ただ内容を煮詰めれば悪くないとも思い、本格的に企画してみました。
今回、ストーリー原案・構成・設定・校正は私、雪田琉摩が。執筆を生成AIの『Claude』が担当しました。文章に強いと評判の『Claude』君ですがさすがに一発OKともいかず、1話ごとに何度か修正を重ね投稿の運びとなりました。皆様にお楽しみ頂けたら幸いです。
なお、この小説は試験的運用のため全30話程度を見込んでいます。
それではどうぞ。
人口が減り続けるこの国で、アンドロイドが人間と並んで暮らすようになって、もうずいぶんになる。
見た目も話し方も人間とまったく変わらない彼らはもともと人手の足りない職場を支えるために生み出された存在だった。けれどある時、一部のアンドロイドが音楽や絵画といった創作の分野で人間顔負けの作品を生み出しはじめた。
ならば、ただ働き手として使うのではなく人間と同じ場所で学ばせ、それぞれの個性を育てるべきではないか――そんな声が高まり、やがて法律が変わった。アンドロイドにも高校や大学への入学が認められたのだ。
今ではアンドロイドが学校に通うことを不思議に思う人はいない。朝の通学路に人間とアンドロイドの制服姿が並ぶのはどこにでもある当たり前の光景だった。
首都圏から遠く離れた地方都市にあるピアプロ学院高等部もそのひとつだ。全校生徒およそ六百人のうち一割ほどがアンドロイドである。どのクラスにも四、五人は在籍していて、人間の生徒と同じ制服を着て、同じ授業を受け、同じように――試験に頭を抱えている。
そう。試験に頭を抱えるのはなにも人間だけではないのだ。
七月に入ったばかりの一年三組には窓から差し込む夏の光とそれとは正反対の重苦しい空気が同居していた。
「ではプレ試験の個票を返す。名前を呼ばれた者から取りに来るように」
担任の声に四十人分の背筋がいっせいに伸びる。
期末試験の前哨戦、通称『プレ試験』。点数は成績には入らない。だが本番の出来をかなり正確に予言してくれるありがたくも残酷な試験である。
一枚、また一枚と個票が配られるたびに教室のあちこちで歓声とため息が上がった。
「よっしゃ、前より二十点上がってる!」
「……終わった。俺の夏、終わった」
明暗は驚くほどくっきり分かれていた。
「初音」
「はーい!」
初音ミクは軽やかに席を立った。青緑色のツインテールが揺れる。このクラスに在籍するアンドロイドの一人で明るい笑顔と元気な声で入学早々クラスの人気者になった少女だ。
受け取った個票を手に席へ戻りながら視線を落とす。
数学、三十四点。
英語、四十一点。
現代文、五十二点。
そして化学――二十八点。
赤点のラインは三十点。そのラインをひとつだけ下回っていた。
――中間試験から、平均八点の低下。赤点の教科がひとつ。
ミクの中でいくつかの判断が静かに組み上がっていく。
分類、好ましくない出来事。ならばここで表すべきは――。
「うーん、困ったなあ」
眉を少し下げてミクは苦笑した。たぶんこれが正しい反応のはずだった。
「ミクー! 見て見て!」
前の席から鏡音リンがくるりと振り返った。頭の大きな白いリボンがぴょこんと跳ねる。ミクと同じくアンドロイドで中学の頃から学校に通っている。高等部から入学したミクにとっては頼もしい先輩格の友人だ。
突き出された個票には赤いペンで囲まれた数字が三つ並んでいた。
「あたし、赤点三つ!」
「三つ!? なんでそんなに嬉しそうなの!?」
「だってここまで来ると逆に清々しくない?」
「清々しくないよ……」
ミクが自分の個票を見せるとリンは「お、一個だけじゃん。ミクの勝ちー」とあっけらかんと笑った。勝ち負けの問題ではない気がする。
「二人とも、声が大きいよ……」
リンの隣の席で鏡音レンが小さくため息をついた。リンと同時に造られた、双子の弟にあたるアンドロイドだ。彼の個票には赤い丸はひとつもない。
