まほーしょうじょ 作:しゃびゃーか
「サミです! 手違いでしょうか、こちらへ送られてくる人員が少ないです。一人。どうしてですか! びっくりしました! 転送に失敗したのですか? まだそちらにいるのでしょうか? そもそも送る気がなかったとか? ……何らかの妨害があった? はい! 転送ミスなのですね。でしたら、こちらで見つけますので! はい。ほんと、びっくりしただけなので、それだけですので、あ、はい、ありがとうございました!」
通話を切って、くるりと振り返る。
黄髪の子と紫髪の子。前者はピシッと直立していて、後者はあくびを噛み殺している。可愛いなぁ、個人情報が欲しい!
「各々、うん? 二人とも自己紹介をお願いします!」
「はぁぁい!! 私の名前はキィロです。髪の色は黄色です、あと鎖骨の辺りに黒子が三つあります! 電気を手にまとわせることができます、こんな感じです!」
キィロさんの手を、目に見える青白い火花がバチバチと駆け巡る。かっこいい。
「私の名前はアジです。えぇと、髪の色は紫です。耳たぶが常人より二ミリ大きいです。触った相手から生命力を奪って、自分のものにできます。えっと、借りますね」
「へ? ががぎゃん!?」
アジさんがキィロさんにベアハッグを決めた。実演である。たったの数秒の出来事だったけれど、キィロさんの顔は引きつった筋肉と涙でぐちゃぐちゃだ。そしてアジさんは、復活したキィロさんの射程圏内からちゃっかり外れる位置まで逃走していた。
「だぁぁ!! りゃっ!」
うずくまった状態からの電撃バチバチスマッシュは、空を切った。辻斬りを喰らわせた同僚は、判断が早いのだ。
「痛いっ! っおま! 痛いぞこれぇ!」
キィロさんの絶叫に、アジさんは特に反応しない。彼女にとって、この一連の流れは最短距離を突っ走っただけである。進路上にいたのはあなたの責任ではないが、私の責任でもない。よって一部の非も割り込む余地はない、と言わんばかりの仁王立ちだった。
それに対するキィロさんの対応は、相手の非常識の矛に対する、常識の盾である。
「サミさぁん! あいつやばいですよ、今の見たでしょう!」
見たね。
「こっちに来る前だって、上の人と揉めてたんですよぉ! 和を乱す存在ですよこいつぅ、仲間を何とも思っちゃいないんだ!!」
盾。つまり私への直訴である。目上に人への直訴である。
絞り出すような声に涙と鼻水がアクセントを加え、どうしようもなく憐憫を誘う仕上がりだ。
しょうがない。私は鶴の一声をした。
「アジさん、キィロさんの電撃を喰らってください。それで差し引きゼロってことにしましょう☆彡」
無表情のアジさんと、相手を害する正当な権利を得たキィロさんが向き合う。
「私がこれからするのは、君が招いたことだからね。信賞必罰がチームをまわすんだよ」
キィロさんが厳かに言った。口元はにやけを必死に押し殺している。
「しょうがないにゃぁ……」
握手するように手を差し出すアジさん。キィロさんがそれを握ろうとして――
「うっそー」
無表情で手をはたくアジさん。
「痛いのはごめんだよい」
「んがーーー!!!! 失禁させてやるっ!!! てめぇの勤怠評価はFだっ。最底辺に落ちやがれっ!」
二人はくるくると部屋を回り始めた。彼女たちは無視するとして、問題は送られてこなかった一人だ。
我ら魔法少女チームは四人で一組である。三人行動というのは、どうなのだろう?
現場に行けば見つかるだろうか。見つかってほしいな。これ以上、面倒ごとは欲しくない。
「行くよ! 皆! きらりん☆スマッシュ☆彡」
決め言葉と共に、私は現場へ向かった。二人も、少し遅れてついてきた。
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現場は幼稚園。正式名称は「トロピカルバナナ幼稚園」。
南国風味のこの場所に怪人が出たとの通報があって、来た次第である。
カメラはいるかな? ……いなそう? それでも一応。
「きらりん☆レボリューション! 明日にマイウェイ!
カメラはどこにいるか分からないからね。糞パパラッチは何でもするのだ。何でも。隙を与えてはいけない。
「ほらっ、君たちも一緒に!」
「えっ……あっ。キィロです!
