深紅   作:天城ある

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26.愛情

「ねえ、姉さん。姉さんはどうしてそんなにデュエルが上手なの?」

「んー...、そうだなあ。モンスター達と仲良しだからかな!」

「モンスター達と?」

 

姉さんは手に持っている銀河戦士ギャラクシー・ソルジャーを見ながら笑っている。このカードは父さんからもらったものなんだと姉さんが前に言っていた。いいな、と言うと「ハルトももう少し元気になったら私と兄さんがカードをプレゼントするね」と約束の指切りをしてくれた。

 

 

「デュエルはね、自分ひとりで頑張るんじゃなくてモンスター達と一緒に戦うの。だからみんなと『仲良し』じゃないと上手くいかないんだ」

「だからモンスター達がよろこんでるんだね!」

「喜んでる?」

「うん!他の人とちがってね、姉さんがデュエルしてる時はモンスター達がキラキラしてるんだよ!きっと、姉さんと一緒にたたかえるのがうれしいんだ!」

 

 

そう言うと姉さんは兄さんと同じ水色のきれいな目をまんまるにして、にっこり笑った。

 

 

「そっかぁ、私もみんなと一緒に戦えて嬉しい!これからもずーっと仲良しでいられるといいな。

 

ハルト見ててね、私もっともっと強くなって一番デュエルが強い人....、デュエルチャンピオンになってみせるから」

「姉さんならきっとなれるよ!ボク、姉さんが楽しそうにデュエルしてるのを見るのが大好きなんだ!」

 

 

いつか僕にもデュエル教えてよ、姉さん。もちろん!兄さんも誘ってみんなでやろうね、きっと楽しいから。

 

楽しみが出来たね、ボクに笑いかける姉さんは心から笑っていた。まるで暖かい太陽みたいな、ボクと兄さんが大好きな笑顔。

 

あ、今姉さんが手に持ったままの銀河戦士ギャラクシー・ソルジャーの腕が動いた気がする。手を振ってくれたのかな?やっぱり姉さんの事が大好きなんだね。まるで自分もその時が楽しみだよ、って言っているみたいだもの。

 

 

 

♯

 

 

 

 

勝った人間はコースターを降り次の戦いに備えて待機、もしくは他の対戦者のデュエルを見学しても良い。

 

 

Ⅳを倒しコースターを走らせていたオレの元へ来た連絡はそんな内容だった。

既に準決勝進出を決めたのはトロン、カイト、そしてオレ。残る1枠をかけて、現在進行形で遊馬とセツナが戦っている。

 

聞こえてくるハートハンドの実況から察するにやはりセツナが優勢のようだ。先攻1ターン目から攻撃力3000越えのナンバーズを2体も並べてくるとは流石という他ない。

アイツがこれまで使用していたサイバー流は後攻、そして劣勢から捲るのに滅法強いデッキだったが、今使用しているデッキは先攻での制圧に長けている様だ。

多彩なデッキと召喚方法。璃緒を助けた時もそうだったが、本当に強いデュエリストは何を使っても強いという事を実践を持って証明している。

 

正直、出だしからここまでやられると心が折れてもおかしくはないレベルだ。対戦相手である遊馬に多少の同情は禁じ得ない。

 

 

 

漸くコースターがアイツらの戦うフィールドに辿り着く。デュエルをするよりピクニックの方が向いていそうなフィールドだ。青空と太陽、色とりどりの花が咲き乱れる草原には蝶が優雅に舞っている。

 

 

デュエルに集中しているセツナと遊馬はこちらに気づいてはいない。だいぶデュエルは進んでいるのか、実況で聞こえてきた展開とフィールドの状況は異なっている。

 

 

コースターを降り、適当な場所に移動すれば遠くの方で静かに試合を見守るカイトの姿があった。妹の事を見に来たらしい相変わらずの仏頂面は、一瞬オレと目があったかと思うと途端に眉間に皺を寄せこちらを睨んだ後目を逸らす。その様子に思わず苛立ち、舌打ちしてからこちらも目を逸らした。

 

「(.....マジで感じ悪ぃなコイツ。セツナとはえらい違いじゃねぇか)」

 

優しく穏やかで人当たりのいい妹とは真逆の兄貴に声に出さず悪態を吐く。....まあその大事な妹にちょっかいかけてると思われているんだったな、と初めて会った時のことを思い出した。否定はしない。そりゃこれだけ嫌われていて当然だろう。

