差しかかる頃には、町の建物も次第に小さくなっていた。
道の両側には落葉した広葉樹が立ち並んでいる。
枝の間を遮る葉がないため、林の中は思いのほか明るかった。
夏であれば緑の葉に覆われている斜面も、今は茶色い落ち葉と灰色の幹が目立つ。
木々の隙間からは、遠くの丘陵やベルノの町がよく見えた。
兵士たちの長い隊列は、そんな山道をゆっくりと登っていった。
最初のうちは、新兵たちにも余裕があった。
周囲の景色を眺めたり、隣の兵士と小声で話したりする者もいる。
しかし、一時間、二時間と歩き続けるうちに、次第に会話は減っていった。
背嚢が肩へ食い込む。
小銃を持つ腕が重くなる。
登り坂では息が上がり、下り坂では膝に負担がかかる。
しかも、隊列の間隔を維持しなければならない。
自分の都合で立ち止まることはできなかった。
時折、下士官の号令が響く。
隊列の間隔を詰めるよう指示する声。
歩調を整える声。
休憩場所へ誘導する声。
それらが長い隊列の前後から聞こえてきた。
◇
第1歩兵中隊の隊列では、井上翔太二等兵が黙々と歩いていた。
肩に食い込む背嚢を少し持ち直す。
訓練部隊でも行軍は経験していたが、今回は携行する装備が多かった。
しかも、行軍は明日まで続く。
井上は前を歩く兵士の背中を眺めながら、隊列全体の動きを観察していた。
一定の間隔を保って進む兵士たち。
坂道で少しずつ詰まっていく隊列。
下士官が適宜指示を出し、その間隔を修正している。
日本では軍事関係の本を読むことが好きだった。
戦史や兵器の資料も、随分と調べたつもりだった。
しかし、実際に完全装備で山道を歩いてみると、本で読むのとはまるで違った。
歩兵が装備を持って移動する。
文字にすれば、たったそれだけのことだ。
だが、実際には一歩ごとに足へ負担がかかり、時間が経つほど装備の重さが身体に響いてくる。
……なるほどな。行軍訓練って、こういうことか。
井上は小さく息を吐いた。
頭では理解していたつもりだったが、身体で経験すると印象が変わる。
まして、戦場ではこれに敵の砲撃や銃撃が加わるのだ。
資料で読んだ歩兵部隊の苦労が、少しだけ理解できた気がした。
井上は前方へ目を向けた。
まだ山道は続いている。
……とりあえず、今日の行軍を最後まで歩かないとな。
彼は背嚢を背負い直し、歩調を合わせた。
◇
第3歩兵中隊では、伊藤千尋が黙々と歩いていた。
委員長と呼ばれていた日本での学校生活は、もう随分と昔のことのように感じられた。
周囲にいるのは、軍服を着た兵士たちばかりだった。
同じ第20期の日本人もいるが、現地出身の兵士の方が多い。
誰もが自分の荷物を背負い、決められた隊列で歩いている。
千尋は時折、周囲の景色へ目を向けた。
葉を落とした木々の向こうに、ベルノの町がよく見えた。
湖のほとりに広がる町並み。
そこから伸びる街道。
周囲を取り囲む低い山々。
遠くから眺めると、静かで穏やかな土地に見えた。
……きれいなところなんだけどな。
千尋はそう思った。
姉の和江は、自分より早くこの世界に召喚されている。
そのことを知ったときには、本当に驚いた。
姉は第3歩兵中隊の上等兵だったが、今は妊娠のため軍務を離れている。
自分も同じ第3歩兵中隊に配属されたことには、不思議な縁を感じていた。
……和江姉さんも、こういう行軍をやってきたのかな。
千尋は背嚢の重さを感じながら、そんなことを考えた。
姉は自分より何年も先に召喚され、この世界での生活を続けている。
今、自分が歩いている道も、以前に姉が歩いたことがあるのかもしれない。
そう思うと、少しだけ気持ちが軽くなった。
周囲の現地兵たちは、慣れた様子で山道を歩いている。
千尋は前方の隊列を見た。
まだ覚えることは多い。
それでも、少しずつやっていくしかない。
……まずは、この行軍を頑張らないとね。
