まほーしょうじょ 作:しゃびゃーか
「すみません。ウチは勧誘NGでして。テレビも宗教も魔法少女もNGなんです」
そうでしたか。これはすみませんでした。しかし、何かしら興味を持たれたら……扉閉じられちゃった。
「魔法少女って事は美少女ってこと? 俺も美少女になれる?」
適正次第ですね。こちらの協会にて検査をしていただければ、はい、はい、無料ですよ。成程、また会える日をお待ちしてます。
「堪忍してください!許してください!愛娘を死地になんて送りたくないんです!」
それはそう……ゲホンゲホン!! 成程わかりました。貴重なお時間を頂きありがとうございます!
「駄目かぁ……」
私はとぼとぼ住宅街を歩いていた。
魔法少女は4人で一組。先日、一人が犯罪者となったので穴が空いている。出来うる限り、4人で行動するという決まりがあるのにこれは困る。
よって、私はお宅訪問して娘を死地に送り込んでくれる親を探さなくてはならない。
本来なら人事が担当する業務なのだが、あそこは動き出すまでが遅い。書類を回して、会議をして、候補者を選んで、書類を回して、会議をして、候補者を選んで、書類を回して会議をして、候補者を選んで……∞ループ。
悠長にすぎる。いつになったら人が補充されるのか分かったものではない。それならばと、魔法少女が自ら勧誘に出ることもあるのだ。
ちなみに今日は休日である。
……大変である。
「でも頑張るっ☆彡」
がんばるがんばるー。よし、その調子。
声に出して脳を刺激すれば前向きポジティブだ。脳科学の世界では、自分の感情を言葉にすることで、感情に対する脳の反応が変わることが知られている。分かるか? 脳科学がそう言ってるんだ。じゃあ実践していこう。
「殺す・殺す・ぶっ殺ーす。端から端まで殺ーす。故人に仕立て上げる~♪」
おや? この物騒な掛け声は……?
曲がり角の先に居たのは、小さな少女。
マメちゃんだ。
「やあマメちゃん。こんなところでどうしたのかなっ」
「コロコロスる……ん?」
マメちゃんは小さい。身長は百三十センチぴったりで、黒い軍服に身を包み、黒髪に、影を塗り重ねたような黒い肌をしている。鼻も口も判然としない顔のなかで、両目だけがぽつんと白く浮かび上がっていた。
「誰だ、お前」
「サミですッ☆彡 よろしくぅ」
「サミ? 馬鹿みたいな名前だな」
マメちゃんは腰に手を当てた。
「私は 豆電球まめでんきゅうだ。覚えとけ、木っ端。私は豆電球まめでんきゅう 魔法少女の序列3位に位置するエリートだ。よーく憶えとけ。脳内のメモリに書きこんでおけ」
序列三位という肩書きがよほどお気に入りらしく、マメちゃんは自己紹介ひとつで偉そうに胸を張った。私はとりあえず阿諛追従する。
偉いね~、凄いね~、尊敬しちゃうな~。
「フフン……そうだろう、そうだろう」
鼻息荒く喜ぶマメちゃん。マメちゃんの脳は単純で褒められると嬉しくなっちゃうのだ。
ひとしきり褒められて脳内快楽を堪能したマメちゃんは、やがて満足げに腕を組み、「それで?」と私を睨みつけた。
「お前は誰だ。3位に話しかけるとは、随分と態度がでかい奴だ。あるいはお前も偉いのか?序列が上なのか?どうなんだ?」
「62位です」
「は? なんだ、いきなり。自分の序列を口に出しやがって。お前の序列など興味ない。きもいぞ、自慢か?友達が居なそうなやつだな。怖いぞ」
理不尽。
「それで? 住宅街で何をしているんだお前は。私の体感、ここら辺は不審者が2割増しで出やすい。お前もそうなのか?魔法少女だからって犯罪しない訳じゃないからな、怪しいなお前。怪しいとても―――――」
「私のチーム1人欠員が出来たので、新メンバーを探してたんですよっ。でも中々難しいですねっ」
「人探しが難しいだと? 当たり前だ。魔法少女適性なんて無い奴がほとんどだ。仮にあったとして、そいつがこの世の悪に立ち向かう精神を兼ね備えている可能性がどれほどある? この令和の時代にそんな奴ほとんどいない。世代を重ねるごとに精神は甘ったるくなってるんだ。けしからん! ぶっ殺してやる!!!!!!!!!! っんだこれ! 邪魔だなァ!!!!」
マメちゃんは会話してると急にアクセルを踏みだしてくることがある。今も電柱を蹴り出した。罪なき電柱はとっくにボコボコだ。
「だから3人でしばらくは行動しようかなって……」
「3人? 今3人って言ったか?」
「…………はいぃ」
不味ったかな?
