無言呪文? 浪漫に欠けるね! 作:にょわんちょふ
早くも感想をいただけて、とってもとっても嬉しいです!!
とりあえず今できてる3話までは毎日投稿して、そこからはゆっくり投稿していこうかなと!
あと、とっても今更ではごさまいますが、魔法に対する独自解釈、独自設定多分に含みます!この世界ではこういう設定なんだ、くらいの気持ちでご容赦を!何か疑問があったらなんでもいってください!極力お答えさせていただきます!
「ここはこの世の楽園か!」
ガバッと両手を広げ、溢れる喜びを全力で表現する。
あぁもうホントに困ってしまうなぁ! 授業が楽しすぎる!
ちなみにゴブレットについては初日ということもありまだ特に調べていない。とりあえず何も対策せず突っ込んだら髪の長さが十倍になった上で弾き飛ばされた。あの時肌を撫でた魔力の感覚は忘れないでおこう。
そのため今日の髪型はくるぶしまで届く大きな三つ編みだ、ため息を吐きながら編み込んでくれた向日葵先輩には感謝しなくてはね。
「満喫してるねぇ夢乃ちゃん」
両手いっぱいに大きな教科書を抱え、廊下の向かいから向日葵先輩がてくてくと歩いてきた。
「ふふふ、そちらも随分楽しそうじゃないか。6年生の授業はどうだい?」
杖を振り、教科書の一部をひょいと浮かしながら横へ並ぶ。
たしか朝聞いた話によると、四年生の次の授業である闇の魔術に対する防衛術と六年生の呪文学は途中まで方向が同じだったはずだ。
「わ、ありがと夢乃ちゃん……まぁやっぱり、新しい環境ってのはワクワクするよね、特にさっきのルーン学なんてね、私達の符術とゴールはおんなじなのに発想と過程が全然違ってね? 例えば――」
新しい知識に触れた時、まずそのルーツを辿りたがるところは私と同じだ。
けれど、そこから既知の分野と比較するのは私とは正反対。私ならすぐに「ではこれは?」「ならこちらは?」と、未知に別の未知をぶつけてどこまでも手を伸ばしてしまうからね。
「ふふ」
「――でね、ってちゃんと聞いてる?」
「もちろんだとも、私が知識の探求で横着するとでも?」
「ごめん、私が間違えてた、太陽が西から昇るくらいありえないことだったね」
そのまましばらく、偉大な白ローブ殿の授業を聴きながら、二人で廊下を歩いていった。
ホグワーツでの授業開始から僅か3時間分、早くも今年一年が最高の年になることを確信し、高鳴る鼓動を感じながら目を細めた。
□■□■□■□
「アラスター・ムーディだ、昨晩の始業式で聞いただろうが、今年の闇の魔術に対する防衛術の講師を任された」
フレッドとジョージ曰く「ちょっとだけエキサイティング」な授業らしい闇の魔術に対する防衛術は、意外な程普通に始まった。
周りのホグワーツ生や各校生徒も同じなのか、少し拍子抜けした様子で教科書を取り出そうと――。
「そこ! 誰が教科書なんぞを出せと言った! ワシが教えるのはなんだと言った? え? そうだ! 闇の魔法使いに殺されないようにする方法だ! ヤツらが目の前に現れた時、そうしてご本を読み始めるのか? それはいい! この世の醜悪さを煮詰めたようなヤツらがピッタリな対抗策を見つけるまで待ってくれるんだったらな!
おいおい、家にあった最新型の電気ケトルですらあそこまで早く沸かないぞ。
理論を馬鹿にされたことに少しムッとはするが、言っていることは至極真っ当だ。ここが本を読まなくてもいいようにする授業の場でなかったのなら、だが。
というか、こんなスラング混じりの英語を他校の生徒達は聞き取れるのか?
