転生オオタチ、変異個体ですが主人公のパートナーです。 作:マスターカード
さて、ここで本人が自覚していない転生オオタチの種族値をご覧にしよう。
H95、A130、B85、C45、D95、S120。
強くなってガブリアスみたいな性能である。
その癖しっぽトルネードによる先手ノーマルに、ゴースト抜群威嚇無効に常時加速。
ポケモンバトル素人が扱えるポケモンでは無いのだ。
(いや、私ら初バトルかぁ。いけるかなぁ)
オオタチはフィールドにとことこ歩いて行く。
対峙するネモが、オオタチだけで来ると言うが、迷っている。
変異個体。しっぽトルネードの特性。
それを加味して、手加減をするにも、初バトルに持ち込むポケモンじゃ無いから困る。
家族だから、と言ってよく進化系を初バトルに付き合いで出すトレーナーと同じだ。
この手の手合いは、先ず本人とポケモンの思考が噛み合わない。
やりたいことを指示しても、ポケモン側が実行できない。言っていても曖昧というか、経験が無いので思考速度が遅く、見てから判断のラグが長い。
その隙に適当に倒す……しかないというか。
家族だけど、技も適当なポケモンなら仕方ないで慰めが出来るが、こいつは性能がまず分からない。
アンナも、技構成を正しく理解できているか怪しい。
この時点で、ハッキリ言えばネモの得意分野。
機動性重視。避けて跳ね回るハイスピードの戦場。
そういう興奮する戦いが好きなネモに速度で挑む。
アンナも頑張ろうねと笑っているが気付いているか。
このオオタチは、通常ポケモンじゃない。指示を的確に出せないと強さを発揮できない。
アンナにもしも初見で対応できる才能があるなら別だが、手加減をするにもオオタチがどの程度か、未知数。
(面白い個体だけど……アンナの手前、手を抜くのは当たり前。でもなぁ、何処まで加速してくるか見たいんだよね)
ネモはぶっちゃけ、勝ち負けは気にしない。
双方に価値があると考えている。
だからズルいが、何時もの先鋒で行こうと思う。
審判のクラベル校長がネモにポケモンを促す。
「……行こうか、ルガルガン」
申し訳ないが、タイプで有利な岩で行く。
明らかに怪訝そうな表情のクラベル校長。
彼女のルガルガンは、先鋒であり黄昏……最も育成が難しい個体。
それを遠慮無く出すとは、大人げない。
クラベル校長の目線はそう見えている。
分かっている。初バトルにあるまじき手合い。
でも、このぐらいひっくり返す余裕が、アンナから感じ取れる。
「わぁ、ルガルガンだ。あれ? でもオレンジ色って、見たこと無い」
「黄昏の姿だよ。滅多に居ない、中間の時間」
夕暮れの僅かな時間でしか進化できないという珍しいポケモンだが、アンナは笑う。
「逢魔が時のルガルガン……か。そうなんだ。じゃあ、ネモのお手本が見られるんだね」
「そう言ってくれると幸いだよ」
嫌味とか、えげつないとか言わずに好意的に受け取ってくれた。事実、クラベル校長は批判的な表情である。
初バトル、素人が扱えるかも怪しいオオタチには様子見でもこれぐらいの予防線が欲しかった。
負けたくないとかじゃない。アンナのオオタチのコントロールを覚えるのに、ついて行ける自信が無いだけだ。
慣れたポケモンなら、食い付ける。
バトル開始とクラベル校長が告げた。
途端に、オオタチのしっぽから気流が発生。
風を纏うようにふわりと全身が浮かび上がる。
「うん、最初はこうだね。オオタチ、高速移動」
いきなり最善手!? とネモは思わず反撃でアクセルロックで突っ込ませた。
アンナ、オオタチの雰囲気から技構成の初手を正しく命じた。
アクセルロックで掻き消えるルガルガン。
左右にステップしながら突っ込む先制技。
だが、しっぽトルネードの特性の方が速い。
高速移動、とは何かとオオタチは考えた。
要するに、避けろと言うことだ。
難なく残像を残して、大回りで回避してルガルガンの突貫の背後を取る。
「なんと!? アンナさん、貴女は……!」
クラベル校長が仰天する。
的確に、思考を最適化して、初手を避けて。
「影分身」
後続に繋げる。影分身で一気にフィールドにオオタチが増える。その分身達が高速移動で一斉に動き回る。
「嘘……。凄い、分かるのアンナ!? オオタチの流儀!」
ネモですら、思わず叫ぶ。この子、戦闘IQが高い!
初バトルと言うのに、技構成を正しく判断。
未知だろうにしっぽトルネードの見た目に動揺せず。
本来の基礎を、もう身につけている!
