深紅   作:天城ある

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30.救済

またここか、そう思いながら身体を起こす。

もう何度目かわからない程よく見た光景。この病院の天井は見慣れてしまった。

 

「(悪ぃな、セツナ...)」

あれだけの口を叩きながらこのザマとは。結局はトロンに操られ、遊馬を苦しめた挙句また救われた。

...アイツはこんなオレの姿を見て呆れているだろうか。

 

 

病室の窓からは今まさにデュエルが行われているであろうスタジアム、そしてデュエルタワーがよく見えた。時間的には決勝戦だろうか。あの黄色く光る、何かが渦巻くような球体状のフィールドが決勝の舞台だったのだろうか。

そんな事を考えた次の瞬間、タワーが激しく崩壊していく。事故が起きたのだろうか...いや、そんな事はどうでもいい。あそこにはきっと遊馬がいる。

 

「...っ、遊馬!」

 

こんな所で寝ちゃいられねえ。シャツを羽織ると急いで病室を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

「さあ最後の仕上げをしようか。アストラル世界を滅ぼすという、最後の仕上げを....フフフフ、ハハハハハ!」

「最後の仕上げ?アストラル世界を滅ぼすって、どういう事だよ!?」

「簡単な事だ、お前達にはアストラル世界を滅ぼす弾丸になってもらう。このスフィアフィールド砲のな!」

「弾丸...スフィアフィールド砲...」

「遊馬!下を見るんだ!」

「ここは、あの時のゴミ処理場!」

 

さっきまでスタジアムのデュエルタワーに居たはずが、いつの間にかこんな所に飛ばされてきたのか。

オレ達とDr.フェイカーを囲む球体がどんどん下へさがっていく。目の前にいるDr.フェイカーは機嫌良く笑いながらオレ達へと言い放つ。

 

 

「これからキミ達が行く場所はスフィアフィールド砲の発射口だ!そしてそれはアストラル世界へと向けてある」

「「何!?」」

「....そうか、この記憶は私の世界の、」

「今までの攻撃とはレベルが違う。このスフィアフィールドはナンバーズの力を一つに集約させた弾丸。

それを一気に撃ち放つことにより、アストラル世界は...」

「そんな事の、そんな事の為にカイトとセツナにナンバーズを!」

「WDCもナンバーズを集める為に開催したもの。カイトがバイロンに、そして九十九遊馬、お前にセツナが敗れたのは残念だったが全ては想定内。要は全てのナンバーズが決勝に集まれば私の目的は達せられる」

「それじゃあオレもトロンも、カイトやセツナにシャーク、それにIII達、参加者全員がお前の道具だったって事かよ!!」

 

 

許せねえ、思わず殴りかかるが拳はDr.フェイカーをすり抜ける。奴は一瞬のうちにまたオレの背後に姿を現した。

 

「フハハハハ!まもなく時は満ちる。

ーーーさあハルト、そしてセツナよ。これがお前達の最後の仕事だ」

「ハルト、...セツナ!?何でお前が、」

「あれは愚か者よ。私に勝ち目のない戦いを挑み、そして敗れたのだ。

セツナはハルトと同じ、いやそれ以上にバリアン世界に魅入られし存在もの。言う事を聞かぬならせめてハルトと共に、その力を私の為に使うといいわ!」

「!セツナの奴、あの後Dr.フェイカーとデュエルしたのか」

「だからハルトの側に彼女の姿がなかったのか....」

 

 

意識のないセツナと虚な目をしたハルトはスフィアフィールド砲の発射口に吸い寄せられるようにふわりと浮くと、ふたりともその身体が機械に組み込まれていく。

「く、っ...ぐああああああっ!」

「........」

「おいハルト、しっかりしろセツナ!!」

 

苦しそうに悲鳴を上げるハルトと、気を失ったままのセツナ。必死にフィールドを叩くがオレとアストラルはここから出られそうにない。

 

「くそっ、どうすりゃいいんだ...」

 

 

 

♯

 

 

 

 

