深紅   作:天城ある

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5.再会

ハートランド市立病院内、見晴らしの良い病室の中で一人の少女は静かに眠っていた。

顔を覆う包帯のせいで表情はわからない。彼女に繋がれた無数の機械から発せられる規則的な音だけが静まり返った部屋の中に響いていた。

その静寂を破るかの如くコツコツと病室に近づく足音が聞こえてくる。音の主は扉の前でピタリと足を止めるとゆっくりと扉を開いた。

病室に入ってきた女は眠る彼女に近づくと側にあった椅子に腰かける。手にはピンク色でまとめられた花束が抱えられていた。

 

「…久しぶり。今日はね、ガーベラにしたの。店員さんにおすすめされたんだけど綺麗でしょ」

 

女ーーセツナはにこりと笑みを浮かべながら彼女に話しかけた、見せるように僅かに傾けられた花たちは美しく咲き誇っている。

眠る彼女からは勿論、返答はない。少しだけ残念な表情を浮かべた後セツナはまた椅子に腰かけた。

 

セツナがこの病室に足を運ぶのは二週間ぶりだった。来れるタイミングを見つけてはこっそりと人目をしのぶように彼女に会いに来ている。彼女に見舞いに来る人間は兄のみだったが、鉢合わせたことは一度もない。

 

オービタルがセツナに頼まれてこの病院の面会記録を痕跡を残さぬよう閲覧できるようにしたのはもう随分前のことになる。セツナは渋るオービタルを説得し、そのあと固く口止めした。流石は兄の作ったロボット、今では自身の端末からいつでもこの病院の面会状況がみられるようになった。「兄」が居ない時に彼女に会いに来る事など容易い。最も花は残して帰っているので、兄の方は「誰か」が来ていることはわかっているだろうが。

ちなみに病棟の看護師たちにも口止めをしているので私がここにきていることを兄ーー凌牙くんに告げる者はいない。この病院の設立と資金援助に父が関わっているお陰でこのくらいの『お願い』をするのは簡単だった。あの人の娘で良かったと思ったのはこれが初めてだ。

 

 

ふと近くのキャビネットに置かれた花瓶が目に入る。オレンジ色のバラが主役のアレンジメントは少し前から飾られていたのか若干元気がなさそうだ。.....凌牙くん、あまり来れていないのだろうか。

水を替えようと自分の持ってきた花束を置き、花瓶を持ち上げる。

 

 

ーー「セツナさん以外に、花を贈られる方がいるんですよ。でもいつも匿名で送られてくるので、どなたからかはわからないんですけどね」

以前病棟の看護師がこう口にしていたことがあった。匿名では本人に渡せず困っていると悩む看護師に私から「送り主には心当たりがある。届いた時は病室に飾って欲しい」とお願いした。

私以外に彼女へ花を贈り続ける者など、ひとりしかいない。

 

 

「......バカな奴」

 

 

水を入れ直して花瓶を元の位置へ戻す。眠る彼女にまた来る事を告げると静かに病室を後にした。

 

 

 

♯

 

 

 

「セツナ!探したぜ!」

「ちょっと、遊馬!」

「ここが高校というものか...中学とあまり変わらないな」

「.....今日も元気だな、キミ達は」

 

お見舞いに行ってから一週間程経ったある日、授業が終わって直ぐの教室に自分を呼ぶ声が響き渡った。

勢いよく扉を開けて入ってきた遊馬(とアストラル)とおどおどした様子の小鳥がこちらへ向かってくる。クラスメイトからなんだなんだと注目が集まる中、私の机まで辿り着くとまた勢いよく私に向かって話し出す。

 

「教えて欲しいんだ、シャークの事について!アイツに一体何があったのか!」

「!」

「図書館で新聞の記事は見たけど...オレ信じらんねえんだ。シャークがあんな....、だからセツナなら何か知ってるんじゃないかって、」

「.....此処は話しにくいから、場所を変えようか」

シャーク?また何かあったの?ざわざわと教室の目がこちらに釘付けになっている。アストラルはともかく小鳥ちゃんはすっかり萎縮してしまってとても居心地が悪そうだ。

ね?と声をかけると遊馬はおう、と素直に応じてくれた。

「(今の私に、彼の何を話せばいいのやら)」

話しやすい場所を頭の中で探しながら、遊馬の質問にどう答えるかを必死に考えるのだった。

 

 

♯

 

 

結局、どこも人目があるので帰りながら話すことにした。遊馬と小鳥ちゃんと並んで学校を出ると問いかけられた事について問い返す。

 