フィールドに覆い尽くすオオタチが、ルガルガンの反撃に分裂しては消えていく。
「ルガルガン、特性は分かんないけど。こういうのは、格言があるのネモ」
アンナは柔く微笑み、強気に言う。
「当たらなければどうと言うことは無い」
回避、攪乱全振り。機動性重視。
文字通り、当たらないなら意味が無い。
避けてしまえば良いだけだ。
その技構成は、この格言通りだろう。
他人のポケモンだと思われるオオタチを、こうも呆気なく己のポケモンのように手足のように扱うか。
(トップが見たら勧誘モノだ、この子。変異個体にビビらない胆力に冷静さ。思考のパズルの組み立てが速い!)
思わず本気のスイッチが入りかける。
……いや、いいか。
この才能、開花させるには刺激が一番の栄養になる!
今だけは、引き金を引いてしまおう!
遠慮無く、本気だ。
ルガルガンにカウンターを構えさせる。
高機動には鉄板の、反撃のスタイル。
機動性なら、攻めは手数だろう。
その一発目を潰して、論破させて貰う。
「ネモさん、落ち着いて……」
「校長先生。本当にごめんなさい。でもアンナは、このオオタチは、私の本気のトリガーを引いちゃった……! さぁ、
ルガルガンは、じっと佇む。攪乱しているオオタチは常に動いている。迂闊にやっても空振りだ。
当てるなら、反撃のカウンターでブチ込む。機動性の足を止めてやる。
良いセッションだ。ドンドン加速していくオオタチの分身達。
フィールドに覆い尽くす分裂が、どれが本体か惑わす為の戦術でも。それじゃ、食指は動かない。
(へえ、分かってるなあ。流石作中最強。小細工は通じないし混乱もしない、か)
影分身と高速移動のコンボ、しっぽトルネードの効果の先手の圧と、アクセルベタ踏みの加速で相手に判断を焦らせる。
これが、オオタチの基本戦術。
このオオタチの自分の流儀か。覚えよう。
「オオタチ、行くよ。出来るね?」
カウンターを構えている。分かりきった対応策。
だからどうした。攻撃に突っ込むのに、違いは無い。
何のための影分身だ。
こう言うときにフェイントで使うためだろうが。
分身を嗾ける。一斉に、自分も混じって真横から捨て身タックル。
四方八方から佇むルガルガンにオオタチの分身が飛びかかる。
直撃、ルガルガンは横っ腹に捨て身タックルを叩き込まれた。痛みで直感した相手。
目の前の分身は紛い物。空を切るだけの影。
だがこのぶち当たった頭の部分は、本体なんだろう?
直ぐさま振り返ってサイコファングで噛みついた。
胴長の巨体を捕らえる牙。オオタチ噛まれたまま、身を引いた。
「高速移動!」
「そう来たか!」
敢えて加速させる。振り払うつもりか。
確り噛みつけと言われて、ルガルガンは食らいつく。
鈍痛がするが、俊足に縦横無尽に走り回るオオタチ。
言うなれば暴走車にしがみつく人のよう。
滅茶苦茶に抵抗して荒れ狂う。
その度、感覚がジェットコースターのように振り回してルガルガンをぶん回す。
素早く跳躍、アンナは言うに地面に捨て身タックル。
胴長を活かして、ルガルガンを下敷きに身を丸めて突っ込んだ。
食い込むのに激しく左右されて、グラグラ揺れる重心が遂にすっぽ抜けた。
空中で刹那、分離して自由落下するルガルガン。
そこに上からオオタチの捨て身タックルが加速化して叩き込む。
受け身を取れない空戦、でもネモだって追いついている。
このアクセルベタ踏みの加速世界、目を開いて反撃。
こういう搦め手にも使える、ステルスロック。
空中に岩の破片を散蒔いて滞空させる。勢いを殺ぐ。
後はただの目潰し。鬱陶しいように岩を突き破り激突。
墜落しても、オオタチの柔軟性の差とルガルガンの体格差が出た。
不格好に着地してダメージを負うが、ルガルガンはオオタチが離脱する前に、先に下敷きで落ちた。
その判断が、ミスになる。下敷き、つまり下に着地したのがこっちが先で、対空に攻撃の隙を生んだ。
損傷? この程度なら、慣れている。
インファイト。思い切り下から突撃して、突き上げる突進。なのに!
「オオタチ!」
名を呼ぶ。それだけで、意思が通じる。
要領は分かっている。受け流せ。
凪のように、風のように。強引な剛の一撃は回避ではなく、パリィで対処。
結果、オオタチは空中でくるんと一回転。
突進の威力を回転で勢いごと身を翻して受け流す。
「ハハハッ! パリィは聞いてないよ、アンナ!」
最高だ。この身の捌き、咄嗟の機転と良い、この子は!
ネモの心を、喜ばせる!