マメちゃんはこういう決まり事を破る奴には厳しいのだ。
ほら。
電柱の上から、庭の植え込みから、住宅の玄関や窓から。
続々と現れたのは、どれもこれもマメちゃんだった。
電柱の上には、安全帯を巻いてヘルメットをかぶった電気工事士姿のマメちゃん。
庭からは剪定ばさみを腰に下げた植木職人姿のマメちゃん。
玄関からは宅配員姿のマメちゃんが台車を押して現れ、二階の窓からは白衣姿のマメちゃんが身を乗り出す。
道路の向こうには交通誘導員姿のマメちゃん。
黒い肌も、浮かび上がる白い目も、全員まったく同じ。ただし、身につけている制服だけはばらばら。
やがて、マメちゃんたちは一斉に首を傾げた。
「「「殺すか? 殺すか? 殺すか?」」」
「……」
とりあえず微笑んでおく。下手に釈明はしない方がよさそうだ。
最初に話しかけてきたマメちゃんが、私の顔をじっと見つめている。白い目が左右に動き、頭の先からつま先まで、ぎょろぎょろ。
「…………お前、
「最初からそういってますってば☆彡」
「言ってたか?……まあ、お前なら構わんか。しかし疑われる方にも非はある。さっさと帰れ。ケツまくって帰れ」
「言われなくともっ☆彡」
踵を返す私の耳に声が届く。
「よもぎプロジェクト。知っているか?」
よもぎ? なんだそれ? 餅の話?
「知らないです。何ですそれ?」
「関わると人が消えるとか何とか。……くそっ、自分で調べろカス。あるだろ、スマホが。令和かお前は。しじみ(※指示待ち人間の略)か……ああ、あと人員はこちらで探しておく」
「そうですかぁ。ありがとうございますっ! 感謝感謝☆彡」
必要な情報だけ投げて、肝心なところは自分で調べろ。マメちゃんらしいぜ。
マメちゃんはそれきり興味を失ったように、フラフラと去っていった。
殺す殺す連呼しながら。
街中で会うとびっくりしちゃうな。でもあの人がいるから街のインフラを維持できているところはあるし、足を向けて寝られないよねっ☆彡
…………よもぎ、ねぇ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
「倒すぞ倒すぞ倒すぞ~~! えいえいおーーーー!」
私は掛け声を上げていた。
場所は廃工場。錆びた鉄骨がむき出しになり、外には廃車が転がり、割れた窓から夕日が差し込む、いかにも怪人が潜伏していそうな場所である。
いそうではない。実際に居るのである。先ほど、急に連絡が入ったので来たよっ。休日だって言ってんだろ☆彡殺すぞ☆彡
なんてね!!
怪人。前に闘ったやつとはまた毛色が異なるタイプ。
”この”タイプを2戦目に持ってくるのは、やっぱり教育目的かなぁ?
キィロさんとアジさん。新人二人の教育。怪人を倒す際に必要な心得を学ばせたいのだろうか。
正直、要らないと思うけどね。何故そう思うのか。先ほど今回の怪人について説明したんだけどもね。
関係ないとばかりに二人は殴り合ってる。元気だねっ☆彡 魔法少女として適正が高いよねっ☆彡
……どうして??
