本人による投稿なので、もしあちらで読んだことがあってもご心配なさらないでいただけると嬉しいです。
小さな違和感は、ずっとあった。
「高杉、お前何読んでんの?」
「まっ……!!」
「光の君ィ?何、源氏物語?」
「……悪ぃかよ」
「別に。んーと、柏木か。だいぶ進んでるじゃん」
「お前、読んだことあったのか?」
「は?ないけど。俺に読めると思う?」
「……じゃあなんで知ってんだ?」
「え?……あ。確かに。じゃなくて、えーと……あ、そうだ!松陽が寝物語にって聞かせてきてさ。うんうん。そうだった、そうだった。ドロドロ宮中恋愛物語だぞ?ガキに聞かせるようなもんじゃないよな。眠気だって吹っ飛ぶっての。な、そう思うだろ?」
「……そうか。授業もろくに聞いてないお前がなんで知ってるのか不思議だったが。先生から聞いてるなら納得だ」
「なんだ、2人でコソコソと。俺は幼子は好かん。どちらかと言えば熟女が好きだ。もっと言えば人妻が好きだ。光の君も元はと言えば愛した人が人妻だったのだから、そちらへと走ってもーー」
「うるせぇ、全部聞いてんじゃねえか。人妻云々の前に、義理の親に恋焦がれてんだろうが」
「黙ってろヅラ。てめぇ自身もガキのくせに何言ってんだ。てかもはや人妻だの義理の親だの関係ないだろ光の君には」
「ヅラじゃない、桂だ!」
読んだ覚えはもちろん、聞いた覚えもない『源氏物語』の内容を、流行歌を口ずさむようにそらんじることができた。
「それにしても、白夜叉とはのう。渡辺さんとは仲良くできんな!金時は!」
「は?なんでだよ」
「話の流れから考えるに、坂本が言う渡辺とは、渡辺綱か?平安京都での鬼退治。渡辺という名字を継ぐ者は、かつての功績から鬼が渡辺を忌諱するため、節分でも豆まきをしない、と聞くが。」
「そうじゃ。その渡辺さん!まぁ、わしが金時と渡辺さんは仲良くできないと言った理由は、別なんじゃが」
「白夜叉の名前まで出しといてそれは無理がねぇか?辰馬?」
「ち、違うんじゃ高杉。白夜叉から連想で金時を思い出しただけで他意はないんじゃ。ほら、金時は補給部にいる渡辺くんとまっこと仲が悪いじゃろ?それでちょこっとな?」
「あいつの名前、渡辺じゃなくて田辺だよ?自分とこ奴の名前くらい覚えてやれよ。俺も金時じゃなくて、銀時だし。この話題で金時だと別のやつが出てきちゃう」
「かの有名な主馬助とは雲泥の差だもんなァ?纏うのは栄誉を飾る金じゃねぇ。血に濡れながら全てを屠る刃のような銀色だ」
「それから俺と田辺くんは、仲が悪いんじゃなくて、ちょっとお互いの意見が合わなくて顔見るたびに舌打ちする仲なだけだよ」
「それを仲が悪いと呼ぶのだぞ、銀時」
「うるせぇ!あいつのことなんか、き、嫌いですらないんだからね!どうでもいいんだから!」
「男のツンデレなぞ、誰も喜ばんぜよ」
「銀時、気色が悪いぞ」
「そこまで言うか!?……別になりたくて仲が悪くなったわけでも、殺し合いをしたわけでもねぇよ。鬼どもとあいつらは」
「……銀時?」
大昔の、知りもしないはずの物語の英雄。そんな男の心を知っていた。あり得るはずがない。けれど、鬼と呼ばれた誰かに、心を砕いた男が確かにいたと。荒唐無稽な話が、頭から離れなくなった。
「銀ちゃん、銀ちゃん。銀ちゃんって外道丸を呼べるんでしょ?」
「んあー、俺も第二の主人だって言ってたしなぁ。召喚できるかもしんねぇけど、前のときは結野アナから紙もらってたから、わかんねぇや」
「この前も、用事があるからってテレビから勝手に出てきてましたもんね」
「銀ちゃーん、かっこよく外道丸喚んでみて……?私は定春出すから、バトルしよう……?」
「誰ですかー。この子にポケ◯ンやらせた奴は。ダメでしょ。モンスター連れてこなくても、本人がモンスター級に強いんだから、呼び出す必要もねぇし」
「いくら定春が狗神だからって、鬼と戦わせるのは可哀想だよ神楽ちゃん」
「くぅん……」
「大丈夫ネ、定春。お前のもふもふさ加減と愛らしさで外道丸もイチコロアル!だから、ね?」
「やだよ。どうせできないし、面倒臭いし……」
「お願い、銀ちゃん……!」
「……ったく、しゃあねぇなぁ」
「ひゃっほーい!!やればできるマダオネ!」
「銀さん、どんどん神楽ちゃんに甘くなっていくな」
「いくぞー。……オン マカラギャ バゾロ シュニシャ バザラサトバ ジンバラロシャナ ソワカァァ!!」
「渋々って感じでやったにしては本格的すぎるだろ!!てか、え、それちゃんと陰陽師とかの詠唱じゃ……?」
