Fate/mille fiore-フェイト ミルフィオレ-【完結】   作:おるか人

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Scene.23  千の花(下)

 綺礼の口から語られた『フォレスティ家の正体』は、凜を心胆から揺さぶる内容だった。

 

 フォレスティ。

 魔術を金儲けの為に利用する、薄汚い商人。

 しかしてその実態は、表社会も裏社会も、果ては魔術社会まで我がものにせんとする侵略者。

 

 そして千花が語っていた『万条とはフォレスティである』という言葉の意味も、本家と分家という関係、そして継承魔術のカラクリを考えれば理解できる。

 つまり、凜の知りたかった情報は大方知れたわけだが……ここまで聞いてしまった以上、全てを明らかにしておきたいというのが、彼女の心情であった。

 

「ねえ、綺礼……私に何をさせたいの?」

 

 最初に、綺礼は「本来ならばいち参加者であるお前に、他のマスターの情報を話すことはできない」と言った。本来ならば。……つまり、万条は例外という事になる。

 監督役による積極的な情報の譲渡。それには確たる理由があるはず。最初の掛け合いから明らかであった問題に、凜はここで切り込んだのだ。

 綺礼は、傍に置いてあった資料の束を手に取りつつ、さらりと答えた。

 

「簡単な話だ。お前には万条のマスターを速やかに討伐してほしい。そのための情報提供だよ」

 

 ばさっ、と。目の前に差し出される資料の束。

 凜はそれをパラパラと流し見て、驚いた。何とこの資料には、万条家とフォレスティ家について、詳細に分析されたデータがびっしりと記載されているではないか。

 驚きは、三つの意味で凜の胸を叩いた。

 一つ目は、こんな詳細なデータをどこで手に入れたのかという事。少なくとも、聖杯戦争を傍から観察するだけの監視役にはとても手に入れようのない質と量がある。

 二つ目は、何者にも公正であるべき監督役が、明らかに万条を敵視しているという事実を目の当たりにした事。

 そして三つ目は……何故、今更『討伐』などという言葉を使うのか、という事。

 凜はまず、三つ目の理由を以って、綺礼を追及した。

 

「綺礼……何言ってるの? アンタ、昨日の一件……事後処理したんでしょ? 被害者確認は昨日の時点で終わってたじゃない?」

「それがどうした?」

「どうしたじゃないわよ。だったら、分かるでしょ? アイツは、万条は死んだわ。屋上でセイバーに、胴から真っ二つにされたのよ。死体が残ってたでしょう!」

「凛、お前こそ何を言っている? 私は昨日、()()()()()()()()()()()()()()とハッキリ言ったはずだが」

 

 ここでようやく、凜は昨日の自分が途方もないうっかりをしていた事に気付いた。

 目を丸くする凜に対し、綺礼は呆れたような―――しかしどこか楽しそうな―――視線をやる。

 

「それに、万条は不死に近い再生能力を持つ一族だ。胴を裂かれた程度では死なぬよ」

「そ、そんな馬鹿な事」

「事実だ。現に第二次聖杯戦争の際、当時の監視役が残した記録に『首を斬られたにも関わらず、胴体だけが敵マスターに襲い掛かった』という記述がある。付け加えるなら『その後、胴体と首の断面を合わせると、数秒の後に癒着した』そうだ」

 

 さっきも説明したように親族の多い家系だからな、アメーバやヒドラの親戚がいたとしてもおかしくない―――と。綺礼は万条家の異常性を、そんな質の悪い冗談で結んだ。

 

「……笑えないわ」

 

 とにかく、凜は有り得ないとして頭の中から完全に排除していた『万条千花の生存』という可能性を現実のものとして捉え始めた。無論、完全に信じたわけではない。流石にあの光景を目にした上で今の言葉を呑み込むのは、凜の中にある常識では難しい。

 

「そりゃあアイツが生きてるって言うのなら、アンタに言われるまでもなくブッ倒すわよ。けど、監督役が直々に討伐を依頼するって言うのは、一体全体、どういうわけなの?」

「聖堂教会が、フォレスティの復権を恐れているからだ。“上”は『どんな手を使ってでも根絶やしにしろ』と、鼻息荒く仰っていたよ」

 