彼女は歩幅を整え、前を歩く兵士に続いた。
◇
昼前になると、部隊は山道の途中で大きな休憩を取った。
各中隊は割り当てられた場所で隊列を止め、分隊ごとに装備を下ろした。
兵士たちが地面に腰を下ろす。
背嚢を置くと、あちこちから安堵の声が上がった。
古参兵たちは手慣れた様子で靴紐を締め直し、水筒の残量を確認している。
新兵たちは、ただ地面に座り込むだけでも嬉しそうだった。
石井分隊でも、五人が装備を下ろしていた。
「……ふう」
サクが大きく息を吐いた。
ロイが笑った。
「どうした。疲れたか?」
「少し疲れたっす!」
「少しか?」
「……結構疲れたっす!」
サクは正直に答えた。
石井とリースが笑った。
「そうだろうな」
石井は水筒を取り出した。
「足は大丈夫か?」
「大丈夫っす!」
「靴擦れは?」
「まだないっす!」
「よし。だが、違和感があったら早めに言えよ」
「了解っす!」
石井は頷いた。
行軍では、無理をした新兵が途中で歩けなくなることもある。
特に足の状態には注意が必要だった。
ロイもサクへ声をかけた。
「水は飲んでおけ。寒いからといって飲まずにいると、後で困るぞ」
「はいっす!」
サクは素直に水筒を口へ運んだ。
その様子を見ていたリースが笑った。
「本当に、言われたことはすぐやるな」
「そうっすか?」
「ああ。いいことだよ」
「ありがとうっす!」
サクは嬉しそうに笑った。
石井は、そんな三人を眺めながら少し安心していた。
応援の一等兵が加わっているとはいえ、機関銃分隊の行軍は楽ではない。
しかし、今のところ大きな問題はなかった。
ロイもリースも、互いの負担をよく考えて動いている。
サクも、その輪の中に自然に馴染んでいた。
……いい分隊になってきたな。
石井は静かに思った。
そのとき、近くから声をかけられた。
「石井軍曹、お疲れさまです」
振り返ると、伊藤千尋が立っていた。
「おう、伊藤か。どうした?」
「いえ、少し休憩していたら軍曹が見えたので」
千尋は笑った。
「行軍、大変ですね」
「そうだな。だが、まだ往路だからな」
「……明日も同じくらい歩くんですよね」
「ああ。むしろ明日の方がきついかもしれんぞ」
千尋は少し困ったように笑った。
「そうですよね……」
そして、ふと思い出したように尋ねた。
「あの、軍曹」
「なんだ?」
「姉も、以前はこの行軍に参加していたんでしょうか?」
「和江か?」
「はい」
石井は頷いた。
「ああ。以前は参加していたぞ。同じ第3中隊だったからな」
「そうなんですね」
千尋は嬉しそうに笑った。
「姉も同じように歩いていたんだと思うと、何だか不思議です」
「そうだな」
石井は少し笑った。
「和江も最初から何でもできたわけじゃない。今のおまえと同じように、一つずつ覚えていったんだ」
「……はい」
「焦らずやればいい。無理だけはするなよ」
「ありがとうございます」
千尋は敬礼した。
「それでは、失礼します」
「おう。頑張れよ」
「はい!」
千尋は自分の分隊の方へ戻っていった。
その後ろ姿を見送りながら、石井は小さく頷いた。
「……あいつも、しっかりしてるな」
リースが顔を上げた。
「伊藤さんですか?」
「ああ。和江の妹だ」
「そうなんですね」
「姉妹揃って真面目だよ」
石井は笑った。
その横で、サクが不思議そうな顔をしていた。
「軍曹殿、あの人も勇者なんすか?」
「ああ。おまえと同じ時期に訓練部隊にいた日本人だろ?」
「はいっす! でも、あんまり話したことなかったっす!」
「そうか。まあ、同じ中隊なんだ。そのうち話す機会もあるだろう」
「了解っす!」
サクは元気よく頷いた。
◇
第4歩兵中隊の山田直樹二等兵も、山道を歩き続けていた。
足元には、乾いた落ち葉が積もっている。
軍靴で踏みつけるたびに、かさかさと音がした。