前回一緒に怪人を倒したんだからある程度友情が芽生えても良いと思うんだけど。
「どうして二人は喧嘩しているの??」
「ムカつくからです!!」「生理的に無理なもんで」
私の疑問に答えてくれたのはいいけれど、二人とも攻撃の手を止めるつもりはないらしい。
キィロが繰り出した拳をアジが身を捻ってかわし、そのまま足払いを仕掛ける。キィロは跳び上がって避けると、着地と同時に電光を纏った蹴りを放った。
「先輩、先輩。助けてくださいよ。こいつヤバいですよ」
キィロがアジの攻撃を避けながら、こちらへ擦り寄ってきた。
好機! 私は彼女の靴下を見ようとする。見れない。何だこれ、服の構造上見れない感じだ。
私はただ女の子の靴下を見たいし、着せたい。
おっとあまりに無益な争いを見させられたから脳の防衛機構が働いて、己の性癖を開示してしまった。
「チームを変えれないんですか? アイツを窓際に送っちゃいましょうよ!」
実は懐に予備の靴下を持っている。何かしらアクシデントがあって靴下を着替える機会に出会えないだろうか。
ああそうそう、ちなみにキィロの服装は、黄色を基調としたジャケットにスカートという、いかにも元気な魔法少女風コーデ。
足元は膝下まであるブーツで覆われており、靴下の確認を妨げている。
何だコイツは、けしからん。
一方のアジは黒紫色の衣装に身を包み、腕に白い包帯を巻き巻き。
足元は編み上げブーツ。こちらはこちらで、靴下の所在が分かりにくい。全くけしからん。
……おっと、自分の世界に入っていたな。返答しなければ。
「二人とも仲良くしてねッ☆彡」
毎度喧嘩されても困る。呆れの余り、私はすでに君たちへのさん付けを無くしたぞ。
「完璧な提案がここにある」
アジが自分の頭を親指でトントンしながら言う。
「先に怪人を倒した奴の言うことを今後一生聞く」
どう?とアジがキィロを見る。
「あ? いやだね。敵からの提案は大体勝算があるからもちかけるもんだ。その手には乗らない」
「怖いんだ」
「………………………………は」
人は殺意が振り切れると無表情になる。
実例が見れたなぁ
「先輩。良いですか?」
うーん。良くはないけども。まあいいか。
「良いよッ☆彡」
「私の合図に合わせてよーいどんだよ? 先に怪人を倒した方が勝ちっ」
「それじゃ、よーいドン!!」
そして互いに攻撃して互いにぶっ倒れた
………………阿呆かな?
いけないいけない。きらりん☆きらりん☆きらりん☆
三回唱えると私の心は女児となる。
「二人とも~大丈夫っ??」
大丈夫ではない。揃って気絶している。
此処の怪人を私が倒すわけにはいかない。意味がない。うーむ。
『その二人は………………大丈夫なんですか?』
声がしたので振り返ると、工場の奥から細身の人型ロボットが歩いてきていた。
装甲にはあちこち傷がつき、頭部の奥では青白い光が明滅している。両手に武器らしいものは見当たらず、こちらを警戒しながらも、倒れている二人に視線を向けている。
標的の怪人だ。わざわざ姿を見せるだなんて。私は返答する。
「ひとまずは……魔法少女は頑丈だからねッ」
『そうですか……』
「どうしてここに来たのかな? 姿を現したのかな?」
魔法少女の前に出てきたら殺し殺されになるのが常識だろうに。
『その、私の助命をしに……』
「駄目かなっ」
命乞い。怪人が命乞いするなら、私はそう答える。これは反射だ。考えるまでもない。
『どうしてですか?』
「そういうものだからねッ」
これも反射。
『そういうもの……』
怪人は繰り返した。意味を噛み砕くように、ゆっくりと。
工場の中は静かで、割れた窓から差す夕日が、床に長い影を描いている。
「ところで君君ィ~。SNSでデモを持ち掛けていたでしょ?」
怪人の頭部がこちらを向いた。
「人権が欲しいとか、怪人にも優しくしろとか。なかなか熱心に活動しているみたいだねッ☆彡」
『知ってたんですね』
仕事だからね。
彼のアカウントにはここに来るまでに目を通していた。世論に訴えかけるタイプの怪人だと聞かされたから。
プロフィールには「怪人にも意思があります。姿だけで判断せず、話を聞いてください」と書かれてる。
#人権 #人権侵害 #差別 #偏見 #ヘイトスピーチ #共生社会 #多様性 #誹謗中傷 #差別をなくそう #人権問題 #デモ #社会問題 #魔法少女 #怪人 #怪人差別 #怪人の人権
