「じゃあ私は此処で、ハルトと一緒に応援してるね」
「ああ、頼んだ」
「オービタル、兄さんの事よろしくね」
「任セルデアリマス!カイト様ノ事ハコノオービタルガシッカリサポートスルデアリマス!」
「いつもありがとう。頼もしいよ」
「デヘヘヘヘ、セツナ様ニ褒メテモラエルナンテ天ニモ昇ル気持チデアリマス!」
「無駄口を叩くな。行くぞオービタル7」
「カ、カシコマリ!」
ハルト、行ってくる。今日で全て終わりだ。
眠るハルトにそう声をかけて兄さんはスタジアムへ向かった。
その姿を見送った後自分もすぐに部屋を出る。もっと身なりを整えた方が良かっただろうかとほんの少し後悔したが、朝早くから下手に気合を入れていれば兄に怪しまれるし、何より一刻も早く『カタ』を付けてしまいたかった。
髪を適当に纏めて黒のキャミワンピにアイボリーのパーカーを羽織っただけの格好は部屋着に近いが、別にどんな姿でも構わないだろう。会う相手は『父』なのだから。
室内用にしているバレエシューズが無機質な廊下を蹴るたびにパタパタと乾いた音を立てる。父の研究室の前で立ち止まると何もせずとも扉が開いた。
「.....朝早くから何の用だ、セツナ」
「何その言い方。折角可愛い娘が会いに来てあげたって言うのにご挨拶だな。もっと違う言葉を掛けられないの?」
「生憎忙しい身でな、下らん用事なら後にしてもらおう」
「いいえ、後回しになんかさせない。貴方には今此処で私とデュエルしてもらう」
デュエルモード、フォトン・チェンジ。
静かにそう言えば左腕にデュエルディスクが起動し、髪は黒く、瞳が紅く変化する。臨戦態勢の私を見て父は眉を顰めると低い声が研究室の空気を揺らした。
「言ったはずだ。ナンバーズも無く、サイバーエンドを失ったお前では万に一つも私に勝てる可能性などないと。お前はただ黙ってハルトの側に、」
「ご指摘はごもっとも。...でもね、これでも私は『元』デュエルチャンピオンなの。
勝てる可能性が低かろうがなんだろうが、そんな事は関係ない。私はアンタを許さない。絶対にぶちのめしてやる。私が勝ったら、今まで迷惑をかけた人たち全員に土下座して回ってもらうから」
「なんと愚かな....、どうやら父に対する口の利き方をもう一度教えてやらねばならんようだな、セツナよ!」
「今まで親の責任なんか碌に果たしてこなかった癖に、今更父親面なんかすんな!!こっちこそ、アンタに親とは何たるかを叩き込んでやるわ!!」
向こうもデュエル・モードに切り替わるとARビジョンが作動した。デュエル開始の宣言をすると、開きっぱなしだった研究室の扉がゆっくりとしまっていった。
♯
「痛い、痛いよ....全部兄さんのせいだよ」
「「!?」」
「ボクを治してくれるって言ったのに、それなのにこんな酷い目に遭わせて...」
「ハルトの顔が、」
「これは、Ⅳとシャークがデュエルした時にセツナを見せたのと同じ」
「...これまで、貴様の退屈な戯言を聞いてやった。俺なりに相手をしてやったつもりだ。
ーーーだが、この侮辱は許せん!!」
「怒ったの?でもボクはハルトなんだよ?」
「貴様がハルトを語るな!!」
「語りじゃないよ。ほらハルトを誘拐した時だよ、あの時ねぇボクの中にハルトの力と記憶を全て吸収しちゃったんだ」
「何だと?」
「その時ね、交わったんだよ。お互いの空っぽの心が」
トロンが手を伸ばせばハルトの映像が映し出される。
奴が頬を抓れば本当に痛みを共有しているかの如くハルトは苦しむ。
「!貴様、貴様が本当にハルトと繋がっているというのか!?」
「そうだよ、ボクはハルトさ!」
「......!」