周囲は広葉樹の林だった。
枝だけになった木々の向こうに、青い空が広がっている。
山田はそんな景色を眺めながら、小さくため息をついた。
……こうして見ると、本当に異世界なんだよな。
日本では見たことのない植物もある。
遠くに見える町並みも、日本のものとは違っていた。
エルフや獣人が当たり前のように暮らす世界。
アニメや漫画の中でしか知らなかったような場所に、自分は実際に来ている。
それなのに。
……なんで俺、こんな重い荷物を背負って山道を歩いてるんだろ。
山田は少しだけ空を見上げた。
異世界に召喚された高校生。
物語なら、何か特別な力を授けられたり、冒険に出たりするところだ。
ところが現実は、朝から晩まで軍隊の訓練である。
魔法はない。
便利な道具もない。
あるのは小銃と機関銃、そして重い背嚢だった。
……せめて、もう少し楽な異世界がよかったなあ。
山田は心の中でぼやいた。
しかし、周囲の兵士たちは誰も文句を言わずに歩いている。
中には自分よりずっと年上の兵士もいた。
その姿を見ると、声に出して愚痴を言うのも少し気が引けた。
……井上の奴、こういうのも楽しんでるんだろうな。
別の中隊にいる親友の顔を思い浮かべる。
きっと今頃、軍隊の行軍について何か考えているに違いない。
山田は苦笑した。
そして、再び足元に目を向けた。
……帰ったら、まずゆっくり寝たい。
今のところ、それが一番の願いだった。
◇
午後になると、行軍はさらに厳しくなった。
道は山の斜面を縫うように続き、何度も登り下りを繰り返した。
南向きの斜面では日差しが暖かく感じられたが、谷へ入ると急に空気が冷たくなった。
日陰の地面には朝の霜が残り、湿った落ち葉が滑りやすくなっている場所もあった。
兵士たちは足元に注意しながら進んだ。
山の上部へ出ると、視界が大きく開けた。
木々はすっかり葉を落としている。
そのため、山の斜面越しにベルノの町がはっきりと見えた。
青い湖面。
湖畔に広がる町並み。
その周囲を取り囲む畑や街道。
遠くから見ると、町はまだ随分と近いところにあるように感じられた。
しかし、兵士たちは朝から何時間も歩き続けていた。
訓練のために大きく遠回りしているのである。
第3歩兵中隊の隊列でも、何人かの新兵が町の方を眺めていた。
「……あれ、ベルノっすよね?」
サクが尋ねた。
「ああ、そうだ」
ロイが答えた。
「まだあんなに近いんすか?」
「山道を遠回りしているからな」
「……そうなんすね」
サクは少し残念そうな顔をした。
リースが笑った。
「真っすぐ行ければ、もっと早いんだろうけどな」
「それじゃ訓練にならんだろ」
石井が答えた。
リースは苦笑した。
「まあ、そうですね」
石井は周囲の山々を見渡した。
葉を落とした林の向こうには、いくつもの尾根が重なっている。
冬になれば、この辺りも雪に覆われる。
今はまだ歩きやすいが、冬季の行軍となれば、さらに厳しいものになるだろう。
「サク、まだ歩けるか?」
「もちろんっす!」
サクは元気よく答えた。
しかし、その声にも少し疲労が混じっていた。
石井は小さく笑った。
「よし。無理だけはするなよ」
「了解っす!」
◇
第2歩兵中隊では、佐々木健が不機嫌そうな顔で歩いていた。
朝から続く行軍に、すっかり嫌気が差していた。
肩は痛い。
足も重い。
しかも、目の前にはまだ山道が続いている。
「……くそったれ」
小さく悪態をついた。
そのとき、前方からナゲフ軍曹の声が飛んできた。
「佐々木! 隊列から遅れるな!」
佐々木は顔をしかめた。
前の兵士との間隔が開いていた。
「佐々木! 聞こえているのか!」
再び注意される。
「……わかってるよ」
佐々木は日本語で呟いた。
ナゲフには何を言っているのかわからなかったが、歩調を改めようとしない様子は見えていた。
