「...大分客が入ってるね。良いだけ儲けられてハートランドは笑いが止まらないでしょうね」
「Dr.フェイカーに近づいたのも所詮金儲けが目当てだろう。あの小悪党が」
「その小悪党が今じゃハートランドシティの人気者なんだからとんだ名役者だな。オスカー狙えるわー」
こんな低レベルな演技に容易く騙されるとは、どいつもこいつも目が節穴だとしか言いようがない。そう言い放つ兄の表情は固く、目の前の巨大なホログラムに映る悪魔を睨みつけていた。
いよいよ始まる決勝大会。スタジアム内に降り立った私と兄さんは他の参加者と共に開始の時を待っていた。
ここに立てるのは10000人の中から勝ち抜いてきた23人、例えナンバーズを持たずとも強者である事に変わりは無い。
「(昨日のお祭り気分はもうおしまい。.....まあ、息抜きどころか事態が最高に悪化してめちゃくちゃ疲れただけだったけど)」
あー、ナンバーズハンターモードに戻らなきゃ。そう思いつつ、応援の声には手を振っておく。名前を呼ばれた方向ににこり、と笑いながら手を振ると歓声があがった。懐かしいな、この感じ。昔と同じだ。
但し中身はまるっきり別人になってしまったようなものだが。
それでも事実を知らない観客からすれば、デュエル大会に参加しているデュエリスト、しかも曲がりなりにも元デュエルチャンピオンなのだ。私のデュエルを楽しみにしているデュエルファンは多い。ナンバーズを持たぬ者や純粋に大会を楽しんでいる観客には昔の私の姿と同じものを出来るだけ見ていて欲しい。だから、誰かさんと同じ言葉を使うのは不愉快だが、多少の『ファンサービス』は必要だ。
「.....うっかり出くわさないように気をつけるけど、もし出会って倒しちゃっても恨みっこなしね」
「フン、その言葉そのまま返してやる。俺が全てのナンバーズを回収する、負けた時の心配はしなくていい」
「はあ?負ける?誰が??私を誰だと思ってんだか。本っ当失礼しちゃう、ボッコボコにしてやるから覚悟しときな」
目線は合わせず、観客に笑顔でひらひらと手を振りながらそう言って兄と別れた。ここからは兄とも敵同士だ。
適当な位置まで歩いてその時を待っていると参加者のひとりが近寄ってきた。戦った事はないが確か各地の大会で入賞している実力者だった筈。にこやかな笑顔とは裏腹にこちらを値踏みするような視線が不愉快だが、こちらも薄っぺらい笑みを貼り付けて仕方なく男が差し出した手を取る。
「これはこれは、本当に貴女が参加されているとは驚きです。大会に参加されなくなってもう1年以上になりますか。デュエリスト達は皆女王の還かえりを待ち侘びていましたよ」
「そう仰って頂けて光栄です。腕が錆び付いたと笑われないよう頑張ります」
「そうですねぇ、サイバー流どころか機械族を『捨てた』貴女がどんなデュエルをされるのか皆期待していますよ」
すっと自分の目つきが鋭くなった自覚がある。相手はこちらを蔑むような笑顔のままなのに、その言葉と共に握られた手に力が込められ少し痛い。
周りのデュエリスト達もどうやら我々の話に聞き耳を立てていた様で一瞬水を打ったような静寂が生まれた。多方向からの視線がこちらに突き刺さってくる。観客はデュエリスト達の様子が少しおかしい事にざわつき始めた。
随分な言われようだが、こう言う輩がいるのは確かだ。
そもそも若干14歳で、しかも女の身で、いきなり現れ頂点まで駆け上がった私の存在を気に食わない者は山程いた。デュエルに限らず、どの分野にだって珍しい事ではない。王者として許したくない存在を自身の中で決めつけ、それ以外は認めようとしない者がいるのは。
そして、そういった者には実力で解らせてやるのが一番効く。
だからそうしてきた。私の勝利に文句を言う輩は全て圧倒的な実力を見せつけた上で勝って捩じ伏せ、認めさせてきた。そしてこれからだってそうしていく。
けれどやはり、思った以上にサイバー流と『丸藤亮』が後ろ盾として付いていたのは大きかったのだと改めて実感する。元々サイバー流はデュエルモンスターズの中でも最古参の流派のひとつで現在の継承者はあの伝説のデュエリスト丸藤亮だ。多くのファンから根強い人気を持つのは言うまでもない。その二つが無くなった途端雑魚が堂々と喧嘩を売ってくると言う事は後ろ盾の無くなった小娘など怖くないと、思われているに違いなかった。
