無言呪文? 浪漫に欠けるね! 作:にょわんちょふ
本当にありがとうございます!少し短いですが、この流れに乗るべく投稿させていただきます!
これからも何卒、むごじゅもをお願いいたします!
その後も五人で姦しく騒いでいると、私達の周りに……というか月脈石の周りにかな? 段々と人が集まってきた。
月の位置的に、時刻はおよそ二十時ごろだろうか。
恐らく正面玄関なのであろう大きな扉を開け、(おそらく)アルクと数人の男子生徒が入ってくる。
なぜ"おそらく"が付くのかというと、身の丈の倍はある巨大な牡鹿を背負っていて体がほとんど見えないのだ。
「お、ユメノにヒマワリ! どうだ? 俺達の家は」
おぉ、この声はやっぱりアルクか。合っていてよかった。
「やぁアルク、勿論最高だとも!」
「そりゃあよかった!」
「「はっはっはっはっは!」」
「……え、誰もツッコまないの!? その鹿なに!?」
両手をぶんぶんと振りながら声を張り上げる向日葵先輩に、アルクと揃って顔を見合わせる。
もっとも彼の顔は完全に隠れていて見えないが。
「何ってーと……鹿?」
「これはアカシカだろうね、そろそろ繁殖期だし、少し出れば山のようにいるだろう。にしても随分と立派なのをとったねぇ」
「だろ? とんでもなくつえぇヤツだったぜ! 魔力でも帯びてたんかな、こう、頭を振ると風がぶわーって起こってよ」
「ほうほう!」
「あ、もういいや。そうだよね常々戦士名乗ってるんだし、狩りくらいするよね」
私と話をしながらもアルクが向かった先は……台座か? すこし石が盛り上がり、台のようになっている場所へ鹿を降ろす。
すると誰が何を言うでもなく、生徒たちがその周囲へ集まっていった。
「【おいアルク、あの女をなんとかしてくれたまえよ、せめてボクの視界に入らない所に置いてくれ】」
「【まぁそゆーなって、悪いやつじゃないのはわかるだろ? お前が善悪を見違うとは思えねえし】」
「【んにぎゅにょん……わかってるとも! だが善悪はともかくあの態度が気に食わないといってるんだ!】」
「【ははっ、まぁたしかにお前の美学とは相性悪いかもな】」
おや、ナジャマくんまで行くとは、少し意外だね。
何か話しているようだが……スワヒリ語か? 流石にネイティブの会話は聞き取れないな。
全員が集まったのを確認すると、アルクは一度全員を見渡し、大きく頷いた。
台座とそこに寝かされた鹿を囲む生徒の円から一歩踏み出し、片膝をついて両手を握り合わせる。
「――」
「「「――」」」
――音が、消えた。
いや、違う。耳を澄ませば、遠くの虫の声、頭上では風が吹く音、誰かの息遣い、かすかな音は聞こえてくる。
だが、それらがはっきりと聞こえる程、今この場は静かだった。
アルクが、息を吸う。
「【奪いし命に、敬意を】」
「「「【敬意を】」」」
彼らが言葉を発すると同時に、壁に散りばめられた月脈石が、鼓動を刻むように明滅する。
「【授かりし恵みに、感謝を】」
「「「【感謝を】」」」
台座を中心に、光の輪が広がっていく。
「【その魂は大地へ、その恵みは我らへ】」
全てを理解できた訳ではないが、断片的に聞き取れた、"命"、"感謝"、"魂"といった単語から、この儀式のおおよその目的を理解する。
――そうか、これが彼らが口にしていた、"自然と生きる"ということか。
本当は、"こういうとき私達も共に祈るのが正解だろうか"と向日葵先輩に聞きたいが、身じろぎの音すら出すのを憚られる静寂だ、とてもじゃないが聞けないね。
それでもちらと横を見ると、目を閉じ、手を合わせている向日葵先輩が目に入る。
ふむ、であれば、そうだね。
「――」
同じように、瞼を閉じた。
彼らの文化とは厳密には違うかもしれないが、おそらく根源の感情は同じだろう。
ならばここは、私なりに。
"いただきます"。
日本人らしく、心の中でそう唱えた。
「――おしっ!」
数秒か、数十秒か、はたまた数分か、一瞬にも永遠にも感じられたその静寂を、力強い、けれども優しさを感じさせる声が切り裂いた。
「そんじゃあ血抜きすんぞー、大地の界、集まれ」
「「はい!」」
目を開くと、先程の光の明滅は既になく、壁の月脈石は柔らかな光を灯している。
二人の生徒が得物に駆け寄り、手際よく血抜きを行っていく様を観察していると、イマラが傍にやってきた。
お、ジャバリ殿も向こうに行ったね。そういえば大地の界との兼任と言っていたか。
……すごいな、流れる血が宙にとどまって瓶に詰められていく。どういう魔法を使ってるんだ?
