お母さんはアルフィア31歳 作:人の心とかないんか
「今日も元気に働きましょう!」
道化師から未来の「死体スポット」を効率よく聞き出した私は、すっかり上機嫌で夜のオラリオの街を歩いていた。
道すがら、ちょっとした路地裏で息絶えていた不運な冒険者を見かけたので、すかさず「今日も元気に働きましょう!」と辻魔法を施し、我が社のオラリオ支店における新規メンバーとして仮契約を済ませておくことも忘れない。着々と事業拡大が進んでいる証拠だ。
鼻歌交じりに我が家の新居のドアを開けると――リビングの空気が、いつもと違ってやけにピリッとした緊張感に包まれていた。
「……おや?」
リビングのソファには、見慣れない二人の「神様」が腰掛け、お茶を飲んでいた。
一人は、ひらひらとした緑色のマントを羽織り、いかにも胡散臭い――もとい、情報通な笑みを浮かべた軽薄そうな男の神。
そしてもう一人は、青を基調とした静謐な装いに身を包み、その凛とした美しさの中に深い慈愛と正義の光を宿した、気高き女神。
「やあ、噂の『辻聖女』ちゃんかい? はじめまして、かな」
「あなたが……子供の身でありながら、オラリオの死者たちを次々と蘇らせているという奇跡の使い手……ですね?」
私は持っていたバッグを床に置き、パチパチと軽く手を叩いた。
「おや、わざわざ我が社……じゃなくて我が家までご足労いただきありがとうございます。ヘルメスさんに、アストレア様ですね。道化師から色々聞いております」
「いやぁ、ベル君から聞いて、こうして飛んできたってわけさ!」
ヘルメスは軽口を叩きつつも、その鋭い三白眼の奥でしっかりと私を値踏みするように観察している。
一方、アストレアは、静かに立ち上がると私に向かって真っ直ぐに歩み寄り、ふわりと優しく、しかし確固たる意志を宿した瞳で見据えた。
「辻聖女よ。あなたのその力は、あまりにも強大で、そして慈悲深い奇跡です。ですが、神の目から見ても、その力があまりに無秩序に使われているのは少し心配でもあります。……どうか、私たちの『アストレア・ファミリア』に力を貸してくれないでしょうか?」
――キターッ! 正義の女神からの直接スカウト!
私の脳内に勢いよく展開されるメリットとデメリット。
アストレア・ファミリア加入のメリット:
オラリオの公的機関や正義の組織からの信用度が爆上がりする。街中で堂々と死体を漁ったり蘇生させたりしても、「正義の活動の一環です」と言い訳しやすくなる。
デメリット:
企業的な経営方針に対して「それは正義に反する!」とアリーゼさんたちに怒られる可能性がある。
(むぅ……。自由な労働力確保の観点からは少し窮屈になりそうですが、オラリオ全体を我が社の『巨大フランチャイズ化』するためには、公的な看板を持っておくのも悪くないかもしれませんね……!)
私がじっと考え込んでいると、ヘルメスが面白そうにニヤリと笑った。
「おや、即答しないね? 普通なら女神様の慈悲深いお誘いに飛びつくところだけど……さては君、頭の中で何か別の『黒い算盤』を弾いてるんじゃないかい?」
「人聞きが悪いですね。私はただ、我が社の福利厚生と労務管理について真剣に検討しているだけの、極めて健全な経営者です」
「経営者!? 何を言ってるんだ!」
頭を抱えるヘルメスと、クスリと微笑むアストレア。
「ふう……。さて、神様方」
私はソファの前にちょこんと座り直し、お茶を一口飲んでから、きっぱりとした口調で宣言した。
「まず大前提としてハッキリさせておきますが――私は『辻聖女』などではありません。」
その言葉に、ヘルメスは「おや?」と眉を上げ、アストレアは少し驚いたような顔をした。
私は真剣そのものの目で二柱の神を見据え、心からの本音をぶちまけた。
「世間で勝手にありがたがられている『辻聖女』なる人物は、ただの迷惑な都市伝説です。私がやっているのは、あくまで合理的な『労務管理』と『人材の再就職支援』であって、決して無償の救済活動などではないのです!」
――しかし。
この世というのは、なぜか都合よく誤解が連鎖するようにできているらしい。
私のその話を聞いたヘルメスは、なぜか感心したように深く頷き、ふっと柔らかい笑みを浮かべた。
「いやぁ、大したもんだねぇ。自分の奇跡を誇示せず、照れ隠しにそんな風に『経営者』ぶってみせるなんてさ。死んでいく者たちを放っておけなくて、自らの手でこっそり蘇らせて歩く……そのどこまでも不器用で、深い優しさだね!」
「……え?」
「ええ、本当に……。なんて慈悲深い心なんでしょう。この子は、自分の利益や名誉のためではなく、ただ純粋に、救える命を救いたいがためにその力を使っているのですね」
アストレアは両手を胸の前で組み、感動に潤んだ瞳で私をじっと見つめていた。
――待って待って待って。
私のどこをどう見たら「慈悲深い心の持ち主」に見えるのだろうか? 私は先ほどから「不労所得の回収予定表」や「労働資源の確保」しか頭にない、純度100%の社畜系ネクロマンサーなんですが!?