……ふむ。
「すまない、ミスタームーディ」
「どうしたクオンジ、本の虫には聞くに絶えない戯言だったか!?」
「いえ、ここには本場の英語の聞き取りに慣れていない生徒もいるからね、文字として表示すれば多少は理解しやすいだろう。翻訳までは流石に難しいが、字幕くらいはつけてやってもいいだろうか」
言いながら杖を振るうと、今私が発した言葉がそのまま文字として空中に浮かび上がる。
二年前のマホウトコロの卒業生が卒論として生み出した『声固め魔法』……発話から意味を抽出して可視化する魔法の効果によるものだ。
「ふん、貴様がワシの言葉を歪めて伝えん証拠があるのかね?」
ごもっともな意見だ。どうやら重度の"怖がりさん"というのは噂通りらしい。
「ふふふ、魔法契約でも結びましょうか?それと、魔法をかけるのはミスタームーディーに対してではなく私に対してです。私の耳に入った英語を頭上で浮かべる、という呪文にしてしまいましょう」
「そこまで言うのであれば結構だ、許可する」
「ありがとうございます」
無事許諾をいただけたため、少し声を固める条件を弄り、喉ではなく鼓膜へ対象となる振動の検出箇所を移動する。
「『音よ、聞こえし音よ、その意を示したまえ』」
詠唱により呪文の構成を成立させるための計算を補助し、即興で効果を書き換える。
ふふふ、危なかったね。本当に魔法契約を結ばされたら――。
「では、授業を始める! まずは敵の魔法を知ることからだ!」
ムーディの声に合わせ、頭上に文字が浮かぶ。
【それでは、授業を始めさせていただきますわ。みなさま、お相手の使う魔法のお勉強から始めますわよ♪】
「「「ブフーーーー!!」」」
「そこ!! 何がおかしい! 経験豊富な貴様にはワシの授業はおままごとだったかポッター、ウィーズリー! 油断大敵! グリフィンドールから5点減点!」
【もう、メッですわよハリーくん、ロナルドくん。ちゃんと大事な授業なんですから、真面目に聞いてくださいまし!】
――これができなかったからね。
……おっと怖い怖い、教室中から睨まれてしまった。流石に戻しておこう。
【そこ!! 何がおかしい! 経験豊富な貴様にはワシの授業はおままごとだったかポッター! 油断大敵! グリフィンドールから5点減点!】
机の下でこっそりと杖を振るうと、 空中の文字がふよふよと組み替えられ、正しい形をとる。
「クオンジ貴様今何をした! つまらん小細工か? ワシに呪いでもかけたか」
あの義眼、魔力の流れでも見てるのか? 流石は本物の闇祓いだね、実におもしろい。
「すみません、少し魔法式を間違ってしまったので、修正していました」
「フン、どうだか……妙な真似をするなよ、クオンジ」
青い義眼をこちらへ向けたまま本物の目で棚を漁り、三匹の蜘蛛が入った瓶を取り出した。
「いいか、この世界には呪いが溢れている。魔法や呪文なんて可愛らしくいわれちゃいるが、ソレは容易に命を、意思を、心を奪い去るものだ。それから身を守るために、理事会や魔法省が教えたがってるのは防衛呪文だか反対呪文らしいが……はっくだらん! 机上の空論で実際の悪意に触れもせず身も竦むような"ソレ"に相対するなぞバカのすることだ、油断大敵!」
……口調を元に戻しておいて本当に良かった。もしあのまま『おばかさんですわ♪』なんていってたら空気が地獄なんてもんじゃないぞ。
魔法の世界では"引き際"が重要なのだ……まぁ、それを理解したうえで全力で踏み越えること程心躍るものもないが。
