無言呪文? 浪漫に欠けるね!   作:にょわんちょふ

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 これからよろしくお願いします!! 少しでも楽しんで頂けたら何よりです!!

 投稿ペースはゆっくり目になると思うので、気長にお待ちください!


五大魔法学校対抗試合(ペンタウィザード・トーナメント)

 ホグワーツの始業式というものも、4回目となれば多少は慣れてくる。

 

 大広間へ入れば、頭上には蝋燭が浮いていて、魔法をかけられた天井には外と同じ夜空が広がっている。四つの長テーブルでは、生徒たちが夏休みの話をしたり、久しぶりに会った友達に声を張り上げたりしている。

 

 新入生たちは緊張した顔で組分け帽子を被り、名前を呼ばれるたびにどこかの寮から歓声が上がる。

 

 その後はダンブルドア先生が立ち上がり、短い挨拶をして――。

 

 食事。

 

 事件も事故も多かった3年間だったが、始業式の流れ自体にそこまでの差異はない。

 

 少なくとも、僕はそう思っていた。

 

「なあ、ハリー」

 

 隣でロンが、フォークをテーブルに突き立てたまま声を潜めた。

 どうやら今年はローストビーフを"予約"することに決めたらしい。

 

「今年、なんか変じゃないか?」

「何が?」

「いや……なんかさ」

 

 ロンが大広間を見渡す。

 

 つられて僕も周囲へ目をやった。

 

 グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリン。

 

 いつもの四つの長テーブル。

 

 教職員席にはいつもの先生たち――と、今年から新しく闇の魔術に対する防衛術を担当するというムーディ先生。傷だらけの顔と、片方だけぎょろぎょろ動く魔法の目は、どう考えても「いつもの」と呼ぶには強烈すぎたけれど。

 

「ムーディのこと?」

「いや、あれも相当変だけど」

 

 少し笑いながら首を振る様子を見るに、どうやら違うらしい。

 

「先生たちだよ。なんかずっと入口気にしてない?」

 

 先生たち?

 言われて視線をやると、たしかに変かもと納得した。

 

 マクゴナガル先生は普段通り背筋をぴんと伸ばして座っているけれど、時折、大広間の扉へ視線を送っている。

 

 フリットウィック先生も、誰かを待っているように椅子の上でそわそわしていた。

 

 スネイプだけはいつも通り不健康そうな青白い肌を不機嫌そうに歪めていたので、少し安心した。

 

 僕が気付いたことに気付いたのか、ロンがふふんと鼻を鳴らす。

 

「でしょ?」

「何かあるのかしら」

 

 向かいに座っていたハーマイオニーもこちらへ顔を寄せてきた。

 

「今年はクィディッチの予定もまだ発表されてないし……」

「まさか中止とか言わないよな?」

 

 たちまちロンの顔色がスネイプ色になる。

 ただ、今鏡があればきっと僕も同じ顔をしているだろうことは明らかなので、指摘はしない。

 

「だったら僕、学校やめるかもしれない」

「あなたはクィディッチをするために学校へ来てるわけじゃないでしょう? 私の記憶が確かなら、貴方は魔法を学びにここに来ていたはずよ」

「おい勘弁してくれ、うちのママとおんなじこと言ってるよ、いつからホグワーツは中年魔女の再入学を認めるようになったんだい?」

 

 まともに取り合う気すらないロンに、「あなたねぇ」とお説教が始まろうとしたその時だった。

 

 教職員席の中央で、ダンブルドア先生がゆっくりと立ち上がる。

 

 途端に、大広間に満ちていた声が少しずつ小さくなっていく。

 先生はいつものように、生徒たちを見渡した。半月型の眼鏡の向こうで、青い目が楽しそうに光っている。

 

 これは……ロンの予感は正しかったみたいだね。

 

「さて」

 

 静かになった大広間に、先生の声がよく響いた。

 

「まずは、新たにホグワーツへ来た者たちを歓迎しよう。そして、再びこの城へ戻ってきた諸君にも――おかえり」

 

 あちこちから拍手が起こる。

 

 僕も手を叩きながら、ロンと顔を見合わせた。まだクィディッチの話はない。

 

「そして今年は、諸君に少々特別な知らせがある」

 

 ざわり、と空気が変わった。

 

 ロンが身を乗り出す。

 "予約"を失ったフォークは、シェーマスがキャンセル待ちに成功したようだ。

 

「およそ七百年もの歴史を持つ、とある伝統行事がある……異なる魔法学校から若き魔法使いたちが集い、その技と勇気、知恵を競い合う催しじゃ」

 

 どこかで息を呑む音がした。

 

 上級生や、一部のスリザリン生を中心にざわめきが少しずつ広がっていく。

 

「先生……まさか」

 

 今度はハーマイオニーの顔が青白く染まった。しかしその目だけは、何かに期待するように揺れている。

 

「知ってるの?」

 

 僕が訊くより先に、ダンブルドア先生が答えを告げた。

 

「そう」

 

 その口元が、わずかに笑う。

 