何にせよこの次で当たれば容赦はしねぇ、あの時の借りを何倍にもして返させてもらう。

無様に負け、魂を奪われた事を忘れはしない。雪辱を果たす事をひとり誓っていれば目の前のデュエルは目まぐるしく動いていく。

 

 

ライフは2000対1000。銀河天翔ギャラクシー・トランサーのコストで減ったダメージ以降、無傷のセツナに対して遊馬のライフは1000まで減られている。

 

遊馬はセツナの出したナンバーズ2体に苦戦しつつもホープを使って何とか首の皮一枚で凌いでいたが、セツナのナンバーズは1体に減っているしこれでも善戦している方だろう。並のデュエリストであれば2ターン目でとっくに倒されているだろう。

現在はセツナのフィールドにタイタニック・ギャラクシーが、遊馬のフィールドにホープがおりそれぞれカードが伏せられている。

遊馬がカードをドローしモンスターを召喚した。

 

 

「いくぜ、オレのターン!オレはゴブリンドバーグを召喚!召喚に成功した時、手札からレベル4以下のモンスターを特殊召喚出来る!手札にあるガガガマジシャンを召喚するぜ!」

「これでレベル4のモンスターが2体揃った。てことは、」

「いくぞ、遊馬!」

「おう!お前の力、借りるぜゴーシュ!

オレはレベル4のゴブリンドバーグとガガガマジシャンでオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!!

 

ーー光纏いて現れろ、闇を切り裂くまばゆき王者!

H-C エクスカリバー!!」

「!さっき渡したカード、早速出してくるなんて...」

 

 

遊馬のフィールドに現れた赤い鎧を纏った戦士にセツナは目を見開いている。

 

 

「まだだ!オレは希望皇ホープをカオス・エクシーズ・チェンジ!混沌を光に変える使者、今こそ現れろ!

ーーーーCNo.39 希望皇ホープレイ!!」

「カオス・ナンバーズ...!?」

 

 

 

「何故ゴーシュのモンスターをアイツが...」

 

「あれが、奴のカオス・ナンバーズ。ホープの進化した姿か....」

 

 

 

更に驚くセツナを他所に、この土壇場で強力なモンスターを2体呼び出した遊馬は勢いに乗ってセツナに攻撃を仕掛ける。

 

「これで決めるぞ、遊馬!」

「いくぜセツナ!オレはH-Cエクスカリバーの効果発動!オーバーレイ・ユニットを全て使い、攻撃力を2倍にする!

いっけぇ!エクスカリバー!一刀両断!必殺神剣!!」

 

「たかだか5000の攻撃力でいい気になんないでよね!速攻魔法『ハイパー・ギャラクシー』!

 

相手フィールドの攻撃力2000以上のモンスターをリリースして私の手札、デッキ、墓地のいずれかから銀河眼の光子竜ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴンを特殊召喚する!」

「エクスカリバーが!」

「まだこんな手札を持っていたとは...」

「勇敢なる戦士の魂を糧とし、我がフィールドに舞い戻れ!銀河眼の光子竜ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン!」

 

 

攻撃しようとした赤い鎧を纏った戦士は光に吸い込まれていく。その光は形を変え、セツナのフィールドにドラゴンとして再び現れた。

 

「また彼女のフィールドに銀河眼ギャラクシーアイズが...、しかし!」

「でもオレにはホープレイの攻撃が残ってる!ホープレイの効果発動!オーバーレイ・ユニットを全て使いホープレイの攻撃力は1000上がる!そして相手モンスターの攻撃力は2000ポイント下がる、タイタニック・ギャラクシーの攻撃力は1000だ!

 

ーーいくぜセツナ、これがオレ、オレ達のかっとビングだ!ホープ剣・カオス・スラッシュ!!」

 

 

 

 

「フッ、」

「カイト様?」

「悪くない手だが、...遊馬、アストラル。貴様らはアイツを侮りすぎだ」

 

 

 

「二段構えか。...遊馬、貴方とても強くなったのね。

....でもまだ、それじゃあまだ私には届かない!!

罠トラップカード発動!『反射光子流フォトン・ライジング・ストリーム』!!

