別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか 再加筆版 作:さすらいの旅人
「はぁ!? フレイヤんとこの連中が動いとるやと!?」
「うん。【
場所は【ロキ・ファミリア】の
期間限定のジャガ丸くんを買い逃した失意を引きずりながら帰路についていたアイズだったが、その途中で異様な光景を目にした。
オラリオ最強を謳われる団長オッタルを筆頭に、副団長アレン・フローメル、さらには第一級冒険者達までもが街中を慌ただしく駆け回っていたのだ。
しかも、その様子は普段の任務とは明らかに違う。誰もが余裕を失い、何かを必死に探しているように見えた。
期間限定品を逃したショックから一瞬で切り替えたアイズは、すぐに事態の異常性を察知する。
これは何か起きている。そう判断した彼女は踵を返し、
そして現在。
執務室では主神ロキを中心に、団長フィン、副団長リヴェリア、重鎮ガレスが定例会議を行っていた。
そこへアイズが珍しくノックもせず飛び込んできたのである。
一同が驚いたのも束の間。彼女の報告を聞いた瞬間、室内の空気は一変した。
「ん~……何やら尋常じゃなさそうだね」
顎に手を当てながらフィンが呟く。
彼の蒼い瞳には既に様々な可能性が浮かんでいた。
「あのオッタル達がそこまで慌てるとなれば、向こうで何か起きたのかもしれんな」
リヴェリアも腕を組みながら眉を寄せる。
「あるいは神フレイヤがまた何か企んでおるのではないか?」
ガレスは重々しい声で推測した。
どちらにしても碌な話ではないと、三人とも同じ結論に辿り着いていた。
一方、報告を終えたアイズは壁際に立ったままだ。余計な口を挟まず、ただ静かに成り行きを見守っている。
彼女にとって自分の役目は情報を持ち帰るまで。判断するのはフィン達首脳陣であり、自分ではないことを自然と染み付いていた。
「あの
ロキは深々と椅子にもたれた。
フィン達が冒険者として推測しているのに対し、彼女は神として考える。
地上へ降りる以前から知る同郷の女神フレイヤ。絶世の美貌を持つ一方で、誰よりも気まぐれで、誰よりも執念深い。
目的のためなら手段を選ばず、その過程で周囲を巻き込むことも珍しくない。実際、フレイヤの思いつきや執着によって多くの騒動が起きてきた。ロキからすれば相当に付き合いづらい女神である。
「神意を問い質しに行くっちゅう手もあるけどなぁ……」
そう呟きながらもロキは眉をひそめる。
問題は、その動いている面子だ。
オッタルにアレン、そして第一級冒険者達。
最高戦力が総出で動いているとなれば、事態は軽くない。
もし直接向かうならば、それ相応の戦力を伴う必要がある。
とはいえ、こちらも最高幹部を揃えて出向けば、それだけで別の問題が発生してしまう。
「どうするんだい、ロキ。君が神フレイヤの元へ行くなら、僕達は護衛として同行するけど?」
フィンが即座に提案した。
リヴェリアとガレスも異論はないらしく、小さく頷く。
「相変わらず話が早うて助かるわ」
ロキは苦笑した。
やはり皆も同じ結論に至っている。
「せやけどなぁ……うちらが揃ってフレイヤんとこへ行ったら、それはそれで大騒ぎになってまう」
ロキの言葉に誰も反論しなかった。
【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】。
オラリオを代表する二大派閥が本気で動けば、街中に激震が走る。
ただ訪問するだけでも住民達は不安になり、他の派閥も警戒する。
ましてやギルドが知れば大問題だ。真っ先に飛んでくるのはギルド長ロイマンで、胃痛を訴えながら全力で止めに来る顔が容易に想像できた。
「また始まったかと思われるやろなぁ……」
ロキはげんなりした顔になる。
冗談ではない。余計な騒ぎは避けたい。
そう判断した彼女は視線をアイズへ向けた。
「アイズたん、護衛役として付きおうてもらうで」
「私だけでいいの?」
突然の指名にアイズが小首を傾げる。
この状況ならフィン達も同行すると思っていた。
「必要最低限っちゅうやつや」
ロキは肩を竦める。
アイズは第一級冒険者。年齢こそ若いが、その実力はオラリオでも上位に位置する。
牽制役としては十分であり、フィン達も異論はない。
何よりロキには別の思惑もあった。
(久々にアイズたんとデートやなぁ)
実に不純な理由だった。
もちろん口には出さない。出した瞬間、リヴェリア辺りから氷魔法が飛んできそうだからだ。
(まぁフレイヤも流石にオラリオそのものを敵に回すような真似はせぇへんやろ)
ロキはそう考えていた。
迷惑な女神ではあるが、決して愚かではない。越えてはならない一線くらい理解しているはずだ。
そう判断していた、その時――
バンッ!
