「父さん....」
「「!.......」」
バリアンは消えて、負けたフェイカーはまるで用無しだと言われたみたいに地面に投げ出される。カイトから聞こえてきたのはただ純粋に、父親のことを心配する息子の声だった。
そのフェイカーが負けたことで頭の上にあるスフィア・フィールド砲は機能を維持出来なくなったのか激しく爆発を起こしながらどんどん壊れて行く。
「ハルト、セツナァァっ!」
カイトが必死に磔になったままのふたりの名前を呼ぶ。爆発と同時にふたりの身体が見えなくなったかと思えば爆風の中ハルトがふわふわとカイトの方へ引き寄せられるように飛んできた。
カイトは駆け寄ってハルトの身体をしっかりとキャッチする。
「....兄さん、」
「もう大丈夫だ。お前の悪夢は、全て消え去った」
穏やかに笑い合うカイトとハルト。やっと、ちゃんと再会出来たんだ。でもふたりは次の瞬間には慌ててセツナの事を探しだす。
「!セツナ....、セツナはどこだっ!?」
「姉さん、姉さん!?」
「!あそこだ、フェイカーと一緒にいる」
「「!」」
「っ、おとうさん...?」
「セツナ!セツナよ。済まない...、本当に済まなかった...。私がお前をこんな目に...」
「....あはは、お父さんとこんなに近くで、目ぇ見てちゃんと喋れるのは...久し振りだなあ」
シャークが指差した先には座り込むセツナをボロボロのフェイカーが支えている姿があった。遠くからでも何度も何度も謝るフェイカーにセツナが少しうんざりした顔をしながらもういいと返している様子が見える。それでもその表情かおは柔らかい笑顔で、父との再会と和解を心から喜んでいるみたいだった。
カイトもセツナも、本当によかった。隣のシャークも優しい顔をしながらセツナの事を見守っている。
だけどのんびりはしていられない。スフィア・フィールド砲が壊れた影響なのかとうとう周りの壁まで崩壊し始めた。
「危ねえ!っ、」
「!シャーク」
「きゃあああっ!」
「小鳥!!」
「オービタル!いつまで寝ている、オービタル7!!」
「カ、カシコマリ!」
シャークが落ちてきた壁からオレを庇って倒れ込んじまう。離れた場所にいた小鳥も爆発に巻き込まれてこのままじゃ危ねえ。倒れたシャークの側にいれば、カイトの声で起きたオービタルに乗って小鳥がオレ達の所に合流した。
その時、フェイカーとセツナの悲鳴がオレの耳に届く。
「っ、きゃあああっ!」
「セツナ!くっ、カイトオオオオっ!」
「!セツナ....っ、...クソっ、」
「シャーク、そのケガじゃ無理だ!」
「セツナ!父さん!!」
足元が崩れ下に落ちて行くセツナとフェイカー。咄嗟に起き上がってセツナを助けに行こうとしたシャークは、腹を押さえて崩れ落ちるようにまた倒れ込む。動いたせいかまた滲んでくる真っ赤な血が痛々しい。
シャークの側に付いていれば、近くにいた小鳥とオービタルの所にハルトを下ろしたカイトがオービタルに向かって声をかける。
「オービタル、ハルトを頼んだぞ!」
「カイト様!マサカ!」
「兄さん、兄さん!!」
「セツナと父さんを連れて来る。…必ず、連れて帰る!」
セツナとフェイカーが落ちていった方へ真っ直ぐ飛び降りていくカイトを見た後、オレも立ち上がる。
「小鳥、みんなを頼んだ」
「えっ!?」
「....行くのか」
「ああ」
「...アイツを、助けてやってくれ」
「おう!任せとけ!....うおおおっ、かっとビングだ!!」
そう叫びながら爆風でよく見えない地下の更にその下へ向かって勢いをつけて飛び降りた。
♯
「セツナ、...もういいのだ。このままではお前まで落ちてしまう」
「そう思うんだったらっ、少しは頑張ってっ、這い上がろうとしてくれないかなっ!」
か弱い女子高生が成人男性を引き上げられる訳ないでしょうが!