「返事はどうした!」
佐々木は渋々、覚えた帝国語で答えた。
「……了解しました」
「声が小さい!」
「了解しました!」
ナゲフはようやく前方へ戻っていった。
佐々木は、その背中を睨みつけた。
「……今に見てろよ」
低い声で呟いた。
それから、視線を山の向こうへ向けた。
葉を落とした木々の間から、ベルノの町がよく見えている。
あれだけ長い時間を歩いてきたというのに、町はまだ近くにあるようだった。
佐々木はしばらくその景色を眺めていた。
そして、口元にわずかな笑みを浮かべた。
前の兵士との間隔を詰めるように、歩調を速める。
その様子を、少し後ろから岡田修平が見ていた。
佐々木がまた何か悪態をついたことには気づいていた。
しかし、いつものことだった。
岡田はそれ以上気にせず、前を向いた。
◇
日が西へ傾き始めた頃、先頭の中隊が目的地へ到着した。
山間部の開けた場所に、広い平地が整備されていた。
そこが、ベルノ連隊の訓練用駐屯地だった。
駐屯地と呼ばれてはいるものの、兵舎があるわけではない。
簡単な事務所と、資材を保管する小さな建物があるだけだった。
その周囲には、野営に使うための平地が広がっている。
地面はある程度ならされ、排水溝も設けられていた。
各部隊が天幕を張る区域も、あらかじめ区分されている。
山間部に位置しているため、周囲には広葉樹の林が広がっていた。
今はほとんど葉が落ち、木々の向こうに低い山の稜線が見えていた。
普段はほとんど人のいない施設だったが、今日は四個歩兵中隊の兵士たちが次々と到着してくる。
広い平地も、たちまち軍服姿の兵士たちで埋まっていった。
各中隊は割り当てられた区域へ移動し、野営の準備を始めた。
地面に背嚢を下ろす音。
天幕を広げる音。
下士官たちの号令。
静かだった山間部が、たちまち慌ただしくなった。
「……着いたっす!」
サクが嬉しそうに声を上げた。
ロイが笑った。
「まだ終わりじゃないぞ」
「えっ?」
「これから野営の準備だ」
「……あっ、そうだったっす」
サクは少し肩を落とした。
リースが笑った。
「ここには兵舎がないからな」
「そうっすよね……」
石井が声をかけた。
「よし。分隊の野営位置を確認するぞ!」
「了解!」
「はいっす!」
五人は割り当てられた区域へ向かった。
天幕を広げ、地面を確認する。
十一月の山間部は冷え込むため、地面からの冷気を防ぐ準備も必要だった。
ロイがサクへ指示を出し、リースと応援の一等兵が反対側で作業を進める。
石井は全体の様子を見ながら、手の足りないところを手伝っていた。
やがて天幕の準備が整った。
「……なかなかいい感じっすね!」
サクが満足そうに言った。
「そうだな」
ロイも頷いた。
「ただ、夜は冷えるぞ。防寒具はきちんと準備しておけ」
「了解っす!」
石井は時計を確認した。
「装備の点検が終わったら、少し休んでいいぞ」
リースが笑った。
「ようやく休めますね」
「ああ。明日も長いからな」
サクが元気よく手を上げた。
「自分、まだ元気っす!」
「そうか」
石井は笑った。
「なら、明日の朝もその元気を見せてくれ」
「任せてほしいっす!」
その声に、ロイとリースも笑った。
◇
夕暮れになると、山の空気は急速に冷たくなった。
西の空が赤く染まり、葉を落とした木々の枝が黒い影となって浮かび上がる。
野営地では炊事の準備が進み、温かい食事の匂いが漂い始めていた。
兵士たちは分隊ごとに夕食を取り、一日の疲れを癒やしていた。
朝から歩き続けた新兵たちの多くは、食事を終えると早々に休みたがった。
一方、古参兵たちは装備を点検し、翌日の準備を整えている。
帰還行軍では、今日の疲労が残ったまま再び山道を歩かなければならない。
経験のある兵士たちは、それをよく理解していた。
