Fate/mille fiore-フェイト ミルフィオレ-【完結】 作:おるか人
Scene.29 パスト・ヴィジョン3/4 -終焉の悪意-
万条という家が興されたのは、今からおよそ三〇〇年前の話である。
継承魔術の恩恵の下、フォレスティ一族が拡大を続ける中、端末の一人が日本という島国に辿り着いた。
最初は今までと変わらず『この国もフォレスティの勢力下に置こう』としか考えていなかったが、しばし暮らしてみると、その印象は大きな変化を見せた。
「此処は素晴らしい国だ」
何と、本拠地であるイタリアにいた頃よりも魔力回路の調子が良いのである。
フォレスティ一族と日本は格別に相性が良かったのだろう。魔術回路のみならず、この国で生まれ育ったフォレスティの子孫たちは、先代より遥かに優秀な素質を備えていた。
これらの現象を確認すると、イタリアの本家は『フォレスティの本拠地をイタリアから日本へ移す』という大胆な計画を打ち出した。
継承魔術は、血の繋がりを辿って『知識』と『経験』をインプットする魔術である。
その構造上、代が続くとどうしてもフォレスティ側の血がどんどん薄まってしまい、やがて継承に支障が生じるようになるという問題を抱えている。
よって継承を完全に保つため、フォレスティ一族には『本家』と呼ばれる『エドガルドの血を色濃く受け継ぐ者たち』が必要となる。
具体的には、精密な身体操作によって遺伝子情報を改竄したり、意図的に近親婚を繰り返す等の行為によって血を保つわけだが―――――そこまでしても、優秀な胤を持つ子が生まれて来るとは限らない。フォレスティはここ数十年間、一族が持つ素質の伸び代にある種の限界を感じ始めていたのだ。
それを打破できる可能性を目にして、彼らは一も二もなく飛びついた。
しかし、当時の日本は鎖国の真っただ中。いかに魔術を用いようと、大勢の外国人が大挙して押し寄せれば問題になる。
そこでフォレスティは『本家』足り得る優秀な人材だけを日本へと送り込み、現地民の警戒を煽らぬようこっそりと、数百年かけて繁栄の土台を造っていく事にした。
やがて時が経ち、十九世紀初頭。現代より約二〇〇年前。
万条と名付けられた端末たちは、ある日協力関係にある者から遠坂家の存在を知った。
同時に、彼らが西洋の魔術師と手を結び、冬木という土地で大規模な魔術儀式を行うらしい、という情報を掴み、後に第一次聖杯戦争と呼ばれる戦いに足を踏み入れ、あらゆる願いを叶える万能の願望器―――――聖杯の情報をも掴む。
「素晴らしい! ああ、この国は本当に素晴らしい!」
―――――そう、聖杯はあらゆる願いを叶える事が出来る。
ならば、我らの悲願も叶うだろう。
わざわざ全人類と肌を合わさずとも、この世の全人類を万条にしてくれと願えば。
フォレスティが日本に辿り着いた事。
フォレスティと日本の相性が良かった事。
イタリアから日本への移住が進み、土台が安定し始めた頃に儀式が行われた事。
第一次が無様な失敗に終わり、続く第二次までに約六十年の準備期間が与えられた事。
全ての出来事が、彼らにとって都合良く進んでいた。何もかもが誂えたような展開だった。
「間違いない、これは運命だ! 神が言っているのだ―――――我々に勝てと! 世界を手にせよと言っている!」
しかし肝心の第二次聖杯戦争にて、万条はまさかの敗北を喫した。
マスターとして戦場に立った五代目当主は遠坂の英霊に追い立てられ、アインツベルンの英霊に叩き潰され、命からがら逃げだした先で、不死身の身体に興味を抱いた臓硯に捕らわれ、拷問と凌辱の末に殺された。
万全の準備、最高の条件で戦ったにも関わらずの惨敗。
誕生から七〇〇余年、脈々と受け継がれてきた知識と経験から、輝かしい成功だけを積み上げてきた彼ら一族にとって、この無様なまでの現実は到底受け入れがたいものだった。
「何故だ!? 何故我々が敗れる!? 何故だ、何故だ、何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ!?」
フォレスティはこれまで、ロクに敗北を知らなかった。
幼いころから継承魔術によって大人顔負けの知識と経験をインプットされる彼らは、およそ失敗らしい失敗を犯さない。商業だろうと喧嘩だろうと、順位・優劣の見えるものには、その力を使って幾度となく勝利してきた。そしてその賢しさから、勝てない勝負には最初から手を出さずに生きて来た。