「三大魔法学校対抗試合――トライウィザード・トーナメントじゃ」

 

 今度こそ、大広間が爆発した。

 あちこちで椅子が鳴り、生徒たちが一斉に隣同士で話し始める。

 

 ロンは口をぽかんと開けていた。

 

「トライウィザードって……あの?」

「知ってるの?」

「兄貴たちが話してた。すっごくむかしにあった、すっごく危険な大会だって」

「死亡者が出すぎたから、長い間中止されていたのよ」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「昔は三つの学校から代表者を一人ずつ選んで――」

 

 その時、ダンブルドア先生が軽く片手を上げた。

 ざわめきが少しだけ収まる。

 

「もっとも――」

 

 先生は、そこでいたずらを思いついた子供の様に目を細め、やけにわざとらしく間を置いた。

 

 何人かの先生が視線を交わす。

 

 僕はなぜか、その瞬間にさっきの違和感を思い出した。

 何度も入口を見る先生たち。

 何かを待っているような空気。

 そして、ダンブルドア先生は言った。

 

「長らく“三大魔法学校対抗試合(トライウィザード・トーナメント)”と呼ばれてきた大会じゃが――今年は少々、名前に困ることになりそうじゃ」

 

 大広間に、二度目の爆発が起こる。

 どうやら今度は何があるか察していた様子の上級生達すら……いや、むしろ彼らこそ爆発の中心地になっているらしく、フレッドとジョージなんてハグしながら飛び上がって絶叫していた。

 

「今回二百年ぶりにこの大会を復活させるために、これまで参加していた3校に加えていくつかの学校が協力してくれての、折角じゃからと招待状を送ってみたところ、うち二校が快く受け入れてくれたのじゃ」

 

 ダンブルドア先生の話を聞いているのかいないのか、未だ混乱の最中だ。かくいう僕も興奮で胸が高鳴っているのが自分でもわかる。

 

「と、いうわけで……」

 

 またしても片腕を上げながら鎮静化を図るが、もはやそんなものでは止まらないらしく、リー・ジョーダンなんて暴れ柳のように頭を振り回している。

 それを見たダンブルドアは愉快そうに「ほっほ」と笑い、上げていた腕を振るった。

 

 すると、4寮のシンボルをあしらっていた旗が消え、代わりに五つの旗が上がる。

 うち1つには見覚えのある獅子、蛇、鷲、穴熊がひとつになったホグワーツの校章が縫い付けられており、残りの四つには、未だ何も描かれていない。

 

 明らかに様子の変わった大広間に、さしもの暴徒となりかけていた生徒達も落ち着いたようだ。

 ダンブルドアは満足そうに頷いた後、コホンとひとつ咳払い。

 

「五大魔法学校対抗試合(ペンタウィザード・トーナメント)の開催を、ここに宣言する!」

 

 もはや何度目かもわからない、熱狂に包まれる大広間。

 今世紀最高の魔法使いをもってしても、これを収めることは不可能と判断したらしく、「さぁ、宴じゃ!」と料理を出現させた。

 

 いつの間にかまた持ち主のいなくなっていたフォークに刺さったローストビーフをかじりながら、今年はこれまでで一番楽しい年になりそうだとみんなと同じように熱狂に身を投じることにした。

 

□■□■□

 

「さて、皆の者、腹も膨れ、少しは落ち着いたかの?」

 

 あれから数十分、思いっきりはしゃいで体力を消費した生徒達がデザートに手を伸ばし始めた頃を見計らって、ダンブルドア先生がまた話し始めた。

 

「件の五大魔法学校対抗試合(ペンタウィザード・トーナメント)は十一月から実際の競技が始まる訳じゃが……気になっておろう? どんな学校の、どんな生徒がやって来るのか、彼ら彼女らはいつ来るのかと」

 

 ごくりと、誰かが生唾を飲む音が聞こえた気がした。

 皆、食事の手をピタリと止めて聞き入っている。

 

「それはのう……今日じゃ!」

 

 その瞬間。大広間の扉がバンッ! と大きな音を立てて開いた。

 前に集中してるところに突然背後でおっきな音がなったもんだから、みんな揃って跳び上がってしまう。

 あのマルフォイですら体を硬直させてるし、ネビルなんてひっくりかえって転んじゃってるよ。ダンブルドアだけが楽しそうだ。

 

 周りの様子が面白くて辺りをきょろきょろと見まわしていたが、すぐにそんなことできなくなった。

 

 開け放たれた扉から、"妖精"達が入ってきたのだ。

 2年生の時に授業で見たような邪悪で醜悪な子妖精なんかじゃなく、マグルが想像するような、まるで妖精のような美しい女性たちが。

 

「綺麗だなぁ」

「そうだね、ロン」

「はぁ、ほんっと男の子って……」

 

 ハーマイオニーが白い目で見てくるが、だって仕方ないじゃないか。あんなに綺麗なんだから。

 特に先頭のとびきり綺麗な子なんて、とんでもなく……どうしたらこっちを向いてくれるかな。

 

