翌朝、高橋とエレナがホテルの一階に降りると、オリヴィエ大佐とアウレリア大尉はすでに待っていた。
ロビーに隣接した食堂には、朝食を取る宿泊客の姿があった。
白いテーブルクロスが掛けられた卓上には、焼きたてのパンや卵料理、果物などが並んでいる。
「おはようございます」
エレナが声をかけると、オリヴィエが顔を上げた。
「あら、おはよう。二人とも、よく眠れた?」
「はい。おかげさまで」
「僕も、ぐっすり眠れました」
高橋が答えると、オリヴィエは満足そうに笑った。
「それはよかったわ。あんな戦場から帰ってきたんだもの。しっかり休まないとね」
「おはようございます、エレナ、亘一」
アウレリアも微笑んだ。
「おはようございます、アウレリア大尉」
高橋は挨拶を返しながら、アウレリアの足元に目を向けた。
椅子の横に、大きな革鞄が置かれていた。
昨日は持っていなかったものだ。
アウレリアが鞄を少し動かそうとすると、思った以上に重いらしく、両手で持ち上げていた。
「アウレリア大尉、その鞄、重そうですね」
「ええ。少し重いですね」
アウレリアは苦笑した。
「何が入っているんですか?」
高橋が尋ねると、オリヴィエが答えた。
「勲章よ」
「勲章?」
「ええ。今日は病院にいるベルノ連隊の負傷兵たちに、帝国戦傷章を授与することになっているの」
高橋は思わずアウレリアの鞄を見た。
「あの中に、勲章が入っているんですか?」
「そうよ。昨日、軍団司令部から預かってきたの」
オリヴィエはパンを一切れ取った。
「今回の戦闘で負傷した兵士たちには、帝国戦傷章の授与が認められているの。せっかく私たちがサラミスにいるんだから、入院している子たちには直接渡してあげたいと思ってね」
アウレリアが説明を補った。
「勲章のほかに授与記録も入っています。病院側には、昨日のうちに連絡を済ませてあります」
「そうだったんですね」
高橋はうなずいた。
昨日、自分たちは軍団司令官から勲章を授与された。
だが、同じ戦いで負傷した兵士たちにも、こうして戦功を認める制度があるらしい。
「負傷した兵士には、みんな授与されるんですか?」
「受章資格を満たした兵士にはね。戦闘中に受けた負傷であることなど、記録の確認は必要だけど」
オリヴィエは答えた。
「もちろん、勲章をもらったからといって怪我が治るわけじゃない。でも、国がその兵士の負傷と軍務を正式に認めることには意味があるわ」
その口調は、いつもより少し真面目だった。
「私としては、勲章より元気な身体を返してあげたいところだけどね」
アウレリアも静かにうなずいた。
高橋は、第2中隊の損害報告を思い出していた。
百三十名もの戦死者と行方不明者。
生き残った兵士たちの中にも、重い傷を負った者が大勢いる。
「……そうですね」
高橋は小さく答えた。
エレナが隣から声をかけた。
「亘一、朝食を取りましょう。病院へ行く前に、ちゃんと食べておかないと」
「あ、はい」
高橋は気持ちを切り替えた。
食堂の従業員が、二人の前に温かな料理を運んできた。
焼きたてのパンと卵料理。香ばしいソーセージに、野菜の付け合わせ。
そして、淹れたてのコーヒー。
「おお、コーヒーだ」
高橋が思わず声を漏らした。
「ふふっ。亘一は本当にコーヒーが好きね」
エレナが笑う。
「前線じゃ、なかなか飲めませんでしたから」
「ベルノに帰ったら、ゆっくり飲めるわよ」
「そうですね」
高橋はカップを手に取り、香りを楽しんだ。
昨日の豪華な夕食に続き、今朝も温かな食事が用意されている。
戦場では考えられなかった贅沢だった。
四人は食事を取りながら、その日の予定を確認した。
「病院までは車で向かうわ。面会と授与を終えたら、駅へ行くことになるわね」
オリヴィエが言った。
「浸透偵察小隊が乗っている軍用列車に、サラミス駅から乗車する手配になっております」
アウレリアが続けた。
「列車の停車時刻に合わせて駅へ向かいますので、病院ではあまり長く滞在できません」
「分かりました」
エレナが答えた。
「岡田とリュージュには会えそうですね」
高橋が尋ねた。
「ええ。病院には二人の名前も伝えてあるわ」
オリヴィエは微笑んだ。
「心配でしょうけど、まずは実際に顔を見てきなさい」
「ありがとうございます」
高橋は頭を下げた。
* * *
朝食を終えた四人は、ホテルを出発した。
玄関前には、昨日と同じ軍団司令部の乗用車が待っていた。
アウレリアが革鞄を持ち上げようとすると、高橋が声をかけた。
「あの、僕が持ちましょうか?」
「ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ」
アウレリアは微笑んだ。
「中には大切なものが入っていますから、私が持ちます」
「そうですか」
高橋はうなずいた。
運転兵が荷物を積み込み、四人が乗り込む。
車はゆっくりと走り出した。
朝のサラミスは、すでに活気に満ちていた。
市場へ向かう荷馬車が通りを進み、店先では商人たちが商品を並べている。
学校へ向かう子供たちの姿もあった。
高橋は窓の外を眺めながら、昨日とは少し違う気持ちで街並みを見ていた。
今日は岡田とリュージュに会える。
特にリュージュの生存を知ったことは、大きな喜びだった。
第2中隊が壊滅したと聞いて以来、同期や知り合いの安否が気になっていた。
その中に、生き残った者がいる。
それだけでも、十分に嬉しかった。
やがて車は市街地の一角にある、大きな病院の敷地へと入った。
サラミス陸軍病院。
石造りの本館を中心に、いくつもの病棟が並んでいた。
建物の周囲には、松葉杖をついて歩く兵士や、車椅子に乗った負傷兵の姿が見えた。
看護兵に付き添われて歩行訓練をしている者もいる。
高橋は、その光景を黙って眺めていた。
戦場からは離れていても、ここには戦争の傷跡があった。
* * *
病院の正面玄関では、軍医らしい将校と数名の看護兵が待っていた。
車から降りたオリヴィエに、軍医が敬礼した。
「ベルノ伯爵閣下。お待ちしておりました」
「お忙しいところ、申し訳ないわね」
「いえ。負傷兵たちも、連隊長閣下のお越しを喜ぶと思います」
オリヴィエは小さくうなずいた。
「まずは、戦傷章の授与を済ませたいのだけど」
「はい。対象となる兵士の病室と容体については確認しております。移動できない者もおりますので、病室を順に回っていただく形になります」
「分かったわ。よろしくお願いするわね」
アウレリアが革鞄を持ち直した。
オリヴィエは高橋とエレナに振り返った。
「さて、あなたたちは友人のところに行きなさい」
「よろしいんですか?」
エレナが尋ねた。
「ええ。私たちは戦傷章の授与があるから、しばらく時間がかかるわ。二人はその間に、お見舞いを済ませておくといいわよ」
