立ちはだかる雑魚を千切っては投げていく。もう少し骨のある奴が出てくるかと思ったが、今の所肩透かし感が否め無い。世界中から強いデュエリストが集まってるんじゃなかったのか。ひとり不満を胸の中で零しながらもコースターは順調に進んでいく。随分と街中を走ったと思えば今度は地下へ潜っていくようだ。
「(この大会にそこまで強いデュエリストはいないな、順当に行けば最後まで残るのは私と兄さんになりそう。
アストラルと遊馬、凌牙くんも上位に食い込みそうだけど、問題はトロン一家か。ⅣとVよりトロン本人を早く潰したいな。きっと兄さんもトロンか、若しくはVを潰しに行くだろう。...それにしてもIIIが決勝に残ってこなかったのは意外だった)」
何故か姿を消したIIIの事を考えているとスピーカーからハートランドの声が聞こえてくる。
「さあ、パークセクションを生き残ったデュエリスト14人が今次なる戦いの舞台へと突入していく!
大空と太陽の光に包まれたスタジアムから、光なき暗黒の地下セクションへ」
コースターに7と数字が浮かび上がる。これは地下セクションに突入した順番だろうか。この後のルールが説明されるのに耳を傾けることにした。
「それではここで地下セクションの見所を紹介しましょう!ここでの目的はズバリ『一騎討ちの相手を決める事』!その舞台はマグマ、スペース、ジャングル、フラワーガーデン、4つの特性をもつフィールド。
ーーさあ、自分に有利なフィールドへ相手を誘い込みデュエルをするんだ!燃えろ、Heart burning!!」
そう言ってハートランドの言葉は終わった。
戦うフィールドは4つ、残っているデュエリストは14人ということはまずあと6人をコースターで走りながら倒さないといけないのか。
「(出来るならスペースフィールドでトロンと戦いたいけど...)」
雑魚に構い過ぎたせいで2番手に着けたトロンとは大分距離を離されている。しかもマップを見ればトロンのコースターを2台のコースター、兄さんとドロワが追っていてここからこのふたりを抜かして追いつきデュエルするのは難しそうだった。
「ドロワ...」
ドロワがトロンを倒そうとしている。一見すると理由の見えない行動は彼女の深い愛からくるものだとすぐにわかった。もう随分と前からドロワが兄さんを見る眼差しは友人に向けるものではなく、愛しい者への想いが込められていた。直接聞いたことはないがあの熱烈な眼差しを見れば一目瞭然だろう。残念ながら本人は全く気付いていない様子だが。
ドロワは十分強い。ただトロンの実力は未知数ながら、息子達の能力の高さを見ていると父である彼もかなりの手練である事に違いないだろう。加えてハルトから奪い取り更に強くなった『不思議な』力。デュエル中にこちら側に何かしでかしてくる事は想像に容易い。
気をつけて、ドロワ。モニターを見ながら呟くと自分の事に目を向ける。取り敢えず手近にいる奴を倒すしかない、そう思った時いきなりコースターが進む先が暗闇に包まれた。
「は!?何これ、ちょっとどこ行くの!?」
故障?何らかの特別仕様?大丈夫なのこれ??
混乱しながら別の道を探そうとももう道を変えることはできなかった。コースターは全くスピードを落とさず進み続け暗闇の中に飲み込まれる。一瞬恐怖から目を閉じすぐに開くと、
「はあ!?セツナ!?」
「ゴーシュ?!どういうこと!?」
止まったコースターの目の前には今まで居なかったはずのゴーシュ、そしてその奥にはトラップポイントがオープンしている。さっき走っていた所とは全然違う場所に突然ワープしたようだが、一体何がどうなっているのか。
困惑する私達を他所に別のコースターからの通信が繋がる。Vの落ち着いた声が辺りに響き渡った。
「悪いなセツナ。その男がしつこいのでそのトラップポイントを利用させてもらった。
罠トラップカード『地縛霊の誘い』。この地下セクションでは攻撃対象でなくランダムに対戦相手を変更できるようだが....、選ばれたのは君だったようだ」
それでは。そう言うと通信は切れた。残された私とゴーシュは無言で目を見合わせた後溜息を吐いた。
「ゴーシュ、Vと戦おうとしてたの?」
「ああ。アイツがハルトやお前を攫った張本人だろ。その他諸々含めて、オレの顔に泥塗りやがった落とし前をつけさせてもらおうと思ったんだが、...やられたな」
「コースターが動かない。デュエルして勝敗が付かないとやっぱりダメみたいね」
このトラップポイントの前には直前にひとつだけ横に逸れるレールがある。Vはギリギリまでゴーシュを引きつけてこのレールへ逃げたのだろう。ゴーシュの顔には悔しさが滲んでいる。
そもそも、果たして本当にこういうシステムがあるのか、はたまたあの『不思議な力』によって不正を働かれているのかわからないがレバーを押しても引いてもコースターはびくともしない。目の前のトラップポイントは早く戦いなさいと言わんばかりにキラキラと光っている。
「おっと、トラップポイントで2台のコースターが止まっている!このポイントで止まったコースターは選ばれたデュエリストと強制的にデュエルしなければならない!