原理としては浮遊呪文の応用なんだろうが、対象が流動する液体というのは、一体どのような対象の選別を……と、今はイマラの話に集中しないとね。
「説明もなく始めてしまってすみませんでしたぁ、ご協力感謝しますね~」
「ふふふ、とても興味深い祈りだったよ、あれはそもそ」
「さっきの! すっごいカッコよかったね!! あいやそんな風に言ったら失礼かなぁ……」
おっと、向日葵先輩に遮られてしまった。
まぁ、ああいう"ザ・異国情緒"を見せられたら、そりゃあワクワクもするだろう。向日葵先輩、こういうの大好きだしね。
「いえいえ~、ただの習慣ですからぁ、それをそこまで褒めていただいて、嬉しい限りですよぉ」
「まぁ私達日本人の宗教観とも近しいものもあったからね、あれはし」
「あれ、自然そのものへの感謝でしょ! あそこまで真摯に命と向き合うってすごいなぁ、命との"距離"が私達よりずっと近いんだなぁ」
……しばらくは聞き役に回ろうか。
聞きたいことは似通っているようだしね。
「はい、食前の祈りともまた違う、奪った命そのものと、それをもたらした大地への感謝ですねぇ。狩りの後はこうして必ず行うので、私達は狩りのための魔法を学ぶ前に、狩ったものを保全する魔法を先に習うんですよ~」
「そっか……たしかにそっちの方が大事だもんね」
なるほど、命の奪い方を教える前に、奪った命を無駄にしない方法を教える、ということか。
どうやらワガドゥの教育者は、随分と人としての育て方を大事にしているらしいね。
「久遠寺夢乃、君にもどうやら口を閉じるという高度な行為ができたようだ、君への評価を改めてあげないとね」
「ふふふ、それはどうも、流石にあそこで騒ぐほど私も無粋じゃないさ」
皮肉には応じず、素直に感謝を述べる。
きっと彼女には、こうしてまっすぐ応える方が適しているだろう。
「ふんっ! なおさら度し難い、その目をどうして人間には向けられない?」
「おや、私は誰に対しても敬意を以て接しているつもりなのだが」
「ハッ! 聞いたかい種子島向日葵、横のソイツは
ルーム暮らしの
「あはは……たしかにそこはちょっと否定しかねるけど、私も好きで一緒にいるから」
ふふ、そこまで言って貰えるとは、光栄だね。
しかし、敬意か……。私に未知と発見をくれる皆や物に対してリスペクトを怠ったことはないつもりなんだが……心に留めておこうか。
□■□■□■□
あの後、そのまま鹿の解体を終えた彼らは、半分を調理し、もう半分は袋に詰めた。
どうやら森の所有者であり狩りを許可してくれたホグワーツへ納めるらしい。
ふふ、明日の食卓には鹿肉が並びそうだね。
流石に夕食の後紅茶までいただいた私達は断ったが、男衆を中心に肉片手に談笑をしていると、さらに生徒は集まってくる。
少し意外だったのは、イマラもしっかり食べていたことだろうか。逆にナジャマくんは予想通り食べていなかった。
ふむ……これ、恐らくホグワーツへ来ている生徒全員いるな、始業式から生徒が増えていなければだが。
おや? ピンと伸びた背筋と気品のある佇まいの銀髪は……。
「姫様じゃないか、先程のお茶会では世話になったね」
「あらクオンジ様、ご機嫌よう。こちらこそ、とても刺激的なお茶会でしたわ」
やはり、国際交流学でスコーンを素手で叩き割り、完璧な英国マナーを文字通り"叩き"出したあのお姫様だ。
「マカロンの中から飛び出した"アレ"に付けられた傷はもう治ったかい?」
「思い出させないでくださいまし……手の負傷は治りましたが、いかに高名なマダム・ポンフリーとはいえ心の傷までは癒せないようですもの」
「はは、それはすまない」
まぁ、たしかに目の前であんな事があればトラウマになっても仕方ないか。しばらくマカロンは視界にも入れたくないだろう。
しばらく二人で談笑していると、肉を食べきったのか、広間を覆っていた賑わいが少しずつ落ち着いてくる。しかし誰一人として部屋へ戻る者はなく、それを疑問に思っている様子もない。
「すまない、これからまた何か始まるのかい?」
「えぇ、恐らくそろそろ――あぁほら、丁度いらしましたわ」