そう怒鳴りながら片手で落ちそうな父の手を強く握り、もう片方の手と近くの瓦礫をデュエル・アンカーでぐるぐる巻きにして何とか耐える。物凄く手が痛い、足が滑る。まるで異世界へと引き寄せられているような力を感じる。
足元が崩れて落ちた先でギリギリまだ留まることが出来たのはよかったが、更に落ちかけた父を私では引き上げられない。このままでは共倒れだ。
歯を食いしばってどうにか耐えていれば。諦めたような顔の父がまた喋り出す。
「.....お前には本当に済まない事をした。母の代わりにと懸命に私達家族を明るく照らすお前の、その未来を...私は閉ざしたのだ。いくら懺悔しようともその罪はとても、償いきれぬ...」
「.......」
「ここでお前まで道連れにしまうことだけは、避けさせてくれ。それが今の私に出来るせめてもの...お前への償いなのだ。だから、」
「....逃がさない」
「...?」
「そんな言い訳並べて、自分ひとり異世界に逃げようってっ?そんなの許さない。私だけじゃない、兄さんもハルトも、..,ママだって絶対、そんなの認めないっ。
犯した罪には生きて向き合ってもらう。...そしてもう一度、私達の父親になってもらうわ!
ここからもう一度、っ...ちゃんと家族として、やり直すんだから、っ!逃げないでよっ!!」
「セツナ....お前....」
気合いでそこまで言ったは良いけどもう限界だ。心の中で助けを求める。
「(兄さん、凌牙くん...、もう無理助けて...!)」
その瞬間、踏ん張りが効かなくなって父と一緒に下へ落ちかける。ダメだと思ったその時に身体を強く引かれて後ろへ引き戻される。
「...セツナの言う通りだ。ーー俺が来るまでよく耐えた」
「!遅いよぉ...、兄さん」
「カイト!」
「その手、絶対に離すな。必ず助ける」
「うん、わかってる」
「そういう事だ。....異世界などへは逃がさん。これからは父としての役目をしっかりと果たしてもらう。それが俺達に対するアンタの『償い』だ、...父さん」
「お前達....。!?」
「きゃ、っ!」
「くっ.....」
兄の登場に安心したのも束の間。新たな爆発で自分達の足元が崩落する。父の手を掴んだまま落ちていく私の手を取り、兄がデュエル・アンカーを伸ばす。決死の思いで伸ばしたデュエル・アンカーは力強く、ある人物によって掴まれた。
「!遊馬」
「何でここに、」
「...何故だ、九十九遊馬。何故お前は私を...」
「アンタの事は憎いさ。けどアンタは一生懸命ハルトを生かそうとした。....きっと父ちゃんなら、仕方がないって笑う」
「!!」
真下で父が息を呑む音が聞こえた。そう言って笑う遊馬を見て、一馬さんの事を思い出したのだろうか。
少しずつ私の手を握る力が弱まっていく、驚いて下を向けば俯く父の頭が見えた。
「!お父さん、手っ」
「....もういいのだ遊馬、私の犯した罪は大きい。私はやはり、許されるべきではない」
「父さん、っ」
「ーーそうだよ。キミの罪は重過ぎる」
「「!?」」
父の発言を肯定する声が聞こえる。渦巻く異空間を背に現れたのはバイロンさんだった。
バイロンさんは遊馬のすぐ後ろに降り立ち、真っ直ぐに父のことを見つめている。
「トロン、やめろトロン!もう復讐は終わったんだ」
「.......」
遊馬の言葉には答えず、すっと掌をこちらへとむける。何をしようというのだろうか...、この状態では抵抗も出来ない。
恐らく私と兄さんが同時に覚悟を決めた時、父が口を開いた。
「バ、バイロン。頼む、...カイトやセツナに罪はない。悪いのは全て私だ」
「!」
「父さん!」
「やめろトロン!」
「....これが私の、最後の力だ!!」
笑うバイロンさんの目から紋章が浮かぶ。水色に光るその紋章が波紋を拡げるように私達に当たるとバイロンさんと遊馬の立っていた足場も崩壊した。
「うわああああああっ!!」
断罪魔のような遊馬の叫び声を耳にしながら異世界へ向けてみんなで落ちて行く。
ーーー筈だった。