「(この男は、一体私の何が気に食わないんだろうな。年齢か性別か、それともそれ以外の何かか。まあどうでもいいけど)」
会場のざわめきが大きくなっていく。我々の間に火花が散っているのを見て観客のボルテージはヒートアップしている。主催者のMr.ハートランドは愉快そうな顔でこちらを見ており、この盛り上がりに気分を良くしたのか止める事なく静観することにしたようだ。
「(あ、まずい。これ以上大事になると兄さんが出てくるかも、うわっほらでてき...いや、待てなんでお前も来ようとしてんだよ)」
さっき分かれたばかりなのに「何を絡まれているんだ」と言わんばかりに大変不愉快そうに顔を歪めながらと大股で向かってくる兄と、昨晩よろしく大変険しい顔で「雑魚にいい様に言われてんじゃねぇよ」と今にもキレ散らかしそうに此方に近づいて来る凌牙くんを視界の端に捉え、慌ててそれぞれに『邪魔するな』の意味合いを込めて視線を送り軽く首を振る。
ふたりともえらく不服そうな顔をしながらも足を止めたのを確認し、目の前の男にニッコリと笑みを浮かべて話しかけた。
「『捨てた』ね。どう仰って頂いても構いませんよ、デュエリストならばデュエルで証明すれば良いことですから。早く戦いたいですね、楽しみが増えました。.....ああ、それと、」
「!」
一歩近寄り、笑顔から一転表情を無へと変える。じっと圧をかけるように相手の目を見るとはっと相手が息を呑んだのがわかった。
「私の心はずっと、彼等と共に在る。本当に『捨てた』のかどうかその目でよく確かめて頂くといい。
そして思い知りますよ。私が一体何と呼ばれていたのかを、ね?」
「!、っ....」
「それでは失礼します。絶対負けないで下さいね、私と当たるまでは」
怯んだ拍子に緩んだ相手の手から自分の手をするりと引き抜くと、聞き耳を立てていたであろう周りのデュエリスト達に挑発する様にニヤリと笑いかける。私の宣戦布告にデュエリスト達は口角を上げたり、気に食わなそうに唇を噛んだりとそれぞれだ。兄さんと凌牙くんも私の態度に溜息を吐いた後、遠くへ離れていった。
よし、事なきを得た。カツカツとビールを鳴らしながらその場を離れると今度はドロワとゴーシュに声を掛けられる。
「全くお前は...、変に相手を挑発するな」
「えー、だって売られた喧嘩は買う主義だし」
「いいじゃねぇか。派手にかましていけよ、そうじゃなきゃ面白くねえ。...まあカイトには怒られない程度にしとけ」
「え?...うわっまだこっちガン見してる、怖っ」
「カイトの心労が手に取るようにわかるな」
「そんな、まるで問題児みたいな言い方」
「その通りだろう」
「違いねえ」
うんうんと頷くふたりにそんなことないもん!と言おうとした瞬間、Mr.ハートランドの大きな声がスタジアム内に響き渡った。
「これよりワールド・デュエル・カーニバル決勝大会を開始します!ファーストステージはパーク・セクション。このハードランド全ての場所でデュエルする、名付けて『デュエルコースター』!」
「これかあ、ちょっと前から一生懸命作ってたやつ」
「Mr.ハートランド肝入りの企画だそうだ」
「金の掛け方が半端ねぇノリだが、この客の入りなら簡単に、」
「すっげえ!これがデュエルコースターかあ、ワクワクするぜ!」
説明にそれぞれ感想を述べていると近くから聞き馴染みのある声が近くから聞こえてきた。思わず三人目を見合わせて彼の方まで歩いて行く。
「浮かれ過ぎると大怪我するぞ。デュエルコースターは遊びじゃない」
「!アンタ、ドロワ...」
「確かにドロワの言う通りだ。こいつは生きるか死ぬかの真剣勝負」
「ゴーシュ...」
「だが、...楽しもうぜ」
「ああ!勿論だ!」
「じゃあ、ふたりが楽しんでる間に私はナンバーズを回収しまーす」
「セツナ!?」
「ふふ、何時迄もお祭り気分で居るとすぐに魂ごとナンバーズ貰っちゃうから」
「なっ、そんな事させねぇ!オレが絶対、お前もカイトも、ハルトも助けてやるって決めたんだ!」
「そう、それは楽しみ。なら私と兄さんに勝たなくちゃね。精々頑張ってね、...アストラル」
「はぁ!?何でアストラルなんだよ!」
「いや、遊馬よりアストラルのが何倍もデュエル上手だし。注意するならそっちかなって」
「彼女に認められるとは光栄だな」
