別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか 再加筆版 作:さすらいの旅人
「いててて……くそっ、アザゼルの奴。碌でもない物を俺に押し付けやがって……!」
皆さん、初めまして。それと、こんにちは。もしくは、こんばんは。俺は聖書の神こと、人間に転生した兵藤隆誠と申します。
現在俺は、かなり困った状況に陥っていた。
駒王学園の地下にある堕天使総督アザゼルが(密かに)設計した
幸い怪我はしていないが、全身に残る鈍い痛みのお陰で随分と乱暴な転移だった事だけは嫌というほど理解出来た。
アザゼル曰く、この装置は平行世界へ転移する代物らしい。それなら駒王学園や日本の何処かへ飛ばされてもおかしくない筈なのだが、少なくとも俺の目に映る光景には見覚えが一切無かった。周囲を見渡せば大小様々な
「取り敢えず、早く此処から出ないと……っ!」
こんな場所で立ち止まっていても状況は何一つ好転しない。そう判断して出口を探そうとした、その時だった。
突如としてドタドタと慌ただしい足音が建物の外から近付いてきたかと思えば、勢いよく倉庫の扉が開かれる。思わず反応して振り向いた俺が目にしたのは、予想だにしない存在だった。
「~~~~~~~~~~!?」
「――――!?」
「なっ……。獣人に、エルフ……?」
そこにいたのは猫耳の生えた獣人の少女と、耳の尖ったエルフの女性だった。
しかも驚くべき事に、二人共ウェイトレスらしき服を身に纏っている。
獣人もエルフも、
勿論例外くらいは存在するだろう。だが少なくとも、自分の知る世界において獣人とここまで自然に接しているエルフは見た事が無かった。
「~~~~~!? ~~~~~~~!?」
「は? 何だって?」
獣人娘が俺を指差しながら何かを叫んでいる。しかし何を言っているのか全く理解出来なかった。
日本語じゃない。英語でもない。否、それ以前に俺の知るどの言語とも一致しない。
思わず眉を顰める。人間界は勿論、天界や冥界の言語まで知っている筈の
(本当に異世界って事か……?)
流石に結論を出すには早過ぎるかもしれない。だが全世界の言語知識を持つ俺が全く知らない言葉なのだ。仮にアザゼルが此処にいたとしても、恐らく同じ結論に辿り着くだろう。
「ちょ、ちょっと待て! 俺は怪しい者じゃ……!」
「~~~~~~! ~~~~~~~!」
俺は慌てて両手を上げ、敵意がない事を示そうとする。
だが獣人娘はそんな事などお構い無しだった。侵入者を発見した警備員よろしく、完全に俺を危険人物認定しているらしい。
本当は戦いたくないのだが、向こうが仕掛けてくるならやむを得ない。
せめて怪我をさせない程度に抑えるとしよう。覚悟を決めた直後、獣人娘が勢いよく突進してくる。
だが、その攻撃が届く寸前――俺は超高速でその場から姿を消した。
「????」
「!?」
目の前から忽然と標的が消えた事で獣人娘は完全に混乱し、もう一人の女性エルフもまた驚愕の表情を浮かべている。
無理もない。次の瞬間には俺が獣人娘の背後へ回り込んでいたのだから。
「―――――!」
「?」
女性エルフの叫び声で気付いたのか、獣人娘が慌てて振り向こうとする。
だが、それよりも早く俺は首筋へ軽く手刀を当てた。
トンッ。
ただそれだけだった。
獣人娘の身体から力が抜け、そのまま床へ倒れ込む。一応かなり加減したつもりだが、大丈夫だろうか。
まあ、すぐに目覚めて再び襲われても困るので、念の為に
「襲い掛かってくれなきゃ、こんな事はしなかったのに……」
思わず小さく溜息を吐く。
しかし事情を知らない女性エルフからすれば、自分の仲間が一瞬で倒されたようにしか見えないのだろう。
先程までとは比較にならないほど鋭い警戒心を俺へ向けており、その視線からは明確な敵意すら感じられた。
まあ、そうなるのも無理はないか。立場が逆なら俺だって警戒する。
外傷はないと伝えたいのだが、生憎と言葉が通じない状態だ。それが無理だとしても、せめて無事だという事だけでも伝えられれば話は違うのだが……。そう考えた俺は一先ずやれる事をやってみようと、気絶している獣人娘を介抱する為に膝を折り、その身体へ手を伸ばそうとした。
「! ――――!」
案の定、女性エルフが鋭い声を上げる。
恐らく仲間へ近付くな、あるいはそれ以上手を出すなと言っているのだろう。尤も、何を言っているのか分からない俺には推測しか出来ない。だからこそ敢えて聞き流し、この獣人娘に怪我など負わせていない事を態度で示そうとしたのだが――
「―――!」
(あっ、やっぱり無理か)
あと少しで獣人娘へ手が届くというところで、女性エルフが我慢の限界だと言わんばかりに飛び出してくる。