「....あ、あれ?....よう、小鳥!」
「.....!」
「....バイロンさんが、助けてくれた...」
気付けばタワーの外の安全な場所にみんな揃ってワープしていた。周りにはハルトや凌牙くん、小鳥ちゃんにオービタルもいる。
両側から父を抱えて支えるような格好で戻ってきた私と兄さんは目を見合わせて無事戻ってこられた事に安堵し、ホッと息を吐く。
小鳥ちゃんは遊馬とアストラルと無事再会出来たことに涙を流している。ハルトは私達の姿を見つけるとすぐに駆け寄ってきた。
「姉さん、兄さん...父さん!!」
「!ハルト、」
「姉さん...よかった....、みんなが帰ってきてくれて....」
「もう大丈夫よ。これからはずっと、みんな一緒だから...」
「うん...!」
腕の中に飛び込んできたハルトをしっかりと抱き締める。暖かい...ああ、いつものハルトが戻ってきてくれた。やっと、やっと...元通りになった。
ハルトを抱き締めたまま滲む涙を手の甲で拭えば、兄さんにぽんぽんと優しく頭を撫でられる。顔を上げればもうずっと見ていなかったような、優しい表情かおで私達ふたりを見下ろしている。
「兄さんっ」
「セツナ....やっと、やっとだ。お前を自由にしてやれる。....こんなにも長い間、苦しめて済まなかった」
「それは兄さんもでしょ...ずっと、私達を守ってくれてありがとう」
ハルトから離れ、兄の胸にそっと身を寄せれば優しく抱き締め返してくれる。謝罪の言葉を感謝で返せば、返事のようにぎゅっと腕に力が込められた。
身体を離し兄を見上げればやっぱり穏やかな表情かお微笑んでいてこちらもつられて笑顔になる。
「姉さん、兄さん...」
「セツナ...カイト....本当に済まなかった...」
その光景をみてハルトは笑い、座り込んでいるお父さんからはまた謝罪と今度は啜り泣く声まで聞こえてきた。
またか、そう思いながら困ったように父の姿を見ていれば、遊馬と小鳥ちゃん、アストラルからも「本当に良かった」と言葉を投げかけられる。
ありがとう、振り向いてそう返した後、兄とはまた違った優しい目で此方を見ている凌牙くんに気がついた。何故か座り込んだままの凌牙くんに声をかける。
「凌牙くん、」
「よかったな」
「うん。....ごめんね、また迷惑かけちゃったよね」
「別に迷惑なんて思って....、っ!」
「?.....。待って、何その怪我?」
「....っつ、....大したことねえよ」
「そんなに痛そうなのに平気なわけないでしょ!?」
兄から離れ、急いで凌牙くんに駆け寄る。制止する彼の手を無理矢理退けると服は赤黒く変色していて、腹部からかなり出血しているのがすぐにわかった。
さっと血の気が引いていく。今の私の顔は真っ青だろう。混乱する頭をフル回転させて何をすべきかを考え、兄に向かって叫ぶ。
「っ兄さん救急車、救急車呼んで!いやヘリの方が早い、ゴーシュに連絡して病院に...ちょっと何をボーッとしてるの!?酷いケガだよ!急いで!」
「ああ、...」
「止血しなきゃ。何もないか....チッごめん、ちょっと汚れてるけどこれで我慢して」
「!お前それ、....っつ....ぐっ、!」
「「!」」
「痛いだろうけど我慢して。これ、怪我してから暫く経ってるでしょ....何ですぐに救急車呼ばなかったの?」
「...さっきの状況で、医者呼ぶ余裕があったと思うのかよ...お前...っ」
それはまあ、無いわな。
着ていたパーカーを脱ぎ、凌牙くんの腹部に強めに巻きつけていく。痛みで表情が歪み、辛そうな呻き声が聞こえるが無視だ。傷を確認しなかったがよかっただろうか...いや今更かと考えるのをやめる。
ヘリの到着にはどれくらいかかるだろう、兄にその意味を込めて視線を送ればオービタルを使って向こうに情報を伝えているところでまだわからなそうだった。
「(ああ、最悪だ)」
パーカーを脱いだせいで隠していた肩が露わになるとこの場にいる全員の視線がそこに注がれる。何でよりによってこの服を選んだのかと半日前の自分に心の中で悪態を吐く。