「今からワシは禁術を実際に使う。今、ここでだ。 え? いいかヒヨッコども、見知らぬ呪いに立ち向かうことなどできん。今日この場で、お前たちは自らが立ち向かうべきものを知るのだ」
先程までは腹を押さえて、口を手で覆い、引き攣る表情筋を必死に抑えていた者達も、もはやだれ一人として笑っていない。
流石は最前線で戦い続けてきた歴戦の闇祓いだ。緊張感を持たせるのが自然で空気の作り方が上手いな。
「諸君。"許されざる呪文"を知っている者は?」
ハーマイオニーが天高く手を突き上げる他、周りでも恐る恐るといった様子で手が上がる。
ただ上がっているのは殆どがホグワーツ生のもので、ダームストラング以外の学校からは一人も上がっていなかった。
すごいな……平和ボケしたマホウトコロじゃクラスで三人答えられるかすら怪しいぞ。
「ロナルド・ウィーズリー! アーサーの息子だろう? あの頃の魔法省にいたのだ、闇の魔法の恐ろしさは家で嫌という程聞かされただろう、言ってみろ!」
「……服従の魔法です」
ロンの答えを聞いた途端、ずっと私を見続けていた義眼がギョロギョロと周囲を見渡し、ロンへと向かった。
やれやれ、やっと離れてくれたか。
……いや待て、あれが仮に魔力の流れを見てるんだとしたら、魔法として形にしていない無色の魔力でお絵かきでもしてみればちょっとしたイタズラが……おいおい心まで読んでるのか? 目が合ったぞ。ま、流石にそこまでは不可能か。そんな魔法の義眼があれば今頃世界中の開心術師は失職しているだろうしね。
「その通りだ、グリフィンドールに1点! この魔法には、15年前散々苦しめられた……悪辣さで言えば三つの禁術の内最も大きいといえるだろう……
机の上に投げ出された蜘蛛の一匹が、カサカサと動いていた。
しかしムーディが杖を向けた瞬間、ぴたりと動きが止まる。そして続けて杖を振る度、蜘蛛はまるで糸で吊られた人形のように、その命令へ忠実に従っていく。
「……ほう」
面白い。
ふむ、これは面白いぞ。
実際に生で見て初めてわかったが、この呪文は単純な身体操作ではない。
とてもじゃないがムーディが八本ある脚をすべて緻密に動かしているわけではないと一目でわかる。
しかし実際に蜘蛛は彼の意のままに、飛んで跳ねて……おっとバク宙までできるのか。
愉快な八本足の劇団員による"出し物"が面白いのか、静まり返っていた教室にどこからか笑い声が届く。
異様なほど静かだったからこそ響いた小さな笑い声が聞こえると、安心したのかまるで感染するかのように教室中へクスクス笑いが伝播した。
「ほう、そんなに面白いか! ではこれならどうだ!」
教室の天井に届くのではというほど、蜘蛛が高く跳び上がる。しかしよく観察すると、脚の甲殻に少し傷ができていた。
ふむ……"跳べ"という命令に対し、跳躍に必要な動作を蜘蛛自身が補完している。しかも自傷も厭わず、だ。
つまり操作しているのは筋肉ではなく、もっと上位――意思決定に近い領域か?
では命令の解釈主体は術者と被術者のどちらだ?
"高く跳べ"と"出来るだけ高く跳べ"では結果に差が出る? "ここまで跳べ"と明確な地点を設定することが必要か?
そもそも脳のリミッターすら突破できるのであれば、それに上限はあるのか?
どこまでの命令の曖昧さを許容できる、術者が理解していない内容を被術者が考慮できた場合、或いはその逆の場合はどうなるのだろうか……認識の違いにより命令に矛盾が生じた場合は?