 くくく、とおかしそうに笑う綺礼とは対照的に、凜は本日最大の戦慄を味わった。

 先ほどのアメーバやヒドラなど比較対象にもならない程に悪い冗談である。監督役から遠坂凜に下された『万条千花を討伐せよ』という依頼。アレは恐らく、妥協案だ。もし、万が一にも凜がしくじれば―――ひょっとすると、手こずるだけでも―――聖堂教会はこの町に代行者を送り込んでくるだろう。それこそ、聖杯戦争の破綻など意にも介さずに。

 

「聖堂教会にそうまでさせる万条家とは何者か? という顔をしているな。ああ、そういえばまだ全てを話したわけではなかったか」

 

 心底面白そうに、綺礼は『話の続き』を口にする。

 

「お前も知っている通り、フォレスティ家は約一〇〇年前に滅亡した。表向きには事業に失敗し、それをきっかけに多数の不正が発覚、多額の借金を背負い込んだためとされているが……真実は違う。フォレスティ家の滅亡は、聖堂教会の手によるものだ」

 

 凜は言葉を返さない。先ほどの驚愕をまだ引き摺っているのか、それとも新たな驚愕に慄いているのか。

 

「魔術師と教会の対立関係はお前も知っているだろう。『神秘の管理』と『神秘の秘匿』……元々相容れない関係の両陣営だが、その中でもフォレスティは、教会にとって目の上の瘤と言える存在だった。継承魔術を糧に育んだ強大な武力と、国に影響を及ぼす程の経済力を誇り、挙句、よりにもよって聖堂教会の総本山たるイタリアに居を構えていたのだから」

 

 教会のホームグラウンドで、魔術の教えを広める異端者。

 かつての教会がいかに憤懣やるたかない思いを抱えていたかは、想像に難くない。

 

「教会は何度も、フォレスティを排除しようと試みた。だが不可能だった。何故なら、フォレスティの人知れぬ侵略行為は魔術師だけでなく、教会に対しても行われていたからだ。後に発覚した事だが、教会にはフォレスティの血を継ぐ者たちが、少なくとも一〇〇〇人以上入り込んでいた。その中には代行者や司教まで登り詰めた者もいたというのだから、怖い話だ」

 

 聖堂教会の動きは悉く読まれていた。

 こんな状態では、いかに強大な組織であろうと勝ち目があろうはずもない。

 

「一進一退の攻防は数百年に及び……約一〇〇年前、ついに状況は動いた。フォレスティは第三次聖杯戦争に敗退し、それをきっかけに()()()()なったのだ」

()()()()?」

「詳しくは分からん。ただ、それまで一糸乱れぬ連携を誇っていたフォレスティが、突然に瓦解したのだ。これを千載一遇の好機と見た教会はイタリアで決戦を仕掛け……勝利した。本家に残された資料から継承魔術の仕組みを解析する事で、世界中に散らばる分家の者たちも一人ずつ虱潰しに殺していった」

 

 そうして、フォレスティは滅亡した。

 かつての栄華がウソのように、あっさりと。

 

「本来なら、フォレスティの分家が一つや二つ生き残っていたところで大した事ではない。奴らの継承魔術は『本家』があって初めて意味をなすものだと分かっているからな」

「……なら、どうしてそこまで躍起になるのよ?」

「万条だけは例外だ。あれは数ある分家の中で唯一、本家大元たるフォレスティと同じ性質を持った一族なのだ。万条が勢力を拡大すれば、それは即ちフォレスティの復権と同義となる」

 

 故に、現段階で速やかに滅ぼさなければならない。

 これが聖堂教会の出した結論。

 

「私の話はこれで以上だ。理解したかね、凜?」

「ええ、よーっく理解したわ。本当に、本当に、本ッ~~~~当に……アイツはロクな奴じゃないわね!」

 

 凜は激しく憤った。かつてここまでの侮辱を受けた事があっただろうか、と。

 遠坂の魔術を我が物顔で見せびらかし、己を地に這い蹲らせ、挙句の果てに遠坂の悲願たる聖杯の成就を踏みにじろうとしている。

 既に分かっていた事ではあるが、凜は改めて確信した。

 万条千花は、遠坂凜の敵だ。全霊を以って打ち倒さねばならぬ存在だ。

 

「綺礼。討伐の件、了解したわ。必ずこの手でぶちのめして教会まで引きずって来てやるから、それまで大人しくしてろって教会の上役に伝えときなさい!」

 

