やっとだ、ずっとこの時を待ち侘びていた。
降り立ったのは灼熱のマグマフォールド。一体どこへ向かって逃げているかと思えばオレのデッキと頗る相性の悪いフィールドとは。...だがこんなもの、オレにとってはハンデの内にも入らない。絶対にテメェをぶっ潰してやる。
赤く煮え滾り、大地を焼き焦がしながら流れていくマグマはオレの抱く復讐心を表しているようだった。
「漸く捕まえたぜ、もう逃さねえ」
「ハッ、人聞きが悪い。逃げてたワケじゃないさ、そう見せかけてキミを誘い込んだんだよ...この灼熱のマグマフィールドに。この熱と炎の世界ではキミは圧倒的に不利だからねえ、何故ならキミのデッキは水属性。キミのモンスターも此処では生きていけないからさ」
相変わらずのいけ好かない口調と優男の様な面でそう言う奴を鋭く睨む。御託はいい、さっさとケリを着けようじゃねぇか。
デュエルディスクを構えるとⅣも同じ様に左腕を伸ばした。
「「デュエル」」
「灼熱のマグマフィールドか...、オレを甘くみるな!
オレは速攻魔法『プレート・サルベージ』を発動、その効果により2ターンの間フィールド魔法を無効にする!」
「!チッ、」
何を勝ち誇っていやがる、この位のフィールド魔法なんざ想定内なんだよ。
フィールド魔法が無効化させられた事に苛立った様に舌打ちする奴を見ているとこのフィールドに新たに降り立つ奴を視界に捉えた。
「遊馬?」
「来たか」
アイツが何故ここに?...まあいい、大人しくそこで見学でもしていろ。続けてトライポットフィッシュとシャーク・サッカーを呼び出すとエアロ・シャークをエクシーズ召喚する。
エアロ・シャークのモンスター効果で1200のダメージを与えるとⅣは衝撃で後ろに倒れた。カードを伏せてターンエンドすると笑いながら奴は立ち上がる。
「ッフハハ!初っ端からモンスター・エクシーズをだしてくるとは面白れぇ、潰し甲斐があるよ!」
そう言うとⅣはすぐに2体のモンスターを場に出し、レベルを揃える。エクシーズ召喚でナンバーズを呼び出すとお返しだと言わんばかりにモンスター効果でオレのエアロ・シャークを破壊し、その分のダメージを与えてくる。
「お前が本気で来るならオレも受けて立ってやる。最高のファンサービスを見せてやろうじゃねぇか!
オレはギミック・パペットジャイアントキラーでダイレクトアタック!」
「シャーク!」
「オレは永続罠トラップ『バブル・ブリンガー』を発動!このカードは相手モンスターのダイレクトアタックを無効にする!」
「ッチ、...まあいいオレがターンエンドすればプレート・サルベージの効果も消える。次からは灼熱地獄だ。
ーーオレはこれでターンエンド」
「何だ、ぅあっちぃ!?」
「本当に灼熱地獄だわ...」
「これがフィールド魔法『マグマオーシャン』」
その言葉と共に凍り付いていた火山は時が動き出した様にまた赤く燃え、マグマを噴き出す。気分が良さそうにこちらを見るⅣに言い放ちながらカードをドローした。
「強がりかどうかはオレのデュエルを見てから言え!
オレはハンマー・シャークを召喚、更にバブル・ブリンガーの効果発動!このカードを墓地へ送り、代わりにトライポットフィッシュを特殊召喚!特殊召喚に成功した時、トライポットフィッシュのレベルは1つ上がる」
「バカめ!フォールド魔法『マグマオーシャン』は水属性モンスターが召喚された時それを破壊する。貴様のモンスターはここでは生きられないのさ...、くらえ!」
うねるマグマの中から二匹のドラゴンが現れオレのモンスターを破壊しようとするが、光るバリアに弾かれ消える。
「フッ、」
「何っ!?」
「どういうことだ...?」
「罠トラップカードだ、シャークの場で発動している」
「あれは...」
「永続罠トラップ『逆境適応』。このカードは魔法マジック、罠トラップによるモンスターの破壊を無効にする。これでオレのモンスターはこの灼熱地獄の中でも耐え抜ける!」
「すっげえ、流石はシャーク!」
「この一戦に懸ける彼の意気込み、半端ではない」
「........」
Ⅳ、お前はオレを全国大会で罠に嵌め何の関係もない妹...