「お前も納得してんじゃねー!!」
「...セツナ、私はキミに確認したいことが」
「今は嫌、でも私に勝ったら何でも教えてあげる。じゃーね、すぐに負けるなよー」
地団駄を踏みながら悔しがる遊馬といつも通り冷静なアストラルドロワ、ゴーシュに別れを告げひとりデュエルコースターに乗り込む。他の参加者達も次々とコースターに乗り込んだ。
「さあまもなくゴングが鳴る。勇者達よ、戦いの準備を整えろ!そのコースターはキミ達のDパットとリンクする。デュエルディスク、セット!」
各々がデュエルディスクをセットするとARビジョンが展開する。ハートランドの指示通りハートピースをコースターに置けばモニターが現れ、コース図の様なものが表示された。
「へー、このMとTは気をつけないといけないやつね」
マジックとトラップの頭文字であろうそれらの場所を確認する。取り敢えず走りながらデュエルすればいいって事かな。
すぐにハートランドのスタート合図と共にコースターは一気に走り出した。勢い良く飛び出して行ったコースターに観客からは歓声が湧き上がる。
さて、ここからどうしようかな。快調に飛ばすコースターに乗りながらこの後のことを考えていると後ろから猛スピードで追いかけてくるコースターの存在に気がつく。
「先程の約束、もう果たせましたね。貴女には早々に消えてもらう!」
「...しつこい男は嫌われるんだよ。こうなったらレディの扱いを一から叩き込んであげようかな」
走るコースターそのままに後ろを向いてニッコリ笑う。こちらを睨んでくる男に向かって右の掌を空へ向け、指でくいくいと手招きするように挑発すると更に目を血走らせてこちらに向かってきた。
「来なよ、お望み通り相手になってあげる」
♯
「遊馬、あそこでセツナが戦っている」
「何だって!セツナが!?」
「!右上よ、男の人とデュエルしてるわ!」
遅れを取り戻す為、猛スピードで走るコースの右隣少し前方で気付けばデュエルしているやつらがいた。
その差は圧倒的で無傷のセツナに対して相手の男はライフがもう400。セツナの場には銀河眼ギャラクシーアイズに似たドラゴンと別のモンスターが一体がいるが、相手の場は伏せカードが1枚で後はガラ空き。すぐにでも勝負が決まりそうな状況だった。
デュエリスト達の乗るコースターは会場の実況や各参加者の様子も聞いたり見れるようで興奮した様子のハートランドの声がスピーカーから聞こえてきた。
「おおーっと!今大会優勝候補筆頭、一昨年のデュエル世界チャンピオンであるセツナも早速デュエルしているぞ!コレは見逃せない!勝負は決まりそうだが対する相手も数々の大会で入賞している強者、さあどうなる!?」
「私のターン、ドロー。さて、このまま光波サイファーで終わらせてもよかったんですけどね。約束ですから見せて差し上げますよ、今の私と共に戦う『サイバー達』を。
私は銀河戦士ギャラクシーソルジャーを召喚。フィールドの銀河戦士ギャラクシーソルジャーと合わせ、2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!現れろ、サイバー・ドラゴン・ノヴァ!」
「「サイバー・ドラゴン!?」」
「な、何だと!?」
「セツナがサイバー・ドラゴンを使ってる!?」
「以前見たサイバー・エンド・ドラゴンとは違うモンスターか。興味深い」
「.....やはりノヴァとインフィニティを抜いてはいなかったのか」
「ハッ、やっぱ似合うぜ。アンタにはそれが一番」
「凄い!セツナがサイバー・ドラゴンを使ってる!」
「くぅー!やっぱサイバー流が似合うぜ!」
「わあ....ノヴァカッコいい...」
「サイバー流最高!!」
「なんと!サイバー流次期後継者を辞退したセツナから繰り出されたのはサイバー・ドラゴンの派生モンスター!!何と言うサプライズ!観客の心は大いに燃え上がっているぞ!」
自分達だけではなく観客もセツナのモンスターに驚いている声が聞こえる。その声も聞こえているであろうセツナは楽しそうに続けてこう言い放った。
「あらあら皆さん、驚くのはまだ早いですよ。
私はサイバー・ドラゴン・ノヴァ1体でオーバーレイ・ネットワークを再構築!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!