先程アルク達が入ってきた大扉が再び開かれ、入ってきたのは、豊かな髭に荘厳さと柔らかさを併せ持つ、ル・ティアロロ・キブ校長。
校長が入ってくるのを認識すると、生徒達は自然と整列し、彼の周囲へと集まっていく。
「【やぁ諸君、今日もご苦労じゃった。】おっと、今日は随分と可愛らしいお客さんも来ているんじゃったのう」
わざわざ英語で言い直してくれた校長に、ぺこりと会釈を返す。
「結構、結構。少々"固い"校舎じゃが、ゆるりと寛いでいってほしい」
ふふ、流石はあのダンブルドア校長と友というだけはある。ギャグセンスまでそっくりじゃないか。
「では、皆にはすまぬが、今日くらいは英語で話させてもらおうかのう、折角なら我らの文化を体験してもらおう」
自然と拍手が起こり、列から離れやってきたアルクに、向日葵先輩と二人そろって腕を掴まれ、中心へと運ばれる。
おや、これは願ってもない。
「我らはこうして、一日の終わりに皆で集まり、今日という日を平穏無事に送らせてくださった"今日"に感謝を捧げるのじゃよ」
ふむ、先程の得物への祈りとはまた違う、世界そのものに対する祈りか。
先程向日葵先輩がいっていた"命との距離が近い"という言葉は、案外核心をついているのかもしれないね。
「なぁに、難しい作法は無い、ただ目を閉じ、手を胸に当て、我らが生きる世界を感じ――そして、祈る。それだけじゃ」
「皆さんの祈りと、必ずしも同じでなくていいと」
「あぁ、勿論。向き合い方は人それぞれじゃろうて」
随分と寛容な文化なんだね、彼らの"祈り"というのは。
いや、むしろそうあるべきなのか。
日々の生活に根差した習慣だからこそ、そこに込める思いまで一つに揃える必要はないのだろう。
「では、ひとつだけ君らにお願いをしてもいいじゃろうか? 英語で言う"感謝"、それをスワヒリ語では【
ふむ、【
「では、皆の物、準備はよろしいかな?」
こくりと、言葉ではなく、動作で、この場にいる全員が応える。
「――【感謝を】」
「「「【感謝を】」」」
十秒ほど、目を閉じ、ただ時の流れを感じた。
誰に言われるまでもなく、おのおのが自分のタイミングで目を開き、校長へ一言ずつ挨拶をし広間を離れていく。
「【おやすみなさい、我らが父】」
「【よい夜を、校長】」
「【月光浴もほどほどにな! "月焼け"するぜ、父よ!】」
「【あぁ、おやすみ、アラニ、メダ、クワイ】」
言葉の意味自体は、"父"くらいしかわからない。
だがそれでも、声の調子、ジェスチャー、表情、そういった要素から全員が全員違う呼び名で、違うテンションで、校長へ声をかけていることはわかる。
それでもそこには、"敬意"と"感謝"が、たしかに感じられた。
「私達も行きましょうかぁ、ユメノちゃん、ヒマワリさん」
「あぁ、そうだね」
「うん、そうしよっか」
私も、彼らに倣い校長へ感謝の言葉を述べる。
「ル・ティアロロ・キブ校長、本日は滞在をご許可いただき、ありがとうございました。とても有意義な時間を過ごさせていただきました」
「ほー! それはよかった、またいつでも、お越しくだされ」
向日葵先輩もぺこりと頭を下げ、しっかりと目を見て話しだす。
「ありがとうございました! ル・ティアロロ・キブ校長先生!」
「うむうむ、小さいのに立派じゃのう、アルバスにこういう時どうするか聞いての、早速実践させてもらおうかの……ほれ、飴ちゃんじゃぞ?」
「小さくないですけど!! もう年齢線も超えられるんですけど!!」
「ほっほー、これは失礼した、ではレディには、こちらのキャンディーを」
「飴じゃん!! ……えなにこれ凄い美味しい」
「うちで作ってるぅ、蜂蜜の飴ですねぇ、私も大好きなんですよぉ」
ほう、それは気になるね……どれ、私も一つ……本当に美味しいな、甘みと苦みが絶妙だ。
「では、お休み、諸君」
「「「おやすみなさい」」」
三人で揃って最後にそう返し、最初に目を覚ました部屋へ向かう。
最後に、随分と長い時間を過ごした気がする大広間を一瞥する。
月は、いつの間にか沈んでいた。
改めて、評価、感想、ここすき、誤字報告、いつもありがとうございます、、!
とっても励みになってます!