そして、唯一無二の大切な存在ひとまで傷つけた。絶対に許さねぇ。
「凌牙!」「凌牙くん」
目を閉じればあの頃の無邪気に、そして穏やかにオレを呼び、屈託なく笑い合うふたりの顔が頭を掠める。自分の命よりも大切な妹と、憧れ焦がれては今もなおオレの心を離さぬ女。
...なのに、そのふたりをオレは守る事が出来なかった。
Ⅳアイツのせいだ。続く筈だった平和で幸福な日々は全て、奴によって奪い去られた。幸せだった記憶はオレを復讐へと突き動かす原動力となる。それだけが、今のオレに出来る事。
自分の不甲斐無さを雪ぎ、大切な者達へのせめてもの罪滅ぼしとする為に。
「.....例えどんな手を使っても、必ず貴様を倒す。
バブル・ブリンガーの効果で特殊召喚したモンスターは2体分のエクシーズ素材となる。オレは2体分となったトライポットフィッシュとハンマーシャークでオーバーレイ!3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!
ーー現れろ!No.32 海咬龍 シャーク・ドレイク!!」
「!あれはあの時の、」
「ナンバーズ!」
「!?これはIIIの...。トロンとVが何か企んでいた事は知っていたがIIIを使ってこのナンバーズを凌牙に、」
「(キミに話してなかったけどね)」
「(!?トロン、何故だ!)」
「(キミに話したら計画が漏れちゃうかもしれないだろ?キミは口が軽いからねぇ。人にはそれぞれ役割があるんだよ、VにはVのIIIにはIIIの)」
「(オレの、オレの役割は!)」
「(凌牙を心の闇の中に叩き落とす事。ここまでは上手くやってる、僕の計画通りだ)」
「(っ、奴をここまで追い詰めシャーク・ドレイクを呼び寄せた事もアンタの計画通りだと!?)」
「(そうだよ。...うかうかしてるとキミも危ないよ?凌牙の力もシャーク・ドレイクの力もキミはよく分かってるだろう?)」
「(凌牙の力、だと...!?)」
「いけっ、シャーク・ドレイク!ギミック・パペットジャイアントキラーに攻撃!」
「くっ、ぐああああっ!」
「更にオレはシャーク・ドレイクの効果発動!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、破壊したギミック・パペットジャイアントキラーの攻撃力を1000ポイント下げⅣの場に特殊召喚する」
墓地からジャイアントキラーを引き摺り戻す。アイツのLPは残り1500、これが通ればオレの勝ちだ。
「ぐっ、そうはさせない!オレは手札からギミックパペット・ナイトジョーカーを特殊召喚!
このカードは墓地のジャイアントキラーを除外して特殊召喚することができる!」
「(危なかったねぇー、でも咄嗟の対応はよかったよ。これでキミはまだ戦える。凌牙をもっともっと追い詰める事が出来るって事だね?)」
「チッ...!」
「命拾いしたな、Ⅳ!オレはこれでターンエンド!」
「(ほらほら、凌牙もまだまだ元気だ。頑張らなくちゃ!)」
「っつ、分かってるさ!!」
「、?」
「えっ?」
「Ⅳ、誰と...?」
突然背後に向かって怒鳴り散らす奴に異変を感じる。Ⅳは続けて苛立ちを何かにぶつける様に怒鳴り続ける。
「わかってる!オレの役割が凌牙を心の闇の中に堕とす事だってことは。その為に今までも....。
大会で奴を嵌めたのも、奴の妹に怪我を負わせたのも全てトロンの為!トロンの命令に従ったまで!!」
「なっ、」
「!それってさっきVが言ってた、」
「どうしてそんな事を...」