 

自分フィールド上のドラゴン族・光属性モンスターが攻撃対象となった時、攻撃対象となったモンスターの攻撃力は相手モンスターの攻撃力分アップする。

 

タイタニック・ギャラクシーの今の攻撃力は1000、貴方のホープレイは3500。よってタイタニック・ギャラクシーの攻撃力は4500まで上がる!」

「何だって!?」

「ここに来てホープレイの攻撃力を上回るだと!?」

「っ、遊馬ぁ!!」

「...流石だな、セツナ。アンタの勝ちだぜ」

 

「貴方の残りライフは1000。これでおしまいよ。

ーーホープレイを迎え撃て、タイタニック・ギャラクシー!破滅のタイタニック・バースト!!」

 

 

罠トラップカードで力を増したタイタニック・ギャラクシーが向かってくるホープレイを破壊しようと攻撃を放つ。

勝負あったな。その場の全員がそう思ったその時、未だセツナに立ち向かおうとする遊馬の姿が白煙の中から姿を現す。

 

 

「「!?」」

「何故...、貴方のライフが」

「まだ...残っているだと?」

「...,罠トラップカードか」

 

「まだだ、まだ....、終わらせねえ!オレは罠トラップカード、『ホープ1』を発動!

このカードはライフが0になるダメージを受けた時、フィールドの希望皇ホープを墓地ヘ送る事でライフを1にしてふんばる!!」

「なんて往生際の悪い...っ、ゲホっゴホっ!」

「!セツナ」

「「!!」」

「....大丈夫よ。少し、咽せただけ」

 

 

苦しそうに咳き込む様子に、デュエル中であることも忘れ駆け寄ってきそうになる遊馬を厳しい顔でセツナが制す。

走り出しそうになったオレもぐっと足に力を込めてその場に踏みとどまる。カイトは先ほどと同じ仏頂面を貫いてはいるが、妹を心配する思いの強さを現すかのようにその眉間には深い皺が刻まれていた。

袖で口元を覆って何か考えていたセツナは不意に右足のつま先で地面を2回叩く。コンコンと音を立ててたあと、空を見上げて大きくため息を吐くと、中継が繋がっていた画面は砂嵐となり、会場のハートランドが慌てた様な声を上げた。

 

 

「おっと!?機材の故障か!?映像・音声共に見えず聞こえないぞ!この肝心なところで何たる不手際!主催者として大変申し訳ない。スタッフさーん、急いで復旧作業を!!」

「え、どういうこと!?」

「映像が消えた?」

「....中継は切らせてもらっちゃった。私がまた合図するまではこのフィールドで起きた出来事は表には流れない。音も聞こえない」

 

 

だって、とても見せられないでしょ?この後はさ。

 

そう嘲笑するセツナを悲しそうな顔で遊馬は見つめている。セツナはやはり調子が悪そうだが、微塵も声色に出さず遊馬に向かって言葉を続ける。

 

「ターンエンドの宣言が聞こえないけど?」

「っ、....オレはこれでターンエンド」

「この瞬間、反射光子流フォトン・ライジング・ストリームの効果で変化していたタイタニック・ギャラクシーの攻撃力は元に戻る。

 

.....頑張ったけどフィールドがガラ空きになっちゃったね。もう終わりにしよう、私の」

「なあセツナ、...もうやめてくれよ」

「!遊馬、」

 

 

「オレに...お前の想いを託してくれよ、セツナ!!」

「「.......」」

 

 

遊馬の言葉に大きく目を見開いた後、眉間に皺を寄せ不快感を露わにするセツナの表情は先程見たカイトとそっくりだった。

地を這うような低い声で、セツナは遊馬に言葉の真意を問いただす。

 

 

「何を言い出すかと思えば....それは、私にこのデュエルを降伏サレンダーしろと?」

「.....ああ!そうだ」

「あははっ!これだけ勝ちを目前にしてサレンダーですって?頭おかしいんじゃないの?

辞めるわけないでしょ、....私は勝ち続ける。今の私に、負けて良いデュエルなんて存在しないのよ!!

 

...あと、何を勘違いしてんのか知らないけどお生憎様。ご覧の通り私の身体はピンピンして、」

「嘘だ!トロンの奴が言ってた。お前の身体はもう限界だって。早くナンバーズ・ハンターをやめさせないと命だって危ないって....。それが嘘じゃないってのはオレだってわかるさ!」

「...私は、自分の命なんて」

 

「セツナ、俺たちは何回もデュエルした。デュエルは復讐とか、魂を奪うとかそんな事の為にするんじゃねぇ!相手と分かりあう為のものだ!だからもう、お前はオレの大切な仲間だ、友達だ!