もう痛みはない、があの日負った傷はしっかりと残ってしまった。左肩に広がるケロイドは自分ではもう見慣れたものだが、他人からすれば痛々しい傷跡に違いないだろう。無闇矢鱈に見せるものではない。
ちらりと周りを見回せば父もハルトも、悲しそうに俯いている。遊馬も小鳥ちゃん、あのアストラルですら辛そうな表情をしているのだからこっちとしては溜まったもんじゃない。自分へと向けられる哀れみや悲しみといった感情がありありとわかるのは少し、いや大分居心地が悪い。
特にすぐ下にいる凌牙くんからの突き刺さる様な視線は最悪だ。
「....ハァ、」
「!」
膝を付けて応急処置をしていた手を止めて深く息を吐く。視界の隅でほんの少し眉間に皺を寄せる彼の、その綺麗な青い目を私が真っ直ぐ見つめる。視線が絡み合えば眉間の皺は途端に消えて、今度は戸惑った顔に変わり眉が下がる。
投げ出されていた彼の右手を両手で取ると、静かに口を開いた。
「私、貴方にとても感謝してる。凌牙くんと遊馬がこんなに頑張ってくれたから、私達家族は元に戻る事が出来た。
この恩は忘れない、どんな形でも必ず貴方達に返していく。
....だけど、その為にこんな...凌牙くんが傷つく事なんてあっちゃいけない。絶対に」
「!セ、」
握っていた手を離して右手で左肩の傷跡に触れると私の名前を呼びかけた凌牙くんが思わず言葉に詰まる。目を合わせたまま傷跡の残る肌を指先でなぞれば、凹凸のあるざらざらとした感触が伝わって来た。
私の目を苦しげに見つめる凌牙くんに、返事するように力無く笑う。
「ねえ、凌牙くん。璃緒ちゃんが目を醒ました時、貴方が隣に居られない様な事になったら私は.....、もうどう責任を取ったら良いかわかんないよ。
大切な人から、大切な存在を奪うのはもう懲り懲りなの。
ーーだからもう二度とこんな事しないって約束して。貴方は優しすぎて他人に心を砕きすぎる。いつか、そのせいで身を滅ぼすことになったらどうするの?ちゃんと璃緒ちゃんの側にいてよ、ずっと。
私は十分助けてもらった。もう大丈夫だから、何の心配も要らないよ。…ありがとね」
「......」
「セツナ....」
「セツナさん...」
周りが皆どこか心配そうにこちらを見守っている中、私の言葉を何も言わずに静かに聞いていた凌牙くんは目を細めた後バッサリとそれを否定した。
「断る」
「...え」
「何だそりゃあ。別れの挨拶か?
何が『大丈夫』だ。馬鹿か、そんなわけねえだろ。お前は今後も何かありゃすぐにひとりで無茶する、...必ずな。目ぇ離せって言う方が無理なんだよ」
「いや、そんなこと」
「オレは別に、誰彼構わず助けたりするような善人じゃねえ。…自分にとって大切な奴しか助けねえよ。
それと、璃緒はオレの妹だ。何を考えるかはオレが一番よくわかる。
仮に、オレが命懸けで妹じぶんを救った恩人おまえが苦しんでんのを我が身可愛さに見て見ぬフリするような奴なら、そんな奴をアイツは決して兄とは認めねえ。一生軽蔑するだろうな」
「でも、」
「ガタガタうるせえな。言っただろ、こんなケガ大した事ねえすぐ治る。
.....そもそも何でオレが居なくなる前提で話してんだよ、ふざけんな」
「!?」
全否定。そして1ミリも納得してもらえずどうしたらものかと困り果て、取り敢えず彼を見つめればとても歳下には見えない大人びた表情かおで笑った後、凌牙くんの右手がするりと私の頬を撫でた。
熱を帯びた掌が壊れ物を扱うように頬に触れた後、自分とは違うしなやかだけど少年ぽさのある親指が、私の唇の端から端までをつう、となぞる。
いきなりのその仕草に心臓が大きく高鳴って軽くパニックになっている私の様子を見て楽しそうに、それでいて更に不敵に笑う彼の姿に眩暈がした。
「やっと見つけたのに消えてなんかやるかよ。
お前、これだけ振り回しといてオレから逃げられるとでも思ってんのか?考えが甘ぇな。
........もう二度と、逃がしやしねえ。覚悟しろ」
「!っ、」
何それ....、え。何それちょっと待って?!