「ありがとうございます」
高橋が答えた。
「岡田とリュージュの病室は、受付で確認してあるわ。案内してもらえるように頼んでおいたから」
オリヴィエは穏やかに微笑んだ。
「元気な顔を見せてあげなさい」
「はい!」
エレナと高橋は敬礼した。
オリヴィエとアウレリアは軍医の案内で、負傷兵の病棟へと向かっていった。
二人には別の看護兵が付き添った。
「リュージュさんと岡田さんですね」
「はい」
高橋が答えた。
「リュージュさんはこちらの病棟に入院されています。岡田さんは別の病棟になりますので、まずリュージュさんのところへご案内します」
「お願いします」
二人は看護兵の後について廊下を歩き始めた。
病院の中には、消毒薬の匂いが漂っていた。
廊下を行き交う看護兵たちは忙しそうで、時折、担架を運ぶ兵士の姿も見えた。
開け放たれた病室の扉からは、寝台に横たわる負傷兵たちの姿が見える。
包帯を巻いた者。
腕を吊っている者。
動くこともできず、天井を見つめている者。
高橋は思わず目を伏せそうになった。
隣を歩くエレナが、小さく声をかけた。
「亘一」
「はい」
「大丈夫?」
「……はい」
高橋はうなずいた。
エレナはそれ以上何も言わず、一緒に歩いてくれた。
* * *
看護兵が一つの病室の前で立ち止まった。
「こちらです」
扉を軽く叩く。
「リュージュさん。お見舞いの方がいらっしゃいましたよ」
「はーい!」
中から、明るい女性の声が返ってきた。
高橋は思わず顔を上げた。
聞き覚えのある声だった。
看護兵が扉を開ける。
病室には数台の寝台が並んでいた。
窓際の寝台のそばに、金髪の小柄なエルフの女性が立っていた。
リュージュだった。
病院の患者服を着て、片足をかばうように松葉杖をついている。
だが、その表情は明るかった。
「……高橋?」
リュージュが目を丸くした。
「リュージュ!」
高橋は思わず声を上げた。
「高橋じゃない! どうしたの、こんなところに!」
リュージュの顔が、ぱっと明るくなった。
「お見舞いに来たんだよ。昨日、生きてるって聞いて!」
「ええっ、わざわざ?」
「ああ! よかった……本当に生きてたんだな!」
高橋の顔に、久しぶりに明るい笑顔が浮かんだ。
「何よ、それ。勝手に死んだことにしないでよ!」
リュージュが笑う。
「いや、だって、第2中隊があんなことになったって聞いたから……」
高橋が言葉を濁すと、リュージュの笑顔が少しだけ曇った。
「……そうね」
だが、すぐに表情を戻した。
「でも、私はこのとおり。まだ松葉杖が必要だけど、だいぶ歩けるようになったのよ」
そう言って、リュージュは松葉杖を使って数歩移動してみせた。
「ほら!」
「無理するなよ」
「大丈夫、大丈夫!」
リュージュは笑った。
その様子を見て、高橋もようやく安心した。
「元気そうでよかった」
「ふふっ。ありがと」
リュージュはそこで、エレナに気づいた。
「あっ! エレナ伍長!」
「こんにちは、リュージュ。新年以来ね」
エレナが微笑んだ。
「はい! お久しぶりです!」
リュージュは慌てて姿勢を正そうとしたが、松葉杖が邪魔になって少しよろけた。
「あっ」
「ほら、無理しないの」
エレナがすぐに手を添えた。
「ここは病院なんだから、敬礼なんてしなくていいわよ」
「す、すみません」
リュージュは照れくさそうに笑った。
「さあ、座りましょう」
エレナに促され、リュージュは寝台に腰を下ろした。
高橋とエレナも、近くに置かれていた椅子に座る。
「それにしても、二人とも無事だったんですね」
リュージュが言った。
「ええ。私たちの班も大変だったけど、何とか帰ってこられたわ」
エレナが答えた。
「そうですか……よかった」
リュージュはほっとしたように息を吐いた。
「こっちには、いろんな噂が入ってくるんですよ。ベルノ連隊が大変なことになったとか、魔族の戦車がいっぱい来たとか……」
「そうだな。大きな戦闘だったよ」
高橋は静かに答えた。
「リュージュは、その前の砲撃で怪我をしたんだよな?」
「うん。砲弾が近くに落ちてね。脚をやられちゃったの」
リュージュは松葉杖に目を向けた。
「最初はどうなるかと思ったけど、先生が言うには、時間をかければ普通に歩けるようになるだろうって」
「それはよかったな!」
「うん。でも、しばらくは病院暮らし。退屈で仕方ないわ」
リュージュは少し大げさにため息をついた。
その仕草が、訓練所にいた頃とまったく変わっていなくて、高橋は思わず笑ってしまった。
「何よ、高橋。何がおかしいの?」
「いや、リュージュらしいなと思って」
「あら、そう?」
「元気そうで安心したよ」
リュージュは嬉しそうに笑った。
「ふふっ。ありがと」
* * *
しばらく訓練所の頃の話や、ベルノでの生活について話しているうちに、高橋はふと思い出した。
「あ、そうだ。リュージュ、岡田のこと知ってるか?」
「岡田?」
「ああ。第2中隊の岡田修平。俺と同じ第20期の」
「ああ、岡田ね。知ってるわよ」
リュージュはすぐにうなずいた。
「同じ中隊だったし、私が怪我をした時も助けてくれたの」
「そうだったのか」
「うん。あの時は、本当に助かったわ」
リュージュは少し懐かしそうに言った。
「ここに運ばれてからも、何度か顔を見に行ったのよ」
高橋は顔を上げた。
「岡田の病室に行ったのか?」
「うん。この病院にいるって聞いたから」
「それで、岡田はどうだった?」
リュージュは、すぐには答えなかった。
先ほどまでの明るい表情が、少し曇った。
「……高橋、まだ聞いてないの?」
「え?」
高橋はリュージュを見つめた。
「何を?」
リュージュは少し迷ったようだった。
そして、静かに口を開いた。
「岡田ね……左足を切断したの」
「……え?」
高橋は思わず聞き返した。
「左足……切断?」
「うん。戦闘でひどい怪我をしたんだって。病院に運ばれてから手術したそうよ」
リュージュは膝の上で両手を重ねた。
「命は助かったけど、左足は残せなかったって……」
高橋は何も言えなかった。
岡田修平。
訓練所で同じ時間を過ごし、ベルノ連隊に配属されてからも何度か顔を合わせた同期。
第2中隊のナゲフ分隊に所属し、あの戦闘を生き延びた数少ない日本人の一人だった。
生きていてくれた。
そのことを喜んでいた。
だが、左足を失ったという。
「……そうだったのか」
ようやく、それだけ答えた。
エレナも真剣な表情で聞いていた。
「岡田さんは、今どんな様子なの?」
リュージュはエレナを見た。
「まだ安静にしていないといけないみたいです。でも、意識ははっきりしているし、普通にお話はできますよ」
「そう。よかったわ」
「何度かお見舞いに行ったんですけど、私の顔を見ると、あいつ、いつも『お前、ちゃんと歩けるようになったのか』って聞くんですよ」