 妖精たちを従えるハグリットよりも大きいだろう巨大な女性が、ダンブルドアと固い握手を交わす。

 

「これはこれは、マダム・マクシーム。ようこそホグワーツへ。ホグワーツは貴女がたを歓迎いたしますぞ」

「ダンブリードール、また会えてうれーしいです。おかわりーありませーんか?」

「今まさに、最高の気分になったところじゃよ」

 

 精一杯背伸びをしながらマクシームと呼ばれた女性へ手の甲へキスを落とした後、こちらへ向き直る。

 

「フランスよりお越しのボーバトン魔法アカデミーの生徒さんと、校長のマダム・マクシームさんじゃ」

 

 紹介されたマダム・マクシームが一礼すると、十五人程度だろうか、水色の衣装を身に纏った生徒達も、優雅に礼を続けた。

 大広間中(の主に男子生徒)から、割れんばかりの喝采が起こる。女性陣からはぱらぱらといった感じだ。

 

「見たあの目? 田舎のイギリス人って舐めてるのがみえみえだわ」

「ね、精々ホグワーツ流の"おもてなし"を楽しんでもらえるといいけど」

 

 ラベンダーとパーバティがなんだか怖いことを言っているのを尻目に、未だ無地だった旗のひとつに金の杖が二本と三つの星をあしらったシンボルが刻まれるのが見えた。あれがボーバトンの校章なんだろう。

 

「あぁ、クソ! なんでそんな!」

 

 同じ"青"繋がりでか、ボーバトンの生徒たちはレイブンクローのテーブルへついてしまった。

 鷲寮からは歓喜の絶叫が、他三寮からは絶望の絶叫が響き渡る。

 

 しかし、そんな愛憎入り混じった歓声も、長くは続かない。

 

 深紅のローブと軍服のような制服を身に纏った集団が火を纏ったステッキを打ち鳴らしながら入ってきたことで、一瞬声がピタリと止む。

 

「おい!! ビクトール・クラムだ!!」

 

 しかし、何処からか上がったその声につられ、先日のクィディッチワールドカップで穴が開くほど見た顔を見つけた途端、先程の歓声と同等かそれ以上の熱狂が広間を包んだ。

 

「本物! 本物だぞハリー! こんな近くで見られるなんて!」

「そうだねロン!!」

「はぁ、ほんっと男の子って……!」

 

 ハーマイオニーにまたもや白い目を向けられるが、知ったことか。だってあのビクトールクラムだぞ! 歴代最年少でベストシーカー章をかっさらった若き天才! 18歳とは聞いてたけどまさか同じ学生だったなんて!

 

「ホグワーツへようこそ、カルカロフ殿、お元気そうでなによりじゃ」

「そちらこそ、変わらなすぎるくらいですな、まだ八十代と言われても頷けますとも」

「ほっほ、少々若い"熱"に当てられましてな」

「たしかにここは我が母校に比べて少々暑い、少し着込みすぎてしまいましたかな」

 

 軽いジョークを言い合いながら握手をした後、先程のように僕らへ向けて紹介をする。

 

「詳しい所在地は慣例により秘密じゃが、東欧、北欧の方からお越しくださったダームストラング専門学校の生徒達と、イゴール・カルカロフ校長じゃ」

 

 今度は男女問わず、八割ほどの生徒から拍手が起こる。クィディッチに性別は関係ないのだ。もちろん、不思議なことにあまり興味を示さない生徒も何人かいた。

 次の旗には双頭の鷲と山羊の頭を象ったシンボルが現れる。なんだろう、すっごくイメージ通りだ。

 

「あぁなんでだよもう! 今度はスリザリンに!」

「あはは、まぁ、こればっかりがちょっと納得だよ」

 

 あの軍隊のような坊主頭たちが我らがグリフィンドールとシェパーズパイを分け合っている所はちょっと想像つかない。それはそれとして後でサインは貰いに行こう。

 

「Gawwwwww!」

「Grrrrrrr!」

 

 またしても感情がごちゃ混ぜになった歓声に包まれていた会場を、つんざくような獣の咆哮が切り裂いた。

 

「なんだなんだ! また死神犬か!?」

「いや、それはシリ……」

 

 慌てて言いかけ、さらに慌てて口を噤む。

 去年の占い学で予言され、実際に現れた死神犬(グリム)、シリウス・ブラックがホグワーツに来ていたことも、彼が無罪だったことも、言ってはいけないんだった。……納得はしてないけど。

 

 次々と大広間へ飛び込んでくる獅子、豹、鷹、サイといった動物達にテーブルは軽くパニックだ。

 

「おい! あれ見ろよ!!」

「ど、ドラゴン!?!?」

 

 漆黒の鱗を持つ、巨大なドラゴン。

 それが器用に翼をたたみながら扉を潜って入ってくる。

 

 いくら"なんでもあり"な魔法界でも、ありえないに分類される光景だ。

 にもかかわらず、先生たちは杖すら抜いていない。

 

 

