Fate/mille fiore-フェイト ミルフィオレ-【完結】   作:おるか人

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Scene.51  いざ、倒れ逝くその時まで

 冬木市の空を翔ける一匹の天馬。

 その背に跨っているのは三人。騎手たるライダー、その前後に間桐慎二と衛宮士郎。

 慎二が前方でライダーに抱えられ、士郎が後方からライダーに掴まる―――士郎と慎二でライダーをサンドイッチにしているような―――形である。アインツベルン城から撤退する時と違い、飛行速度等を考慮した結果の騎乗体勢だろう。

 彼らが衛宮邸を飛び立ってからそう間もなくして、ライダーが言った。

 

「………シンジ、シロウ。たったいま、目標地点に多数の敵兵が出現しました」

「チッ。こっちが居場所を掴んだ事がバレたのか? せっかくワザとルートを外して飛んでるってのに………」

「でしょうね。恐らく、もうじきに対空砲火が来ます。二人とも、準備は良いですか?」

「い、良いに決まってるだろ! お前こそしくじるなよ!?」

「ああ、分かってるよ。――――イリヤ、聞こえたか?」

『大丈夫。じゃあ、そろそろ始めるから………一旦切るわね。危なくなったら迷わず令呪でランサーを呼ぶのよ? 私の渡した令呪は、そのためのものなんだから』

「分かってる。作戦に変更は?」

『いらない。元々が劣勢の戦況だもの。あとはなるようになれ、よ』

「………………だな」

『それとシロウ、念話するのに声を出す必要はないわよ』

「うっ」

『………次のお勉強会の内容が決まったわね。安心なさい、たっぷりしぼってあげるから』

 

 悪戯っぽく笑う声を最後に、イリヤスフィールとの通信は途絶えた。

 微量とはいえ、魔力の消費がある以上、ずっと繋げっ放しにしておくわけにはいかない。次に念話をするのは千花を倒した時か、あるいは二人のうちどちらかが窮地に――――――。

 

(考えるな)

 

 士郎は、不吉な思いを振り払う。

 今は何も考えない。数時間前に一同で決めた『作戦』の事以外は、何も。

 

 

* * * * *

 

 

 時を少々遡り、午前一時半。

 ランサーという心強い味方を戦列に加えた士郎一行―――衛宮士郎、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、セラ、間桐慎二、ライダー、ランサーの計六名―――は、全員で居間のテーブルを囲んでいた。

 

「――――これから、作戦会議を始める」

 

 そう宣言するのは、一行の中心人物たる衛宮士郎である。

 現状が一分一秒を争うと理解していながら、それでも改めてこんな行動に出たのは、この戦いに些かなりと希望が湧いてきたからだった。

 ランサーが現れる前の一行は、半ば絶望に包まれつつあった。

 勝ちの目が見えない強大な敵。その上、戦いの舞台に赴くことすらできない状況。打つ手なしとしか言いようのない雰囲気が、皆の心を負の方向に傾けさせていた。

 

 だが、今は違う。

 ランサーの持ち込んだ情報により、少なくとも勝負は出来る。そして、イリヤスフィールと結んだ魔力のラインが、士郎に思いもよらぬ『切り札』を齎してくれたのだ。

 希望が見えた。「ひょっとしたら」――――そんな言葉が、彼らの心を過ぎるくらいには。

 故にこそ、ここで仲間内での情報共有・戦力把握・連携の確認・明確な行動指針の決定を怠るわけにはいかない。

 士郎はマスター権限によるステータスの確認に留まらず、ランサーとライダーに口頭でも『何が出来るか?』『何が得意か?』『この状況ならどう動けるか?』等を聞き出し、自分と残りの面々にその情報を浸透させていく。

 それが終わった後、本格的な『作戦会議』は始まった。

 

「まず、第一に。俺たちの勝利条件は、『万条千花を倒し、灰聖杯の起動を阻止する』事だ。あのゾンビみたいな奴とアサシンは、最悪倒さなくても良い。とにかく、千花を倒せば、他はどうとでもなるはずだ」

「どういう事だよ、衛宮? 万条を倒せたって、その後、あの気持ち悪い奴らに殺されたんじゃ、元も子もないじゃないか」

 

 慎二が常識的な反論を返すが、一同の中で、士郎の方針に意義を示しているのは彼一人のようだった。

 彼も、発言してからそれに気が付いたのだろう。キョロキョロと周囲を見回してから、居心地悪そうに士郎を睨みつけた。

 