「....それで、何でまた彼のことを私に?別に一度勝ったんだからもういいんじゃないの。ほっといてあげたら」

そんな死体を蹴る様な真似しなくても、と苦笑するとセツナまでそんな事言うのかよ!とぷんぷん怒る遊馬は私の行く先を立ち塞ぐ様に前に出た。

 

「オレ、またシャークとデュエルしたんだ。委員長からオレのデュエルはホープ頼みなんだろって言われて。なら、もう一度ホープを使わずにシャークに勝てたらオレの実力が、デュエルスフィンクスが上がってるって証明できるんじゃないかって思ったんだ」

「す、スフィンクス?」

「タクティクスだ、遊馬」

「ほんっと、バカなんだから...」

「うっ、うるせー!とにかく、それでデュエルを挑んだけど...、ボロボロに負けちまった。シャークは今はタチの悪い奴らとつるんでデュエルはやめたなんて言ってた癖にちゃんとオレを研究してたんだ。それで、アストラルにオレはシャークの何を知ってるんだって言われて図書館で去年の全国大会の新聞記事を読んだんだけど、」

「シャークが去年の全国大会で相手のデッキを盗み見て失格になったって記事で見て...」

「オレ、そんなの信じらんねえんだ!アイツのデュエルは本物だった!絶対そんなことする奴じゃねえ!だからセツナなら、アイツとあんな凄えデュエルしてたアンタなら、何か知ってるんじゃねえかって聞きにきたんだ!」

 

夕陽を背負いながら、強い想いを湛えた眼が真っ直ぐこっちを見据えながら訴えかけてくる。

知ってるよ、そんな事。....ただどんな理由があろうとも事実は変わらない。

 

「.....彼が本当は真っ当なデュエリストだと、反則行為そんな事なんてしないって思ってる?」

「っ、当たり前だ!一度デュエルすればわかるんだよ!シャークのデュエルは間違いなく本物で、もうオレの大事な仲間なんだ!」

「....あの時貴方が彼の側に居てくれたなら、きっとこんな事にはならなかったね」

「セツナさん?」

「それはどういう...」

「何でもないよ、こっちの話」

 

思わずポロリと溢れた本音に小鳥ちゃんとアストラルが反応するが、すぐに誤魔化す。失言だった、意味深なことを言ってしまった。

私の返答を待つ遊馬を同じように真っ直ぐ見つめ返す。

 

「ーー何か期待されてるところ悪いけど、全国大会の失格については〈例えどんな理由〉があったとしても事実だし、私は詳細を知らない。貴方が想像してるほど、私と彼は仲良しじゃないよ。...但し、この件に関しては運営事務局が直ぐに落ち度を認めてる。凌牙くんへの処分は大会の失格と一年間の公式大会への出場停止でもう禊は済んでる。まあ、今は彼自体が腐ってるのと、世間に残ったイメージが表舞台への復帰を阻んでる所はあるかもしれないね」

「何だよそれ、」

「そんな、」

「.....」

「この件についてはこれしか言えない。....で、今からは遊馬から聞いた話に対する私の勝手な感想を言っていくけど」

 

一歩前に進んで遊馬に近寄る。ゴクリ、と向こうから唾を飲み込む音が聞こえる。

下手に余計な事を言ってはいけないと思うのに、口が止まらないのは何でだろう。

遊馬ならきっと凌牙くんを救ってくれる気がする、そんな気がするからだろうか。

 

 

「全然大丈夫そうじゃん、凌牙くん」

「....へ?」

「だって一度遊馬に負けて、もうやらないなんて言いながら実は悔しくってデッキ組み直してたってことでしょ?あはは、相変わらずの負けず嫌いっぷりで笑っちゃった!可愛いなあー、凌牙くん」

「え?セツナさん?」

「デュエルを辞める?無理無理!出来るわけないでしょ。彼が鮫ならデュエルは水、いや海みたいなもんだよ」

 

無くなったら生きられないの。だって私の中の凌牙くんは何処までいってもデュエルが大好きな、本物のデュエリストなんだから。

笑いながらそういうと遊馬はそっか、そうだよな!セツナだってそう思うよな!と拳を握りながら強く同意してくる。喋りすぎたかな、まあ私の個人的な想いを語るなら許されるだろう。

遊馬の近くにいたアストラルと小鳥ちゃんが私に近寄ってくる。

 

