「ーー私が、私がハルトを守る」
「「!?」」
「...は?嘘だろあの女、目を醒ましやがった、」
「まさか、彼女に嗅がせたのは丸一日は眠り続けるはずの劇薬なのに...」
予期せぬ声の登場に全員が戸惑う。何故なら声の主は深い眠りにつき、起きることはない筈の女。
柱に手をつき、ふらつきながらも辛うじてといった具合で立っているセツナは心配する外野の言葉には耳を傾けず、真っ直ぐ倒れるカイトの方を見ながら険しい顔をして続ける。
「セツナ、お前目が...」
「何寝てるの?デュエルはまだ終わってない、諦めて投げ出すなら今すぐに私と代わんなさいよ」
「!?お前、そんな身体で」
「....俺は、」
「忘れちゃったの?私達はハルトの為なら何だって出来る。あの子の笑顔を取り戻すその時まで、絶対に誰にも負けない。
....ハルトを守って、救ってあげられるのは私と兄さん世界でただふたりだけなの」
「....」
「セツナ様....」
「.....わかるよ、もうとっくにボロボロだよね。
でもやるしか無い、どんなに辛くたって苦しくたって。私達が選んだのはそういう道だもの。
だから立ち上がって戦って。そして勝ってよ。お願い、頑張って......兄さん、...っ」
「!」
「セツナさん!?」
「セツナ!」
「セ、セツナ様!?」
そこまで言うと限界が来たのかセツナは地面に倒れ込む。慌ててオマケのお友達とカイトのロボットが駆け寄り、意識を失ったその身体を支えている。
一方、妹からの激励を食らったカイトはやっと起き上がり、再び眠りについた妹を一瞥した後、何やらブツブツと呟いている。
「...そうだったな、お前と俺の誓い。ハルトは絶対に守ってみせる。
そしてセツナ。俺はお前の事も必ず、こんな暗闇の中じゃなく、元居た光溢れる世界へ帰してやる」
ハルトォォオ!!また雄叫びの様に弟の名を叫ぶカイトに突如紅い光が降り注ぐ。眩い光が消えたかと思うと暗赤色のオーラを纏うカイトがそこに居た。
その面は先程までの焦りや怒りで満ちたものではなく、冷静さを取り戻したいつもの澄まし面、いや...なにか覚悟を決めた人間のそれをしていた。
「.....セツナ、ハルト。お前達がくれたんだな、この力を」
「ーー今、新たな力がカイトのデッキに宿った」
「新たな力...?」
「彼等三人の兄弟の絆が奇跡を起こしたんだ」
「っ....」
何故だ。圧倒的にこちらが有利な筈なのに、何故こんなに焦りを感じるのか。息を吹き返した様に力強くドローするカイトへ言い放つ。
「銀河眼ギャラクシーアイズの攻撃力は0!貴様のライフは僅か100!くたばり損ないに、何が出来るって言うんだ!!」
「くたばるのは貴様達の方だ!俺は手札からオーバーレイ・リジェネレートを発動!フィールド上全てのモンスター・エクシーズのオーバーレイ・ユニットをひとつ回復する。
ーーアストラル!そこにいるのか!」
「.....」
「お前は以前、俺と遊馬が似ていると言ったな。だったら俺に共鳴してみろ!」
「遊馬、我々のモンスターでカイトを助けるぞ!」
「ああ!カイト、オレのモンスターを使え!いっけぇええ!!」
この土壇場でアイツら漸くタッグデュエル紛いの事を始めやがった。しかしカイトの銀河眼ギャラクシーアイズは封じている。アイツのデッキの中にコイツ以上の攻撃力を出せるモンスターはいない筈だ。
IIIと目を合わせる。心配ない、次のターンのオレ達の勝利は揺るぎなど、
「俺はホープ・レイとダメージ・メイジをリリースし、フォトン・カイザーをアドバンス召喚!フォトン・カイザーはエクシーズ召喚に使う時二体分として扱える。
俺はレベル8の銀河眼ギャラクシーアイズと二体分となったフォトン・カイザーでオーバーレイ!三体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!
ーー逆巻く銀河よ、今こそ怒涛の光となりてその姿を現すがいい!降臨せよ、我が魂!!超銀河眼の光子龍ネオギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン!!」
「銀河眼ギャラクシーアイズが進化した!!」
「これが...私の感じていた、カイトの新たなる力...」
「いけ!超銀河眼ネオギャラクシーアイズのモンスター効果発動!フォトン・ハウリング!