ーー『無限』の名を冠する機械竜よ、目の前を立ち塞ぐ全ての障壁を打ち砕け!お前に戦いを挑んだ事を後悔させてやりなさい!
出でよ、サイバー・ドラゴン・インフィニティ!!」
「「!?」」
現れたサイバー・ドラゴン・ノヴァはあっという間にその姿を変え、より大きく黒く光る機械竜が現れた。インフィニティはセツナを護るかのように大きく翼を広げて、相手のデュエリストへ向かって怒りを表すかのように一度大きく啼く。それを見てセツナも穏やかに笑っている。
その表情かおは、まるで大事な友達に再会したかの様な優しい表情かおだった。
セツナの場に現れたサイバー・ドラゴン・インフィニティに会場のテンションは最高潮に盛り上がっているようで地響きの様な歓声がスピーカーから聞こえる。
「サイバー・ドラゴン・インフィニティはオーバーレイ・ユニットの数×200攻撃力が上がる。オーバーレイ・ユニットは3つ、よって攻撃力は2700!
私はサイバー・ドラゴン・インフィニティでプレイヤーにダイレクト・アタック!」
「ふっ、甘いな!オレは罠トラップカード、『威嚇する咆哮』を発動!これでキミはこのターン攻撃宣言出来ない!」
「あはは!誰が甘いって?そんなものでこの子を止められるとでも?
ーーサイバー・ドラゴン・インフィニティ、効果発動!オーバーレイ・ユニットを取り除く事で相手の魔法マジック、罠トラップ、モンスター効果の発動を無効とする!
その邪魔な罠トラップを消してしまいなさい、インフィニティ!エヴォリューション・レザルト・フラッシュ!」
「くっ、そんな....」
「効果を発動した事で攻撃力は2500に落ちますが、まあそれでも十分ですね。攻撃を続行、止めを刺せ!インフィニット・レザルト・バースト!」
「ぐあああああぁ!!」
黒い雷の様な閃光を放つと相手のLPは0となった。
コースターから強制的に脱出させられた相手は空に弾き出され、パラシュートで浮かんでいる。ヘリコプターが回収に向かうみたいだ。
「It's amazing!これは圧倒的!流石14歳で世界の頂点まで登り詰めた天才ジーニアス。その腕は錆び付くどころか更に研ぎ澄まされている!帰って来た女王の活躍に今後も目が離せない!」
ハートランドが勝ったセツナを褒め称える声が聞こえる。セツナといえば先程インフィニティを出した時に見えた楽しそうな笑顔は消え、無表情で敗れた相手を見送るとコースターに乗り直しスピードを上げて居なくなってしまった。
「...アイツ、ノヴァとインフィニティを出した時すげぇ楽しそうだったな」
「ええ、セツナさんもだけどサイバー・ドラゴン達も何だか...嬉しそうに見えたというか...」
「銀河眼ギャラクシーアイズもそうだったが、彼女からはモンスター達へのを強い愛情と信頼を感じる。
こんなデュエリストは今まで見た事がない、これが彼女の強さの源なのか...遊馬、彼女に勝つのは至難の業だぞ」
「わかってる。それでもオレは絶対、アイツに勝ってみせる!行くぜ、待ってろセツナ!」
ハンドルを握り直す。早く、早くデュエルしてえ。スピードを上げるとコースターは風を切って街中を進んでいった。