「.....いるのか、トロン。姿を現せ!」
「いるよ」
「っ!?貴様!!」
目の前に現れたトロンに殴りかかるが拳は空を切るだけ。瞬時にその場から消えただと?何だ、何処にいやがる。
「あそこにトロンが!?」
「恐らく何らかの力で彼にだけ自分の幻影を見せているのだろう」
「(その通り!流石はアストラル)」
「(!トロン、一体何故キミはシャークを追い詰め、彼を心の闇に堕とそうとしている)」
「隠す必要もないから全員に答えるよ」
「「!?」」
聞こえるや否やトロンがこの場にいるそれぞれ全員の前に現れる。薄気味悪い笑みを浮かべ、楽しそうな口調で奴は語り出す。
「ボクが凌牙の心を闇に堕とす理由は操るためさ。Dr.フェイカーを倒す刺客として」
「「!!」」
「ふざけるな!そんなものに、オレはなるつもりなどない!!」
「キミにその気が無くてももう逃げられないんだよ。キミはボクの操り人形になるんだ、ボクだけの人形に」
「っ、オレ達兄弟はトロンの為に力を尽くしてきた!なのに何故オレ達じゃなく...、いやオレじゃなくて凌牙を!そんなのオレは認めない!!」
「言っただろ?人には役割があるって。Dr.フェイカーを倒すにはキミより凌牙の方が...」
「認めない!そんな事は断じて認めない!!Dr.フェイカーはオレが倒す!!こんな奴よりオレの方が強いってことを見せてやる!!」
オレに対して激しい憎悪を露わにしながら自分のターンを進めるⅣは2体目のナンバーズを呼び出すと、更に装備魔法を発動した。
「オレは手札から装備魔法『デスティニー・ストリングス』を発動し、ギミックパペット・ヘブンズストリングスに装備!
このカードはデッキから墓地にカードを送り、それががモンスターカードだった場合そのモンスターのレベル分の回数攻撃が出来る。しかもお前のモンスターは破壊されずにな!」
「「!!」」
「オレが引いたのはレベル8のギミックパペット・ネクロドール。よってシャーク・ドレイクを8回連続で攻撃する!」
「なっ、」
「何だって!?」
「8回連続攻撃だと」
「やれ!ヘブンズ・ストリングス!ヘブンズ・ブレード!!」
「くっ、ぐあああっ!」
主人の命令を受けて剣を持った片羽の人形がシャーク・ドレイクに切り掛かる。衝撃で吹き飛ばされ地面に倒れ込むと容赦の無いⅣの言葉が飛んでくる。
「続けろヘブンズ・ストリングス!シャーク・ドレイクを痛めつけろ!!......苦しめ、もっと苦しめ凌牙!」
「やめろっ!こんなのデュエルじゃねぇ!!デュエルは怒りや復讐の為にするもんじゃねぇ!!」
遠くから遊馬の声が聞こえる。相変わらず甘い、笑っちまうような綺麗事を言ってやがる。
起き上がろうにも直ぐに次の攻撃が飛んでくる。地面を転がり続ける今のオレはさぞ無様だろう。
「苦しめ凌牙。苦しんで苦しんで、苦しみ抜いた末に地獄に堕ちるがいい!これで5回目!!」
「ぐあああっ!」
「デュエルをすればみんな仲間に、友達になれるのに...。人を傷つけるなんてデュエルじゃねぇ!!」
「みんな友達、ね。...キミは本当によく似てるねあの『九十九一馬』に。彼もよく言ってたよ、友情とか人を幸せにとか」
「お前が、お前らが父ちゃんを巻き込まなきゃ...!」
「遊馬...」
「キミから父さんを奪ったのはDr.フェイカーだ。恨むならフェイカーを恨みなよ。
そうすればキミの心の中にも闇が生まれる。それを広げて.....フフフフッ、約束したよね?次はキミの心を食べてあげるって」
「ふざけるな!オレはアンタを許さない!