 

...オレは負けるのが怖いんじゃねぇ。お前が居なくなっちまう事が、大切な奴らと一緒に居られなくなっちまう事が怖いんだ!カイトとハルトにとってセツナは大切な家族だ。....家族が、居なくなっちまう寂しさをオレはよく知ってる。自分が居なくなった後ハルトが...カイトがどんな気持ちになるか、お前わかってんのかよ!!

 

ーーハルトが戻ってきても、お前が居なくちゃ意味ないじゃねぇか!!」

「.......」

 

 

「遊馬....キミは本当に...」

 

 

「「......」」

 

 

「約束する。必ず、必ずオレがハルトを救ってみせる。トロンもDr.フェイカーも倒してやる!だから、」

「どうやって?」

「えっ」

「どうやって、ハルトを救うの?ナンバーズが全て揃わなければあの子は助からない。ナンバーズをあの子の為に使うという事は恐らく本来の持ち主であるアストラル、貴方の存在自体が消滅することになる」

「!」

「それでも?それでもハルトを助けてくれるっていうの?

.......貴方の父親、九十九一馬を殺した憎い男の子どもを?」

「!!」

「....セツナ、キミは遊馬の父のことを知っていたのか」

「会った事はない、記録で見ただけよ。バイロンさん...トロンと一緒に『消えた』人間。どこかで見た事がある名前だと思ってた。変わった苗字っていうのも困りものね、貴方の父親だとすぐにわかったわ」

 

 

舞う蝶と風に揺れる花々を見ながら、セツナは軽く笑う。殺伐とした空気とはかけ離れた天国のような光景が酷くアンバランスで眩暈がする。

セツナが視線を遊馬に戻した瞬間、遊馬がまた口を開いた。

 

 

「....ああ、それでもオレはハルトを救う!」

「!?アンタ、自分が何を言ってるのか、

「だってきっと父ちゃんならそうする」

「っ、....方法は?アストラルが犠牲になってもいいって?」

「そんな事しねえ!探すさ、それ以外の方法を!絶対に見つけてみせる!信じてくれ、セツナ!!」

「遊馬....」

 

 

懸命にセツナを説得しようとする遊馬をセツナは何も言わず、ただ呆然と遠い目で見つめている。

誰も喋らず無言の花畑に風が吹き抜けると、今度は空を見上げながらセツナが静かに語り始めた。

 

 

 

「.......私が、欲しかった『強さ』はきっと、こういうものだったんだろうなあ...」

「セツナ、」

「貴方ならきっと、ナンバーズ・ハンターになんかならずにハルトを...兄さんを助けたんでしょうね。羨ましいや。なんで、....なんで私こんな事しか出来ないんだろう...」

 

 

掻き消されそうなか細い声で紡がれる、切ない嘆き。

まだ空を見ているセツナの背中はあまりにも小さく頼りなくて、とても世界の頂点を獲った凄腕のデュエリストにも、冷酷なナンバーズ・ハンターにも見えなかった。

 

そこにいるのは自分の無力を嘆く、ただの16歳の少女だった。

 

 

「...強くなりたかった、ずっと。ハルトを元気づけられるように、兄さんを支えられるように。何より自分自身の為に。だって私にはこれしか出来なかったから。

 

だから頑張って、頑張って頑張って、凄く頑張って誰にも負けないデュエルチャンピオンになったわ。サイバー流の後継者にもなった。

 

......でも私が手に入れた強さは、何の役にも立たなかった。兄も弟も救えない。それどころか、何の罪もない人たちをどんどん不幸にしていく。...笑えるでしょ?

大切なものも、守りたかったものも全て、私の手から零れ落ちていくの。ねえどうして、...どうしてっ...。

 

.....私が、欲しかったものはこんなものじゃない。私が手に入れたかったものはっ、こんなものじゃない。

私がっ、憧れ続けた強さはこんなものじゃない、っ!!」

 

 

「セツナ...」

「...彼女に、なんと声をかけていいのかわからない」

「セツナさん...」

 

「っ、.......」

「セツナ様.....」

 

「.......」

 

 

魂の叫びの如く、絞り出すように吐き出される言葉は聞くもの全ての心に深く突き刺さる。遊馬と近くにいる遊馬のダチは悲しげにアイツを見つめ、カイトは俯き拳を痛い程に握りしめている。

肩で息をしながらでも、と言葉は続く。

 

 

「絶対に、やめるわけにはいかない。例えどんなに苦しくても辛くても、この命が尽きるまでは」

「!なんで、」

「兄さんを、ひとりにしないって決めたの」

 

「っ!」

 