放たれた言葉に思わず目を見開く。頬が熱を帯びて堪らない。凌牙くんは笑ってはいるが、目も声色も本気だ。
いやその表情かおで、その仕草で、その台詞はちょっと....、ダメだろ。流石にドキドキしますけど。ていうかどこで覚えてきたのそんなの。怖い、今の14歳ってやっぱ怖い。
恐らく赤い顔で口をワナワナ言わせてるだけの私の後ろでは、この一連の流れがクリティカル・ヒットしたらしい小鳥ちゃんがキャーキャー言っている。
私も当事者じゃなかったらこの少女マンガみたいな展開にときめいていただろう。残念ながらこっちは今そんな余裕はない。遊馬とアストラルはそんな小鳥ちゃんの様子をよくわからず見つめている様だ、頭の上にハテナマークが浮かんでいる。
ダメだあの辺は役に立たない。兄さんどこ行ったの!
そう思いながら今度は家族の方を見れば肝心の兄は居らず、ハルトは何故かニコニコとしながらこっちを見ていて、隣の父は私以上にパニックらしくオロオロとしていた。そりゃあそうだ、正気に戻ったと思ったらいきなり娘が目の前でいちゃつき始めたのだから。どうやらあらゆる感情が葛藤しているらしく、あーとかうーとか言いながら手と視線があちこちの宙を彷徨っている。
いやいい、お父さん早く助けてくれ、と口にしようとした時頬に触れたままの右手が顎を捕らえて少し強引に自分の方へと私の顔を向ける。
「ひっ、」
「おい他所見すんな、今お前の事口説いてんだろうが」
「口説、っ...」
不機嫌そうな顔をした凌牙くんがこちらを見つめながらまた爆弾を投下すると被弾した小鳥ちゃんがまた騒いでいる。
青い瞳が熱っぽくこちらを見つめている。その思いの強さに釘付けになったかのように目が逸らさずにいると、凌牙くんが口を開くほんの僅か前に救世主が現れた。
剥き出しだった肩にばさり、と兄のコートがかけられると同時に溜息を吐かれる。
「お前はそう易々と人前で肌を晒すな。....それとこれでは止血の意味がない。圧迫するならもっときつく抑えろ」
「!?ぐっ、っ....、カイトテメェっ...」
「兄さん!」
「ヘリが到着した。凌牙を病院へ送る」
「!そっか、よかった」
「チッ、邪魔しやがって....。空気の読めねえ兄貴だぜ」
「ほう、これでは足りなかったか。済まなかったな」
「おいやめ、...いっ、!ぐっ....、お前ほんとに、覚えとけよ....!」
「ちょっと兄さん、相手ケガ人!」
「お前にこんな歯の浮くような甘ったるい言葉を吐く余裕があるなら大したケガではないだろう。全く、この程度の熱で浮かされるなど未熟という他ない。……いいからさっさと病院へ行け」
「なっ、」
「あ、本当だ。凄い熱」
凌牙くんのおでこに手を当てると平熱を軽く超えていそうな熱さだった。よく見れば汗もかいているし顔も赤い。凌牙くんが変なことし出すから混乱しちゃって全然気づかなかった...だからさっきのは正気じゃ無い、本心じゃないってこと、か。そっか、そっか。
確かに熱っぽい目だと思ったけど、本当に熱があったなんて。
ケガを負い、高熱がある事を改めて自覚したせいか急速に顔色が悪くなった凌牙くんを兄さんと一緒にヘリへ運ぶ。ゴーシュの操縦するヘリにはドロワが同乗していて再会の挨拶もそこそこに彼の事をお願いする。
「ゴーシュ、ドロワ。後は頼む」
「ごめんねふたりとも、ありがとう」
「ああ、任せておけ。...ゴーシュ急げ」
「おう、扉閉めるぜ!」
「……凌牙、一度しか言わん。よく聞け」
「あ?…なん、」
「感謝する」
「「!」」
兄さんのレアすぎる感謝の言葉にその場にいた全員が目を丸くしながら兄さんの方を見る。ゴーシュなんか操縦席から身体ごと振り返ってこちらを凝視している。当の凌牙くんはそんなことを言われるとは思わなかったのか、驚きのあまり思い切り上体を起こそうとして痛みに悶えている。その隣で応急処置をしてくれていたドロワは呆れながら「傷が悪化するぞ」と返しているのが面白い。