リュージュは少し笑った。
「自分の方がずっと大変なのに」
高橋は黙って聞いていた。
「だから私も、『ちゃんと歩けるようになるわよ。あんたこそ早く元気になりなさい』って言ってやったの」
リュージュは明るく言おうとした。
だが、その声には少しだけ寂しさが混じっていた。
「……岡田、元気だったか?」
高橋が尋ねた。
「うん。元気っていうのとは、ちょっと違うかもしれないけど……」
リュージュは言葉を選んだ。
「ちゃんと話せるし、私が行くといろいろ聞いてくるわ。ベルノのこととか、ほかの兵士のこととか」
「そうか……」
「まだ傷が治っていないから、あんまり長く話すのはよくないみたいだけどね」
リュージュは高橋を見た。
「会いに行くんでしょう?」
「ああ。そのつもりだ」
「だったら、きっと喜ぶわよ」
リュージュは微笑んだ。
「高橋のことも知ってるし、同じ日本人でしょう?」
「ああ」
「行ってあげて。ここにいると、本当に退屈なのよ」
高橋はうなずいた。
「……分かった」
エレナが静かに声をかけた。
「亘一。岡田さんのところへ行きましょうか」
「はい」
高橋は立ち上がった。
そして、リュージュに向き直った。
「リュージュ。元気な顔が見られて、本当によかったよ」
「ふふっ。ありがとう、高橋」
「早くよくなってくれよ」
「もちろんよ。次に会う時は、松葉杖なしで歩いてみせるから」
「楽しみにしてる」
リュージュは笑顔で手を振った。
「岡田にもよろしくね!」
「ああ!」
高橋も笑って手を振り返した。
エレナが一礼し、二人は病室を出た。
廊下に出ると、病院の静けさが戻ってきた。
高橋はしばらく何も言わずに歩いていた。
エレナも、急かすことなく隣を歩いていた。
「……左足、切断ですか」
高橋がぽつりと言った。
「ええ……」
「生きてるって聞いて、安心してたんですけど……」
高橋は言葉を止めた。
エレナは静かに答えた。
「生きて帰れたことは、もちろん大切よ。でも、無事だったわけじゃないものね」
「……はい」
廊下の向こうでは、看護兵が車椅子を押していた。
高橋はその姿を見送り、ゆっくりと息を吐いた。
「岡田に会ってきます」
「ええ。一緒に行きましょう」
二人は、岡田のいる病棟へ向かった。
* * *
岡田が入院している病棟は、リュージュの病室から少し離れた場所にあった。
高橋とエレナは看護兵に案内され、長い廊下を歩いていた。
先ほどの病棟とは、雰囲気が少し違っていた。
廊下を行き交う患者の姿は少なく、病室の扉もほとんど閉まっている。
重傷者を収容している病棟なのだろう。
「こちらです」
看護兵が一つの病室の前で立ち止まった。
「岡田さんは、まだ寝台から起き上がれません。お話はできますが、あまり長時間にならないようお願いします」
「分かりました」
高橋が答えた。
「では、どうぞ」
看護兵が扉を軽く叩き、ゆっくりと開いた。
「岡田さん。お見舞いの方ですよ」
病室には四台の寝台が並んでいた。
窓際の一台に、岡田修平が横たわっていた。
上半身を少し起こせるよう、背中には枕が重ねられている。
顔色はあまりよくなかった。以前よりも頬がこけ、身体も痩せたように見える。
毛布の下では、左足があるはずの部分が途中から平らになっていた。
高橋は一瞬、足を止めた。
リュージュから話は聞いていた。
それでも、実際に目の当たりにすると、胸が締めつけられた。
「……岡田」
高橋が声をかけた。
岡田がゆっくりと顔を向けた。
「……ん?」
その目が、高橋の顔を捉える。
一瞬、驚いたように目を見開いた。
「……高橋?」
「ああ。俺だよ」
「おい……高橋じゃねえか!」
岡田の顔に、ぱっと笑顔が広がった。
「お前、生きてたのか!」
「そりゃ、こっちの台詞だよ!」
高橋も思わず笑った。
「よかった……本当によかった!」
「ははっ……なんだよ、お前。こんなところまで来たのかよ」
「サラミスの軍団司令部に用事があったんだ。それで、岡田がここにいるって聞いて」
「そうか……」
岡田は嬉しそうに笑った。
「いやあ、驚いた。まさかお前が来るとは思わなかったぜ」
高橋は寝台のそばに歩み寄った。
「身体、大丈夫か?」
「見てのとおり、まだ寝たきりだ」
岡田は苦笑した。
「でも、だいぶよくなったんだぜ。最初の頃なんか、起きてるのか寝てるのかも分からなかったからな」
「そうだったのか……」
「まあ、こうして喋れるようになったんだから、大したもんだろ」
岡田は笑った。
その笑い方は、訓練所にいた頃と変わらなかった。
高橋は少しだけ安心した。
「岡田さん、お久しぶりです」
エレナが声をかけた。
岡田はそこで、ようやくエレナに気づいた。
「あっ、エレナ伍長!」
慌てて身体を起こそうとする。
「お、おい……!」
「岡田さん、そのままでいいわ」
エレナがすぐに制した。
「ここは病院よ。無理して敬礼なんてしなくていいから」
「す、すみません」
岡田は苦笑しながら枕に頭を戻した。
「エレナ伍長も、ご無事だったんですね」
「ええ。私も亘一も、こうして帰ってこられたわ」
「そうですか……よかった」
岡田はほっとしたように息を吐いた。
「浸透偵察小隊も大変だったって聞いてましたから」
「そうね。いろいろあったわ」
エレナは穏やかに答えた。
高橋は寝台のそばに置かれていた椅子を引き寄せた。
「座っていいか?」
「おう。座れ座れ」
高橋が椅子に腰掛けると、岡田は改めてその顔を眺めた。
「……なんか、お前、ちょっと変わったな」
「そうか?」
「ああ。前より兵隊らしい顔になったっていうか」
「岡田だって、そうだよ」
「俺は病人の顔になっただけだろ」
岡田は笑った。
高橋もつられて笑ったが、すぐに表情を引き締めた。
「……リュージュから聞いたよ」
岡田は高橋を見た。
「左足のことか?」
「ああ」
「そうか。あいつ、喋ったんだな」
岡田は特に驚いた様子もなく答えた。
「まあ、隠したって仕方ねえしな」
そう言って、自分の左足の方に目を向けた。
「膝より上からなくなっちまった」
高橋は何も言えなかった。
「戦車が来た時、陣地でやられてな。気がついたら病院だった」
岡田は淡々と話した。
「医者には、命が助かっただけでも運がよかったって言われたよ」
「……そうか」
「まあ、片足で済んだって考えるしかねえな」
岡田は笑おうとした。
だが、その笑顔は少しぎこちなかった。
高橋は、どう返事をしてよいのか分からなかった。
無理に励ます言葉も、軽々しく慰める言葉も、今の岡田にはふさわしくない気がした。
しばらく沈黙が続いた。
やがて岡田が口を開いた。
「……なあ、高橋」
「ん?」
「第2中隊、どうなった?」
高橋は岡田を見た。
