まほーしょうじょ 作:しゃびゃーか
私は今、公園に面会に来ている。
面会相手はトクナシである。
犯罪少女になった彼女は、ここ、イチジカナイ市民公園に収監されていた。
公園の入口脇には、面会受付用の机がひとつ。
その横に、刑務官の制服を着たマメちゃんが仁王立ちしている。帽子が頭のサイズに合っておらずブカブカである。可愛いね。
「面会時間は好きに書き込め。最小1分、最大12時間だ」
とりあえず15分にしておいた。様子を見に来ただけで、長居をする気はないからねっ☆彡
残りの必要事項を記入して、首から面会者札をぶら下げれば、あとは自由に中へ入れる。
ブランコに砂場、タコの形をした滑り台が並ぶ広場を、私はてくてくと通り抜けた。
目的地は、ジャングルジムだ。
格子の内側で、黒髪の少女が狭い空間をぐるぐると歩き回り、何やら不満げに唸っている。
トクナシだ。
私の姿を見つけると、彼女はぴたりと足を止めて、あからさまな敵意をむき出しにして睨んできた。
私はジャングルジムの前に腰を下ろして、鉄棒格子越しに声をかけた。
「気分はどうかな☆彡」
「………………死を求むー」
「どっちの?」
「お前と私のだよ、馬鹿やろー」
毒づいた後に何やら聞いてくるトクナシ。
「一つ聞いても良いかー」
「何かなっ」
何でも聞いてあげるぞのスタイルで臨む。さて、彼女は何を知りたいのだろう?
「どうして私は刑務所じゃなくて公園に収監されてるんだよー。おかしいだろー」
思ったより普通の質問だった。
「魔法少女は原則、公園に拘留することになってるんだよッ☆彡」
「意味不明なんだがー」
意味はちゃんとある。
まず魔法少女を刑務所のような場所ではなく、公園に収容することに決めた人物がいる。
序列7位の魔法少女。ハウス・ハウス・ハウス。長いので、以降はハウスと呼ぶ。
ちょっと話すと長くなるからかいつまんで言うと、ハウス一族ってのが居て、今から話すのは8代目のハウスのことね。
※ちなみに本人にハウスというと最悪殺し合いになるので注意。面倒くさくてもちゃんとハウス・ハウス・ハウスと読んであげよう。
そもそも、魔法少女を収監するとなれば、果たして刑務所で足りるだろうか。魔法の使い手を相手にする以上、頑丈な壁や鉄格子を用意したところで絶対ではない。
そこで必要なのは対魔法少女施設。そんな仕組みを備えた施設が必要になる。
それを作れるのがハウスだった。
彼女の手がけた施設では、彼女自身の望む法則を反映させ、内部を思いどおりの世界に作り変えることができる。
いわば魔法建築物。中にいる魔法少女を外に出さない建物も簡単に作れる。
しかも、一度彼女が作った建築物は、彼女が生きている限り効果を保ち続ける。
頼もしい能力である。
ところが、肝心のハウス本人には、ひとつ大きな問題があった。
気難しい上に芸術肌であるのだ。
犯罪者を収容するために、自分の魔法施設を提供するのは嫌だ。論外だ。ありえない、と。
しかしながらと、彼女は続けた。野ざらしなら構わない。なんなら公園に収監してみない?とても面白そう!
そんなわけで、彼女はあちこちに公園を作った。
ちなみに公園拘留中の魔法少女が食事を取る場合は、園内に設置された自動販売機を利用する。飲み物だけでなく食品も買えるタイプの自動販売機なので、最低限の食事には困らない。トイレは公衆トイレを使い、寝るときは東屋を利用する。
また、仮に他者に危害を加えようとすると即座に確保されて今のようにジャングルジムにテレポートされる。
何か入口に入ったあたりで殺気を感じたけど何かしようとしたのかなコイツ。
まあハウスの魔法は何かをしようと思った時点で発動するため私には傷一つないが。
「まあ意味不明でもなんでもさっ。これが常識なんだよっ」
「…ここさぁ、子供が普通に入ってくるぞー。いいのか、犯罪者と隣り合わせでー」
そこも含めてハウスの要望である。
「以前は普通にあったけどね。魔法少女用の刑務所」
「………そっちに入れて欲しいんだがー」
「とっくに当代のハウスが全て壊したからないよ」
「…………やっぱり魔法少女はおかしい~」
トクナシは、ジャングルジムの格子を掴んで深いため息をついた。
話してみて感じるのは存外普通だという事。
新人たちを迎える日。あの日に起きた転移ミス。
なにやら逃走を企てていたらしいと後から聞かされた。理由は知らないが、それだけの理由があったのあろう。
それはそれとして、転移先の園内にて園児たちや保育士を守っていたという報告も受けているのだ
彼女の殺意はあくまで魔法少女だけに向くのだろうか?