ところどころたどたどしいけれど、キィロさんも自己紹介をした。やる気に満ち溢れている。素晴らしいことである。
「アジです。
「あぁ? それだけですかぁああ?」
キィロさんが、ガンを付ける。
私はさっさと中に入ることにした。時間は大事だ。口上も大事だ。そんでもって無辜の命は一番大事だ。人助けファースト。
中では、お花畑が咲き誇っていた。
『『ふ~らわ~♪』』
顔の生えた花が歌っている。たくさんの花が輪唱している。
「二人とも、あれらが何か分かりますか?」
二人とも黙り込んだ。分からないのか、答えたくないのか。
「あれはここにいた園児です。姿を花に変えられました」
「可哀想……」
キィロさんが、とりあえずといった感じで涙ぐむ。アジさんは爪をいじっている。
「どうすれば助かるんですか! 先輩!」
「怪人を倒せば、可能性が見えてくるよ☆彡」
「成程! じゃあ倒しましょう!」
お目目キラキラ、キィロは意気込みを新たにする。
「良いね! やる気があるね! じゃあ二人で倒してきてね! 私は残りの一人を探してくるから!」
二人が顔を見合わせる。キィロがアジを見る。アジがキィロを見る。視線に敵意が混じっていることを互いが確認する。
私はとっくに、その場を離れていた。後ろでやいのやいのと聞こえるけど、無視。
てんそー、てんそー。転送ミスかぁ。
あんまり聞かないけどなぁ、転送ミス。バラバラ死体とかは見たくないなぁ。ハエ人間もNG。
これは急遽、新メンバー募集になるかも……なんてね☆彡
「トクナシちゃん☆彡 いるかなっ、いるなら返事をプリーズぅう」
しーん。返事はない。園内の廊下には、花があるだけだ。
まあ、転送ミスは大体、現場に送られる。だから無事なら向こうから合流してくれるはずなんだけど。本当に死んでるかも? うむむ……。
ん? 違和感。
花は歌っている。なら、何故無音……?
前転回避術。
私は正面へ頭から飛び込み、後ろからの強襲を避けた。
そこにいたのは、魔法少女。私が探していた魔法少女。四人目候補。
それが、私を襲っていた。カマで。
……あ、カマって言っても鎌じゃないよ。
窯だよ。
大きな黒塗りの窯を片手で振り抜き、地面に大穴を開けた下手人は、じりじりとこちらへ距離を詰めてきた。
「どうしたの? 何か嫌なことでもあった? それとも洗脳されてる?」
「魔法少女は殺すんだよ~」
なるほど。狂人か。魔法少女の質も落ちたな。
「ええ~! びっくり~。私、殺されちゃうの~??? うゆ~、理由ぐらいは聞かせて欲しいよっ」
「魔法少女は悪だから殺すんだよ~。理由はそれだけで十分なんだよ~」
話が通じねぇ。人事は何してるんだろう。誰でもいいからって参入させて、穴埋めのつもりかな?
回りまわって自分の首を絞めることになるのに、愚かな話だ。
それはそうと、こいつは駄目だな。倒そう。そして新しい新人を、別に迎え入れるほかない。次はまともなのをよこしてくれ、人事部。
「そっか~。悪だからかぁ。んでもぉ、そしたら君も悪じゃない? ……おっと」
窯をぶん投げてくる。隣の部屋に入って躱す。
「そうだよ~。苦しんだんだ~、とっても~」
壁にめり込んだ窯を引き抜き、近づいてくる。
「しかし、気づいたんだ~。そんな私でも、やれることはあるんだと。この力の、タダシイ使い道があるんだと」
窯を地面に置き、懐から取り出した物品を放り込んでいく。
クレヨン? あと画用紙? ここから現地調達したのか?
窯はすぐさま虹色に輝き、ポンと何かを吐き出した。
小瓶だ。中には、赤い液体。
「良いね~。すさまじくこの状況に合ってる~~」
トクナシはそれを、すぐさま地面に叩きつけた。視界が赤い靄に覆われる。
私は理解した。これが彼女の魔法。先ほどの消音も、これだろう。狙ってかは知らないが、窯に物を入れると、魔法的効果のある瓶を吐き出してくれるらしい。
「視界を潰された、なっ☆彡」
こうなると面倒だ。
「……」
どこから来る? あるいは逃走している? それもありえる。
それにしても、なかなか攻撃してこない。
これはもしや、瓶を量産している? 私が待ちの姿勢であることを見越して?
だとしたら、強か。相手の手札も分からないのに、速攻で殺しに来ず、準備に回れるのは、心臓が強くないとできない。
人間、怖がりすぎると馬鹿をするものだ。死んでもいいから突貫する奴が多い多い。ストレスは人を狂わせる。
私も休日はハイボールにタバコに……なんてね☆彡
私は拳銃を取り出し、引き金を引いた。
弾丸は出ない。出るのは、トクナシだ。
「へ? ……フぎゅぅ!!」
壁に音速でぶつかったトクナシは、重体だ。すかさず顎を蹴りぬいて、気絶させる。
「きらりん☆レボリューション☆彡」
決め言葉も良し。あとは、二人が頑張ってくれていれば……おやや?
花が、次々と園児に戻っていく。どうやら、怪人を倒してくれたみたいだ。
やったね。今日のお仕事は終わり。タイムカードを切って、お家に帰りましょう☆彡
………………あ”ー疲れた。帰りにコンビニ寄るか。酒、酒。
あとつまみ。