「レン君はどうだったの?」
「ぼくは、まあ……いつも通りかな」
そう言って控えめに差し出された個票はどの教科も七十点台の後半だった。リンが「うわ、可愛げなっ」と顔をしかめる。
ミクは何気なく教室の窓際に視線を移した。
一番後ろの席で一人の男子生徒が受け取った個票を静かに折りたたんでいる。少し長めの前髪に目立たない眼鏡。人間の生徒だ。周りの男子が「音無、また学年一桁だってよ」とささやき合っているのが聞こえた。
――音無ケイヤ。
同じクラスになって三か月。ミクの記録に残っている彼との会話はゼロ件だった。
勝ち組の席にいる彼と、負け組に片足を突っ込んでいる自分。同じ教室の中に見えない線が一本引かれているような気がした。
*
昼休み。ミクとリンは机を向かい合わせにして弁当を広げた。
「……ねえミク。今日のお弁当、ネギ率いくつ?」
「えっとね、ネギ入り卵焼きでしょ、ネギ塩唐揚げでしょ、ネギの肉巻きでしょ。あ、ご飯にも刻みネギ混ぜてみた」
「ほぼネギじゃん」
「ネギは万能なんだよ? 香りもいいし、栄養もあるし、彩りもいいし」
ミクは誇らしげに唐揚げをひとつ差し出した。リンは文句を言いながらそれを頬張り、次の瞬間目を丸くする。
「……くやしいけど、おいしい」
「でしょー?」
ミクは得意げに胸を張った。が、すぐにしゅんと肩を落とす。
「でも、ネギじゃ化学の問題は解けないんだよね……」
「ネギに何を期待してんの」
リンはお茶をひと口飲むと、急に真面目な顔になった。
「ミク。このままだと期末試験はあたしたちにとって世紀末だよ」
「世紀末……」
「そう。人類滅亡ならぬ、あたしたち滅亡の日」
「じゃあ、期末試験じゃなくて――世紀末試験だね」
「それだ!」
二人は顔を見合わせなぜかハイタッチを交わした。名前をつけたところで点数は一点も上がらないのだが。
*
放課後の軽音部室はいつもならギターのチューニングやドラムの音でにぎやかだ。だが今日はプレ試験の反省会という名目で練習が休みになっていた。
部室の奥では部長の巡音ルカが窓際の椅子に腰掛け、湯気の立つカップを傾けていた。三年生のアンドロイドで成績優秀、歌唱力も抜群。後輩たちの憧れの的だ。長い髪が夕方の光を受けて淡く輝いている。ほのかに漂う香りは最近ルカがはまっているという和紅茶のものだった。
「来たわね、ミク、リン」
ルカはカップを置くと手元のタブレットに目を落とした。
「プレ試験の結果、顧問の先生から共有があったわ」
ミクとリンはそろって背筋を伸ばした。部員の試験結果はすべて部長に報告される決まりだ。部活に夢中になるあまり、学業がおろそかにならないようにするための配慮らしい。
「ミクは化学が赤点。リンは三教科」
「……はい」
「……はーい」
「はっきり言っておくわ」
ルカの青い瞳がまっすぐに二人を捉えた。
「期末試験で一教科でも赤点を取ったら、夏フェスのステージには立たせられない」
「えっ」
ミクの声が裏返った。
夏フェス。この夏、軽音部が出場する野外ライブイベントだ。そしてミクはそのステージでメインボーカルを任されていた。
「ルカ先輩、それって本当に……?」
「規則だもの。例外は作れないわ」
部室の空気が、ぴんと張り詰める。
その時、ドアが控えめにノックされた。
「失礼します……。リン、頼まれてたプリント持ってきたよ」
顔を覗かせたのはレンだった。リンが「おー、ご苦労!」と手招きする。レンはプリントを渡しながらちらりとルカのほうを見た。
「レン君、いつもリンの用事に付き合ってくれてありがとう」
「い、いえっ、全然……!」
ルカに微笑まれたレンは耳まで真っ赤になった。この光景も、軽音部ではすっかりおなじみである。
ルカは小さく息をつくと、少しだけ声を和らげた。