ドロワをあそこまで苦しめたアンタを、IIIや Vを復讐の道具にしたアンタを!!」
「いいねぇ、生まれてきてるねぇ心の闇が。恨みは闇を増幅させる...、恨みなよボクを。Dr.フェイカーを」
「黙れ!!」「さあラストだ!!」
連続攻撃が終わったかと思えばモンスター効果でシャーク・ドレイクを次のターンに破壊し、その攻撃力分のダメージをこちらに与えるという。
「シャーク!おい、聞こえてんだろシャーク!返事をしろ、シャーク!!」
喧しいんだよ、何回も何回も名前呼びやがって。少し黙っていられねぇのか。
立ちあがろうとすればズキリと胸に激痛が走る。痛みに呻くオレを他所にⅣが喋りかけてきた。
「凌牙、サレンダーは認めない。さあ立てよ、立ち上がって向かってこい。最後に、そして最高のファンサービスをお前にくれてやる!!」
「くっ、ぐっああっ!」
痛みが一層強くなる。頭の中に響く様な声は何処かで聞いたことのあるものだった。
ーー「凌牙、今こそオレを受け入れろ。オレとひとつになるのだ。オレを受け入れろ......凌牙......」
「...嫌だ。オレは、オレはもう、ナンバーズになんか取り込まれねぇ」
シャーク・ドレイクの言葉を必死に否定し続ける。どうにか身体を起こすとふらつきながら立ち上がる。
「オレは、オレは....」
「シャーク?」
「様子がおかしい...」
「苦しんでいる。ナンバーズが再び、彼の心を支配しようとしている」
何度否定しても、シャーク・ドレイクの言葉が頭の中で響き続ける。口が勝手に是としそうになるのを堪える。
「受け入れろ、オレを受け入れて心の闇を解放しろ。勝つ為にオレを受け入れろ。オレとひとつになるのだ」
ーー「うん、もう大丈夫だね」
頷きそうになるオレの脳裏にあの夜のセツナが現れる。優しく微笑みながらこちらを勇気づけるアイツの姿が。
ぐっと拳に力を入れる。ああそうだ、オレはもう『大丈夫』だ。
「いやだ...、嫌だ!オレは!!もう絶対に、誰にも操られねえ!!」
強くそう宣言すれば目の前のシャーク・ドレイクの幻は消え、灼熱のフィールドへと意識が戻る。
手札から永続魔法『異次元海溝』を発動させるとシャーク・ドレイクを除外した。
「何っ!?」
「除外!?」
「いや、これでいい。彼はナンバーズの誘惑を断ち切り、それを除外することによりヘブンズ・ストリングスの効果も無効化した」
「!そうか、すげぇぜシャーク!」
「オレはっ、新たなモンスターを裏守備表示でセット!
....オレはこれで、ターンエンド」
「褒めてやるよ凌牙、お前がまさかシャーク・ドレイクを手放すとはな。
...だが、これでお前は切り札を失った。
一方、オレには攻撃力3000のヘブンズ・ストリングスが健在だ。このモンスターにはデスティニー・ストリングスが装備されている。さっきの様に連続攻撃も可能ってことだ。最早貴様に勝ち目はない」
「そうかなあ」
「「!?」」
Ⅳの言葉に異を唱え、再び姿を現したトロンはそのままⅣに向かって言い放つ。
「装備魔法『デスティニー・ストリングス』はリスクも大きい。それを発動させるにはデッキからカードを1枚墓地へ送る。...だが、そのカードはモンスターカードでなければならない。
もしドローしたカードがモンスターでなかったら攻撃は出来ずバトルは終了となる」
「っ、」
「さっきは運良くモンスターを引き当てる事が出来たけど?」
「...オレが信用できないのか」
「確率の問題を言ってるんだよ、ボクは科学者だからね。
キミは昔からそうだったね、冷静で慎重なIIIや Vと違って直情型で直ぐにカッと熱くなる」
「っつ、トロン!!」
「ほら、そうやって。今も冷静に考えた方がいいよ、
....最もキミにそれが出来ればだけど」
内輪揉めし始めた奴らを静観する。側から見ればトロンが真っ当な事を言っている様だが、すっかり頭に血が昇っているⅣはその言葉にくってかかっていく。
「オレを、オレをそんなに信用できないのか。IIIや Vの様に忠実な僕になれないから...、でも、オレだって...貴方の為に......、父さん!!
父さんはいつも優しく微笑んで、オレ達兄弟を暖かく見守っていてくれた。...だけど、異世界から戻ってきた父さんは全くの別人に変わっていた。冷酷な復讐鬼『トロン』に。
それでもオレ達はトロンに従った。命じられるまま凌牙を罠に嵌め、アイツの妹を傷つけた。
...そしてあんな傷なんて負わなくて良かった筈の『あの女』さえも....」
「!被害者ヅラするな!!」
「!」
「例え利用されたのだとしても、オレはお前のした事を絶対に許さない!!」
「逃げるつもりはない!お前との決着は此処で着ける!そしてオレが勝つ!Dr.フェイカーを倒すのはオレだ!