執務室の扉が勢いよく開く。
「団長! ロキ! 大変っす!」
飛び込んできたのはラウル・ノールドだった。
顔面蒼白で息も絶え絶えな様子に、ただ事ではないと誰もが悟る。
「【フレイヤ・ファミリア】がベートさん達と衝突してるって報告が!」
「なんやて!?」
『!?』
空気が凍り付いた。
先程までの予測が、一気に現実味を帯び始める。
フィンは即座に立ち上がった。リヴェリアとガレスも険しい顔になる。
もはや様子見をしている段階ではなく、最悪の事態に備える必要があった。
(あんの色ボケ……! 本気でうち等と
ロキの脳裏を嫌な予感が駆け抜ける。
ベート達との衝突は偶発的な小競り合いかもしれない。
だが最悪の場合、それは【フレイヤ・ファミリア】への敵対行為を意味する。
フレイヤが何かとんでもない計画を進めているのではないか。
そんな疑念が、一気に膨れ上がっていくのだった。
だが、そんなロキ達の危惧など知る由もなく。
当のフレイヤはと言えば、オラリオのとある喫茶店で優雅に紅茶を傾けながら、ある一人の人間との茶会を楽しんでいたのであった。
☆
【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】が衝突する少し前に遡る。
「それでね、オッタル達ったら酷いのよ。いい子達なんだけど、私を自由にさせてくれないんだから」
「貴女は立場上、下手に動いたら不味いでしょうに」
とある喫茶店で、俺――兵藤隆誠はフレイヤと一緒にお茶を飲んでいた。
昼時を少し過ぎた店内は比較的落ち着いており、客達も思い思いの時間を過ごしている。そんな中、味わい深い紅茶を飲んで口の中をさっぱりさせていると、正面に座っているフレイヤが途端に愚痴を零し始めた。
この前の配達で会ったばかりだというのに、平然と身内に関する話をする辺り、本当に警戒心が無いのか、それとも俺を信用しているのか判断に困る。
と言っても、大して差し障りの無いプライベートな話なのだが。
因みに俺とフレイヤが会話している最中、周囲の客達が凝視するように見ているが、然して問題は無かった。
彼等は別に俺達の話を聞いている訳ではない。その視線の殆どはフレイヤへ向けられている。まるで魅了されているかのように。
尤も、彼女はそんな事を一切していない。
彼女の美貌を見ただけで、自然とそうなってしまっているだけだ。
美の神というのは基本、下界の人間を知らず知らずのうちに魅了させてしまう。
元の世界にいるフレイヤも似たような事をしている為、俺は客達の反応を全く気に留めていなかった。
本当なら俺も客達と同じく魅了されてもおかしくないだろう。けど生憎、目の前の女神を見たところで微塵もそんな気にならない。
こっちは
加えて、俺の知っている美神フレイヤとは色々な意味で付き合いのある身だ。アイツに関する耐性はそれなりに身に付いている。
例え
これがプライドの高い美の神なら、自分に見惚れない事で激昂する奴もいた。
けど、今俺と話しているフレイヤはそうならないどころか、普通に話す俺を見て実に楽しそうな様子だ。
「ねぇ隆誠。そんな他人行儀じゃなくて、出来れば素で話してくれないかしら?」
「そんな恐れ多い事を仕出かしたら、俺は貴女の眷族達に殺されてしまうんですがね」
紅茶を飲みながら、暗に出来ないと拒否した。
以前に会った門番達なんか、俺が女神フレイヤと呼んだ瞬間に『様を付けろ』と強要してきた。
それを考えれば、団長のオッタルやアレンという