「....シャークの事をよく分かっているのだな。仲良くはない、と言っていたがキミからは彼に対する強い信頼を感じる」

「...それ、あんまり大きな声で言わないでね。あ、普通の人には聞こえないか。…ほら、遊馬の言葉を借りるなら一度デュエルしたら仲間なんでしょ」

「...そうか、やはりデュエルとは偉大だな」

「セツナさん、あの…そんなにシャークの事分かってるなら、」

「どうして私が会いに行って、ケツ引っ叩いて更生させないのかって?....ま、こっちにも色々事情があるのよ」

出来るならやってやりたいんだけどね、と嘲笑すると小鳥ちゃんの頭の上に疑問符が浮かんだ。

 

会いには行けない。更生させる?彼より遥かに道を踏み外してるのはこっちだ。今の私が、彼に何を説教出来るというのだ。

だから貴方が助けてあげてくれ、遊馬。お願いだから。

 

「……それに今の彼には、遊馬みたいな真っ直ぐなデュエル馬鹿が必要なの。ーーさて、これからどうする?」

「決まってらあ!もう一度シャークとデュエルして、」

 

 

「おおーい!!」

意気込む遊馬を遮ったのはチンピラ風の男だった。走ってきたのか息も絶え絶えに、近くまで来ると足を止めた。この感じだと遊馬と小鳥ちゃんは面識があるようだ。静観していると、男は泣きそうな顔で話し始める。

 

「何だって!シャークがカード強盗を!?」

「.....」

「ああ、アニキ達が美術館を襲うなんて言い出したのもあのカードのせいだ!あのカードを手にした時からアニキ達、人が変わっちまって....」

「!」

「ナンバーズだ」

「それにきっとアニキ達、シャークに全部罪をおっ被せるつもりだ!このままじゃ、アイツ...」

 

そこまで聞いた遊馬は途端に走り出す。呼び止め、もう関わらぬよう説得する小鳥ちゃんの発言はご尤もだ。

「(ねえ、貴方は何で答えるの)」

じっと遊馬を見ると、彼は振り向かず話し始める。

 

「....行かなきゃ、オレは行かなきゃならないんだ」

「なぜ?どうしてそこまでシャークの為に」

「違う!オレはシャークの為に行くんじゃない、オレ自身の為に行くんだ。

.....オレは自分に嘘を吐いた。シャークを抜けさせる為とかいって、ほんとは勝ちたかった。ただ勝ちたいからナンバーズを使ったんだ。

ーーオレ嫌なんだよ!このまま終わっちまうの!!」

「...」

 

振り向き小鳥ちゃんにそう言い放つと遊馬は走り去っていった。残された小鳥ちゃんはただその姿を見送るばかりだ。

ハァ、とひとつ溜息を吐くとチンピラ男に話しかける。

 

「....で、貴方はなんでその情報を遊馬に言いにきたの?」

「一緒にカード強盗させられそうになったのをシャークが逃してくれたんだ。早くこの街から出ていけって。....オレ、このままアイツかカード強盗にされちまうのはどうしても...」

「.....このお人好しが。折角もう大丈夫だと思ったのに何自爆しに行ってんだよ、バカかよ」

「セ、セツナさん?何だか雰囲気が...」

「セツナ...?ってあの天城セツナ!?」

「ああ、想像と違ったならごめんね。ねえ、シャークを助けたいんでしょ?もっと詳しく情報教えて。犯行時刻とか経路とか聞いてたこと全部。小鳥ちゃんは聞いた事遊馬に連絡しときな。遊馬がアホでもアストラルに教えとけばいざという時に役に立つだろ」

 

ほら早く!そう急かすと二人ともは、はい!と各々口と手を動かし始めた。

 

「(本当に面倒くさい男だな、きみは)」

でもその道の外し方だけは絶対、させないから。そう思いながら情報を頭で整理していく。

犯行予定時刻まではあと4時間程。もうすぐ、夜の帳が下りる。

 

 

♯

 

 

誰も立ち入ってはならない時間の筈の美術館の前には既に数人の人影が見えた。ばれないようにもう少し近づけば大柄な男が二人とその側に一人、対峙するように少年が一人話をしているようだった。

「(ちょっと遅かったか)」

目の前の四人はそれぞれがお互いに夢中でこちらのことは目に入っていない。最もこの全身黒づくめのような恰好では月明りがしっかりとあたらない限り私の存在に気付かないだろうが。フードを目深にかぶりなおす。来ない方がいいというのにどうしても気になって結局来てしまった。

一年ぶりに見た凌牙くんは少し背が高くなっている気がした。

 

「ここから先に行きたいならデュエルでオレを倒してからだ!」

「デュエルだと?」

「なんのつもりだぁ?」

「お前らが勝ったら、オレのナンバーズはくれてやる!」

「!?」

「そんなに簡単にナンバーズをかけるんじゃないよ…、もう」

「…けど、オレが勝ったら美術館には手を出すな!」

 