……あぁ、やはり実際に目で見て味わうというのは別格だな、次は是非自分で……。
「はっはー! そうか、そうか、では次はどうする、火にあぶるか? 窓から落とすか? 自分の脚を自分で喰わせてもいいな! どうした、なぜ笑わない、やっていることは同じだぞ! え?」
一瞬で、教室の空気が凍り付いた。
気が付いたのは呪文の恐ろしさか、或いはそれを笑っていたという事実に対してか。
「完全なる支配、抵抗に失敗すればそれを自分で疑うことすらできない。それがどれだけ恐ろしいことかわかるか? 悪意を悪意として認識することすらできず、次の瞬間には今隣に座る友に杖を向けている……或いは向けられるかもしれない時代があったのだ……それがわかって笑っていられるような奴は……フン、一人しかおらんようだな。研究者というものは度し難いな、救いようがない」
「おっと失礼」
頬を手で押さえる。
そんなに出ていただろうか。
隣からハーマイオニーが呆れたような視線を寄越している。失敬な、これは学問に対する純粋な感動だとも。
「では次の呪文だ! わかるやつは……おぉネビル・ロングボトム、たしかにお前はあの呪文の恐ろしさを誰よりも知っているだろうさ、言ってみろ!」
「…………磔の、呪文です」
何がおかしいのか、ムーディの口元が大きく歪む。
対するロングボトムも、こちらは苦しそうにだが、顔を歪ませていた。
「その通りだ、グリフィンドールに3点やろう……
小さな身体が、大きく跳ねた。
蜘蛛の脚が滅茶苦茶に蠢く。
声帯なんてあるのかすら知らない生き物なのに、今にも悲鳴が聞こえてくるようだった。
蜘蛛に痛覚があるのかはわからない。ただ、節足動物の体の仕組みから考えれば、危険を回避する機能が備わっていたとしても、"無神経"な彼らが人間と完璧に同じ意味での"痛み"を感じる可能性は低いだろう。
にもかかわらず、苦しんでいる。
"痛い"、"苦しい"、そんな情報が、のたうち回る蜘蛛の全身から伝わってくる。
「『おいおい、この男正気か?』」
思わず、日本語で言葉が漏れる。
この様子を見るに、痛覚へ刺激を送る魔法じゃない。
肉体を傷つけ、その結果として苦痛を与えているわけでもない。
"苦痛"そのものを発生させ、実際の肉体には一切影響を及ぼさない。
この効果対象の一極化があるからこそ、純粋かつ強力な効果をもたらしている。
だからこそ、
人間という生き物は、普通なら目的のために痛みを与える。
情報を吐かせるため。
罰するため。
行動を止めるため。
だが、この呪文は違う。
"苦しませること"そのものが結果だ。
目的と手段が一致している。
だからこそ、普通はデメリットとなる効果対象の制限がむしろメリットにつながっているのだ。
マホウトコロの禁書庫で"お借りした"闇の魔術の本に書かれていたが、こういう効果に概念の絡む古い呪いには、発動条件に"強い意思"と"明確な目的意識"が必要なことが多いという。
例えばこの呪文なら、"相手を苦しめたい"という意思だ。
ムーディが杖先を蜘蛛から外すと、ようやく苦痛から解放された蜘蛛はぐったりと倒れ、動く気力もない様子だ。
「とまぁ、インペリオと違ってトロルでも危険性が分かる呪文だな、ただまぁこの呪文にも使いようがある……わかるものはいるか?」
ちらりと周囲を見る。
顔を青くしている者。
目を逸らしている者。
唇を噛んでいる者。
その中で、ムーディ教授だけが何も変わらない。
ふむ、流石のハーマイオニーもここでは手を上げられないか……では。
「クオンジ、言ってみろ」
あてられたため立ち上がり、ついでに字幕魔法をもう一度自分へあてる。
「近年、一部ではこの呪文を服従呪文への対抗手段として体系化した時期があるのではないか、という説が出ていてね……あの魔法は多幸感による服従を与える、とされていることから、磔の呪文による強烈な苦痛で思考の靄を噛み砕き、無理やり目を覚まさせることができるんだ。そして」
「その通り、闇の帝王の全盛期には、愛する者の苦痛を心から望むことで、そいつの心を救うなんていう度し難い状況が実際にあったという事実はなくならん。貴様らが来るかもしれん……ワシは死線を共にした戦友に自ら磔の呪文を撃ったこともあるぞ! 貴様らに同じことができるか? え? 故に、いつか来るその日を待つ"覚悟"だけはしておくように! 油断大敵!」
む、途中で切られてしまった。
まぁ確かにいつまでも長々話すものでもないか。
……皮肉にもその対抗呪文"かもしれない"磔の呪文が、服従呪文に抵抗するために必要な"強い心"をへし折るのに最も有効、というのは大事なところだと思うんだけどね。
ドン、ドン!