「俺、こっちに運ばれてから、詳しいことをほとんど聞いてねえんだ」
岡田の声が少し低くなった。
「ナゲフの連中は……どうなった?」
高橋はすぐには答えられなかった。
第2中隊の陣地。
戦闘後に見つかった、無数の遺体。
そして、戦死者と行方不明者の名前が並ぶ報告書。
高橋はゆっくりと息を吸った。
「……第2中隊は、大きな損害を受けた」
岡田は黙って聞いていた。
「百三十名が戦死、または行方不明だ」
「……百三十」
岡田は小さく繰り返した。
そして、天井を見上げた。
「……そうか」
その声は、ひどく静かだった。
しばらくして、岡田が目を閉じた。
「……城島は?」
高橋は唇を結んだ。
「……戦死した」
「……そうか」
「広瀬も、戦死してる」
岡田は何も言わなかった。
天井を見つめたまま、長い時間が過ぎた。
やがて、ゆっくりと息を吐いた。
「……あいつら、来たばっかりだったのにな」
高橋はうなずいた。
「ああ……」
岡田は右手で顔を覆った。
「くそっ……」
それきり、しばらく言葉が途切れた。
エレナも何も言わなかった。
ただ、寝台のそばで静かに立っていた。
やがて岡田は手を下ろし、高橋を見た。
「……悪いな。せっかく来てくれたのに」
「いや……」
高橋は首を振った。
「俺も、何て言ったらいいのか分からなくて」
「そうだよな」
岡田は力なく笑った。
「……でも、来てくれて嬉しかったぜ」
高橋は顔を上げた。
「俺さ、こっちに運ばれてから、ずっと考えてたんだ」
岡田は窓の外に目を向けた。
「もう誰とも会えねえんじゃないかって」
「……岡田」
「だから、お前が入ってきた時、本当に嬉しかった」
岡田は高橋に向き直った。
「ありがとうな、高橋」
高橋は静かにうなずいた。
「……また会えて、よかったよ」
岡田は笑った。
「おう。俺もだ」
窓から差し込む春の日差しが、二人の間を静かに照らしていた。
* * *
その時、病室の扉が軽く叩かれた。
「失礼するわよ」
聞き覚えのある女性の声がした。
高橋とエレナが振り返ると、扉のところにオリヴィエ大佐とアウレリア大尉が立っていた。
「あっ、オリヴィエ大佐!」
高橋が立ち上がった。
エレナも姿勢を正す。
岡田は驚いたように目を見開いた。
「れ、連隊長閣下!」
慌てて身体を起こそうとしたが、すぐにオリヴィエが手で制した。
「そのままでいいわ。無理に起きなくていいのよ」
「は、はい!」
岡田は枕に頭を戻した。
オリヴィエは寝台のそばまで歩み寄ると、岡田の顔を見つめた。
「岡田一等兵ね。具合はどう?」
「はい。だいぶよくなりました。まだ寝台から起きられませんが……」
「そう。顔色は悪くないわね」
オリヴィエは微笑んだ。
「大変だったわね。よく生きて帰ってきてくれたわ」
「……ありがとうございます」
岡田は少し照れたように答えた。
アウレリアも寝台のそばに来た。今朝持っていた大きな革鞄を抱えている。
「岡田一等兵。今日はあなたにお渡しするものがあります」
「自分に、ですか?」
「はい」
アウレリアは近くのテーブルに鞄を置き、中から二つの小箱と書類を取り出した。
岡田は不思議そうに眺めていた。
オリヴィエが口を開いた。
「岡田一等兵。あなたには今回の戦闘における功績と負傷に対して、帝国戦傷章、そして第六等薔薇章の授与が認められたわ」
「……え?」
岡田は目を丸くした。
「勲章、ですか?」
「そうよ」
オリヴィエは小さくうなずいた。
「あなたは第2歩兵中隊の防御戦闘で、敵戦車一両の撃破に貢献した。その功績が正式に認められたの」
岡田はしばらく黙っていた。
「……でも、自分は最後まで戦えませんでした」
「最後まで戦えなかったのは、負傷したからでしょう?」
「……はい」
「あなたは自分の任務を果たしたわ。それを評価するのが今回の勲章よ」
オリヴィエの声は穏やかだった。
「胸を張って受け取りなさい」
岡田は天井を見上げ、それからゆっくりとうなずいた。
「……ありがとうございます」
アウレリアが小箱を開いた。
一つには帝国戦傷章、もう一つには第六等薔薇章が収められていた。
オリヴィエはその二つを手に取った。
「本来なら起立して受け取ってもらうところだけど、今日はこのままでいいわ」
「はい」
オリヴィエは寝台に横たわる岡田の胸元へ、二つの勲章を順に取り付けた。
「岡田修平一等兵。今回の戦闘における勇敢な行動と、帝国への忠勤を称えるわ」
「光栄に存じます!」
岡田は横になったまま、できる限り姿勢を正して答えた。
オリヴィエは微笑んだ。
「おめでとう、岡田」
「ありがとうございます、連隊長閣下!」
高橋は、岡田の胸に並んだ二つの勲章を見つめていた。
昨日、自分も勲章を授与されたばかりだった。
だが、岡田の胸に輝く戦傷章には、失われた左足という重い代償が伴っていた。
* * *
「それから、もう一つあるわ」
オリヴィエが続けた。
「第六等薔薇章の受章に伴い、あなたは一階級昇進することになったの」
「……昇進ですか?」
「ええ。一等兵から上等兵よ」
岡田は驚いた顔でオリヴィエを見た。
「自分が、上等兵に?」
「そうよ。正式な辞令は後日交付されるけど、昇進は決まっているわ」
オリヴィエは笑った。
「おめでとう。岡田上等兵」
岡田は少し困ったように笑った。
「ありがとうございます。でも……もう、前線には戻れないですよね」
病室が静かになった。
オリヴィエは岡田の表情を見つめた。
「そうね。少なくとも、以前と同じ歩兵の任務に戻ることは難しいでしょう」
「……はい」
「でも、あなたの今後については、選択肢があるの」
岡田は顔を上げた。
「選択肢、ですか?」
「ええ。今回の負傷については、軍務中の戦傷として正式に認定されているわ」
オリヴィエは落ち着いた声で説明した。
「治療が終わり、身体の状態が落ち着いたところで、あなたは戦傷による退役を選ぶことができる。残りの軍務年限を務める必要はなくなるわ」
岡田は驚いたように目を見開いた。
「退役……できるんですか?」
「ええ。もちろん、本人が望めばね」
オリヴィエは続けた。
「もう一つは、軍務を続ける道よ。前線勤務は無理でも、後方での仕事ならできるでしょう。書類仕事や物資の管理、記録の整理なんかね」
「事務仕事、ですか」
「そう。あなたが希望するなら、ベルノ連隊か領内の軍務機関で受け入れ先を考えるわ」
岡田は自分の左足があった場所に目を向けた。
「……片足でも、軍に残れるんですか?」
「もちろんよ。歩兵として戦えなくなったからといって、何もできなくなったわけじゃないでしょう?」
オリヴィエは微笑んだ。
「あなたは日本から来た召喚者だし、読み書きも計算もできる。後方で働いてもらうなら、十分に役に立つわ」
岡田はしばらく黙っていた。