遊馬の無鉄砲具合に頭を抱え小声で悪態をつく。その間にも遊馬は大柄な男二人、もとい陸王・海王に二対一でデュエルを挑んでいる。

 

「貴様、二対一で戦う気か!?」

「当たり前だ!お前にカード強盗なんて絶対にさせない!!」

「言ったはずだ!オレに二度と関わるなと」

「放っておけるわけないだろ!こいつらはお前を利用しているだけなんだぞ!」

「…フッ、そんなことはわかっているさ。…けど、オレにはもうここしか居場所がないんだ」

 

自傷気味に発せられるその言葉がぐっと胸に突き刺さる。違う、そんなことはない。本当の貴方の居場所はそんなところじゃない。

思わずそう口に出しそうになった時、遊馬が私の気持ちを代弁してくれた。

 

「違う!お前の居場所はこんなとこじゃない!!」

「!」

「オレは諦めねえ、今度こそお前にこいつらと手を切るって言わせてみせる!」

「押しつけがましいんだよ!なんでそこまで、」

「仲間だからに決まってんだろ!!」

「、っ…」

 

遊馬のまっすぐな想いの乗った言葉をモロに食らって、凌牙くんは言葉をなくしている。その姿に思わず涙が出そうになった。

「(ああ、遊馬。本当に貴方なんでずっと前から彼の側にいてくれなかったの)」

貴方がいたならきっと、そう思った後すぐに頭を振る。過去はもういいのだ、これからが大事なんだから。

もう一度目の前に視線を戻すと陸王と海王に宣戦布告した遊馬に凌牙くんがついたところだった。

 

「悪いな、オレはこいつにつくぜ」

「シャーク、」

「勘違いすんじゃねえ、こいつらのお守りに飽きただけだ」

「(素直じゃないなあ、もう)」

「おもしれえ、俺たちにタックデュエルを挑むってのか」

「バカな奴らだ、どうなるかわかってんだろうな凌牙」

 

両者が睨みあう中、いよいよデュエルが始まった。持ってきたDゲイザーをセットしてデュエルを見守り続ける。

「(いざとなったら出ていくつもりだったけど…、こうなってよかった)」

纏ったロングコートの下にはデュエルが出来るようデッキも持ってきている。どうやら使わなくて済みそうで安心した。タックデュエルが初めての遊馬はかなり戸惑っている様子だが、凌牙くんが上手くフォローしている。押されてはいるがあの感じなら、と思いつつ

嫌な感じをひしひしと感じる。

「(あの二人の名前、どっかで聞いたことあると思ったらタックデュエルの世界で悪い噂を聞く奴らだな)」

 

このデュエル、普通には進まない。彼らにはちょっと厳しい戦いになるかもしれないと思いながら見続けていると後ろからドスン、という音が聞こえてきた。

 

「おっ?…小鳥ちゃんと鉄男くんか」

「貴女は…、セツナさん!?」

「えっ、セツナさんまで何でここに!?」

「ふふ、ちょっとふたりとも静かにね。…気になったから見に来ただけだよ」

フードから少しだけ顔を見せて話しかける。あれをね、と指さすと二人は驚きの表情を浮かべた。

「あっ!」

「タックデュエル!なんで遊馬とシャークが一緒に!?」

「んー...、遊馬の友情パワーのお陰かな」

疑問符を浮かべるふたりにまあ見てなよ、と声をかけ視線をデュエルしている四人へ戻す。

話している間にデュエルは進んで今は遊馬がホープを召喚したとこだったが、永続魔法『アバランチ」で氷漬けにされてしまった。

攻撃はできず、モンスター効果を使えば500ポイントのダメージを受ける中、凌牙くんが受ける攻撃をホープのムーンバリアで遊馬が守ったのだった。

 

 

「キミって子は…」

「まさか、遊馬のやつシャークを守るためにホープを召喚したのか」

「アイツ…余計な真似を」

「美しい友情ごっこかぁ?よかったなあいい仲間が出来て。だったらもう一発お見舞いしてやるよ!オレはリーゼント・ブリザードンで凌牙にダイレクトアタック!」

「くっ、」

「希望皇ホープの効果発動!ムーンバリア!」

「なっ、」

「遊馬、お前…」

「.....」

自分を庇い吹き飛ぶ遊馬を見て顔を背ける凌牙くんにはその献身的なまでの想いが相当、響いていることだろう。

 