うじゃうじゃうじゃうじゃうじゃうじゃ。たっぷりのシャープ。
添付された写真では、ロボットが路上に落ちた荷物を拾っていたり、壊れた街灯を直していたり、野良猫を拾ったり。
どれも、怪人の善行を見せている。
猫ちゃん、可愛かったな。
「私たちの話を聞いてほしい」「怪人というだけで悪と決めつけないでほしい」
こんな文字を添えられてたけど。
『知っているなら話は早い。そうなんです! 皆さんに私たちを知ってもらいたくて!こうやって活動をしているのです』
最初のうちは、反応もさほど多くなかったらしい。ところが数日前、怪人が道端で荷物を拾う写真に「#怪人の人権」が添えられて拡散されると、引用投稿がじわじわと増え始めた。
《怪人にも人権があるのでは? 人間だって全員が善人じゃない》
《こういう投稿を見ると、魔法少女が怪人を一律に討伐している現状に疑問を感じる》
《いやいや、騙されるなよ。危険だから討伐対象なんでしょ》
賛同する者もいれば、反発する者もいる。議論が増えるほど投稿が人目に触れる。
いつの間にか「#怪人の人権」がトレンド欄に顔を出すようになっていた。
「欲しいの?人権☆彡」
『誰だって欲しいですよ、人権は。生きていたいし、理由もなく排除されたくない。自分の考えを伝えたいし、こちらの話も聞いてほしい。それは、人間だけに認められるものなのでしょうか』
しかし困るのだ。そうやって活動されると、
「社会が混乱しちゃうんだよ。怪人がそうゆう風にこられると、ねッ」
『では黙って殺されろと?』
「うーん。難しい問題だよねっ☆彡」
怪人の目元。青白い光が、すっと細くなった。
『私たちと貴方たち、何が違うのですか。どちらも知性を持ち、人間にはない力を持っていて、人間を殺せる。条件は同じです』
「社会に受け入れられているか否か、かなっ☆彡」
私はにこやかに答えた。本当に、それだけの差である。
『……そうですか』
「分かってくれたかな」
『怪人を逮捕、収容する施設があると聞いたことがあります』
「あるね」
『抵抗はしません。そこへ収容してください』
「いいよ」
『ありがとうございます。貴女は本当は優しい人―――――』
視界の端で銀色の閃光が走り、細い金属針が手首から飛び出して私の手の甲を掠めた。
続けてもう一本が頬をかすめ、皮膚に赤い筋を刻む。
私は攻撃されたことを理解すると同時に、怪人の胸部へ向けて発砲した。
銃声が工場に響いた。弾丸が怪人の装甲を打ち抜き、火花が散る。怪人は床に叩きつけられ、壁際まで滑っていった。
「………」
頬に触れた指先に、赤いものがついていた。
ロボットは胸部を押さえ、苦しげに身をよじった。頭部の青白い光は弱々しく明滅し、先ほどまでの穏やかな態度は、見る影もない。
『……ひどいですね』
弱々しい声が、工場の中に響いた。
『私は助命を願っただけなのに。話し合いをすると言ってくれたのに、あなたは私を撃った』
ピコン、ピコン。
赤い光が点滅している。
工場の隅に設置されたカメラだ。いつから回っていたのかは知らないが、私たちの会話も、今の攻撃も、ばっちり記録していたらしい。
ただし、針は映っていないだろう。こんな場所で小さな針が映るわけもなし。映像に残るのは、助命を願った怪人と、それを撃った私だけ。
なるほど。これが欲しかったわけだ。役者め。
怪人は胸を押さえたまま話し続ける。
私に聞かせるというより、カメラに向かって語る。
『これが、魔法少女なのですね。私たちはただ受け入れられたかった。だというのに、結局は力で排除する。私は、ただ人権が欲しかっただけなのに。貴女は――――』
ドガンドガンドガン
発砲音が、ロボットの言葉を遮った。
怪人が顔を上げる。そして見る。
地面に撃ち込まれたデータを。
『……………………は』
銃口から飛び出したのは、鉛の弾丸ではない。黒い点や細い走査線、文字列の断片、映像の破片。
形を持たないはずのデータが、地面に突き刺さっている。
そして中身を取られたカメラはすでに何も記録していない。
私の魔法でそうなった。
まあ、糞パパラッチ相手にやり合ってきたのだ。この程度はお茶の子さいさいである。不都合な話をお茶の間に届けるわけにはいかないからねっ☆彡
『魔法!』
胸部の装甲が開き、内部から小型ミサイルがせり出してくる。背中にも複数の発射口が現れ、赤い照準光がこちらを狙った。
「もう良いの? 助命嘆願。ちゃんと聞いてあげるよ?」