日が沈むと、周囲の山々は暗闇に包まれた。
空には星が見え始めている。
野営地には必要な灯りだけが残され、各中隊の兵士たちは順次休息に入る準備をしていた。
その前に、夜の点呼が行われた。
「各分隊、点呼準備!」
号令が響く。
兵士たちが整列し、下士官が一人ずつ人員を確認していく。
第2歩兵中隊でも、ナゲフ軍曹が名簿を手に点呼を取っていた。
「岡田!」
「はっ!」
「佐々木!」
「……はい!」
佐々木が返事をした。
ナゲフは名簿を確認し、次の兵士の名前を呼んだ。
ほかの中隊でも、同じように点呼が進められていた。
第1歩兵中隊の中村拓也。
第4歩兵中隊の加藤真由と吉田麻衣。
三人とも、それぞれの分隊で点呼を受けていた。
各分隊から小隊へ。
小隊から中隊へ。
順番に人員の確認結果が報告されていく。
その夜の点呼では、全員の所在が確認された。
異常はなかった。
兵士たちは翌朝の予定を伝えられ、休息に入った。
疲労のため、ほとんどの新兵は寝具に潜り込むとすぐに眠ってしまった。
野営地も、次第に静かになっていった。
風が木々の枝を揺らす音。
遠くで聞こえる夜鳥の鳴き声。
時折、巡回する兵士の足音が聞こえる。
それ以外に、特に変わった様子はなかった。
少なくとも、翌朝の点呼が始まるまでは。
◇
翌朝。
山の稜線が白み始めた頃、野営地に起床の号令が響いた。
「起床! 全員、集合準備!」
兵士たちが次々と天幕から出てきた。
朝の空気は冷たかった。
地面には薄く霜が降り、吐く息が白い。
空はよく晴れていた。
葉を落とした木々の向こうには、次第に明るくなっていく山々の姿が見える。
昨日の行軍の疲れが残っているのか、新兵たちの動きは鈍かった。
石井分隊でも、サクが眠そうな顔で天幕から出てきた。
「……足が痛いっす」
ロイが笑った。
「昨日はあんなに元気だったのにな」
「元気はあるっす! でも足が痛いっす!」
「そうか。それなら今日は少し静かになりそうだな」
「それは無理っす!」
リースが思わず笑った。
石井も笑いながら時計を確認した。
「よし。朝の点呼だ。全員、集合!」
「了解!」
「はいっす!」
五人は所定の位置へ向かった。
◇
第2歩兵中隊でも、朝の点呼が始まっていた。
ナゲフ軍曹は名簿を手に、分隊員の名前を読み上げていた。
「岡田!」
「はっ!」
「佐々木!」
返事がなかった。
ナゲフは顔を上げた。
「佐々木!」
もう一度呼んだ。
しかし、やはり返事はない。
「……岡田。佐々木はどこだ?」
岡田は周囲を見渡した。
「……わかりません」
「昨夜の点呼にはいたな?」
「はい。間違いありません」
「天幕を確認してこい」
「はっ!」
岡田は急いで戻った。
しかし、佐々木の寝場所は空だった。
寝具は残っている。
だが、背嚢がない。
小銃も見当たらなかった。
「……あれ?」
岡田は周囲を確認した。
便所へ行ったのだろうか。
しかし、それなら小銃と背嚢まで持っていく必要はない。
岡田は慌ててナゲフのもとへ戻った。
「軍曹殿!」
「どうした?」
「佐々木の姿がありません!」
「何?」
「小銃と背嚢もなくなっています!」
ナゲフの表情が変わった。
「周囲を確認しろ! ほかの兵士にも聞け!」
「はっ!」
近くにいた兵士たちも、佐々木の所在を確認し始めた。
しかし、見つからなかった。
それから間もなく、第1歩兵中隊からも同じような報告が上がった。
中村拓也が、朝の点呼に現れなかったのである。
さらに第4歩兵中隊でも、二名の所在が確認できなくなっていた。
加藤真由。
吉田麻衣。
二人とも野営場所におらず、小銃と背嚢もなくなっていた。
それぞれの分隊では、最初は単なる所在不明として確認を進めていた。
しかし、第1、第2、第4歩兵中隊から相次いで報告が上がり、四人が同時に姿を消したことが判明すると、状況は一変した。