 ドラゴンは広間の空で少し狭苦しそうに一度羽ばたくと、その姿がみるみると縮んでいった。

 そしてついに人の姿を取ったかと思うと、ダンブルドアと親愛を確かめるように抱きしめ合う。

 

「相変わらず悪戯が好きじゃのうキブ」

「はっはっは、お前には敵わんよアルバス」

 

 ダンブルドアと同じくらいの口ひげに、肌に纏った装飾品の隙間から見える数え切れないほどの傷跡から感じる威厳とは裏腹に朗らかに笑う老人に呆気にとられる。

 続けて周囲を囲んでいた動物たちも、一匹残らず人の姿へ戻っていった。

 

「おいおい、まさか全員動物もどき(アニメーガス)なのか?」

「おったまげー、しかもあいつら、杖を使ってなかったぜ」

 

 あの老人に至ってはまさかドラゴンの動物もどきなのか? 変身術じゃなく?

 

「悪いね諸君、驚かせてしまったようだ」

「ほっほっほっほ、まったくじゃ、どうやらヨーロッパのシティボーイ、シティガールにはちと刺激が強かったようじゃの」

 

 ダンブルドア、口では咎めるように言っているが心底楽しそうだ。

 なんせいつもより"ほ"が二個も多い。

 

「改めて、アフリカよりはるばる来てくださった、ワガドゥ魔法学校の生徒さんと、学長のル・ティアロロ・キブ先生じゃ、ワシと同い年じゃよ」

 

「やっぱり! あのドラゴンを見てまさかとは思ったけど、"月の山の黒き竜"! ダンブルドアを"今世紀最高の魔法使い"とするなら、”今世紀最強の魔法戦士”と評される偉人よ! 今年の近代魔法史の教科書に書いてあったわ! 246ページ!」

 

 ハーマイオニー(ミス・勉強)がこれから始まる授業の内容を既に網羅している点にはもはや誰も突っ込まず、目の前の老人が"アフリカ版ダンブルドア"のような存在と知ってより興奮のボルテージが上がる。

 

「おい! なんだってハッフルパフなんだ! 今度ばかりは僕らグリフィンドールがお似合いだろ絶対!」

「あいつらも不運だな、あの悪戯好きは絶対"グリフィンドール向き"に違いないのに」

 

 楽しそうにニコニコと笑っていたワガドゥの生徒達は、同じようにハンサムな笑みを浮かべたセドリック・ディゴリーが先導しハッフルパフのテーブルへ案内されてしまった。

 同時に四つめの旗に、大きな一枚岩と月を描いたレリーフが浮かぶ。

 

「さて、残すところあと一校じゃな、今大会最後の参加校は――」

 

 これまでの三校のド派手な登場に、今は全員の期待は最高潮だ。

 一体どんな学校が、どんな風にやってくるのか……僅かな前兆も聞き漏らさぬよう、内心のボルテージとは裏腹に、大広間には静寂が広がる。

 

 カツ、カツ、カツ。

 

 靴の音が、聞こえる。

 ハグリッドの様な巨体ですら出せるかわからない、大きなひとつの靴音。

 一体どんな巨大生物がやって来るのかとワクワクしながら扉の方を見つめていると――。

 

「――マホウトコロ魔術魔法学園の皆様じゃ」

 

 統一感のない色とりどりのローブを身にまとった、十六人の魔法使い、魔女たちが、歩くタイミングから出す足までピッタリ揃えて歩いてきた。

 

 華麗な踊りも、勇猛な武も、派手な魔法もない、ただの行進。

 

 魔法界ではむしろ異質なソレに、会場の誰もが言葉を失っていた。

 

 ……いや、よく見たら1人だけまったく揃ってないな。

 なんとなく目に入った、地面に擦れる程大きな紫のローブを身にまとった女生徒を見ていると、ふいに彼女もこちらを向いた。

 視線の間にバチッと火花が散ったような錯覚を覚えると、彼女の目が爛々と輝く。

 

「ぐえ」

 

 ……。

 躊躇うことなくこちらへ1歩踏み出した彼女は、後ろの生徒にローブを踏まれてすっ転んだ。

 か、顔から行った……。

 

 ローブを踏んでしまった生徒があわあわとしながらぺこぺこと頭を下げるのを呆然と見ていると、すくっと立ち上がった彼女は頭を下げ、何事も無かったかのように列へ戻って行った。

 ……鼻血を流しながら。

 

「な、なんだったんだ……」

 

「あいつがホグワーツに来たら間違いなくグリフィンドールだな」

「あぁ、間違いない」

 

 フレッドとジョージが言い合っているのに心の中で激しく同意しながら再び歩き出した生徒達を見守る。

 

 行進を終え、ダンブルドアの基へ辿り着いた集団から桜色の着物ローブを着た上品な魔女が一歩前へ出ると、にこやかに握手を交わした。

 

「ご機嫌ようミズ・サクラミヤ、歳を経る毎に美しさに磨きがかかりますな」

「ふふ、流石英国紳士はお上手ですね、そちらも子供心は忘れていらっしゃらないようね」

「ワシの数少ない長所かつ短所じゃからな」

 