「……正直、まだ何も考えられません」
「それでいいのよ」
オリヴィエはすぐに答えた。
「今ここで決める必要はないわ。まずは傷を治すこと。それから、ゆっくり考えなさい」
「……はい」
「退役して民間で暮らすのも、軍に残るのも、あなたが決めていいの」
岡田は深く息を吐いた。
「ありがとうございます」
その顔には、先ほどまでとは少し違う表情が浮かんでいた。
左足を失った自分が、この先どうなるのか。
その不安が、すべて消えたわけではない。
だが、これからの生き方を自分で選べると知ったことは、岡田にとって大きな救いだった。
高橋も、ほっとしたように息を吐いた。
「よかったな、岡田」
「……ああ」
岡田は小さく笑った。
「まさか、こんな話が聞けるとは思ってなかったぜ」
* * *
「それと、これは伯爵領から」
オリヴィエはそう言うと、アウレリアから一枚の書類を受け取った。
「岡田、これも受け取ってちょうだい」
岡田は差し出された紙を見た。
「……何ですか、これ?」
「明細書よ。勲章授与によるものと、ベルノ伯爵領からあなたに支給する報奨金のね」
「報奨金?」
岡田はますます不思議そうな顔になった。
オリヴィエは楽しそうに笑った。
「あの戦車、ベルノの鹵獲品になったのよ。条件付きで軍団へ譲渡したけどね」
「……え?」
岡田は目を丸くした。
「戦車って……あの時の魔族の戦車ですか?」
「そうよ。今回の戦闘では三両の戦車が残されたけど、そのうちあなたが撃破に貢献した一両も、ベルノ連隊の鹵獲品として認められたの」
高橋も驚いた顔で聞いていた。
「鹵獲品って、連隊のものになるんですか?」
「地方軍が戦場で鹵獲したものは、原則としてその地方軍の所有になるのよ」
オリヴィエが答えた。
「もちろん、魔族の戦車なんてベルノに持ち帰っても、簡単には使えないでしょう? だから軍団に譲渡することにしたの」
オリヴィエは岡田に向き直った。
「それで、今回の鹵獲に功績のあった兵士には、伯爵領から報奨金を出すことにしたのよ」
岡田は明細書を見下ろした。
そこには、報奨金の支給理由と金額が記されていた。
「……これ、自分がもらっていいんですか?」
「もちろんよ。あなたの功績なんだから」
「でも、自分一人で戦車を倒したわけじゃ……」
「分かっているわ」
オリヴィエはうなずいた。
「戦車一両を撃破するために、何人もの兵士が戦ったことは承知している。ほかの功績者についても、記録に基づいて扱うつもりよ」
そして、少し声を和らげた。
「少ないけど、受け取って」
岡田は書類を見つめていた。
やがて、ゆっくりと顔を上げた。
「……ありがとうございます」
「ベルノに戻ってからでも受け取れるようにしてあるわ。今すぐ使い道を考える必要はないからね」
「はい」
岡田は明細書を大切そうに手元へ置いた。
「……連隊長閣下」
「なあに?」
「自分、あの戦車を撃った時は、まさかこんなことになるなんて思ってませんでした」
「そうでしょうね」
「ただ、目の前に戦車が来たから……何とかしなきゃと思って」
岡田は苦笑した。
「正直、怖かったです」
オリヴィエは静かにうなずいた。
「ええ。怖かったでしょうね」
「……はい」
「でも、あなたは逃げずに戦った。その結果、敵戦車を止めることができたのよ」
オリヴィエは岡田の胸に並ぶ勲章を見た。
「そのことは、誇りに思っていいわ」
岡田はしばらく黙っていた。
そして、少し照れくさそうに笑った。
「……ありがとうございます」
* * *
アウレリアが書類を整理し、革鞄に戻し始めた。
「オリヴィエ大佐。そろそろ次の病室へ参りませんと」
「あら、もうそんな時間?」
「はい。まだ授与を予定している兵士が何名もおりますので」
「そうね」
オリヴィエは岡田に向き直った。
「岡田、今日は会えてよかったわ」
「自分もです。ありがとうございました」
「まずは治療に専念してちょうだい。今後のことは、身体がよくなってから考えればいいのよ」
「はい!」
「それから、上等兵への昇進、おめでとう」
「ありがとうございます!」
岡田は寝台の上で、できる限り姿勢を正した。
オリヴィエは微笑んだ。
「では、お大事に」
アウレリアも丁寧に一礼した。
「岡田上等兵。どうぞお身体を大切になさってください」
「ありがとうございます、アウレリア大尉!」
二人が病室を出ようとしたところで、オリヴィエがふと振り返った。
「ああ、そうだ。高橋」
「はい?」
「あなたたちは、もう少しここにいてもいいわよ。私たちは授与を続けるから」
「ありがとうございます」
「ただし、列車の時間があるからね。病院を出る時には迎えに来るわ」
「分かりました」
オリヴィエは軽く手を振ると、アウレリアとともに病室を出ていった。
扉が閉まる。
病室には、再び三人だけが残された。
岡田はしばらく扉の方を眺めていた。
「……なあ、高橋」
「何だ?」
「俺、何だかすげえことになっちまったな」
岡田は自分の胸元を見た。
二つの勲章。
上等兵への昇進。
そして、退役するか軍務を続けるかを選べるという知らせ。
「そうだな」
高橋は笑った。
「おめでとう、岡田上等兵」
「おい、やめろよ」
岡田が苦笑した。
「まだ慣れねえんだから」
「俺だって、昨日兵長になったばかりだよ」
「……は?」
岡田の動きが止まった。
「ちょっと待て。お前、今なんて言った?」
「昨日、兵長になったんだ」
「兵長!?」
岡田は目を丸くした。
「お前、俺より偉くなってんじゃねえか!」
高橋は思わず笑った。
「そういうことになるな」
「何だよ、それ! 俺が病院で寝てる間に、何があったんだよ!」
岡田の声が、久しぶりに病室へ明るく響いた。
エレナも隣で笑っていた。
「ふふっ。実は私も曹長になったのよ」
「……曹長!?」
岡田は二人の顔を交互に見た。
「おいおい……お前ら、本当に何をやってきたんだよ!」
「まあ、いろいろあったんだよ」
「いろいろって何だよ。二等兵だったお前が、いきなり兵長だぞ?」
「勲章をもらったんだ。第三等赤薔薇章ってやつ」
「第三等!?」
岡田は目を丸くした。
「おいおい、どんな手柄を立てたらそんな勲章がもらえるんだよ」
「……ちょっと大きな戦果があってな」
高橋は言葉を濁した。
グリモフ狙撃の詳細については、軍団司令部で公表しないことが決まっている。
ここで詳しく話すわけにはいかなかった。
「何だよ、秘密か?」
「まあ、そんなところだ」
「ちぇっ。偉くなると秘密が増えるんだな」
「そういうわけじゃないって」
二人は笑った。
会話は帝国共通語だった。
日本人同士なら日本語を使う方が楽だったが、エレナも一緒にいる。高橋も岡田も、自然と帝国共通語で話していた。
「それにしても、エレナ伍長まで曹長になったのか」