そして止まったコースターはWDC元運営委員のゴーシュ、選ばれたのはなんと元世界チャンピオンセツナ!
これは大会屈指の好カード!目が離せない戦いが始まるぞ!」
ハートランドの解説の後、大観衆からの歓声が聞こえる。あの感じだとトラップポイント自体は元から準備されていたもののようだ。別に私が倒したいのはゴーシュでは無い。どうにかデュエルを回避できないかとも思ったが、これだけ大々的に言われてしまってはデュエルは避けられない。
「....こうなったら仕方がねぇ。どうせ遅かれ早かれデュエルするんだ。楽しもうぜ、セツナ!」
「そうね、なら遠慮なくここで叩き潰させてもらう!私を相手に楽しくデュエルする余裕があるといいね!」
お互いに立ち上がり、デュエルディスクをセットする。ここまではどいつもこいつも歯応えのない奴ばかりだったが、やっと骨のあるデュエリストと戦えるようだ。
目を見合わせると今度はふたりしてニヤリと笑った。
「「デュエル!!」」
♯
「カイト、いつかキミと戦う日が来ることはわかっていた。…あの真実を知った日、私の心は憎しみと復讐に囚われてしまった。そう、あの日から」
「...アンタはセツナとハルトを傷つけた。その懺悔をしてもらう。いくぞ!」
宇宙空間のようなフィールドの中で俺達のデュエルは始まった。Vは1ターン目からナンバーズを召喚するが、その姿は見えない。
「どこだ、奴のモンスターはっ」
「どうした?キミのターンだぞカイト」
「くっ…俺のターン、ドロー!」
例え姿が見えなくとも奴のモンスターが召喚されているのならば…、手札からフォトン・デルタ・ウイングを召喚し攻撃を仕掛けるが、
「残念だがキミの攻撃は私には届かない」
「何!?馬鹿な…」
「それで終わりかな。ならば私のターンだ」
オレのモンスターのモンスターの攻撃は吸い込まれ、ダメージを与えることはできない。だが、奴のモンスターはいとも簡単にオレのフォトン・デルタ・ウイングを破壊しこちらにダメージを与えてくる。
「一体、何が起きているんだ…」
「わからないだろうな。今の私のデュエルはキミの想像を超えている」
あの頃とは違う冷たい目と抑揚のない声色で俺に向かってそう言い放つ。何故、アンタはそんな風になってしまったんだ。
記憶の中のクリスは俺達兄弟を温かく見守ってくれていた。デュエルに関しては厳しい指導をされることもあったが、根底にはこちらを思う優しさが感じ取れた。だが、今は違う。目の前Vからは深い憎しみしか感じ取れない。
いやそんなこと、考えても仕方がない。そう思いデュエルを続行しようと口を開こうとした時、一台のコースターが俺達の間に落ちてきた。
「あっ、カイト!」
「貴様…、」
「カイト、オレはお前に伝えたいことが」
「俺に?」
「ああ!ドロワが、ドロワがデュエルで…トロンの奴にやられちまった」
「!」
いきなり現れるなり喋りだした遊馬の言葉に、ほんの少し自分の目が見開いたのが分かる。アイツが負けた…ドロワは十分強い。それを退けるとはトロンの力はやはり侮れない。
「ドロワは、アイツはお前のために必死になってトロンに立ち向かった。でも…、」
「……」
「ドロワは、お前のことが…」
「俺には関係ない」
「!お前、」
「そんな…」
「カイト様…」
切り捨てるように言い放つ。そう、関係ない。ハルトとセツナ以外の人間などどうなっても構わない。そもそも俺の邪魔をしてトロンへ戦いを挑んだからこうなった。そんなこと、しなければよかったものを。俺の物言いが気に食わなかったのか遊馬は怒りながら胸倉を掴んでくる。払い除けようとすると今まで黙っていたVがすぐ近くまで来ていた。