全員の反応が気に入らなかったのか、兄さんは少し不機嫌そうな居心地の悪そうな顔でそっぽを向いていて少し笑うとじとり、と私を睨んだ。
「…ククッ、まさかてめーから礼を言われる日がくるとはな。…明日は、雪でもふるんじゃねぇか?」
「それだけ口が利けるならやはり大したケガではないな。ドロワ、その辺りに捨て置いて構わんぞ」
「お前、ほんとにオレに感謝し」
「あーはいはい、扉閉めてー!ゴーシュ、ドロワ、お願いねー!」
「!待て、まだ話は」
「キミはいい加減大人しくしろ。本当に捨てていくぞ」
「凌牙くん」
「!」
しっかり治してきてね。じたばた暴れる凌牙くんにそう声をかけると観念したように、…おう。と小さな返事が聞こえた。
扉が閉まり飛び立つヘリを見送る。不安そうな顔をしていたのか、肩にそっと兄さんの手が置かれた。
「アイツなら大丈夫だ」
「……うん、そうだね」
ヘリが空の彼方へ消えた後、ハルトや父、遊馬や小鳥ちゃんにアストラルの元へ戻る。遊馬達に無事凌牙くんが病院へ向かったことを伝えるとほっと安心した様子だった。
父はハルトへ涙を流しながら今までのことを謝罪していた。すぐ後ろへ移動し、静かに兄とふたりでその光景を見守る。
「済まなかった。全て悪いのは私だ…、私なのだ。許してくれハルト、カイト、セツナ……」
「「………」」
隣の兄さんは夕陽に照らされながら目の前の父と弟を何も言わず見つめていた。私もまた、同じように。
犯した罪は消えない。それでも、命ある限り生きていかなくちゃいけない。お父さんはきっとバイロンさんに救われたことで、生きて責任を果たす事を決めたんだろう。
私と兄さんもそうだ。ナンバーズ・ハンターとして何人もの人を傷付けたという消えない罪を背負って、抱えて生きていく。償いの方法はこれから探していくんだ。自分たちに出来る贖罪の方法を。
全員が静かにハルトと父の様子を見守る中、アストラルが口を開く。
「……終わったようだな、デュエル・カーニバル」
「いーや!終わってないっ!まだデュエル・カーニバルで優勝した商品もらってねえ!」
「ちょっと、何よこんな時に!」
「へへっ!デュエル・カーニバル優勝者は自分の望みを叶えてもらえるんだよなあ?」
「……」
「あー…、そういえばそんなルールだったっけ」
優勝賞品のことなんてすっかり記憶の片隅に追いやられていた。突然そんなことを言い出した遊馬にみんな少し困惑している。唯一兄さんだけが、静かに目を伏せて遊馬がこの後何を言い出すのかを伺っている。
遊馬は大きな声でその先を続けた。
「オレの望みは、カイトとセツナ達親子が仲良く暮らす
ことだ!」
「「!!」」
「!…、ふふっ」
遊馬が言った望みの内容に私達家族は驚き、小鳥ちゃんとアストラルは嬉しそうに笑っている。
そうだよね、遊馬。貴方はこういう子だよね。心の中が温かくなる感覚に思わず笑みが零れる。隣の兄も目を見開いて驚いた後、一瞬だけ口角を上げて笑う。が、すぐにいつもの無愛想な態度に戻った。
「…余計なお世話だ」
「!なっ、何」
「余計なお世話だと言ったんだ」
「素直にありがとう、って言えばいいのに。…そういうところが」
「セツナ」
「はいはい、黙りまーす」
「あー!わかったよ、わかった!だったらオレの本当の望みだ!
ーーーーカイト、お前との決着がまだついてねえ!オレとデュエルだ!」
「……成程。面白い、事実上の決勝戦というわけか」
「あらあら。チャンピオンが貴方とのデュエルをご希望よ、兄さん?」
「…いいだろう、受けてやる。遊馬、アストラル」
「よっしゃあ!かっとビングだぜ、オレ!!」