「大丈夫よ。私が良いと言えば手出しはしないから」
「それでもです」
奴等の行動を考えると、どこか人の居ない場所へ無理矢理連れて行かれ、『調子に乗るな』とか言われながら集団リンチされそうな気がする。あくまで俺の勝手な想像だが。
「ねぇ、良かったらケーキを頼んでもいいかしら?」
「自分で払うのでしたらご自由に」
「あら。ここは普通、男の貴方が奢ってくれるんじゃないの?」
少しばかり気分を害したように、折角の美貌を顰めるフレイヤ。
もしオッタル達が知れば確実に怒るだろう。
「勝手に付いて来たんですから、そこまで面倒見切れませんよ。まぁ、紅茶ぐらいは奢りますが」
「むぅ……」
今度は拗ねたような表情になるも、俺は素知らぬ顔で残りの紅茶を飲み干した。
これ以上長居していると、フレイヤが勝手にケーキを注文して奢らされそうな気がする。
そんな嫌な予感しかしなかったので、俺はさっさと会計を済ませて店を出る事にした。
「全く。隆誠ってノリが悪いわね。こんな美神と一緒にデートしてるっていうのに」
「いつから俺は貴女とデートしてる事になってるんですか? ってか、離れて下さい」
俺の事を悪く言いつつも、寄り添いながら一緒に歩くフレイヤ。
世界は違えど、勝手に話を進めるのは俺がいる世界のフレイヤと全く一緒だ。
外見は違っても、中身は少しばかり似ている。出来れば勘弁してほしい。
そう思っていると、俺に寄り添っている美神は途端に眉を顰めた。
「隆誠、他の女の事を考えていたわね?」
「そんな訳ないでしょう」
「嘘ね」
俺が誤魔化すように返答するも、フレイヤは即座に嘘だと断言してきた。
「知らないの? 神は下界の者の嘘を見抜けるのよ」
「あぁ、そう言えばそうでしたねぇ……」
確かミア母さんが神について教えてくれた際、『全知零能』になっても限定した能力を使えると言っていたな。
フレイヤが言っていた嘘を見抜く能力も、その一つだ。
店の仕事に専念し続けた他、神と話す機会が大して無かったから、すっかり忘れていた。
「貴方はいけない子ね。私と一緒にいながら、他の女を思い浮かべてるなんて」
「そんなの其方が気にする事じゃないでしょうに」
それに俺が思い浮かべた女は、同姓同名な別神であるフレイヤの事だよ。
似て非なるとは言え、全く同じ女神である為、他の女とは言い難い。
あと如何でも良いんだが、この世界のフレイヤの声を聞いていると、思わずリアスと話している感覚になりそうだ。
何だかまるでアイツに浮気を問い詰められている感じがして、本当に複雑な気分である。
すると、寄り添っているフレイヤは途端に俺の腕へ引っ付いてきた。
「他の女の事なんか考えられないようにしちゃおうかしら♪」
「止めて下さい。本当に迷惑ですから」
心底嫌そうに言い放つ俺だが、フレイヤは益々笑みを浮かべていく一方だった。
普通、拒否されたら怒るか不機嫌になる筈だ。
それなのに、何でこの女神は逆に機嫌が良くなっていくんだよ。
「うふふ。私、そうやって反抗する
「フレイヤ様って嫌な性格してますねぇ」
思わず本音が漏れた。
ミア母さ~ん、この女神どうにかしてくれないか~?
何か俺じゃどうしようも無いんだけど~。
心の中で、この場にいない人間へ助けを求めていると、
ドオンッ!!
突如、どこからか衝突音が響いた。しかもかなり大きい。
遠くで石壁でも吹き飛んだのではないかと思うほどの轟音だった。
その後も――
ドォン!
ガガァン!