「うおー!なんか地面光ってるアル!!」
「ーー問おう。貴方が私のマス」
「ちっがいまーす!お帰りくださーーい!!」
「まじでなんか出た!?銀さんなんですかそれ!?」
「いや知ねーよ!?なに!これなに!?セイバーはセイバーでも、違う川澄っていうか本家本元が来ちゃった!?」
「待つネ。外道丸はセイバーっていうよりバーサーカーっていうか、もはやビーストとかその類アル」
「失礼ですね。こんないたいけな美少女鬼を捕まえてビーストだなんて。せめてフォーリナーでしょう」
「どっちにしろ侵略者!!なんなの!?人類滅ぼす系女子でいたいの!?」
「こんにちは、外道丸さん。すごいしれっと乗り込んできましたね」
「這いよる混沌、外道丸とはあっしのことでございやすから」
「あれやっぱりフォーリナーで正しいかもしれない。ラヴなクラフトさんちの子みたいなこと言ってる」
「そんなどうでもいいことは置いておいて」
「自分で言っといてどうでもいいって言ったアルこいつ」
「銀時様。愛染明王真言をご存知だったでござんすね」
「あいぜん……。黒棺なんざ唱えた覚えねぇけど」
「いやそれ絶対違う藍染だから。愛に染めるどころか、愛を利用するタイプのラスボスの話なんかしてないから」
「陰陽術でも用いられる、真言の一種です。縁結びを司る愛染明王のものだったゆえ、かの騎士王も縁に導かれ召喚されたのでしょう」
「俺とセイバーにどんな縁があるの!?あれか!?同じ川澄声帯の主人だからってことか!?」
「外道丸さんはどうやってここまで?」
「あっしは銀時様が妙なことをしてるなと思ったので、走ってきやした」
「召喚できてねぇじゃん!!!」
「ある意味できてるアル。こっちの川澄も」
あとなんか陰陽術が使えた。なんでだ。せっかくならカメ◯メ波が使えるようになりたかった。現代で陰陽術が使えても、正直困ると言うか。怪しいビジネスに使うくらいしか思いつかな……とかはあまり言わないでおこう。お兄様に聞かれてそう。
他にも、色々。松陽が拾う前からついていた俺の名前とか、真選組に持ってこられた資料だとかいう古文書が読めたことだとか。変だな、不思議だな。と思うことは、年々降り積もるばかりだった。
こんな感じでちまちまと、20年かけて積み重なってきた違和感。それが、どーんっと爆発した。
それが今。このふざけたサラサラストレート金髪野郎の名乗りを聞いて、ずっと忘れていた何百年も前の色鮮やかな記憶が蘇った。
「坂田金時。人呼んで、万事屋金ちゃんってな」
胸の内で、黒い何かがとぐろを巻いた。周囲の音が急速に聞き取りにくくなる。言いようのない苛立ちから、手が震えた。
その名前はお前のものではない。
もっと馬鹿でガキで不器用で、どうしようもなくまっすぐな、荒々しい金色が持つ名前だ。
「まさかり担いだ金太郎、ってか?なぁ。」
「ん?思ったのと違う反応が返ってきたな。まぁ、名前だけ見たらそうだが。しかし、かの有名な金太郎と俺は無関係だなぁ。お前だってそうだろ?坂田銀時くん?」
「無関係。無関係ねぇ。俺だって今の今までそう思ってたさ」
「……思ってた?」
目の前の野郎が、訝しげにこちらを睨んだ。なるほど。俺のことをよく調べ上げているようだが、これはご存知ないようだ。
「テメェのおかげで、むかーしむかしのことを思い出せたよ。それだけはどうも。」
まぁ、そりゃそうにきまっている。だって、今の今まで俺すら覚えていなかったのだから。何百年も前の、死した英雄たちだけが知っている話。
「頼光浪党にして四天王。その一角、坂田金時の片割れ、坂田銀時とは俺のことよ。」
物語に名を残す偉人たちと、幼き日の俺が共に過ごした記憶だ。
「って訳だ。俺の居場所と兄貴の名前、返してもらうおうか!!」
俺のちっぽけなプライドと、大切な片割れの誇りを守るため、俺は木刀を構えて地を蹴った。
ーーなんてカッコつけたはいいものの、あとのことは読者のお前たちの知る通りである。カラクリの金時との出会いが、銀魂本編と少し違っただけでね。
かぶき町の奴らから忘れ去られ、不様を晒して……はいつも通りだが。唯一覚えてくれていたたまと定春に支えられ、すったもんだの末に居場所を取り戻した。
それが二年前の話。銀魂は基本サザエさん時空だから本当に二年前かは怪しい、という事実は横に置いておこう。んなこと言い出したらキリがない。
ターミナルで虚を倒し、松陽を見送り、ぶっ壊れた街を立て直し、死んだと思った高杉がアルタナの力で帰ってきてからしばらく。わかりやすくいえば、最終訓後のご都合時空ってやつ。それが今だ。