 おそらく女性に対するマナーなのだろう、マダム・マクシームにやったように手の甲へ軽く口付けをし、いつにもまして柔らかい雰囲気でこちらへ告げる。

 

「改めて、マホウトコロ魔術魔法学園からお越しくださった生徒の皆さんと、校長のサクラミヤ・ヨシエ女史じゃ」

 

 ダンブルドア先生の紹介に合わせ、一斉にお辞儀をするマホウトコロ生。ダームストラングと同じく統率の取れた淀みのないお辞儀だが、あちらと違って堅苦しさを感じさせないのはなぜだろうか。

 

 最後の旗に、桜とおそらく"漢字"で何かの描かれた校章が浮かび上がった。

 

 ぱらぱらと響く拍手の中、わき目もふらずこちらへ向かってくる生徒が一人。

 先程の紫ローブの女生徒だ。

 

「おいおい、日本人は奥ゆかしい種族って聞いたけど、あれは嘘だったのか?」

「きっと彼女が例外なのさ、それとも特別なのはハリーの方か?」

「我らが英雄様はナイスガイだからな、モテまくり勝ちまくりじゃないか」

 

 赤毛ののっぽ三人衆の言葉は意図的に無視しながら、彼女の視線の先を探し、きょろきょろとあたりを見渡す。

 ……どうやら僕目当てなのは間違いないらしい。

 

 テーブルを挟んだ向かい側に着いた彼女はテーブルに両手をつき、興奮気味にこちらへ声をかける。

 

「君、ハリーポッターだろう? その傷跡で一目でわかった」

 

 最初の感想は、"綺麗な英語だなぁ"だった。先程のボーバトンやダームストラング、ワガドゥの生徒とは違う、本国のお貴族様のようなクイーンズイングリッシュ。

 

「う、うん、そうだけど……」

 

 よくわからないまま素直に返事をしてしまった自分を即座に後悔することになると、この時の僕はまだ知らない。

 

 その瞬間、月のない夜のように真っ黒な二つの瞳の中に、星が瞬いたのを確かに感じた。

 なんとなく、デジャブを感じる……あれはそう、一年生のコンパートメントでの、我らがミス・勉強(ハーマイオニー)との初対面……!

 

「あぁやっぱりそうか会えてよかった! 君の噂は遠い島国にすら聞こえているとも、曰く"生き残った男の子"、とね! あの"死の呪い"を受けて生き残ったんだろう!? いったいどうやったんだい!? あれはかなり古い呪いで"死"という概念そのものをもたらす魔法だ。それを"防ぐ"でも"逸らす"でもなく"受けて耐える"というのは私には想像もつかない! 魔法史上一度もなされたことの無い歴史的快挙なんだ! その方法が解明出来れば死の呪文の反対呪文の開発だって……ふふふ、私はなんて幸運な時代に産まれたんだ! 死の呪文を受けたことのあるサンプルなんていう再現不能なデータと同じ場所同じ時間を過ごせるなんて……! あぁいや耐える"だけ"ならまだ理論上の可能性であれば仮説がないでもないが、君はその上呪い返しによりかのヴォルデモート卿を撃ち滅ぼしている! しかも赤子の身でだ! なんという奇跡なんという偉業、まさに"魔法のような"出来事じゃないか! 是非その理論と方法をご教授願いたい!」

「あー、えと……」

 

 吐く息のかかるほどの距離に、名前も知らない彼女の顔がある。

 彼女は一体何を言ってるんだ? 急すぎるし近すぎるしで全然話を聞けてなかった、なんかいい匂いするし……。

 

 ぐるぐるぐるぐると緊張やらなんやらで思考が空回りし、まったく返答が思いつかない。わかるのは"質問されている"ということまでだ。

 しかしそんな僕の様子を見て何を理解したのか、うんうんと頷きながら姿勢を正す。

 

 や、やっと離れてくれた……。

 

「ま、物心ついているかも怪しい頃の話だ、覚えていないのは当然だろう。であれば考えられるのは、第三者による防護魔法、未発見の反対呪文による対処、特殊な魔道具による回避……しかしこれらでなされるようなものならこの長い魔法の歴史で"死"の絶対性が保たれ続けている訳が無い。故に可能性の高いものは理論を超えたものか、強大な代償を払ったもの、或いはその両方だろう……幼い頃特有の根源に近い魔力の暴走……もしくは血族による守りの魔法という線もあるか、それも両親の死を前提に組まれた術式という可能性も……あぁすまない、見ず知らずの人間に言われて気持ちのいい話ではなかったね、申し訳ない」

 

 そこは引くのか。変なとこで律儀な子だな……。

 

「自己紹介が遅れてしまったね、私は久遠寺(クオンジ) 夢乃(ユメノ)、君達にクオンジは少し発音しづらいだろう? ユメノと呼んでくれたまえ」

「よ、よろしく……確かユメノがファーストネームの方なんだよね?」

「お、よく知っているね。こういう時君たちは何というんだったか……あぁそうそう、"グリフィンドールに1点"、かな?」

 