「九十九遊馬。一馬さんの息子の…」
「お前…」
「こんな所で役者が揃うとは。…これも、運命なのかもしれない」
「!お前にも聞きたいことがある。父ちゃんは、オレの父ちゃんはどこにいる!?」
「……いいだろう。デュエルを再開する前に私の知っている事を全て話そう」
「ふざけるな、俺はアンタの話など聞く気はない!さあ、デュエルを続けるぞ」
「カイト、この話はキミにとっても関わりがある筈。勿論キミの妹であるセツナにも。私達家族が何故このデュエル・カーニバルに突然現れたのか。そして何故私達がキミ達兄弟、…いやキミの父Dr.フェイカーに復讐しようとしているのか」
「!?あのDr.フェイカーが、カイトとセツナの父ちゃんだって…?しかも、お前達が復讐を?一体どういう事なんだよ…」
「……」
「オレの父ちゃんとカイト達の父ちゃんが…」
「これからする話にその答えがある」
そういうとVは静かに話始めた。
♯
今から5年前。Dr.フェイカーとトロンもとい、バイロンはずっと異世界の扉を発見しようと研究を続けていたが、研究は暗礁に乗り上げていた。そんな中同じく異世界の扉を探す冒険家である九十九一馬という男に助けを求めることにした。
「研究室にいたんじゃわからないこともある。答えは二十三次元方程式だ」
九十九一馬の助言を受け、新たな計算式を基に次に異世界の扉が出現するであろう場所を見つけ出した。
目的の場所は人里から遠く離れた森の奥深く、崖を登り谷を越えねばならない。ヘリでたどり着ける所までは研究チーム全員で向かったが、その先へはDr.フェイカー、父、そして一馬さんの三人で行く事となった。
「大丈夫だ、心配するなクリス」
笑顔でそういった姿を見たのが、最後の『父』の姿だった。この後は帰ってきた父トロンが私に話してくれた記憶の内容。
3人は目的の場所を目指し、地の底へ降りて行った。道なき道を進み、何日間も野宿を繰り返した。
「…一馬、我々は本当に辿り着けると思うか」
「目的地は前人未踏の地です。ですが、だからこそチャレンジする意味がある、…かっとビングですよ」
「かっとビング?」
「諦めずにチャレンジする気持ちです」
そういいながら一馬さんは家族の写真を取り出して眺めていたそうだ。娘と息子、息子はデュエルに夢中だという。
「うちの息子たちもだ、私にも3人の息子がいる。…フェイカーにも息子がふたりと娘がひとり」
「…Dr.フェイカーはどうしてあんなに思い詰めてるんです?」
「わからない、…だがフェイカーは本物の天才だ。きっと何か考えがあるのだろう。それに私は何としても彼に異世界の扉を見つけさせてやりたいんだ」
「ーーDr.フェイカーは貴方のような親友をもって幸せだ」
「ははっ!親友、か…」
そんな話をしながら夜を明かした日もあったという。まさかフェイカーが自分達の魂と引き換えに異世界の扉をこじ開けようとしているとは知らずに。
それから3日後、3人はついに目的の場所に辿り着いた。
遺跡のような場所には侵入者を防ぐためのトラップがいくつも仕掛けられていたという。何とかそれらを搔い潜り、最深部まで進んだ。そこは細い道と階段の先に高くそびえ立つ展望台をつけたような造りになっていた。
あとから考えれば『生贄』を差し出すために造られたもののようだったと父は言いながら笑っていた。
上まで登った父と一馬さんはいきなり紅い光に包まれた。体中に電気が流れているかのような感覚に苦しんでいるとDr.フェイカーの高らかな歓喜の声が聞こえていたという。
フェイカーは階段には登らず、下からふたりにこう声をかけた。
「フェイカー!?」