平社員として、神楽と新八にこき使われながら過ごしている中、金時に話でもしないか、と誘われた。なんでも美味い酒をもらったそうで、自分の体では飲めないから、俺に飲んでほしいとのことだった。
そんな美味い話なら乗らないわけには行かない。例え誘われたのが、高級そうな個室の部屋であろうと、今更こいつと俺で、身の危険も何もないだろう。
「で?あんときの話、どこまでが本当なんだ?」
「本当って?てかいつの話だよ」
もう何杯目かになる酒を注ぎながら、金時は俺に尋ねた。なみなみと注いでもらった、溢れそうな酒を口元に運ぶ。うん。やっぱりこの酒めっちゃ美味い。俺の好みすぎて、飲み始めて時間がさほど経っていないのに、俺はすでにほろ酔いである。
「俺が兄弟の居場所をぶんどったときだよ」
「そりゃまた懐かしい話を」
酒のつまみにと差し出された料理も絶品だ。本当、このカラクリ坊主のどこからこんな料亭で飲み食いする金が出てきているのやら。ちらりと隣の部屋に繋がる襖を見ながら、俺は出汁の味がよく効いた卵焼きを飲み込んだ。うん。美味しい。
「あのとき、坂田金時の片割れだって、それは兄貴の名前だって、歌舞伎役者ばりの見栄張ってただろ?だから気になってな」
紙パックに入ったオイルを飲む金時が、片眉をあげながら俺を見つめた。
あー。忘れてなかったか。随分と前のことだし、あれ以降こいつにも他のやつにも何も言われなかったから、すっかり誰も覚えていないのかと思ったが。単純にバタバタしてたり、タイミングを逃してたりで聞けていなかっただけのようである。
「びっくりすることに、一から百まで本当だよ。俺は坂田金時……お前じゃなくて、平安を生きた四天王の1人で、金太郎の名前でも有名な男の、双子の兄弟だ」
あの日。目の前の金時を名乗った男と出会った日に、思い出したこと。
俺の名前は、松陽がつけたわけじゃない。坂田という名字だって、元から俺が持っていたものだった。でなきゃ今頃、俺は松陽に押し切られて吉田銀時を名乗っているところである。
戦場をたった一人彷徨って、屍から飯を奪って生きていた俺が、それでもたった一つ持っていたもの。それが名前、坂田銀時という名前だった。
全てを思い出したはあの日、ひどく納得したのだ。あぁ。これだけは確かに捨てられないな、と。
「なんで生きてんだ?お前、数百歳ってことになるだろ?」
「それは俺も不思議なんだよなぁ。金時……お前と混ざってややこしいな。兄貴は、とっくにおっ死んでる。人間として常識的な範囲の寿命で、だ」
「そうだよな?余計になんでだよ」
「俺だって知らねーよ。強いて言うなら血筋な気がするが、それが理由なら同じ化生の類な兄貴とライコウさんがさっさと死んでる理由もわからねェ」
「ライコウって、源頼光か。てか血筋ってどう言うことだ?実はお前、天人だったりしたのか?」
「いや、純地球産日本育ち。かぐや姫がいたんだからあの時代にも天人はいたんだろうが、少なくとも俺の周りにゃ1人もいなかったな」
天女伝説とかも、まんま天人の話じゃねえのあれ。とか、今考えれば思うとこだが。
今は俺自身の話だ。ずーっとずーっと前の、もはや記憶というか、記録として覚えている事柄をどうにか頭の奥底から引っ張り出す。
「俺の記憶が確かなら、俺たちは赤龍と山姥の子供らしい」
父親は、本当に記憶にない。会ったことがないのだろう。けれど母親については本当に朧げだが、微かに記憶に残っていた。人里に降りては人間を食らい、そこで手に入れた品々で俺たち双子を育てていた。……うん。ちゃんと山姥だ。今思い返すとやべー奴である。それでも、愛情を持って俺と金時を育てた、立派な母親だった。倫理観が人のそれではないだけで。
「あぁ……そういやそんな伝説だったな。八重桐って名前の山姥が赤龍から子を授かる、ってやつ」
「へぇ、有名なの?」
「浄瑠璃や歌舞伎で人気の演目になるくらいには」
「……そんな詳しいとこまで残ってんの?」
「そりゃな。日本が誇る三太郎の一角なんだ」
日本に生まれて、坂田金時の名を知らないものは、もしかしたらいるかもしれないが。金太郎の名前すら知らずに育つことは不可能に近い。
平安から今の世まで、連綿と語り継がれてきた物語。自分の片割れがこうも愛されている様を聞くのはむず痒いが、それ以上に俺たちの出自が事細かに残されている事実が恥ずかしい。やだ!銀さんミステリアスな主人公なのに!金太郎の童話を読んだら、幼い頃のあれやこれまでバレちゃう!