 ぱちりとウィンクをしながらジョークを言うユメノに、やっと緊張が解れてくる。絶対順番さっきと逆でしょ、やっぱり日本人は未来に生きている(頭がおかしい)。

 

「ふふ、これからよろしく頼むよ、ハリー・ポぎゃわぁ」

「!?」

 

 突然、目の前の少女が床に沈んだ(・・・・・)。

 

「『もー夢乃ちゃん! また勝手に行動して!』……あ、ご、ごめんなさいホグワーツの皆さん……! うちのバカがご迷惑をおかけしました!」

 

 おそらく日本語で何かを呟いた後ぺこぺこと頭を下げる少女のおかげで、一瞬何事かとザワついたテーブルに平穏が戻る。

 ユメノより二回り程小さな身体はシミ一つない純白のローブにすっぽりと包まれ、襟元から小さな顔だけがぴょこんと覗いている。

……なんだか、ローブが歩いているみたいだ。

 やけに手馴れている様子を見るに、良くあることなんだろう。うちでもシェーマスが女生徒にセクハラをした後似たようなことをよくされている。

 

 きょろきょろとあたりを見渡した後、近くに座っていたパーバティに「ここ座ってもいいですか?」と聞きながら、友達らしき人達へ手招きをする少女。

 うん、これぞまさに日本的(ジャパニーズ)だ。

 

「あ、私ヒマワリって言います、種子島(タネガシマ) 向日葵(ヒマワリ)、今年一年よろしくお願いします!」

 

 言葉の一言一言に身振り手振りを加えながら、ぺこりと頭を下げるヒマワリを見て、昔ダドリーと行ったペットショップで見たハムスターが頭に浮かんだが、まず間違いなく気にしてるだろうから言わないでおいた。僕は去年学んだのだ、女性に身体的特徴のことを言ってはいけないと。

 

「君、随分小さいんだね、一年生かい?」

「はうっ!? ……や、やっぱりそう見えますか……『外国の人って背が高いし、余計そう見えるのかな……私、これでも先輩なんだけどな……』」

 

 どうやらロンにはまだ学習機能が搭載されていなかったらしい。後半を消え入りそうな声で言うヒマワリを見れば、何を言っているかわからなくても落ち込んでいることはわかる。

 

「ロンサイテー」

「ほんっとガキね」

「デリカシーっていう概念は魔法使いが学ぶには少し難しすぎるのかしら」

 

 ラベンダー、パーパディ、ハーマイオニーに次々とめたくそに言われ、高い背丈をみるみる萎ませていくロニー坊やに十字を切り、机に何か文字らしきものを書いているヒマワリに声をかける。

 

「ね、ねぇ、君達は何年生なの? 僕らは四年生なんだ」

「わ、育ち盛りだねぇ、私は17歳になったばかりなので……皆さんでいうと六年生ですね。そこで埋まってる夢乃ちゃんは、君達と同じ四年生だよ」

「ろ!? 嘘だろ二つ上!? よく見積もってジニーとおないどモゴォ」

「ごめんなさいヒマワリさん、彼ちょっと足りてないの、頭とか配慮とか思いやりってやつが、多分脳みその代わりにクアッフルが入ってるんだわ」

 

 ナイスハーマイオニー、よく止めてくれた。……後半についてはノーコメントで。

 

「それよりさっき言ってた"一年間よろしく"って? 魔法大会はたしか半年程度って聞いてたけれど」

「あ~それでしたら……よっと、丁度今からダンブルドア先生が説明してくれるみたいですよ」

 

 ごめんよぉと鳴いていた地面から顔だけ出している紫色の野菜を"収穫"しながら答えたヒマワリ……先輩につられて前を見ると、丁度ダンブルドアが咳ばらいを始めたところだった。

 流石は日本人、空気を読むのが上手い。

 

「結構結構、みな異文化交流を楽しんでおるようじゃな……さて、そんな諸君らに朗報じゃ。各校よりお越しくださった15名ずつの生徒は、今年一年留学生としてホグワーツでの教育を共に受ける友人となってくれるのじゃ」

 

 すべてのテーブルから今日何度目かわからない歓声が上がるのを尻目に横を見ると、「ね?」とばかりに優しく目を細めるヒマワリ先輩と目が合った。

 どうやら彼女らはもう知っていたらしい。

 

「各校生徒諸君はそれぞれの学校が用意した移動手段兼宿泊施設で寝泊まりをする予定じゃが、もしホグワーツの寮に泊まってみたい生徒、或いは他の学校にお邪魔したい生徒がいれば寮監督の先生へ伺ってみるといいじゃろう、きっと君らの国際交友を歓迎してくれるはずじゃ」

 

「!? ヒマワリ先輩!」

「はいはい、夢乃ちゃんならそう言うと思ったよ、何処の寮に――」

「まずはどの学校に行こうか!」

「世界制覇!?」

 

 やはりこの二人はかなり仲がいいんだろう、ほほえましいやり取りをしている。

 ……ダームストラング、見る限りでは男子の姿しか見えないが、二人は泊まれるんだろうか。というか泊まっていいのだろうか。

 

