転生オオタチ、変異個体ですが主人公のパートナーです。 作:マスターカード
こうして。無事に都市部にやって来る。
都心では大通りが賑わっていたり、バトルコートで試合が行われていたり、屋台が出ていたり。
まさに都会。この奥の上層にアカデミーはある。
三人は東西南北の門を潜り、中心部の大通りに来た。
ここからネモの言う心臓破りの階段があったり、アカデミーの広い敷地があったりする。
お店もいっぱいある。
お上りさんのアンナは思わず寄り道をしようとする。
「アンナ、今日から編入でしょ。遅れてるよ」
「広い……お店も沢山……。思い描いてた都会だぁ!」
都会に来た田舎者の典型的な浮かれように呆れるネモが、急ぐように言う。
せめて午前中にはアカデミーに行かないと。
オオタチはフラフラするアンナについて行き、適当に買い物でもすれば良いとも思うが、ミライドンの事もある。
急いだ方が良いか、と考えているときだった。
ペパーは悪いが先に行くと言ってアカデミーに向かい、駆け出していった。
ネモも買い物なら明日にでも付き合うからと言って遊びに行こうとするアンナを止める。
意外とこういうのはアンナは年相応と言うかそれはいい。
アカデミーに遅れると言いながら、説得して宥める。
「……分かった。観光はアカデミーに行ってからにする」
渋々、我慢してアカデミーに向かう二人。
編入初日にミライドンの関係で遅刻。
急いで階段を上がっていこうとする。
……その階段のある前の大通りに賑わっている。
騒ぎだろうか? 爆音がして、人だかりを超える上でポケモンが吹っ飛んでいく。
「あちゃー……またスター団かぁ。今は誰に絡んでるんだろう」
頭痛がするように、ネモが呟く。
基本的に都市部でのバトルは禁止であり、街中でドンパチするのは校則違反。
なのに、誰かがバトルをやっている。
人混みに混じって、ネモ達は前に進んでいく。
そこに居たのは、着崩した制服の生徒数名と。
黒い格好に青いマフラーをした、青年だった。
「今すぐ立ち去れ、スター団。強引な勧誘は俺が許さない。……それとも、いい加減アカデミーに来る気になったか? 不登校も大概にして欲しいな」
クールに決める、青年の前にはリザードン。
メガストーンをネックレスにしている。
(……おう? あれ、アニポケのアランじゃん。邪神、ここに何でアランいるのよ?)
オオタチが見て驚いた。彼はアニポケのライバルキャラ、アランという番外編最強メガシンカの主人公。
『あぁ、特別講師ですね。メガシンカをアカデミーで教えている世界最高峰のトレーナーです』
(この世界にサトシいんの?)
アニポケ世界だったのかと問うと否定に邪神は言う。
『近しい過去はありますが、厳密にはこの世界のアランというトレーナーであって、アニポケ時空とは経歴が違います』
(つまり、似た同一人物?)
『認識はそれでいいです。尚、彼女と実力はどっこいどっこいですから。テラスタルも込みで、二刀流なのでアニポケより強いですよ』
(原作より強いって、報われたなぁ……)
アランは公式でも優遇なのか噛ませ犬なのかわからない扱いを受けたキャラ。
それが教鞭を持つ特別講師。出世している。
「お、お疲れさまでスター!」
アランに気圧されて、数名はライドポケモンに乗っかって撤退していく。捨てセリフも完璧に。
「やれやれ……。事情はあれども、ああも暴れて見境がないのでは交渉のしようもないな。君、大丈夫か?」
ビクビクしている近くの女子生徒にため息をついて、アランは問う。
「あ、はい……。すいませんでした……」
何とボタンであった。まさかのイベントが、教師陣のアランが対処していたか。
頭を下げて、アカデミーの階段を上るように去って行く。
周囲の人だかりに、騒ぎを申し訳ないと謝罪して回るアランに、前に出て合流するネモ達。
「お疲れさまです、アランさん。おはようございます」
「……あぁ、ネモか。おはよう。ん、その子は?」
アランがアンナに気付いた。
アンナは目を見開いてリザードンをガン見している。
「この子はアンナ。今日から編入する一年生です」
「…………」
アンナはネモに言われても無反応。
自己紹介もせずに、リザードンを凝視して沈黙する。
「……俺のリザードンが、どうかしたか?」
アランの問いに、不意に呟く一言。
アンナは、ほぼ反射的に溢していた。
「――アレ。オオタチと同じだ」
刹那、ネモが仰天する。
特別講師のポケモンが、変異個体かと。
「……色違いのオオタチ?」
アランも彼女に気付く。ネモが慌てて言った。
この子は今朝見つかった変異個体のオオタチだと。
「変異個体……か。確かに、この個体は高い知性があるらしい。俺を見て、メガシンカを使うトレーナーだと即座に理解したようだ。ちょっと落ち着いて。物騒な空気を纏うのはよしてくれ。最初の時のネモみたいだな」
表情を崩して、アランは言い聞かせる。
面倒見も良いのか、焦れてるのは良くないと。
「アンナが、バトルしたいスイッチが入ったって事ですか?」
「あぁ、それもかなり強めに。俺のリザードンにこのオオタチをぶつけたいようだ。ネモ、オオタチも見て見ろ、ほら。全身の毛が逆立って殺気立ってる。随分と強敵認定されてるな。そんなに俺に興味があるのか」
アランがクールに笑う。
オオタチも指摘通り、邪神が止めろと言う程飛びかかろうとしていた。
『止めなさい、メガシンカは今すぐで無くとも良いでしょうに』
(アンナが私と同じって言うって事はスペックが無双レベルって意味じゃん。良いよ白黒つけようや、アニポケライバル最高峰! 世界上位の実力なら丁度良い、ネモみたいに邪魔されたくないからこの場で叩き潰す!)