童話の中では、俺たち双子の話を全て『金太郎』という一人の人間の話にまとめてあるのが、微かな救いだろうか。
「すると、なんだ。お前さんも平安の京都で暮らしてたってことかい?」
「あー、まあそうなるな」
「じゃあ、源氏物語も読んでたりするのか?ちょうどあの頃だと、貴族社会でのベストセラーだろ?」
「源氏物語は頼光さんが新作出るたびに読ませてきたからな。リアタイってやつだよ。ちなみに枕草子も。宮中に忍び込んだら清子さ……清少納言本人に見つかって読まされた」
「へぇ、そりゃ贅沢な話だな。羨ましい限り」
頼光さんの家が平安宮から近かったのも、原因だろう。そりゃ守護職だから、近くに住んでなきゃおかしいのだけども。宮中の流行りがそのまま俺たちのところにまで流れてきた。勉強ついでにと、源氏物語を読まされたのもよく覚えている。今でもガキに読ませるものではない、と思っているが。
「渡辺綱とも知り合い……って当然だよな。坂田金時と双子なら」
「あぁ。貞光の兄貴ーー同じ頼光四天王の碓井貞光なーーに連れられて京都に行ってからは、たくさん面倒を見てもらったよ。山育ちで物を知らない俺たちに、随分といろんなことを教えてくれた」
山で獣を殺しては食べていた金時を、よくもまぁ宮仕えの武士にまで育て上げたものだと思う。俺たちに根気強く、何がよくて何がダメかを教えてくれた、本当の兄のような人だ。
それにしても、この話の流れから察するに。話を聞きたがっているのは、目の前のカラクリ小僧だけではなさそうだ。
「で?あとは、何聞けって言われてんだ?陰陽術の話あたりか?」
「なんだ。バレてたか」
「当然だろ。隣の部屋の奴らも気配隠す気がねぇし」
俺がそう言うと、明らかに隣の部屋でざわりと空気が揺れる音がした。この調子だと思いついた知り合いは全員いそうだ。寧ろこれだけ集まっていて、今まで黙って話を聞けていたことが信じられない。
「それが分かってて、兄弟が全部話すとは思わなかったな。正直驚いた」
「別に隠してた訳じゃないしな。俺にもわからねぇことが多くて、進んで話したくはないけど。聞かれて困る話でもない」
「ならこんなアホな作戦立てねぇで、さっさと銀時に聞いとくんだったなァ?」
スパンと襖が開け放たれる。仁王立ちしているのは、俺と同い年ほどに見える高杉の姿。いつの間にあんなにデカくなってたんだあいつ。いや、チビだけど。背じゃなくて歳の方の話だ。
そして高杉の足元には、神楽や新八、ヅラに辰馬はともかく、真選組や長谷川さん。その他、いろんな奴がずっこけている姿が見えた。
「襖開けるときに声のひとつくらい掛けてやれよ」
「俺が動く気配に気がつかないこいつらが悪い」
「先頭にいた奴ら下敷きになってんじゃねぇか。おら、早く退け後ろの野郎ども。新八、神楽、大丈夫か?」
「す、すみません。大丈夫です」
「銀ちゃん、ありがとネ」
上に乗っていた野郎どもをひっくり返し、新八と神楽の手を引っ張る。ずっこけたときに崩れたらしい、二人の髪を手早く整えてやった。照れくさそうに笑う二人が眩しくて。俺はつい、視線を逸らした
「ちょっとォ!俺たちは!?隣で倒れ伏してる友人は無視か!?」
「そりゃないぜよ、金時!」
「今この状況でその名前呼ぶのややこしすぎるんだけど?金時の話を金時としてる金時って間違われてる銀時がいるって分かってる?え?」
「空気読むアル!まだ銀ちゃんと私たちがイチャイチャしてたダロ!」
「ほっとかれるのも信頼のうちって理解した上で、んなこと言ってるの本当にタチ悪いと思います」
「本当にお前ら、万事屋を好きなことを隠さなくなったなぁ」
近藤が人の良さそうな顔で笑った。隊服を着ていないところを見るに、今日の仕事を切り上げて完全に私用としてやってきたらしい。上役三人お揃いで。いい加減このトリオ+監察の四人組にも見慣れたが、暇なのかな。一介のなんでも屋のところにこんな雁首揃えてやってくるとか。
