深紅   作:天城ある

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25.向日葵

「このナンバーズはセツナ、お前に渡しておく」

「何これ...、いらないよ別に。ナンバーズなんか持ってなくても、」

「念の為、だ。俺も回収したうちの何枚かは奴に渡さずそのまま所持している。

.....それにこの2枚をハートランドに渡すのは些か、不愉快でな。使わなくても構わん、お前が持っておいてくれ」

 

 

いや、なら自分がそのまま持っておけばいいじゃん。そう返そうかと思ったが持っておくだけなら、と何も言わず受け取った。

 

 

私がナンバーズ・ハンターとして動き始める前、兄さんからは2枚のナンバーズが私に渡された。お守りとして預けられたカード達にはそれぞれギャラクシーやフォトンの名が冠されていて、通りで兄があの悪魔に渡すのを嫌がる訳だと納得した。

 

大抵のデュエリストはこのナンバーズを使う前に倒してしまう。それでも偶に使った時には必ず、ナンバーズ達を撫でながら謝った。

 

 

「.....貴方達に、こんな事をさせてごめんね。お願い、あと少しだけ、私と一緒に頑張って。全部終わったらちゃんと貴方達を然るべき場所へ返すから」

 

 

こんな不思議な力を持つナンバーズって一体何なんだろう。答えを教えてくれる人はいない。

私が謝らなくちゃいけないのはナンバーズ達だけでは無い。銀河眼ギャラクシーアイズ達、いやデッキに入っているモンスター達全てに申し訳ない。私なんかより真っ当に使ってくれるデュエリスト手に渡ればよかったのに。

 

 

「みんな、ごめんね....」

 

 

それでも止まれないの、私に力を貸して。

当たり前だがカード達は何も言わない。使われる主人を選べないことの何と不幸なことか。

きっとこの子達には嫌われているんだろうな、そう思いながらいつもそっとデッキをしまった。

 

 

 

♯

 

 

 

「綺麗、」

 

青い空と白い雲、燦々と輝く陽の光を受けて一面に広がる草原、そして咲き乱れる花々は生き生きとしている。

 

デュエルもそうだが、近年のARビジョンの進化には恐れ入る。まるで本物の花畑に来たかのようだ。ただの映像である筈の花達は風にそよぎ、生花独特の匂いがする。

チューリップにコスモス、パンジーにネモフィラ。たくさんの種類の花達が至る所に咲き誇る中を進んでいくと向日葵が咲いている場所があった。

 

映像とは分かりつつも手を伸ばすが、やはり触れられはしないようだ。指先が花弁をすり抜ける感覚を残念に思いながら腕を下ろす。

 

昔から、花の中でも向日葵が一番好きだった。大きくて堂々とした黄色い花、真っ直ぐに陽に向かって一生懸命に咲く姿からは何だか勇気をもらえる気がした。

 

 

「.....あの向日葵が一番綺麗だったな」

 

 

向日葵を見ると部屋に眠るドライフラワーを思い出す。昔、誕生日に貰った一輪の向日葵。きっと彼はもう、私に渡した事も忘れてしまっただろうけど。

枯れても捨てられなかったあの向日葵は今も私の部屋の片隅で、まだひっそりと息をしている。

 

 

自室の中で眠る花の事に想いを馳せていればやっと対戦相手のコースターが辿り着いたようだ。

顔をそちらへ向ければ、何やら神妙な表情をした遊馬と小鳥ちゃんが降りてくる。アストラルはいつもと同じクールな顔だが、何処か悲しげな様に見える。

遊馬が私を見てよりその顔を歪める。小鳥ちゃんは今にも泣きそうだ。何かあったのだろうか、そう思いながら口を開く。

 

 

「やっと来たね、遊馬。ここは『フラワーガーデン』フィールド。綺麗で良い場所だけど私達のデッキじゃあまり、」

 

プラスの効果はないかもね、と続けるつもりが言葉に詰まる。

目の前の遊馬がいきなり泣き出したからだ。つられて小鳥ちゃんまで泣き出し、やはりアストラルも悲しそうな表情をしてるのがよくわかる。

 

 

「....え?ええ??ごめん、まだ何もしてないんだけどどういう、」

「........見たんだ、オレ。セツナの過去を、アンタがシャークと別れてから何があったのかを」

「私の、過去....?」

 

「シャークと約束した事、ハートランドに連れて行かれてカイトと一緒にナンバーズ・ハンターになった事、Ⅳとデュエルして事故に巻き込まれたシャークの妹を助けようとして怪我をした事も、大切なメダルを捨てようとした事も全部。全部見ちまったんだ、オレ....」

 

