I-TYPE   作:どんぐりあ〜むず、

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皆さま、お久しぶりです。最近は最早クリスマスと年末年始の妖精と化しているどんぐりです。

今年最後にして平成終了が残り数分に迫った本日、「インフィニット・ストラトス 邪神と英雄達の系譜」が、
「I-TYPE」として装いも新たに、本日づけで再起動致します。内容はあまりしょっぱいものではございますが、楽しんで頂ければ幸いです。最後に今年も残りわずかとなりますが、来年もまた宜しくお願い致します。

……よゐこ勝てるといいなぁ、平成ジェネレーションズ見に生きたいなぁ。

兎に角、平成・2018年最後の「インフィニット・ストラトス 邪神と英雄達の系譜」改め、「I-TYPE」をお楽しみ下さい。


IS学園
入学


"其れで、これからどうするつもりなんだ?"

"とある部隊に引き抜かれたみたいでな。そっちに行くことになるな"

"……例の「共喰海兵隊」のことか?"

"おいおい、そんなものはたかだか風聞でしかないさ。いくらteam R-TYPEでも、流石に政治どころか民衆倫理にまで抵触するような危ない橋を渡るようなことを彼奴らがするわけないだろう。何より彼奴らのことは、この私が一番分かってるから平気だ"

"いや、同じ所属のお前が言うなというか、正直本当かどうか不安なところだがな…。それに、一度入れば定年すらないまま、戦死するまで戦わされると聞いたぞ。そうなったらお前……"

"もういいさ。『中尉』とはもう終わったことだ。彼女はもうグランゼーラとの混成艦隊に配属されている。多分生きて帰ることはないだろう。今さらもう遅いさ。それに、もう中尉とは約束したんだ。必ず帰る、とな"

"帰るって…、お前

"話は終わりだ、少尉。ウチの奴等が貴官を探しているぞ。早く行ってやれ"

"おい、話はまだ…!"

 

 

 

"……本当に、本当にそれで良いのか。生きて…、生きて帰れる保障など何処にも無いのに、何故そんな約束をする…。二人揃って死にに行くようなものじゃないか。TYPE-R(タイパー)は…、生き残ってなんぼのものと、お前が言っていたじゃないか…。何がお前を変えたというんだ……"

 

 

 

 

"マオ……"

 

 

 

 

 

///////////////////////

 

 

 

黒塗りのロールスロイスが"その場所"に停車したとき、篠ノ之箒はまどろんでいた。昨日夜通し行った作業の進捗が悪かった所為だ。仮眠でも取らねば、これから行われる"入学式"でうっかり居眠りをしかねないだろう。

 

そう考えて、一先ず箒は仮眠を取ることにしていたのだが、寝つきのいい時に急ブレーキで叩き起こされた為に、その寝起きの第一声はどこか機嫌の悪さがあった。

 

「チェルシー…、起こしてくれて悪いがいちいち急ブレーキを踏むのはやめてくれないか?舌を噛みそうだ。というかメイドの運転じゃないだろう、特に急ブレーキは」

 

箒は自身の乗るロールスロイスの運転手、メイド服を着込んだ赤毛の女にそう言った。"チェルシー"と呼ばれた彼女は、運転席から振り返って、顔にしわを作ることなく言った。

 

「おや?箒様、てっきり夢枕に立ちすぎて冥土(・・)にでも行ったのかと」

「おい、しょうもない日本語で私をおちょくるな。お前といいMAOといい、なんでこうも腹を立たせたがるんだ?」

「……可愛いからじゃないですか?」

「言ってるお前が、疑問形で私に聞いてどうするんだ?」

「至極どうでも良いからですよ。セシリア(・・・・)様より、少しユーモアの勉強をした方が良いと勧められたから、その練習をしているだけのことです」

「だとしたら、お前は永遠の落第者だろうな」

 

そう言ってロールスロイスのドアを開け、そのまま会場へと向かおうとすると、箒はチェルシーに呼び止められた。

 

「箒様、私の運転はメイドがする者ではないとおっしゃいましたが?」

「ああ、言ったな」

「何故急ブレーキだけがいけないと?」

 

其れを聞いた箒は、ふむ、と唸ると、躊躇いがちに口を開いた。

 