「い、いや、だからですね、私はビジネスとして――」
「ふふ、もう恥ずかしがらなくていいさ。君のその『無欲の愛』、しっかり受け取ったよ!」
「そうですとも。アストレア・ファミリアとしても、あなたのような素晴らしい心根の持ち主を迎え入れられるなら、これほど心強いことはありません」
――ダメだ、この神様たち、人の嘘が分かるせいで私の話を聞く気がない。
「慈悲の聖女」という圧倒的すぎる勝手なフィルターを通されてしまい、私の弁明はすべて「照れ隠しのツンデレ発言」として華麗に変換されてしまう。
……まあ、いいか。
アストレア・ファミリアの看板が手に入れば、オラリオでの「人材確保(死体回収)」の許可証みたいなものとして使えそうだし、社会的信用度も爆上がりする。結果オーライ、というやつだ。
「……まぁ、そこまで言うなら、我が社は、アストレア・ファミリアとの業務提携の前向きな検討をしましょうか」
私がそう言うと、アストレアは嬉しそうにふわりと微笑んだ。
交渉は、実質的にこちらの完全勝利(?)という形でまとまりかけた。
だが、ここで一つ大きな問題がある。
私には、いつまでもオラリオの街に居座るつもりなど毛頭なかった。
「で、ですね。お話はまとまりましたけど、一つ重要なご報告があります」
「ん? なんだい?」
「私、オラリオでの初期契約と支店の基盤固めはある程度終えたので、そろそろ田舎の実家に帰って、悠々自適な生活を送る予定なんです」
私のその言葉に、ヘルメスとアストレアは盛大に目を丸くした。
「は……? 田舎に帰る? せっかくオラリオでこれからという時に!?」
「当たり前です。いつまでも都会の喧騒の中にいたら、私の理想とする『のんびりスローライフ』ができませんからね。お父様も村の畑で待ってますし」
「お父様って……!? え!?」
絶句すふヘルメスに対し、私はさらに「業務上の重大な提案」を切り出した。
「というわけで、私は近いうちに村へ帰還します。そこで、オラリオ支店に毎月上納される売上なんですが――」
「上納金!?」
「これを、オラリオと辺境を行き来するあなたに『定期便』として私のところまで運搬してもらう係に任命します!」
「確かに俺は運び屋もやっているけどさあ!」
ヘルメスの盛大な絶叫が、夜の新居のリビングルームにパーンと響き渡った。
しかし、神様の都合など知ったことではない。
こうして、慈悲深い「辻聖女」という圧倒的で不本意な肩書を背負いつつ、私はちゃっかりオラリオの利権を固め、再びのんびりとした田舎の我が家へと帰還する準備を着々と進めるのだった。
ヘルメス「道化師は消えたら、神意外はみんな忘れてしまった。だけど、辻聖女は違かった」
アストレア「闇派閥に殺された人たちが、遺体さえ残っていれば蘇生される」
ヘルメス「道化師の予言どおりなら、多くの人がなくなる状況がきた時、辻聖女はいないことになる」
アストレア「神の奇跡のようなもの。何度も送還のような光が立ち上っていれば、いやでも目立つわ」