と、連続して鳴り響いてくる。
この音は俺だけでなく、一緒に歩いているフレイヤは勿論、彼女に見惚れていた住民達の耳にも届いていた。
周囲の住民達も音のした方向へ視線を向け、何事かとざわつき始める。
「さっきのは……明らかに戦闘だな」
「分かるの?」
意外そうに尋ねてくるフレイヤだが、俺は気にせず頷いた。
「これだけ派手な音をしてるとなると、どこかの【ファミリア】同士が衝突してるかもしれませんね」
少なくとも一般人同士の揉め事で出る音ではない。
冒険者、それも相応の実力者が戦っている可能性が高いだろう。
「あらあら。一体誰がそんな物騒な事をしてるのやら」
「案外、貴女の【ファミリア】だったりして」
フレイヤが勝手に出掛けた事で、オッタル達が大騒ぎしながら捜索している。
それを踏まえて考えれば、アイツ等が片っ端から聞き込みや捜索を進めた結果、一方的な上から目線で事情を問い質し、別と衝突している可能性だって十分あり得る。特にアレン辺りは普通にやらかしそうだ。
「もし本当にこれがの仕業でしたら、貴女が責任を持って対処しなければいけませんね」
半ば皮肉混じりにそう言う。
流石に自分の眷族が騒ぎを起こしているのなら、主神として無視は出来ないだろう。
「だったら確かめましょう。行くわよ、隆誠」
「え? ちょっ……!」
フレイヤに主神としての自覚を持たせる為に言ったつもりだったのだが、勝手に俺の腕を引っ張って現場へ向かおうとするのは予想外だった。
しかも迷いが無い。何故そこで俺も同行させる前提なんだ。
「ちょっと! 何で俺も行かなきゃならないんですか!?」
「私の【ファミリア】なら問題無いけど、そうでなかったら私を守ってくれる盾が必要じゃない。だから頼むわね、リューセー♪」
「勝手に俺を護衛扱いしないで下さい!」
冗談じゃない。
これでフレイヤと腕を組んでいる所をオッタル達に目撃されたら、奴等は間違いなく標的を俺へ変更するだろう。しかも殺す勢いで。
そう断言出来るほどには、あの連中の女神に対する忠誠心は重い。
掴まれている腕を振り払って逃げたいところだが、移動中にそんな事をすればフレイヤが転ぶ恐れもある。それで面倒事になるのは火を見るより明らかだった。
加えて俺は冒険者でもないし、恩恵を与えられていない一般人だ。これで下手に介入して目立ってしまえば、ミア母さん達に多大な迷惑を掛ける事になりかねない。
「大丈夫よ。アレンの攻撃を簡単に防いだ貴方なら問題無いから」
「たったそれだけの事で信頼しないで下さい!」
「そうかしら? 私には充分凄い事なのだけど」
意外そうに言ってくるフレイヤに、俺は何を言っているのか全く分からなかった。
というか、この女神は根本的な部分で勘違いしている。
俺からすればアレンの攻撃を止めた事よりも、それを根拠に厄介事へ巻き込もうとしている事の方が遥かに問題だった。
だが、そんな俺の心境など知る由も無いフレイヤは、上機嫌なまま俺の腕を引っ張り続ける。
そして俺はというと、迫り来る未来の面倒事を予感しながら、半ば引きずられるようにその場を後にするしかないのであった。
結局、またしても同行させられる事となった俺は、フレイヤに腕を引かれながら現場へ到着した。
「予想的中しましたねぇ、フレイヤ様」
「そうみたいね」
辿り着いた先には、【フレイヤ・ファミリア】のオッタルやアレンを含めた団員達の他、彼等と交戦しているの団員達がいた。
辺りには戦闘によって砕かれた石畳や壊れた荷車が散乱しており、住民達は危険を察して遠巻きに様子を窺っている。
戦っている相手の中には見覚えのある人物もいた。
少し前にすれ違ったの団員――アイズ・ヴァレンシュタインだ。彼女は他の団員達と共に武器を構え、【フレイヤ・ファミリア】と交戦している。
あの子がいるという事は、恐らくオッタル達が戦っている相手はなのだろう。
如何でも良いが、以前俺に襲い掛かろうとしていたアレンは、狼らしき獣人と交戦中だ。
互いに凄まじい速度で動いているものの、俺が捉え切れないほどではない。
って、よく考えなくてもこれは非常に不味い。
【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】。どちらもオラリオを代表する都市最大派閥だ。
そんな有名派閥同士が本格的に衝突したら、大問題どころの騒ぎでは済まない筈だ。ギルドどころか都市中を巻き込む騒動になる可能性すらある。
「とにかく、【フレイヤ・ファミリア】だと分かった以上、早く貴女が止めて下さい」
「そうしたいのは山々だけど、今のあの子達が私の声を聞いてくれるかどうか不安なのよ」
「いや、絶対に聞きますから」
何を言っているんだこの女神は。声を掛けただけでオッタル達は即座に戦闘停止するだろう。
あの連中のフレイヤへの忠誠心は異常なレベルだ。フレイヤ自身もそれぐらい分かっている筈なのだが……。
何故か楽しそうに眺めているように見えるのは俺の気のせいだろうか。
「私があんな危険な戦場に立たされたら怪我するかもしれないわ。だからリューセー、私を守って♪」
「……いい加減にしろ、フレイヤ!」
『!』
今まで散々振り回されてきた我慢が遂に限界へ達した俺は、思わずフレイヤへ向かって怒鳴る。
因みに大声で怒鳴ったせいで、戦闘していたオッタル達の動きが止まった事に俺は気付いていなかった。
「お前は主神なんだから、自分のくらい責任持って対処しろ!」
「……驚いたわ。貴方、そんな風に怒るのね」
心底驚いたと言わんばかりの顔で見つめてくるフレイヤ。
しかし今の俺にはそんな事を気にする余裕は無い。むしろ怒りゲージは更に上昇していた。
「んな事言ってる場合じゃないだろうが! さっさと行け! でないとその顔引っ叩くぞ!」
この一言によって――
「テメエェェェェェェェエエエエ!!