「Ⅳとシャークがデュエルしている最中にトロンが乱入してきたのだ。シャークの心を闇に堕とす為、キミを傷つけたと我々に過去の出来事を見せてきた。

...だから私たちは全て知っている。セツナ、キミがハルトを救う為カイトと共に望まぬナンバーズ狩りをしていた事も。シャークとその妹が傷ついた事に強い罪悪感を持っていた事も。だが本当は、」

「悪趣味だな。人様の過去を勝手に覗き見て、その上本人に報告してくるなんて」

 

 

心臓がドクン、と嫌な音を立てる。と、いう事は彼もとうとう知ったのか。私のせいで自分達が傷つき、転落する羽目になった事を。

 

話す声を遮り、睨みつけながら棘のある返答をするとアストラルがぐっと押し黙る。かわりに遊馬が勢いよく私を説得し始めた。

 

「セツナいいんだ、もう戦わなくて!オレが絶対トロンもDr.フェイカーも倒してやる!ハルトの事を救ってみせる!お前の身体はもう」

「何がいいの?何もよくない、何一つ解決なんかしてない。私は、誰かに助けて貰おうなんて思っていない。必ずナンバーズを全て集めてハルトを救ってみせる。

 

何をどう見たのか知らないけど、勝手に覗いて同情して貰わなくて結構。さあ、あの時の決着を着けましょう」

「セツナ.....」

「ぼさっとしてないで早く構えなさいよ、始めるよ」

「.......っ、」

「..........あー、もう!泣くな泣くな!!シャキッとしなさい!そんな状態で私と勝負になると思ってるの?このままデュエルしたら弱いものいじめみたいになるじゃない!!

 

ーー遊馬、貴方にゴーシュからプレゼントよ」

 

ぽろぽろ泣き続ける遊馬に一枚のカードを投げ渡す。慌てて受け取った遊馬は訳がわからぬままそのカードを見る。

 

 

「H-C エクスカリバー.....、これゴーシュの」

「貴方に渡してくれってさ、仲間にしてあげてよ。

本当は自分で渡したかったんでしょうけど、負けた人間はコースから強制退場になっちゃうから...。

 

それと伝言よ、『良いノリでデュエルしろよ。お前らのかっとビング、しっかり見てるぜ』ってさ」

「!ゴーシュ...」

「色々小難しい事考えるのはやめちゃいな、そういうの向いてないんだから!

アンタはただ、いつも通りに全力で目の前の奴とデュエルすればいい。私が本気で相手してくれる事、光栄に思いなさいよね。アストラルも、本気で来ないと一瞬で倒しちゃうから。貴方のお得意のかっとビングが何処まで私に通用するか見せてもらうわ!

 

......さて、まだ泣くのかな?この泣き虫」

 

「う、うるせぇ!泣いてねえ!!」

 

暗い空気を払拭するよう茶化して言うと、遊馬はゴシゴシと目を擦った後、パン!と頬を叩いた。アストラルと顔を見合わせた後こちらを見る遊馬の目にはいつもと同じ強い闘志が宿っていた。

 

「やってやるぜ、今度は負けねえ。勝負だデュエルチャンピオン!」

「私たちは全力でキミに挑む!」

「元ね、元。....でも、今の私はあの頃より強いよ?」

 

 

にっこり笑って遊馬とアストラルを見た後、まだぐずぐず鼻を鳴らしている小鳥ちゃんに声をかける。

「ねえ、小鳥ちゃん。もう泣かないで?貴女はしっかり遊馬のこと応援してくれないと。私直ぐにボッコボコにしちゃうんだから」

「....、っはい!」

「いい返事だ。危ないから下がっててね」

 

 

小鳥ちゃんが安全な所まで離れたのを確認した後、デュエルモードへとフォトンチェンジして遊馬とアストラルと対峙する。

 

 

 

「「デュエル!!」」

 

 

 

「.....さあ、中継がやっと繋がったぞ!皆様大変長らくお待たせしました!決勝大会準々決勝四試合目!対戦カードは天城セツナ対九十九遊馬!!

 

最後のフィールドは『フラワーガーデン』。植物族の攻撃力は300ポイントあがり、炎属性のモンスターの攻撃で与えるダメージは500ポイントダウンする!このフィールドで一体どんなデュエルが繰り広げられるのか!果たして勝利し準決勝へ進むのはどちらか!?観客、そして私の心も高鳴っているぞ!ハートバーニング!!」

 

 

静かでよかったのにメイン会場の音声が繋がってしまったらしい。チッ、と舌打ちしながらデュエルを進める。

 

 

「...残念だけど、やっぱりこのフィールドを生かすのは私も貴方も無理そうね。先攻は私よ、ドロー!