それを言えば、他の奴らもそうなのだが。そんなに興味あるのか?銀さんの謎ってやつ。
「なに。そんなに銀さんの弱みをみんな握りたかったの?だからこんなに知り合いが揃ってんの?」
へらりと笑って聞いてみれば、返ってきたのは揃いも揃った渋い顔。
「……銀さん。それ本気で言ってます?それともいつものボケですか?」
「みんな普通に銀ちゃんのことが知りたくて集まったアル。銀ちゃんいつも自分のこと話さないから」
新八と神楽がジト目で俺を見つめている。
悪かったな!薄々そんな気はしたけど、自惚れすぎかなー。まさかなー。って、思っちゃったんだよ!照れ臭かったの!!
上がりそうになる口角をどうにか抑える。努力するも虚しく隠しきれていないだろう、俺の浮かれ切った表情に、高杉が意地の悪い笑みを向けてきた。
「……その理由なら他のやつはわかるが、よく高杉がこんなアホなことに付き合ったな」
「事の発端はそこの野郎だぞ」
「まじで?」
土方の言葉に驚いて高杉に問いかければ、あいつはいつもの調子で煙管をふかした。
「ちいせぇ頃から、お前が知るわけもないことをペラペラ喋ってやがったのがずっと気にかかっててなァ。不思議に思って聞いてみても、お前は知ってる理由を自覚してねェ」
「という話を先日酔っ払った高杉がこぼしていたのを聞いたのだ。そういえば、金時殿もそんな感じのことを話していたような、と思い当たり、」
「わしとヅラも気にかかっとったし、せっかくじゃ。気になること、ぜーんぶ聞いちゃろう思って、銀時くんに頼みに行ったっちゅうわけぜよ」
ニコニコと笑う辰馬の顔に蹴りを一発。
「だから逆だって言ってんだろ辰馬ァ!てか何?俺抜きの3人で飲み会してたの?は?いや別に羨ましいとかそう言うわけじゃないけど、俺呼ばないのは違くない?」
「仕方がないだろう。そこな幕府の狗の依頼か何か知らんが、お前が大怪我しておったのだ。リーダーたちにも止められてしまったしな。呼べると思うか?」
「すみませんでした。」
「なんか、すまん……」
先月の巨大エイリアン退治のときかぁ……。依頼というか、たまたま例の如く真選組と外でかち合って、たまたま目の前で密輸されたエイリアンが暴走し出して、たまたまそれが政府指定特一級危険侵略種とかなんとかで。都合がいいからと戦力として駆り出されただけである。大怪我した理由?……いやぁ、あの。ちょっと初手に麻痺毒くらって、そこをザクっといかれましてぇ。新八と神楽にはめちゃくちゃ怒られた。でもそれ以降は攻撃喰らわずに倒したんだから許して欲しい。と言ったらやっぱり怒られた。今度は土方と近藤も説教に加わった。お前らに頼まれたからやったのに。
それにしても。自分でも理解できない行動をとるたびに、適当に誤魔化して、それに高杉やヅラも納得していたのだと思っていたが。そんな都合のいい話はやっぱりなかったらしい。そりゃそうだ。だって頭いいもんこいつら。一度や二度ならともかく、何度も何度も違和感を抱かせれば、疑われもするだろう。
「三人がそんなことを計画してるが、二人も聞くか?って金さんが誘ってくれまして」
「屋根裏でその話を聞いてたさっちゃんとジミーがそれぞれ広めたら、こんな大人数になってたアル」
「……なんでジミーくんはうちの屋根裏にいたわけ」
「えへへ、やっぱり監察として腕を磨きたくて。旦那にバレないようになったら一流と自負できるかなぁと、たまに修行のつもりで……。その日は旦那いなかったんですけどね」
なーるほど。つまりいつものストーカーと、何故か時々うちにいるなと思っていたストーカーその二がこの大所帯の原因だと。ほんと何してやがるんだこいつら。
「で?俺の話はご満足いただけたわけ?正直これ以上説明すること、俺は思いつかないんだけど」
そもそも聞かれなきゃ説明する気もなかったし。平安の時代の話は、大切な記憶ではあるが、言いふらすような話とも思えない。何故自分が今も生きているのかとか、わからないことも多くて説明できるわけでもない。