「あのゾンビたちは、千花の使い魔………いや、どう呼べばいいのかな………とにかく、もっと密接な存在なんだ」

「密接な………?」

「ああ。千花が死ねばきっと、その時点で全員死に絶えるほどに………な」

 

 そういう意味でも、千花を倒せば全て解決なのである。

 全ての元凶は万条千花であり、全ては万条千花が悪い。

 万条千花を殺しさえすれば、何もかも全てが解決する。………この戦いは、そういう風に仕組まれている。

 

「何でそんな事が分かるんだよ?」

「………そこに居るセラから聞いたんだ。今回のケースと似た魔術を見たことがあるってさ」

 

 セラは何も言わず首肯した。

 ただ、内心で「この野郎」と精一杯の罵倒を叫んではいたが。

 

「あー、その点にゃ異論はねーけどよ、坊主。聖杯の方はどうする気だ?」

 

 納得した慎二に代わって、ランサーが別の視点から意見を述べた。

 

「ちっと気に食わねえが………聖杯戦争はもう、あいつらの勝ちと言っていい状況だ。もしも願いの『先約』が聖杯に認められているとしたら、どうやって止める?」

 

 願いの先約とは何か?――――第四次聖杯戦争における、言峰綺礼の一見を例に挙げて説明しよう。

 十年前、綺礼が聖杯の器を手にした時には、既に器にはある程度の魔力が注がれており、聖杯は起動する準備を整えつつあった。この状態で綺礼は、心の中で『最終決戦に、誰の邪魔も入らないで欲しい。周辺の民家が邪魔だ』という願望を密かに抱いた。すると、後に聖杯の魔力が現世に零れた時、呪いに染まった魔力は綺礼の願望を反映し、最終決戦の地である冬木市市民会館と、その周囲にある民家を余さず焼き払った――――これこそが、十年前に起きた冬木市大災害の真実にして、ランサーの危惧する『願いの先約』である。

 聖杯が起動可能な状態にあり、勝者に限りなく近い立場の者が器を所持している………そう、今現在はまさに、その十年前の一例と同じ状況下にあるのだ。

 

「それに関しては、ちょっと賭けになるな」

「賭けだぁ?」

「願いが叶う前に俺たちが千花に勝つ事が出来れば、聖杯に願いを撤回させることが出来るかもしれない。確かに現状は、ほぼアイツの勝ちだけど………実際に勝ってるわけじゃない。ランサーもライダーも、まだちゃんと生き残ってるんだから」

「………聖杯が融通のきかねえ石頭だったら?」

「その時は………宝具を使って、聖杯を破壊する。令呪を使えば出来るんだろう?」

 

 士郎は一度ぐっと唇を噛みしめてから、絞り出すように『最終手段』を提示した。

 起動段階にある聖杯を強引に破壊する――――その行為が齎すであろう結果を、士郎は既に、フォレスティの記憶を通じて知っている。

 世界を滅ぼすか、街一つを滅ぼすか。いざという時の選択権が、他ならぬ衛宮士郎の手に握られているというのは、運命の皮肉としか言いようがない。

 

「けど! もちろんそれは、本当にもうどうしようもなくなった時の為の、最後の手段だ。もしかしたらだけど、より効果的な『切り札』を用意できるかもしれない」

「ほぉ、自信アリか?」

「まだ分からない。でも、もし俺が考えている事が成功したら………全部、円満に解決させる事だって不可能じゃない」

 

 その為の努力は惜しまない――――士郎がそう口にしたところで、ランサーは「くはっ」と快活に笑った。

 

「分かった、分かった。つまり俺たちは、寄って集ってお前の為に道を作ってやりゃあ良いわけだ。ったく、英霊を露払いに使おうたぁ、中々イイ根性してやがる」

「不満か、ランサー?」

「いーや? 俺ぁ元々、アサシンのマスターにはそこまで興味はねえし、何よりコソコソ偵察を繰り返すよか、よっぽど気乗りする仕事だ。乗ったぜ、マスター」

 

 ランサーの獣のような笑みを見届けてから、士郎は冬木市の地図をテーブルの上に広げた。そして街の全体を俯瞰する図の左半分――――即ち、深山町にある二点を、人差し指でトントンと指し示す。

 

「今、俺たちが居るのがここ。ランサーが見たって言う千花のアジトはここ。普通に走れば二〇~三〇分くらいの距離だけど………ライダー、この距離をペガサスで飛んだら、どれくらいで着く?」