「……厳しく聞こえたかもしれないけれど」
カップを両手で包み込み、目を伏せる。
「私だって、あなたたちの歌を夏フェスで聴きたいの。だから、ちゃんと勉強してきてちょうだい」
「ルカ先輩……」
「必要なら、私も教えるわ。……と言いたいところだけど、三年は今、補習と進路の書類で手一杯なの。ごめんなさい」
申し訳なさそうに眉を下げるルカに、ミクとリンは慌てて首を振った。
「よし、決めた!」
リンが勢いよく立ち上がった。そして、隣のレンの肩をがしっとつかむ。
「レン! 今日からあんた、あたしの家庭教師ね!」
「えっ、ぼく!? いや、ぼくだって自分の勉強が――」
「報酬は駅前の和菓子屋さんの新作わらび餅。黒蜜ときな粉、両方」
「……やる」
レンは即答した。ミクは思わず吹き出しそうになる。甘いもので簡単に釣られるところはやっぱりリンの双子だ。
「いいなあ、リンは……」
ミクはため息をついた。
「わたしは誰に頼もう」
「レンに二人まとめて見てもらえば?」
「無理だよ。リン一人でも手一杯なのに……」
レンが青い顔で首を振る。リンは「失礼な」と弟の頬をつねった。それからふと思いついたように指を鳴らす。
「そうだ。ケイヤ君は? レンの友達の」
「ケイヤ君……?」
「音無ケイヤ君。同じクラスの。学年でもかなり上のほうなんでしょ?」
「うん」
レンがこくりとうなずいた。
「ケイヤ、教えるのすごくうまいよ。ぼくもわからないところ、よく聞いてるし」
ミクの頭に、昼間の窓際の光景が浮かんだ。個票を静かに折りたたむ、目立たない男子生徒。
「でも……わたし、ケイヤ君と話したこと、一回もないんだよね」
ミクは指先をもじもじと組み合わせた。
会話の記録はゼロ件。向こうにとってはほとんど知らない相手。頼んだところで、彼に得になることは何もない。断られる可能性のほうが高い――そう判断するのはとても簡単だった。
けれど、ためらう理由はそれだけではない気がした。胸の奥にうまく名前のつけられない、もやもやした何かがある。
これは、なんだろう。
ミクはその感情にまだ分類をつけることができなかった。
「話したことないなら、今話せばいいじゃん」
リンがあっさりと言った。
「ちょうどいいよ。ケイヤ、たぶん今部室の外で待ってるから」
レンがドアのほうを指さす。
「え?」
「今日、帰りにゲームセンター寄る約束してるんだ。ぼくがここに来る時はいつも出口のところで待っててくれるから」
「え、ちょ、ちょっと待って、心の準備が――」
「ほら、行ってこーい!」
リンに背中を押され、ミクはつんのめるようにして廊下へ飛び出した。
部室の向かい、窓際の壁にもたれて一人の男子生徒が立っていた。
手元の携帯ゲーム機から顔を上げた彼――音無ケイヤは、勢いよく出てきたミクを見て、ぱちぱちと瞬きをした。
「あ……どうも」
ケイヤは小さく会釈するとミクの肩越しに部室の中をうかがった。
「すみません。レン、まだかかりそうですか?」
丁寧な口調。思っていたよりずっと穏やかな声だった。
ミクの判断回路はいくつもの会話パターンを高速で検討した。天気の話。プレ試験の話。レンの話。どれから切り出すのが、もっとも自然か――。
だが、口から飛び出したのはそのどれでもなかった。
「あ、あのっ、ケイヤ君!」
「は、はい?」
「わたしに――勉強、教えてください!」
廊下にミクの声が思いのほか大きく響いた。
部室のドアの隙間から、リンとレンの顔が二つ、縦に並んでのぞいている。
そして目の前のケイヤは手にしたゲーム機の画面に『GAME OVER』の文字を浮かべたまま、ぽかんと口を開けて固まっていた。
(第一話 了)
いかがでしたでしょうか。私はストーリー・構成・設定をClaude君に提示しただけでこれだけ書いてくれました(多少校正はしました)。スゴい時代になったものですね。