お母さんはアルフィア31歳 作:人の心とかないんか
「今日も元気に働きましょう!」
のどかな田舎村の我が家の縁側。私は、ベル君から届いたばかりの最新の手紙の束をペリペリと開封しながら、香ばしいお茶を一口すすった。
オラリオで快進撃を続けるお兄ちゃんからの生存報告。
「どれどれ……今回はどんな新しい仲間とトラブルが描かれているでしょうか」
私が最初の封筒を広げると、隣でお茶を淹れていたアルフィアお母様が、ふっと優雅にカップを手に取った。
【拝啓、お義母さん、そしてポチちゃん。
レベル2になった途端、オラリオ中の大御所ファミリアの神様たちから「うちに来ないか!?」ってものすごい勧誘の嵐が巻き起こって、本当に死ぬかと思いました……! 何とか必死で逃げ回って、ヘスティア様と一緒に『豊穣の女主人』に逃げ込んで、そこでささやかなレベルアップの祝賀会を挙げてもらったんです。
ミアさんが作ってくれたお肉料理が本当に美味しくて、心からホッとしました。やっぱりあのお店は僕のオラリオのオアシスです】
「……ほう」
お母様は優雅に紅茶をすすりながら、クスリと笑った。
「レベルアップした途端にハイエナどものような神々が群がってくる」
「大御所の神様たちをハイエナ扱いしないでください! でも、無事に逃げ切れてよかったです」
「しかし、あの酒場で祝賀会とは……」
ザルドおじさんはスープの鍋をかき混ぜながら、「ふっ、チヤホヤされるうちに調子に乗らんことだな。まあ、あいつのことだ、すぐに次の問題に巻き込まれるだろうが」と鼻で笑った。
そして、ザルドおじさんのその予測は、見事に的中することになる。
2通目の手紙を開いた瞬間、私は「おっ?」と声を上げた。
【拝啓。
それから、新しい出会いがありました。『ヴェルフ・クロッゾ』っていう、鍛冶師の青年です。
彼が打ってくれた防具を身につけたら、信じられないくらい軽くて丈夫で、めちゃくちゃ動きやすくなったんです! ヴェルフと話し合って、お互いの専属契約を結ぶことになりました。
初めてできた同性の友人だし、本当に頼りになる最高の相棒です!
敬具】
「おっ、専属の鍛冶師の獲得ですね!」
私はパチパチと手を叩いた。
「さすがベルお兄ちゃん、我が社のインフラ整備とサプライチェーンの構築を完璧に理解しています! 優れた装備品は冒険の基本ですからね、素晴らしいビジネス判断です!」
お母様は少しだけ目を細め、静かにうなずいた。
「鍛冶師の専属契約とは、冒険者にとって命綱とも言える重要な選択だ。……クロッゾの名を継ぐ者に武器ではなく防具を作らのか。悪くない話だ」
我が家の厳しい教育だけでなく、オラリオでちゃんとした「心を通わせる仲間」を作れていることに、私たちはどこか親のような安心感を覚えていた。
そして、3通目の手紙へと移る。
【拝啓。
サポーターのリリ、そして新しく相棒になったヴェルフの三人で、初めてパーティを組んでダンジョンの中層に潜りました!
三人で息を合わせて戦うのは初めてだったけど、みんなの強さと優しさに支えられて、ついに『インファントドラゴン』っていう強力なモンスターも撃破することができたんです。
一人で戦っていた頃とは違って、仲間と一緒に戦うってこんなに心強いんだって実感しました】
「三人パーティー……!」
私は胸が熱くなり、思わず感動で両手を握りしめた。
「サポーターのリリちゃんに、鍛冶師のヴェルフさん、そして前衛のベルお兄ちゃん! 綺麗に役割分担が揃った、ものすごくバランスのいいホワイトなパーティーじゃないですか!」
「……」
お母様は感極まったように、美しく澄んだ瞳を少しだけ潤ませた。
「『500の試練』を耐え抜いたからこそ、外の世界で本当に大切な仲間を見つけることができたのなら……あの教育も、少しは意味があったと言えそうだ」
ザルドおじさんも深く腕を組み、「ほう、インファントドラゴンか。なかなかの歯ごたえだったはずだ」と昔を思い出しながら笑った。
そして、今回届いた束の最後――4通目の手紙を開く。
【拝啓。
リリとヴェルフとのチームワークもバッチリ固まって、僕たちは今、さらなる高みを目指して『二度目の中層遠征』に出発しようとしています!
前回の経験もあるし、みんなの装備もバッチリ整っているから、今度はもっとうまくやれるはずです。母上もポチちゃんも、どうか安心して見守っていてください。
それじゃあ、行ってきます!】
読み終えた瞬間、リビング(縁側)には、これまでで一番温かで、そして穏やかな空気が満ちていた。
「ふっ、行ってこい」
お母様は柔らかく、最高に美しい母親の微笑みを浮かべ、手紙をそっと折りたたんだ。
「どんなに過酷なダンジョンであろうと、今のあの子なら、仲間たちと共に必ず道を切り開いていける」
「ですね! 万が一そこで倒れたとしても、我が社のオラリオ支店が責任を持って――」
「五月蝿い」
「すみません冗談です!」
私が慌てて頭を抱えると、ザルドおじさんもお腹を抱えて大笑いした。
神様の勧誘を華麗に交わし、信頼できる仲間たちを手に入れ、自分の足でしっかりとチームを率いて前進していくベル君。
彼の冒険は、もはや我が家の過保護な監視や試練の枠組みを優に飛び越え、本物の「英雄の物語」へと突入していた。
――遠くオラリオの中層へと向かうお兄ちゃんに心の中でエールを送りつつ、私たちは今日ものどかな田舎村で、平和にお茶をすするのであった。
ポチちゃんが7年前~原作開始にかかわった出来事
①アストレアファミリア全滅回避
事前情報にあったので意気揚々と赴いたが、ダンジョン内で魔法を使ったら、アストレアファミリアメンバーは復活したものの、ダンジョンが神様と勘違いして大量のモンスターを産み出した悲劇があり、主人公はダンジョンに潜るのが禁止となった。
②ベル君500の試練。
ベル君は500の試練を乗り越え、アルフィアとついでにポチに英雄になると誓った。
③アストレアファミリアダンジョン恐怖症
ジャガーノートや蘇生後の大量モンスターの恐怖から、アストレアファミリアはヘルメスから上納金の任務を継いでおり、アストレアファミリアメンバー(リオンを除く)が村に訪ねた時に500の試練としてベル君と出会っていた。
④ゼウスとお父様
水浴びを覗き見しようとして、ゴスペルパンチで吹き飛ばされている。ゼウスとお父様は細やかな復讐として、ベル君に500の秘技の中に男の作法を伝授した。
なお、R-18の物語に未成年は登場できないので、本作品はR15の範囲で、事実のみを端的に表すこととしている。