こんな所でデュエルなんぞしている場合ではない。セツナ、お前は一体何をしている。ハルトの側にいるはずではないのか。
ハルトの元へ向かおうとすれば腕にデュエル・アンカーが巻きつき、身動きが取れなくなる。
「!っ、」
「ダメだよ、キミをハルトの元へは行かせない」
「カイト!オレがハルトの所へ行く。オレがハルトを守るから、今はデュエルに集中しろ!」
「遊馬.....」
「オービタル7!」
「カシコマリ!」
「かっとビングだ、オレ!!」
遊馬はそう言うとオービタルを使いハルトの元へ向かった。その姿をハルトの顔で見送ったトロンは楽しそうにハルトの声で喋る。
「元気な子だ、フフフフ。...それにしてもセツナはどこに行っちゃったんだい?あんなに苦しんでるハルトを放ってさ」
「........」
「ふーん、まあいいや。さあ続けようよ、デュエルを」
ハルトの声でデュエルを再開するトロンに苛立ちが募る。だが、コイツにデュエルで勝利しなければこの場を離れる事も出来ない。
「(ハルト...セツナ...)」
集中しろ、片手間で勝てる相手では無い。
気掛かりな弟と妹の事を無理やり頭の片隅へと追いやり、目の前の憎い敵へと意識を移した。
「ーーおい、もっと早く飛べねぇのかよ!このままじゃハルトが、」
「トンマ!オ前ニ言ワレ無クテモ分カッテイル!
.....ソレニハルト様ダケデハ無イ、ハルト様ノ側ニハセツナ様ガ居ル筈ナノダ!」
「セツナが!?...でもさっきのハルトの様子には一度も...」
「オカシイデアリマス!苦シムハルト様ヲセツナ様ガ放ッテオク筈ナイデアリマス!!
....突ッ込ムゾ!捕マッテロヨ!!」
「えっ、うわあっ!?」
オービタルはスピードを上げてハルトのいるタワーへと向かって行く。タワーの警備システムがオレ達を撃ち落とそうとしてくるのを何とかかわすと、窓ガラスをぶち破り部屋の中へと入った。
「おいハルト!しっかりしろ、ハルト!!」
「う、っ...ゲホッ、ゲホ!...ハァ、ハァ....」
「カイト、ハルトは無事だ!ハルトは生きてるぞ!聞こえるか!!」
「そうか、ハルトが....」
「あはははは!引っ掛かった引っ掛かった!もうダメかと思ったでしょ?」
「貴様...っ」
「やだなぁ、ちょっとした冗談じゃないか。でも此処からが正念場だよ。.....ねっ、『父さん』!」
「....っ、バイロン!」
「いい加減にしろ!ハルトは何もしちゃいないのに...、ハルトはただカイトとセツナと一緒にいたいだけなんだ!!
カイトもセツナも同じだ。ただお前を助けたくて、お前の事だけを思って...、なのに何で...っ」
「ぅう....あ、っ...」
「何だ...!?」
「これは...」
苦しむハルトの手を握ればまた青い光に包まれる。
気付けばオレとアストラルはまた、ハルトの意識の中にいた。前と同じく青い空の下に広がる花の咲く緑の丘と赤い屋根の家。
何でオレ達はまたここに...?そう思った時、家から何か邪悪なものが飛び出した。こっちに向かってくるその邪悪な何かを避ければ、空に浮かぶトロンの姿を見つけた。
「どうして、どうしてお前が...」
「やっぱりハルトの中にいやがったのか!」
「いつもいつもボクの邪魔ばかりする、目障りな奴...遊馬!!」
邪悪なオーラを纏ったトロンは巨大なドラゴンとなってオレ達に襲いかかってくる。
「遊馬!」
「わかってるぜ!
ーーー現れろ、No.39 希望皇ホープ!!」
呼び出したホープがドラゴンの体を切り裂く。でも倒したはずのドラゴンの傷は再生し、オレ達に向かって灼熱の青い炎を吐く。
「くっ、冗談じゃねえ!テメェなんかにハルトの心を、好き勝手にやられてたまるかよ!!