超銀河眼ネオギャラクシーアイズは銀河眼ギャラクシーアイズを使って召喚した時、自分以外のモンスター効果を無効にする」
「何っ、オーバーレイ・ユニットを使わなくても効果を発動できるのか!?」
「超銀河眼ネオギャラクシーアイズ第二の効果発動!オーバーレイ・ユニットをひとつ使う事でフィールド上のオーバーレイ・ユニットを全て吸収!このターン攻撃力は吸収したオーバーレイ・ユニットひとつにつき、500ポイントアップしその数だけ攻撃出来る」
「攻撃力6000!?」
「しかも連続攻撃だと!?」
「超銀河眼の光子龍ネオギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン!アルティメット・フォトン・ストリーム!!」
「うわあああぁっ!!」
「III!!」
有り得ない、土壇場でこんなモンスターを出してきやがるなんて。攻撃を食らったマシュマッグは破壊され、その衝撃でIIIは大きく吹き飛ばされる。
「Ⅳ!懺悔の用意は出来ているか!!
アルティメット・フォトン・ストリーム!!」
「くっ、ぐあああああぁっ!!」
オレのヘブンズ・ストリングスも破壊され、弾き飛ばされる。デュエルの敗北が確定し、宇宙空間の様なARビジョンが消え元の荒れ果てた美術館へと戻った。
「バカな、このオレが負けるだと...」
「.....」
「、っハルトは、ハルトは何処にいる!何処にいるんだ!?」
「ケッ、知るかよ。そんな事」
「...ならば貴様の腐った魂に直接聞いてやる!」
お得意の技でオレの魂を狩ろうとしてくるカイトに紋章の力で対抗する。IIIの方も同じ様に力を発動させ身を守ったようだ。
「ハッ、無駄だ。オレ達はこの紋章の力に守られている。覚えておけ、オレ達が受けた苦痛の倍の苦痛をお前に返して....な、何だ!?くっ、」
「ーー帰るよⅣ。今日はここまでだ」
トロンの声が聞こえる。自分の意思とは関係無く異空間に身体が飲み込まれ消えていく。
「(チッ、クソが!このままで済むと思うなよカイト)」
こんな屈辱、腑はらわたが煮え繰り返りそうだ。そう思いながら目の前の光景を忘れぬ様脳に焼き付ける。完全に消える直前、最後に見えたのは青白い顔で眠り続けるセツナの姿だった。
♯
「落ち着けよ、お前らしくないノリだぜ」
「退け」
「ダメだ、こっから先へは行かせられねぇ」
「ハルトは俺が守る。お前達にハルトを好きにさせてたまるか....っ!」
「やめろカイト。お前がハルトの側にいても何も出来る事は無い。今はMr.ハートランドに任せるしか無い、...わかっているはずだ」
「...くっ、」
ハートランドタワーに戻るとハルトは緊急で処置室へ運ばれた。処置室へ入ろうとする俺の前にゴーシュとドロワが立ちはだかった。ハルトの意識は、未だ戻らない。
ドロワの言う通り、側に居ようと何も出来ることなどない。ただ手を取り祈るしかないのだ。
自分が今のハルトにとってどれだけ無力な存在が思い知らされる。
以前同じ様な状況でセツナと喧嘩した事がある。言う側だった自分が言われる側になるとは、血の上った頭の片隅でそんな事を考えていた。
「カイト、九十九遊馬にナンバーズのオリジナルが取り憑いてたと知っていたのに何故黙っていた?」
「....知っていたのか」
「まぁな」
「アイツは俺が狩る」
「よく言うぜ、仲良くタッグデュエルしてたの知ってるんだぜ?良いノリしてたじゃねぇか、....アイツはオレの獲物だ。倒すのはオレだ!」
「ナンバーズを持つ者は全て俺の敵。お前が俺の前に立ち塞がるのであれば、お前も俺の敵だ」
「.......」
ーー「ドロワ様!セツナ様の処置が終わりました」
「「!」」
俺とゴーシュが睨み合う中、ドロワへと連絡が入る。小さなホログラムで担当した医者が現れた。
何故俺に連絡を寄越さない。容態を確認しようと口を開きかけたドロワに割って入る。
「おい、セツナは無事なんだろうな!!」