「……情けない話だが、正直"急停止"は苦手なんだ。全てにおいてな」

「ああ成る程、ご自身の歯止めの効かなさを反省しているのですね?」

「馬鹿か、そんな話じゃない。急停止は、アレは…、嫌なものってだけだ。すこぶる、嫌なものさ。いや、ホントに」

「ああ…、そういう……」

 

箒の様子を見て、チェルシーは気づいた。恐らく、おととい行われた開発中の新型機のテストのことだろう。その前のアレは酷かった、より安全性の上がった件の新型機と同じく、都市部などのような入り組んだ地形であれば誰も追いつけない反面、コクピットやブースターのシステム、サイバーコネクタ、その他もろもろを根こそぎアップグレードしなければ、どう頑張っても"「トロピカルな赤いカクテル」製造機"にしかならない、あの……。

 

「時間がないんだチェルシー、もう私は行くぞ。アイツ(セシリア)を待たせたら面倒だ。行ってくる」

「行ってらっしゃいませ。……箒様?それとマオ(・・)様の件ですが…」

 

其れを聞いて、箒は首を巡らせると大きくため息をついて、言った。

 

「………またか。」

「ええ、また二日酔いで寝ているようです。」

「アイツ、確かここの教員として赴任する予定だったよな…。大丈夫なのか?」

「昨日トロピカルエンジェルが無事完成した途端、"打ち上げだー!"、と言ってお酒を大量に飲み始めましたものねぇ。まあ、此方といたしましては、出来上がったマオ様は、見ていて其れは其れは、実に楽しかったのですが」

 

ちらと、箒に向かって笑みを浮かべるチェルシーだったが、その笑みには明らかに黒い嘲笑めいた影が含まれているのは明らかだった。此奴、さては愉しんでいるなと考えた箒は、額に手を当てながら溜息をついて言う。

 

「こっちとしては冗談じゃないな、二日酔いで入学式どころか新学期までも台無しにされるのは、なんだか先行きが思いやられそうでごめんだ」

「あら、ネガティブな考え方は体にも心にも毒ですわよ。箒様」

「もう二度と、あの炎の腕でぶっ叩かれるような羽目に遭うのが嫌なだけだ。……もう行くぞ」

 

そう言って、チェルシーの見送りの言葉を聞き流しながらロールスロイスのドアを閉めると、箒は目の前の建物を見上げた。

 

その建物は、湘南モノレール"横須賀線"の駅だった。この路線は、横須賀の沖合に佇む、これから箒が向かう場所の為に3年前に開通したばかりだった。駅構内に入り、路線図と時刻表を確認して改札を通り、二階のプラットホームへと続く階段を駆け上がる。

 

まだ四月なのか潮風が冷たいわりには、日差しは暖かく、駅のホームや側溝には風に乗せられてやってきたのか、桜の花びらが紅色の雪のように積もっていた。箒は、階段を上ってまず目の前に入った自動販売機と3人分の焦げ茶色のプラスチックのベンチを見つけると、そこに腰を下ろして持ってきたビロードの手提げ鞄を開けて、目当ての書類を取り出した。

 

その書類には、大きな黒文字で"IS学園入学資格証明書及び基本要綱"と題されていた。

 

「"IS学園"、か…」

 

そう言って溜息をついて書類を鞄にしまうと、箒は顔を上げてホームの景色の向こう側を見た。

 

沿岸部にあるこのモノレールの駅は、そのまま横須賀の沖合にある人工島にまで続いていた。この人工島は、各国によって創設されたIS操縦者の育成を目的とした教育機関が存在していて、この教育機関を設立する為に、浦賀水道や湘南モノレール、東京湾、みなとみらい、海ほたる、果てはアメリカ海軍横須賀基地などに至る関東沿岸部・海域全体が、環境を保全しつつ地形レベルで整備と再開発が行われたのは、当事者として関わった(・・・・・・・・・)箒にとっては既に過去の出来事であった。

 

「厄介事に巻き込まれなければ良いが…。まあでも、彼処には色々と"仕込んで"おいたからな。それに関してのことを考えるなら、少し楽しみなんだが……」

 

沖合の人工島を眺めながらそう独り言ちた箒は、否、銀髪の少女"雨宮月奈"は、懐からパイロットサングラスを取り出して掛け、ちょうど良く到着したモノレールに乗り込むと海上のIS学園へと向かっていった。

 

 

 

///////////////////////

 