でもまぁ、聞かれれば答えてやるか。と、集まった奴らに聞いてみれば、煮え切らない声が返ってきた。
「疑問が解決したような、わからないことが増えたような……」
質問はしたいが、質問する内容がまとまらない。そう言いたげに唸る奴らの中で、ぱっと一本の腕が挙がった。
「はい、速かった。総一郎くん」
「総悟でさァ」
寺子屋の生徒みたいにお行儀よく正座した沖田君が、首を傾げて俺を見つめた。
「やっぱり、頼光四天王って鬼退治で有名でしょう?」
沖田君のいう通り。頼光四天王は武者として京都を守っていたが、有名なのは人間ではなく鬼をはじめとした化生相手の大立ち回りだ。
その代表とも言えるのが、大江山に住む鬼の総大将、酒呑童子の首を討ち取ったこと。
「そんな源頼光たちと過ごした旦那が、白夜叉と呼ばれるに至るだなんて。どんな気持ちなんですかィ?」
悪意はなく、憐憫もない。本当にただの興味で出た言葉だ。人斬りと称されながら、真選組という武装組織で育った沖田君だからこその疑問。
人を守るために人を斬る。それが沖田君たち武装警察、真選組だ。
人を守るために鬼を斬った。人を守るために鬼になった。それが俺だ。
確かに、字面だけ見ればどんな皮肉かと思われても仕方がない。しかし俺としては、それほど気にするべきことでもなかった。
「いや別に、なんとも。俺たちの本質どっちかっていうと鬼のが近かったしな」
「俺たちって?」
「俺と金時」
酒瓶の中にはまだ酒が残っている。俺の視線に気がついたらしいカラクリの方の金時が、すぐに注いでくれた。やっぱり気が効くなぁ。こいつ。
「赤龍はともかくとして、俺たちは人喰い山姥の子供だぞ?幼馴染なんて酒呑童子」
「え、そうなの!?」
「そうだよ」
近藤が身を乗り出して驚いているので、頷き返してやった。なんなら金時にとっては初恋の相手、とかいうのは隠しといてやろう。可哀想だから。
「それに、鬼とだって仲悪くなかったしな。そりゃ酒呑童子たちは退治したが、安倍晴明のとこにいた式神の鬼とは仲良かったし」
力が強く、倫理観も人のものじゃなかった俺たちの遊び相手といえば、もっぱら源氏武者か、安倍晴明のとこにいた式神たち。同い年の子供なんて、貴族社会だから会うことはほとんどなかったし、会えたとして俺たちのような山育ちの相手はさせられなかった。
熊すら容易くぶん投げる俺たちと対等に遊べるやつなんて、それこそ鬼のような妖怪くらいしかいなかったのだ。
学もない俺たちは、頼光さんたちに勉学を教わり、式神たちと暴れ回る日々を過ごしていた。あぁ、でも。たった一人だけ例外がいた。
「特にあそこの座敷にいた子鬼なんか、よく一緒に遊んでたーー」
「銀ちゃん?」
あいつとだけは、一緒に物語を読んだりして、人間の子供らしく遊んだな。唯一の友達と呼べる相手だったかもしれない。と、思い出したところで、言葉が詰まった。なんかあいつ、誰かに似ているような。
「……いや何でもねぇ。ま、それに関してはお前の気にしすぎだよ」
この話は終わりだと、手を振って言外に伝える。物足りなさそうに沖田君はぶすくれているし、今の態度はなんだと神楽と新八が俺を見ている。
けれど、残念。タイムアップだ。
「じゃ、俺はそろそろ行くわ」
グラスに残っていた酒を、一気に喉へ流し込む。瓶にもまだ少し入っているが、これは目の前の奴らに恵んでやろう。二口分くらいしか残ってないけど。
「俺一人こいって依頼でな。朝早い上に遠いから今日の終電逃すと結構まずいの」
脇に置いていた木刀を掴み、立ち上がる。悪酔いはしていない。視界も良好。問題なく目的地まで辿り着けそうだ。
「新八も神楽も、こんなアホども放っておいて、ほどほどなところで帰れよ」
「……はい」
「帰ってきたら、続き教えてネ」
「なら質問考えとけ」
暗くない話ならいくらでも。幸い京都の街で過ごした日々は、馬鹿馬鹿しいくらい笑いに満ちていた。大体のことは答えてやれるだろう。