別に誰かが騒いでいたわけでも、居眠りをしていたわけでもない。
にもかかわらず、手に持つ巨大すぎる杖で地面を二度強く打ち付けると、最後の蜘蛛を小瓶から取り出した。
「さて」
その蜘蛛を、机の中央へ置く。
「最後だ」
――最後。
その一言で、私の背筋が僅かに伸びた。
いや。
待て。
まさか。
三つの許されざる呪文。
服従。
拷問。
そして――。
ムーディ教授が杖を持ち上げる。
杖先が、蜘蛛へ向く。
「ハリー・ポッター、最後のひとつを言ってみろ」
その声を聞きながら、私はいつの間にか机の縁を掴んでいた。
立ち上がったハリーが、ゆっくりと口を開く。
「死の、呪い、です」
本当にやるのか? いや、そんなまさかな、不可能に決まって――。
「
これまでの二つと比べ、やけに静かな呪文の詠唱。
それを言い終わると同時に、教室を目が眩むほどの強い緑の光が包む。
それに、瞬きをするのも忘れて見入ってしまう。
視界の先には、緑光に包まれた後、糸の切れたように動かなくなる一匹の蜘蛛。
「……は?」
ガタンッ――。
後ろに飛ばされた椅子が倒れる音が、教室中に響く。
「どうした、クオンジ」
……。
「……あ、あぁ、すまない、なんでもないよ」
一瞬、自分に言葉を投げかけられていると気が付かなかった。
こわばっていた身体からふっと力が抜け、反射的に腰を下ろす。
「ぐえぇ」
しかし、座るべき椅子は先程自分が吹き飛ばしてしまったため、ひっくり返って転んでしまった。
いそいそと椅子を直し、ローブに着いた埃を掃うのも忘れて席へ着く。
「見たか? この呪文が与えるのは"死"そのものだ。反対呪文も、対抗呪文も存在しない。触れた生命に"死"という概念を直接与える……それがどれだけ強大で、絶望的か、言わねばわからん奴はおるまいな?」
……あれは、あの呪文は、そう簡単に唱えられるものじゃない。
魔力の問題じゃない。
技術の問題でもない。
「理論としては、先程の磔の呪文と同じだ、一つの効果をとことんまで突き詰め、無駄の一切を排した現象そのものを与える、故にこの呪文は、魔法式そのものはいたってシンプルだ」
資質の問題でもない。
才能の問題でもない。
魔法式の複雑さでも、勿論ない。
「だからこそ、恐ろしい。この単純な魔法が、十五年前数え切れないほどの命を奪った、勿論、これからも奪うだろう」
……この呪文を、戦場で見たのであれば、それは驚くべきことじゃない。
街中で見かけたとしても……恐ろしくはあるが、ありえなくはないだろう。
「この呪文を受けて生き残った者は、歴史上ただ一人……それは、今ワシの目の前に座っている」
……だが、それを、学び舎で、授業で、大勢の前で、デモンストレーションとして使う? ありえない、ばかばかしい、考慮にすら値しない。
「どうしてワシがこれらの呪文を貴様らに見せたのか……知るためだ、恐れるためだ! 恐怖を知れ、死を、苦痛を、裏切りを恐れろ! いいか貴様ら、油断大敵! ワシは課題の提出を待ってやることができるが、闇の帝王は、その配下は、一秒だって待ってくれないぞ!」
……この呪文に必要なのは、単純明快、"殺意"だ。
そう、そこだ、単純"すぎる"のだ、
"実験の為に、"こいつに死んでほしい"ではダメなのだ。
"生徒に見せるために"、"こいつに死んでほしい"ではダメなのだ。
ただ純粋に、悪意の有無に関わらず、心の底から"こいつに死んでほしい"と思う。
「では羽ペンを持て、今からワシが言う言葉を一字一句聞き漏らさず書き記すのだ、無駄だと思ったところは書かなくて構わんが、ワシは無駄な空気を吐き出すつもりは一切ないからな」
そんなことが……可能なのか? 不可能だ、
「……ははっ!」
□■□■□■□
急に立ち上がったのもそうだし、明らかに声をかけられたときに反応が遅かったのもそう。座るときなんて椅子を倒したことも忘れて盛大にひっくり返っている。
「――勿論、これからも奪うだろう」