七世紀に亘り歪んだプライドだけを積み重ねてきた彼らが、自ら臨んだ勝負で、言い訳のしようもなく敗北した。それがどれほどの恥辱であったかは、彼らにしか分からないだろう。
万条の味わった敗北と屈辱は世界中に散らばるフォレスティ一族に伝播し。
その結果―――――フォレスティは精神を病んだ。
この時フォレスティ一族が取るべき行動は、聖杯戦争という儀式から手を引くことだった。
聖杯を諦めてイタリアへ帰り、また今までのように成功と栄光を積み重ねる人生を送ればよかった。そうすれば、いつかこの敗北を忘れられる日が来たかもしれない。無効試合を繰り返し、第五次にまで及んだ聖杯戦争を『諦めの悪い奴らめ』と上からせせら笑う事が出来る未来があったかもしれない。
だが、そうはならなかった。
当事者である万条も、それをサポートするフォレスティも『この屈辱を拭い去るためには、聖杯戦争で勝つしかない』と思い込んでしまった。
そしてまた約半世紀を経て、万条は第三次となる聖杯戦争を迎えた。
しかし聖杯は万条に令呪を与えなかった。恐らくは、彼らの目的が聖杯ではなく、戦争参加者への復讐になっている事を見抜いたのだろう。
もちろん、万条はマスター権がないからと参加を諦めるような大人しい性格はしていなかった。彼らは早々にマスターを失い、はぐれとなったサーヴァントを見つけ出し、魔力供給を代償に主従契約を結ぶ事で戦争に加わった。
今度こそ――――妄執に囚われた彼らの勝敗は、またしても敗北であった。
第一次聖杯戦争の例に見るように、やはり令呪抜きで英霊を従える事などできなかったのだ。万条家六代目当主は、マスターの方針に不満を抱いたサーヴァントに裏切られて敵陣で孤立し、当時の遠坂家当主によって焼き殺されるという末路を辿った。
二度目の敗北。
たった一度の敗北で、彼らは約束された栄光に背を向け、非合理な選択に身を投じた。
ならば二度目の―――――それも、一度目に勝る程の屈辱を前に、彼らは一体、何を思ったか。
「どんな手段を使ってでも、奴らに復讐を」
もはや万条は、戦う事すら止めた。
いかにして怨敵に屈辱を味わわせるか。そんな陰湿な思考を巡らせるだけの負け犬へと成り下がったのだ。
彼らが復讐の道具として目をつけたのは、聖杯だった。
アインツベルンの小聖杯を回収・解析する事で『新たなる聖杯』を創り出そう―――――そう考えた。
理論としては、こうだ。
アインツベルンが冬木に持ち込む聖杯を分析し、新たな聖杯を創り出す。
その新たな聖杯を、密かに冬木の霊脈と繋いでおく。
いずれ行われる第四次聖杯戦争で、アインツベルンの小聖杯に全ての魂がくべられる。
アインツベルンの小聖杯が霊地を通して大聖杯にアクセスし、世界の外に孔を空けようとする。
その瞬間、万条が持つ『新たな聖杯』が起動。霊脈を通して小聖杯の中にある魔力を横取りし、願いを叶える。
当時の万条が構想していたのは、このようなシステムだったらしい。
アインツベルン、マキリ、遠坂――――忌むべき三家が苦心して作り上げた聖杯戦争というシステムを、部外者である自分たちが丸ごと乗っ取り、成果だけを横取りする。これが為された時、彼らはどんな顔をするだろうか? 想像するだけで快感だった。
尤も、それが実際に可能だったかどうかは定かではない。
何故なら、聖杯の器を手に入れようと第三次聖杯戦争における最後の戦場に向かった時、万条は遂に、一族滅亡に至る最後の引き金を引いてしまったからだ。
――――“
第三次聖杯戦争にてアインツベルンが召喚してしまったサーヴァント。
彼の脱落により、聖杯は既に、完膚なきまでに汚染されてしまっていたのだ。
―――――死ね。
―――――死ね。
―――――死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死
ほんの僅か。
ほんの僅かだけ、器から零れた泥に―――――万条は触れてしまった。
たったそれだけで、万条を含む、フォレスティ一族の未来は丸ごと潰えた。
万条一族は後の本家という肩書もあってか、フォレスティ一族全てと精神的に『繋がって』いた。その繋がりに乗って“
たった一度の敗北を認めることが出来ず、意固地になるような幼稚な精神が、英霊さえも侵食する極大の呪いを受ければどうなるか。
果たせるかな。フォレスティ一族は呪いの汚染に耐えきれず、その九割が即座に発狂死。残った一割も大半が既に廃人―――――生きているのか死んでいるのかも分からない状態と化した。