アニポケ外伝主人公。
最強のメガシンカを目指した男。
サトシの絆変化ゲッコウガを追い込んだリザードン。
いいじゃないか。腕試しに。転生オオタチがこの世界でメガシンカを教えている原作主人公に挑めるなら。
「メガシンカ。聞いたことある。特定のポケモンだけができる強い絆と思いが、進化を超える極限の希望……」
「極限の希望……。そうだったら良かったんだけどな」
苦い表情でアランは自嘲する。原作に似た過去を送るなら、彼もまた被害者の一人だったはず。
「君は勘違いしている。メガシンカは、確かに強い絆と思いの結果。だが、それは希望とは限らない。究極の絶望かもしれない」
経験で指摘しても根拠の無い反論で言い返すアンナ。
「絶望で、メガシンカは出来ない。出来るわけがない。そんなの、ニセモノ。分かるよね、オオタチ。あのリザードンの、溢れるような強烈な光。絶望に墜ちたのなら、墜ちた星だから、余計に綺麗に輝ける……!」
リザードンは軽く困惑していた。
強烈な肯定。こっちに異常に期待する謎のオオタチ。
主人に至っては、目眩すら起こしている。
「墜ちた星からこそ輝ける……。おいおい、初対面で俺のリザードンの事をそんな風に言ってくれるのか。リザードン。俺達は……どうやら、期待されているみたいだ。明星、か。今の俺に、勿体ない言葉だな」
過去に過ちを犯した。償いのため今も活動を続ける。
アランの過去は、邪神曰く悪党の組織に良いように利用されてある地方を滅亡寸前に追い込む尖兵だったようだ。付き添う少女にも迷惑を掛けた。
そこの多くの者達との抵抗でアランは救われた。
彼等と共に悪党の歪んだ正義を討ち取った。
自分の呪いの言葉、己を通すなら最強であれ。
それを消してくれた戦友達に顔向けできるトレーナーになると決めた。
今教鞭を持つのは償いであると同時に己も磨くため。
メガシンカ。この現象を、起こせるトレーナーが正しい道を選べるように。悪い手本、反面教師という奴で。
なのに。墜ちた星、故にもう一度輝く時こそもっと美しい。まばゆく、綺麗で目を惹いてしまう明星。
……皮肉か、嫌味だと普段のアランなら思うだろう。
だけど、この少女の言葉には確かな重みがあった。
何の根拠か、自分でも分からない何かの説得力。
本当に、絶望でメガシンカなど起こしても紛い物。
真たるメガシンカは、絶望を超えた先の光こそ。
綺麗だと言った。惹かれているのも見て分かる。
自分は未だ本当の最強のメガシンカを目指している。
未練か、残り滓の羨望か。
どっちでも良い。ただ、言えることは。
(俺としたことが、ガラにも無い。久々に、純粋に胸が熱くなってきた……)
普段から冷静に努めているアランも、結局トレーナーの性である、バトルが好きで皆と交流して、目標を捨てきれない未熟者で。夢を、この少女に見抜かれた。
初対面で、リザードンを見ただけで。
自分が、まだ最強メガシンカに夢見る若者だと。
そう、言われたようなモノだった。
鮮烈な光。輝ける明星。
これ以上の賛辞は久しく聞いてない。
教鞭を、導く立場とは、見送る立場。
巣立っていく生徒達を、背を押す役目。
教える側が、生徒に刺激されてどうする。
(分かってる。俺は嘗て、取り返しのつかない事をしようとした。その分際で、夢を追うなどどの口が言える。なのに。俺は……まだ、こいつと世界を見る資格はあるのか?)