「ついにこの時がきた!キミ達には悪いと思っている」
「一体何のつもりだ!?」
「その足元にはこう書かれてある。『二つの魂を捧げる時、大いなる扉が開かれる』と」
「まさか…、我々を生贄にするつもりなのか!?フェイカー!!」
「…私は異世界の扉を見つけなければならない」
「Dr.フェイカー!バイロンは親友ではなかったのか!?」
「親友?下らん。もし親友だというのならば喜んで私の為の犠牲になってくれ、バイロン!!」
「っつ、フェイカー!!」
「所詮お前のような凡才にはわからんさ!!」
Dr.フェイカーからそう言い放たれ、失意と絶望のうちに異世界へ飲み込まれようとする父を一馬さんは必死に助けようとしてくれた。
「一馬手を離せ!でなければキミも、」
「やんちゃ坊主曰く、『デュエルをすればみんな仲間』だそうです。私にとって冒険がデュエル!冒険を共にするものは全て仲間!」
「一馬……」
「オレは絶対諦めない!」
「さあ消えゆくがいい!」
「くっ、ぐあああああ!」
「っ、この恨み忘れんぞ!フェイカー!!」
結局、父と一馬さんは異世界に吸い込まれた。ふたりは目的地の捜索中に行方不明なったとだけ説明され、遺跡からはDr.フェイカーのみ戻った。
♯
「……それが、父ちゃんの最後」
「……そうだ。だが私の父は戻ってきた。異世界の狭間を彷徨いながら、復讐だけを心の糧として。しかし、代償としてその姿は変わり果ててしまった。
ーーーーそれが我が父、今のトロンの姿だ」
「「!?」」
「な、なんだって!?あのトロンが…、IIIやVの父ちゃん!?」
「全ての元凶はDr.フェイカーにある。その報い、必ずや受けてもらう!」
「……俺にあるのはセツナとハルトだけだ」
「カイト…」
「奴が、Dr.フェイカーがしたことなど何も興味はない」
「成程。…ひとつ付け加えておくが、セツナはもうこの事を知っている。それも一年前から」
「!?」
「何だと…?」
「これも全てトロンの計画のうち。紋章の力で口止めしていたから我々の事をキミに話すことはなかっただろうがね。そして『結果的に』だが彼女には父の罪の報いをその身に受けてもらった」
「「!?」」
「……まさか、あの左肩」
「あの子の肩に傷がある事を知っていたのか、」
「V貴様っ、そこまで外道に成り下がったのか!?」
僅かに表情を歪めるVの様子が俺のその言葉を肯定している。その瞬間、全身が燃え盛るように熱くなる。思わず近づき胸倉を掴むとVは苦しそうに目を逸らす。
「あの左肩の大きな火傷痕、アイツに聞いても何も言わないと思えばまさか貴様らの仕業だったとはな。妹を危険に晒し、あまつさえその身に傷を残した罪、懺悔などでは生温い。ーー万死に値するぞ、V!!」
「……結果的にそうなっただけで最初からセツナを狙ったわけではない。ただ謝罪はしておこう、16歳の少女には耐え難い痛み、そしてその身に残すにはあまりにも惨い傷であることに違いない。
だがそれだけ、我々の恨みが強いという証明でもある。そしてこの程度でトロンの気は収まらない。」
「!貴様…っ」
「セツナが、そんな…」
「そうか、あの時Ⅳが言っていたことがここに繋がるということか…」
「酷い…何てこと…」
「セツナ様…ウウ…オ労シイ…」
絶対に許さない。アイツの身に何があったのか、貴様らが何をしたのかも全て洗いざらい吐かせてやる。
掴んでいた胸倉を突き放すように解放する。鋭く睨みつけた後、Vに向けて吐き捨てるように言う。
「ーーデュエルを再開する。貴様にはこのデュエルが終わった後、洗いざらいアイツに何をしたのか話してもらう」
「.....いいだろう。私に勝てれば、だが」