弾かれたようにセツナを見上げるカイトの顔は驚きと悲しみが綯交ぜになっていた。激情を全面に表していた先程から一転して、穏やかな表情になったセツナは口を開く。

 

「あの人の未来を、夢を、知らぬまに全部棒に振らせてしまった。私よりも今までずっと辛い思いをしてきたの。だから、ナンバーズ・ハンターになると決めた時もう兄さんをひとりぼっちにしないって決めた。

 

....その為ならどんなことも出来る、ハルトと同じようにあの人は私のたったひとりの大好きな兄さんだもの」

 

「違う、違うんだセツナ。やめてくれ....俺は」

「だから、私は立ち止まる訳にはいかない。

......例え貴方の手の中にある希望を、奪い取ることになるとしても」

 

遊馬に向けて伸ばした手を握り、胸に押し当てる。

遊馬の目から一筋涙が溢れていく。説得など出来るわけがない、覚悟が強過ぎる。

最早出来る人間は、この世でたったひとりだけだ。

 

 

「全て終わった後に、必ず償いはする。魂を奪って来た人達にも.....凌牙くんと、璃緒ちゃんにも」

「!」

 

「そうだ...シャーク!シャークだって、アイツだってお前の事を必死に助けようとしてんだ!」

 

「あはは!『全部知った』のに彼、まだそんな事を言ってるの?ちょっとお人好しが過ぎるんじゃない」

「違う!!トロンが嘘を付いてたんだ、本当は最初からシャークに目をつけてたって。セツナを追い込んでシャークをもっと苦しめるために、」

「本当かなあ、...アイツの言う事は信用ならない」

 

 

否定しようとしたオレの声よりも、近くにいた遊馬の声が強くセツナに届く。それでもなお、遠い目をしながら薄く笑うアイツは遊馬を遮って喋り出した。

 

 

「私があの子達と関わったりしなければこんなことにはならなかったんじゃないかと、...この一年ずっと思っていた。

凌牙くんはデュエルの表舞台で華々しく活躍して、その隣にはいつも活躍を喜ぶ璃緒ちゃんがいたんじゃないかって。

 

私が、出会ってしまったから。あの子達の運命を悪い方へ捻じ曲げてしまった...」

 

 

「.......」

「......テメェ、」

「!そんなわけ、」

「なんて、ね。....貴方とはいつもお喋りしすぎちゃうな。そろそろ再開しようか」

 

 

本当は今にも泣きそうなのに、無理に戯けて笑うアイツに無性に苛立ちが募る。怒鳴りつけてやりたいのに血のような深紅の瞳が涙を湛えて、哀しげにキラキラと光るのが遣る瀬無くて、何も言えなくなってしまった。

 

 

カイトはまた俯いて拳を強く握り締めている。本当なら今すぐに止めに行きたいのだろう。だがそれをコイツは決してそんなことを望まない。止めれば永遠に兄を許しはしないだろう。それをきっと、カイトはよくわかっている。

 

 

「(...アイツを止めてくれ。.....おい、お前に言ってるんだぜ。聞こえてんのかよハルト。お前の姉さんが取り返しのつかない事になる前に、早く。お前しかもう、アイツは止められねぇんだよ.....)」

 

 

会った事もないアイツの弟に、心の中でそう言ってやる。そんなもの届くわけがないとわかってる、奇跡でも起きない限りは。

セツナがデッキの上に手を載せる。今日も右手の薬指にはあの銀の指輪が輝いていた。

 

 

「......さあ、私のターンね....、っ!?」

「「!?」」

 

 

セツナがカードをドローしようとしたその瞬間、タイタニック・ギャラクシーがいきなり大きく咆哮を上げる。

何かを必死に呼ぶような、そんな声で。

 

 

「?、どうしたの....お前、一体」

「.....タイタニック・ギャラクシーが、泣いている。助けを求めている」

「タイタニック・ギャラクシーが...?誰に...」

 

 

啼き続けるタイタニック・ギャラクシーに全員が困惑していると今度はセツナが紅く光り出した。正確にはセツナの嵌めている指輪が、だが。

 

「「!?」」

「指輪が....、待って!」

 

「カ、カイト様!?コレハ一体」

「バリアライトが、タイタニック・ギャラクシーと共鳴している....だと...?」

 

 

指輪がアイツの指からひとりでにするりと抜ける。目の前で宙に浮く指輪をセツナが掴もうとした時、光り続ける指輪は瞬く間に目の前でひとりの子どもの姿に変わった。

 

 

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