岡田が言った。
「ええ。私も驚いたわ」
エレナは笑った。
「高橋ともども、今まで以上にしっかり働かないとね」
「高橋、ちゃんとエレナ曹長の言うこと聞けよ」
「今までも聞いてるだろ」
「どうだかなあ」
岡田は楽しそうに笑った。
* * *
やがて、その笑顔が少し穏やかなものになった。
「……なあ、高橋」
「ん?」
「今日は来てくれて、ありがとうな」
高橋は岡田を見た。
「何だよ、急に」
「いや、本当に嬉しかったんだ」
岡田は窓の外に目を向けた。
「ここに運ばれてから、ずっと寝たきりだっただろ。最初は痛みがひどくて、何も考えられなかったんだけどさ」
岡田は毛布の上に置いた自分の手を見つめた。
「少し楽になってきたら、今度は余計なことばっかり考えるようになったんだよ」
「……そうか」
「足もなくなったし、これからどうなるんだろうってな」
岡田は少し笑った。
「正直、落ち込んだよ。もう歩けねえのかなとか、軍にもいられなくなるのかなとか」
高橋は黙って聞いていた。
「でも、リュージュが来てくれてさ。それで今日はお前まで来てくれた」
岡田は高橋に顔を向けた。
「おまけに連隊長から勲章までいただいて、これからどうするか自分で選んでいいって言われた」
岡田はゆっくりと息を吐いた。
「……何だか、生きる希望が湧いてきたよ」
「岡田……」
「足を失ったのは残念だけどさ、生きてるだけでもうけもんだよ」
岡田は明るく笑った。
「城島も広瀬も、もう帰ってこられないんだろ。だったら、生き残った俺がいつまでも落ち込んでちゃ、あいつらに申し訳ねえよ」
高橋は胸の奥が熱くなるのを感じた。
岡田は、やはりいいやつだった。
自分だって、あれほどの負傷をしている。
それでも、亡くなった仲間たちのことを思い、生き残ったことを前向きに受け止めようとしている。
「……そうだな」
高橋は静かに答えた。
「生きててくれて、本当によかったよ」
「おう。俺も、お前にまた会えてよかった」
岡田は笑った。
その笑顔は、訓練所にいた頃と変わらなかった。
「それにさ、こっちは長く戦争してるだろう?」
岡田が話を続けた。
「ん?」
「義足だよ。結構いいやつがあるらしいぜ」
「義足?」
「ああ。医者が言ってたんだ。戦争で足を失った兵士は昔からいるから、義足もずいぶん発達してるんだってさ」
岡田は自分の左足があった場所に目を向けた。
「傷が治って、身体の状態が落ち着いたら、義足を作ってもらえるらしい」
「へえ、そうなのか」
「もちろん、元どおりってわけにはいかないらしいけどな。でも、訓練すれば杖を使って歩けるようになる人も多いんだって」
「それはよかったな!」
「だろ?」
岡田は嬉しそうに笑った。
「走り回るのは無理かもしれないけど、歩けるようになれば、できることも増えるだろ」
「そうだな」
「だから、俺はまず歩けるようになるのが目標だ」
高橋はうなずいた。
「岡田なら、きっとできるよ」
「おう。頑張るさ」
エレナも微笑んだ。
「いい目標ね。焦らず、少しずつ頑張ってちょうだい」
「はい!」
岡田は元気よく答えた。
* * *
そして、何かを思い出したように笑った。
「それに、俺にはもう一つ、頑張る理由ができたんだ」
「何だ?」
「……リュージュだよ」
「リュージュ?」
高橋が聞き返した。
岡田は少し照れくさそうに頬をかいた。
「あいつとさ、家族になる約束をしたんだ」
「……え?」
高橋は一瞬、言葉の意味が分からなかった。
「家族って……リュージュと?」
「おう」
「ええっ!?」
高橋は思わず声を上げた。
「ちょっと待てよ! いつの間にそんな話になったんだ?」
「声がでけえよ。ここ病院だぞ」
「あ、悪い」
高橋は慌てて声を落とした。
エレナが隣で笑っていた。
「あら、素敵な話じゃない」
「ありがとうございます」
岡田は少し照れながら答えた。
「リュージュが、ここに入院してから何度も見舞いに来てくれてるんです」
「そうみたいね。さっき、リュージュから聞いたわ」
「最初は俺の怪我をすごく心配してくれてたんですけど、だんだん将来の話もするようになって……」
岡田は高橋に向き直った。
「それでさ、俺が歩けるようになったら、一緒に暮らそうって話になったんだ」
「……そうだったのか」
「おう。あいつ、俺が足を失ったことなんか、全然気にしないって言うんだよ」
岡田は嬉しそうに笑った。
「『だったら私が手伝ってあげる』ってさ。あいつらしいだろ?」
「ははっ。確かにリュージュらしいな」
高橋も笑った。
先ほどの病室で見た、明るく元気なリュージュの姿が思い浮かんだ。
「でも、驚いたな。二人がそんな仲になってたなんて」
「俺も驚いてるよ」
岡田は照れくさそうに笑った。
「正直、こんな身体になった俺と一緒にいてくれるなんて、思ってもみなかったからな」
エレナが静かに言った。
「リュージュは、あなたの身体だけを見ているわけじゃないんでしょうね」
岡田はエレナを見た。
「え?」
「あなた自身を好きになったんでしょう。だから、一緒に暮らしたいと思ったんじゃないかしら」
岡田は一瞬黙った。
そして、嬉しそうに笑った。
「……そうだといいですね」
「きっとそうよ」
エレナも微笑んだ。
高橋はそんな二人の会話を聞きながら、ふと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「でも岡田、これは第20期の女子が黙ってないな」
「……は?」
「お前、結構人気あったからな」
「何だよ、それ」
「知らなかったのか?」
高橋は笑った。
「訓練所の頃から、お前のこと気にしてる女子、結構いたぞ」
「おいおい、初耳だぞ」
「そりゃ本人には言わないだろ」
岡田は困ったように笑った。
「まいったな。そんなこと、もっと早く教えてくれよ」
「今さら遅いだろ。もうリュージュと家族になる約束したんだから」
「まあな」
岡田はあっさりとうなずいた。
「俺はリュージュがいいよ」
その言い方があまりにも自然で、高橋は思わず笑ってしまった。
「ははっ。そうか」
「おう」
岡田も笑った。
エレナは二人のやり取りを、楽しそうに眺めていた。
「ふふっ。リュージュに会ったら、お祝いを言わないとね」
「お願いします。でも、あんまりからかわないでやってくださいよ」
「あら、どうして?」
「あいつ、照れるとエルフ語で一気に喋り始めるんですよ」
「ああ、それは亘一も経験してるわね」
「ええ。何を言ってるのか全然分からなくなるんです」
高橋が答えると、三人は声を上げて笑った。
* * *
ひとしきり笑ったあと、岡田は再び高橋を見た。
「……なあ、高橋」
「何だ?」
「俺、退役するか軍に残るか、まだ決められないけどさ」
「うん」
「どっちにしても、ベルノには戻りたいと思ってる」