「間違い無いのか!」

「ハイ、ハルト様トセツナ様ハコノ塔ノ下、地下ノゴミ処理場ニ...」

「無事なんだな、ふたりとも」

「ゴ無事デスガ...、ハルト様モセツナ様モソノ場所デオフタリ自身ガスフィアフィールド砲ノ一部分トナッテ....」

「!?何だと、」

 

 

俺がデュエルに敗れ意識を失っている間にそんな事に。セツナ、お前まで...。そこまで考えてふとあの指輪の存在を思い出す。

 

「(他の物とは比にならぬ程高純度のバリアライト。それを常時持ち続けられるだけの、正に人間離れした素質の持ち主。あの指輪の力含め上手く使えば軽くハルトを凌ぐ力を発揮するだろう)」

 

 

Dr.フェイカーがそれを目的にセツナを攫ったとしてもおかしくはない。ハルトの事といい、自分の子どもであろうが無かろうが最早関係ないのだろう。

あれはもう俺達の親どころか、血の通った人間ですらない。自分の望みを叶える為ならばどんなものでも代償に支払う悪魔だ。

 

 

ぐずぐすしている時間はない、急がなければ。ハルトとセツナを助けられるのは俺しかいない。

崩壊するタワーの内部を地下のゴミ処理場目掛けて進むんでいると腰のデッキケースが光っているのに気がついた。

 

「ハルトとセツナの力で得た超銀河眼ネオ・ギャラクシーアイズが...。お前達、苦しんでいるのか」

 

 

超銀河眼ネオ・ギャラクシーアイズは危機を知らせるかの如く点滅を繰り返している。

やはり急がなくては、そう思った時一際大きな揺れで体勢が崩れ壁に強く身体を打ちつける。

「くっ、」

「カ、カイト様!」

すぐに体勢を立て直そうとするがそれよりも早く、大量の瓦礫が自分の頭上に降り注いだ。

 

 

 

 

♯

 

 

 

「小鳥ちゃん、今どこ!?」

「ハートの塔の下です!遊馬がきっとここにいるんです!」

 

走りながら明里さんと通話する。驚く声にそうよね、自分でもびっくりしてると心の中で返す。危ない事だとはわかってる、でも身体が動いてしまった。

崩壊していくハートの塔の中を当てもなく進んでいくと聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「カイト様!カイト様ッ!!」

「あれは...、カイト!」

 

瓦礫の下敷きになっているカイトの側で必死に名前を呼び続けるオービタルを見つけた。大変、助けなくちゃ。明里さんとの通話を切るとオービタルに声をかける。

急いでカイトの上に覆い被さる瓦礫を退かそうとするけど、とても私達ふたりの力では退かせそうにない。

 

「ほら!もっと力を入れて、っ」

「カ、カシコマリ!」

「もう少しよ...頑張って...」

 

 

 

「ーーそこを退け」

「!シャーク、」

「オ前ハアノ時ノ!」

「オレが瓦礫を支える。その間にソイツを引っ張り出せ、.....早くしろ!」

「は、はい!」

 

 

それでも必死に瓦礫を動かそうとしていれば突然シャークが現れて助けてくれた。やっとの思いで引っ張り出したカイトは息も絶え絶え、辛そうな表情かおをしている。

 

「ありがとう、シャーク」

「礼はいい。さっさとソイツと逃げろ」

 

「逃げる訳にはいかない。....こうしている間にもハルトとセツナが、」

「!おい、それはどういうことだ」

「ハルト君とセツナさんに何かあったの!?」

「エエト、ソレハ...」

「オービタル!」

「答えて、答えなさい!ハルト君とセツナさんがどうしたっていうの!?」

「ジ、実ハスフィアフィールド砲ノ一部トナッテイルノデス...」

「スフィアフィールド砲?」

「何だそりゃあ...」

「アストラル世界ヲ滅ボス為ニ作ラレタ最終兵器。Dr.フェイカーハソレヲ完成サセル為ニ、カイト様トセツナ様ニナンバーズヲ集メサセテ、」

「何だと!?それはどこにある、スフィアフィールド砲はどこから発射される!?」

「....時間が無い。行くぞ、オービタル」

 