 

 

第2回モンドグロッソ大会の最中に起きた事件の後、国連はIS運用協定、つまりはアラスカ条約に基づいて、とある教育機関の創立を日本政府に対して要請(・・)した。

 

それは即ち、IS操縦者ならびに整備・開発を行えるメカニックなどの育成を目的とした、IS関連技術・人材専門の特殊国立高等学校だった。

 

その名も、"IS学園"。

 

あらゆる国家機関に属さず、国家・組織問わず学園関係者全員への対外干渉の一切を全面的に禁止すると定められた、この時代の先を行く近未来のエデンの園は、日本とイギリス、アメリカなどを中心とした国際連合の主導により創立された国際的な特殊国立高等学校である。

 

ただ名目上国連の主導により創立したとされるこの学園だが、実際には危うく世界の軍事パワーバランスを一晩で崩しかける事態を起こした責任を、設立から管理に至るまでの莫大な費用の大半を開発国である日本政府に肩代わりさせる他、償いとして様々な負担を被るようにとアメリカを代表とした各国から要求されたというウラ(・・)の事情があるためか、21世紀のユートピアとして見るには些か不安要素が多すぎると考える者が後をたたない。

 

現にこの人工島は先の"伊豆大島の一件"も含めて、自治体や市民団体の反対を彼らの起こした"不祥事"で攻撃するという力技で押し切ってアメリカ海軍横須賀基地や浦賀水道付近の海域に造られたことから、それに纏わる黒い噂がまことしやかに囁かれている。その内容は実に矯激なもので、例えば市民団体のトップが"快楽をもたらす白い粉"でお縄になった、また一方では反対派の政治家や事業家が賄賂(あくへき)と心臓発作による"出来すぎたダブルパンチ"で放逐された挙句に、逮捕直前になって行方不明になった、そのまた一方では自治体のトップが夜釣りに行った翌朝に土左衛門となって出てきたなどと、挙げるだけでも枚挙に暇がない。

 

また、この学園の設立にイギリス側からの"一番深いところの"関係者として、アラブの石油王よりも裕福とさえ言われる『オルコット財閥』が関わっていたことも、この噂により一層拍車をかけた。

 

オルコット財閥とは、現時点では世界経済の一助を担うどころか、それよりも更に奥深く、それこそ"国際政財界のマリアナ海溝"と形容される場所まで食い込んでいる、世界規模で展開する大企業群のうちの一つなのだが、それらの企業同様、裏で一体何をしているのか全く分からないうえ、得体の知れない不気味さを感じさせていた。

 

それ故に、先の反対派の不祥事は連中の手回しの結果が高いのではと、恐れをなした多くの人々➖特にその手の話題(・・・・・・)に対して興味がある人々➖からは、この手の都市伝説を世間話だけでなく食事中にも軽々しく話題として出すのはタブーであるとする暗黙の了解が作られるきっかけになったことは、言うまでもない。

 

 

そして勿論、雨宮月奈…篠ノ之箒もこのIS学園の設立に一枚噛んでもいた。

 

 

 

///////////////////////

 

 

 

桜の舞い散るIS学園の正門をくぐった箒は、上着のポケットにパイロットサングラスを仕舞うとあたりを見渡した。

 

「入学式、か…。最近"新入生のみなさん、ようこそおいでくださいました、早速ですが貴女がたにはちょっと殺し合いをしてもらいます…"って、何かあったような気もするが、さて…」

 

レンガで舗装された道を歩いて行く女子生徒たちを見ながら、箒は春風が吹く中を歩いていこうとしたが、偶々桜並木の中で、三人の上級生らしき女達に絡まれている同じ1年生と思しき、水色の髪と今となっては珍しくなった眼鏡をかけた少女の姿を見た。様子から見て、どうやら要らぬ難癖をつけられているようだな、と考えた箒は、暇つぶしも兼ねて助けてやることにした。

 

「ま、助けてやるにしても、やることといえば…、こうして…、こう、だな」

 

そう言って、虚空に向かって手を差し伸ばす。

 

否、正確には空中に発生させた異相次元に繋がる空間の穴に手を突っ込み、その穴を上級生の女子生徒達のスカートの中に繋げただけのことである。

 

そして暫くの間その穴の中を掻き回しているうちに、そこから色とりどりの三角形の布きれを3枚取り出した。それと同時に向こうが騒がしくなったが、箒は、これについてはご愛嬌ということで、と声を出さずに笑った。