高橋はうなずいた。
「そうか」
「リュージュとも、ベルノで一緒に暮らせたらいいなって話してるんだ」
「いいじゃないか」
「だろ?」
岡田は笑った。
「だから、まずはちゃんと治さないとな」
「そうだな」
高橋は寝台のそばに少し身を乗り出した。
「岡田。ベルノに戻ってきたら、またみんなで飯でも食おうぜ」
「おう。いいな、それ」
「リュージュも一緒にな」
「もちろんだ」
岡田は嬉しそうに笑った。
「約束だぞ、高橋」
「ああ。約束だ」
二人は笑顔を交わした。
戦場で失われたものは、あまりにも多かった。
岡田の左足も、亡くなった仲間たちも、もう戻ってこない。
それでも、生き残った者には、これからの人生がある。
その人生をどう生きるのか。
岡田は、すでに自分なりの答えを見つけ始めているようだった。
高橋は、友人の明るい表情を見ながら、心から嬉しく思った。
岡田はきっと、大丈夫だ。
そう思えた。
* * *
午後、サラミス駅の軍用ホームには、長い軍用列車が停車していた。
先頭の蒸気機関車からは白い煙が立ち上り、機関士や鉄道兵たちが出発の準備を進めている。
列車には兵員輸送用の客車が何両も連結され、その後ろには装備や物資を積んだ貨車が続いていた。
高橋とエレナは、オリヴィエ大佐、アウレリア大尉とともにホームを歩いていた。
「浸透偵察小隊は、前から三両目の客車に乗っているそうです」
アウレリアが手帳を確認しながら言った。
「そう。じゃあ、早く合流しましょう」
オリヴィエは足を速めた。
高橋は肩に掛けた鞄を持ち直した。
今朝は病院で、いろいろなことがあった。
リュージュは松葉杖を使いながらも元気そうだった。
岡田は左足を失っていたが、生きる希望を取り戻しつつあった。
しかも、リュージュと家族になる約束までしていた。
あの二人がベルノで一緒に暮らす姿を想像すると、自然と笑みが浮かんでくる。
「亘一、どうしたの?」
隣を歩くエレナが尋ねた。
「いや、岡田のことを考えてました」
「ふふっ。リュージュとのこと?」
「はい。まさか、あの二人がそんな仲になってるとは思わなくて」
「私も驚いたわ。でも、よかったじゃない」
「そうですね」
高橋はうなずいた。
「ベルノに戻ってきたら、二人に会いに行きたいです」
「ええ。そうしましょう」
そんな話をしているうちに、目的の客車が見えてきた。
扉の近くには、見覚えのあるエルフの将校が立っていた。
「おっ、お嬢!」
ヴァルター少佐だった。
片手に煙草を持ち、いかにも機嫌がよさそうな顔をしている。
「ヴァルター、待たせたわね」
「いや、こっちも今しがた落ち着いたところだ」
ヴァルターは煙草を口から離した。
「軍団司令部はどうだった?」
「いろいろあったわ。乗ってから話しましょう」
「そうか」
ヴァルターはエレナと高橋に目を向けた。
「おつかれさん。いい話あったか?」
「はい。思っていた以上に」
エレナが答えた。
「ほう。そいつは楽しみだな」
ヴァルターはにやりと笑った。
「ま、とりあえず乗れ。みんな待ってるぞ」
高橋は客車の階段に足を掛けた。
その時だった。
「わはははは!」
車内の奥から、盛大な笑い声が聞こえてきた。
続いて、誰かが大声で歌い始める。
それを別の誰かが笑いながら止めていた。
「……何ですか、これ?」
高橋が振り返ると、ヴァルターは平然と答えた。
「宴会だ」
「宴会?」
「おう。帰還祝いだな」
ヴァルターは当然のことのように言った。
「もう戦場は離れたんだ。少しくらい飲んだって構わんだろ」
高橋はエレナを見た。
エレナも呆れたように笑っていた。
「……もう始めちゃったのね」
「おう。お前たちが遅いからな」
ヴァルターは愉快そうに笑った。
* * *
客車の中に足を踏み入れた高橋は、思わず立ち止まった。
車内には浸透偵察小隊の隊員たちが集まっていた。
向かい合わせの座席には酒瓶やコップが並び、卓上には干し肉やパン、チーズなどが置かれている。
あちこちで笑い声が上がっていた。
すでに顔を赤くしている者もいる。
どうやら、宴会が始まってから相当な時間が経っているらしい。
「おおっ! エレナが帰ってきたぞ!」
最初に気づいたのはゲルフだった。
「高橋もいるじゃないか!」
別の隊員が声を上げる。
「おかえりー!」
「無事だったか!」
あちこちから声が飛んできた。
エレナは笑いながら片手を上げた。
「ただいま。みんな、ずいぶん楽しそうね」
「そりゃそうよ!」
ローラがコップを掲げた。
「ようやくベルノに帰れるんだもの!」
その頬は、すでにほんのり赤くなっていた。
フリーダも席から立ち上がった。
「あら、エレナ。おかえりなさい!」
「ただいま、フリーダ」
「軍団司令部はどうだった? 何か面白いことでもあった?」
「ええ。ちょっと驚くことがあったわ」
「何よ、気になるじゃない!」
フリーダは楽しそうに笑った。
高橋は車内を見回した。
いつもは静かで、任務中にはほとんど無駄話もしない隊員たちが、今は別人のように騒いでいる。
もっとも、全員が騒いでいるわけではなかった。
窓際の席に、イルマが座っていた。
片手にコップを持ち、黙々と酒を飲んでいる。
周囲の騒ぎなど、まったく気にしていないようだった。
「……イルマ?」
高橋が声をかけた。
イルマは顔を上げた。
「高橋。おかえり」
「ただいま。……ずいぶん飲んでるな」
「うん」
イルマは短く答えた。
そして、またコップを口に運んだ。
高橋は少し呆れた。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫」
「本当に?」
「うん。まだ飲める」
そう言って、イルマは空になったコップに酒を注いだ。
隣に座っていたリーナが笑った。
「イルマ、さっきからずっとこの調子なのよ」
ゾフィーも苦笑する。
「全然喋らないのに、お酒だけは減っていくんだから」
高橋は改めてイルマを見た。
「……すごいな」
イルマは何も答えず、また一口飲んだ。
その様子があまりにも普段どおりで、高橋は思わず笑ってしまった。
* * *
「さて、諸君!」
突然、ヴァルターの大きな声が車内に響いた。
隊員たちが振り返る。
「我らが連隊長のお帰りだ。少し静かにしろ!」
その言葉に、ようやく車内の騒ぎが収まった。
オリヴィエが通路に立っていた。
隣にはアウレリアがいる。
「みんな、元気そうね」
オリヴィエは車内を見渡して笑った。
「というか、ずいぶん出来上がってるじゃない」
「ははは。こいつら、朝から帰還祝いを楽しみにしてましてね」
ヴァルターが答えた。
「ヴァルター、あなたも相当飲んでるんじゃないの?」
「いやいや、私はまだ序の口ですよ」
「本当かしら?」