 

カイトの言葉からオービタルを問い詰めれば、聞こえてきたのはハルト君とセツナさんに危機が迫っているという内容だった。途端に焦ったようなシャークの問いかけにカイトは答えず去ろうとする。

 

 

「待て、まだ話は終わってねえ!」

「.....礼はいらないと言っていなかったか?生憎、俺は感謝の言葉など持ち合わせてはいない。期待しても無駄だ」

「っ、そんなんじゃねえ!」

「ならばデュエルの申し出か?それも後にしてもらおう。...最も、お前とは既に決着が着いている筈だがな。

 

ーーそれと貴様。随分と妹の事を好いているようだが、俺は俺よりも弱い奴がアイツの隣に立つ事は認めない。さっさと諦めるんだな」

「!黙れ、次は絶対にオレが勝つ!アイツを、セツナを守るのはオレだ!」

「守るだと?俺どころかセツナ本人にすら勝てない奴がよくそんな口を叩けるものだ」

「っ、テメェ!」

「ちょっとふたりとも、ケンカしてる場合じゃないでしょ!?」

「お前も黙ってろ!」

 

 

スフィアフィールド砲の場所を聞き出すはずが、セツナさんの話になった途端脱線しながらヒートアップするふたりの会話に頑張って割って入ればシャークに怒られる。

 

 

「オレは礼が欲しい訳でもコイツとデュエルがしたい訳でも無い!

ーーオレは、オレはセツナと遊馬を助けたいだけだ!」

「!」

「スフィアフィールドの中にはまだ遊馬がいるかもしれねえ、そのまま兵器にされたら....。セツナだってスフィアフィールド砲の一部にされてるなんて、無事で済む訳がねえ。

 

...オレはアイツらを見殺しにはできねえ。オレと璃緒を救ってくれたセツナを、オレの代わりにトロンを倒してくれた遊馬を。

答えろクソロボット!スフィアフィールド砲はどこから発射される!?」

「........」

「ムキーッ!クソロボットトハ何ダ!ソンナ事言ウ奴ニハ教エナイ!プイッ!」

「くっ、この...っ」

 

 

シャークの強い思いは伝わるけれど言い方が悪すぎる。

啀み合っているシャークとオービタルは置いておいて、無言で何か考えているカイトに私から改めてお願いしてみる。

 

「お願い、私も遊馬を助けたい。勿論ハルト君とセツナさんも。遊馬はハルト君の事をずっと心配していた...、セツナさんの思いを引き継いでデュエルカーニバルで優勝までしたわ。

その事は貴方だってわかってるでしょう、カイト」

「.........」

「だからお願い、3人を助ける為に力を貸して」

「...行くぞ、オービタル7」

「カイト!」

「助けたければ着いて来い。地下のゴミ処理場にハルトとセツナ、そして遊馬もいる」

 

 

 

♯

 

 

 

「ーーやはり来てしまったね、カイト。弟の叫び声が、妹の声無き苦しみが、キミには聞こえたのかな?」

「貴様っ!....ハルト、セツナっ!!」

「遊馬、遊馬もいるわ!」

「セツナ、遊馬....、クソっ!」

 

 

地下のゴミ処理場に辿り着いた私達が見たのはスフィアフィールドの中で苦しむ遊馬、そして機械に磔にされて苦しんでいるハルト君と意識の無いセツナさんだった。

 

 

「Dr.フェイカーを邪魔する者は誰だろうと容赦しない。

さあ、やってしまいなさい!邪魔者を排除するのだ!」

 

 

そうMr.ハートランドが言うとどこからか大量のオボット達が現れて私達に襲いかかってくる。カイトとシャークが応戦するけどオボット達の数が多過ぎて全然状況が変わらない。焦るカイトにハートランドが語りかけていた。

 

「キリがねぇぜ...」

「このままではハルトとセツナが...」

「案ずる事はない。ハルトとセツナは立派に役に立つ」

「何だと!?」

「父であるDr.フェイカーの為になるのだから彼等もきっと本望でしょう」

「っ、ふざけるな!!」

「ふざけてなどいない。私は嬉しいのだよ、Dr.フェイカーの長年の夢がまもなく達成される事が。

それは私の夢にも繋がる。私はDr.フェイカー様に全て賭けてきたのだ。だからこそ、誰にも邪魔させる訳にはいかない。キミ達もあの九十九遊馬と一緒に消えてもらおう!