 

私は銀河ギャラクシーの魔導師ウィザードを召喚。効果を発動し、このカードをリリース。デッキからこのカード以外のギャラクシーカードを手札に加える。手札のモンスターを1体墓地へ送って銀河戦士ギャラクシーソルジャーを特殊召喚。またデッキからギャラクシーと名の付くモンスターを手札に加える。

墓地にあるフォトン・ジャンパーの効果を発動。デッキからギャラクシー又はフォトンと名の付く魔法マジックか罠トラップを手札に加える。魔法マジックカード発動、『銀河百式ギャラクシー・ハンドレッド』。デッキからフォトン・エンペラーを墓地へ送る。墓地へ送られたエンペラーは自身の効果によりフィールドへ特殊召喚される!現れろ、フォトン・エンペラー!

更にフォトン・エンペラーの効果でこのターン光属性のみ召喚権がひとつ増える。増えた召喚権を使って銀河ギャラクシーの召喚師サモナーを特殊召喚し、モンスター効果を発動。墓地の魔導師ウィザードを復活させるわ。出でよ、銀河ギャラクシーの魔導師ウィザード!そのままモンスター効果発動、魔法マジック又は罠トラップカードを手札に加える。

 

更に私は魔法マジックカード『銀河遠征ギャラクシー・エクスペディション』を発動。デッキからレベル5以上のギャラクシー又はフォトンモンスターを守備表示で特殊召喚する。

 

ーー銀河に輝く竜の残像よ、我がモンスターに竜の加護を与えよ。銀河眼ギャラクシーアイズの残光竜アフターグロウ・ドラゴン!」

 

「新しい銀河眼ギャラクシーアイズ!?」

「彼女は一体、何体の銀河眼ギャラクシーアイズを従えているのだ...」

「出し惜しみはなし。私の仲間をたーくさん見せてあげる、まだまだいくよ!」

 

目まぐるしくカード効果で展開していくその様に呆気に取られている遊馬とアストラルに向かって続ける。

 

 

「銀河ギャラクシーの召喚師サモナーの効果発動。残光竜アフターグロウ・ドラゴンのレベルを4へ変更!そのままオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!現れろ、銀河光子竜ギャラクシー・フォトン・ドラゴン!

銀河光子竜ギャラクシー・フォトン・ドラゴンの効果発動、オーバーレイ・ユニットをひとつ取り除き、ギャラクシー又はフォトンと名の付くカードを手札に加える。更に今取り除いた銀河眼ギャラクシーアイズの残光竜アフターグロウ・ドラゴンの効果発動。銀河眼ギャラクシーアイズの光子竜フォトン・ドラゴンを特殊召喚する!

 

続けて銀河戦士ギャラクシー・ソルジャーとフォトン・エンペラーでリンク召喚、召喚条件は攻撃力2000以上のモンスターを含む光属性モンスター2体。現れろ、銀河眼ギャラクシーアイズの煌星竜ソルフレア・ドラゴン!」

 

 

「「リンク召喚!?」」

「wonderful!サイバー流では融合召喚、現在はエクシーズ召喚のみならず、リンク召喚まで使いこなすとは流石は元デュエルチャンピオン!多彩な召喚方法の魅せるデュエルで相手を圧倒していくぞ!」

 

ざわつく会場、そして遊馬とアストラルの反応を見ながら笑う。

 

「皆さん良い反応だけど、本番はここからなんだなあ。

 

 

煌星竜ソルフレア・ドラゴンの効果で墓地の残光竜アフターグロウ・ドラゴンを手札に戻す。

そして魔法マジックカード『銀河天翔ギャラクシー・トランサー』を発動!LPを2000支払い、デッキ、そして墓地から銀河眼ギャラクシーアイズの

光子竜フォトン・ドラゴン、フォトン・エンペラーを特殊召喚。そして手札に戻しておいた残光竜アフターグロウ・ドラゴンも特殊召喚できる!」

 

 

「嘘だろ....1ターン目からセツナのフィールドに、」

「レベル8のモンスターが4体だと....」

「貴方たちに私のナンバーズを見せた事はなかったね。ここでお披露目といこうじゃない。

 

私はレベル8の銀河眼ギャラクシーアイズの光子竜フォトン・ドラゴンと銀河眼ギャラクシーアイズの残光竜アフターグロウ・ドラゴンの2体でオーバーレイ!エクシーズ召喚!

 

銀河を統べる竜の公主よ、その剣で我が敵を切り裂け!