◇
訓練用駐屯地の小さな事務所には、各中隊からの報告が集められていた。
「所在不明者、四名です」
「四名?」
報告を受けた将校が顔を上げた。
「はい。全員、第20期の日本人新兵です」
「名前は?」
「第1歩兵中隊、中村拓也。第2歩兵中隊、佐々木健。第4歩兵中隊、加藤真由、吉田麻衣です」
「昨夜の点呼では?」
「全員確認されております」
将校は眉をひそめた。
「……では、夜の点呼以降に姿を消したということか」
「その可能性が高いと思われます」
「武器は?」
「四名とも小銃と装備を持ち出していると考えられます。規定の実弾も携行している可能性があります」
将校は黙った。
今回の訓練では、銃に弾薬を装填していない。
しかし、各兵士には実弾が支給されている。
武器と弾薬を持った兵士が四名、所在不明になっているのである。
「……四人が同時にか」
将校は机の上の地図を見た。
訓練用駐屯地は山間部にある。
だが、ベルノの町から直線距離ではそれほど離れていない。
昨日の行軍は、訓練のために山道を大きく迂回していたのである。
もし四人が昨夜のうちに姿を消したのであれば、すでにかなりの距離を移動している可能性があった。
「四人は互いに知り合いなのか?」
「はい。日本にいた頃から一緒に行動していた者たちだそうです」
将校はしばらく考えた。
「……偶然とは考えにくいな」
そして、部下へ命じた。
「各中隊長を集めろ」
「はっ!」
「それから、全中隊に人員と武器の再確認を命じろ。各部隊は別命あるまで待機だ」
「了解しました!」
伝令が事務所を飛び出していった。
◇
野営地に、再点呼の号令が響いた。
「全員、集合!」
「人員を確認しろ!」
「武器の所在も確認だ!」
兵士たちが慌ただしく動き始めた。
先ほどまで朝食や帰還準備を進めていた兵士たちも、再び整列することになった。
事情を知らない新兵たちは、不思議そうに顔を見合わせている。
しかし、古参兵たちは表情を引き締めていた。
全歩兵中隊に再点呼が命じられるなど、普通のことではなかった。
第3歩兵中隊でも、石井分隊が集合していた。
「……何かあったんですか?」
リースが尋ねた。
「まだ詳しいことはわからん」
石井は答えた。
「とにかく、全員揃っているか確認するぞ」
石井は一人ずつ名前を呼んだ。
「ロイ!」
「はい!」
「リース!」
「はい!」
「サク!」
「はいっす!」
応援に来ている一等兵の姿も確認する。
「……よし。全員いるな」
ロイが尋ねた。
「軍曹、何か問題でも?」
「どうも新兵が数名、いなくなったらしい」
リースが顔を上げた。
「いなくなった?」
「ああ。小銃も持ったままだそうだ」
ロイの表情が険しくなった。
「……脱走ですか?」
「まだ断定はできん。だが、その可能性は高いな」
サクは不思議そうな顔をした。
「軍曹殿、軍隊から逃げたってことっすか?」
「……そういうことだな」
石井は頷いた。
「とにかく、命令があるまで勝手に動くなよ」
「了解!」
「はいっす!」
石井は周囲を見渡した。
つい先ほどまで、帰還行軍の準備をしていた兵士たち。
しかし今は、どの中隊でも人員の確認が行われ、将校や下士官が慌ただしく動き回っている。
何が起きたのか、詳しいことはまだわからない。
それでも、石井には事態の深刻さが理解できた。
武器を持った兵士が四名、無断で姿を消したのである。
しかも、昨夜の点呼以降、いつ出発したのかわからない。
石井は遠くの山々へ目を向けた。
落葉した林の向こうには、ベルノの町がある。
町までの距離は、決して遠くない。
……厄介なことになったな。
石井は小さく息を吐いた。
◇
第2歩兵中隊では、ナゲフ軍曹が険しい表情で立っていた。
再点呼でも、佐々木は戻ってこなかった。
第1中隊の中村、第4中隊の加藤と吉田も見つかっていない。