「一分も要りません。が、それは私一人で飛んだ場合です。郊外から逃亡した時の様に、何人も乗せるとなると、どうしても一〇分はかかるでしょうね。加えて、今回は地上から敵の攻撃に晒される可能性が高いです。私のペガサスも、完全な回復に至っていない以上………万全に立ち回るには、シンジと、あと一人が許容限界かと」

「そうか………」

 

 この作戦会議が始まる前―――お互いの持ち得る情報を交換した際―――に明らかになった事だが、どうやらライダーには『慎二を守れ』という令呪が働いているらしい。故に、ライダーと慎二は出来る限り行動を共にしなければならない。そうなると、必然的に………。

 

「だったら、そのポジションは士郎さんですね。士郎さん・マキリのマスター・ライダーのチームが空から先行。お嬢様・私・ランサーのチームが地上から後を追いかけて、士郎さん達の背後の心配を無くす――――これが最善では?」

 

 そう、確かに最善。これならば士郎たちは前方の敵だけに集中して戦える。士郎が千花を倒せば勝ち、という勝利条件にはピッタリの陣形だ。加えて、いざとなれば令呪でランサーを前線に呼び出す事も出来る。自分の中にも浮かんでいたチーム分けがセラから発せられたことで――――しかし士郎は、僅かに渋面を作った。

 

(イリヤは………大丈夫なのか?)

 

 どちらが危険かと言えば、当然、先行する士郎たちだろう。

 地上にはあの無数の亡者たちが待ち受けているだろうが、突破戦・対多数戦においてクー・フーリン以上に適格なサーヴァントはいない。きっと、安全かつ確実にイリヤスフィールとセラを最終決戦の地まで送り届けてくれるに違いない。

 だから、ポジション自体には全く不満は無い。

 しかし――――今のイリヤスフィールを、自分から引き離しても大丈夫だろうかと不安になる。

 

 ―――― ずっと私の傍にいて。私を置いていかないで ――――

 

 涙と共に零れた、イリヤスフィールの本音。

 彼女を置き去りにして、自分だけが危険な場所に踏み込む。そのシチュエーション自体が、彼女の心に悪い影響を与えないだろうか。例え危険だと分かっていても、自分と行動を共にさせるべきではないか?――――そんな考えが、士郎の心に過ぎる。

 

(だけど………『切り札』の事を考えると、俺は千花との戦いまで、なるだけ魔力を温存しなくちゃいけない………)

 

 そう。士郎の呪いは解けていない。

 今は小康状態にあるが、ひとたび魔術を行使すれば、彼の身に宿るフォレスティの呪いはまた、士郎の精神を鋸引きにしてゆくに違いない。

 下手に道中で投影を連発すれば、士郎は千花の許にたどり着くまでもなく呪いによって自我を崩壊させ、その命を落とすだろう。そして、それが分かっていても――――目の前でイリヤスフィールに危機が迫った時、自分が魔術の使用を自重出来るとは到底思えない。

 一分一秒でも早く千花の許に辿り着き、それまでの消耗を抑える………この二点を同時に満たそうと思うなら、士郎はイリヤスフィールと別れ、ライダーと共に空路を行くのが最善だ。

 

(分かってる。分かってる、けど……………!)

 

 思い返されるのは昨日の戦い。誇り高き剣騎士に『死ね』と命じたあの瞬間の事。

 人としての倫理。戦場の鉄則。二律背反が士郎の心を束縛する。

 ――――ああ。いつだって世界の『最善』は、士郎にとっての『最善』になり得ない。

 

「シロウ」

 

 苦悩する士郎に、イリヤスフィールは言った。

 精一杯のつま先立ちで、その小さな唇を彼の耳元に寄せて。

 

「――――――。―――、―――――――――――――」

 

 他の誰にも聞こえないようポソポソと、

 しかし、他ならぬ士郎にだけは伝わるように、

 彼女はハッキリと、己の内にある気持ちを伝えた。

 

「………約束よ?」

「………ああ、約束する」

 

 それだけ言って、一度だけイリヤスフィールを軽く抱きしめる。

 彼女の身体が士郎の胸から離れた時、彼の目には先ほどまでの迷いは無かった。

 

「分かった。セラの意見を採用する。俺・慎二・ライダーの三人で先行して、空から一気に敵の本丸へ攻め込む。イリヤ・セラ・ランサーは、俺たちの背中を守ってほしい。あと、ランサーは状況如何によっては、令呪で前線に呼び出すこともあるだろうから、覚悟しておいてくれ」