一度の償いで、全てを失ったと思っていた。
覚悟も、資格も。でも。
決して誰も否定はしていない。
アランは、顔を上げて良い。走っても良い。
許されたような気がした。相棒だった少女を思い出す。
彼女もアランを超えて強くなって巣立っていった。
今頃は故郷で腕を振るっている。
彼女も、アランを超えるかもしれない。
(……情けないな。何時からこんなに冷めていたんだ。俺だって一端のトレーナー。欲しい夢くらいある)
利用された夢、それでも今なら言える。
これが、アランの夢。
最強の、メガシンカを司るトレーナーになりたい。
過去利用されたとは言え、神話のメガシンカはもう超えた。ならば地平線を見渡すだけの立場であろう。
だから求めるのは、皆が憧れるような格好いいメガシンカを使う存在。
「なぁ、ネモ」
「何でしょう?」
ふと、気になって同じ高みに居る少女に問う。
メガシンカだけならアランの方が上。
だが総合ではアランよりも優れている天賦の才能をもつトレーナー。
拮抗する数少ない対等。
その彼女がアンナをどうして案内しているか聞いた。
アンナは校長からの依頼だという。近所だったから。
でも、と言う。
「アンナは……ハッキリ言えば強くなると思います。オオタチに、大人げないのに本気を出して、ギリギリの勝負をされました。初めてで、ですよ?」
ネモは断言する。アンナは才能がある上に自覚がある程度出来るらしい。
初の加速世界に突っ込んでも笑っていた。
「……面白いな。君の本気は上級者も根を上げるトップギアの世界だろ。ついてきたのか」
「変異個体で、特性が異常に機動性に特化してるんです。あのオオタチ。技もそう。誰かが逃がしたと思うんですけど、当たり前みたいに自分のポケモンみたいに指示出せてます」
ネモがアンナのバトルを語る。イメージを、最強の自分を、自由に描いてトレースする。
……アランも思った。それは、自由に見えてかなりの独特な理論を持ち出してきている。
理に適わないイメージなら即座に破綻する。
つまり、初見のポケモンなら深い造詣が必要になる。
実際、オオタチ以外では恐らくこのイメージを明確にするだけの知識が無い。
本人は、これならこうするというインスピレーションを持っていて、常識がオオタチには通用しない。
高い知性の判断で攻撃を受け流す、流動性に動くなど液体でも相手している気分になった。
ネモはあのまま続けていたら引き分けていたと正直に言う。
数式の理論でバトルするネモは計算の答えも分かる。
お互い、流して小突いてを繰り返して先にアンナがイメージを壊していたと。無限の想像を手数で来ても膨大なパターンにして処理して経験で追いつける。
オオタチ以外、アンナはまだ未熟。
アンナはやりたいと荒ぶるが、ネモが一発。
「アカデミー!」
と銀髪の頭にツッコミを入れ、ハッとするアンナ。
何時もはこっちが停止なのに、立場が逆転している光景に微笑んでしまうアラン。
「リザードン……。覚えておくから。絶対、オオタチと挑むから」
(ネモがストッパーか。仕方ない、覚悟しとけよ外伝主人公! 私らがメガシンカを超えてやる瞬間を!)
悔しそうにオオタチも落ち着いてアンナの言うとおり、アカデミーに向かう。
『血気盛んですね……。アランがいるのがそんなに意外でしたか』
(悲劇の外伝主人公ってだけで実力は本物だろうに。アニポケ正規の主人公に勝ったなら、その歴史を踏み込むのも転生の醍醐味!)
『まぁ、構いませんよ。アカデミーには原作にモブだったチャンピオンランクのトレーナーが居ますので。鍛えるなら、ネモ以外にもいるというのはご了承下さいね』
(そういえば無数に居るんだっけ、チャンピオン……)
ネモが最年少かつ最強のチャンピオンなだけで、オモダカを筆頭に無数に在学している。
そっちにも興味があるなら、行ってみると良い。
邪神はそう言った。
「さて。初日から油を売って遅刻は感心しないな。速く行ってくると良い」
アランとリザードンがアカデミーに続く階段を示して言った。
「アランさん」
「どうした?」
去り際、アンナは何処か目元に陰りを入れた表情で、笑みを浮かべていった。
「メガシンカ、私にも教えて下さいね。学科は総合ですけど、授業は選ぶので」
アランが思わず気圧される微笑で、アカデミーに向かっていく。
アンナという少女。根っこはネモと案外似ているかもしれない。
「リザードン。俺達は……もう一度、羽ばたいても良いらしい。あの子に、気付かされたような気分だ」
そうちょっとビビりながら、前に進む。
アランという最強のメガシンカをもう一度目指す、特別講師がいるアカデミー。
アンナはちょっとバトルという刺激が、合っているのだろう。
そう思いながら、自身も戻る。
教鞭を執る、その為に。