くそっ。やはり言葉が通じなければ俺の意図など伝わる訳がないか。どれだけ敵意が無いとアピールしたところで、向こうからすれば仲間を倒した不審者でしかないのだろう。
この状況を何とかするには、まず相手の言語を理解しなければ話にならない。
そして俺には、その為の手段がある。
少々強引ではあるが
そう覚悟を決めた俺は、突進してくる女性エルフを迎撃しようとする。
その瞬間だった。
「――――――――――――!?」
突如として建物の出入り口から怒鳴り声にも似た大きな声が響き渡る。
当然ながら内容までは理解出来ない。だが、その声を耳にした瞬間、女性エルフの足が止まったのを見るに相当な相手なのだろう。
俺も反射的に視線を向ける。
すると、そこには如何にも怒っていますと言わんばかりの迫力を放つ大柄な中年女性が立っていた。
単純な体格もそうだが、それ以上に纏っている雰囲気が凄い。まるで怒りそのものに形を与えたような圧力があり、離れた場所にいる俺ですら思わず背筋が伸びてしまうほどだった。
「―――――……!」
中年女性の姿を見た途端、女性エルフの顔色が変わった。
困惑というよりは恐怖に近い。まるで悪戯を見つかった子供のように青褪めている。
対する俺も別の意味で言葉を失っていた。何を言っているのか分からない筈なのに、怒っている事だけは嫌になるほど伝わってくるのだ。
なるほど。世の中には言葉より雄弁なものがあるらしい。
「――――――? ――――――――?」
「―――……――――――――――」
「――」
その後、中年女性と女性エルフが何やら会話を始めた。
当然ながら俺には内容が理解出来ないが、状況からして女性エルフが事情を説明しているのだろう。女性エルフは何処となく萎縮しているし、中年女性も時折厳しい視線を向けている。
やはりこの建物において立場が上なのは彼女なのかもしれない。
一通り話を聞き終えたらしい中年女性は、今度はゆっくりと俺へ視線を向けた。
「―――――――――――」
「だから何を言ってるのか分からないっての」
思わず返事をしてしまったが、案の定通じていない。
すると中年女性は怒りを収めるどころか、逆に怪訝そうな顔を浮かべた。
「? ――――――。――――――?」
「…………」
再び何かを尋ねてくる彼女に対し、俺は今度は黙っていた。
言ったところで意味が無いからだ。だが、ひとつだけ分かった事がある。この女性は最初の二人とは違う。
少なくとも問答無用で襲い掛かってくるつもりはなく、まず俺が何者なのかを確認しようとしている。
それだけ分かれば十分だった。話を聞くつもりがあるなら、後はこちらから歩み寄ればいい。
問題は言葉が通じない事だが、それも解決する方法がある。
そう考えた俺はゆっくりと立ち上がり、両手を上げた。降参とも受け取れる仕草だが、敵意が無い事くらいは伝わるだろう。
「「………」」
案の定、中年女性と女性エルフは警戒しながらも攻撃してくる様子は無い。
なら話は早いと俺は獣人娘から離れ、そのまま両手を見せながら中年女性へ向かってゆっくり歩き出した。
(よし、後は俺に触れてくれれば)
能力を使う為には多少なりとも接触が必要だ。
だから俺は中年女性の前まで歩み寄ると、握手を求めるように片手を差し出した。
「「?」」
二人とも揃って訝しげな顔をする。
意味は理解しているのだろう。ただ、この状況で何故そんな事をするのか分からないだけだ。
それでも俺は諦めずにジェスチャーを続けた。今の俺に出来る意思疎通の手段など、それくらいしか無いのだから。
「……………」
しばらく俺を見つめていた中年女性だったが、やがて根負けしたのか、あるいは本当に敵意が無いと判断してくれたのか、ゆっくりと片手を差し出してくれた。
俺は感謝の意味を込めて軽く頭を下げ、その手を握る。そして同時に
「!」
「――――」
俺と中年女性の手が触れた瞬間、小さな火花にも似た光が走る。
その様子を見ていた女性エルフが不安そうな声を漏らしたが、そんな事を気にしている余裕は無かった。
俺は一刻も早く情報を得る為、中年女性の持つ知識の中から必要な部分だけを高速で読み取り始める。
そして――。
「成程。『
「「!」」
異世界の言語を、ついに理解した。
中年女性と女性エルフが信じられないものを見るように目を見開いている。
それも当然だろう。ほんの数秒前まで全く会話が成立していなかった相手が、突然彼女達の言葉を話し始めたのだから。
握っていた手を静かに放しながら、俺は改めて一礼する。
「見知らぬ自分の為に合わせて頂き感謝します。こんな状況ですが、自分は隆誠・兵藤と申します」
外国では姓より名を先に名乗る文化が一般的だ。此処がどんな世界かはまだ分からないが、少なくとも日本ではないのだから、それに合わせた方がいいだろう。
そう判断した俺は、普段とは逆に姓名を入れ替えて名乗ったのだった。