「じゃあな。金時は酒、ありがとさん」
「おうよ兄弟。気をつけて行ってこいよ」
料亭を出て、江戸の街を進む。終電間近ということもあって、人はまばらに歩くばかり。路地裏でゲロを吐くおっさんを横目に、俺は足を早めた。
人気の少ない電車に乗り込む。車窓から見える景色は、明るい街並みから、灯りひとつない田んぼや村へと移り変わる。木刀を抱えて、揺られること一時間半ほど。終点にたどり着いた。
依頼主の家は、ここからもう少し進んだ先。電車はないし、タクシーを頼む金もないので、ここからは徒歩だ。
江戸以上に人がいない街並みを抜け、山の中へ。人が通らない道は進みにくいが、ショートカットにはもってこい。俺は山育ちだし、戦場でもよく使った山道だ。むしろコンクリート舗装の道よりも進みやすい。
月明かりだけを頼りに、山を駆ける。小藪を走り、進行方向とは逆に印をつけつつ進んだ。熊の足跡があれば、その上を走った。痕跡を残さぬように慎重に。けれど素早く。
「……撒けるわけねぇか」
それでも追手との距離を離すことはできなかった。俺は足を止めた。このままでは、依頼人の家に背後のやつを連れて行くことになってしまうからだ。
「よぉ、久しぶり」
こいつが、何をしでかすつもりかわからない以上、一般人である依頼人を巻き込むわけにはいかない。
「江戸からずーっと俺のこと追いかけて。ストーカーですかぁ?」
俺が話しかけると、気配を殺していた影が、地面に降り立った。振り向けば、真っ黒な人影が静かに佇んでいる。
夏にしては冷たい風が頬を撫でた。月が雲間から顔を出す。徐々に、目の前の人影の顔が顕になった。
「なぁ、虚」
すでに死したはずの亡霊が、ニタリと笑った。
一方、銀時が出て行った後の料亭では。
「さっき銀時が言っていた陰陽術の話とはなんだ?誰からの質問だったのだ?」
主役はいなくなったが、せっかくこれだけ人がいるのだし。と、酒盛りを始めた面々。上機嫌に酒を飲みながら、桂が不思議そうに首を傾げた。
「はーい!私たちアル!」
「銀さん、外道丸さんっていう式神がいるので、呼び出せるんですかー。って聞いたら、なんか別のが人が呼び出せたことがあったんですよ」
未成年組ーーといっても新八、神楽、晴太くらいしかいないけれどーーは、ジュースで酒盛り気分を楽しんでいる。坂本を始めとする大人たちのポケットマネーで運ばれてくる食事は、滅多にお目にかかれないほど豪勢だ。
「それが陰陽術じゃったんか?」
「はい。あとから来た外道丸さんも、あれは陰陽術の真言だって」
神楽の隣で、器用に己の分の食事を確保しながら箸を進める新八。結局あの時現れたセイバーとか言う人、何者だったんだろ。なんて考えながら、筍の煮物を頬張っている。
「昔から銀時はお化けも見えていたようだし、その類のことにも強いのかもな」
「いや素質とかは関係なしに、怖がるあいつが面白くて、安倍晴明は陰陽術を教えたんじゃねえのか」
桂の言葉に、高杉が反論した。
「なんでそう思うんだ?」
きょとりと目を丸くした近藤。高杉は機嫌良く煙管を吹かして、笑っている。
「安倍晴明って奴は先生と同じ性質の人間な気がしてなァ」
「金時が先生を人徳者扱いされてる愉快犯、って呼んどるのは聞いたことあるにゃあ」
「タチが悪いアル」
弟子が悪戯小僧なのは、師匠の背中を見て育っているからである。関係性に多少の差はあれど、自分と銀時にブーメランが返ってくるとは考えもせず、神楽が呆れたようにため息を吐いた。
高杉の言葉を咀嚼して考え込んでいた新八が、ぱっと顔を上げた。
「もしかして銀さんがお化け見えるのって、生まれつき霊感があるからじゃなくて霊感を鍛えられたから?」
「……可哀想に」
心の底からの憐れみを乗せて山崎は言葉をこぼす。一騎当千、向かう所敵なしの銀時が、幽霊の話をした途端に情けなく怯える様を何度も見ているので。原因が愉快犯の悪戯にあるとしたら、不憫で仕方がない。
「で?旦那はどうやって式神を喚ぼうとしたんでィ」