ーーーさあ、地獄の門よ開け!!」

「「!?」」

 

 

ハートランドの掛け声と共に立っていた場所が動き出す。床が開き、何体ものオボット達が吸い込まれていく。

 

 

「この下はアストラル世界へと通じている。お前達とは永遠のお別れだ!」

「クソっ、奴らオレ達をゴミと同じように棄てるつもりだぜ!」

「この穴に落ちたら...もう...」

 

その間にもオボット達は増え続ける。何とか攻撃から逃げていればまたシャークとオービタルが喧嘩し始めたので見かねて止めに入る。

 

「もう、喧嘩してる場合じゃないわ!

このオボット達はどこからか指示を受けて動いているはずよ、それを突き止めて破壊すれば...」

「オオ!何故ソンナ簡単ナ事ヲ!デハ早速調ベルデアリマス!全テノ指示ハホストコンピューターカラ出テイルデアリマス、ソコニ強制的ニアクセスシ大量ノ電圧ヲカケレバ...、アリマシタ!アソコデス!!」

「説明はいい!さっさとやらねぇか!」

「命令スルナ!オイラハオ前ノ僕デハナイ!」

「やれ、オービタル!」

「カ、カシコマリ!....ウオオオォ、カシコマリングダ、オイラ!!」

 

 

オービタルは見つけたホストコンピューターの接続口に素早く移動すると大量の電圧をかける。オボット達の動きは止まり、反動でショートしたオービタル自身も倒れてしまった。

ハートランドが乗る宙に浮く機械も電力不足で自分の開いた穴に吸い込まれるようにして落ちていく。

「ちょっ、ちょっと待って...誰か!誰か助けて下さーーーい!!」

 

 

 

「よくやった、オービタル!」

「...カイト様ニ、オ褒メノ言葉ヲ...本望デアリマス...」

「オービタル...ありがとう...」

ボロボロになったオービタルに駆け寄ればカイトから労いの言葉が飛んでくる。その言葉を聞いた後、オービタルのシステムはダウンして動かなくなってしまった。

溢れる涙を拭っていれば頭上が突然光り出している。

あまりの眩しさに顔を覆うとスフィアフィールドから放り出される様に遊馬が現れた。

 

 

 

「ぐわあっ!」

「「遊馬!」」

「........」

「いってて....」

 

 

「フフフフフ、ハハハハハ!

余計な事をしてくれたな。だが、何をしようと無駄な事。もうじきお前達はアストラル世界と共に吹き飛ぶ、あのスフィアフィールド砲によってな!!」

 

「Dr.フェイカー!......そうか、そういうことか。わかったぜ、アストラル!

 

ーーーシャーク、カイト!オレに力を貸してくれ!

アストラルに託された、『希望』と『未来』を守るんだ!!」

「希望と、未来.....」

「...お前達も俺に託すんだな、希望と未来を」

 

 

遊馬、シャーク、カイトがそれぞれが自分達のエースモンスターのカードを一点に集める様にして空に掲げる。

 

 

「オレ達の心は決まったぜ!みんなの未来をかけて、デュエルで勝負だ!Dr.フェイカー!!」

「面白い。コンピューターが自動修復する迄の時間潰しにはもってこいだ。そのナンバーズも返して貰わねばならぬしな。

ーーー良かろう、相手になってやる」

 

 

動かないオービタルを支えながら、これから始まるデュエルをひとり見守る。不安で震える手をぎゅっと握りしめた。

「(遊馬、カイト、シャーク...貴方達こそみんなの希望。

....守って、未来を....)」

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