「暖簾に腕押しって言うでしょ。オオタチは元々柔らかいんだから、大きいパワーを全身で流すことは容易に想像できる。想像力が足りないよネモ。ゴリ押しは通用しない。ポケモンバトルって、常に最強の自分をイメージしてどうするかを考えて、現実にトレースする。私はそう思う。私のイメージする最強の私なら、時にはオオタチを信用するよ」
「まさか、私が心得を教わる事になるなんて! オオタチは相手したこと無いから、対応間違えたの確かにはミスだね! しかも思考のパターンが私と違う! 私はバトルは合理的な数式だと思ってる! 最適解を最速で通る! それが私って言うトレーナーだよ!」
最強の自分をイメージしてトレース。
なるほど、数式で判断する自分には足りない想像力がこの対応か。
出来る。この子は、最高の原石だ。
「私は根っこがオタクだから、一つを極めるよりいっぱい知りたい。考えたい。想像力が、私の活力。妄想とも言う」
「最強の妄想! いいね! 独特の味がする!」
着地して、オオタチはもう消えている。
止まるんじゃねえぞ……がデフォルトにオオタチはしている。
風と纏うトルネードが動けとオオタチに囁いている。
アンナが止まらない限り、オオタチも止まらない。
ルガルガンも楽しいのか、牙を剥いて吠えている。
(地味にステルスロックが鬱陶しいなぁ)
高速移動で間合いを詰めつつ、しっぽトルネードで突っ込み旋風で吹き飛ばす。
こういうまきびしなどの小細工も風の鎧が吹き飛ばすから便利だ。
勢いを殺ぐ迎撃、身軽に加速、柔軟性向上。
「インファイトは不発したけど、防御のダウンは発生するんだよね……!」
「そこを見逃すほど、私も無知じゃないよ。オオタチ、行こうか。とっておき!」
切り札を使うときが来た。
とっておき、マキシマム!
お星様になった地上の星が、猛スピードで飛来する。
アクセルベタ踏みからギア、全開。
横に避けろとネモは指示。
ルガルガンは眼前でステップでギリギリ回避。
過ぎた横合いをお星様が通過する、と思いきや。
「横に逃げたよオオタチ!」
「待って、その機動は流石に無理だってば!!」
お星様、減速せずに急に真横にスライドした。
ルガルガンの尾に擦った。それだけで体躯が浮いた。
ひっくり返るルガルガン、バランス崩してコケる。
「出来ちゃった!?」
要はお星様で突き進むオオタチも、横目で見てステップで追撃しただけ。
急な方向転換? ブレーキせずに軸を横合いにずらすだけだろう?
通り過ぎたとっておきは外れたが、擦りはした。
フィールド端っこで急停止、オオタチが振り返るとアンナが起き上がっているルガルガンに、素直に捨て身タックルをぶつけるように言う。
防御のダウンは時間制限。タイミングを逃すのは世界一ややこしいカードだけで良い。
背面、取った。もう分身は要らない。
振り返るルガルガン、ニヤッと笑ってネモの言うとおりアクセルロックで応戦。
ぶつかり合う捨て身タックルとアクセルロック。
捨て身タックルは半減だが、アクセルロックは元々低火力。
相殺して、互いに仰け反る。
「吃驚した……。とっておきの軸ずらすとか思いついても物理的に無理だって。アンナ、オオタチに無茶振りは良くないよ」
「出来たよ?」
「この子だからね。普通のポケモンには一定の物理的な制限があるんだ。フリーダムにイメージするのは良いけど、無法はダメ」
無茶振り厳禁、オオタチという変異個体だから出来たことだとよく言っておく。
「……つまり、イメージの構造が理に適ってない?」
「そうなるね。数式なら中身が素っ飛びすぎて破綻してる」
二人のやり取りを見ていてクラベル校長は愕然とした。
チャンピオンのネモが、本気で挑んで拮抗している。
アンナとオオタチ、双方がクラベル校長の予想以上に開花している。
とりあえず終了。一旦、休憩をしよう。
クラベル校長の頭がついていけない。
「もう終わり? もう少し試したいイメージが……」
「幾らでもオオタチの相手ならするよ。何か先ずは聞かせて」
不満そうなアンナ。
バトルの楽しさは理解して想像力が溢れ出している。
オオタチを連れ戻す彼女。ネモも引っ込めて皆で豪邸に帰る。
アンナは分身殺法オオタチシャドーはどうだろうとか言い出す。
(爆熱しそうだなぁ。そもそも邪神、貴様……見ているなッ!! 最初から本気のネモとやり合えたよ私、凄くない?)
オオタチも大立ち回りに驚いた。
これが主人公、変異個体。
強い。これなら、この先相棒にぴったりだろう。
ポジションゲット。
ポケットモンスターオオタチ、好評発売中!
『面白かったですよええ。然しパリィは卑怯でしょう』
脳内の邪神が返答する。
受け流す極意を何を言うか。オオタチという柔軟性によるポケモン故の強みだろう。
(勝てば官軍!)
『おっ、そうですね』
汚い返事を止めろと言いつつ、この後二人は登校を開始する。
運命の出会いが、待っているのだった。