貴様をDr.フェイカーの刺客にはさせない!!
.....Dr.フェイカーを倒せば、きっとトロンも昔の姿に、我が父バイロン・アークライトに戻ってくれると。
オレはそこまでアンタを思って、アンタの為に非道な事をしてきた!それなのに!それでも、オレを信じられないのか!?」
「信じないよ、ボクはもう誰も」
冷たく切り捨てられたⅣは目を見開き、与えられた処理しきれない量の絶望に表情が固く強張っている。トロンはさも当たり前の様に流暢に言葉を紡いでいく。
「信じられるのはボク自身、そしてバリアン世界だけ。
ボクの命を助けてくれたのは彼等だからね」
「バリアン...」
「.......」
「ッフフフ、ハハハハハ!!
オレは所詮アンタの駒ってわけだ!IIIはアンタに使い捨てにされた! Vもそうだ!
だがオレはただの駒じゃねぇ、これでもデュエルの極東アジアチャンピオンだ。簡単に使い捨てにされてたまるか!!」
壊れた様に笑い出したⅣはトロンへの怒りを露わにするとカードをドローする。
もう一度デスティニー・ストリングスを発動するもトロンの忠告通り吐いたカードはモンスターではなく攻撃は不発に終わった。
「くっ、だがまだ終わりじゃねぇ!オレは手札からギミックパペット・シザーアームを召喚!オレはヘブンズ・ストリングスに装備されたデスティニー・ストリングスを破壊、そしてシザーアームのレベルは8になる!
オレはギミックパペット・ヘブンズストリングスをリリースしてギミックパペット・ナイトメアを召喚!モンスターエクシーズをリリースして召喚したナイトメアは2体分のエクシーズ素材となる。
オレはレベル8のシザーアームとナイトメア2体分をオーバーレイ!3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!
ーーこれがオレの本当の切り札、出でよ!No.88 ギミックパペット・デスティニーレオ!!」
「!3体目のナンバーズ、しかも攻撃力3200だと」
「デスティニーレオの効果発動!コイツがオーバーレイ・ユニットを全て無くした時、オレはこのデュエルに勝利する。1ターンに一度オーバーレイ・ユニットを墓地に送る事でな」
「ただオーバーレイ・ユニットを使うだけで勝つというのか!?」
「!特殊勝利条件か、」
「そうさ!これが無敵のナンバーズ、デスティニーレオの力だ!
デスティニーレオのオーバーレイ・ユニットはあとひとつ。次のターン、デスティニーレオが最後のオーバーレイ・ユニットを使った瞬間...凌牙、お前の負けだ!」
「くっ...」
「そんな、シャークが負けちまうなんて...」
「シャークの場にある裏守備モンスターではデスティニーレオは倒せない。その上、デスティニーレオは自らバトルする必要がない。この状況では最早...」
「(オレがⅣに負ける?大会でオレを罠に嵌め、妹や大切な女やつまで傷つけたアイツに、一矢も報いぬまま負けちまうってのか...!?)」
「諦めるのは早いよ」
「!トロン」
「キミにはまだ勝つ道が残ってる。キミはⅣと違って冷静に考える事が出来るからねぇ」
「トロン、何故凌牙に!アンタはオレに勝たせたくないのか!?」
「別にいいよ、勝たなくて」
「!?」
「言っただろ?キミはキミの役割を果たしてくれればいい。此処までは見事だったよ、よく凌牙を追い詰めてくれた!」
「トロン....」
「後はもうゆっくり休んでくれていい。キミの出番はもう終わった」
「トロンっ、テメェ! VもIIIもⅣも、アンタの復讐の道具じゃねぇ!!」
「フフフハハハッ!...さあ凌牙、答えは見つかったかい?」
「貴様っ!!」
「負けてもいいの?ボクらに復讐を果たせなくなるよ?