ーー現れろ、No.90銀河眼ギャラクシーアイズの光子卿フォトン・ロード!!」

 

「これが、彼女のナンバーズ....!」

「かっけえ...ドラゴンの騎士だ!」

 

青い鎧を纏った竜の騎士が私のフィールドに現れる。

光子卿フォトン・ロードは私の方を向くとその剣を地に突き立て、膝をついて頭を下げた。

こちらも胸に手を当て頭を下げながら挨拶を返す。

 

「ナンバーズが、彼女に平伏している....」

「公主様お久しぶり、今日は貴方の力をお借りします」

 

 

そう返すと光子卿フォトン・ロードは再び剣を手に取り遊馬とアストラルの方を向く。

 

 

「悪いけどまだ終わりじゃないよ。続いてもう一体の銀河眼ギャラクシーアイズの光子竜フォトン・ドラゴンとフォトン・エンペラーでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!

 

闇の大河を貫いて現れし一筋の希望よ。我が手に勝利を齎せ!

ーー降臨せよ、No.38 希望魁竜 タイタニック・ギャラクシー!!」

 

今度は白い鎧を纏った様なドラゴンが私のフィールドに姿を現す。遊馬とアストラルに向かって大きく咆哮を上げると聞く者全ての鼓膜をビリビリと震わせた。

 

「、っ!」

「この2体のナンバーズ、まるでセツナを守るかの様に...、それにしても何という威圧感なのだ」

「フィールドにいる銀河光子竜ギャラクシーフォトンドラゴンの効果により、光子卿フォトン・ロードとタイタニック・ギャラクシーはそれぞれ攻撃力が500上がる」

「攻撃力3000以上のナンバーズが2体!?」

「そして光子卿フォトン・ロードはオーバーレイ・ユニットにフォトンモンスターがいる場合、効果では破壊されない。タイタニック・ギャラクシーは魔法マジックカードの効果を無効にして、そのカードをタイタニック・ギャラクシーのオーバーレイ・ユニットに出来る」

 

「...まさに先攻1ターン目で出来る最強の布陣か」

「その通り。天翔トランサーのコストで私のライフは半分。だけどこの子達を倒さないとダメージは与えられない。さあ、どう出る?

 

ーーーー私はこれで、ターンエンド」

 

 

出来る事全てやった1ターン目を終え、相手にターンを渡す。遊馬は俯いていてどんな顔をしているのかわからない。アストラルが険しい顔をしながら彼に声をかける。

 

「....遊馬、このデュエルやはり、」

「....すっげえ、やっぱり凄えよセツナ!」

「んん?」

 

てっきり意気消沈しているかと思った彼の目はキラキラと輝いていてとても楽しそうだった。アストラルも彼の様子に面食らった顔をしていて、これは珍しいなとひとり心の中で笑った。

 

 

「絶対勝たなきゃなんねぇってわかってんだ、でもこんなすげぇ相手とデュエル出来るって思ったらワクワクすんだよ。オレもこんな風にデュエルしてぇって!」

「遊馬...」

「...貴方とデュエルすると、デュエルを始めた頃の自分を思い出す」

「セツナ?」

 

 

遊馬と関わると毒気が抜かれる気がする。彼は眩しい。

真っ直ぐ純粋で、偶に物凄く疎ましくなる。でもそれは彼のせいではなく自分に後ろめたい何かがあるからだ。

 

 

「デュエルを始めた頃は、もっと下手くそで兄さんに負けもしたし、徹夜でデッキを組み直したりもした。どうしたら勝てるのか、自分のモンスター達の力を十二分に発揮できるのかそればかり考えていた。

 

自分の一緒に戦ってくれるモンスター達は大切な仲間。勝利した時は共に喜び、敗北した時は共に泣く。

ーー今考えたら、あの頃が一番純粋にデュエルが好きで、楽しかったなあ」

 

「六十郎じいちゃんの言ってた事とそっくりだ...」

「......」

「セツナさん....」

 

「あの頃の私が今の私を見たらきっと物凄く怒るんだろうな。そんなデュエルをして楽しいのか、もっとモンスター達を大切にしろって。

 

....だからかな、今の私はデュエルが楽しいとあまり思えない。戦ってくれるモンスター達に申し訳ない。でも、それでも、」

 

 

自分のモンスター達を見ながら話していたが、視線を遊馬に向けてしっかりと告げる。

 

 

「......誰かの希望を奪い取ってでも、私はハルトを救いたい。その代償で自分が地獄に堕ちてもいい。あの子を助けるのは私と、兄さんにしか出来ないの」

「!セツナ」

「貴方のターンよ。遊馬」

「っ、」

「私はね、私に文句を言う奴は全員デュエルで捩じ伏せて黙らせてきた。勝利することで自分を『正解』にしてきた。

ーーーもし私が間違っていると言うなら、私に勝って貴方が『正しい』のだと証明して見せてよ」

 

 

にこりと笑うとハッとした顔をした遊馬がまたアストラルとアイコンタクトしてこちらに立ち向かってくる。

 

 

「おう、やってやる!オレのターン!ドロー!!」

 

 

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