「くっ、くっそお…」

「どうした?そのまま寝ててもいいんだぜ」

「う、うるせー!ちょっと休憩してただけだ!」

勝負はまだまだこれからだ!と元気良く戻ってくる遊馬に、相変わらずむっつりした凌牙くんの表情かおが少しだけ緩んでいるように見える。

 

「...出来るんじゃんそういう表情かお」

「え?....セツナさん、大丈夫ですか!?」

「ん?何が?」

「だって、涙が...」

「...ああ、大丈夫。ちょっと何か、目に入ったみたい」

 

頬が熱いと思ったら涙が溢れていたらしい。不安そうに此方を見る小鳥ちゃんと鉄男くんに大丈夫だよとさっと頬を拭った。おかしいな、こんな事で泣いちゃうなんて。ここ最近はずっと上手に感情をコントロールしてきたつもりなのに。

 

「.....大丈夫だから」

 

自分自身に言ったのか、はたまた違う誰かに向かって言ったのか。それはきっとこのふたりにはわからないだろう。ほら、デュエルを見た方がいいよと声をかけた時、凌牙くんの苛立った声が響いた。

 

「やはりイカサマか」

「イカサマ...?」

「はあ?何のことだあ?」

「惚けるな!セコいイカサマなんかしやがって!」

 

視線を戻せばデュエルは中断しており、言い争う姿が目に映る。よくわからない言い間違いをしているアストラルに向かって遊馬がイカサマの意味を教えているようだ。

 

「ズル?....では彼等はデュエルで不正を!」

「ケチな野郎がやりそうなことだ。アイツら、始めから互いのデッキに何のカードがどの順番で入ってるのかを覚えていたのさ!恐らくデュエルディスクのオートシャッフル機能にも細工してたんだろうよ」

 

 

「...言っちゃったか」

「!わかってたんですか」

「見てりゃ分かるよ。あんなに都合良く、それもお互いの手札が揃い続けるわけがない。それにアイツらの負けるわけが無いって顔。イカサマしてるの隠そうともしてないじゃない」

 

すっと目を細める。有り得ない、そんな事をする奴はデュエリストの風上にも置けないただのクズだ。

シラを切る相手に憤りを全面に表したアストラルと凌牙くんが相手を糾弾する。

 

「そうであるのなら彼等はデュエリストではない!」

「まともなデュエリストならば、こんなイカサマは絶対にしねえ!」

「何がイカサマだ、因縁つけんじゃねぇよぉ」

「イカサマをやったのはテメェだろ。テメェが全国大会でやったイカサマだよ!」

「っ!」

 

それまで相手を非難していた凌牙くんがピタリと動きを止める。相手はそれに気を良くしたのか更に続けて凌牙くんを罵っていく。

 

「何が優勝候補だ、決勝の控え室で相手のデッキを盗み見た野郎がよぉ!それが原因でデュエルの表舞台から「永久追放」された!ふはははは!」

「.....オレは、負けるのが怖かった」

「くはははは!優勝候補が負けるのが怖かっただとよぉ」

「無様だなあ」

「はぁー、情けねぇ」

 

下品に罵り笑う声が夜の美術館に響く。凌牙くんは言い返すことが出来ず、ただ虚ろな目で下を向くばかりだ。その時、遊馬の大きな声が不快に響き続けていた笑い声を遮った。

 

「笑うな!!何がおかしいんだ、負けるのが怖くて何がおかしいんだ!!

ーーオレだって怖かった。負けるって思った瞬間、急に怖くなって...だからナンバーズを使っちまった!シャークを助ける為だとか言ったけど、ほんとは負けるのが怖かったんだ!オレは嘘をついていた!」

「遊馬...」

「でも、だからこそ思う。もう絶対に、デュエルだけには嘘をつきたくないって!

ーーシャークだってきっと同じだ。だからシャークのデュエルは本物なんだ!相手がどんな卑怯な手を使おうが、オレたちは正々堂々戦って勝つ!それが今の、オレたちのデュエルなんだ!!」

「........」

「....最高だよ、もう」

 

 

ーーでも、まだ足りない。もう一押ししておこうか。

そう思った瞬間デュエルをしている四人の方まで歩き出していた。小鳥ちゃんが何か言っているが、ちょっとよく聞こえなかった。

 

 

今この時だけ、一瞬だけ、演じて見せる。

私という虚像よ、彼を救い上げる「希望」となってくれ。

 

 

「あはは。いい事言うねえ、遊馬」

 

 

自分の声が夜の闇の中に響かせながらフードを外す。月明かりがスポットライトの様に私の姿を鮮明に照らし出した。

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