アレンが完全にぶち切れた。
怒号と共に猛スピードで接近し、そのまま俺へ向かって槍を突き出してくる。
正直、来るだろうとは思っていた。というか、来ない方がおかしい。
そして奴が持つ槍の穂先が俺の顔へ到達する寸前――俺は一切見向きもせず、片手でガシッと槍の柄を掴んだ。
「っ!?」
『!?』
アレンが目を見開く。
オッタル達だけでなく、側からも驚愕の気配が広がった。
恐らく誰も予想していなかったのだろう。
「お前は邪魔だぁ!」
「がぁっ!?」
槍を掴んだままアレンを睨み付けた瞬間――目には見えない衝撃が放たれる。
アレンの身体は大砲でも撃ち込まれたかのように吹き飛んだ。
今使ったのは『遠当て』で、『ドラグ・ソボール』で空孫悟が使用していた技。対象を強く睨み付ける事で衝撃波を放つ事が出来る。
しかも今回は怒り任せに本気で撃ってしまった結果、アレンは槍を手放しながら凄まじい勢いで吹き飛び――
ドゴォォォォンッ!
近くの建物へ激突して壁へめり込み、そのまま微動だにしなくなった。どうやら意識も失っているらしい。
「……え、嘘。あのアレンをたった一撃で……?」
『……………………』
余りにも予想外の光景だったのだろう。
フレイヤは壁にめり込んだアレンを見て信じられないという表情を浮かべていた。
オッタル達に至っては言葉すら出ていなく、【ロキ・ファミリア】側も似たような反応だった。
取り敢えず五月蝿い奴が静かになったから、これで話も進むだろう。
「さぁフレイヤ、早く彼等を止め――」
「ちょ、ちょお待ちぃや自分!」
すると、何やら似非関西弁らしき声が聞こえてきた。
声のした方へ振り向く。そこには以前の宴会で慌てふためいていた人物が近付いて来ていた。
オーラを見る限り神様だから、恐らく【ロキ・ファミリア】の主神なのだろう。
だが俺はふと違和感を覚える。
だから思わず――
「あれ? ロキって実は男神?」
「あぁん!?」
「ぷっ!」
口に出してしまった瞬間、目の前の神は顔を引き攣らせる。
一方でフレイヤは堪え切れなかったらしく吹き出しながら口元を押さえていた。
「誰が男神やゴラァァァァ!! ウチは見ての通り女神やボケェェェェェ!! 自分、喧嘩売っとるんかぁぁぁぁぁ!?」
「え、嘘!?」
俺は本気で驚愕した。
いや、女神だからって胸が無さ過ぎだろ!
物凄く失礼だという自覚はある。
あるんだが、悪魔の塔城小猫やソーナ・シトリー以上に胸の無い女神なんて初めて見たぞ!
自分が想像していた女神ロキとの落差があまりにも激しく、俺は別の意味で大きな衝撃を受ける事となった。
そして俺の介入によって【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】の抗争がとっくに終わっていた事に気付くのは、もう少し後の話である。