酒を飲みながら問うてきた沖田に、万事屋の子供達は目を瞬かせた。
「えっとですね……」
「確か銀ちゃん、こうやってたアル!」
言うが早いか、神楽はどこに隠し持っていたのか、人型の紙を取り出した。人差し指と中指で挟み持つと、やけに様になる仕草で印のようなものを結んだ。
「おんマカロンはゾロ目で酒肉野菜ラストバージン薔薇ローズ咲いた!」
「銀さんが言ってたのは、オン マカラギャ バゾロ シュニシャ バザラサトバ ジンバラロシャナ ソワカ!間違えすぎ!!」
「間違え過ぎってかチャイナのそれ原型ねえだろもはや」
新八の正しい真言を聞いたあとだと、余計に。呆れたような声色で、土方はつぶやいた。
神楽の持っていた人型の紙を沖田が奪い取って、しげしげと見つめたり。目を輝かせた晴太が「俺もやりたい!」と騒いでいたり。こちらのやりとりなんて気にも留めず、酒を飲んでいる奴らがいたり。
あぁ、平和だな。銀時が守ったのは、こんな江戸の街の姿なのだな、と。静かに酒を飲んでいる大人たちは、思いを馳せた。
夜はまだ長い。子供だって、今日くらい遊んで帰っても許されるだろう。江戸らしく、かぶき町らしく、寝ずに騒いで遊ぼうか。大人たちは笑って、酒を喉へと流し込んだ。
そんな楽しい空気が、一陣の風によって一変する。
「……風?」
室内にも関わらず、吹き込んだ風。全員の顔が一斉に窓へと向く。しかし、外へとつながる窓はきっちり閉められたままだ。馬鹿騒ぎするとわかっている面々の集まりだし、開けると迷惑になるかもしれないと、締め切っていたのである。
ならば、先ほどの風は?寒気すら感じるほどに爽やかな、奇妙な風はなんだったのか。
疑問と警戒心を抱く皆の間を、再び風が通り抜けた。するりと人を避けるように吹き抜けた風は、部屋中を周った。そして、なんとなく皆が座らずに開けていたスペースに、吹き込んで、渦を巻く。
次第に勢いを増して行く風の中心で、さらなる異変が起こった。
「え、なんで光って……?」
床になにやら怪しげな光が浮かび上がったのである。円形をいくつも重ねた印の中心に、五芒星が。みみずののたくったような、そう、まるで昔の人が書いたかのような文字が、それらの印を囲んでいる。
「魔法陣……!?」
神楽が、警戒と興味の滲んだ声を上げた。魔法陣、と呼ぶにはやけに和風だけれど。それ以外になんと形容するべきか、誰にもわからなかった。
光と風が、さらに強まる。いよいよ、目も開けられないほどの強さだ。皆が顔を腕や手で覆う。
どれほどそうしていただろうか。短かったような、長かったような。光と風がおさまったのを感じた面々は、ゆっくりと目を開けて魔法陣の方を見つめた。
「召喚に応じ参上した。俺のことはゴールデンって呼んで欲しいが……」
そこには、一人の男が立っていた。
金髪サラサラおかっぱ頭。目元にはサングラス。服は、ライダースーツだろうか。白くぴっちりとした洋服に身を包んでいる。
「一応、真名も伝えておいたほうが良さげだな」
知らない男だ。けれど、よく似た気配を新八たちは知っていた。惚れ込んで、追いかけて、隣を走った男の纏う空気。
思い浮かぶ人間は一人だけいる。けれど、目の前の男は、新八たちの憧れる男とは真反対な色をしている。髪だって、彼の羨むサラサラヘアー。先ほど聞いた話では、とっくに死んでいるはずの人間なのだ。だから、関係はないはずなのに。理性ではない何かが否定する。目の前の男の魂は、銀色の魂と対を成すものだ、と。
「俺の名は、坂田金時。金太郎、って言った方がわかりやすいか」
サングラスからチラリと覗いた瞳は、銀時の持つ赤色とは真反対の青色。空よりも海よりも、透き通った青色だ。
どこまでも銀時と真反対な男は、にかりと笑った。豪快で清々しいその表情は、銀時が浮かべる笑顔とよく似ていた。
「で、嬢ちゃんたちがオレを召喚したのか?」
そう語りかけられた新八と神楽の手の甲には、煌々と赤い印が浮かび上がっていた。