この騒動をきっかけに、世界各地に潜入していたフォレスティの暗躍が露見。
聖堂教会がこのような絶好の好機を逃すはずはなく、即座にイタリアのフォレスティ本家は制圧され、そこから芋づる式に各地の分家も潰されていった。
同じころ、日本の万条一族も監督役が先導する形で代行者達の手によって殲滅され…………現代より約一〇〇年前。八〇〇年続いた名家・フォレスティ家は、遂にかつての高潔な理念を見失ったまま、無残な滅亡を迎えたのだった。
* * * * *
狂信者たちの手によって破壊し尽くされた万条家。
草の根一つ残さぬと言わんばかりの荒れ地に、蠢く影が一つだけ。
「まだ、だ…………まだ終わらん……終わらせんぞ………………ッ!」
呪いによる発狂を免れ、代行者の魔の手からも逃れた一人の男が、人知れず歩き出す。
目指すは冬木。偉大なる一族を破滅へと導いた魔都へ。
いずれ来たる、復讐の時のために。
「覚えていろ………いつか貴様らに目に物見せてくれる。必ず………かなら、ず………ッ!」
血走る瞳、怨嗟の呻き。
一族は滅び、未来も固く閉ざされて。
なのに―――――その憎悪だけが潰えない。
TO BE CONTINUED・・・
■今回のまとめ
その➀ フォレスティ分家、日本へ。
フォレスティ分家「本家さん本家さん、ウチらと日本って相性良いみたいッスよ」
フォレスティ本家「マジで? じゃあ本家そっちに移そっか。こっちの有望株何人か送るから、あとヨロシク。あ、せっかくだし名前もその国に合わせて変えとくか。分家、お前今日から万条名乗れよ」
分家改め万条「ウィッス」
その② 第一次聖杯戦争、開戦
万条「本家さん本家さん、ダチの隠れキリ〇タンから聞いたんスけど、遠坂とかいうオサレ魔術師が冬木で聖杯戦争やるらしいッスよ。ちなみに賞品はドラゴン〇ールな」
フォレスティ「マジで? それに勝てばもう勢力拡大する必要ねーじゃん。効率段違いだわー。おい万条、参加して来い。サポートは任せろー(バリバリ」
その③ 第二次聖杯戦争に敗北
万条「俺が負けるとかマジありえない! あいつらぜってーチートやってるって!」
フォレスティ「マジ最悪だよなアイツら! あーもうキレたわ。これから六十年は本業そっちのけで戦争のサポートすっから! 次こそあいつらブッ殺してやるし!」
その④ 第三次聖杯戦争に(r
万条「あああああああああああああクソがァ!! いや俺のせいじゃねえし! あのクソサーヴァントのせいだし!」
フォレスティ「もうマジでキレた。プッツンだわコレ。向こうがチートばっか使うなら、こっちもチート使ってやろうぜ」
万条「了解ッスわ。とりあえずドラゴンボールに罠仕掛けて『ギャルのパンティーおくれ』状態にしますわ。これで戦わなくてもオレらの勝ち・・・ってぎゃああああああああああああああああああああ“この世全ての悪”があああああああああああ!!」
フォレスティ「おいどうした万条・・・ってぎゃあああああああああああああああライン通じて呪いがこっちにもおおおおおおおおおおおお!?」
聖堂教会「何か知らんけどフォレスティが急にラリってるわー。チャンスだし攻めとこ」
滅 ☆ 亡 ☆ 完 ☆ 了
■万条さん、第一次で負けたのは悔しくなかったの?
万条「アレはルールもクソもなかったし。正確に言えば参加者じゃなく野次馬的な立場だったから」
■作中捕捉。
アインツベルンとほぼ同時期に敗退した万条は、最後の悪あがきに聖杯の器を確保しに行ったところで、半ば起動状態だった聖杯から零れた泥(Fate/Zeroアニメ版24話を参照)を浴びてしまったのです。
あとはギルガメッシュの受肉と同時にラインを通じて蘇生した綺礼のように、泥を浴びた奴とラインで繋がっていた世界中のフォレスティ一族も“この世全ての悪”の呪いを受けてしまい、切嗣と違って豆腐メンタルだった彼らは、その大半が発狂死という末路を辿ったわけです。
数少ない生き残りも殆どが精神崩壊で廃人と化したので、そのまま餓死か、無防備なところを聖堂教会の刺客に殺られてあぼん。フォレスティ一族は滅亡の道を辿りました。
そんな凄惨な状況の中、精神崩壊からも聖堂教会の刺客からも逃れた者が一人だけいました。それが今話のラストに登場した「まだだ、まだ終わらんよ!」な万条家八代目当主です。彼は「いずれ必ず復讐してやるぞ!」という強い決意と共に、表舞台から姿を消します。
彼の決意や憎悪を継承魔術で受け継いだ末に誕生したのが、現代を生きる九代目当主、本作の敵役たる万条千花です。