ーーそうだ、イイ事を思いついた!もっとやる気が出る様に応援してあげようか。『彼女』の姿でさ」
「「!?」」
そういうや否や、トロンの姿は瞬く間にオレのよく知る女の姿と声に変わる。こちらを見て綺麗に微笑んだ後、聞き馴染みのある少し低めの声がオレの鼓膜を揺らす。
「凌牙くん、負けないで」
「!?、テメェっ!!」
「トロンがセツナになった!?」
「紋章の力でこちらに幻をみせているのか..」
「ええ、どうして怒るの?凌牙くん怖いよお」
「...それ以上ソイツの姿で何か喋ってみろ、二度と余計な口が叩けねぇ様八つ裂きにしてやる」
「っふ、あはは!凄い殺気だねぇ、流石はボクの選んだ最強の刺客。
....やっぱりセツナよりキミの方を選んで正解だったよ」
「トロン!」
「...何だと?」
「セツナよりシャークを選んだって...どういう事だよ」
セツナの姿からパッと元のトロンの姿に戻る。至極愉快そうに笑いながらこちらを見るトロンに脳の血管が切れそうだ。言葉の意味を問いただせばまた楽しそうに話し出す。
「本当はねぇ凌牙、キミじゃなくてセツナを最強の刺客として操ろうと思ってたんだ。何てったって彼女はデュエルの世界チャンピオン!デュエルの腕は言うまでもなく超一流!そしてあのフェイカーの愛娘だ。
ああ...!想像するだけで楽しくて仕方がないよ、自分の愛する娘に絶望の内に引導を渡されるフェイカーの姿!」
「.......」
「...狂ってやがる」
「有り得ねぇ、セツナまで復讐の道具にしようとしてたのかよ...」
「最低...」
「そんな悪魔の所業を企んでいたのか...」
「フフフ、酷い言われようだなあ。
...でも残念だけど諦めたんだよね、彼女じゃ無理。あの子は心が優しすぎて脆すぎる。今も十分強いけど、望まないナンバーズ狩りを『させられてる』せいで昔の煌めく様な強さは影を潜めちゃったもんねぇ。メンタルはガタガタ、おまけにフォトン・モードのせいで身体までボロボロときた。
そもそも何故かバリアン世界の力に耐性があって操り難い上に、無理矢理操ってあの子が途中で壊れちゃったらつまんないだろ?だからやめたんだよね、あの子は。
...それにしてもやっぱり女の子って心も身体も弱いのかなぁ?ボク男の子の子どもしか居ないからよくわかんないや!ハハハ!!」
「....おい、トロン。この次、Ⅳを倒した後直ぐにテメェをぶちのめしてやる。必ずだ、必ずお前に地獄より恐ろしい光景を見せてやる。
アイツをここまで侮辱した罪、その身を持って償ってもらうぜ」
「凌牙、テメェ...」
「シャーク...」
「すごく、怒ってる...」
震え、燃える様な怒りは限界を通り越した様で逆に頭が冷えている。コイツに情け容赦など必要ない、必ず地獄送りにする。例え自分の命に変えても。
瞳孔の開き切った目で真っ直ぐトロンを見ると口角が三日月のように上がる。
「あははは!凄いや、とても普通の14歳の出来る顔じゃないよ!
いいねえ、いいねぇ...闇が育ってるねぇ!やっぱり彼女はキミにとってとっても大切な存在だったんだよねぇ。
ボクはね『あの日』キミ達の姿を見た時に確信してたんだよ、これは使えるってね。
だからセツナには最強の刺客という『主役』から、その刺客を確実に闇に堕とす最高の『脇役』になってもらったんだ。最高の配役だったみたいだね、映画監督になれそうだなあ!
....キミの心に闇をもっともっと育ててあげる。ボクが見せるセツナの姿じゃ物足りないでしょ?本物のあの子を見せてあげるよ、解説付きのスペシャルダイジェスト版だ。
ーー1年前、キミの前から消えた後彼女が一体どんな絶望の中で生きていたのか、よぉく見るといいよ凌牙」
「「!?」」
いきなりトロンが光る。思わず眩しさに目を閉じていると周りの雰囲気が変わった。
ゆっくりと目を開くとそこはさっきまでデュエルしていたマグマフィールドではなかった。
そこは、真昼のだだっ広いスタジアムの中。客は入っておらず閑散としていて、目の前にはふたりの人間しかいない。
「オレは絶対にお前の居る場所まで辿り着いてみせる。だから、その日まで誰にも負けんな。そのお前をオレが倒してやる」
「......面白いじゃん。その言葉、忘れないでよね」
拳を合わせるふたり。忘れもしない、あの日あの約束をしたオレとセツナの姿がそこにはあった。
ーー「さあ、楽しいショーの始まりだ」