 

スカートと胸を押さえながら、耳まで赤くなった涙目の女達と、とまどいながらも遅れて道に出てきた水色の髪の少女を見送ると、箒は近くの桜の木に登って下着を物色し始めた。

 

「ふむ、こっちは白のお子様か。体型と同じく子供だなぁ。で、右手のこっちは大人なレースの黒、でもってストッキング付きのヒモ。女しかいないのに、こんなもの履いて一体誰を引っ掛けるつもりだったんだ?あ、女好きか。なら此奴は後でじっくりと堪能させてもらうとして、次。左の水色の縞々。またヒモか。なら此奴もリストに入れて……」

 

後でこの下着を上手く利用して、あの悪女達には、ちょっとした自分の捌け口になってもらおうと、箒は考えた。今後のバイドやレイブラッド達との戦いに備えて、今のところは(・・・・・・)無辜の民衆に手を出さないように、箒も"彼女たち"も気をつけている。バイドなどとの戦いに打ち勝つ為にはこの地球に存在する全ての国家の結束が必要不可欠である。そのため、下手に一般人に手を出そうものなら、前世よりも手酷い、悲惨な目に遭いかねない。これまで人類に対しては、興味が無いどころかむしろ邪魔な存在でしか無いのだが、前世の経験上彼らが地球ごと軒並みバイド化されるのは自分達にとっては死活問題で、その影響を諸に食らうという意味ではかなり拙い事を示していること、また何よりも、能力は欲しいが人類以上に傍若無人な振る舞いをし、それどころか自分達すら取り込もうとするバイドやレイブラッドらに対して我慢ならないため、どのみち人類の力を利用せざるを得ないという理由もあった。

 

「アヤナならまだ我慢は出来たんだがなぁ…。はあ、どのみち人間の事を飽きぬようにして守り通すという意味でも、人間のことをよく知ることこそが近道かもな……」

 

その後、箒は暫く黒いレース柄のショーツを弄んでいたが、入学式も近いこともあり直ぐに桜から降りると、そのまま入学式の会場である体育館へと向かう。

 

だが、ここで箒に声を掛けた人物がいた。柔らかな笑みを浮かべ、スカートの裾を摘んでお辞儀をするウェーブのかかったベリーロングの金髪と、サファイアブルーの瞳を持った少女だが、箒にとっては頼もしく、利害どころか全てにおいて自分の助けになるが、その分かなり面倒な類いの女が、目の前に現れたのである。

 

「あら、昨晩以来になりますわね。篠の…、"雨宮"さん」

 

だが彼女が現れたのを見て、箒は心の内ではあるものの、逆に笑みを浮かべた。確かに面倒な女だが、その分高校生活は思いっきり楽しめる(・・・・・・・・・)ということでもある。無論、彼女のように試作機を壊すような真似だけはしないよう気をつけたり、ある程度の線引きはするよう、努力はするつもりではあった。

 

そんなことを思いながらも、何時もこの少女の所為で試作機破壊の被害に遭う、自らの相棒の名前を出しながら目の前の少女の名を呼んだ。

 

「"マオ"ならまだ来ていないぞ、"セシリア"」

 

言うなり、少女ーー"セシリア・オルコット"は微笑んで手を差し伸ばし、言った。

 

 

「存じておりますわ。でも今(わたくし)は、貴女と共に入学式に参加したいんです。マオさんのことはこの際宜しいですから、参りませんか?」

 

…但し、その影は妖しく揺らめいていた。

 

///////////////////////

 

青白く光るモニターの立ち並ぶ、ゴミで散らかった部屋の中に沈む少女は、微睡みながらもゴミの山の中から鳴り響く目覚まし時計の音で目を覚ました。IS学園の入学式まで時間が無いこともこの時知ったが、どうせ間に合うとでも言うのか、ゆっくりと準備していく。トルコ石色の髪に、琥珀色の瞳を持つ小柄な少女は、己の胸の平坦さを嘆きながら着替える。溜息をつきながら、大人しめのツーサイドアップになるように髪留めをして、部屋を出る。

 

「……今日も、世界を救いに行ってくるよ。ガザロフ中尉」

 

そう言って少女ーー"マオ"は部屋から出て行った。


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