「了解だ。いつでも呼べ、いくらでも暴れてやる」

「頼もしいな。………そうだ、ランサー。イリヤとセラの二人を抱えて、どれくらいの速度で走れる?」

「あん?」

 

 唐突な疑問文に、ランサーがしばし首を傾げる。

 だが、すぐに士郎の言わんとしている事が分かったのだろう。自慢げに言った。

 

「ライダーにゃ悪いが………手負いのペガサスが相手じゃあ、うっかり追い越しちまうかもしれねえな?」

「よし。なら、出発は時間差だ。まずランサーは二人を抱えて外に出て、少し回り道をしながら、あのゾンビたちの陽動を頼む。少ししたら俺たちも出発するから、その時点で目的地まで最短距離の強行突破に切り替えてくれ」

「分断策か。ま、効果は申し訳程度だろうが、やらねえよかマシかね」

 

 休息、戦力補充、索敵、戦力確認、策略の用意。

 拙くとも、打てるだけの手は打った。

 あと必要なのは――――。

 

「すぐ出発か?」

「いや。しばらく待機だ。俺とイリヤはこれから、さっき言った『切り札』を用意する。他のみんなはいつでも出られるように準備だけしておいてくれ」

 

 斯くして作戦会議は終了し。

 士郎はイリヤスフィールを伴って居間から退出してゆく。

 

「………そうだ。私の令呪を一画、シロウに渡しておくわね」

「え? でも、それじゃあイリヤが――――」

「ランサーを呼ぶ、聖杯を壊す………もしもの時のために二画使えた方がいいでしょ。私の方は一画あれば十分よ。さ、早いうちに移植を済ませて、作業に入りましょ」

 

 数時間後。士郎はイリヤスフィールの協力の下、一画の令呪と、対万条千花のための『切り札』を得る事に成功したのだった。

 

 

* * * * *

 

 

 結局、士郎に採れた『作戦』は小さなものだ。

 あの煩わしい亡者達を一匹でも多く万条のアジトから出払わせ、その隙に千花のいる祭壇に攻め込む。一言で言えばたったこれだけ。

 この程度の小賢しい考えは千花にもすぐに気付かれるだろう。

 弱く、劣勢な人間が絞り出した、ちっぽけな抵抗。他ならぬ当事者である士郎がそう思うのだから、千花もそう考えるに違いない。

 

 そこが狙い目だ。

 その蟷螂の斧こそが、千花を打倒し得る『切り札』を覆い隠す、絶好の目晦ましとなる。

 

(また………『約束』が増えちゃったな)

 

 ふと、イリヤスフィールの最後の言葉を思い返す。

 次の『勉強会』でもまた、あの少女は己の未熟に呆れ返るのだろう。「何でこんな事も知らないの」と。いや、あるいはフォレスティの知識を得てしまった自分は、彼女を驚かすような知識や技術を披露できるのだろうか。

 以前と同じ表情が見られるのか。それとも、以前とは違う表情を見られるのか。

 どちらにせよ、きっと。その表情は――――自分に『幸せ』を齎してくれるに違いない。

 

「来ますッ!」

 

 ライダーの叫びを受けて、士郎は来るべき時に備えて、屈めていた背筋を伸ばした。

 地上を見ると、そこには星空があった。チカチカと夜に輝く魔光の瞬きが、頭上のそれと見紛う光景を映し出している。亡者達の口から大小様々な魔力の塊が、弾丸となって放たれようとするところだった。

 それを確認した士郎は、肉体に強力な『強化』を施し、ライダーの腰に回していた腕を解いた。

 瞬間。頭の奥で、せっかく止んでいた激痛が再発するが………それで目的を見失うような事はしない。

 

「が、っ……くそ。忘れっ、てた……まるかッ………!」

 

 千花を倒す――――では、ない。

 彼の頭にあるのは、あの笑顔を守るという一念だ。

 他の何を忘れても、それだけは忘れまいと覚悟を決める。

 

「勝………つ。勝っ…て、俺、は―――――――!」

 