「それでー? 私に何か用があるのかー?」
トクナシさんが疑わしげに私を見た。
「特にはないよ。ここには様子を見に来ただけだしねっ☆彡 それに事情聴取は散々されたでしょ?」
「嫌ってほどにされたねー」
「だろうねっ」
私は帰り支度を始める。
ああ、いやそうだ。
「よもぎプロジェクトって分かる?」
マメちゃんに言われた言葉。軽く調べてみたものの何が何やら。
「分かるよー」
思いがけず、返事は即座に返ってきた。
私は身を乗り出した。
「聞かせてくれるかなっ!」
「何故~? 魔法少女は敵だぞー。教えると思うか―?」
「ムムム」
まあでも、とニヤニヤ笑ってくる。
「取引なら構わないなー。敵同士でも取引はするもんだからねー」
そう来たか。
「どうして知りたいのか、それを聞かせてくれー」
「理由?」
「そうだよー。よもぎプロジェクト…どうして知りたいのか全くわからんがー。もしかしたら私にとっては重要な話かもしれないからなー。何のために知りたいのかくらい、聞いておきたいだろー」
はてどうしよう。大したことのない情報を渡して、現状重要かどうかも分からない話の情報を得るわけだ。
…まあ、いいか。
「良いよッ☆彡 序列が上の魔法少女に話を振られてね。といっても、ついでって感じだよ? 知ってるかーって言われてさ、知らなかったから自分でも調べようって思ったわけ」
「………………」
数秒考えるとやがてトクナシは頷いた。
「それじゃあ教えてやるー」
「といっても、大したことじゃないー。コックリさんみたいなものだ~」
そう言うと、トクナシさんはジャングルジムの横棒に膝を引っかけ、器用に身体を持ち上げた。逆さまのままぶら下がる蝙蝠姿を維持してくる。
「まず、紙を用意するー。それで言うんだー『ヨモギ様、ヨモギ様、連れていってください』って、そしてヨモギって紙に書くんだよ~」
「この時紙はA4 書くのは鉛筆。濃さはB5だぞー」
ふむふむ。私はメモした。
「それで終わりだー。ヨモギ様に連れていってもらえるんだー」
ん? それだけ?
「本当にそれだけなのかなっ? …今すぐにでもできそうだけれど?」
トクナシはそんな反応を予想していたらしい。逆さまのまま、ふっふっふ、と意味ありげに笑った。
「ヨモギはヨモギでもなー。漢字で書かなくちゃいけないんだー……でも、誰もその漢字を知らないー」
「正しい当て字があるー。でも分からないー」
「蓬」? あるいは「四方木」? 「四母擬」のように、音に合わせて漢字を組み合わせることだってできる。
そもそも全く関係ない読みの漢字から作られている可能性も十分ある。
そうなるといったい何通りになるのか見当もつかない。
「…しかしまぁ、こんな話よく知ってるねッ☆彡」
「ん~? これはただ最近流行りの都市伝説でしかない~。知らないのはそっちの知識不足では~?」
「確かにっ」
今の話がどこまで本当なのかは分からない。
それでも、一つの情報として懐にしまっておこう。
「有難う。短いけど中々有意義な時間を過ごせたよっ☆彡」
私は満足して、膝についたを払った。
「それじゃ、バイバイっ☆彡」
手を振って別れを告げ、私は足元に置いていた紙袋を持ち上げた。面会のあいだ、ずっとそばに置いていた差し入れである。
危うく渡し忘れるところだったよ☆彡。
私は紙袋をジャングルジムの格子越しに差し出した。
「これ、着替えだからっ☆彡」
「……着替え?」
トクナシさんは怪訝そうに首を傾げた。私は袋の口を開いて中身を見せる。
ぎっしり詰め込まれている靴下。
「……」
「ほら、いっぱいあるでしょっ☆彡」
「……いちおう、お礼は言うけど~」
言っておくが私がここに来た9割の理由がこれだぞ。靴下を合法的に渡せる瞬間はそう多くはないのだ。
「それじゃ、今度こそバイバイっ☆彡」
私は公園の外へと歩いて行くと、入れ違いに何人かの子供たちが駆け込んできた。
「帰れー、ガキどもー!」
「うっし、サッカーやるべ、サッカー!」
「人の話は聞けー!」
トクナシが子供に絡まれている。
遠くから聞こえてくる声を背に、私は公園を出た。
序列7位 ハウス・ハウス・ハウス
継承型魔法少女。
ハウス・ハウス・ハウスは、代々受け継がれてきた固有魔法と技術を継承する、ハウス一族の8代目当主である。
一族の魔法は建築に特化しており、建物を造るだけでなく、その内部に魔法を組み込むことで、空間そのものを特殊な機能を持つ魔法施設へと変えることができる。
ハウス一族の歴史は、1920年代に初代ハウスがアメリカから日本へ渡来したことに始まる。彼女は優れた建築技術と魔法を組み合わせ、それまでの常識では実現できなかった数々の建築物を生み出した。
有名なものとして、華ラジオ式ビル。とても家。綺麗流麗集が挙げられる。
また、ハウス一族の特徴として、家名の継承に関する独特の慣習が存在する。
初代の名はハウス。二代目はハウス・ハウス、三代目はハウス・ハウス・ハウスと、その名を重ねる形式を取る。
しかしただ代を重ねるだけではハウスは増やせない。
家名を増やすには、当主として生涯をかけて建築に取り組み、一族の歴史に残るほどの作品を完成させなければならなず、血筋や能力を受け継いだだけでは、その資格は得られないのである。
これまでに、家名を増やすに足る至高の作品を生み出したと認められたのは、初代、3代目、7代目の3人だけだった。
彼女たちはそれぞれの時代において、一族の名声を高めるほどの作品を残し、その功績を歴史に刻んだ。特に、7代目が築き上げた実績は後世にも大きな影響を与えており、現在の8代目にとっても、容易には越えられない目標となっている。
現在の8代目ハウスは、先代の残した作品と名声を背負いながら、自らの代にふさわしい建築を生み出すべく邁進している。
優れた作品を残した先代がいるという事実は、一族の誇りであると同時に、後継者にとっては重圧だ。過去の作品をなぞるだけでは、先代と同じ評価を得ることはできない。果たして彼女は如何にしてハウスを得るのだろうか。