「カ、カイト様!勿論です、よく眠ってはおられますが恐らく明日にも目を醒まされるかと」
「落ち着けカイト。....あの子が摂取させられた薬物の特定は出来たのか」
「血中から強めの睡眠薬と筋肉の緊張を引き起こす薬の成分が確認できました。ですが、どちらもごく微量でしたので命に別状はなく、後遺症などの心配もありません。恐らく摂取させた者はごく一時的な効果を期待したのかと」
「そうか、...おい、カイト!」
そこまで聞いてセツナのいる部屋へ走り出す。ドロワの制止が背後から聞こえるが知った事ではない。
処置室に辿り着くと無理矢理部屋の中に入る。部屋には先程の医者のみがおり、一瞬驚いた様な顔をした後直ぐに部屋から出ていった。
側にある椅子に腰掛ける。ベットの上で眠るセツナは相変わらず顔色は悪いものの穏やかな寝息を立てている。繋がれた機械から心拍数を告げる規則的な音が鳴り続けていた。布団の中から手を取り出して握ると白く細い手はか弱く、強く力を込めれば折れてしまいそうだ。
「.....よかった、本当に...」
頼りない自分の声が溢れる。早く目を醒ましてくれ、そう祈る様に手を握りしめて額に当てた。
「ーー全く、セツナの方もさっき門前払いを食らったばかりだと言うのに...」
「普段はクールを通り越して冷徹なアイツが、兄弟の事になった途端このザマだ。弱点にも程があるぜ。
....に、してもハルトのみならずセツナにまで危害を加えてくるとは、許せねぇノリだぜ」
「ああ。我々を敵に回すと言う事をそいつらに教えてやらねばならん」
♯
「なぁじぃちゃん。Mr.ハートランドってさ、一体何者なんだ?」
「そりゃお前、その名の通りハートランドのシンボル、子供達の人気者ということじゃろ」
「そんな事は分かってるさ、....うーん、」
風呂場の中に自分の悩む声が響く。違う、知りたい事はそんなんじゃない。
風呂から上がって縁側で涼んでいる時もアストラルとじぃちゃん、姉ちゃんにその話をする。
「シンボルで人気者ってことはわかったけどさぁ、そう言う事じゃなくてさぁ....」
「表があれば裏がある、光ある所に影がある。まあそうしたものだ」
「影?」
「Mr.ハートランド、その背後には黒幕がおると言われておる」
「....」
「黒幕?何だよそれ」
「100年に1人の天才と呼ばれた科学者『Dr.フェイカー』」
「ソイツが黒幕?」
「謎に包まれた人物でな、滅多に表には姿を現さず今は生きているのか死んでいるのか...。ハートランドシティを作り上げたのはDr.フェイカーと言われておってな、この街を裏で操る権力者と囁かれ、今もあらゆる所に奴を慕う者がおるという」
「そのフェイカーじゃ。一馬が最後にガイドしたものは」
「えっ?」
「キミの父さんとフェイカーという人物、そしてMr.ハートランドが繋がっている。....そして、」
アストラルはそこまで言うとまた何か考えている。
視線をハートランドの方へ向ければ随分と遠くにシンボルであるハートランドタワーが見えた。
「(オレが踏み出すその先に父ちゃんはきっと居る。
....そのためにもデュエルカーニバルを必ず勝ち抜く)」
「(Dr.フェイカー。何処かで聞いたことのある名前だと思ったが...)」
ーー…オレを、いやオレ達家族をこうしたのは紛れもなくDr.フェイカーだ。その子どもであるお前達にも纏めてその報いをうけてもらう。
「(Ⅳのこの言葉が本当なら...、そしてまだ姿の見えない不思議な紋章の力を操る勢力を率いる者。彼とDr.フェイカーの間に一体何があったというのだ...)」
まだ謎は解けぬまま、けれど明日へ向かい夜は更けていく。
「そのカードを入れるなら、さっきのは必要ないな」
「うっるせぇっつーの!いるっていったらいるんだよ、いるの!!」
「...ならばそこのトラップでカバーした方がいい」
「...そこのってどれ?」
「そこだそこ、それ!」
「......アストラル、勝つぞ」
「勿論だ」