 士郎の決意が図らずも号砲となり、天翔ける天馬に向けて、無数の魔力弾が殺到した。

 天馬は即座に首先を地上へと振り向け、急速な勢いで地上へと降下し始める。

 加速、加速、加速。瞬きのうちに加速する景色。その変化を視力が追いきれず、周囲の映像が伸びてブレて消えていく。

 天馬の軌道のかち合った魔弾が何発か宙でぶつかり、ぱんと音を立てて炸裂した。耳元で弾ける炸裂音。視界を覆いつくす魔力の光。震える空気が身体にぶつかり、冬の冷たく乾いた臭いが鼻孔に刺さる。――――無数の感覚が一瞬のうちに過ぎ去り、あっという間に置き去りにされていく。

 魔力弾の何発かはライダーのペガサスを捉えたが、その翼は現代においては存在そのものが幻想とされる格を持つものであり、たかが使い魔の魔弾など豆鉄砲も同義。彼の者の滑走を妨げるには到底及ばない。

 やがて、天馬は亡者より放たれた弾幕を難なく突き抜け………初弾と次弾の合間となる、一瞬の空白に差し掛かる。

 

「おおお、お――――お――――ぉォおおお!」

 

 その時だ。地上へ迫る一個の隕石となった天馬の背で。

 士郎は強く叫び。

 

 そして、飛んだ。

 

 何という事か。士郎は勢いに耐えきれずにペガサスの背から振り落とされ、身体一つで宙に投げ出されてしまったのだ!

 いや、違う。士郎はわざと振り落とされたのだ。加速直前というタイミングで、命綱にも等しいライダーの身体から手を放したのは、まさにこの瞬間のためだった。

 見れば、慎二もまた「ひぃゃあああああ」と悲鳴をあげつつ、士郎と同じように宙を舞っていた。

 ライダーは護るべき人間二人を投げ出したまま、人馬一体となって独り地上へ向けて滑走する。

 

「‟騎英の(ベルレ)……………手綱(フォーン)!!!”」

 

 そして解放される彼女の宝具。もはや本物の彗星そのものと化したライダーは、眼下の民家に向けて、前回の電撃作戦では見送られた一撃を容赦なく見舞った。

 地盤そのものをひっくり返すような一撃が、並み居る亡者の群れを吹き飛ばしてゆく。

 続けて空へと発射されるはずだった次弾は――――無い。

 

「‟投影(トレース)開始(オン)ッッ!!”」

 

 それを確認する前に、士郎は空中で宝具を投影した。

 光と共に両の手に握られたのは、もはや十年来の相棒にすら感じる夫婦剣だ。

 

 当然のように体内を暴れ回る激痛。きっと今また、自分の中から何かの記憶が消えた。

 だが、イリヤスフィールの事は。あの笑顔はまだ覚えている。

 だったら、俺は。衛宮士郎は戦える――――――――!

 

「おおお、ぉぉ――――――ぁ、あああああああああああああああ!!」

 

 士郎の雄叫びは、次の瞬間に響き渡ったライダーの着弾音に紛れて消えた。

 だが彼の闘志は確かに、天へ届けとばかりの叫びと共に、大きくその勢いを増したのだった。

 

 

 

 

 

 この爆音。そしてこの士郎の雄叫びこそが、最終決戦の開幕を告げる鬨の声。

 そして同時に。後の冬木市に語り継がれる、とある大事件の一幕――――『深山町の消えた隕石騒動』の真相である。

 

 

 

 

 

TO BE CONTINUED・・・




【作中捕捉】
■作戦会議前の情報交換。
これにより、士郎一行は全員、ライダーやランサーの真名・宝具・スキルといった情報を全て把握しています。他にも凜⇒ライダー⇒士郎という経路で、凛が綺礼から渡された『万条家の資料』に記された情報もGET(ただし、こちらはフォレスティの記憶のせいで大方は既知ですが)。

■ライダーにかけられた令呪。
どうやらライダーには『慎二を守れ』という令呪がかけられているらしい。経緯は不明。なお、今現在の慎二は偽臣の書を所持していない。

■士郎の『切り札』とは?
イリヤが士郎の『呪い』を何とかできないかと、魔力の経路を繋ぐついでに、彼の精神や記憶を綿密に調査をした際に見つけたもの。作戦会議が終わってから最終決戦開始までの空白の数時間は、それの取り出し作業を行っていたようです。

結果は成功。士郎は最終決戦のための『切り札』を手に入れました。

■令呪の譲渡。
イリヤが自分の令呪を一画、士郎に譲渡しました。
士郎の残り令呪・・・一画 ⇒ 二画
イリヤの残り令呪・・二画 ⇒ 一画
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