オリヴィエは呆れたように笑った。
そして、隊員たちに向き直った。
「みんな、ご苦労さま。今回の遠征では、本当によく働いてくれたわ」
隊員たちの表情が少し引き締まった。
「残念ながら、全員で帰ることはできなかったけれど……」
オリヴィエは一度言葉を切った。
ミレーナとアルノー。
二人の名前を、口にする必要はなかった。
エレナ班の仲間が帰ってこなかったことは、小隊の誰もが知っていた。
「それでも、あなたたちは任務を果たして、ここまで戻ってきた。今はそのことを喜びましょう」
オリヴィエは微笑んだ。
「ベルノに着いたら、しばらく休ませてあげるからね」
「おおっ!」
隊員たちから歓声が上がった。
「やった!」
「休暇だ!」
「伯爵閣下、ありがとうございます!」
たちまち車内が賑やかになった。
オリヴィエは笑いながら手を振った。
「ただし、列車の中で飲みすぎて、ベルノに着いた時に歩けなくなっていたら承知しないわよ!」
「はーい!」
隊員たちは声を揃えて答えた。
その返事を聞いて、ヴァルターが豪快に笑った。
「ははは! 心配するな、お嬢。こいつら、酒には慣れてる!」
「あなたが一番心配なのよ!」
オリヴィエが即座に言い返すと、車内は再び笑いに包まれた。
* * *
「ところで、ヴァルター」
オリヴィエが声をかけた。
「何だ?」
「エレナと高橋から、報告があるのよ」
「ほう?」
ヴァルターは二人を見た。
「さっき言ってた、いい話ってやつか?」
「ええ」
オリヴィエは楽しそうに微笑んだ。
「二人とも、勲章をもらったわ」
一瞬、車内が静かになった。
「……勲章?」
フリーダが聞き返した。
「第三等赤薔薇章よ」
「第三等だと!?」
ヴァルターが目を見開いた。
フリーダも驚いた顔でエレナを見た。
「ちょっと、エレナ! それじゃあ、あなた曹長じゃない!」
「ええ。そういうことになったわ」
エレナは少し照れくさそうに笑った。
「おいおい、こいつは大したもんだ!」
ゲルフが声を上げた。
「第三等なんて、そうそうお目にかかれる勲章じゃないぞ!」
ヴァルターは愉快そうに笑った。
「伍長から一気に曹長か! ははは、やるじゃねえか、エレナ!」
「ありがとうございます、少佐」
「それで、高橋はどうなった?」
ヴァルターが尋ねた。
「高橋も同じ第三等よ」
「ほう。じゃあ、上等兵か?」
「いえ、兵長です」
高橋が答えた。
「……兵長?」
ヴァルターが眉を上げた。
「お前、まだ二等兵だったろう?」
「はい。本来ベルノで一等兵になる予定だったんですが、その昇進を前倒ししてもらいました」
「ああ、なるほどな」
ヴァルターはすぐに理解した。
「一等兵になってから二階級特進か。それで兵長ってわけだな」
「はい」
「ははは! そいつは大したもんだ!」
ヴァルターは豪快に笑った。
「高橋、お前もずいぶん出世したじゃねえか!」
フリーダも笑った。
「本当ね。ついこの間まで新兵だったのに、もう兵長なのね」
「本人が一番驚いてますよ」
高橋が答えると、周囲から笑い声が上がった。
オリヴィエは、そこで少し表情を改めた。
「それから、第三等赤薔薇章は二人だけじゃないの」
ヴァルターが顔を上げた。
「……どういうことだ?」
「ミレーナとアルノーにも授与されたわ。エレナ班四名全員の功績として認められたの」
車内の空気が静かになった。
ヴァルターはしばらく黙っていた。
「……そうか。あいつらにも、か」
「ええ。二人の勲章は連隊で預かることになっています」
エレナが答えた。
ヴァルターはゆっくりとうなずいた。
「……よかったな、あいつら」
フリーダも静かにうなずいた。
「ええ。本当によかったわ」
ヴァルターは手元のコップを持ち上げた。
「ミレーナとアルノーに」
隊員たちも、それぞれコップを掲げた。
イルマも黙ってコップを持ち上げた。
そして、静かに一口飲んだ。
しばらくの間、誰も大きな声を出さなかった。
やがて、ヴァルターはエレナと高橋を見た。
「お前たちも、よくやった」
「ありがとうございます」
エレナが答えた。
高橋も頭を下げた。
「ありがとうございます」
* * *
「さあ、湿っぽいのはここまでだ!」
ヴァルターが声を上げた。
「エレナと高橋の昇進祝いもしなきゃならん!」
「そうね!」
ローラがコップを掲げた。
「エレナ曹長と高橋兵長に、乾杯!」
「乾杯!」
あちこちでコップが掲げられた。
高橋は思わずエレナを見た。
「……僕たち、何だかすごいことになってますね」
「ふふっ。本当にね」
エレナは嬉しそうに笑った。
その時、イルマが高橋の方を向いた。
「高橋」
「何だ?」
「おめでとう」
「あ、ありがとう」
イルマは短くうなずいた。
そして、コップを一口。
それきり何も言わなかった。
リーナが笑った。
「イルマ、もう少し何か言ってあげたら?」
「言った」
「それだけ?」
「うん」
高橋は思わず吹き出した。
フリーダも声を上げて笑った。
「もう、イルマったら!」
イルマは不思議そうに周囲を見回した。
そして、また黙々と酒を飲み始めた。
* * *
やがて、ホームに出発を知らせる鐘が鳴った。
車外から鉄道兵の声が響く。
「発車準備! 扉を閉めろ!」
ヴァルターが立ち上がった。
「よし、全員乗ってるな!」
隊員たちから返事が上がる。
「荷物は確認したか!」
「大丈夫です!」
「誰かホームに置いてきた奴はいないだろうな!」
「いませーん!」
酔った隊員たちの返事に、ヴァルターは苦笑した。
「まったく。元気だけはあるな」
オリヴィエとアウレリアも席に腰を下ろした。
高橋は窓際の空いている席に座り、エレナがその隣に腰掛けた。
車外では蒸気機関車が大きく汽笛を鳴らしていた。
やがて、列車がゆっくりと動き始めた。
ガタン。
客車が一度大きく揺れる。
窓の外のホームが、少しずつ後ろへ流れていく。
高橋は窓の外を眺めた。
サラミス駅。
昨日、この駅に降り立った時には、軍団司令部で何が待っているのか分からなかった。
勲章をもらい、昇進まで決まった。
ホテルでエレナとゆっくり過ごし、今日はリュージュと岡田にも会えた。
そして今、ようやく仲間たちと合流してベルノへ帰ろうとしている。
「亘一」
隣のエレナが声をかけた。
「はい?」
「やっと帰れるわね」
「……はい」
高橋は笑った。
「やっと、ベルノに帰れますね」
エレナも微笑んだ。
車内では、すでに次の酒瓶が開けられていた。
ヴァルターの笑い声が響き、フリーダとローラが何やら楽しそうに話している。
イルマは相変わらず、窓際で黙々と酒を飲んでいた。
高橋はその光景を見回した。
誰もが疲れ、誰もが何かを失っていた。
それでも、こうして笑い合える仲間たちがいる。
列車はサラミス駅を離れ、ベルノへと続く線路を走り始めた。