「では、諸君らがもっとも気になっている五大魔法学校対抗試合(ペンタウィザード・トーナメント)についてじゃが……フェルチ先生、アレ(・・)を持ってきてくれるかのう」

 

 いつもの拠れたシャツではなくパリッと糊の効いたスーツを着ているフェルチが巨大な金色の……ゴブレット? を台車に載せて運んできた。

 着こなしについては……うん、ぼさぼさ髭とつるつるおでこは社交界には向かないらしい、ということはわかったね。

 

「これは"炎のゴブレット"、過去の大会でも用いられてきた、伝統ある各校代表選手の選定用魔道具じゃ」

 

 ダンブルドアが指をぱちんと鳴らすと、ゴブレットに青々とした火が灯る。

 

「今回200年ぶりの起動ということや参加校が二校増えるということもあり、各校の校長先生やムーディ先生にセキュリティの調整なんかを手伝ってもらったという裏話もあるが……まぁ君らには興味もないことじゃろう、早速このゴブレットの説明をさせてもらおうかの」

 

 ウィーズリー三兄弟やシェーマスがうんうんと頷き、ユメノとハーマイオニーがぐぎぎと歯軋りしている。"興味あるんですけど"と顔に書いてある二人を見比べて……やっぱり君たちよく似てるや。

 

「羊皮紙でもメモの切れ端でも机の端材でもなんでも良いが、何か書けるものへ自分の名前を記し、こうしてゴブレットへ投げ込む……それっ」

 

 裾口から羊皮紙を取りだしデカデカと"アルバス・ダンブルドア"と記入すると、ゴブレットの中へ放り投げる。

 

 一瞬の静寂の後、ゴブレットの炎が赤く変色し、勢いよく燃え上がった。

 

 炎に巻き上げられ、中から現れた羊皮紙を掴むと、こちらへよく見えるよう高々と掲げた。しかも席が遠い人のための拡大呪文のおまけ付きだ。

 

「ホグワーツ魔法学園、アルバス・ダンブルドア……と、このように投げ込まれた名前から相応しい者を選び、教えてくれるという代物じゃ……おっと、勿論今のはデモンストレーションじゃから、ワシが代表として出る訳ではないからのう。こんなくたびれ老人に若者の相手はちと厳しいわい」

 

 茶目っ気たっぷりのウィンクに、広間からクスクス笑いが起こる。

 

「ダンブルドアが出たらホグワーツの優勝は間違いなかったのにな」

「それじゃこの大会の目的が"競走"から"蹂躙"に変わっちゃうよ」

 

 たしかに、と笑い合うロンとシェーマスに大きく頷き、続きに耳を傾ける。

 

「期待に胸を膨らませる諸君にこの先を伝えるのは非常に忍びないのじゃが……勿論この"宝くじ"への参加には幾つかのルールが存在する、おっと悪く思うんじゃないぞ、これは君らを縛る鎖であると同時に君らを守る盾でもあるのじゃ」

 

 いつもは楽しく聞くことができるダンブルドアのもったいぶった言い回しも、今ばかりは焦れったく感じる。

 

 皆気になっているのだ、自分が参加できるのか否かを。

 

「まずひとつ、このゴブレットは今日九月一日からハロウィンの十月三十一日まで設置される。結果発表は次の日の朝に行う故、参加を悩む者はそれまでに決断するように……そして二つ目じゃが、参加は開催校である我がホグワーツの安全基準に則り、イギリス魔法界の成人年齢である十七歳以上の者に限る、というものじゃ」

 

「そんな!?」

「嘘だろ!?」

 

 フレッドとジョージが奇妙なポーズで固まったまま、揃って絶叫する。

 他にも広間のあちこちから……七割ほどは我らが獅子寮から、非難轟々の声が上がった。

 

 しかしその反応も想定通りだったのか、ダンブルドアは優しく微笑み言葉を続ける。

 

「すまんのぅ、若者から成長の機会を奪うというのはワシとしても非常に不本意ではあるのじゃが……理由については一言で返せてしまうのもまた悲しいことじゃ……危険だからじゃ」

 

 これまでのにこやかな雰囲気とはうってかわり、いつも優しく垂れ下がる目元は鋭く全校生徒を睨むように見つめている。

 誰もが笑顔を浮かべながら聞いていた筈のゆるみきった空気が、一瞬で張り詰める。

 

「この大会が何故二百年もの間中止されていたか……危険だからじゃ。百を下らぬ生徒が、教員が、この大会で命を落とした……無論安全対策にはこれ以上無い程力を入れておる、頼りになる先生方の力を借り、各校の偉大な校長先生に力を借り、ワシ自身も微力ながら生徒を守る施策に注力しておる、生徒の安全は全力で守ってみせるが、何事にも絶対というものは無い……絶対にのう?」

 

 いつもなら笑顔が起こるようなジョークにも、今日に限っては一切笑顔は浮かばない。

 

「ふふっ」

 

 ……訂正、一人の留学生を除き、一切笑顔は浮かばない。

 