そんな提案は無視される。そして怪人はブツブツと何かを言い始める。
『生まれる時代を間違えた……。未来ならば私は受け入れられたはずだ』
怪人は頭を掻きむしり始めた。
『この時代は、私を拒んだ。ならば未来へ行くしかない。全てが発展した未来に! 優しい未来に! 怪人を受け入れてくれる未来に!!!』
ミサイルが放たれた。爆音とともに工場の壁が吹き飛び、私は咄嗟に床へ伏せる。倒れていた二人の身体が爆風に転がされる。
しょうがないなぁ。私は二人に触れる。そして二度発砲。
二人は起き上がった。
「二人とも仕事の時間だよッ☆彡」
キィロが咳き込みながら起き上がり、アジも顔についた埃を払いながら立ち上がる。
二人は一瞬だけ互いを睨んだものの、頭上を飛び交うミサイルを目にすると、さすがに喧嘩を続ける気は失せたらしい。キィロが叫ぶ。
「ブリキ野郎よくもやってくれたな!」
冤罪だよ。
「ぶっ殺してやる!」
キィロが両手を掲げると、青白い電光が走った。放たれた電撃がミサイルの誘導装置を焼き切り、狙いを失った弾頭が工場の天井や壁へ突っ込んでいく。
器用な使い方だ。
アジがロボットの懐へ踏み込み、掌底する。
『ガガガッ!?』
生命力を吸い上げられ、ロボットの頭部の光が弱まっていく。
勝ったな
『ワタしは……未来QED! 証明しゅりょおお!! と文だ みらい に』
……おっと?
錆びた鉄板が滑らかな銀色の外装へ、床を走る配管が透明なチューブへ。
天井は青白い光の帯が点灯し、壁面には見たこともない文字が次々と浮かび上がった。
確かに廃工場だったはずが、今やSF映画にありそうな施設へと変貌を遂げようとしていた。
怪人はこういうことが出来る。人を花にしたり、あるいは周囲をSFチックにしたり。
『未来! 寛容! 友好! ワタシ!は! 時代!を!FALLしMAした!』
工場の床が、ぐにゃりとうねった。
錆びた鉄板が波打ち、コンクリートが内側から押し上げられる。ひび割れた床の隙間から段ボールや薄汚れた毛布がせり出し、その下から、人間の腕が一本、だらりと垂れた。
続いて、何人もの人間が姿を現した。
床下へ押し込まれたように折り重なった死体。おそらくホームレス。
ここにいたのを殺して埋めたのかな? 所詮は怪人だな。
『変化変容! 諸行無常は世の常! バババ!!! #怪人にも人権を #私たちの話を聞いて #誰もが受け入れられる未来を #私を拒むな #私を否定するな #私の未来を奪うな #ならばお前たちを #一人残らず #ぶっ殺す』
ちょっとまずいかも。
窓の外すら変化してる。廃工場を飛び出して変化が広まっている。
SFと化している。そして廃工場は変化し続け、そして我々を押しつぶさんとする。
「いったん退避するよっ☆彡」
私は二人に声を掛け、崩れかけた壁際から離れた。
外へ外へーダッシュダッシュ。
後ろをチラリ。
何やら怪人が両腕を広げている。
工場の天井が左右に割れる。地面も割れている。
そしてウィーンと巨大な円筒形の機体が現れた。先端は鋭く尖り、側面には無数の噴射口が並んでいる。
ロケットだ。人を載せて宇宙に飛び立つタイプのロケット。
すぐさまロケットは上昇を始める。
凄まじい炎が噴き出している。
怪人は自分の作り出した未来を足場に、私たちの頭上を飛び越え、そのまま空へ逃げようとしていた。
【WARNIG! WARNING!】
辺りにサイレンが鳴り響く。
「飛び立っちゃいますよ! 不味いですよ! これって私が喧嘩したから?……せ、責任問題は嫌だぁあ!」
キィロが喚く。電撃を放つが、ロケットはすでに工場の天井を抜け、空へと距離を取っていた。雷光は尾部をかすめただけで、届かない。ロケットはさらに上昇し、茜空の向こうへと突き進んでいく。
「逃げられちゃうね、こりゃ厄介」
アジもロケットを見上げていた。
確かにあの高さまで逃げられてしまえば、地上からできることは限られる。
うーむ、何かないだろうか。辺りを見渡す。
どこもSFまみれである。何が何だか。
しかし一つ使えそうな物を発見。元は廃車だったもの。
けれど、今は違う。
SF化により、車体はいつの間にか滑らかな銀色に変わっていた。へこんでいたボンネットは流線形に整い、潰れていたタイヤは姿を消している。
その代わり、車体の下には青白く光る輪が浮かんでいる。
……こいつ空を飛びそうじゃないか?