四人が日本にいた頃から親しい仲間だったことも、確認された。
「岡田」
ナゲフが声をかけた。
「はっ!」
「佐々木たちは、以前から親しかったのか?」
「……はい」
岡田は答えた。
「日本にいた頃から、いつも一緒に行動していました」
「そうか」
ナゲフは腕を組んだ。
「最近、何か変わった様子はなかったか?」
岡田は少し考えた。
「……軍隊生活に不満を持っていたようです」
「それは知っている」
ナゲフは短く答えた。
「ほかには?」
岡田は昨日の行軍を思い出した。
ナゲフ軍曹から注意された佐々木が、何かを呟いていた。
いつもの悪態だと思っていた。
しかし、今になってみると気になる言葉だった。
「……軍曹殿」
「なんだ?」
「昨日、佐々木が少し気になることを言っていました」
「何と言った?」
「日本語で、『今に見てろ』と……」
ナゲフは眉をひそめた。
「どういう意味だ?」
「……そのうち仕返しをしてやる、というような意味です」
ナゲフは黙った。
「ただ、佐々木は普段からああいうことを言っていましたので、自分も特に気にしていませんでした」
岡田は申し訳なさそうに続けた。
「まさか、本当にこんなことになるとは……」
「……そうか」
ナゲフは静かに息を吐いた。
佐々木の反抗的な態度については、これまでも何度か注意していた。
先日の宿舎での暴行事件も、本来なら正式な軍紀違反として処分するところだった。
しかし、まだ配属されたばかりの新兵であることを考慮して、その場で収めていた。
軍隊生活に慣れれば、いずれ落ち着くかもしれない。
そう考えていたのである。
だが、今度は武器を持って姿を消した。
しかも四人である。
「……厄介なことになったな」
ナゲフは低い声で呟いた。
岡田は何も答えられなかった。
佐々木が軍隊生活に不満を持っていることは知っていた。
ナゲフ軍曹を嫌っていることも、よくわかっていた。
しかし、まさか本当に逃げ出すとは思っていなかった。
……佐々木君、何を考えてるんだよ。
岡田は遠くの山々を見た。
葉を落とした木々の向こうには、朝日に照らされたベルノの町が見えていた。
◇
朝の訓練用駐屯地には、緊張した空気が広がっていた。
行方不明者は四名。
いずれも第20期の日本人新兵。
そして、四名とも小銃と弾薬を携行している可能性が高かった。
前夜の点呼では全員が揃っていた。
しかし、朝になってみると、四人とも姿を消していたのである。
いつ出発したのか。
どの方向へ向かったのか。
何を目的としているのか。
まだ何もわからなかった。
訓練用駐屯地からベルノの町までは、直線距離では近い。
昨日、兵士たちは遠回りする行軍経路を歩きながら、何度も町の姿を眺めていた。
葉を落とした広葉樹の林は見通しがよく、山の斜面からでも町並みがはっきりと見えた。
だが、その町へ向かう道を四人が選んだのかどうかは、誰にもわからなかった。
各中隊長は事務所に集められ、人員と武器の確認が続けられていた。
兵士たちの間にも、次第に事情が伝わり始めていた。
「……脱走したらしいぞ」
「四人も?」
「しかも、武器を持ったままだって」
小声の会話が、あちこちで交わされていた。
昨日までは、毎年恒例の四十八時間行軍にすぎなかった。
予定どおりなら、今日のうちにベルノへ戻り、訓練を終えるはずだった。
だが、その予定は大きく変わろうとしていた。
佐々木グループ四名の武装脱走。
その疑いが、全歩兵中隊の将兵たちに重くのしかかっていた。
十一月の冷たい朝。
空はよく晴れ、山々には穏やかな日差しが降り注いでいた。
冬の雪が降り始めるには、まだ少し早い。
落葉した林の向こうには、今日もベルノの町がよく見えていた。
その穏やかな景色とは裏腹に、野営地では将校たちの慌ただしい足音が響き続けていた。