 こうしてはいられないとばかりに踵を返し、凜は教会の扉に手をかける。

 その背中に、綺礼が最後の言葉を投げた。

 

「ああ。待て、凜。この依頼は、アインツベルンとマキリにも程なくして伝えられる。自ら手を下したいのなら急ぐがいい」

「ご忠告どうもッ!」

 

 怒り、苛立ち、屈辱、焦り……様々な感情を乗せた叫びが、両者の間で交わされた最後の会話だった。

 

 

* * * * *

 

 

「凛、話し合いは終わっ―――凜!?」

 

 外で待機していたアーチャーは思わず叫んだ。

 何せ自分のマスターが教会から出て来るなりバタンと倒れ込んだのだ、無理もない反応である。

 

「ごほっ、―――げほ、ぐ。……」

「凛っ、おいしっかりしろ! くそ、だから無理をするなと!」

「アーチャー……一旦家に帰るわよ。私を連れて、跳んでちょうだい」

「ああ、分かっ……いや待て、一旦だと? まさかまた外へ出るつもりじゃないだろうな?」

「そうよ。…急ぎの、用事が…できたわ。だから、」

「馬鹿か、マスター! 君は今の自分の状態が分かっているのか!?」

「分かってるから急いで! モタモタしてたら、聖杯戦争がメチャクチャになるわ!」

「なにっ?……ええい、くそ! 凛! 帰ったらしっかりと説明してもらうからな!」

 

 アーチャーは素早く凜を横抱きにすると、尋常ならざる速度で駆け出した。

 塀を越え、屋根を走り、電柱を飛び移り……最短距離で遠坂邸へと跳び去っていく。

 

 万条家の正体。

 聖堂教会との確執。

 唐突に設けられた刻限(タイムリミット)

 

 唐突に突きつけられたそれらを胸に、遠坂凜は空を往く。

 嗚呼、この戦いは何処へ向かうのだろうか。

 

 

 

 

 

 ちなみに、その姿が後日―――『空飛ぶコスプレ赤マッチョ』として三流ゴシップ誌に掲載され、読者の失笑と凜の怒りを買う事になるのだが……それはまた、別のお話。

 

 

* * * * *

 

 

 士郎が公園のベンチで少女を待ち続けていたころ。

 凜が丘の上の教会から飛び去ったころ。

 

「さ……そろそろ出かけようか、小次郎」

「了解した」

 

 此度の聖杯戦争におけるトリックスターもまた、新たな行動を開始していた。

 時忘れの庭園を抜け、門を開き、千花は冬木の街並みへと繰り出していく。その足取りはまるで、遊び場へと出かける幼子のようで……どこか不吉なものを感じさせた。

 

 

 

 

 

TO BE CONTINUED・・・




【作中捕捉】
■凜 は フォレスティ家 に 関する 資料 を 手に入れた!▼

■謎② フォレスティ家と万条家の関係とは?
 解② 本家と分家の関係。ただし万条は他の分家と違い、新たな本家となれる資質があった。

■謎⑦ フォレスティ家が辿った末路とは?
 解⑦ 聖堂教会の手によって滅ぼされた。尤も、その時点で既に何かが破綻していたらしい。

【今話のまとめ】
■フォレスティ家は約一〇〇年前、聖堂教会の手によって滅ぼされた。



■しかし、それまでは倒そうにも倒しようがない強大な敵だった。勝てたのは偶然。



■万条家は将来、新たなフォレスティとして教会に立ち塞がる可能性がある。



■危険な可能性を事前に摘み取るため、いざとなれば聖堂教会は聖杯戦争に介入する事も辞さない覚悟。



■けど安易に動くと、今度は協会との停戦構造が崩れかねないため、聖杯戦争の破綻という事態を盾に、参加者の手で万条を優先的に討伐せよと要求。



■聖杯戦争は大事だけど、魔術師の目から見てもフォレスティの復権は困るので、協会はこれを承諾。



■ひとまず、戦争の責任者であるアインツベルン・マキリ・遠坂の三家に以上の事柄を通達しよう。



■なお、遠坂は万条の生存を知らせた貢献者であるため、その褒美として他の陣営に先んじて監督役から情報を渡される事に(←今ココ)。





【一言で言うと?】
■冬木市「さっさと千花を倒さねえと、俺がやべェって事だよォオ――――!!(汗)」
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