いっけぇ、ホープ!ハルトの中に巣食う、邪悪な根っこを叩き切れ!ホープ剣スラッシュ!!」
ドラゴンを斬ればその姿はトロンへと戻り、まだこっちに襲いかかろうと向かってくるが、オレに辿り着く前にその身体は爆発した。衝撃で大きく弾き飛ばされたかと思うと、ハルトの意識の中から元の部屋に戻ってきていた。
「おのれ遊馬....、どこまでも邪魔を...、遊馬!!」
「どうなっている.....」
「へっ!ハルトの中にいたトロンの意識を退治してやったぜ!ハルトはもうトロンも繋がっちゃいねぇ!安心しろ、カイト。そして奴をぶっ倒せ!!」
「お前...。くっ、うおおおおおおっ!貴様だけは許さん、トロン!!」
「遊馬...カイト...キミ達はどこまでもボクの思い通りにならないってことだね」
ハルトの無事を伝えるとカイトはまた紅く光り出す。
これは超銀河眼ネオ・ギャラクシーアイズを呼んだ時と同じ光だ。アイツら兄弟の絆の力、最強のドラゴン...。そこまで考えて部屋中を見回すが、やっぱりおかしい事に気づく。
「セツナが、何処にもいねえ」
「我々がこの部屋に来た時から彼女の姿は何処にもなかった」
「ウウ...、セツナ様...」
「...オービタル、キミはセツナが攫われた時彼女の反応を探し出せると言っていなかったか」
「!それだ、それだぜオービタル」
「ソレガ....マタ何ノ反応モ無ク...何処ニ行ッテシマッタノカ...」
そうしょんぼり話すオービタルを見た後、カイトとトロンのデュエルをもう一度見る。やっと本気が出せるカイトは目の前のトロンに集中している。
「(セツナ、お前どこ行っちまったんだよ...)」
でも今はデュエルに集中させてやりてえ、...セツナの事をカイトに伝えるのはこのデュエルが終わってからだ。
そう思いながらデュエルを見守る。
カイトが超銀河眼ネオ・ギャラクシーアイズを召喚し、トロンのゲノム・ヘリターを攻撃するが罠トラップカードによりダメージを減らされ倒しきれない。
「ありがとうカイト、全てはキミのお陰だ。キミが眠れる紋章獣を呼び覚ましてくれた!!
ーーー現れよ、No.69 紋章神ゴッド・メダリオン コート・オブ・アームズ!!」
「何だこのナンバーズ...」
「コイツを操るには莫大なエネルギーが必要だったんだよ。.....それは怒り」
「怒り?」
「そう、ボクには感情がない。純粋な怒りがないんだ。だからみんなに怒ってもらった!ドロワや凌牙、そしてボクの息子達やキミの妹のセツナさえ使って怒りを溜めてきたんだあ」
「何だと...!」
「特にキミは良く怒ってくれた。ハルトやセツナの事になると怒る怒る....、お陰でぇ、見てよほら!コート・オブ・アームズを呼ぶことが出来た!!」
「全ては、このナンバーズを呼ぶ為に....」
トロンが新しく召喚したナンバーズ、コート・オブ・アームズがカイトの超銀河眼ネオ・ギャラクシーアイズの効果を奪い取る。オレがデュエルタワーに戻った時にはカイトは3回連続攻撃を食らい、勝負が決まっていた。
「カイトが....あのカイトが、負けた。カイトの魂はトロンの奴が奪い去った。
ーーーカイトはただ、ハルトを助けたかっただけなんだ。大切なものを...守りたかっただけなんだ...」
「遊馬、トロンは紋章の力を使いドロワやカイト、ハルトの魂を奪った。ならば彼をデュエルで倒しその力を破壊すれば、もしや...」
「...ああ!やってやる、必ず奴をぶっ倒してやるぜ!」