ムーディ先生が前で呪文の説明をしている今も、俯き押し黙ってしまっている。
……何か、トラウマでもあるのだろうか。僕と同じように。
「この呪文を受けて生き残った者は、歴史上ただ一人……それは、今ワシの目の前に座っている」
突然、教室中の視線がこちらへ集まる。
ムーディ先生の青い義眼と目が合い、悪いことをしたわけでもないのになぜか悪寒のようなものを感じるも、すぐにその視線は逸らされた。
「どうしてワシがこれらの呪文を貴様らに見せたのか……知るためだ、恐れるためだ! 恐怖を知れ、死を、苦痛を、裏切りを恐れろ! いいか貴様ら、油断大敵! ワシは課題の提出を待ってやることができるが、闇の帝王は、その配下は、一秒だって待ってくれないぞ!」
恐ろしくも確かな実感の伴う言葉に、自然とみんなの集中力が高まっていくのがわかる。
ハーマイオニーは勿論、あのロンやシェーマスですら、口を開くことなくまっすぐ黒板を見据えていた。
「では羽ペンを持て、今から――」
……しかし、僕にはどうしても集中することができず、隣で俯く彼女のことが気になって仕方がなかった。
もし、彼女が過去のトラウマとかで傷付いてしまっていたとしたら……。
「あの、だいじょう――」
心配になって、俯く彼女の顔を覗き込む。
……いや、覗き込んでしまった。
「……ははっ!」
「ッ!?」
さっき"マッドアイ"に見つめられたときの非じゃない程の悪寒が全身を駆け巡り、思わず飛び退く。
「うわっ! っつぅぅ……」
そのままの勢いで転んでしまい後頭部をしたたかに打ち付ける。
「なんだポッター! 授業の邪魔をするんじゃない! "滑らない"話でないとまともに授業を聞くこともできんか? え?」
「す、すみません先生!」
急いでノートを取り出し、書き取りに集中する。
"……ははっ!"
……しかし頭の片隅では、先程の、逆さ三日月に口元を歪め、クリスマスプレゼントを開けた瞬間のように目を大きく見開いたユメノの笑顔が、こびり付いて離れなかった。
□■□■□■□
「いっや~~~非常に興味深い授業だったね! 正直今日この時間だけではるばるイギリスまで来た価値はあったと断言できるよ!」
るんるん気分で腕を振り、教室の出口へ向かう。
ハリー、ロン、ハーマイオニーも一緒だ。
知らずに鼻歌を歌ってしまう程にはご機嫌だが、スキップはできないのでしていない。
「アレを心から楽しめるのは君ぐらいだよ、僕ちょっと具合悪くなっちゃった」
「私もよ……どうして禁じられた呪文が禁じられているかがよくわかる授業だったわね」
げんなりした様子のロンとハーマイオニーと違い、ハリーはなにやらこちらをちらちらと見て何かを言いたそうにしている。複雑そうな表情だ。
「どうしたんだい? ハリー」
「あー、いや、その……」
教科書を持っていない方の手で首筋を掻き、視線を何度か彷徨わせるハリーだったが、意を決したように口を開く。
「ユメノはさ、その……これまでに見た事があるの? あの呪文」
「? あぁ、そういうことか」
きっと私が死の呪文を見た後、取り乱してしまったことを言っているんだろう。
かなり頑張って言葉を選んでくれたのだというのが見て取れる。
……優しい子だね、ハリーは。
「安心したまえ、身内や知人に不幸が、とかそういうアレじゃないさ。3つともこの目で見たのは初めてだよ。だからこそこんなにも興奮しているんだけどね!」
「うわびっくりした急に大きい声出さないでくれよ」
「そっか、よかった」
ん〜? まだ何か言いたそうにしてるが……まぁいいか! 今はあの時受けた衝撃を皆に共有したくて仕方が無いんだ!
「それより聞いてくれたまえよ! あの男は"イカれて"るんだ!」
「そんなの見たらわかるわユメノ、普通なら法律で禁止されてる魔法を臨時雇用とはいえ教育者が、生徒の前で行使するなんて考えられないもの!」
あぁそうさその通りだアイツは普通じゃないんだよ!