「じゃからこれは、参加資格のある生徒諸君にも言えることじゃ、ゴブレットに名前を入れるからには、命を賭す覚悟を持たなくてはならぬ。もっとも、そのような半端な思いでいるものをゴブレットが選ぶことはありえないじゃろうがのう」

 

 今度は少し、笑い声が聞こえた。

 段々とまた緩んできた空気を感じ取りながら、最後に、とダンブルドアが言う。

 

「念の為、悪戯防止の観点でワシ自ら17歳未満の魔法族はゴブレットへ近づけんよう年齢線を引かせてもらった、ここまで言って尚挑戦を試みる愚か者はいないとは思うが、これでもワシ、魔法にはちと自信があってのう……くれぐれも、悪戯道具なぞで出し抜けるとは思わんことじゃ」

 

「おいおいフレッド、名指しだぜ? 光栄だな」

「いやいやジョージ、偉大なるダンブルドア先生は俺に向かっていったのさ」

 

 どうやらホグワーツが誇る二代目悪戯仕掛け人達は諦めるつもりは毛頭ないようだ。

 二人らしいというか、なんというか……。

 

「ハリー? わかってるわね? 参加はダメ、ロンもよ」

「わかってるってうるさいなぁ」

「僕のことなんだと思ってるのさ、わざわざ寝てるドラゴンの尾にドロップキックをするような奴はいないさ……あー、二人を除いて」

 

 にやにやとこちらを覗き込んでくる同じ顔の二人組が満足そうに頷くのを見てほっと胸を撫で下ろす。その後ろ手で持っていた顔色マーブルチョコをどうするつもりだったのかは聞かないでおくことにする。

 

 そういえば、こういうのに飛びつきそうな"ちょっぴり"おかしい留学生殿がやけに静かだなと目をやると――。

 

「今世紀最高の魔法使い謹製の結界魔法だって? なんて素晴らしい……大体年齢なんていうあやふやなものをどうやって識別しているんだ? 満年齢? 誕生日を迎えた瞬間? 出生時刻まで見るのか? 閏年生まれなら……いや、そもそも何を見ているんだ? 細胞の構成? あるいは意識……であれば記憶を改竄すれば、いやあくまで仮説だ、それよりあの枠の中に人間以外が入ったら……先輩に頼むとかいう簡単な方法で突破できてしまったら面白くないぞ……いや、もしかしたら……で、あるいは……ふふ、ふふふふふふ……」

 

「うわぁ」

 

 これはもうダメだ、完全にトリップしちゃっている。

 ヒマワリ先輩の方を見るが、力無く首を振るばかり。"打つ手なし"と言わんばかりだ。

 

「うむ、うむ。ではこれにて始業式を終了とする。各寮の新入生諸君は監督生の生徒について……おや?」

 

「『ちょ、ちょっと夢乃ちゃん!?』」

 

 こつ、こつ、こつ。

 

 ひと一人分の小さな靴音が、大広間の中央を進む。

 決して静かではないはずの大広間で、聞こえるはずのないその音がやけにハッキリと耳に入った。

 

 深紫のローブを揺らし、光をかすかに反射する濡れ羽色の長髪をたなびかせ歩く姿に、全校中が自然と目を奪われる。

 

「アルバス・ダンブルドア教授」

 

 壇上のテーブルを挟み、西洋の大魔法使いと東洋の若き魔女が相対する。

 

「ほっほっほ、君は久遠寺夢乃君じゃな? 噂通りのお転婆じゃ」

 

 愉快でたまらないと言った様子で口髭を撫でるダンブルドアと、挑戦的に口元に三日月を浮かべ、腕を組んで悠々と立つユメノ、やけに絵になる二人を見ていると、まるで物語の世界に迷い込んでしまったように錯覚する。

 

 ……尤も、魔法学校なんて所に所属している現状が、既にかつて夢見た絵本のままではあるのだが。

 

「私は未だ十四歳、背伸びしたって成人には届かない子供なのは間違いない」

「随分と"おませさん"なようではあるがのう?」

 

 ……結構言うな、ダンブルドア。

 しかしユメノには一切効いていない、どころかより燃料を投下するだけのようだった。

 

「ならばこそ、そんな私が! 私こそが! この年齢線、ハロウィンまでに"呪い破り"してみせようじゃないか!」

「…………ほっほっほっほっほ」

「はーっはっはっは!」

 

 生意気な小娘の啖呵に、偉大な各校のお歴々は愉快で堪らないようで、揃って楽しそうに目尻を細めている。

 ……あーいや、サクラミヤ校長だけは頭を抱えているな。あの人はきっとこれまでも散々彼女に苦労させられてきたのだろう。

 

 なんとなく、マクゴナガル先生にちょっと優しくしようかななんて考える。

 少なくとも、今年も退屈しない一年にはなりそうだ……そう思った。

 

「『んぎにゅぎぎぎ……あの子ってばほんっっっっっっとに……っ!!』」

 

 ついでに、この小さな先輩にカボチャパイを一切れ多く上げようとも。




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