私は車に乗り込んだ。
ドアは、するりと軽い音を立てて開いた。
内装は当然未来風。ひび割れていたはずの座席には柔らかな素材が張られ、ダッシュボードには青い光を放つパネルがずらりと並んでいる。
それでもハンドルらしきものはある。よし、運転できそう。
「カモン、ベイビー君達っ☆彡 追いかけるよっ」
「フカフカでやんす」
いつの間にかアジも乗り込んでいて、後部座席の背もたれを無表情に押している。
キィロも慌てて後部座席へ飛び込み、ドアを閉めるなり運転席へ身を乗り出してきた。
「ちょ、ちょっと待ってください! 先輩、本当に動かすんですか!? 免許は!? というか先輩って何歳でしたっけ、二十歳超えてます!?」
「ダイジョブダイジョブ☆彡」
免許は持ってる。最近は乗ってないけど。
「きらりん☆レボリューション! 明日にマイウェイ! 今日は空にゴーウェイ! それじゃあ全速前進~!!」
車体の下で青白い光が広がり、滑るように車が宙へ昇っていく。
車体は少し傾いたあと、空中で姿勢を整え、ロケットの進路へ向かって勢いよく加速した。
すぐにロケットの背中が、正面の窓いっぱいに広がった。
ロケット内部にいるのだろう怪人の驚きの声が聞こえてくる
『!? 何故ついてこれる!? ……そうか未来だからかッ!! 自明だ! 未来の車だっ! 私に追い付けるッ!!! 当然宇宙にもいけるぞおおおお! 』
「こだわりすぎて自滅してる?」
アジがあきれ顔。
『未来に妥協は不要っ!』
「というか逃げないで下さーい。思いっきり人殺してるだろ君ッ☆彡」
『知るかッ許せっ! 未来なら許されるぅうう! 時効だからっ時効なんだから!! 未来なら! 未来なら全て時効なんだぁああ!!』
私は後部座席に振り返る。
「落とせる? あれ」
キィロはぶるぶると震えている。。
「当たりは……あたりはしますけど。威力が足りない……です」
成程。頑丈なんだなアイツは。
車内を沈黙が満たした。
ロケットはどんどん加速し、遠ざかっていく。このままでは攻撃が届かないどころか、逃げ切られてしまう。
アジが静かに口を開いた。
「欲しいならあげるぜ。力」
「は?」
「欲しいか、力が」
「だから何を……」
無表情でそれで真剣な目。
「エキサイトするぐらいに私の生命を分け与えるよ。バフてんこもり。もしもそれで落とせなかったらいよいよ役立たず。どうする?」
「…………!」
キィロはすぐに返答した。
「ありったけを渡しな、ブリキを木っ端にしてやる」
『木っ端!? 私が!? ふざけるなっ! ガキがいきってんじゃねえ!!! 精々 生きて 2つか3つ先の年号までしか生きられない過去の遺物風情!私に追い付けると……思うなよッ!!!』
ロケットの怒号を無視して、アジがキィロの左肩を握る
その手から、生命力が流れ込んでいく。
キィロの身体がびくりと震えた。指先で弾けていた小さな火花が、みるみるうちに膨れ上がり、腕を伝って全身を駆け巡っていく。
青白い電光が車内を照らし、窓枠を伝うほどの勢いで火花が散った。
キィロは窓を開け、身を乗り出した。
指先を銃の形に構え、空の彼方を行くロケットへ狙いを定める。膨大な電力が一本の指先へ集まる。
凝縮されている。
『ワタ……しは! 未来に! 飛んでぇえ! 跳ね上がってェえええええ~? 未来にっ私は続くんだぁああああああああああ!!!』
ロケットが噴射口から炎を噴き上げ、さらに加速する。
キィロは一瞬も目を逸らさなかった。
「〆ます」
茜空に光が瞬いた。
後には何も残らない。