「君達は死の魔法の使用には何が必要か知っているかい? それは殺意だ、殺意だけがあの魔法の必要要素なのだよ」
「それゃそうだろ死の魔法なんだから、それにアイツの目を見たろ? 絶対デスイーターを"ついうっかり"殺しちゃったことだってあるに決まってる、だったら殺意くらい持つだろうよ」
「ははっ、わかってないなぁロニー坊や!」
赤毛の生徒君の「その呼び方は止めてくれ!」という抗議は残念ながら聞こえなかったため、講義を続ける。
「君らも人生で一回くらいは"死ね"や"殺すぞ"と口に出したことはあるだろう? だがそれで本当に相手が死んでしまったらどうする? ま、普通ならありえないさ、口に出しただけで相手が死ぬわけないんだ……だが、あの魔法はそれを可能にしてしまう。いや、それを可能にしてしまう程の純粋で強い殺意が、あの魔法には不可欠なのさ」
先程の授業中に考えたことを、ひとつずつ三人に説明する。賢いハーマイオニーは理解したようだが、男の子諸君はまだピンと来ていないらしい。
「いいかい? あの魔法の発動において、"死"は手段であってはいけないんだ。何かを成すための、何かを手に入れるための"死"では純粋な殺意とは言えない……まぁ別に、目的として他のものがあること自体はいいのだけれど、少なくとも魔法を発動するその瞬間だけは、"相手が死ぬこと"だけで心の中を埋め尽くす必要があるんだよ」
おや、逆に分かりづらくなってしまったかな? 2人の頭にはてなマークが浮かんでしまった。
死の魔法の発動条件については禁書庫にあったものだけでも十は下らない数の文献を基に考察した推論だから、間違いなく"そう"とは言えなくとも限りなく正解に近い自負はある。
ホグワーツへ行けると知り、"あの"ハリーポッターに会えると知った時に結構真面目に研究したからね。
「まぁつまり、"授業で"、"生徒へのデモンストレーションのために"あの蜘蛛に心から死んでくれと思えるあの男は異名通り"
「あはは、まぁ少なくとも杖捌きの実力は本当らしいから」
どうやら最後の説明で何となく理解したのか、苦笑いしながらハリーがムーディをフォローする。
ま、何はともあれ……。
「本当に……」
「えぇ、本当に……おそろし「最ッッッ高だね!!」なんでよ!?」
ハーマイオニーと台詞が被る……と思ったが、おや? 違ったか。
「だってそうじゃないか! あの魔法に何故反対呪文が無いか考えてみたまえよ! 強力だから? 単純だから? 1を0にすることは簡単でも0を1にするのは難しいから? ……全てイエスだ! だがそれよりもなによりも……再現実験が不可能だったからだ!」
あーやばい、折角テンションが落ち着いたのにまた際限なく上がっていくのがわかる。
今なら火だって吹けちゃう気がするぞ。
「研究者が"死"をただの目的として呪文を使えると思うかい? ……不可能だ! なぜなら必要なのは"なぜ死ぬのか"、"どうすれば死なないか"、死はただの研究材料に過ぎない、だからあの呪文が開発されてから数千年、闇ではわからないが少なくとも表の記録には過去発動した際の経験を書くことはできても、予測と推論で語ることはできても、研究対象として実際に死の呪文を用いて調べることは不可能だった! なぜなら
あぁもう無理だ我慢の限界だ!
廊下を歩いていた足をピタッと止め、踵を返す。
「うっひょ~! 私はなんてツイてるんだろう! 私はムーディ先生にもう一度呪文の実演をお願いしてくる! 君達は先に行っていてくれたまえ!」
「ち、ちょっとユメノ! 授業はどうするのよ!」
背中目掛けてハーマイオニーが声をかけてくるが、知ったことか!
「次は魔法史だろう? 学問として興味深いのは間違いないが、君達の話じゃひたすら教科書を音読するだけらしいじゃないか! だったらそこに未知は無い、教科書は既に全て読み終えた!」
はっはー! もはや私を止められる者はいない!
待ってろよーミスタームーディ! 近代魔法史の教科書に君の名前を刻んであげようじゃないか! 死の魔法の反対呪文を生み出した偉人としてね!!
感想、高評価、ここすき、誤字報告、心よりお待ちしております!